伊豆旅行は決戦で

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月04日〜01月15日

リプレイ公開日:2009年03月07日

●オープニング

 ある日の松屋の一角にて――
「ねえねえ。年末年始でついでに伊豆にお参りに行っちゃうのでどうかしら?」
 御陰桜(eb4757)は冒険者の友人、緋村櫻(ec4935)に尋ねた。
 二人とも美人である。
 しかしだ、桜は違う意味でおかしい女性だ。
 映える桃髪。濡れた唇。上から三段コンボの神サイズ。身に纏う衣服はそんな凶器を更に凶悪に魅せる夜のお姉さま仕様。ぶっちゃけ遊女さんや芸姑さんとかそんな印象のひとだ。
 しかし‥‥‥だ。桜はある技――業を極め尽くした結果、既に魔性と呼ばれる域に達していた。
 御陰桜、ナンパを極めつくした女性だ。
 もとより持つ神仕様のスリーサイズ。それを更に強調する厳選された衣服と着用方。更に極めつくしたナンパ術による、無意識においても発動する、もはや同性ですら問答無用で魅了してしまう言動に立ち振る舞い。
 サキュバスがこの国にいたら、「やあ、同胞!」とフランクに声をかけてしまう、ある意味すでに人外の領域に到達した魔女なのだ。ウィザードではないが間違ってはいるまい。
 しかし数多の修羅場を渡ってきた冒険者は早々魅了されないと思う。櫻は胸が高鳴っているのはお参りが楽しみなんだろう――そう思っている。
「そうですね。皆さんで賑やかに年越しするのも、いいものですねぇ♪」
 それはそれとして、気心の知れた相手と旅行に行くのは楽しみなものだ。櫻に異論はない。
 振り返って桜は聞いた。
 この松屋、年の瀬という時節柄、桜は冒険者仲間達とちょっとした宴会を開いていたのだ。
「年末年始あたりで伊豆にお参りに行こうと思うんだけど、行きたいヒト〜?」
 酒の入ったハイテンションというか廃テンション。無駄にハイレベルな応酬を繰り広げている中から二つの腕が上がった。
「参加したいな」
「俺も付いて行って良いのであれば、同行を希望しよう」
 イクス・エレ(ec5298)と、見た目だけならどこぞの人斬りなビジュアルの夜十字信人(ea3094)。ちゃんと見た目だけじゃなく、剣の腕はもう超人級。
 思えばこの松屋、見渡す限りその類の連中ばかりだ。
 普通に天下を狙えそうな気のする面子であるが、凶悪な魔物やデビルと戦うには相応の実力が必要なのだ。
 桜はメモ帳に参加者の名前を走らせる。
「イクスちゃん参加っと♪ 信人ちゃんが来ないなんて考えてもなかったけど?」
「むぅ」
 困ったような一本取られたような、まあ古来より男は女性の尻に敷かれるものだ。
 瀬崎鐶(ec0097)は挙手をする。
「僕も同行していいかな?」
「鐶ちゃんも一緒なら楽しくなりそうね♪」
 今はこの四人だけだが少しすれば他にも参加者は出てくるだろう――桜はバイト先のメイド喫茶に休みの申請をし、伊豆でメイド修行中の妹分、ねね子へ手紙をしたため始める。
 旅行が準備が一番楽しいもの。
 ある意味、この状況ではそうだったりするのだが。




 松屋別室。部屋の一つを貸し切り会議を開いていた一堂は帰ってきた斥候の報告を聞き色めきたった。
「桜たんが伊豆に旅行だ! しかも、他に綺麗どころを連れて素晴しき百合旅行らしいぞ!」
「な、なんだってー!?」×一堂
 超回転する灰色の脳細胞。めくるめくる脳内劇場。
「さ、桜たんが百合旅行だと!?」
「温泉に入ってくんずほぐれつですか!」
「いや待て! 伊豆だから、神さまの下で修行と称して励むかもしれん。そう! 房! 中! 術! を!」
「くのいちの皆さんが習得しているっていう肉体言語じゃないか!」
「カラダという最終最強兵器を使っての超技術、どんな名刀魔剣すら匹敵するその技! たとえ自分より遥かに強い無双の戦士すら撃破し、なおかつ手中に収めるそれは女の人の究極奥義らしいな!」
「その魔技の餌食になったものは、自分の死すら気付かないというが、しかし! この世の(アレ的な意味で)幸福を全て味わったままイけるというまさにヘ○ン状態!」
「しかもたくさんの女の子たちが修行するというじゃないか! もれなく複数プレイが待っている。この機会を逃す気はないぜイィィィヤァッフゥゥゥゥゥ!!!」
 暗黒闘気が轟き唸る。
 どこでどう勘違いしたかしらないが、この変態どもには既にそういう風に確定されている。
 ある意味ものすごく貞操の危機なのだが‥‥‥
「しかし、しかしだ! どうやって伊豆に行くというんだ。ただ伊豆に行くだけならともかく、偶然遭遇するのは難しいぞ。
 確かにそれが問題だ。
 だがこの国には類は友を呼ぶという言葉もあるし、こんな変態な暗黒闘気を発していれば当然ヤツが現れる。
 その名も――
「――そんな事があろうかと、やってきたのじゃこのワシは!」
「メイド仙人!?」
 まるで空間転移したようなその登場。
 白い衣に身を包み、霞を纏うその姿。徳はあるに違いないが、それ以上に放たれる変態臭。思春期の少年や変態の皆さんがもれなく発散している暗黒闘気は、単体で既に物理干渉する勢い。
 顎から伸びた長い白髭は、それ自体は仙人だという記号だ。
 その老人、メイド仙人。
 萌えに生涯を捧げ、セクハラに生き甲斐を感じ、特にメイドさんが大好きで大好きで仕方ないジジイだ。今はねね子という猫的な女の子を弟子にセクハ‥‥‥修行させている。すばらしく好色だ。
「安心せい若造どもが! ワシは常日頃から、女の子に、特にメイドさんにどうすればセクハラが出来るか考えておる。もちろん普通にお触りするだけじゃないわい」
 いい事言っているような顔だ。
 だが普通に犯罪だ。
「どうすれば効率よくセクハラできるか。どうすれば偶然を装えるか。どうすれば、女体という桃源郷に突撃できるか。ワシはそのために仙術を極めたと言っても過言ではない」
 極めるな。
「そして、今回その中の一つを実践しようと思うのじゃ。伊豆のとある地域の住民、全てワシの仙術で洗脳済みじゃ。深窓意識に干渉しておるものでな。他人から見てもそうとは判らんというか、ある条件においてのみ、それを見逃す仕様じゃ。判るじゃろ? つまり、桜たんたちに突撃しほうだいなのじゃ!」
「な、なんだってー!?」×一堂
 またもや異口同音。
 まあアレだ。セクハラを誰からも見咎められず、堂々と出来るということは、人としてどうかと思うが男としてキャッキャウフフでたまらんですよ?
「前回のこともあるからのう。男冒険者にもそれとなく仲間になるよう強制的な暗示もかけようかと思っとる。思う存分セクハるぞ!」
「セクハラー!」×一堂
 ステキに犯罪発言は犯罪者たち。こんな事を堂々とのたまうわけだから、
「テメェら検挙するぞ!」
「げぇ! 役人!」
 役人の皆様方がやって来ました。




 ――とまあ、そういうことで伊豆のひと騒動のはじまり。

●今回の参加者

 ea1401 ディファレンス・リング(28歳・♂・ウィザード・パラ・ノルマン王国)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec3527 日下部 明穂(32歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4935 緋村 櫻(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec5298 イクス・エレ(24歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec5421 伏見 鎮葉(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 伊豆までの道程は長い。
 馬を始めとする騎乗動物を持たない冒険者は徒歩での旅路になるが、そこは健脚の冒険者だ。肉体行動が専門ではない巫女さんも目立った疲れもなく街道を進みながら仲間たちと談笑をしている。その仲間の男連中こそ馬上で楽しく返しているが、馬を貸して自分が手綱を引いてやるとか相乗りさせようなんてつもりはないらしい。
 そういう気遣いが出来てない辺り女性陣からの評価が下がるものだがそれに気付かないのが男というものである。
 だけどまあ、太陽が照りさわやかに汗を拭う巫女さん。
 長い旅路は何だかんだで体力を消耗するもの。健脚とはいえ疲れは出るもの。汗で巫女装束は肌に張り付きどちらかというとデビルに魂を売った感のスタイルを極めて強調。更に着崩れてタイヘンなことになりそうなこともあるやもしれぬスバラシキこの有様。
 そして馬上という高所から見下ろすこのベストポジション。
 そもそも巫女装束オンリーは長旅に向くか疑問だが声を大にして言おう。
 むしろそれがいい。
 隣の美少女――リフィーティア・レリス(ea4927)はそっぽを向いて、だけど視線が目下ふらつき中なのだ。そんな現状を知ってか知らずか、日下部明穂(ec3527)はのんびりと仰った。
「伊豆は夏以来になるのかしら。仙人さんにはあの状態から流石に復活は無いと思うけれど」
「そうねぇ。ねね子ちゃんもあれから真っ当にメイド修行出来てると思うわぁ」
「‥‥‥メイド修行というか真っ当というか、その辺りで何か間違っている気がするのは気のせいかしらね」
 巫女さんなだけあって色々と潔癖なのだろう。忍者の御陰桜(eb4757)と違って――職業柄手段を問わない知識と技を持っているであろう――耐性がないのかもしれない。
 それ以前にメイド喫茶とかメイド温泉とか突っ込むところはありすぎる上に、来店する客もメイドさんたちへのセクハラが大前提。メイド温泉に至っては宿の主が修行の名目で無邪気な女の子にセクハラし放題である。
 頭が痛くなるというか突っ込む以前の問題であるのだがそれはそれ。
「まあ変態たちがまた現れたなら、その時はその時。平穏で済むうちは平穏に新年を祝いましょう」
 旅行なのに戦闘を考慮しないといけないのは如何なものだろう? イクス・エレ(ec5298)は聞いていた変態に正義感が燃え盛っていた。
「全くセクハラとは言語道断っ! 即、粛清だっ!」
「あら? それじゃあイザ、という時はオネガイね?」
「任せろ! こういうのは俺たち男の役目、そうだろう! ディファさん夜十字さん、上杉さんに緋村さん!」
「は? 私ですか?」
「というか何で俺はカウントされてないんだ」
 やたら男前な女性の緋村櫻(ec4935)、遺伝子レベルでスーパー美少女のリフィーティア・レリス(ea4927)が超反応。知らない仲でもあるまいし、熱く燃え盛るイクスはビジュアルでカウントしたのだ。
 リフィーティア・レリス。
 銀色の川のような長く光る髪。エメラルドの瞳に触れるのすら拒んでしまいそうで、または汚してみたくなる衝動に駆られるただただ美しい白肌。
 吟遊詩人に謳われるであろうその美貌。
 物語で語られる姫君、または妖精。
 美少女という言葉は『彼』を差す単語だと聞けば納得する。
 たとえ男物の服を着ても男装としか認識されない美少年。それがリフィーティア・レリスなのだ。
「安心するんだリフィーティアさん。きっと貴方に安心してメイド修行させてみせよう!」
「‥‥‥一応言っとくが、俺は観光と温泉に入りに行くんであってメイド修行しに行くわけじゃないからな。ねね子のことも気にはなるから様子は見に行くかもしれないけど」
 過去の経験からこの手の類には何を言っても無駄だ。変態相手ならどんな手段を使っても否定しないといけないのだが。
「それにしても鐶ちゃんは残念ねぇ? 信人ちゃんと変態たちを奇襲仕掛けにいって今は診療所だったかしら?」
 この場にいないもう一人の女性冒険者のことだ。
 松屋では共に出席を決めていたのだが、夜十字信人(ea3094)が変態たちの行動を察し、共に先手を討とうと攻撃を仕掛けにいったのだ。だが変態たちの変態的な変態の迎撃で現在診療所らしい。どこをヤられたか知らないが、一流の冒険者を追い詰める変態、恐るべし‥‥‥!
「信人殿は少し遅れてくるのだったな。まあ先を急ごう」
 上杉藤政(eb3701)は爽やかに言うが馬上の男が言うべき台詞ではなかろう。





 少し時間遡って江戸の街。
 どーせ変態来るんだろうなぁと、連れとともに突き止めた変態のアジトにやってきた信人。旅行前のテンションは天井知らずは変態も同じ、轟き唸る暗黒闘気は異界化せんばかりに周囲を歪ませるような勢いだ。
「巫・女・さん! 巫・女・さん! 清らかなものを汚すのってたまらなくハイになりますよねもちろん性的な意味で!」
「今回の目的は桜たんたちをセクハラすることだ。気持ちはわかるが狙いを一つにセクハラしよう!」
「何を言っているこのアホウ! 旅行の醍醐味は、訪れた先の土地や建物、催し物諸々を楽しむこと。なれば現地の女の子をセクハラするのが我らの務め。しかも天下に知られた三嶋大社があればなおさらだ!」
「言われてみれば‥‥‥。だが二兎を追うもの一兎を得ずとも言うが、どんぶりこそ男の華! メイドさんと巫女さんのどんぶりをぜひ頂きたいものですなぁ! もちろんこれも性的な意味で!」
「その通り! 巫女さんとは【ピー】とか【ピー】とか【ピー】とか、メイドさんは属性的に主従プレイですかぁー!?」
「イエスイエスイエェェェス! 首輪に鎖とか性格疑われるけどむしろそれがあぁぁぁん、あぁぁぁぁぁぁん!!!」
 身悶える変態ども。脳ミソ脳内麻薬で溺れてるに違いないがラリすぎてもう怖い。
(ダメだこいつ‥‥‥。早く何とかしないと!)
 連れに合図して刀のこいくちを切る信人。
 そこに突然後ろに気配。
「そろそろろりきゅあが現れると思ったのじゃよこの儂は!」
「メイド仙人!?」
 背後を取られたとはいえ、どこは人読んで世界最強の誉れ高き神聖騎士。無意識、条件反射で身体が戦闘状態に移行する。
 抜いた刀で大上段。
 そして、
「変態と言う文字を誇りに持つならば、俺についてこい。良い夢見せてやる。イクぜ!」
「セクハラー!」×たくさん
 土煙を上げ突き進む変態群。イクの意味はまあ、ひとつじゃないはずだ。
 そんな変態という名の紳士の皆さんたちの先頭に、瞳から星を飛ばさん勢いのケミカルハッピーの信人が一行を率いていた。





 三嶋大社。伊豆の名所にて天下に知られた大神社である。
 ルーツを辿ると源氏に縁のある神社であったり大物の神様を祭っていたりと、真偽はともかくタタリ石を始めとにかく由来はいくらでもある。
 数ヶ月前より敵対していた商家同士がある男の手によりひとつにまとまり、また伊豆に生息する魔物に異変が見られ始めたなど緩やかに変化が起こりつつあるが‥‥‥今だけは関係のない話だ。数名、関わりを持った冒険者もいるがそれはそれ。とある物書きがトラブって開き直っている姿も見かけたが自己管理の出来てない物書きの自業自得なだけである。
 ともかく、一行はいちど宿――何故か某宿以外のきなみ暖簾が下がっていて――に荷物を置き三嶋大社へお参りにやって来た。
「随分熱心にお祈りしてたわね」
 必死に見えたのだろう。拝む藤政に伏見鎮葉(ec5421)はくすりと笑った。
 月並みというか語呂が少ないが、美人だ。
 リフィーティアの性別のおかしい美少女ぶりとも桜の魔性の美貌とも違う、あくまで人間の美女。
 まるで劣っているかのような言い方であるが、西洋仕込みのブロンド髪といい碧の瞳といい、そしてこれぞ西洋産なお胸さまに引き締まるウエストとぷりっぷりなお尻。ある主の完成美である。
 これぞジャパンと外国人の血の合作の賜物。単にリフィたんや桜という比べる対象がおかしすぎるだけなのだ。ついでに明穂の神乳も(いい意味で)おかしい。きっとお胸さまだけ『神如き者』と謳われるかの大天使が憑依しているに違いない。
 だがそんな美女群もパラではないため藤政にはあんまり効果は薄いらしい。
「己の不甲斐なさを改めるべく、な。まだまだ未熟だ」
「私も同じです。刀を極める道が辛いように、陰陽道もそうなのでしょう」
 同じく拝んでいたメイドさん。櫻が頷く。
 彼女は今回、メイド修行に参加するのが目的だ。メイド関連に関わったことのある冒険者にしては色々と突っ込みたくなるかもしれないが、本人なりの理由があるのだろう。なるほど、持参したミニメイドドレス姿はボーイッシュなメイドさんで可愛かっこいい(造語)。
「そりゃいいけどさ、伊豆を堪能するためにやる事あるじゃない。なんか町の人の様子も変だし‥‥‥どう思う?」
「そうですね。まるで催眠術をかけられているようですが」
 辺りを見渡すディファレンス・リング(ea1401)。ウィザードの彼はこんな突っ込むべき状況なのにスルーしている町民を見て推測する。まあ誰でも思いつきそうだが、博識たるウィザードには幾らか心当たりがあるのだ。
「旅行というものをした事がなかったので、好奇心に負けて参加させていただきましたがこれは厄介なことになりそうですね」
「私は商人衆が不老不死の霊薬を探しているという話を聞いたがこれは関係ないな」
 これは藤政。伊豆の情勢を知るため情報収集をしていたのだ。
「んー。まあ、いざとなれば突っ込むからイクスにディファレンス、援護頼むよ」
 緊急時、鎮葉は前衛を勤めることになっている。イクスとディファレンスはその際連携を取る為チームを組んでいる。
「さて、と。そろそろムカついてきたからアレどうにかしない?」
 指差した先、
「桜君! さあ、存分にイチャつこうじゃないか!」
 ケミカルハッピーなろりきゅあ、信人がいちゃついていた。いつもの信人じゃないというかまるでアレな変態と同じ‥‥‥桜は思いっきり戸惑っている。
「どうしたんだい桜君? ゴッドも見ている。偉大なるゴッドをオレたちの愛の炎で燃やし付くSO・U・ZE!」
「な、ナニかヘンよどうシちゃったの?」
「ノリが悪いなぁ。でも今夜は寝かさないぞう?」
「ダ、ダメだってばぁ‥‥‥。もう‥‥‥」
 大・撃・沈。
 こんな口から桶一杯な砂を吐き出さんばかりの空間を、とても可愛らしい鬼神さまがブチ抜いた。巫女さんリフィたんだ。
「テメェ! よくも俺に巫女服なんて無理矢理着せて変態どもに放り投げてくれたな? あのメイド喫茶の変態どもじゃないか!」
「何を言うんだい。可愛い娘には可愛い服を着せるもんDA・ZE?」
「俺は男だ!」
「ボーイッシュな娘も良し!」
「‥‥‥大体において店以外では普通の格好してるのにメイドだの男装だのと、頭がどうにかなってるとしか思えねえ! 絶対に普通に温泉入って観光しようって思ってたのに!」
 怒り狂っているがどう見ても男勝りな美少女が可愛らしく怒っているにしか見えない。しかも両の手握って下に突き出してちょっと前のめり。女の子怒りである。
 まあそもそもこのメンバーでマトモに旅行できるわけがないのだが。
 で、問題の連中は温泉に潜んでいた。




「今更だけどさ」
 メイド温泉の温泉場。湯気と剣戟と魔法と暗黒闘気が迸る中、濡れ濡れメイドさんの鎮葉が呟いた。
「メイド修行温泉編、って時点で気付くべきだったんだよ」
 血っぽい何かに染まった片刃剣はこんな湿気の中で蒸れに蒸れて大変なことになりそうだがそうも言ってられない。それにしてもメイド服がお湯と湿気で素肌に張り付いてスバラシキ肢体が強調されとります。着衣済みっていいですね。
「全身が滑って、とか突っ込んでくるんだろうなぁ。あんたどう思う?」
「めいど修行‥‥‥! きっと過酷でそれはそれは厳しい道のりと思ってましたがその通りでした。が、しかし! 耐えてみましょう!」
 こっちはこっちで体育会系。しっかり櫻は違う方向で燃えている。
「宿での訓練で『つんでれ』は勉強させて頂きました。さすがに『にゃんにゃん♪』とかは無理でしたがというか遊女のような訓練(特別指導員、桜)でしたがまあ本場のメイドとはそういうものでしょう」
 それは違う。
 そして信人と率いる変態たちは、
「ふはははは! 野郎は地獄に落ちろ!」
「ああもう! 同じ男といえど、此処まで変態化すると言葉も見つからないですね!」
「変態なんぞに好き勝手させねー! オレは男だコンチクショー!」
 迎撃するディファレンスにリリカル・リフィ。サンレーザーが鬼のような勢いだ。
「変態さん達&仙人さんはなにやら武者修行に燃えている人たちにお任せ‥‥‥というわけにはいかないかしら?」
 のんびり微笑むお胸さま‥‥‥明穂。シャドウボムがえげつない。頼りにしている人たちの一人、
「パラの美少女! どさくさに紛れてセクハ‥‥‥せめて一緒に入浴ぐらいの役得ぐらいないと気が済まぬ!」
 サンレーザーを唸らせる某パラ陰陽師もこの始末。本音も漏れてるような気もしないでもないがとんだカオスだ。
 変態どをも人遁の術で爆『ピー』しながら桜は首をかしげる。
「ねね子ちゃんともそうだけど、メイド修行さっぱりやってないような気もするわね‥‥‥?」
「何を言いますか。そっけない態度でお酒を注ぎつつ膳の下では手を繋ぐとか、二人きりになった時のアクションとか、しっかり教わりました。なかなか難しいものです」
 単に変態連中が濃いだけである。
「さきほどは化け猫に襲われたが『襲われる前に襲うにゃー!』とか相手の勘違いに違いないな。だって俺はきゅあだから!」
 高らかに笑うきゅあの人。
「信人ちゃんとの仲を認めて欲しいけど、さすがにあの状態じゃあ‥‥‥。洗脳されてるのかしら?」
 称号からくる想像と一部の認知と現状からただの変態だ。
 だがこのままではジリ貧である。
 鎮葉は変態たちに呼びかけた。
「いつまでも不毛な争いもお互い嫌でしょ? そっちで一番強い奴を決めてきなさい。私が」
「スーパーご奉仕タイムですかー!?」×たくさん
「‥‥‥この三人が組んずほぐれつ、夜の四十八手飛び交う閨の肉弾戦のお相手してくれるわよ」
 リフィと変身イクスと櫻に集まる視線。
「な、なんだってー!?」×たくさん。
 異口同音の変態たち。本当にこういう時の息だけはあっている。
 ぎらつく視線荒れる鼻息轟き唸る暗黒闘気。ちなみにイクスは禁断の指輪で美人さんに変身だ。
「しょ、正気に戻れ!」
「正気‥‥‥。つまり、正しいプレイで気持ちよくしてくれってことダネ!?」
「よーし! 一度死ぬかお前らサンレーザー!」
 それからこの三人が無双ばりの活躍をしたのは言うまでもない。


 ちなみに、信人が悪夢を見たような気がするとほざいたが彼を見る評価は変わったとか何とか。