【乱の影】春画絵師外伝 戦慄の褌
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月10日〜09月15日
リプレイ公開日:2006年09月17日
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●オープニング
華の都京都。
神皇陛下お膝元のこの都市は、古くから遥か遠き国へと続く月道が確認され、それを確保する為に街は事細かく計画され、造られた。その為各地から月道を利用しようとする人達が集い、現在の京都情勢も相まってちょっとした混沌の様相を醸し出している。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
〜某月某日に提出された被害報告書より抜粋〜
春画絵師、死亡者数総計十三人
春画販売所及び委託販売店計六軒破壊
移送中の春画の破損とその荷駄隊の護衛、全員が死亡
正確に詳細が記されていないものを含めると、その被害は甚大と思われるもの。僅かでがあるものの、犯人と思われし人物はいまだ特定出来ず。目撃者によって得られた情報は『蒼い褌』。尋常ではない脚力の所有者であるとの事。更なる被害の拡大を防ぐ為、早急に対策本部の設置を要請する。
「しかしまあ、よりによってこんな任務なんてな。退屈でしょうがねえよ」
「退屈でいいじゃないですか。いつもの任務はとても一息付く余裕もありませんし」
「いや、オレら一応軍人なんだし、暇なのはどうよ?」
「軍人だからこそ、暇は良い事ですよ。平和って事ですし」
彼、志士の佐麻那の言う通りだ。今の京都事情からすれば、逆にこういった平穏な日々の方が珍しい。軍は防衛上あるべきだが、やはり軍が出張らない方がいいに越した事はない。世の中平和が一番だ。
「でもよ、オレらって戦ってこそナンボのもんだろ。それが会場の警備ってどうよ? こんな街中襲ってくる奴もいねえっての」
「まあ、それもそうですけど‥‥‥」
しつこく食い下がるファイターのフィ・リップに、佐麻那は頷いた。何だかんだ言って、刀を腰に差している以上は実力も試してみたくなる訳だ。最も、彼ら『実験部隊』はその傾向が強いのだが。
「不謹慎ですよ、二人とも」
僧侶の北村が言った。この部隊の唯一の紅一点。尼よろしく派手さはないものの、服装もあいまって、楚々とした感じの魅力的な女性だ。
「何だよ北村。戦がないとオレら廃業だぜ? 正直、小競り合い程度は続いて欲しいんだがな」
「冗談は言わないで下さい」
北村はぴしゃりと言った。
「命は尊いもの。それを奪い合うなんて持っての他です。御仏に仕えるものとして、断固認める訳にはいきません」
「真面目だねぇ‥‥‥。鹿嶋。おまえはどう思う?」
フィは同意を求めるように――というより、一応、形だけでもと話しを振った。
「‥‥‥」
「へいへい。相変わらず無口な事で」
彼、新開発の武器や新型陣形の実戦における有用性の確認とテストを専門とする実験部隊、『実験ねずみ隊』の隊長、忍者の鹿嶋祐は一度視線を向けてまたつむった。
北村は思い出したように言った。
「そう言えば、聞いた話しですけど盗賊団が襲撃に来るかもしれないという噂を聞きましたよ」
展示されているものは、何かと高価なものが多い。
「規模も結構なものですし、万が一の事も考えて、展示会の責任者の方は冒険者の方々に警備を頼んだようです」
都を護るは役人の仕事だし、役所に届けを出すのが普通だが、そういう所は色々と話しを通さないといけないから面倒だ。ギルドに頼む方が勝手が効く事もある。
盗賊団の規模は約四十人といった所。盗賊団とは言っても、ちんぴら連中が徒党を組んだ程度で、訓練されている軍人なら脅威でもないが、何分数も多いし、一般人にとっては脅威以外の何ものでもない。
仕事の顔になったフィは、自分達と冒険者達の配置の確認をし、襲撃されるとすると、どこから襲われるかを推測する。おおよそこの位置‥‥‥冒険者達は大体、十五人程相手にする事になるか。
「んじゃ、期待膨らませて警備する事にしますか」
襲撃される事を楽しみに待つ部下を見ながら、真夜中の月の下。鹿嶋は胸騒ぎをするのを覚えた。
京都春画大展示会。何事もなく終りそうな思いは、ない。
「あの男はまだ捕まえられないのか?」
「まだ報告はない。京都の有力公家に取り入った事まで判ってるのだが」
「いくら優秀とはいえ、あんな素性の知れない男を登用するからだ」
「全くだ。兵士個人の能力を高めるための装備を開発するといって、次々と金を持っていきよって。その上試作品を作った後、開発成果を土産に京都へ寝返った。我ら毛利を舐めおって」
「一刻も早く討ち取らねば、新たな脅威となるに違いない」
「ああ。あの男が開発した‥‥‥確か、名をなんと言った?」
「得倶座舞。そんな名前だった筈だ」
――策謀渦巻く京都。ここにも一つ、京に伸びる魔手の影があった。蒼い影と共に‥‥‥
●リプレイ本文
夜の帳に銀光が煌いた。
疾走する剣撃。幾度となく打ち合い、地獄の鍛錬を耐え抜き、技を鍛え抜いたものだけが持ちうる必殺の見切り――この僅かな間だけで朝霧霞(eb5862)の剣筋を見切った佐麻那は霞の刀を弾き飛ばした。
霞にとっては刹那の瞬き。左に握るナイフを突き出すが、
「そこまでです。お見事でしたよ」
遥かに早く、佐麻那は霞の喉元に刀を突き付けた。
「‥‥‥‥‥‥」
あっけにとられるとはこういう事を言うのだろう。気の弱そうな、正直弱いとさえ思ってた相手に手も足も届かなかった。実験部隊なだけに腕が立つだろうと思って稽古を付けて貰おうと思ったが、隊長は無口で僧侶の女は「荒事なんてとんでもない」という始末。外国出身の戦士はいないし、唯一残った志士は受けてくれるものの弱そうだった。そんな相手が稽古を買ってくれるなんて馬鹿にされていると思ったし、いっちょ揉んでやろうと思ったがこんなオチだ。見た目で判断するなんて自分もまだ未熟、微妙にちくちくしている喉気に気が気でなくて、霞は何も言えなかった。
「どうしました? まだ続けますか?」
人の良さそうな顔で言うが、喉元には刀。逆に怖い。
「いえ、参りましたわ‥‥‥」
これが実戦なら首と胴が離れていただろう。引いた血の気そうそう戻らなくて、何とか声を絞り出した。喉から刀が離れるのを確認して、霞は大きなため息を付いた。
「よもやここまで一方的に遊ばれると思ってもいませんでしたわ」
飛んでいった刀を引き抜き鞘に直す。勝てない場合でも、少し苦戦するぐらい――と思ってただけにショックも大きい。見た目にも騙されて、武芸者と名乗るには不相応かもしれないなんて思う。
「そうでもありませんよ。二つの武器を巧みに駆使していましたし、流派の特性をよく活かした技でした」
鍛え抜いた二天一流の技の冴。これからも精進が必要だ。
「――ところで、他の冒険者の方はどうしました?確か後二人居ると聞きましたけど」
思い出したように佐麻那は尋ねた。
「会場内の巡回に行ってますわ。警護の為に、なんて言ってましたけど、これだから男ってものは」
「そうですねぇ。フィも喜び勇んで行きましたし。どうして男の方はああいうのが好きなんでしょう?」
北村が同意して、何となく二人は佐麻那は見た。
霞は稽古で乱れた着衣を整える。
「ともかく、警護の対象がアレと言うのは気に入らないけれど、仕事は仕事、務めはしっかり果たさないとね」
違いない。本当は新人の冒険者が後三人来る予定だったが、新人だけに勝手が判らなかったのだろう。人手が足りない分も何とか補わなければならない。春画に関係する事柄に現れる謎の存在、『蒼い褌』。もしかしたら、戦うかもしれない。盗賊団の相手はそれぞれ分担する事になるが、この戦力が足りない状況。上手く利用すれば有利になるかもしれない‥‥‥。
輝く月はどこか嫌な予感と共にありながら、そう霞に語りかけるように淡い光を降り注いでいる。
現在の京都事情はお世辞にも良いとは言えないというか良くない。
新撰組の一番隊隊長が暗殺したとされる平尾氏の一件や五条の乱等のトラブル。いつどこで、何がきっかけで大事に――最悪戦争になりかねない状況だ。
それを機に権力や戦力の増大を狙う輩は別として、一般市民にとっては迷惑な話しだ。彼ら一市民にとってはただ日々を平穏に、たまには騒いだりする程度で過ごしたいだけだ。
そういう訳で今回の春画大展示会は、只今物騒な雰囲気満載の京都の憂さを晴らす為、有志が集まって開かれる運びになった。憂さ晴らしの為にイベントを開くのは喜ばしい事だが、客を選ぶというか男しか喜ばないイベントに京都の女性達は口々に文句を言うが、何はともあれ強行された訳だ。財力やら権力を駆使し、京都に集められた春画の数々。その中には、最近江戸で活躍している双子の春画絵師の作品を初め、有名な絵師の春画があって、純粋に美術展としての価値もある。とは言っても女性客は期待出来そうもないし男が泣いて喜びそうなイベントでしかないのだが‥‥‥。
「生きてて良かった‥‥‥!(イギリス語)」
「同感アルね。ミーはもう死んでもいいアルねー(イギリス語)」
「オレは今、この任務を受けて良かったと本当に思っている‥‥‥!(イギリス語)」
「オゥマイブッダ! ミーは今、幸せの絶頂アルネ!(イギリス語)」
なんて口々に、ある意味男らしい魂の叫びを語る異人達。警護と称して会場内に入っての巡回中。三百六十度に拡がる春画の山に三人の顔は緩みきっていた。至福の笑みというかにやけ過ぎて逆に気持ち悪い。
「エロのガードアルね。ミーはプリティでロリータを略してペタを所望するアルねー♪(イギリス語)」
ロリコンか。サントス・ティラナ(eb0764)はムーフームーフーアヤシく呼吸しながらにやついた。どこの暗黒卿だ。
「小さい女の子も捨てがたいが、女はやっぱり大人の女が一番だぞ。あのたわわに実った二つの果実。引き締まった腰。桃のような尻。辛抱たまらんぞ(イギリス語)」
お前もロリコンか。実験ねずみ隊のフィ・リップは隠しもせず自分の趣向を言い切った。
「私はノーコメントです。どちらにしても捨てがたい(イギリス語)」
ナイトハルト・ウィンダム(ea8990)は割と理性が働いているらしい。というかナイトたるものが迂闊にそういう事を言えはしないのだが。
「しかし、今回の依頼は是が非でも成功させなければいけませんね(イギリス語)」
「エロは人類のオタカラアル♪ 必ず守るアルね。エロがボコボコにされたら、何をオカズにすればイイアルね?(イギリス語)」
実に男らしい台詞だ。ナイトハルトもその辺り正直だ。
とまあ交代が来るまでしばらく、このエロい三連星は違う世界に旅立っていった。蛇足だが、交代員は三人を見て刀を抜いた。
「危うく死に掛けたアルねー! でも、ミーはエロの守護神。エロに牙なす者を打ち倒すまで死ぬ訳にはいかないアルねー!」
神を名乗るかこの変態。必殺の刃をかわして何とか逃げて来たサントスは、敵と勘違いしてこれまた斬りかかろうとする霞に言った。鬼のような勢いで走ってきたサントスは情報であった盗賊団かと思ったが、次のサントスの台詞に本気で斬って捨てようかと思った程だ。
「女性に向かってそういう台詞はどうかと思いますが」
「オー! ミーはつるぺたロリ萌えアルね。ユーには興味ないアルねー!」
霞のナイフが唸って迫る。
「‥‥‥チッ」
「オゥ! 危なかったアルね。それより『チッ』って殺る気ですかァ!?」
セクハラ男に情けをかける必要はあんまりない。霞はやる気のない声で、
「まあ、そんな事はどうでもいいですから」
「よくないアルね!」
サントスは普通に食い下がる。霞は刀を抜いて明後日の方向を指した。
「とりあえず、あれをどうにかしません? ナイトハルトさん、もう向かいましたが」
刀が指した先、盗賊団が迫っていた。
「ブレーメンの騎士の誇りを抱いてこの世の男の宝、春画を守り抜く!(イギリス語)」
月が輝く空の下、ミッドナイトマスクとブラック・ローブに身を包んだナイトハルト。勇ましいというか何というか、拘束具が似合いそうないでだちだ。ホークウイングが場違いな気がするのは気のせいだろうか?
迫るちんぴら。ブレーメンソードが敵を討つ。
「HEたる私を哀れむ必要はない‥‥‥(イギリス語)」
ジャパン語が判らないから自分に向けられている罵声が理解出来てないのだろう。ナイトハルトは迫るちんぴらを迎え撃つ。
「あくまで戦い憎しみを生もうというのか。それが汝の信念ならばそれも良し、その信念貫かせてもらう(イギリス語)」
コナン流達人の技の冴。数の不利を覆す。
「ヘイ、ユー! ミーの活躍の場を取らないアルね! 脚須都男不!」
一気に服を脱ぎ捨てる。
唸る肉体輝く漢の褌。燃える男の姿がそこにある。
「ミーのシャイニングバディはどーアルね。ダァァァズリングアァァァマァァァ!」
中年オヤジの姿が光って唸る。近くにいたちんぴら達は凄まじい閃光に眼を潰された。光るオヤジ。イヤな光景だ。
「隙あり!」
その影から霞の剣撃が走る。二天一流の技の冴。日本刀とナイフはちんぴらを斬り伏せる。
「いくら今こちらが優勢でも、たった三人ですからね。生かしたまま倒すなんて器用な真似は出来ないわ」
日本刀を振り下ろす。ナイトハルトとの連携でちんぴら達をほぼ全滅させた三人は、実験ねずみ隊の支援に向かおうとして――向けられた視線に気付いた。
冷たく、それでいて氷の刃を押し付けられたようなこの感覚――
「まさか‥‥‥『蒼い褌』!?」
霞は振り向いた。しかし既に、全裸に蒼の褌をした男は駆け既に霞を間合いに入れていた。殺られる! そう思った瞬間、『蒼い褌』は霞の隣を駆け抜けた。霞は全身に冷や汗がどっと流れ尻餅をついた。
「歯牙にもかけていなかった‥‥‥!?」
つまり、相手にする程の相手でもなかった。霞は己の未熟さに憤慨した。
剣撃が走る。
実験ねずみ隊隊長の鹿嶋祐の一撃が勝敗を決した。いくら速く動こうとも相手は全裸に褌の男。たった一撃で十分に致命傷になる。
「へへっ。手間を取らせやがって。巷で騒ぎになっている犯罪者もこれで終りってやつか?」
「投稿するなら命は助けましょう。悪戯に命を捨てる必要はないでしょう?」
フィと佐麻那は『蒼い褌』を取り囲んでいた。明らかに致命傷。治療しても命は助からない――端から見てもそう判る傷なのに、『蒼い褌』は何も答えない。
沈黙は拒絶。トドメを刺そうと二人は得物を振りかざすが――駆け抜ける疾風。『蒼い褌』は間隙を縫って逃げ失せた。
「‥‥‥‥‥‥」
逃げた先を見つめる鹿嶋。盗賊団も撃退したし任務と冒険者の依頼は成功したが、彼には悪い予感が拭えなかった。