春画絵師外伝 春画が禁止された町で‥‥‥
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 94 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月07日〜09月14日
リプレイ公開日:2006年09月12日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
江戸の街から数日離れた所にその町はある。数年前より開発が進められているその町は、重要性の程はそれほどでもないにしろ、戦略的、商業的にあればあったでまあ、便利といった程度の規模だ。
元々そこには小さな村があった。江戸の街を目指し、また、江戸から他の土地へ向かおうとする人々の中継地点としての役割がありそこそこ栄えていたという理由もあり、開発の価値ありとして一人の侍が責任者として派遣される事になった。
彼は非常に有能な侍だった。僅か二年で町と呼べる規模まで発展させ、また、元が草原という環境上、野戦に向いている為、近くには防衛用の砦を幾つも建設し、有事の際は前線の補給基地となるよう――細かい所まで見ていくと実に良く出来ていると判る。
だがそんな有能な者に限って死にやすいというのは世の必定。彼は町の完成を迎えぬままこの世を去った。三十二を数えたその日の事だった。
その後、彼の娘が後を継ぎ責任者となる。今だ少女の面影の残る彼女は、周りからの不安を一蹴するようにその才能を開花させ、一気に町を発展させていった。
しかし彼女の歳若い故の潔癖さ故からか、一つの失策を施行してしまった。
『この町に置ける、一切の風俗業を禁止する――』
人間良い環境があればそこに暮らしたくなるもの。予定より大きく早まり完成が間近に控えているとはいえ、既に町としての機能のあるその町は、いつの間にか多くの住人達によってひとつの社会が形成されていた。
そして社会の中には悲しい事に犯罪者も生まれてしまう。
今日この日、本日三人目の犯罪者が逮捕された。罪状は婦女暴行。他の二人、そしてここ最近捕まえた犯罪者の罪状は同じである。
町の開発責任者である彼女には、町の臨時の運営責任者の任も与えられている。そこで第一に出した命令が前述の風俗産業の禁止だ。
彼女自身、歳若い故の潔癖症から出たものだろう。しかし、世の中様々な事情を抱えている人がいる。
ある事情によりまともな仕事に付けないもの。その辺りはまだいい。借金のカタに遊郭へ売られたりなんて事情もあるだろうが、逆に禁止されると困る連中もいるのだ。
そういう店は、勤めている人間含め軽蔑される眼で見られるがあればあったで嫌な言い方だが世の中の役には立っている。
人間には三大欲求というものがある。溜まってしまうものだし、どこかでぶつけなければいけない。発散も出来ずに溜め込み過ぎると‥‥‥本人にも第三者にも不幸な結果が訪れる。この町に置ける犯罪事情もそこに根ざしているものだ。
そして春画の購入すら禁止されてしまってからというものの、アレな物品の密輸が始まった。当然取り締まるべきではあるがことごとく失敗を繰り返していた。
備朱・D・N・火由卯。
地方の戦争にて――地方だから有名ではないが――『功屋の神雷』と畏れられた浪人が荷駄長を勤めていたのだ。
そこへ彼女は特務役人部隊『白林檎隊』の出撃を要請する。隊長の侍、枡田令谷、他三名。厳しい訓練を潜り抜けてきた猛者達だ。
事前に掴んだ情報により、『功屋の神雷』と部下の足軽十一人は、大型荷車『葉酢戸螺井那亜号』と三つの通常型荷車に猥褻物を積載し町へ向かってるの事。だが ただ捕まえるだけなら別として、手をこまねているのはもう一つの理由がある。
装備からして恐らくその荷駄隊は源徳家の部隊。詳しいどこそこの部隊とか誰それの将の部隊かも判らない。副業として軍の権限を活かし密輸なんて事はままあるが、下手に討伐でもすればどんなとばっちりが来るか判らない。そこへ白林檎隊に白羽の矢が当たったのだ。
白林檎隊は第三砦に立ち寄り装備を整え、敵荷駄隊の撃破及び、荷駄の破壊・回収。そして荷駄隊の所属の調査の任を与えられた。
火矢を初め各種装備を整え出撃。同時に要請していたギルドからは冒険者で構成された部隊が出撃。冒険者達が直接戦うのは足軽の部隊。白林檎隊と挟撃を取る形となった。
●リプレイ本文
「まあ、改めるでもないけど状況は最悪なのよ」
休憩中、作戦を改めておさらいしている牧杜理緒(eb5532)は呟いた。
「こちらはたった二人で敵さんは十一人。彼我戦力差は約五倍。こっちももう少し人がいればもっと効率のいい作戦も立てられたんだけどね。どうしようか?」
理緒は借り受けた地図を広げ、戦闘になるであろう場所を指してどう動くか考えを巡らせていた。
こちらも同じく、頭を悩ませている深町旱(eb6646)はぶっきらぼうに答えた。
「なんだよ。どうしようって言われても、どうにかするしかないだろ」
「だからそれをどうするかって聞いてるのよ。結局、残りの三人の新人は来なかったし、敵との戦力差は約五倍。これじゃあ出来る事も限られるわ。それ以前に戦いになるかしらね」
「俺も今回初依頼だが、新人だから勝手が判らなかったんじゃねえか? 色々都合もあるだろうしな」
まあ、初心者なら判らない事もあるだろう。理緒は適当に相槌を打って、
「今更、居もしない連中に期待しても仕方ないわ」
考える事を止めた。この局面、作戦らしい作戦も立てても上手くいくか判らない。
「とにかく、なんとかなるわよね。戦力が足りないって言ってるけど、結局あたし達ここまで来てるんだし」
思いつく限りの奇策弄策を尽くさなければいけないけど。卑怯くさいが正攻法は普通に無理だ。
「まあ‥‥‥文句ばっか言ってても仕方ねぇか。仕事だしな」
「アテにしてるわよ。それはそれとして、依頼は成功させるつもりだけどその後を考えた方が良さそうだわ」
「そうだな――っつーか! 風俗業を禁止するなんてふてぇ町だなあ! オイ!」
「え? な、何?」
「女の身体は男の楽しみだってーの! しかも、折角の卑猥物を持って来る天使みたいな荷駄隊の奴らをぶっつぶせってか!? 勘弁してくれよ!」
「‥‥‥‥‥‥」
ある意味男らしいには違いはない。理緒はさすがに引いた。
「依頼人も依頼人だな。仕事が終ったら、そのお嬢様にも会ってみるか。お嬢様も男の味を知れば少しは風俗の理解も深まるだろうし。俺が手取り脚取り腰取り教えてハァハァ‥‥‥って理緒、その振りかぶった拳は何だ? 龍叱爪なんて物騒なもの握ってよ」
「ん? いや、女の子の前でそういう発現はどうかと思わないかしら」
「女の子ってあんた、二十歳過ぎてるだろ? いくら何でもサバ読みすぎ――」
何かが盛大にブチ切れる音がした。元々、たった二人で特攻じみた真似をしないといけない状況だったし、ストレスは溜まっていたのだ。
足を引っ掛ける。見事な早業なのか旱は倒されてその上に理緒が乗りかかる。
マウントポジション。龍叱爪の鉤爪が光って唸る。
「な、何怒ってんだよ。小さい子供からすれば十分におば」
最後まで言い切る前に、軽く血の雨が降った。
「前もってシフール便で枡田さんに作戦の打ち合わせしておいたけど、白林檎隊の攻撃に合わせてこちらも突撃するわよ」
返り血を拭いつつ理緒は言った。
「判った‥‥‥というかいつの間にそんな事してたんだ?」
「秘密。女の子には色々謎があるのよ」
突っ込みたくなったが止めた。確かに女性には謎が多いものだ。旱は女たらしなだけにその辺りよく知ってる。決してまた殴られるのが怖いのではないのであしからず。
「備朱さんの情報は集めておきたっかけどね。『功屋の神雷』と言われてる人なのだから実力はあるだろうし、浪人が正規軍といっしょに密輸するんだから、何かあるんでしょうね」
まあ、理緒は情報収集が得意という訳でもない。
「功屋の神雷だろうが関係なし! 邪魔する奴は悪即斬でぶった切る! って言いてぇが、こっちには『奴らを殺しちゃいけねえ』ってスーパーオプションが付いてっからな。スタンアタックあたりで叩きのめしてやろうぜ!」
気合は十分。唯でさえ総戦力で劣る以上、気持ちだけでも負ける訳にはいかない。
つい先刻までエラい事になってたようなのに割と平気だ。旱は体力が高いだけに無駄に頑丈らしい。
――貴様と戦える事を光栄に思う!
荷駄隊の最前衛。大型荷車『葉酢戸螺井那亜号』が白林檎隊の放った火矢で燃え上がり、それが戦闘の合図となった。
備朱と枡田の刀が刹那の瞬きで何度も打ち合う。二つ名を持つ備朱、特務隊を率いる枡田。それに相応しい実力を見せ付ける彼らはほぼ互角の戦いを繰り広げていた。上官を支援しようと足軽は駆け出した。
その背後を狙い理緒と旱は飛び出した。足軽達は二人に気付いていない。
磨きぬいた技の冴え。理緒は電光のように駆け抜けた。
「鉄山なんとかー!」
地面を穿つ強力無比な踏み込み。まともに背中からくらった足軽はものの見事に吹っ飛んだ。
「て、敵襲!?」
「隙ありぃ!」
旱のスタンアタックが振り向きかけた足軽を打ち据えた。
前方に気を取られたのだろう。足軽達は背後からの突然の奇襲に対応できず続けて二人倒された。
仲間が倒されたのか、我に返った一人の足軽の槍が煌いた。
「こういう時、慌てた方が負けなのよね!」
バックパックを外して身軽の理緒。また回避の技にも長ける彼女は、突きつけられた必殺の槍を踊るように避けて殴り倒す。
「勢い良く突っ込んだはいいが、この後どうするよオイ。まだあちらさんは数が多いぞ?」
「関係ないわ! 戦いは大体勢いで決まるもの。あんな腰が引けてるような連中なんて敵じゃないわ!」
「そうでもないぜ? 所詮足軽っても、訓練されてる正規兵だ。もう態勢整えてるじゃんか」
槍を手に包囲網を取る足軽達。理緒は鼻で笑った。
「どうしようもない不利な状況‥‥‥。なのに沸き立つこの闘士。この局面この高揚、これぞ逆境!」
構え、疾走する。
「あたし、回避得意から引きつけるわ! 後よろしく!」
足軽達の中に躍り出る。次々に突き出される槍の嵐。四方八方から迫る槍の穂先は、さすがにその全てを避けきれず理緒の四肢を刻み始める。
「無茶してんじゃねー!」
スタンアタックが走る。理緒に気を取られていた足軽達は、次々に旱に倒された。
しかし回避し続けるにも限界がある。技と技の応酬の中、理緒を突き貫く槍の一閃。楔を打ち込まれたかの如く理緒は動けない。
『刺された』と、そう自覚した瞬間に、痛みが全身を刺し穿つ。口の中に鉄の味が広がる。まるで灼熱に身を焼かれるこの感覚。
足軽は討ち取ったと確信した。だが、理緒は槍の柄を掴んだ。
出来れば依頼人の希望通りに事を運びたかったけど、
「――悪く、思わないでね!」
龍叱爪を握り締める手に力を込める。
鉤爪が陽の光を反射し、足軽の脳天へ振り下ろした。
「結局、政策そのものをどうにかした方がいいと思うのよ」
白林檎隊の隊員の手当てをした理緒はそう呟いた。特務部隊なだけに手当ても見事な腕で――治療用アイテムも使ってだが――血が足りない程度でほとんど完治していた。
戦闘は終り足軽達は一人を除き捕縛され、後始末を白林檎隊に任せてた二人は思いっきり倒れ伏していた。
彼我戦力差五倍の相手。理緒は怪我しているとはいえ、よく生き残れたものだ。
「そうだな‥‥‥つーか俺、初依頼でこんな修羅場を。何か間違ってないか?」
普通は簡単な依頼をこなして経験を積んで大きな仕事なのに。
「何事も経験よ。ああいう時は慌てた方が負けなのに、よくやってくれたわ」
死んでたかもしれないしね、ともの凄く顔色悪い表情で言った。
「まあ、備朱さんも逃げたし荷車は一台は確保できたし‥‥‥とりあえず依頼は成功かな?」
その代償として割と怪我が凄かったりしたのだが、生きているからその辺り細かい事はいいだろう。
怪我なんてしたんだし、特別手当ぐらいは欲しいなぁ‥‥‥なんて、考えてる理緒だった。