春画絵師ジャイアント ☆と屑大作戦!

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月19日〜08月24日

リプレイ公開日:2006年08月29日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





 季節亭という甘味処がある。
 店主であり、第一の看板娘である美女と名高いお春が経営するその店は、彼女の趣味なのかジャパン各都市で代表とされるお菓子やデザートの他、月道の先にある諸外国のデザートなんかも食べる事が出来る、ちょっとした店だ。国内の甘物ならいざしらず、いち民間人が外国のお菓子の獲得を確実のものにしているのは少々気になる所だが、食べられる物は食べられるんだし、折角おいしいものを食べられるんだから野暮な突っ込みは必要ないだろう。
 とにもかくにも、すらっとした長身の、出ている所はしっかりと出て引っ込む所は引っ込む。そんな大人の魅力大爆裂な女性が経営する店は、同性ですら虜にしてしまう程の魅力を持つ、彼女の経営手腕? によってそれなりの収益を稼ぎ出している。
 開店前の早い時刻。お夏という女の子が店に入り口辺りを掃除していた。
 姉であるお春のようにナイスなばでーでもなく、妹のお秋のようにちみっこくて女の子な所が中世半端でそれが逆に良いでもなくて、何の特色もない普通・THA・普通。見てくれはいいが特徴がないのが特徴な女の子だ。本人はえらくそれを気にしているらしい。
 そんな彼女を見つめる影がある。
 遥か遠くの屋根の上、鷹の目を持っているかのようにピンポイントで見つめる二つの影は、どこかで見た事のあるジャイアントの双子だ。
「弟よ、ついに報復の時が来たな‥‥‥」
 一人は傍らにいる、ほぼ同じ顔と背格好の男に言った。
「ああ。この約一ヶ月の修行俺らはよく耐えた」
 弟は頷き、鍛え上げたらしい肉体を誇示するかの如くパンプアップさせた。というかたかが一ヶ月の修行でそうそう強くなれる訳もないが、まあ、とりあえずそんな事はどうでもいい。
「逃げる訳にはいかなかった‥‥‥」
 弟は拳を握り締め、乗り越えてきた? 幾たびの困難を振り返る。
「何故なら、俺たち、いや、男は本能によって生きているからだ!」
 よく判らないが、まあ、男とはそういうものだ。
 二人は疾走する。
 屋根を越え、塀を越え、ただ一直線に駆け抜ける。
 目指す先は季節亭。
 求めるものがそこにある。
 一段と高い塀を飛び越える。季節亭はもう目と鼻の先だ。
「再び猥談をかわす為‥‥‥」
「季節亭よ! 俺たちは帰ってきたーーーッ!!!」
 ある意味男らしい。




「だ! か! ら! もう一度冒険者ギルドに依頼しようって何度言ったら判るのよ!」
「えー。でもね? でもね? もうギルドの方にはそういう方向で依頼しちゃったから変更なんて出来ないよー」
「やっかましい! それならキャンセルして新しく依頼しなおせばいいじゃない。わたしはダンコ反対だからね!」
「そんな事言わないでよお夏ちゃん。あの双子絵師のお客さんがまた来るようになって、お客さんが増えたんだから」
「それはそうだけど‥‥‥だからって勝負なんてする気はないからね! あんな変態、問答無用で立ち入り禁止よ!」
「でもー」
「でももかかしもない!」
 お夏は、目算十は離れているであろう姉をねめつけた。
 そもそも発端は、『あの』双子絵師が再び季節亭に訪れた事にある。
 かつて冒険者達の手によって姿を消した春画絵師の双子は、山篭りか何かをしていたらしく、パワーアップして帰ってきた。そして店内で何をしたのかと言うと、まあ、また猥談である。どんな内容かというとギリギリだったりギリギリだったり露骨だったりと、修行したのはどうやらそっちの方らしい。
 おかげ様で女性客はさっぱり姿を消し、それ以上に男客が増えてしまった。売り上げ的にはむしろプラスでいい傾向なのだが、元々女性客が多く訪れていた店で従業員も全て女性。不愉快極まりない。
「だいたい何よ。今度馳川様のお屋敷に届ける干し柿とくず料理の材料? 競争してそれを届けた方の意見を優先するなんて。そんな事よりお店の雰囲気改善する方が大事と思わないの?」
 今の環境を考えれば最悪である。
「だってお金が必要なんだもん‥‥‥」
 お春は指先をもじもじ絡めさせ、俯き加減に見上げた。
「またお金って! 姉さんそんなにお金が大事なの? 最低よ!」
 お夏の言う事はおおむね正しい。いくら商売の為だろうと、元からの顧客を断ち切ってまで行う商売なんて長続きした試しはあんまりない。お春も何か言い返すかと思ったは‥‥‥
「あうー。お夏ちゃんがいじめるー」
 思いっきり棒読みで嘘泣いた。よよよとしなを作って芸の細かい。
「だって、だって、お金がいるんだもん。お店の維持費も必要だし、お秋ちゃんとお冬ちゃんの教育費だって馬鹿にならないんだよ? 少しでもお金を稼がないといけないし、もしかしてお夏ちゃんは私に色町で働けっていうの? お夏ちゃんのきちくー」
 こうも一気に言い切るとあまりに嘘っぽすぎる。しかし妹二人は寺子屋の他に金のかかる私塾も通わせている以上、確かに金が必要だ。稼げる時に稼がないといけないだろう。だからって‥‥‥
「他にやりようがあるじゃない。何もこんな商売の仕方はちょっと‥‥‥」
 お夏は若輩とはいえ、商売人としての意識はある。さすがに今の状況はいけないと思う。
「そこは大丈夫よ。おねえちゃん、色んなところにコネがあるし、情報操作得意なの。いざ何かあったら揉み消してあげる」
 しれっと言い切った。姉の昔の上司のお幸といい、店を持つ前は何の仕事をしていたのだろう。
「とりあえず頑張ってね。注文を受けた干し柿一樽とくず料理の材料一式。荷車の伝泥毘卯夢号を修理屋の羅日餡蝋頭に取りに行くからそれを引っ張って馳川様のお屋敷にね。冒険者とは好きに相談していいから」
「荷車を双子兄弟に奪われ届けられる前に、防衛しつつ届けるなんて面倒なんだけど‥‥‥」
 お春にしてみれば、どっちにしろ注文を受けた品を届ける事が出来るから問題ない。
 ノリ気のない妹に発破をかける。
「荷車片手に江戸の街を大疾走! ヘアピンカーブで風も震えてゴーゴーゴーよ! お夏ちゃんかっこいい♪」
「いや、誰もするなんて‥‥‥」
「――そう、名付けて、☆と屑大作戦!」
「ダジャレ‥‥‥って、スルーかよ!?」

●今回の参加者

 ea2139 ルナ・フィリース(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3785 ゴールド・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb2545 飛 麗華(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5106 柚衛 秋人(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

イノンノ(eb5092)/ 黄桜 喜八(eb5347

●リプレイ本文

――その日、江戸の治安を守る筈の役人達は、騒動が終った後に動き出したらしい――



「変態双子ぉぉぉぉ!!!」
 飛麗華(eb2545)の拳が光って唸る。ゴールド・ストーム(ea3785)が仕掛けたという、狩猟用にしては相当エグい罠を一撃粉砕鎧袖一触でぶち破って来た変態双子に、麗華は殴りかかる。両の手に握るはナックル。固める手はもはや金属の塊と化し、喰らえば大の男ですら撲殺出来そうだ。しかし、
「甘いぞ冒険者!」
 唸る筋肉光る褌。既に脚須都男不して褌一丁になった双子は、まるで通常の三倍のような速さで麗華の懐に入り投げ返した。
 麗華は何とか着地して、双子を睨み付けた。武道家である自分がこんな変態に投げ返された‥‥‥! 武道家として、いかにも馬鹿っぽい輩に投げ返されたのが腹が立つ!
「満足でしょうね! でも、それは冒険者‥‥‥いえ、いち女として屈辱なんです!」
「ふん! 随分と機嫌が悪いようだな‥‥‥さては『あの日』か!?」
「死ね!」
 麗華の拳が空を切る。
「だがな、ハァハァな眼で見られる女に俺達は倒せぬ!」
「へ、減らず口を!」
 というか引いた。
「なぜなら、男達はエロによって起っているからだ!」
「どこを立たせる気よ!」
 必殺の蹴りがもっこり部分を狙い打つ。何もかもがダメすぎる。男ってこんな奴等ばかりだろうか?
「今から脱がされる女には判るまい!」
「ちょ、いやぁ!」
 双子の四つの手が鬼のような勢いで迫る。煩悩は人にリミッターを外させるのだろうか。双子が繰り出す両の手は、あまりに早すぎて残像が見える。まるで千手観音のようだ。
「ルナさん! 一気に仕留めます。動きを抑えて!」
「そんな事言われましても!」
 ルナ・フィリース(ea2139)は逡巡する。双子の強制脚須都男不――というか剥ぎ取り――から逃れる麗華は、武闘着に手をかけようとする双子から身を守る為防戦一方。援護しなければ双子の欲望の餌食になりかねない。恐らく過去の双子からして、たっぷりねっぷり嘗め回すような眼で見られるぐらいだろうけど、女として屈辱な事この上ない。
「後は何とかしますから!」
「どうなっても知りませんよ! ソードボンバー!」
 衝撃波が辺りの塀や桶なんかをなぎ倒す。
「一人目、成敗です! 変態撲滅アタック!」
 十二形意拳・酉の奥義鳥爪撃。隙を突いて背後に回り込み、ソードボンバーと挟撃を狙うが‥‥‥
「ふっ。意気込みはいい‥‥‥」
「だが、俺達を敵に回すにはまだ未熟!」
 双子は大きく横に飛び退いた。
 冷や汗が流れた。
「麗華さん。貴女の名前は忘れません!」
 びしっと敬礼。唸って迫る衝撃波。
「ちょー! おまー!」
 ああ、そう言えば最近、七つ星の隣にもう一つ星を見たな‥‥‥なんて考えて、真昼の空にきらりと星が輝いた。




「体格小さいからって舐めないで下さいやし!」
 気合一発、荷車伝泥毘卯夢号がヘアピンカーブを曲がりきる。以心伝助(ea4744)とこれ以上の防衛は無理と近道を縫って引き上げきたルナが曲がり角の所で壁を蹴ってというかその衝撃でぶち抜き粉砕してドリフトをかまして、右折時はゴールドが担当したりと、そんなこんなで江戸の街を走ってる‥‥‥というか破壊していた。こんなんで今の所役人がやって来る気配ないなんて、お春はどういう裏技をやっているのだろう。
 布を被せロープで固定した伝泥毘卯夢号。その膨らみは、明らかに樽とくず料理の材料だけではそうならないほど膨らんでいる。まるで、もう一台、小さいにも荷車があるような‥‥‥
「すいやせーん! 伝泥毘卯夢号は賽鎖栗鼠号みたいに奪われるわけにはいきやせんのでー!」
 何かの店の軒先を超粉砕。いくら揉み消してくれるからって、やりたい放題もいい所だ。世の中馬鹿になる所はなったもの勝ちだ。冒険者達もこんなアホな依頼やっているから妙にハイになっている。
「けひゃひゃひゃ。あの双子は本当にジャイアントかね? 前日、天堂君に頼んで痺れ薬とか試作中の薬食事に仕込ませたんだがね〜。どうもない所かパワーアップしている様なのは気のせいかね?」
「あれはドクターの仕業なのか!?」
 双子の愛と友情のツープラトン。柚衛秋人(eb5106)を迎え撃つ。ゴールドはドクターと呼べというトマス・ウェスト(ea8714)に突っ込んだ。
「けひゃひゃひゃ。我が輩が目指すのは死者蘇生。色々と試したい薬があるのだよ〜」
 荷車のてっ辺に座るトマスは声高らかに笑った。ナントカと馬鹿は紙一重らしいし、マッド・ドクターと呼ばれるだけ余計な事しかやっていない。
「ここまで来ると罠も余り残っていないな‥‥‥。こうなれば仕方ない。俺も妨害に回るか」
 右折時の強引な方向転換をトマスに任せ、ゴールドも妨害に向かった。
 しかしその直後、真昼の空にもう一つ星が輝いた。何となく伝助は、「ゴールドさん、七つ星の隣の星を見たって言ってたなぁ」何て呟いた。どこかで仕入れた情報曰く、その星を見ると死期が近いらしい。
 伝助は胸中で冥福を祈った。死んでないけど。




「そういう時は身を隠せ!」
 天堂蒼紫(eb5401)の疾走の術。秋人の隙を突いてぶちかまそうとした双子を撹乱した。秋人は間合いを取り態勢を整えた。天使の名を冠し、魔を討つ破魔の武器。イシューリエルの槍デビルスレイヤーを突きの構えに持ち直した。
「助かった。やはり開けている場所とはいえ、街中で槍は向いてないな‥‥‥」
 こういう障害物のある場所では、長柄の武器より脇差やナイフなんかの方が向いているものだ。
「気にするな。その武器は魔の者に効果があるものだろう。ならば、あの双子に対しそれほど相応しい武器はない」
 間違っていない気がする。
 むっちり唸る超筋肉。さんさんと降り注ぐ太陽の光は流れる汗をきらりと反射する。異様なまでに爽やかで歯も白く輝いて見ている方がむかついてくる。
「変態双子! 俺は嬉しいぜ!」
 こっちも妙なテンションというか常時そんな感じのような気のする加賀美祐基(eb5402)が、ずびしと双子を指差した。
「この間の依頼からまだたったの一ヶ月弱だったのに、もう舞戻ってくるなんて、俺の話を聞きたくて戻ってきたんだろう!」
 何だこの勘違い。
「なら、延々と聞かせてやるよ! そう、あれはまさしく」
「やっかましい! お前と話す舌は持たないって言った筈だぞ!」
「そうか。だけどそんな事より聞いてくれ!」
「聞けよ人の話!」
 延々とこれの繰り返し。
「フッ‥‥‥。相変わらず面白い男だ」
 どこをどう見たらそう見えるのだろう。蒼紫は微笑を浮かべた。秋人は双子の死角に回り込む。
「卑怯くさいが、女性の輝きの一部しか解らんとは無粋な奴らにはな!」
 狙いすまし石突きを打ちかかる。しかし、
「当たらなければどうという事はない〜」
「何!? 江戸の春画絵師はバケモノか!?」
 死角を狙った筈だぞ! 舌打ちする秋人。「ならば‥‥‥」と、蒼紫が前もって手に入れていた紙の束を取り出した。
「必殺! 目符異留度!」
 紙吹雪く男色画の嵐。祐基と言い争っていた双子はそれに目が移り、
「ノォォォォォゥッ!」
「眼が、眼が死んでしまう!」
 瞬間悶え苦しむ春画絵師。見た目マッシブで一部の好事家には「アニキ〜、ハァハァ」なんて妄想されそうな逞しさを持つ二人だが、さすがにこの双子にそんな趣味はない。
「加賀美、今だ!」
「任せろ!」
 何故か屋根上から返事が聞こえた。しかも隣には荷車が置いてある。
「な、早っ! いつの間に‥‥‥というかおまえ、その荷車どこに置いていた!」
「努力と根性だ!」
 答えになってない。
「脚須都男不できるのはおまえ達だけじゃないんだぜ! いくぜ、脚須都男不!」
 一気に脱ぎ捨てる。真っ赤に輝く赤褌。
「喰らえ! 慧玖珠天弩荷車落し!」
 荷車を蹴り落とす。
 目符異留度で眼を潰され出遅れた双子。このままでは回避も間に合わない。なら――
「俺達にはまだ――切り札がある!」
「いくぜ! 灰羽亜脚須都男不!」
 褌すら脱ぎ捨てる!
 双子は一気に駆け抜け祐基を殴り倒した。




「阻止限界点を突破された!?」
 伝助は落ちてきた麗華を回収しつつ後ろを見た。何か悪い冗談と思いたいけど、全裸の双子が鬼のような勢いで迫ってきた。
「大丈夫です。まだ‥‥‥手はこちらにもあります! ドクター!」
 ルナはロープの一部を切り捨てる。布を捨てて現れたのは、樽の上に載せたもう一台の小型の荷車――
「コ・ア・ギュレイトォ〜!」
「荷車にはこういう使い方もあるんです!」
 動きを止められた双子に大特攻。その後ルナの黄色い悲鳴が聞こえたような気がしたが、この際どうでもいい。
 そして何とか馳川家まで運び込めた。





 馳川の長女と面識のある面々は軽く談笑した後、冒険者は居間で待たされる事になった。何故か調理を始めている蒼紫。食べていく事になったらしい。
 暇だったので色々話していると、お夏の好きな人は誰かって流れになった。お夏は前もって到着していてそれなりに暇を潰していたとはいえ、そんな話題を振られるとは思わなかった。あまりにもしつこく聞かれたのでつい答えてしまい‥‥‥
「べ、別に好きな人って訳じゃないんですよ。唯、気になるっていうか何ていうか」
「で、誰なんですか?」
 にこにこしながらルナは突っ込んだ。人の恋愛話程面白い事はない。
「高槻さん、っていうお侍さんです。見た目同い年くらいで世間話する程度なんですけど‥‥‥」
 秋人が飲んでいた茶を吹き出した。
「高槻‥‥‥。もしやその御仁、高槻慎一郎という男か?」
「は、はい! そうです! 知ってるんですか!?」
 悪い予感が当たった。秋人はため息を付いた。
「私、高槻さんの事知りたいんです! あわよくばいい仲になったりなんて狙ってるんですけど!」
 また面倒になりそうだ‥‥‥と、馳川の長女が去っていた方へ向きながら、秋人は適当に知っている程度の事を答えた。