夢見るボウヤに現実を
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月29日〜01月03日
リプレイ公開日:2009年01月17日
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●オープニング
基本、若者というのは自分の実力を省みず突っ走るものである。
特に少年は後先考えずに行動を起こし、それ故に無理を通せば通りが引っ込むようなことを成している。まあそれは周りの大人が大目に見ていたり甘やかしていたりしての結果であることがあるのだが、ともかく思春期の少年というのは、色んな意味で分をわきまえないおばかたちが無駄に多い。
手の付けられなくなると、邪気に目覚めたりある種の病気に発症するというか思春期は総じてその手のものに発症するというか‥‥‥まあそんなものである。
つまるところ、冒険者ギルドの受付の印象としては非常にうっとうしいの一言だった。
「つ〜ま〜り〜、ジャイアントマンティスの鎌を三セット。六本調達するの。判る?」
ある日の冒険者ギルド。この手の仕事をしていれば変なのをそれなりに相手にすることもあるが、今回はそういう相手だった。
聞いてるこっちがむかついてくる世の中舐めまくった口調のハイテンション。ついでに礼儀作法にうるさいジャパン人の、年上相手に無礼というかいかにも見下してますっな態度のこの少年。依頼人のイギリス出身のファイター、ショーン少年はリアクションオーバーに仰った。本当にむかつく若造だ。
しかし大人のギルド員。器はこの程度で溢れてしまうような狭量ではない。笑顔でショーン少年の相手をする。
「それは判りますが、大蟷螂を三匹相手にするのでしょう? 失礼ですが貴方には少々荷が重いと思われますし、この依頼料では十分な実力の冒険者を揃えるのは難しいですよ」
あくまで敬語。オブラートに本音を包んだものの、依頼人はそんな気遣いに気付くほど成熟はしていなかった。
「バッカ。俺が誰だか判ってんの? イギリスで知られた黄金の戦士って言えば俺のことよ? マンティス程度、俺一人で十分だっつーの!」
「ここはジャパンですので‥‥‥」
「ならしょうがねえや。ま、俺の活躍期待して待ってな。俺の必殺剣、マジパネェッスよ!」
(うぜぇ‥‥‥。こいつ、本当にうぜぇ‥‥‥)
ちょっと肉体言語で返したい。
この手のアホは一度痛い思いしないと判らない――ギルド員はいっそ、この少年に熟練冒険者が参加している依頼に頼んで同行させようかと思った。死にかければ自分がどんなに愚かか判るだろうに。
「そんなにお強いなら、どうして冒険者に手伝いを頼もうと? 個人的に大蟷螂の鎌をどう使うか気になるんですが」
「ああ、俺の相棒つーか未来の嫁さん? アリーが魔法の実験に使うからから冒険者たちと取りに行ってくれって頼まれてな。俺一人で十分なのに」
(いや‥‥‥、その娘普通に分を弁えた発言をしたんじゃないか?)
どういう人物か知らないが、嫁さんというだけに女性でウィザードかその類なのだろう。こんなのが相方で苦労が偲ばれるものだ。
「でもまあ今回活躍したら俺のことを見直すかな? そうだ。いっそ冒険者を放って突撃するのもいいかもしれん」
『ショーン、わたしのためにこれ全部取ってきてくれたの? 本当、強いんだね。ちょっと、ううん。すごくどきどきしてる。正直言うとね、ショーンのこと大好きだよ? 危ない思いして取って切れくれたんだからちゃんとお礼しないといけないよね‥‥‥(衣擦れの音)。ショーンのおかげで魔法の実験もうまくいきそうだし、これからもお手伝いしてくれると嬉しいよ。だから、お礼と先払い受け取って欲しいな(衣擦れ終了)。こっちの実験は‥‥‥一人じゃ出来ないし‥‥‥。えへへ♪』
「――って、絶対こうなるに違いない!」
素晴しきは思春期の脳内妄想劇場。色々突っ込むところはあるけれど、四六時中こんなのが思春期の少年というものだ。
「そして捲る捲る夢世界! 俺は、この依頼を終えて色んな意味で大人になるかもしれんぜイィィィヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
轟き唸る暗黒闘気。受付だけじゃなく、他の客やギルド員も思いっきり退いていた。
(ダメだコイツ‥‥‥。早く何とかしないと!)
「ジャイアントマンティスがいる森はそこそこ距離はなれているし、一応参加する冒険者たちには保存食と森林戦の装備を用意するよう伝えておいてくれよ。まあ、俺の足を引っ張らなければいいけどな!」
「――判りました。一応、募ってみます」
アホに何を言っても無駄だ。一応、を強調してやる。
「頼むぜ。ああ、それと準備に一日くれてやるからその間にアリーに話を聞いて対策でもしたらいいさ。魔物知識豊富だしな」
「伝えておきます」
依頼人が去った後、受付は依頼書に『この依頼人に現実を教えてやってくれ』と追記する。
ちなみに顔合わせをした際、冒険者たちは全員依頼人に軽く殺気を覚えたという。
●リプレイ本文
江戸郊外の一軒家。アリーに大蟷螂の詳細を尋ねに訪れた三人は思いっきり面くらった。
「なんというか、もう本当にすいません」
自分たちが冒険者だと名乗ったらだ、もの凄い勢いで土下座されたのだ。
ジャパンの流儀である意味最大の作法。外国人であるアリーにとって馴染み薄いものであろうが、さぞ屈辱的なものだろう。それが本人ではなく自分の連れに原因があるなら尚更だ。
「いや、いいですから」
我に返ったガユス・アマンシール(ea2563)が頭を上げるよう促す。しかし石になったアリーは額を畳みに擦りつけたままだ。詳しいことは知らないが、何というか心労の深さが思い知らされるものである。
「そういう訳にはまいりません。ショーンのバカはパートナーの私の責任です。どのように謝罪を申し上げれば良いか」
「そこまで思いつめなくてもいいわ。あの年頃の男の子には必ずあるというか、まあ一種の病気のようなものだから」
誰しもこの年頃では黒歴史作るものである。これで邪気に目覚めたらもう眼も当てられない。
「でもある意味可愛らしいわよね‥‥‥人様に迷惑かけない限りはだけど」
頬に手をあて微笑むステラ・デュナミス(eb2099)。シルバーブロンドの、妖精の二つ名がそれこそ似合うエルフの美人さんだ。
そしてこっちは魔女というかある意味邪神。御陰桜(eb4757)が言った。
「そうねぇ。元気なオトコノコは見ていて楽しいけど、ああまで来るとねえ? お店に来るご主人さまだったら仕事だし適当に相手するけど、お客さんじゃなけりゃただのおバカさんだしねぇ?」
改めてアリーは思った。この国にはサキュバスがいるのかと。
御陰桜。ある一点を持って人間の領域を超えたような女性だ。
眼を引く淡い桃の髪。輝きを深く秘めたメノウの瞳。そして煌く白磁の肌。
これだけじゃない。
というか『ソレ』単体で個人じみた存在感をもつ二つの物体。大きさ、形その他諸々が最強最大究極無敵の黄金率を形成するお胸さまという魔性の結晶。そして腰とその下の、同じく黄金比を形成する魔性の結晶。
あえて言おう。これこそ女性三種の神器だと。
その上達人を越え極めつくしたナンパの技。身に付けている衣服もそれを意識してのことか知らないが、ありとあらゆる全ての言動が同性すらも魅了してしまう勢いだ。
これが人間のなせる技――業か。デビルの一族といっても納得しそうなものである。
何故か胸がドキドキするのはプレッシャー。アリーはそうだと言い聞かせて桜の反応に遅れた。
「――アリーちゃんもホントはつきまとわれて困ってたりシてねぇ?」
「え、いや、別に私は‥‥‥」
聞き逃してしまった。途中からしか聞こえなかったが何を言ったのだろうか。
無視していたと思われてはたまらない。アリーは気になっていたことを尋ねた。
「少し前ショーンを見た時、怪我をしていたようですが何かご存知ですか?」
「ああ。あれは‥‥‥」
引きつってガユスはギルドでのやり取りを思い出す。
再度ギルドに訪れた時だ。前回の時とは違い、依頼人と今後の方針を相談し解散となって、
「無礼者!」
ギルドから出ようとしたショーンは結城友矩(ea2046)に思いっきり殴られた。
友矩はガユスのサポートだ。ガユスたちから話の概要を聞き、無礼な少年に鉄拳教育を施そうと考えたのだ。
当然自分からわざとぶつかったし、謝られる前に速攻で殴り倒した。
「ちょ、何」
「黙れ!」
発言など許さない。
友矩はマウントポジションを取った。拳を大きく振り上げる。
ガユスから一通り話を聞いた際、彼はこう思ったのだ。
――そんなやつならば、意識がなくなるまで殴りつければいいんじゃないか、と。
鍛えぬいた達人の武。そして拳に宿るオーラの力。
「拙者は! 貴殿が泣いて謝るまで! 殴るのを止めないでござる!」
鬼のような超ラッシュ。あまりに早い拳のせいでショーンの顔がもう見えない。
ちなみに、私刑と勘違いした通行人によって役人の皆さんが呼ばれ、友矩は目下追い掛け回されているのだがそれは別のお話し。
「‥‥‥まあ、ちょっとやんちゃしたというところですよ。それよりジャイアントマンティスについて教えてもらえませんか?」
わざわざ言う必要もないだろう。それに、あの無駄におかしい回復力は若さゆえの代物だ。下手に騒ぎを起こす必要もない。
「ええ。判りました」
空気を読んだのか桜もステラも何も言わなかった。
「全く最近は変なのが多いよな。自分からぶつかってきたくせに謝るどころか俺に謝れほざきながら殴ってきたしよ」
「むぅ‥‥‥」
人通りの少ない裏街道。ショーンは肩を擦りながら歩いていた。見た目年齢はともかく駆け出しのファイターといったところだ。それにしても、だ。
(何なんだこの超回復は)
群雲龍之介(ea0988)はまるで魔物を見るような眼でショーンの背中を眺める。護衛依頼でもないが冒険者は依頼人の安全を考慮するものであるが、それにしても距離が空いている。いざという時対処できないものだが龍之介、完全武装なのだ。
上から武者兜に獄卒デザインな鬼面頬。更に黒塗りの武者鎧で陣羽織。武器こそ十手と短刀であるものの、このまま戦場に出陣しそうな恰好だ。恐ろしいことこの上ない。
この姿のおかげで不審者に絡まれることはないものの、もう少しTPOを考えてほしいものである。人は避けて通るし機能性重視しているかもしれないが、それにも限度はあるだろう。
まあそんな事はどうでもいい。鬼武者姿な龍之介に対して気品溢れるというか身分を隠したどこぞの令嬢のような、ブロンド碧眼西洋人ハーフ、伏見鎮葉(ec5421)はこっそり耳打ちした。従者を従えた姫に見えなくともない。
「ともかくさ、ああいう変な思い込みとか思い上がりとか、自分にまったくもって身に覚えがないかと言われると素直に首は縦に振りにくいんだけど、ひとますシメようか?」
美人なのに物騒なひとだ。このギャップがいいという人はいるかも知れないけれど。
「ショーンに現実の厳しさを教えてやらんとな」
「そうだね。大蟷螂戦で無理して邪魔になっても困るし」
ショーンだけならともかく自分たちまで危険になるかもしれない。冒険者たちはこの辺りシビアなものだ。
三人は広場に出た。
「で、アンタ俺と手合わせしたいって? 別に構わないけどっつーか俺、弱いものいじめ嫌いだし? どうしてもっていうなら胸を貸してやってもいいぜ?」
「はっはっは。それはそれは」
鼻で笑うショーン少年。武芸の達人はどんな姿勢をしても隙がないものだがこの少年、どんなポーズでも隙だらけだ。ウィザードのステラでも付け入る隙ありまくりだと思ったほどである。
龍之介は怒髪天を貫くのを我慢して返す。三十路近くもなればこの手のスキルもいやに身に付くだろうが、それが遥かに年下でその上武術においても格下の相手に下手に出るのはそれはそれはむかつくものだ。
「貴殿程の英雄に是非とも指南して頂きたい」
だがそこは大人の龍之介。こんな子供相手に本気で相手してやる必要はない。そうは思っていたけど‥‥‥
「いいぜいいぜ。この黄金の戦士、分別を知らない雑魚に教育してやるゼ!」
「お前が言うなぁぁぁぁ!!!」
鎧と上着が消し飛ぶキャストオフ。
「はぶっ!」
先手必勝。闘魂ビンタが炸裂した。
この時、たまたま観賞していた一般人は後にこう語る。
『あれは、そう。戦いと呼ぶにはあまりに一方的でした。もうリンチと言ってもおかしくないでしょう』
直刀を抜いて鎮葉、龍之介をけしかけた。
「調子に乗るのは邪気眼だ! イタイ行動を躊躇わないのは更に調子に乗った邪気眼だ! ホント厨二病は黒歴史だぜ! フゥーハハァー!」
龍之介のターン!
「龍之介選手、まずは先手のビンタ! それに続く張り手! ローキック! まだまだ終わりません。シャイニングウィザードの後フルネルソン、そしてドラゴン・スープレックスだぁー! そして最後は四十八の殺人技、キン○バスタァァァァァァ!!!!」
実況する鎮葉。空気を読んでしっかりバカになっている。
「ギブギブ!」
ショーンは地面を叩いて降参を訴えるが当然聞かない。
「いやいや。流石黄金の戦士、冗談も巧い♪」
「少しアタマ冷やそうよ?」
片刃刀ぎらつかせ微笑む鎮葉。笑顔すぎるのは逆に怖くて――
「ちょっと待ってぇぇぇぇ!!!」
リンチ――教育的指導はまだまだ終らない‥‥‥。
「ああ、アリーさんは未来の嫁云々は否定していましたね」
森を進む途中ステラは言った。
一日ショーンの相手をしていた龍之介と鎮葉は詳しい話を聞いていない。それにしても昨日はあれだけショーンを締めたのに、一日でもう完治している。
やはり十代の若さは何もかもが超越している。
「それにしても大蟷螂の鎌なんてナニに使うのかしらねぇ?」
ペットの犬猫が器用に桜と同時に首をかしげる。
確かに気になるところだがウィザードでもあるまいしその辺りの専門知識もない。アリーと同業のガユスやステラなら検討の一つや二つでも付きそうだ。
ガユスにとっては価値のない類のジャンルなのか特に目立った様子はない。
「ともかく懐が寒いのです。意に沿わぬ依頼も時として受けざるを得ません」
素人より下手に使えて自分の実力を勘違いしているやつほど危険極まりない。
ガユスからすれば、今回の依頼は冒険者たちだけで取り掛かりたいのだろう。
そしてそのアホ本人は、
「オレは本番に強いんだ! 昨日はワザと負けてやったっつーの!」
龍之介に思いっきりインネン付けていた。
「いい加減にしないと鼻っ柱へし折るよ?」
「この黄金の戦士のオレ様の鼻をへし折れるものならやってみろってんだプギャー!」
ビキッ、と極太血管を浮かせる鎮葉に盛大に鼻で笑うショーン。
「‥‥‥意に沿わなくてもこれは依頼だ‥‥‥」
「うわぁ‥‥‥」
「ホントにアリーちゃんかわいそうよねぇ‥‥‥」
ガユスたち三人汚いものをみるようにショーンを窺う。心から本当にむかつくが、人間ここまで調子にのれるものなのか。
一定間隔で発動させていたブレスセンサーが反応する。
もとよりアリーから聞いていた大蟷螂の生態、ステラの森林知識に未来視じみた研ぎ澄まされた直感でおおよその見当は付いていたのだ。
「はっはっは。それなら見せてもらおうじゃないか」
面頬獄卒鬼のおかげで名前通り鬼そのものな龍之介はショーンを大上段に抱え上げる。
この手の輩は一度痛い目に合うべきなのだ。
盛り上がる上腕二等筋。ショーンは矢のごとく突き進む。
「ゆっくり学んで逝ってね!」
大蟷螂の群れにショーンを投げ飛ばした龍之介はまさしく鬼だった。
「たかがデカイだけのマンティスごときオレの敵じゃねーっつーの! 必殺剣使えるオレはオラオラ状態ですよー!? 現実を見極められないアホ冒険者に黄金の戦士さまの偉大な実力を見せ付けるチャンスだぜスーパーフルボッコターイム! うおりゃぁぁってはぶし! オレがフルボッコされるんデスカー!?」
まるでお手玉されるように空を跳ね回るショーン少年。この手の昆虫系の魔物の姿は、只でさえ生理的な嫌悪感を催すのに名前だけに巨大サイズだ。感じる嫌悪感もより大きい。それなのに鎌の攻撃を捌いたりかわしたりしている技術は無駄に高い。一応、黄金なんとかを自称するだけの実力はあるようだ。
テンションの高さだけで現状を維持しているようなもので、傷の一つでも負えば心どころか身が速攻で砕け散りそうなものだ。
「さて、投げ飛ばしたとはいえそろそろ手助けに入らなければな」
「黄金の戦士さんに援護なんて逆に失礼じゃ?」
「そういう訳にもいかんだろう。アリー殿は頭を下げていたと聞く‥‥‥ステラ殿もなかなかに薄情だな」
アホを見捨てよう発言かそれとも別か、龍之介は冷や汗を垂らす。美人の冷酷台詞は似合うものだが逆に怖い。
「黄金のバカがどうなってもいいんだけどさ、そろそろ私たちもいかないとさ。鎌、ヒビが入ってるのもあるわ」
見ればショーンとの打ち合いで鎌が欠け始めている。いくら魔物の鋭い鎌とはいえ、鉄の武器には耐えられまい。
「いつもみたく爆殺できれば楽なんだけどねぇ」
「この辺り一帯消し飛びますよ」
面倒くさげな桜にガユスは焦った。依頼を忘れるわけにはいかない。
ガユスは戦端を切る。
「ウインドスラッシュ!」
ショーンを狙っていたジャイアントマンティスに真空の刃が襲い掛かる。冒険者たちの存在に気付いていなかったジャイアントマンティスは大きな叫びをあげてのた打ち回る。
「援護するわ! バーニングソード!」
「よし、叩き切る!」
庖丁正宗に炎が宿る。鎌の攻撃を十手で受け、カウンターの一撃がジャイアントマンティスの胴を薙ぐ。
「何だか知らないけど冒険者が調子こいてるし! オレのスーパーフルボッコタイムはまだ終らない! いくぜ必殺」
「邪魔よ! ソニックブーム!」
鎮葉のソニックブームがショーンもろとも斬り飛ばす。
「鎮葉殿、それはさすがに」
躊躇わずにやった、というか殺った? 龍之介は女性陣の非情っぷりに腰が引けた。
「そろそろねえ?」
依頼では三セットだが、アリーからは必要最低分だけでも聞いた。それの採取を確認した桜は術の準備に取り掛かる。
「まだだっつーの! オレの見せ場!」
「ショーン殿!」
「忍法・微塵隠れの術!」
龍之介の静止も間に合わず、大爆発がショーンもろとも消し飛ばした。
「ほら、ショーン。ごめんなさいは?」
鎌を渡しに江戸。アリーは傷を負ったショーンを促す。まるで出来の悪い弟の世話を焼く姉のようだ。
「別にオレ悪いことしてないし? つーかオレ一人でもどうにでも出来たし?」
「さっきまで死にそうだったでしょ。それに今回で判ったよね? 強がる前にちゃんと訓練しよう?」
さすがにあれだけ手傷を負えばというか大半は冒険者にやられて思うところはあるらしい。
「うむ。本当に強い者は己の強さだけで無く弱さもきちんと理解していて、それが自然と態度にも出ている。己の弱さを知った君ならそんな漢に必ず成長出来ると信じるはずだ」
いいこと言ってるみたいに振舞うが、
(本当に何なんだあの超回復は。あれだけ刻まれて爆発に巻き込まれて‥‥‥若さか)
回復の早さは若さゆえの特権だ。老いれば軽い病気でもツライ。
「つーかテメェ散々人ボコりやがって偉そうなこと言うなぁ!」
「ぬおっ!」
「ショーン!? ああもう‥‥‥」
龍之介に襲い掛かるショーンにアリーはため息を付いた。
そんなアリーにガユスは尋ねた。
「ところで、君は彼‥‥‥ショーンのことが好きなのか?」
あれだけダメ人間な少年だ。なのに相棒をしていたり面倒を見るのは、何らかの理由はあるだろう。
それにアリーは、
「は、はい!?」
とても判りやすいリアクションをした。