消える花嫁

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月11日〜10月16日

リプレイ公開日:2008年11月19日

●オープニング

 ――まあ、よく見れば物騒なこともあるもので




 結婚。恋仲の男女や、そうでない男女が家の都合だったり政略だったりとするもの。嫁いだり嫁がれたり、または互いが新居に暮らしたりと一つの家庭が出来る瞬間である。
 後者の方はともかく、やはり多くは結婚に対しいいイメージがあるし新しい家族が出来たりと嬉しいイベントは盛りだくさんだ。男は家族を養う為死ぬほど働いたり娯楽に割く金と時間を減らしたりと、結婚は人生の墓場とも言うが、それ以上に幸せな瞬間はいくつもあるだろう。女性の方も結婚に対しいい面と嫌な面も向かい合うだろうが、大抵そんなものである。
 それに花嫁衣裳を着てみたいという願いは多くの女性に共通するものだ。
 昨今は月道の関係上、ウェディングドレスというものもあり、結婚を控えている女性にしてはどちらを選ぶか嬉しい悩みだ。
 だから呉服屋や貸衣装やにはそれを眺める女性もいることもあるし、どこぞの女性が模擬結婚式をしようとしたりと、そういう様がまま見られたりする。
「ねえねえ慎一郎。あの花嫁衣裳、とっても綺麗だね」
「そうだね。あ、あの衣装もいいんじゃない?」
「ホントだ。生地もいいの使ってあるし、色彩もいい感じだね。慎一郎はボクにはどういうのが似合うと思う?」
「うーん。やっぱり更紗にはウェディングドレスかな。きっととても似合うと思うし、お嫁さんに貰いたくなっちゃうかもしれないなぁ」
「かも、じゃなくて本当に貰ってほしいんだけどなぁ‥‥‥」
「ん? 何か言った?」
「ううん! なんでもないよ! 早く帰ろっ!」
 顔を真っ赤にした金髪少女が首を傾げる少年の腕を引く。カップルだろうか。片方は金髪金眼の西洋人。大抵の西洋人は着物姿が違和感を醸し出すものだがこの少女は自然に着こなしている。もう片方は刀を差した侍らしき少年だ。浪人のように見えるが、少女と同じく育ちの良さがその印象を打ち消している。
 二人とも、良家の出のようでとても親しい間柄のようだ。
 先日、そんないちゃつきっぷりを目撃したギルド員年齢=彼女いない歴の彼は湧き上がらんばかりの殺意を押さえつつ、本日参った依頼人の相手をしていた。
 似たようなことは得てして起きるものである。
「今度、うちの娘が祝言を挙げることになりまして‥‥‥」
 ある晴れた昼下がりに訪れて、はや数刻。依頼の要領を得ないまま、延々と幸せそうに喋り捲る依頼人に彼女欲しくて欲しくてたまらないギルド員の彼は軽く殺意を覚えていた。
「あんなに小さかったあの娘が気が付くと結婚、ですからねえ。いやはや、月日の流れとは速いものですよ」
「‥‥‥‥‥‥」
 どうでもいいですね? そんな営業スマイルのギルド員。ぶっちゃけ、他人の幸せ話など本人と関係者以外どうでもいい話である。しかも色恋ときた。砂吐いていいですか。
 思えば彼は女の子と縁がなかった。世間話をしたり飲み会や合コンとかは別にして、特定の女の子と特別仲良くなった経験が全くないのだ。
 勿論それに近いことがなかったわけでもない。
 だが基本、チキンな彼はここぞという時には臆病になったり奇妙キテレツな発言したりとで、結果いい人や面白い人どまり。しかも自分のことが好きなんじゃね? と思った女の子には彼氏のことで相談受けたり「勘違いさせてごめんなさい」と面向かって言われたりだ。
 正直泣いた。泣きましたよ。だからまあ、人の幸せそうなところ見るのはかなーりむかつくしそんな話をされでもしたらお兄ちゃんヤンチャしたくなりますよ。
 いっそ拳で黙らせてやろうかと思ったら‥‥‥
「ちょっと! 君は人の話を聞いてるのですか!」
 お叱りを受けたギルド員。生返事しているのを見抜いたのだろう。だけど理不尽な気がするのは間違ってないですよね?
「まあいいでしょう。依頼というのは、娘が祝言を挙げるまでの間、護衛をして頂きたいと思いまして」
 ようやく本題に入ってくれた。ギルド員はまた娘自慢に戻ったらいけない、話題が逸れないよう、依頼人の話の続きを催促する。
「最近、娘が誰かに見られているようだと相談されたのです。父親の私が言うのはなんですが、娘はとても美しく気立てがよく以下云々」
 その辺りギルド員はスルーした。
「私も商売人です。気付かないうちに恨みを買うこともあるでしょう。もしかしたら、娘に被害の手が及ぶかもしれません」
 商売とは得てして奇麗事で済まないことが多い。ライバルの店やヤの付く人たちとの関係だってないとも言い切れない。
「ですが自分のところは規模も小さいし、人様に恨みを買うような商いはしたことはありません。何かの間違いと思いたいのですが、それでも娘は不安に思ってますので用心のため、是非護衛をお願いしたいのですが」
 そして依頼人は一泊の間を置いて言った。
「それと、丁稚から嫌な『噂』を聞いてしまったので‥‥‥」
「噂?」
 聞き返すギルド員。
「ええ。なんでも、祝言前夜に花嫁が失踪する事件が起こっているらしい、と‥‥‥」
 物騒な話だ。基本、カップルは滅べと常々本気で思っているギルド員だがそれでも人並みの正義感はある。一応。
 それに、ギルド員はある噂を聞いてこの依頼に引っかかりを覚えていた。
(確か‥‥‥)
 噂はこんなのだった。
 ――最近、祝言を控えた花嫁が失踪する事件がおこっているらしい。それも必ず、『祝言の前夜』に。
 最初聞いた時は花嫁が逃げたんじゃね? ざまぁと笑ってはいたがそうとも言ってられないようだ。まあ花嫁が結婚前に不安に駆られる、という話はよく聞くものの、タイミング的にギルド員としての直感が『これは何かある』と囁く。
 とりあえず、ギルド員は護衛依頼として張り紙を出した。

●今回の参加者

 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb8219 瀞 蓮(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ 御影 紗夜(eb3768

●リプレイ本文

「うーん、噂話が気になるな」
 冒険者ギルドの一角。卓に陣取った冒険者たち一同は現状を確認して頭を捻った。
 依頼書を見る限り特に変わった点はないものの、レイナス・フォルスティン(ea9885)は一文を見て眼を細める。
 肌の白い男だ。対比のような黒髪黒瞳、乳白色の肌と互いに特色を強調しあっている。
 エジプト出身らしい。エジプトと言えば褐色の肌のイメージがあるがその辺りは個人差だろう。現にジャパン人の職業の典型な気もしないでもない侍を務め、ドラゴンデザインの西洋兜に月桂冠に日本刀。色々突っ込みたくなる恰好だが趣味とか機能性とかを追求した結果だろう。
 まあそんなことはどうでもいい。シフールのシャリン・シャラン(eb3232)は言った。伴っているエレメンタルフェアリーもそうだが随分派手な恰好だ。江戸に知れ渡る踊り手らしい。
「ひとまず、目標は花嫁の護衛と出来れば失踪事件の解決かしら?」
「俺は護衛をして、消えたと言う女性たちの情報収集怪しげな人物とかの情報を集めることにする」
「私としては、花嫁となる依頼人の娘御の結婚相手について確認したい」
 レイナスに続き鷹司龍嗣(eb3582)。彼もレイナスと同じ、装備に統一性がないような気もするが趣味や機能性以下略だろう。陰陽師だ。魔術的な事情もあるかもしれない。
「ま、親の考えと違ってるかも知れないからねぇ」
「所謂恋愛結婚なのか、それとも親が決めた結婚なのか。『あんなに小さかったあの娘が気が付くと結婚』とのコメントから、恋愛結婚のように見受けられもするのですがね」
 御陰桜(eb4757)も同じことを考えていたのだろう。龍嗣は続ける。
「恋愛結婚なら、家族内に誰か反対する者はいないか。親が決めた結婚なら本人の気持ちはどうか。結婚相手の男性の方も調べてみたい。親の決めた結婚の場合、男性のほうに好き合っている娘がいるかもしれない」
 確かにこのご時世、恋愛結婚なんて物語の中の出来事のようなものだ。庶民ならともかく、侍や貴族、依頼人の家のような商家となると政略結婚は普通に行われる。結婚してから互いに知り合い、愛が生まれることも多い。しかし、そうでないケースも多い。
 どこか追い詰められたような表情で飛鳥祐之心(ea4492)が言った。
「噂の方も調べてみないか。いつぐらいからかあの噂が流れ出したのか、どこから流れてきたか、そもそも本当に失踪した花嫁が居るのか、その辺りもな」
「そうね、確か――」
 桜が凶悪に色っぽい流し目を送る。可哀想なぐらいに脅える祐之心。
 桜に他意はない。サキュバスが普通に同胞と間違える艶ボディと艶オーラ。そして極めつくしたナンパの技というか業。意識しなくても言動のひとつひとつがそっち方面になってしまうのだ。そして女の人が苦手な祐之心。普通の男なら「もしかして俺に気があるんじゃね?」と素で勘違いしてしまいそうなものだが脂汗が滝になったりしている。
 まあともかく、その噂は――最近、祝言を控えた花嫁が失踪する事件がおこっているらしい。それも必ず、『祝言の前夜』に。
 結婚前に花嫁が不安になる、という話はある。だがそれとは違う気もする。ステラ・シアフィールド(ea9191)は整った顔をしかめた。だが彼女のような美人はどんな表情でも似合うものである。
「花嫁失踪事件、勾引かしの類でしょうか」
「さての、視線を感じたといわれても、祝言を前に過敏になっておるかとも思うたが、噂までついてくれば流石に無視も出来んのう」
 噂の方を洗ってみるか、と瀞蓮(eb8219)。
「本当に失踪が立て続けで起こっておるならば、奉行所など役人のところへも捜索願いなどが届いていておかしくはあるまい。儂は奉行所関連を当たってみよう。手柄を攫うつもりは無い、とでも言って接触しみるかの」
「ま、結局は花嫁の失踪を止めることだよな。なんかちょっと微妙な感じはするけども」
 やることは結局それだ。リフィーティア・レリス(ea4927)がそう締めて、桜が言った。
「そうね。それじゃ、ギルド員からちゃんと話を聞いてね?」
「は?」
 そして気配を感じて振り向いて、
「リフィたん大好きだぁぁぁぁぁぁ!!!」
 眼がステキに逝っているギルド員が突撃した。




「まさか職場でリフィたんに会えるなんて思ってもなかったよ! これも日々真面目に仕事しているおかげだネ!」
「テメェ、どこかで見た覚えがあると思ったらメイド喫茶でよく突撃する変態じゃないか!」
「ハハハ、覚えてくれてたんだねリフィたん!」
「毎度のごとくセクハラしてくるやつ忘れるかよ! つーか俺は男だって言ってるだろ!」
「うんうん判るよ。男の子に扮してるんだよね」
「誰が扮するか! そもそも男がメイド姿なんてしない!」
「だけどリフィたんは女の子だから! 男装少女のメイド姿はそれだけで三発‥‥‥ご飯三杯イケるぜイィィィィィヤッホォォォォウ!!!」
「シメるぞお前!?」
「そんなこと言うと噂は教えてあげないよ? 教えてほしければ今すぐ(性的に)仲良くしよう!」
「誰がするか! サンレーザー!」
「アウチ!」




 と、いう訳で。
『同僚や友人に聞いたんだけど、似たような話が結構あってね。どこかの村で、霧の深い夜に起きたらしいんだよ。それも全て同じ条件らしいよ? これってとても重要だと思うよね、そうだよね? という訳でリフィたぁぁぁぁぁん!!!!!』
 轟き唸るサンレーザー。
 あやうく貞操の危機になったリフィたん。名のある冒険者だろうが相手は萌えという名の冥府魔道を突き進む変態だ。暗黒闘気とか漂わせて、アレ的に逞しい妄想力で刺しても死なない(死ねない)アホなのだ。まあリフィたんみたいに、どこからどう見ても、純情可憐清楚薄幸なハイパー美少女にしか見えない、男の子を前にすれば色んな理性が吹っ飛ぶのも当然だろうけど。
「‥‥‥あのギルド員の様子からして‥‥‥ッ! 絡まれると思っていたけど‥‥‥ッ!」
 息も絶え絶えのリフィたん。依頼人宅の娘の部屋、そんなリフィたんを娘氏は心配そうに見るも女性冒険者陣はスルー。既にいつものパターンと認識されちゃっている。
 娘氏の周りをぱたぱた羽ばたく二人の妖精。シャリンはエレメンタルフェアリーと共に踊り手よろしく舞っている。見た感じ派手で陽気な主従だ。
「あたいはシャリンでこっちがフレアよ、よろしくね☆」
『しくね☆』
「あたしは桜よ、仲良くしましょうね♪」
 ついでに桜も便乗する。よく手入れされている娘氏の髪に触れて、
「髪梳いてあげるわね♪」
「は、はい‥‥‥」
 何故か頬を朱に染めて照れ俯く娘氏。桜はもう人外じみた美貌とアレ分含むオーラの持ち主だ。同性相手にでもイヤすぎるほど発揮している。
 ここで一気に畳み掛ける。桜は本題に入った。
「結婚する相手ってどんなヒトなの? 結婚前は何かと不安になるものだし‥‥‥ナニか悩み事があるなら相談に乗るわよ?」
「依頼人の父君からそなたのことを任されておるからの。万全を期したいのだ」
 口調のせいもあるだろうが尊大な態度の蓮。彼女は奉行所やら駆け回ったのだがうさんくさいとあしらわれ収穫がなかったのだ。
「それに今ここには男の眼はないわ。父親にでも話せないことはあるでしょう?」
 そして両肩に優しく手を置き、桜は囁くように言った。
「女同士だからこそ話せることはあるわ。もし結婚がイヤなのならちゃんと自分の口でイヤだって言わなきゃダメよ?」
「だからオレは男だ」
 当然リフィたんの発言はスルー。というかそのハイパー美少女仕様。一部覗きリフィたんを普通に男とは思ってないとうか思う筈がない。
 とはいえここまでくるとさすがに嫌気がさすものだ。わざと挑発して本音を問い質す意味もあったのだが‥‥‥
「ハ、どうせ親父さんに気を使ってるんじゃないか? 結婚相手だってロクな男じゃないんだろうし、まあ当人同士の問題だから、どんな結果だろうと幸せっつーのがありそうな気もしないでもないけど」
 ぶちっ。娘氏の血管が切れました。
「ちょっとリフィさん――」
 娘氏はリフィたん以外は退出を促した。


 数刻後、シャリンの相方のフレアは襖から少し覗いて、
「――の時、あの方は(中略)ますます惚れ直して(中略)旅行に行った際も(中略)おやおや、どうしましたリフィさん。え、もう勘弁してくれって? 何をおっしゃってるのです。折角だからわたくしの愛する旦那さまのことをもっと知ってほしいのでお聞かせしているのですよ。今はまだ、わたくしの愛のメモリアル第四巻、第十二章に差し掛かったばかりです。現状は第二十六巻までありますし目下刊行中です。まだまだ先は長いのですよホホホホ――」
 もう抜け殻状態のリフィたん。
 怖いもの見たと、フレアは鬼のような速攻の速さで逃げ出した。
 ‥‥‥この娘氏、本当に気立てがいいのか?




「――という訳で、娘氏の狂言の類の可能性は低いと思われます」
 別室、男冒険者たちに宛がわれたそこへ訪れたステラは一堂に報告する。
「私、耳には自信ありますしバイブレーションセンサーも使いました。得た情報を元に、私なりに推測してみましたが娘氏は全く白です。それどころか事件に関わりになりそうな情報の欠片もありませんでした」
「そうか。こちらも方々に散って探りを入れたが丁稚に話を聞けたぐらいは他に何もなかった。物陰などに誰か居ないか、周りに違和感を感じるような場所が無いか‥‥‥気を配ってはみたが特になしだ」
 そうですか、とステラ。祐之心、微妙にステラと距離を取っている。
「それで、その丁稚さんからどのようなお話しを?」
「キミが聞いたことと同じだ。特に変わりはなかったよ」
「ああ。怪しげな人物がいたとかも言ってなかったな」
 レイナスが眼光鋭く言う。一切の隙も見せず対象の姿をしっかり捉え、発言は最小で要点のみ。
 プロの仕事人だ。
 だが彼の人となりを知る者は疑問符を浮かべるだろう。
 レイナスは女の子が大好きだ。確定するのはどうかと思うがハーレムを作りたいというだけにそうなのだろう。そして好みの女性は綺麗な肌の人。そして、ナンパが好きだから、これが理由だからか知らないが磨きぬき人呼んでナンパの達人。
 一方ステラは黒髪青瞳、すらりとした体躯に純白の肌。そして半分エルフの血の影響かどこか神秘な雰囲気を感じなくもない。何より美人だ。その上衣装の相乗効果でとても色っぽい。
 差異や好みを除き、広義の意味で言うならストライクだろう。
「ククク‥‥‥。娘氏を口説――話を聞いてみたいが祝言を控えているのに男が近づく訳にはいかないなッ!」
 ぎらりと光る両マナコ。某メイド喫茶に出てきそうな変態みたいだ。
「私としては、『誰かに見られている』と感じる、が気になるな」
 龍嗣だ。月桂冠を付けて感覚が鋭敏、いい所を付いている。それにしても月桂冠率が高い。四人も付けている。流行っているのだろうか。
「家にいる時なのか、それとも外を歩いている時なのか。時間帯は夜間か、それとも日中にも視線を感じるのか。お前たちの方で聞いてみてくれ」
「構わぬが自分では聞かぬのか」
 ふんぞり返って蓮が言う。
「レイナスと同じで祝言前の女子に近づく訳にはいかないさ。それに結婚相手の男の方も探りを入れてみたが、収穫は特になし。護衛に付くか噂の真贋を奉行所に訪ねに行くか、だ」
「相手にしてくれぬぞ。止めておけ」
「ふ――ん? ならどうする?」
「桜殿が――」
 対策を練る冒険者たち。鹿威しや鳥の鳴き声が聞こえるなどこんな物騒な話をしているのが不自然なぐらいに平和な光景である。
「‥‥‥?」
 誰かに見られた気がして、祐之心は外を見た。
「何だ。鳥か」
 部屋を見つめる一話の鳥。冒険者たちの恰好は動物でも気になるほど眼を引くのだろう。第一色々突っ込む所が多い。
 祐之心は話し合いに戻った。




 夜――草木も眠り、虫の鳴き声とどこかの犬の遠吠えが聞こえる、そんな時刻。娘氏は自室の布団の上、安らかな寝息を立てていた。
 そしてその周り、誰が気付くだろうか。気配を消し闇に溶け込む冒険者たちの姿を。
「‥‥‥異変はないようだな」
 物陰、レイナスが呟いた。
 視線の先は娘氏の部屋。隙間から覗く娘氏は心地良く眠っているようだ。
「そうだねッ☆ 何か見えるかなっと!」
『かなっと☆』
 シャリンとフレア、ふよふよ飛ぶながら陽気に笑う。この暗闇だ。羽虫と間違えて叩いてしまいそうだ。
「犯人っぽいのがでたら一応サンワード使ってみるけど、後ろ暗い人はこんな夜更けに出てくるものだから活躍できるかな?」
『できるかな?』
「あそこには桜もいるし仲間たちも潜んでいる。それに、本物の娘氏は別室に居てもらっているから大丈夫だろう」
 ――そう、娘氏はここにはいない。
 作戦はこうだ。桜が人遁の術で娘氏に化け誘拐犯がのこのこやってくればそれを捕獲。こなければそれで良し。作戦と呼ぶにはシンプルだがだからこそ効果的だ。第一依頼期間の間守りきればいい。
 突然出た霧に違和感を感じたが、後は罠に食いつくのを待つだけで‥‥‥
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 別室で眠っている、本物の娘氏の悲鳴が聞こえた。



「疾ッ!」
 鉄扇の一撃が鳥を叩き落した。
 部屋を覆いつくすほどの鳥の群れ。蓮は鉄扇を手に舞うように鳥――梟だろうか――を撃ち落していた。
「何らかの手段を使ってくるとは思ったが、術使いの類とはな‥‥‥ええい、邪魔だ!」
 ひたすらに突撃してくる大柄の梟を叩く。普通の梟ならこんなことはしない。野生の勘で、敵わぬ相手には戦いを挑まないからだ。だがこの梟、まるで操られているかのように、どんな怪我を覆うとも怯まない。
「ステラ殿、援護を!」
「ダメです。この状況では私の使える魔法は最悪、娘氏にも致命傷を与えかねません」
「万事休すか‥‥‥!」
 誘拐犯が部屋から出ようとして、
「おらぁ!」
 霊剣の刃が襖を切り裂いた。霧の影響だろう。標的をよく捉え切れなかったようだ。そして響くべらんめぇ口調。
「やっと出やがったな。夜に紛れてこそこそ花嫁さらってく輩にどう理由があろうが渡せねぇんでな。奪いに来るならお天道様の照る中、真っ向からぶつかってきやがれってんでぇ!」
「祐之心殿か!」
「‥‥‥!」
 舌打ちして誘拐犯は手を一閃する。すると新手の梟が祐之心へ襲い掛かる。
 その隙を蓮は見逃さなかった。
「娘氏は返して貰うぞ!」
 霧を抜ける仙衣の闘士、蓮の蹴りが誘拐犯の腹を抉る。確かな手ごたえと共に、娘氏を手放す。
 蓮は娘氏を確保し奥へ退く。それと同時に仲間の冒険者たちが援護に入る。
「‥‥‥!」
 失敗を悟ったのだろう。誘拐犯は最後、梟たちに突撃を命じ逃走を始める。
 ちなみにリフィたんは、
「勘弁してくれ! オレが悪かったぁぁぁぁ!!!」
 昼の件で軽く悪夢を見ていた。