【伊豆】霊薬を求めて 探索編
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■シリーズシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:14 G 1 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月28日〜12月09日
リプレイ公開日:2008年12月21日
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●オープニング
『それ』が目覚めたのは今から数年前のことだった。
冷たい氷の棺を破り見上げる天幕。かつて自ら選んだ眠りの場は予想――知っていたように変わりがない。
側に置いていた古めかしい衣類に袖を通す。その衣類と装飾品は『それ』の勤める役職を示す通り絢爛豪華な代物だ。
『それ』の感覚としては文字通り眠りから覚めただけだ。だが実際には相応の月日が流れている。
予見した通りだった。
今から数年後、確実にその時期は来る。
『アレ』が目覚めるのもその頃だ。
身支度を終えて『それ』は行く。どうしてもこの手で潰さなければいけない。己の力と知力を尽くし、使えるものは使う。その為に私は眠りに付いたのだから。
何故なら、知られるわけにはいかない。
寝室を抜けて光差す先は、予見した通り見知らぬ世界だった。
「失礼、ここは冒険者ギルドでしょうか?」
某月某日、依頼人や冒険者たちが集うそこにある人物が訪れた。
服装からすれば、陰陽師か西洋のウィザードか、そういうところだろうか。ともかく魔法に携わっているであろう人物だ。
ただ‥‥‥
「依頼をしたいと思っているのですが‥‥‥あの、私の顔に何か付いて?」
「あ、いえ、失礼しました」
ギルド員は咳払いし慌てて書類を取り出す。つい仕事を忘れるほど依頼人を見入ってしまったのだ。
「依頼内容はある植物を採取していただきたいのです。武装した人物を八人ほど」
筆を走らせ依頼書を作成していく。ちらちらと依頼人を見る。
いや本当に、すごい美人だ。
ショートの黒髪にメノウの瞳。すらりとしたモデル体型。見ていてドキドキついしてしまう。
そんな美貌の持ち主で、ただ男のようにも見えるがそれでいて女性にも見えて中性的というより神秘を感じる。絵画の中の美神がそのまま抜け出したような雰囲気だ。その魔法使いスタイルがよく似合う。
性別が本当に判らないけど是非親しくなりたい‥‥‥ギルド員は尋ねた。下心以外にもちょっと気になったからだ。
「冒険者は募ってみます。ですが‥‥‥植物採取に武装した者を八人ですか? 大げさな気もするのですが」
それなら依頼人本人が自ら採取に赴けばいい。
「そうだね。その植物はちょっと曰くというか――魔法の品のようなものだからね」
「魔法の品ですか?」
「うん。キミは変若水を知っているかい?」
変若水。話の流れからすると魔法薬の類だろうか。いや、どこかで聞いた覚えもある。それなりにギルド員を勤めていると様々な話題を耳にするし知識も増える。確か――
「飲めば若返ると言われている水で、月の不死信仰に関わる霊薬の一つらしいんだ」
「なるほど、その霊薬を作る材料を調達してほしいと」
ギルド員は得心を得た。
今の世の中、様々な魔法薬が作られど若返りの薬など聞いたことはない。
遥か昔から不老と不死は人間の求める最大の夢として模索が続けられ、仙人になろうとしたりデビルと邪悪な契約を交わしたり大船団を率いて探索を始めるなど‥‥‥場合には後世に伝えられるほど、人間は手段を講じ続けた。
この依頼人も、そういった一人だろう。魔法使いのような出で立ちだ。好奇心は人一倍ある筈だ。
実際問題として世界中どの国もその類の薬を手に入れたという話を聞いたこともない。もし、作れることが出来たらな、それは何事にも変え難い、永久に続く栄誉となるだろう。
だから――
「うん。その精製方を記された古文書を手に入れたんだ」
「マジですか!?」
ギルド員は全力で食いついた。集まる周囲の視線。依頼人は苦笑してギルド員を宥める。
「落ち着いて。そう怒鳴らなくても話すよ」
「は、はぁ‥‥‥」
「私は古文書や様々な伝記を解読していってね、遂に精製方を読み解いたんだ。だけど、それの材料がとても特殊で」
「ま、まあそんなレアな魔法薬の材料ですからね」
「自分でも用意できるものはしたんだかモノがモノだ。今回調達して欲しい植物は、数百年月の光を浴びて、それ自体が強力な魔力を持った――と言われているんだ」
自分の知識を披露している。無知な――事が事だけに知らないのは当然だが――相手に言い含めるのはやはり気分がよくなるものだ。
「いざ取りにいこうと思ったらね、魔物が群れているし浪人やごろつきの類の姿も見えた。魔物たちはまるで何かを、まさかと思うがその植物を探しているのかな。気持ちが悪いくらいだったよ。軍隊のように統率がとれていたし」
「それは変な話ですね」
「うん。今回行ってほしい場所は魔物の群れだけだけど、それでも私には荷が重いからね。是非冒険者たちにお願いしたいと」
「はい。そういうご希望にお答えするのが冒険者ギルドです」
「心強いね。現場の山の麓には小さな村があるからそこを拠点とするといいよ。村人も魔物に不安がっているからきっと快く迎えてくれるはず」
問題の植物は頂上。村人もその山を神聖視して、断崖絶壁のその先にかつて神が神の植物を植えたという伝説がある――と村人から聞いたと告げる。
「では頼むよ。冒険者が集まったら、至急伊豆に来るように伝えてくれないかな」
「判りました。‥‥‥あの、こちらにサインを。お名前か所属商店や機関名でも」
「ええ、名前はおツキ、と‥‥‥」
そして集まった冒険者たちは伊豆に向かった。
それが何を引き起こすかも知らずに。
●リプレイ本文
「結局のところ、今流行のあんちえいじんぐってやつと思うのよ」
麓の村へ訪れた冒険者一行。空き家をあてがわれ、拠点代わりと登山の準備をしながら御陰桜(eb4757)は言った。今は冬時。女性はたとえ鬼のように寒くてもファッションのためなら薄着上等なのが常なのだが、やはりそこはプロの冒険者。利より実を取っているようで、しっかり防寒服一式を用意している。
桜のような道を踏み外さんばかりの女性の、魔性というか既に人の道を外している魅力極が損なわれるのは残念だが、逆に脱いだ時のギャップ差は即死敵に凶器だ。ナンパを極めた超人の桜。きっとこれも考えてのことに違いない。
だがまあそれはそれ。見てくれる相手がいなければ意味はないし、あいにく今回同道する男性冒険者は特殊な二人だったりする。
その一人の瀬戸喪(ea0443)はニコニコと返す。専門の化粧と衣装を着せれば普通に女性と間違えてしまうひとだ。
「いえ、アンチエイジングは違うかと」
表情の割りにどうでもようさそうな言い方だ。
「若返りの薬ってそういうものじゃないの? まさか、依頼人は本当に年齢が若返る薬でも作れるつもりなのかしらねぇ?」
こっちは本当にどうでもようさそうな言い方だ。
「はてさて、それはともかくとして、いかにも年寄り連中が好きそうな品物ですよね。薬ごときで若返れるのなら苦労はありませんよ」
何か含みのある言い方だ。
世には不老不死の妙薬を求めて身のみならず、都市や国そのものを滅ぼしたという話に事欠かない。過ぎたるものを求めた人間の末路は大抵ロクな結果にならないものである。
「まあ僕には関係ないことですからどうでもいいですけど。効果があるのかどうかくらいは気になりますが」
ちょっとそこまでな口調。本当にどうでもいいそうだ。
桜は依頼人の姿を思い浮かべる。
人権や個人の名誉やら無視した鬼そのものの鍛錬。その果てに数多の忍術や対人鑑識術等を習得した忍者の桜はおツキに対し妙な違和感を感じていた。
(どうも引っかかるのよねぇ‥‥‥)
それ以前に、まっとうに考えれば若返りの薬を作ろうとしている時点でいかがわしいものである。
「そうね。クスリも依頼人のおツキちゃんも、なんとなく胡散臭いけど興味がないって言ったらウソになるわよねぇ」
「まずは話を聞いてからですね」
他の二人は村長宅へ出向いている。拠点をあてがわれた際、村人から依頼人と思われる人物は村長宅へ向かったと聞いている。
喪は登山の準備を整えた後、桜とともに山にいるという魔物の情報の収集に向かった。
「――つまり、キミは自分にもあの植物を分けてくれと言っているのかい?」
村長宅から出てきたシャフルナーズ・ザグルール(ea7864)は、何やらトマス・ウェスト(ea8714)と言い合っている人物を見つけた。陰陽師のような、ウィザードのような、よく判らない恰好の人物だ。ともかく魔導に携わっているであろうことは判るし、何より眼を引くのはその容貌。男と思えば女性にも見えて、女性とも思えば男にも見える。背は高すぎても低すぎてもない。ただ、服装がどこか古めかしい気もするが‥‥‥どちらの性別を称しても信じてしまいそうな人物だ。
つまり、その人物こそ依頼人のおツキ。村長宅にいると聞いてはいたがすれ違いでもしたのだろう。彼、とも彼女とも指せないある意味不安定なひとだ。
「けひゃひゃひゃ。霊草には興味はないね〜。ただ、その調合の知識は欲しいね〜」
「ははは。欲しいと言ってそうそう教えるとでも? それに古文書曰く、そうとう価値のある霊草らしいけど、そうも素でいらないと言われたら何か拍子抜けだね」
「けひゃひゃひゃ。我が輩の目的はどこにでもある薬での蘇生薬作成だからね。何百年という時間が必要な霊草、霊薬には興味ないのだよ〜」
「‥‥‥なるほど。それはそれで興味があるね。正直、レシピが気になるな」
「タダで教えられないね〜。おツキ君、後で古文書を書き写させてくれないかね〜」
「だが断る。お互い、秘伝の知識と技術は早々他人に教えないものじゃないかトマスくん。最も‥‥‥盗むか奪うかすれば、別だけど」
不敵な笑みだ。
魔法使いやその類にとって伝えられてきた、編み出した技術と知識は門外不出のもの。流派にもよるが命よりも重く、他者に盗まれる方が悪い。トマスも言葉巧みに知識を聞き出そうと狙っているが、身のこなしからしても一切隙がない。正直この依頼もわざわざギルドに頼むこともなかったと思うが‥‥‥
「我が輩のことは『ドクター』と呼びたまえ!」
とりあえずキレることにした。もとより彼はトマスと、特に女性にそう呼ばれることが嫌いだ。おツキも女性に見えるし沸点を越えた。
そのせいで依頼人に対する違和感に気付かなかったが。
「まあまあ、その辺で」
険悪な空気を読みシャフルナーズが割って入る。
空気を読むのは結構だが恰好は空気を読んでないようだ。
こんな冬の時期に露出がすばらしい羽飾りの衣装。申し訳程度にマントを羽織っているものの、少々――かなり正気を疑いそうな恰好である。踊り子的にはそれでいいのかもしれないが見ている方が寒くなる。まあ生業に誇りを持っているのだろう。おツキはそう思うことにした。
「キミは確か‥‥‥シャフルナーズさん、だったかな?」
「こんにちわ。今回はよろしくお願いしますっ」
「よろしくお願いするのはこっちだよ」
みりみり因縁を付けてくるトマスをスルーして微笑みかける。この依頼人、なかなかに肝が据わっているようだ。
トマスはわざわざ聞こえるように舌打ちしてシャフルナーズへ視線を向ける。根に持っている。普通に依頼人に対する態度ではないがこんなふてぶてしさがなければ冒険者は務まるまい。
「シャフルナーズ君。どうだったかね?」
自分に因縁付けているわけではない。しかし自分より遥かに多くの修羅場を潜ってきたらしいトマスの怒気は、殺気と称してもいいぐらい肌に刺さっていた。
「あ、うん。山と魔物に付いて詳しい話を聞いてきたけど、どうも厄介なことになりそうだよ」
「ふむ。魔物はどんなものがいるのかね〜?」
「小鬼や犬鬼が多数で、熊鬼が少しってところかな。幾つか小グループに分かれていて、ギルドの依頼書の通り、それぞれが固まって動いてるらしいよ。以前魔物退治を名乗り出た剣術家が、集団戦法で敗れたとも聞いた」
「とても小鬼と犬鬼の手際とも思えないね〜。頭のいい親分でもいるのかね?」
「そこまでは‥‥‥ただ、山へ狩りに行った村人が、羽を生やした人のようなものを見たとか見てないとかって?」
「天狗かね」
ジャパンで羽人間とくれば天狗。このくくりもどうかと思うがどの道厄介な相手だ。
刹那、『それ』は表情が変わった。
「――ふん。動いているとは思ってたけどね」
「おツキさん何か言った?」
「何でもありませんよ?」
一瞬感じた冷たい気配は気のせいだったろうか。そう言えば、とシャフルナーズ尋ねた。
「気になってたけど、不死の薬、もし完成させたらどうするの?」
「興味あるのかい?」
「うん。不老不死っていうのも魅力的だけど‥‥‥一人でそうなっても寂しいなって思って」
「自分には使わないよ」
あっさり返された。
「そうなんですか?」
「うん。別に不老不死なんて興味ないし、まあ死なずに研究が出来ればそれはそれで便利かもしれないけれど」
「それじゃあどうして?」
こんな面倒で危険をおかしてでもしないと材料が手に入らない薬だ。さすがにこの返答、尋ねずに居られない。
この時初めておツキは言葉を濁した。
「うん、まあ‥‥‥。儀――知識欲のためじゃないかな?」
何故か疑問系だった。
「――とまあ、そういう事で山を登ってみたのだけど」
山に入って少し。見事に一行は四方を囲まれた。
周囲に光る眼の数々。同時に頭部を飾る西洋風のサークレット――同じ西洋の魔物なら少しは映えもするだろうが、あいにくジャパンの魔物には不釣合いというか違和感のある組み合わせである。
それにこの手の魔物と来れば獲物を見て吼えるか速攻で襲い掛かるかするもの。しかし‥‥‥
『――――――』
幽鬼のように無言。その表情から覇気も殺気も読めず、能面。
まるで、誰かに操られているかのような‥‥‥
「村で聞いた通りね。まるで軍隊みたいに動いているし、頭にサークレットを付けてるわ」
まるで感心したように、桜。かなり余裕だ。
「ふむ。後でテレパシーの巻き物で尋問でもしようかね〜。最低一匹は生け捕りを頼むね〜」
「統制の取れた魔物なら頭が居そうですが。どこかでそういう群れと遭遇したような覚えはあるんですけど」
過去に参加した依頼の話だろうか。喪は太刀を抜く。銘は薄緑。若草色の、太く長い刀身を持つ魔力帯びた刀だ。
「いや、皆さん随分余裕ですね」
徐々に包囲網を詰める魔物たちに臆しもしない冒険者たち。おツキは感嘆の声を上げた。
(この陣形はあの者たちがよく使っていたもの。さて、武勇に誉れ高い冒険者たちはどう出るか)
内の心境はうまく驚きの表情に隠している。同時に、感じた懐かしさ。だが、桜と喪はかすかに表を向いた違和感を捉えた。喪も対人鑑識の技術を身に付けているのだ。
(やぁ〜っぱりこの依頼人、胡散臭いのよねぇ)
(そうですね。この依頼、裏があると踏むべきでしょう)
「‥‥‥二人とも何か言いました?」
「あら? 何も?」
とぼける桜と喪。シャフルナーズはそれ以上追求せずおツキに告げる。
「おツキさん。必ず護ってみせますので安心して下さい。アビュダ使いらしく、舞いながら蹴散らします」
「頼りにしてますよ」
小太刀二刀、抜いて前に出る。舞踊のステップを踏む。
おツキは冒険者たちを、品定めするように見る。
(どの程度使えるか見せてもらうよ。場合によってはこれからもね‥‥‥)
喪は太刀を肩に担いだ。
「自分は前衛、相手が何であれ容赦なく殲滅しますよ。距離が離れたらソニックブームを使いますので巻き込まれないように」
「それじゃ援護お願いね♪」
ちょっとそこまで、なノリで前に進み出た桜。
それを時間差で包囲殲滅、どこに逃げようと、何十に囲んだ魔物の群れがその先にいる。
どこのか知らないが、軍隊のような行動だ。多数を持って少数を確実に仕留める、卑怯な気もするが効果のある戦法。
だが、桜からすれば思いのツボ。
頭上正面側面背面斜め、迫る斧に剣に棒がヒットする瞬間、
「忍法、微塵隠れ!」
桜を基点に、直径三十mが台詞通り微塵に消し飛ぶ。
地面は抉れ木々はなぎ倒されて、たたらを踏む魔物の群れに冒険者たちは斬りかかる。数で負けているなら勢いで。なにも本当に殲滅する必要はない。取った先手をうまく利用して、この場を切り抜ければいいのだから。
「あ、いや、その。桜さん自爆ですか?」
「何を言うんですかおツキさん。忍術ですよ。桜さんはあちらに」
指した先に軽く手を振る桜。おツキは驚きに眼を向く。
「‥‥‥あのような術、見るのはともかく聞いたこともないですね‥‥‥。私が眠っていた間に随分世の中進んでいたもので」
「眠っていた、ですか」
喪は聞き逃しはしなかった。なるほど。この人物、色々な意味でまともじゃない。
「では行きますよ、ソニックブーム!」
太刀を一閃、真空の刃が小鬼を刻む。極大の爆発に目標を見失っていた魔物の群れは、無防備のまま倒れていく。
推測するのは後でいい。喪はは仲間たちに続いていく。
魔物たちも態勢と陣形を整えるがもう遅い。
「けひゃひゃひゃ、コ・ア・ギュレイトォ〜!」
「当たって! ダブルアタック!」
トマスの神聖魔法が魔物の前進を阻みそれをシャフルナーズの剣舞が刻む。陰陽の対を成す小太刀。そして舞踊独自のリズムは魔物に攻撃のタイミングを読ませない。
そしてどうみてもシャレや趣味としか思えないシロモノなのだが、頭に添えたウサミミ、勘が研ぎ澄まされる。外見的のオプションだけではなく、実用性をも考えての装備のようだ。
「まだまだ! アビュダの舞の相手を務めてもらうよ!」
陽の刃と陰の刃が次々に魔物を斬って踊る。
「けひゃひゃひゃ、コアギュレイトコアギュレイトコアギュレイト〜!」
喪のソニックブームに桜の小規模の微塵隠れの術、この二つが撹乱となってトマスとシャフルナーズは一方的に攻撃を仕掛けられる。
「けひゃひゃひゃ! これで打ち止めだね。コ・ア・ギュレイトォ〜!」
神聖の呪縛力が犬鬼を襲い、
「もらった! 一閃!」
駆け抜けざま陰陽のニ刀が払って捨てる!
魔法と剣技の連携、これぞ熟練の冒険者こそが成せる奥義だ。
「あらあら? あの二人、なかなかにやるじゃない?」
「ええ。僕たちも負けてられません」
残り少ない魔物たちが桜と喪を扇状に囲む。
「微塵隠れの術、後一回だけよ。ヤーヴェルの実でも使おうかしら」
「その必要はないですよ。魔物の動きからして、もう退きそうな気配ですからね」
これを率いているものが真っ当な思考を持っているのなら、全滅する前に撤退させる。
桜と喪は魔物たちが第三者に何らかの方法で率いられていることを確信している。
「じゃ‥‥‥いくわよ!」
桜、疾走。
魔物も学習しているのだろう。纏めて吹き飛ばされないよう散ろうとするがもう襲い。
「最後の一発! 微塵隠れ!」
閃光。
桜という起爆剤が爆発する。
そこに続く青い影。
爆発から逃れた熊鬼へ薄緑の刃が走る。
「抜けば生断つ見えざる刃――ブラインドアタック!」
魔力の刃が鞘走る。
達人ですら見切りの難い、必殺の夢想の居合い。
最後まで魔物たちは声を上げることはなかった。
太陽が近い。
登り切った山の頂上。例えるなら自然の祭壇、その中央に件の植物はその身を晒していた。
見たことのない植物だ。植物知識に長けたトマスですら知らない植物。その一つをおツキは採取した。
「‥‥‥よし。まずはこれで一つ、と」
同じ植物は少ないが複数ある。だが、その中でもおツキの取ったそれだけが違う。
存在感、とでも言うのだろうか。古文書曰く長い年月、月の光を浴びてそれ自体が魔法の力を持ったというがなるほど、精霊か天使か、その類の神聖な力を感じる。
だが‥‥‥
(一体なんだったのだね〜。あの熊鬼、テレパシーの巻き物を使ってみたら‥‥‥)
あの後、生け捕った魔物へトマスは尋問を始めた。言葉が通じない相手でも、テレパシーの魔法はそれを可能にするのだ。
(あの感覚、まるで意思のない人形。思考能力でも奪われているのかね?)
付けていたサークレットを思い出す。その全て邪悪なものだと依頼人が処分したが一つぐらい失敬すべきだったか。
(それに最後のあの言葉‥‥‥。魔物を退治はしても使役はするかね?)
ある派にとっては重要な存在。
(まさかねぇ〜)
それはあまりに非常識すぎる答えだ。