TUN☆DEREガールは幸せを掴めるか?

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月25日〜07月30日

リプレイ公開日:2006年08月02日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





 叛座居組。江戸の街を中心に活動するヤクザさんである。
 ヤクザさんなんてものはどこの街や村にでもいるものだし、田舎となるとヤクザさんが領主のようにその辺りを我が物顔で仕切ったりする事もある。
 しかしここは江戸の街。
 源徳公が直属収めているだけに治安も隅々まで――当然抜け道はいくらでもあるが――行き届き、ちょっとした犯罪でもすぐさま役人がやってくる。人が多い所は犯罪も多い代わりに治安の高さも優れている。矛盾しているがそんなものだ。
 まあそんな訳でその抜け道で一生懸命働いている方々の一つがヤクザさんであって、お上にバレないように、バレても袖の下でスルーして貰って、今日も今日とて汗水垂らして? 働いているのである。
 彼、高槻慎一郎に与えられた仕事は、裏街のボロ道場で毎夜開かれているという賭博の現行犯逮捕。それもたった一人で。
 冒険者ギルドに行く途中、彼女は幼馴染の少年に問い詰めた。
「一体何度言わせるのよ。昨日からボクは言ったじゃない。冒険者に頼もうって」
 腰まで伸びて、風に踊る金の髪。エメラルドのような青い瞳は大きく釣り上がる。外国人だろう。馳川更紗は大きく胸を逸らしてねめつけた。小ぶりだけど。
「う、うん。だけどやっぱりいけないよ。俺に任された仕事なんだから、俺が一人でこなさないと」
 少年、高槻慎一郎は幼馴染の少女の剣幕に押されびくびくしながら答える。小柄で女顔で童顔過ぎる程の童顔も相まって、まるで兎とか小動物とかそんな印象を受ける少年である。実際更紗にとって、そんな慎一郎が可愛くて放って置けなくて仕方がないのだが。
「いつまでもそんな真面目ぶるなー! 少しは自分の置かれた状況を理解しなさい!」
 更紗は慎一郎を促した。『自分を取り巻く状況』を、である。
 今から一年前、ちょっとした騒動が起きた。高槻新右衛門、金二千両横領と源徳公暗殺容疑で妻諸共打ち首。
 詳しくはこうだ。源徳家に敵対する勢力から暗殺者の一団が襲撃を行い、それが失敗すると長い間着服し続けた公金を軍資金とし、派遣された兵隊の物資援助。暗殺者が城の深部に侵入した事も含め、内通者の手引きは確実。それが高槻新右衛門の仕業とされた。勿論本人は否定し親しい者は無実を訴えた。だが結局打ち首とされたのだ。
 城に外敵の進入を許したのは恥となる故、内々に処理されたものの、秘密は漏れるもの。いつの頃からか旗本の謀反と知られる事になる。
 しかし新右衛門は功績を残してた故、跡取りであった慎一郎を除き一家断絶は免れたが、旗本高槻家はお家お取り潰し。
 慎一郎は父を慕っていたかつての部下に預けられ、色々あって役所に勤めるようになった。半年前の事だ。
「もちろん判ってるよ。だからこの仕事を成功させて、いつかはお家再興させるんだ。困難だからこそ挑みがいがあるってものじゃないか」
 どこまでも、能天気な男だ。
「この‥‥‥アホーーー!!!」
 唸る豪腕食い込む鉄拳。
「な、何するんだよ!」
「何するんだよ、じゃない! 本当にそう思ってるなら、どうしてそうまで悠長なのよ!」
「決まってるじゃないか。俺は侍。侍ならどんな事も限られた手段の中で、正々堂々としないといけないじゃないか」
 本気で彼はそう言っている。染み一つない白布のように純粋に。
「正々堂々多いに結構。だけど、時と場合と状況を考えなさいよ!」
「だって」
「だってじゃない!」
 もう我慢できない、と言うばかりに更紗はぶち切れた。
「大体いつもアンタはそうなのよ! あの時もあの時も、卑怯だからとか武士道に反するとか言って引いたじゃない。折角出世のチャンスだったのに、もう少し欲を持ちなさいよ!」
「でも」
「シャラップ! このヘタレ!」
「へたれてるかなぁ‥‥‥?」
 というより覇気がない。
「おじ様もおば様もそうだったわよ。どんな時でもにこにこしてばっかりで、騙されて容疑がかけら‥‥‥あ、その、ごめん」
 それは禁句だった。いくら頭に血が上ったといえ、言ってはいけない事はある。
 怒っただろうか? 更紗は俯いたまま、今度は自分が恐る恐る幼馴染の少年を見上げる。しかし、
「ううん。気にしてないよ」
 慎一郎は何とも無い様に微笑んだ。少し表情が暗い。
「‥‥‥ごめん」
「いいよ。更紗は俺に注意しようとしてくれたんだろ? 自分でも甘いって判ってるから、そんなに気にしないでいいよ」
「うん‥‥‥」
 更紗は着物の端を握ったまま力なく頷いた。さっきまでの威勢のよさとは打って変わって、随分としおらしい。
「ありがとう」
 慎一郎は心からの笑顔を送る。更紗は何の事か判らないと言うばかりに疑問符を浮かべた。
「更紗は俺の為にわざときつい事を言ってくれるんだし、そんな更紗に甘えているってのも判ってるよ。今回の冒険者の依頼料も立て替えてくれてるし、本当に感謝してるよ」
「べ、別にアンタが特別助けたいって訳じゃないわよ。おじ様とおば様には色々お世話になったし、幼馴染として慎一郎が心配――なんだからね」
「それでも嬉しいよ」
 本当にこの男はそういう意味としか思ってないのだろう。鈍すぎて、むかついてくる。
「ああもう! とにかく冒険者ギルドに行くわよ! 冒険者達に取り締まりの手伝いをして貰うんだからね!」
「うん。判ったよ」
 幼馴染の少女が何で怒ってるのか判らないまま、少年は後へ続いた。
 片や旗本のご令嬢。片や現在下っ端侍。
 二人は共に連れ添い冒険者ギルドに向かう。着ている着物を見ればお嬢様と使用人とも見える。

●今回の参加者

 eb5106 柚衛 秋人(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5371 久遠院 桜夜(35歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5421 猪神 乱雪(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb5521 水上 流水(37歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 陽が真上に上ったお昼頃、威勢のいい怒鳴り声と破壊音が組屋敷に轟いた。
「フッ‥‥‥。人の話も聞かずに襲ってくるか。組の程度が知れるな」
 ヤクザ者――ちんぴらの一人を組み伏した天堂蒼紫(eb5401)は辺りを見回した。自身を取り囲むちんぴら達の数は多いが、蒼紫は回避術に優れ今は身軽だ。技を駆使すれば何とか出来なくともない。
「こんな真昼間からカチコミたぁ上等だコラァ!」
「どこの組の者だテメェ!」
 次々に罵声を上げられるが蒼紫は涼しい顔。武器も何も携帯していないのに随分と肝が据わっている。
「俺は喧嘩屋の天堂寺蒼紫。どうだ。俺の腕を買わないか?」
 偽名を名乗る蒼紫は比べて立派なナリをしている男に言った。恐らく兄貴分かその辺りの人間だろう。
「そこのチンピラどもよりは役に立つと思うが?」
 蒼紫は自分を睨みつけるちんぴら達を歯牙にもかけようとせず言い切った。
「チョーシこいてんじゃねぇぞテメェ!」
「死に晒せやぁッ!」
 ぶち切れて襲い掛かるちんぴら達。
「フッ‥‥‥」
 発動する疾走の術。
 匕首だのドスだのが振り下ろされる瞬間に蒼紫は駆け抜けた。駆け抜け様に一人、スタンアタックで気絶した。
「どうだ? それとも、お前自身で確かめてみるか?」
 不敵に笑う蒼紫。兄貴の両目が刃物のように光る。
「‥‥‥腕もいい上に度胸もいい。付いて来い。組長に合わせてやる」
 組の潜入には成功。次の段階に移る蒼紫だった。



「馳川家の姫君というのは、なんというか‥‥‥難儀なのだな」
 街を練り歩く姫君とその従者達‥‥‥じゃなくて依頼人とその冒険者一向。柚衛秋人(eb5106)は先頭を歩く馳川更紗と高槻慎一郎を見て呟いた。
「姉妹揃って難しいお相手を。それにしても夏芽殿と中川殿は相変わらずのラブラブっぷりであろうか?」
 昔関わっただけに気になる事だ。とはいえ、今はその中川某も姓は馳川に変わってるのだが。
「お二人さん、依頼人の知り合いか何かですか?」
 普通に聞けば、久遠院桜夜(eb5371)と秋人のやり取りはそう聞こえなくともない。水上流水(eb5521)は小首をかしげた。
「いや、そういう訳でもない」
 正確には依頼人の義妹と顔見知り‥‥‥程度の間柄だ。
「まあそれはそれだ。まずは座居組の今の評判や状況を調べてみよう」
「それならどこか適当な茶店にでも寄りましょう。人間一息付いている時は誰でも油断しますし、色々話してくれそうじゃないですか」
 秋人に流水が促した。
 どの道情報収集は必要だ。茶店とかなら職業問わずに色々な人が腰を落ち着けにくるし、存外期待出来るかもしれない。
「だからじっとしてなさいって言ってるでしょ!」
「べ、別にいいって!」
「よくない!」
 今後の算段をしている三人を他所に、依頼人は轟き叫んだ。通りすがりも周りの通行人も一瞬視線を向けたものの、ある者は嫌そうな顔をしたり妬んだ顔をしたり、微笑ましい表情をしていた。
「着物が着崩れてるぐらい別にいいって。これくらいならどうもないよ」
「よくないの。アンタにはもっとしっかりしてもらないと、ボクが困るんだから」
「な、何で困るんだよ」
 着物の乱れを直してくれる更紗。密着するぐらいに近く、手入れの行き届いている綺麗な金髪が鼻をくすぐる。そして着物越しに伝わったり離れたりする柔らかくて暖かいシンボウタマラン肌の感触に、女の子特有の甘い香が‥‥‥
「別にどうって事ないわよ」
 炎の如く超赤面。頭をほぼ慎一郎に埋めているのでよく判らないが、まともなら声がうわずっているのが判る。
 最後のシメとばかりに、いや、恥ずかしいの誤魔化すばかりに慎一郎の胸を力いっぱいスマッシュを打ち込まんばかりに叩き付けた。
「アンタがだらしないと、幼馴染のボクまで恥ずかしいの。判る!?」
「判らないよ!」
 ‥‥‥まあ、どこから見てもいちゃついているようにしか見えないバカップルぶりである。
「これがツンデレか。江戸ツンデレというやつなのか?」
 どこぞの執事と似た様な台詞を吐きながら短槍の柄を力強く握りなおす秋人。
 まるで世の桜桃の八割が殺意を抱くような苺の展開をしてくれているお二人さん。
「いっそこの場で殺っちまおうかと本気で思った。



「そんな事より聞いてくれ!あれは」
「黙れアホウ!」
 いつも明るいというか無駄に全力投球していそうな加賀美祐基(eb5402)。何故だろう。頭から色々な汁が溢れてそれと一緒に常識だのなんだのが共に流れていそうな男だ。
「話しがずれている。少しは落ち着け!」
 これも夢想流の技の冴えか。空を切る疾風の如き拳。
 猪神乱雪(eb5421)は濁流のようにあらゆる全てを無視して喋り捲る祐基を取り合えず殴って黙らせた。クリーンヒットでくの字に折れて悶絶中。
「人の話を聞かないやつは殴るぞ」
「もう殴ってるぞ」
 桜夜を華麗にシカトする。乱雪は暴れて乱れた着物を整え一息付いた。
「取り合えず、用心棒は先ほど述べた通りの格好で一目見れば判るらしい」
「流派や得意な技は?」
「知らないな。特別に何かの技に優れているまでは判らなかったが」
 まあ、敵の様相だけでも知れたのは大きな収穫だ。取り敢えず殴ってから考えるらしく、賭博場に出入りしているちんぴらを力づくで吐かせただけにその情報は信用に値するだろう。逆に裏目に出る事もあるが、その時はその時だ。
「それでキミ達はどうだったんだ?」
「道場の評判を聞いたり周辺を調べたり‥‥‥天堂さんから聞いた所によると、裏口にも見張りがいるみたいだ」
 玉露を啜る流水。茶店とは言っても金持ちとか上級階級向けの店らしく、出されるものはお茶を初め全てのものが超高級品。ただのいち忍者には縁のない場所で今飲んでいるお茶もおいしいのか判らない。依頼人の奢りとの事で好きなもの食べているのだが、注文した分だけで何日ほどの食費になるか。
 乱雪はそうか、と言おうとして、
「そうか、だけどそんな事より聞いてくれ!」
 何かのスイッチが入ったみたいに祐基が復活した。
「そう、あれは俺と花屋のおっちゃんの、命を賭けた一対一の勝負だった」
 人の話を聞かないのかこの男。
「朝顔の種の値切りの為、次々と繰り広げられる言葉の応酬。だが俺も負ける訳にはいかない。朝顔の種は下剤の効果もあるしそれを粉末にして酒に混ぜてちんぴら達に使えば悶絶間違いなし! そして」
「黙れ!」
 唸る乱雪の鉄拳。また祐基は気絶した。



 
 乱雪が鬼のように祐基を殴り倒している時、刈萱菫(eb5761)は湯屋で働いていた。依頼があるのに不謹慎な気もしないでもないが、侍やナイトと違い定期収入のない身、稼げる時に稼がないと食べていけないのだ。
「そうなのですか? 怖い話ですねぇ」
 仕事の傍ら、菫は客に件の道場について聞き出していた。客は風呂上りの褌一丁。うぶな女の子なら頬を染める所だが菫にそんな時代は既に終わっている。仕事の関係上普通に見慣れているのだ。
「おうよ。こないだダチがその道場に賭博に行ったんだがよ、身包み剥がされてその上無理やり借金させられたとよ。用心棒がおっかねえ顔してたって言うし‥‥‥」
 とまあ、先ほどからこんな調子で客達からべらべらと話を聞いている。普通なら口止めされるような、そんなヤバイ話でもだ。
「へぇ‥‥‥。なるほど‥‥‥」
 ほくそ笑む菫。湯屋という場所は案外情報収集には向いているかもしれない。偉い学者さん曰く、人間誰も心に縄張りを持っているらしい。衣服も似た効果があり、一枚一枚脱ぐ度に警戒心は薄れていくものだそうだ。そんな中でほぼ全裸の湯屋。付け入る隙はいくらでもありそうだ。



「御用改めでござるー!」
 ある日の昼下がり、そんな素っ頓狂な声が響いた。高槻慎一郎と冒険者による捕り物部隊だ。
『ガサ入れか!?』
『ヤバイもん隠せ! 体調が悪い? んな事後にしろ!』
『用心棒の先生、お願いします!』
 そんなやり取りが聞こえる中に祐基が先陣を切った。
「そこまでだ悪党共!神妙にお縄を頂戴しろ!」
 短刀構えて突っ込んでくる一人を殴り倒した。何人か調子の悪そうなちんぴらがいるが、腹を下しているのだろうか。
「覚えておくんだな。お金はお天道様の下で汗水垂らして稼ぐものだ。お天道様に隠れて、楽をしようとしたり、人を騙して儲けようとする奴はろくな末路が待っていない」
 優れた回避術で蒼紫はちんぴら達を奔走し、その隙を流水が付く。用心棒を見つけた乱雪が立ちはだかった。
「見つけたよ。キミ、用心棒の先生だろ? 僕の太刀筋が見切れるかな?」
 ブラインドアタックが鞘走る。幾合か打ち合うが、この混乱の中まともに刀を振るえない。隙を突かれたが秋人の短槍が打ち払った。
「悪いな。手を出させてもらう。文句はあとで存分に聞こう」
「高く付くぞ」
 息の合った二人の連携。用心棒は三合とも持たないまま打ち果てた。



 裏口。待ち構えていた桜夜と菫によってちんぴら達は多くが制圧されかけていた。
 菫は薙鎌の長さ故に踏み込めなかったが、その長さを活かし敗走するちんぴら達を待ち構え迎撃、これを撃破していた。長い武器も使い用である。
「オーラホールドッ!」
 最後の一人、桜夜は兄貴分の動きを鈍らせる。薙鎌を振り上げて大上段。菫は渾身の力を込め一気に振り下ろした。





 証拠の品々と共に叛座居組を引き渡してきた更紗と慎一郎は帰宅の路に付いていた。その角を曲がれば後はそれぞれの家に帰宅。だけど帰り際、冒険者達に色々言われたものだ。『はっきりと言わないと判らない』と。湯屋勤めの冒険者にもそう言われた。
 この男は鈍い。嫌と言うほど判っている。なら――
「あ、あのね。慎一郎」
 幼馴染の少年を呼び止める。
 少年はまっすぐ自分を見つめている。慎一郎はボクの事どう思っているんだろう。
「あのね。ボク、ずっと前から慎一郎の事が――」
 だから、少女は自分から一歩踏み込む事にした。
 空は茜色に染まっている。