ネコ耳ねね子の奮・闘・記!
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月22日〜09月29日
リプレイ公開日:2006年09月28日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
ある所におじいさんとおばあさんが住んでいます。
二人の住む村は山奥という言葉が本当に甘っちょろく聞こえる程の山奥で、俗世と切り離されていて仙人様が住んでいるような勢いの山奥です。とにもかくにもそんな山奥におじいさんとおばあさんが住んでいまして、今日も今日とておじいさんは芝刈りに行ったりおばあさんは川へ洗濯に行っていました。
今は昔、芝刈りに精を出していたおじいさんは包みを見つけました。
いいえ、それは産着に更に布で包まれていた赤ん坊でした。
その赤ん坊を自宅へと連れ帰ったおじいさんは、おばあさんと相談してその子を育てる事にしました。二人には息子が居ましたが、もう随分と昔に江戸の街へ出て行き甘味処を経営したそうです。それから時が立ち、便りによると息子夫婦は既にこの世を去り、その子供――二人の孫が頑張って店を繁盛させているそうです。
何はともあれ、二人は拾った赤子を育て始めました。
もう、後は極楽浄土への片道切符を使うのを待つだけだった二人にとって、子供を育てるという事は新たな生き甲斐となりました。頭にネコのような耳とお尻にネコの尻尾。そして所々ネコっぽい仕草を見せる女の子に――ねね子と名付けました――不思議に思いましたが、エルフやパラやジャイアントがいるこの時代、まあ、そういう種族もいるんだろうなぁと納得しました。世の中そんなものです。
そして時は流れ愛しい愛娘は十三歳。性格も関係したのでしょう。好奇心旺盛なねね子は、
「おじーちゃん、おばーちゃん。わたし、江戸の街に行きたい!」
と、そんな事を言いました。
当然二人は迷いました。大切に大切に育てた可愛い愛娘。その娘の成長を願うなら、是非とも江戸に向かわせ見聞を広めさせるべきです。ですが、いつか出て行った息子のように、帰ってこなくなるのも――今わの際に会う事も出来なくなるのはとても悲しい事です。
ですが、元々棺桶に片足所か布団代わりにせんばかりのこの歳。いつまでも自分達の所に縛り付けるより、早い内に、様々な物を見せ知識を覚える事の方が何よりの娘の為になります。
熟考に熟考を重ねた末、寂しく思いつつも二人は決断しました。
「ねね子や。江戸の街へ行っておいで」
喜ぶネコミミ少女。おじいさんとおばあさんの悲しそうな表情には気付きません。
それから数日、出立の準備を整えたねね子に、おじいさんは地図と手紙を渡しました。目指す所は柳亭。手紙の宛て先はその現店主である、今は亡き息子の娘にです。数え程しかあってない孫娘にですが、きっと力になってくれるでしょう。
約束の時間、待ち合わせの場所に冒険者はやってきました。いくらなんでも十三の娘に一人旅をさせる訳にはいきませんので、依頼でこの近くに訪れて江戸の街に戻ろうとした所に頼み込んだのです。
「よろしくお願いします。冒険者さん!」
冒険者は早く江戸の街へ帰る為、人攫いや拉致や誘拐とか、その他諸々黒い噂で満載な宿場町を経由するそうです。
ご飯をくれる人イコールいい人、人を疑う事を知らないというかその辺り育て方間違ったというか、おじいさんとおばあさんは凄く心配です。
●リプレイ本文
――日々欲求不満でうっかりと助平心が働いて、迫ってきた記録係を軽く血祭りに上げた御陰桜(eb4757)は、いつもと変わらぬ平然とした顔で颯爽と、仲間の所に戻ってきた。
江戸への道中。開けた場所に通りかかった冒険者達は、昼時という事もあってそこで休憩を取る事になりました。雲一つない晴天。お日様はさんさんと照り、少し肌寒くなってきた秋風は優しくそよぎます。
これといってトラブルもなく只流れる水のように平穏に、これぞまさしくジャパン晴れ。江戸も勢力規模で厄介ごともありそうでなさそうな微妙な感で、遠い京都の地では厄介ごとの真っ最中。ですけど、皆でこんなのんびりと過ごせたらきっと幸せに日々を過ごせるでしょう。刀や槍を持って大勢で斬り合い突き合いの喧嘩は誰だってしたくありませんものね。断末魔が鳴り響き赤い赤い綺麗な散り華が咲き乱れるのは見てみたい感はありますが。
「ん、桜か‥‥‥って、それは返り血か? 賊でもいたのか?」
誰かの気配に気付いて霞刀に手をかけた九竜鋼斗(ea2127)は、ぎょっと目を大きく見開きました。まだ問題の宿場町には付いてはいないとはいえ、しっかりねね子を護衛しないといけません。狼藉者が現れたら、夢想流の技が轟き唸るのです。
「狼藉者と言えば狼藉者ね。全く、ああいう下衆な輩がいるからあたし達女はいつまでも立場低く見られるのよ。そう思わない?」
武士社会というか今の世は何かと女の人には理不尽な事が多いのです。
「そう、かもしれないが、それより記録係はどうした? 姿が見えないが」
「さあ? 通りすがりの鬼にミンチにされたんじゃない?」
鬼のようにブチ切れた、ジャパンの国花の名前を持つ忍者にはミンチにされましたがね。
桜は尋ねました。
「ところでねね子ちゃんはどうしたの?」
「向こうにいるぞ」
指差した先、ねね子は冒険者達が連れていたペット達と戯れてました。犬や猫に馬、百歩譲って鷹と梟はいいとしましょう。ですが、複数の獣の合成? とか不思議な輝きも一緒に戯れてるのは如何なものでしょう。ねね子の見た目はアレですから違和感普通にありませんし、猫と喋っていたように見えたのはきっと気のせいでしょう。
「ふむ、獣人か何かだろうな」
「猫耳に尻尾ねぇ。まぁ護衛することには変わらん」
邪推するアンドリュー・カールセン(ea5936)に鋼斗は相槌を打ちました。
「桜おねーさーん!」
桜に気付いたねね子はペット達を引き連れ桜の胸に飛び込みました。人遁の術を使っているとはいえネコミミと尻尾、ねね子から見ればお仲間です。ペット達も真似をして桜の周りを飛び跳ねたり、ハーメルンですか。
「桜おねーさん。どこに行ってたんですか? 服が赤いですよ?」
桜はまるで母親か姉のようにねね子をあやします。無垢な子です。何かと世話を焼きたくなりますしね。
「キイチゴを探してたの。食べる?」
「うん! 食べる!」
無垢な子だからすぐ騙されました。
ネム・シルファ(eb4902)のスリープがちんぴらを眠らせました。
「宿場町に入ってこれですか。 治安が悪いというか、役人達は仕事をちゃんとしているのかな?」
さすが治安の悪さで音に聞こえたこの宿場町。ねね子はごろつきやらちんぴらやらに狙われて、事前に察知した仲間の冒険者達が仕掛けられる前に潰せ、という事で出向いて制圧してました。そして人が少なくなった所を見計らったのでしょう。ちんぴらがネムを拉致ろうとしたのです。
ネムは十八とはいえやや細身の娘。アタマワルイちんぴらからすれば、十分に拉致ってタイヘンな事をする対象になります。
ですがそこは冒険者。とっさの機転を利かせ、スリープで即制圧。冒険者の名は伊達ではないのです。
「そこにいるのはネムか?」
路地からリフィーティア・レリス(ea4927)が現れました。
「リフィーティアさんじゃないですか。そちらは大丈夫でしたか?」
「ああ。サンレーザーで焼いてきたよ。レティス達が美味そうに匂いを嗅いでた」
こんがり焼けたちんぴら。狐達にすれば美味しそうなのでしょうか。
「警戒は必要だと思っていたけどそれにしてもツいてない。俺はおまえに顔を見つけるまでに何度も襲われたぞ」
「まあ、鬼神ノ小柄を二振り持ってますからね」
荒ぶる鬼神の刃の如く、異常とすら思える切れ味の代償に、所持者に不運を見舞う呪われた短刀。それを二振りも持っていれば襲われる事必至です。
「本当、女の私達には迷惑な所ですよね。この宿場町は」
「‥‥‥私達?」
「ええ。リフィーティアさんもそう思うでしょう?」
「いや、俺は男なんだが」
「またまた。冗談ばかり」
よく異性に間違われるリフィーティア。移動時はなるべくねね子の側にいるようにして、ねね子が「リフィーティアおねーさん」と呼んだのはきっと素で同性と思ったのですね。
かなりヘコんで何となく、
「そういやねね子は江戸に行って何がしたいんだろなー‥‥‥」
そう呟きました。
「待たせたな。召し上がるがいい」
宿の調理場を借りた天堂蒼紫(eb5401)が女性陣の手を借りて料理を運んできました。料理を完成させるだけならともかく、盛りは女性達に任せた方が綺麗になります。その中にリフィーティアもいて余計にヘコませたましたが、そんな事はどうでもいいのです。
「わーい! ごはんー!」
速攻マッハでねね子が飛びつきました。やはりネコ娘。まっさきに魚料理に飛びついて貪り始めます。
「うむ。まだまだある。たんと食べるがいい」
「天堂の言う通りだぜ! 沢山食べないと大きくならないぜ!」
今日も今日とて無駄にハイテンションな加賀美祐基(eb5402)。勢いだけが存在意義ばりに飯を貪る様は飢えた狼ですね。
「フ‥‥‥。この馬鹿みたいにとは言わんが、子供の仕事は遊ぶ事と食べる事と寝る事だ。しっかり食べるがいい」
「そうそう。その通り‥‥‥って、さりげに酷い事言ってないか!?」
そこへ見回りをしていた鷹城空魔(ea0276)が帰ってきました。怪しい奴がいないか油断はできません。
「お、美味そうなもの食ってるじゃん! 俺も頂くぜ!」
「そのお魚ねね子のー!」
空魔は一番近くにあった魚料理に飛びつきました。ねね子も祐基も空魔も手当たり次第貪って、こいつら作法を知らないのでしょうか?
「これ蒼紫が作ったのか? いい嫁さんになれるぜ!」
「男に言われたくはないな」
当然ですね。どうせなら綺麗なお嫁さんに作ってもらいたいです。
「本当に美味しいです。女として何か悔しいですねリフィーティアさん」
「だから俺は男だと」
未だ冗談だと思っているネム。見た目銀髪美少女をどうして男と思うのでしょう。つまり脱げと遠回しに言っているのでしょうか。
「祐基テメェ! それは俺のモンだぞ!」
「それこそ俺の台詞だ! 忍者のクセに肉類なんか食うなよ!」
「職業差別か? 忍者が肉を食ったらいけないって法はない!」
「忍者は体臭抑える為に肉類断つんだろ。だったら大人しく握り飯でも齧ってればいいんだよ! 肉は、俺が全て食う!」
なんて醜い争いなんでしょう。人間食い物の事になると性格変わりますね。
「いいかいねね子。ああいう大人になったらいけないよ?」
優しく蒼紫が諭します。
そんなこんなで相打って倒れた二人を捨て置いて、宴会は続きます。「アンドリューはどこに行ったんだ?」と誰となく聞いて、「私見てきます〜」とねね子が廊下を出て行った。
――ネムの竪琴とリフィーテリアの踊りと歌で隣室が喧騒の極みにある中、アンドリューは武器の手入れをしていました。複数のナイフを所持する彼は黙々と手入れをしています。ペットに背負わせているものも含めれば結構な量の武器がありますし、手入れはやれる時にやるべきです。
いい加減にいらいらし始めた時、襖が開きました。ねね子です。
「アンドリューさん。ご飯食べないんですか?」
ねね子は尋ねます。
「肯定だ」
漢字二文字の返事。寡黙というか無愛想すぎです。
「一緒に食べましょうよ。美味しいですよ?」
「拒否する」
「むー。アンドリューさんは何か用事でもあるんですか?」
武器の手入れをしていたのが気になりました。
「貴様が知る必要はない」
あんまりな言い様です。ねね子はちょっと泣きそうな顔になって、置いてあったナイフを手にとって抜こうとしました。
「――触るな!」
ドスの効いた、もの凄い恫喝です。アンドリューはナイフを奪い取りました。
当然ですね。危ない物は危ない物と教えなければいけませんし、こういうやり方も間違ってはいません。ですが、
「ぐすっ。ぐすっ‥‥‥。うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
耳を劈く超音波。なな子は大絶叫とばかりに泣き喚きます。さすがに隣室で騒いでいたお仲間はやって来ました。
「どうしたの。突然‥‥‥」
「桜おねーさーん!」
「どうしたの? ねね子ちゃん」
桜は泣き付いたねね子を優しく抱きとめます。
「アンドリューさんが、アンドリューさんが苛めたの‥‥‥」
「アンドリューさん? あんたって人は‥‥‥」
熊すら冷凍死させそうな冷たい眼光です。さすが忍者。暗殺なんてお手の物なんでしょうね。
「ち、違うこれには訳が‥‥‥」
まるで首筋に刃物を立てられた心境です。それに追い討つように、
「言い訳なんて男らしくじゃん」
「全くだ。鬼道衆が一人として斬り捨てようか」
罵詈雑言が飛び交います。そして最後に、
「死ねばいいのに」
と、誰かが容赦ないトドメの一撃をくれました。これ以上、立場悪くならない内にどうにかしなければいけません。考えた末、獣耳ヘアバンドを取り出して身に付けます。
「ほーら。犬レンジャーだよー?」
どこかの武装五人組ですか。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
場に流れる気まずい沈黙。とりあえずこの場はなんとか収まりました。ですが、江戸に戻るまで散々犬レンジャーと連呼されましたとさ。おしまい。