その扉の先は夢の国?

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月27日〜09月01日

リプレイ公開日:2006年09月04日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





「今日も赤字よーーー!!!」
 昼も過ぎておやつ時。店のど真ん中でお牧は大黒帖を机の上に叩き付けた。
 まだ閉店には時間があるというのに、店内には彼女と弟のみ。例え今から客が入ったとしても、仕込みやら作った甘物とか諸々の材料費考えるとその分も取り返せない。こんな普通ならピークタイムだろうに客一人入ってこないのも問題があるが、それよりもこの『柳亭』は、世間一般でいう普通の店より商品の全ての値段が微妙に高い。味こそ悪くはないが『この程度』なら別に高い金払う必要もないし、そこら辺の店で十分だ――つまり、柳亭はそういう理由で経営危機に陥っていた。
 今は亡き両親は、値段に見合った、いや、それ以上に美味の甘物を出せて看板商品も開店してすぐ売り切れていたというのに自分はこのていたらくだ。情けない事この上ない。
「元気だそうよおねえちゃん。きっと、明日はお客さんが来てくれるって」
 見た目六、七歳ぐらいだろうか。大きな瞳のくりくりボイス。どっちかというと、女の子みたいな印象を受ける、男の子が狂わんばかりにわめきちらす姉に言った。
「口先だけの慰めはノーセンキュー! 何か喋るんなら、イコールそれ、金ゲットな事でも喋んなさい!」
 六歳児には微妙に判りづらい。
「つまり、どういう事?」
「この愚弟! これ以上閑古鳥がエンドレスでコーラスしまくったら、ウチの店潰れるの! お父さんとお母さんが残した店を手放したくなんてないし、最悪わたし色町行きなんてダンコ断る!」
 拳を握り締め、机を殴りつける。
「アウチ!」
 つくづく頭がおめでたい姉だ‥‥‥。確か、この前翻訳された外国の娯楽小説を読んでた筈だ。影響されやすいのはどうかと思う。
「じゃ、じゃあさ。冒険者さんに依頼するのはどうかな?」
「ハァ? Adventurer?」
 やけに発音が達者だ。
「うん。厄介事とかさ、冒険者さんに頼むと万事良し、って聞くから。ほら、お冬ちゃんの所の季節亭だって、冒険者さんに厄介事解決してもらったじゃない」
 果たしてアレは厄介事だったのだろうか? そんな突っ込みがどこからか帰ってきそうだ。
「季節亭‥‥‥。そう季節亭‥‥‥」
「お、おねえちゃん?」
「――そう! 全ての原因は季節亭よ!」
 迷いを吹っ切るとは多分こんな感じだと思う。
「ここん所、季節亭がやけに人気があるって聞くわ! きっとアレよ! ウチの店を潰そうと色々裏工作してるのよ! やられたらやり返すのがこれ当然。さあ、冒険者ギルドへ暗殺依頼にレッツゴー!」
「ちょっと待ってよ!」
 責任転嫁って素晴らしい。飛び出そうとする姉をとっ捕まえる。
「離しなさい! この店の閑古鳥の原因がついに判ったのよ。なら、それをどうにかするのは当然じゃない。今こそ正義の鉄槌を!」
「それはそれで判るんだけど!」
「なら離しなさい!」
「嫌だよ!」
 しばらくそれの繰り返し。今の状況で逆恨み的な事してしまえば、今後店の返り咲きもままならなくなる。しかし、弟君は「お冬ちゃんに嫌われる‥‥‥!」なんて実にオトコノコらしい理由で食い止めているだけだったりする。
 恋する乙女(見た目は)の力は凄いもの。自分の倍以上の歳の姉の侵攻を見事に食い止めた。
「だったら‥‥‥だったらどうするのよ! マジでやばいのよ!?」
 息を切らすお牧。全力で突撃していたのに止められて、キレかけている反面、「この子も成長してるんだね‥‥‥」なんて場違いにも思った。
「判ってるよ。お店が危ない状態だって判ってる」
 姉の主張も、いきすぎとはいえ判らないでもない。だけど、他に方法はあるんじゃないだろうか?そう、例えば‥‥‥
「リニューアル、なんてのはどうかな?」
 弟も割と感化されている。普通にジャパン語で言えばいいものを。
「‥‥‥そうね。普通すぎてつまらないけど、考えてもなかったわ」
「考えようよ。一応経営者じゃない‥‥‥」
 一つの事に集中するのは姉のいい所だと思う。だけど、経営者である以上、考えうるあらゆる手段を考えるのは当然だ。ウチの姉は、どうしてこうもいきあたりばったりな――とにかく気苦労の絶えない毎日だ。
「それじゃあリニューアルするとしてさ、一体全体、どういう方向で持っていく気? まさか考えてない訳ないよね?」
「そ、それは勿論‥‥‥」
 考えていない。そもそも姉の暴走を止める為に言っただけだし、経営者である以上、店の事は全て姉に責任があるなんて、割と薄情だったりする弟君。そんな訳で今回も結構軽い気持ちだったが裏目に出たようだ。
「どうなのよ。自分で話題振った以上、責任持って最後まで言いなさい」
「そ、それは――」
 逡巡する。
 どう言うべきか。まさか何も考えていないっていう訳にもいかないし、とりあえず場を繕うだけでもしておかないと。そういえば、こないだ見かけた双子のジャイアントがこんな事言っていた筈‥‥‥
「――メイド、さん? はどうかな?」
 おずおずと自身なさげに呟いた。疑問系が何気に気にかかる。
「メイド? 確か西洋の女給だったかしら」
「う、うん。それそれ」
「ふぅん‥‥‥。あんたってそういうのが好みなの? 別に他人の趣味にケチ付ける気はないけどさ」
「え? え? 僕、変な事言ったの?」
「何今更純情ぶってるの。育て方間違ったかな‥‥‥」
 どこか遠くを見つめるお牧。というか、お牧自身もメイドを変な意味で捉えてないか?
「まあ、ともかく。あんたの着眼点はいいと思うわ。男ってのは権力を持ちたがるし、擬似的にご主人さま気分を味わえるってのを売り文句にすれば客が来るかもしれない」
 頭の中で算段を整える。
「うん‥‥‥。やってみる価値はあるかもね。バイトの女の子を募って、冒険者を呼んで徹底的に仕込んでもらう。こういうのは詳しそうだし、冒険者本人にメイドやらせるのもいいか」
 メイド服はどっかで調達するとして、知り合いの大工の玄さんに安く改築を頼むとして、いや、それも冒険者に頼むのもいいかもしれない‥‥‥。メイド服だって、各々カスタマイズすれば差別化出来るし、それを狙って顧客を得られるかもしれない。
 全ては未だ机上の空論とはいえ、やってみないと判らない。どうせ遅かれ早かれ潰れる。
「ねえ、おねえちゃん。やるにしても、お金はどうするの?」
「ん。借金するから大丈夫よ」
「よくないよ!」
 最悪のパターンだ。これで成功しなかったら本気で姉は色町行き決定だ。
「‥‥‥よし! これより柳亭のメイドさんのお店‥‥‥そうね、メイド喫茶にリシューアルオープンする作戦を始めるわよ!」
 声高らかに叫ぶ。
「名付けて、メイドさん大さ‥‥‥」
「ストップ! それ以上は違う意味で危険だよ!」

●今回の参加者

 ea1605 フェネック・ローキドール(28歳・♀・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea5011 天藤 月乃(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 eb0084 柳 花蓮(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb2755 羅刹王 修羅(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3024 鳳来 涼香(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb4902 ネム・シルファ(27歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

湯田 鎖雷(ea0109)/ 沖鷹 又三郎(ea5927)/ ラーフ・レムレス(eb0371

●リプレイ本文

「で、メイドって何?」
 改装中の柳亭。忍者の天藤月乃(ea5011)は依頼人捕まえて聞いてみた。
「私も知りたいです。つまり地獄行きになるような気分にさせればいいのでしょうか? 冥途喫茶だけに」
 だとしたら、私のスクロールの数々の出番ですね、と柳花蓮(eb0084)は怖い台詞を微笑みながら言い切った。何をする気だこの女。鍛えぬいた精霊碑文学の技の冴え。きっと阿鼻叫喚の地獄絵図になるに違いない。
「違うわよジャパン人」
 突っ込んだのはセピア・オーレリィ(eb3797)。適当に甘物を食べつつ、依頼人の弟を弄び‥‥‥じゃなくてからかって遊んでいた。
「か、勘弁してくださいセピアおねーさん!」
「あら? ボクちゃんはこういうの嫌い?」
「べ、別に嫌いなんかじゃ‥‥‥」
 お子さまって羨ましい。
「赤くなってもう、とっても可愛いわ。あなたみたいな子、大好きよ?」
 轟き唸る超笑顔。無垢な坊やには一撃悩殺でございます。
「いや、セピア。あなたがショタなのは判ったから、早く教えてくれない?」
 ため息を付きながら‥‥‥ぼうっと月乃は少年を見つめた。小さくて女の子みたいで、大きな瞳のくりくりヴォイス。こういう子は関係なく可愛いと思うものだ。
「とどのつまり欧州の使用人よ。ジャパンでも有名なのは驚いたけど、何だか認識が変な気がしないでもないわね」
 否定はしないのか。
 メイドについて色々と細かい所はあるが、それ以上の説明はしようがない。所謂女中ってやつか、と月乃が相槌を打った。
「なんか神経を使いそうで嫌だけど、看板娘になるためにがんばるか」
 実は憧れている、そんな忍者娘がいそいそと店を出て行った。






「なぁ姉上、この服似合ってるかのぅ?」
 調達してきたメイド服を着て、恥ずかしそうに羅刹王修羅(eb2755)は俯いた。頭にフリルの付いたカチューシャ。服は濃紺のワンピースにこれまたフリルの付いたエプロンドレス。スカートで下半身がスースーして落ち着かないのだろう。修羅は見た目の雄雄しさから想像出来ない『女の子』な仕草でおどおどしている。恰好もあいまってこのギャップが逆に可愛い。
 周りには珍しい異国の服を着れて嬉しいのか、バイトの女の子達がきゃっきゃと騒いでいる。「それがまにあ心というものでござる☆」と異様なまでに爽やかな笑顔で沖鷹又三郎に言い含められた花蓮は、どこで調達したのか知らないが、ネコミミヘアバンドとわざわざ改造したのだろう。又三郎製の巫女服型のメイド服を着用して、ネコミミ巫女メイドなんて冗談みたいな恰好をしている。俗世を断っている尼さんだからってやりたい放題だ。
 まあ、それはともかく、目の前にはオトコゴコロを捕まえて離さない、メイド服に身を包んだ美少女と美女達‥‥‥サポートにやってきた男共は涙流して拳を握り締めていた。
 感無量。いっそこのまま死んでもいい――大げさだ。
 修羅の姉貴分、鳳来涼香(eb3024)は周りに目もくれず修羅の前に立ち、くいっと顎を指で上げた。修羅の頬が赤く染まった。
「ああ。修羅、あんたが一番似合ってるよ」
「姉上‥‥‥」
 見詰め合う二人。涼香は執事に男装し口説き文句を囁く。どこのホストだ。





 とまあ、そんなこんなでメイド実習が始まった。
 教官はレディス・フォレストロード(ea5794)。見習いとはいえ、メイドシフールと呼ばれているだけあってしっかりメイド教育を施している。とは言っても礼儀作法や気配り、短い依頼期間内には全て覚えきれないのでその辺りを教えている。
「自分を気遣った言葉を掛けてもらえると嬉しいものですし、そんな気配りを忘れないようにして下さいね」
 本職のメイドさんではないし、とはいえ仕事。でも、一番大切なのは自分達が楽しんで対応するという事。楽しい雰囲気は他人にも移るからだ。
 そこへ店の宣伝に出向いていたフェネック・ローキドール(ea1605)とネム・シルファ(eb4902)が戻ってきた。途端に沸く黄色い悲鳴。フェネックは微笑んだ。
「邪魔をしてしまったようですね。申し訳ありません」
 煌く美貌。男のようでそれでいて女のようで――どこか中世的で危険な香りのする青年、じつは男装しているフェネックはバイトの女の子達にもう一度微笑んだ。
「新しい事が多くて覚えることが大変かと思いますが、一生懸命頑張りましょうね。僕も微力ながらあなた達の力になりましょう」
 轟き唸る超笑顔。
「はい! フェネックさんの為なら!」
「ぜひ貴方だけのメイドに!」
「今晩時間空いてますか!?」
 男なら泣いて喜びそうな台詞の嵐だ。フェネックは苦笑した。
「すみません。ですが、僕には心に決めた方がいるのです。とても嬉しいのですがあなた方の気持ちには応えられません‥‥‥」
 というか同性だしそっちの趣味はない。
「いっそ愛人でも!」
「ほら、遠くの一両より身近の一文っていうじゃありませんか!」
 例えにしてもその差はどうだろう。
「申し訳ありません。僕の心はあの方に捧げています。あなた達も十分に魅力的です。きっと僕より良き殿方にあえますよ」
「ああん!」
 大撃沈。アナタは乙女心を奪い去る大泥棒。そんなフェネックを見ながらネムはため息を付いた。
「何と言いますか、不毛ですねぇ‥‥‥」
「まあ、息抜きも必要ですよ」
 予備のメイド服を調整を行いながらレディスは言った。
「ネムさんそんな事もしてるんですか?」
「ええ、依頼人さんの金銭感覚もの凄く不安ですし、費用の切り詰める所は切り詰めておいた方がいいですし」
 言われてみればレディスのメイド服やバイトの女の子達のメイド服は、これといったカスタムタイプでもないし特注品でもない。他の面々のメイド服が無駄に金かかっている。
「そうだね。確かにあの人放って置くと何するか判りませんし」
「面白いご姉弟ですけどねぇ。一日中見てても飽きないかもしれませんが」
 弟は別として、姉の依頼人の方は致命的に経営能力に欠けている。
「それはともかく、すてきなお茶屋さんにしましょうですねっ」
 ネムの調理仕様にカスタマイズされた、だというのに無駄にフリルの付いたエプロンドレスがふわりと舞った。
「びしびし鍛えてくださいねー」
 遅ばせながらメイド指導を受ける事にした。





 そんなこんなで開店日。
『お帰りなさいませご主人さま!』
 来店第一号、ココロ躍らせやってきたのは一人の青年。大工だろうか。大工道具を片手に足を踏み入れた彼は一瞬固まった。‥‥‥ココハドコ?
「お仕事ご苦労様です。只今お茶をお持ちします。他に何かご所望ですか?」
 見本とばかりにレディスは客を席まで案内しメニューを渡した。そこら辺は、まあ、一応喫茶店だし。
 レディスのメイド服の袖には『メイド長』の腕章が。余った生地でちゃっかり作ったりしたものだ。
「あー。えーと‥‥‥」
 店の中は、原型をある程度留めているものの和洋折衷な感じだ。見慣れない人から見れば普通に異界に足を踏み入れた気がしないでもない。外国に、と思わない辺りカオスっているのが判る。
「お決まりになりませんか? ではこちらはどうでしょう。白玉クレープあんみつ、当店のオススメでございますよ」
 さりげに高いものを進める。
「じゃ、じゃあそれで」
「はい。少々お待ちください」
 レディスは厨房に注文を告げる。ネムは下準備を終えている材料を取り出し調理にかかった。
 お料理メイド。わざわざ席からでも調理しているよう調理人本人にしてはかなりのプレッシャーだが、客からすれば「綺麗なメイドさんが自分の為に‥‥‥!」と泣いて喜ばんばかりの光景だ。独身男の彼は生きててよかったなんて感無量だ。
 そして次々に客が訪れてきた。去っては来、去ってはまた客が来たりと‥‥‥柳亭を継いで始めての大盛況だ。依頼人は一杯になった三つ目の金袋を片手に高笑いなんかしている。
「ご主人さま? おいたは別料金になりますよ?」
 若いお客さんをからかいつつセピアは伸びてきた手をひらりと避ける。派手な動きだったのかメイド服のスカートがふわりと踊る。客の男は感嘆の声を上げるが、セピアはスカートの裾を摘まんで軽く会釈。悪戯っぽく微笑んだ。
「あ、あのご主人さま‥‥‥」
 途中から何もかも面倒になった月乃は接客も適当になっておざなりに対応しかしなかったが、それで不機嫌になった客が帰り際、捕まえて手をそっと握った。
「今日は無愛想でごめんなさい。また良かったらお店に来てくださいね」
 どこかのチワワみたいに見上げる。事前にちょっと下準備をして瞳は潤んでいる。美女にそんな瞳でか細い声で震えるように言われたらオトコドコロは超粉砕。ネムからこうやれば大丈夫と言われ実践しただけだが、つくづく男って悲しい生き物だ。
 その隣では修羅が接客をしていた。
「どうした主殿。早く決めぬか」
 高圧的に睨み付ける。接客としてどうかと思うが、苛められているようでこれはこれでいい。まだ客が決めあぐねている間、修羅は涼香を見て頬を膨らませた。
「お嬢様方。私が出来るのはおいしいお茶と最高のサービスを差し上げる事。どうか喧嘩をなさらずに」
 執事に男装し丁寧口調に接客する涼香。凛々しいお姉さまな彼女に熱を上げる客の女性人は、彼女ともう一人、フェネックに夢中だ。まるで色町にありそうな店に勘違いしそうだが、ついそう勘違いした役人を追い払ったばかり。気をつけないといけない。
「いってらっしゃいませにゃ、ご主人さま」
 客を見送る花蓮。語尾に『にゃ』を付けろと又三郎に強く念を押された花蓮は、疑念一切持たずに実行している。
 ひと段落して奥に引っ込んだフェネックは、実は興味のあったメイド服に着替えて女性としての本来の美貌を振りまいた。男装で隠し続けた反動か、同性ですら虜にする。
 閉店までしばらく、超満員のままオーダーが鬼のように飛び続けた。