【乱の影】春画絵師外伝 褌を受け継ぐもの

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月27日〜10月02日

リプレイ公開日:2006年10月04日

●オープニング

 華の都京都。
 神皇陛下お膝元のこの都市は、古くから遥か遠き国へと続く月道が確認され、それを確保する為に街は事細かく計画され、造られた。その為各地から月道を利用しようとする人達が集い、現在の京都情勢も相まってちょっとした混沌の様相を醸し出している。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





〜毛利領、某所にて

「あの男の居場所が判っただと?」
「今更か。遅すぎるな」
「だが、これまで足取りが全く掴めなかった状況よりは幾分ましであろう」
「――ふん。既に京都にも、『得倶座舞』があると思ってもいいだろうがな」
「機密故に調べを小規模でしか行えなかったのが裏目に出たか」
「致し方ない事だ。だが、これからどうする?」
「ああ。あの男の抹殺は勿論、秘密保持の為、京都の『得倶座舞』の奪取及び破壊。研究資料の回収・破棄も行わなければならない。だが、公に部隊を派遣させる訳にもいかぬし、何より京都も『得倶座舞』を使ってくる事も予想できる。生半可な刺客では返り討ちにあうだけだ」
「問題ない。目には目をだ」
「ほう。あやつを向かわせる気か?」
「いかにも。得倶座舞に選ばれ侍、弐牟芭栖。扱いづらい手合いだが、腕は確かだ」
「拙者は気に入らんな。いくら腕が立とうと自由に扱えぬ輩など奴に立つものか」
「別にいいじゃろ」
「その時はその時。反乱軍として処罰すればよい。どの道軍規違反を繰り返す男だ。他の者らへの見せしめも必要だ」
「監視の意味も含め、ある程度の数の足軽も付けておこう。京都の偵察もしておかなければならぬしな」
「うむ。では今日はこれにて」





 ある日の事、鹿嶋祐を初めとして実験ねずみ隊は郊外の屋敷に呼び出された。
 都から離れた人里離れた地。彼らの直属の上司は今日も今日とて都にて権謀術数を張り巡らせ誰かを陥れ、誰かを仲間に引き入れたり、また所々恨みを買っているせいか、隠れ家や部下及び同志を招いて談合を行う意味でこの屋敷のように別宅を数多く持っている。彼ら実験ねずみ隊は、建前では京都に置ける誰それ揮下の一小隊として登録されているものの、実際はある御仁お抱えの私兵として活動している。
 彼ら実験ねずみ隊の活動は、その名の通り『実験』にある。
 新規に開発された武器の実戦での使用に始まり、前線の兵からの要望に挙げられる陣形や作戦、または現地生産及び改修された武具の戦闘に置ける有用性の有無。試作品の正式採用も兼ねる辺り公式部隊としての活動も行っているのだが、彼らの存在が非公式であるには訳がある。
 権謀術数渦巻く京都。権力を握る為、他者を追い落とす絶対無敵な力求める必要がある。
 時には武力を行使しなければならない状況、倒すべき敵から、少しでも有利な状況を用意すべきではないだろうか?
 実験に実験を重ね、隠した牙を必殺の刃に磨き上げ、場合によれば京都を手中にすら‥‥‥野望の行き着く先は破滅かそれとも栄華か。どちらかを掴まぬ限り歯止めが利く事はない。
 混沌の京都。しかし、今は目の前の毛利の脅威に対し実験ねずみ隊は力を尽くす事になった。
 だが、その上司が連れて来た男によって、彼らは再び『蒼い褌』と関わる事になった。

――いつかの『蒼い戦慄』と共に――





「こ、この褌――。この間のやつじゃねえか!」
 上司から紹介された男、加村という男が取り出した褌を見てフィ・リップは声を張り上げた。
「ほう。こいつを知っているのか。なら説明は必要ないな」
「説明だと? ふざけんな! この褌のせいで俺達はこの間死にかけたんだ。いくら実験部隊だろうと事前に知らせないなんてどんな理由があったのか聞かせてもらおうか」
「その必要はない」
「んだとテメェ!」
 フィは剣を手に掴みかかろうとするが佐麻那と北村に押し止められた。加村は褌を手に、鹿嶋へと向き直る。
「報告書は読んだ。今日本日よりこの褌、『得倶座舞壱号』は貴様が身に付けろ」
「‥‥‥‥‥‥」
 鹿嶋は頷いた。
「先ほどあのお方から話は聞いているだろうが、毛利の刺客部隊三十人がこの屋敷に迫ってきている。機密漏洩防止の為、正規の兵は使えないので冒険者の手配をして置いた。特別口の堅い連中をな」
 情報によると足軽兵。冒険者が担当するのはその半数ぐらいだろうか。加村は一拍の間を置いた。
「だが数の不利はどうしようもない。しかし、『得倶座舞壱号』の力を使えば造作もない任務だ。例え貴様が死のうと、『得倶座舞壱号』だけは傷を付けるなよ」



 実験ねずみ隊の面々が下がった後、加村は資料片手に検証を重ねていた。
「あの男が鹿嶋祐。得倶座舞――いや、『魔璃怨』に選ばれた蒼の戦士か」
 鹿嶋達には上司の命を狙ってくる刺客達を撃退するべく警護の任を与えているが、既にその上司は隠れてだが京の都に戻る準備をしていた。
 ――本当に、護るべきは得倶座舞の開発者、苦屡簾途。
 刺客達は苦屡簾途を討つべく向かっているのだが、実験ねずみ隊と冒険者は屋敷の警護としか知らされていない。開発者を囮として上司の目的は別にある。
 得倶座舞の、戦闘に置ける有用性――全ては自分の戦力として利用できるか否かだ。
「――フ。結果がどう転ぼうと俺には関係ないさ。俺は俺で、得倶座舞の行く末を見るだけだ」
 加村も加村で求めるものがある。
「毛利の得倶座舞に選ばれた侍、弐牟芭栖。得倶座舞と得倶座舞の戦い、どういう結末を迎えるか楽しみにさせてもらおうか‥‥‥」
 策謀渦巻く京都。様々な野望が渦巻くこの地において、真に平和が訪れる日はまだ遠い。

●今回の参加者

 eb5228 斑淵 花子(24歳・♀・ファイター・河童・ジャパン)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb5862 朝霧 霞(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb7191 慶 明龍(34歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb7213 東郷 琴音(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb7229 天照 大神(26歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 ほとんどの人達は、唯日々を平穏に過ごせればいいのだけあって、わざわざ敵を作ろうとしないものである。とはいえ、人が多く集まる場所では必然として上下関係は生まれるもので出世や利益を得る為に、表だってやるにしろ裏で暗躍するにしろ、色々面倒な事をしなければいけない。そのせいで、末端の者は出世を、場合によっては生き死にを左右されるものだがそこは運が悪かったと諦めてもらわないとけない。
 部下にとって上司に恵まれない事はいい迷惑だ。例え上司に何か事情があるにしても。
 それはそれでこの依頼を受けた彼女にもいい迷惑だったりする。江戸からわざわざ理美容用品一式を買出しに京に訪れた刈萱菫(eb5761)は、「偉い人にはそれなり以上の苦労があるのですわね」なんて自分の置かれた状況をあまり理解していないのだが。



「お覚悟!」
 大上段に振り挙げた大薙刀が足軽を脳天から股間まで、一刀両断とばかりに切り裂いた。吹き上がる血潮。菫は正面から降り注ぐ返り血の中、口上を挙げ見得を切る。
「聞いて驚き見て震えなさい! あたしは夢想流の一人が刈萱菫。この一撃必殺鎧袖一触、快刀乱麻が大薙刀の刃を恐れぬのならかかってきなさい!」
 猛将かくやと言わんばかりの立ち振る舞い。火の手の上がる屋敷を背に立ち塞がる菫は、全身に浴びた返り血もあって鬼神や戦神のような気迫を持ち足軽達を圧倒していた。
「芸のない‥‥‥手に取るように判ります!」
 囮として屋敷の正面玄関にて刺客の足軽達を迎え撃つ。重量級の武器大薙刀。その重さと長大さ故に取り扱いが困難なこの得物。使いこなすには相応の体力と技量を必要とされるのだが、その両方が十分ではない菫。とはいえ、大薙刀の長さを活かし足軽達を手玉に取っていた。
 浴びた返り血切った大見得。背には燃え上がる屋敷。それによって生まれた強烈なプレッシャーは足軽達の思考をマヒさせ策もない突撃を促す。それを大薙刀で翻弄して――朝霧霞(eb5862)と東郷琴音(eb7213)が攻撃を仕掛ける。
「いやあぁぁぁぁ!」
 琴音の日本刀が煌いた。
 手近な足軽へ向けての必殺の攻撃――なのだが、初めての冒険というより戦場じみた状況に腰が引けているのだろう。初心者冒険者である彼女は攻撃に一寸出遅れた。
 足軽は琴音に気付き槍で刀を受け止めた。鍔迫り合い。しかし腰の入っていない琴音は、足軽の体捌きと力押しによって地面に倒された。
「―――!?」
 突き付けられた槍。殺される! と覚悟した瞬間、足軽の腕にナイフが穿った。
「早くトドメを刺しなさい!」
 我に返った琴音。立ち上がり日本刀を突き立てる。刀を通して伝わる、肉を貫く嫌な感触。
「霞殿? 助かり――」
 霞の刀が琴音の頭の横を掠めた。
「あなた油断しすぎよ。一対一の戦いじゃないのだから、一人倒しただけで安心するのは早いわ」
 刀を引き抜いた。霞は琴音を一瞥して倒れた足軽からナイフを抜く。
「まだ敵は多いわ。呆けている暇があるなら一人でも多く敵を討ちなさい」
「助かった。後ろから敵が迫っているとは気付かず‥‥‥」
 視線だけ後ろに向けて、事切れた足軽を見つめた。
「己の未熟さを恥じる程今は暇じゃないわ。これだけの戦力差。初心者の貴女ですら貴重な戦力なのだから」
「‥‥‥やれるだけの事はやる。次こそは遅れを取らない」
「期待しているわよ。菫は奮闘してくれてるけど、既に結構な数の敵は屋敷に進入しているわ。実験ねずみ隊の面々と斑淵さんが追っているけど、どうなるかしら」
 護衛対称の、『既にいない人物』を守る為、屋敷内では激戦が繰り広げられていた。冒険者と実験ねずみ隊には知られてないが、既にこの屋敷の持ち主はいないのだ。
「あれだけの大振りの得物。迂闊に近寄れないから敵の足軽達は警戒する事になる。あたし達は側面から攻めるわよ」
 挟撃となれば、数は減ったとはいえ十分に勝機はある。それも基本格闘術に長けた菫と霞がいるのだから、上手く立ち回れば十分に勝てる筈だ。そこへ琴音がソニックブームで援護出来れば更に勝率が増すのだが、初心者故の不安からか、荷物を抱え過ぎてソニックブームを撃てる程の余裕が残っていない。次からは軽装で動いた方がいいな‥‥‥そう琴音は心中改めていた。





「邪魔です!」
 炎に包まれた屋敷の中、斑淵花子(eb5228)の太刀が一閃した。『天国』の銘を持つこの太刀。その銘の通り刺客の足軽を死後の世界へと葬った。作りは古くとも、伝説の名工の作と呼ばれる太刀。真っ直ぐで反りの浅い刃は炎を照らし、帯びた魔力も合わせ天で作られし聖剣のような気品さえ漂わせる。
 ならばその所有者たる花子は天から遣わされた戦士か。人間やエルフなら神の祝福を受けた誰それと言えなくともないが、河童は見た目と現在の状況のせいで化け物のように見える。悲しい事に。
「まさかここまで手段を選ばないとは‥‥‥。襲撃される屋敷の主、何者なのでしょうか?」
 足軽の槍を飛んで避ける。回避技能に長ける花子。屋敷内でそれも、太刀なんて長柄の武器を持っているのに器用に避ける。
 槍ならば突いて攻撃できるが、太刀――刀の攻撃の基本は『斬る』だ。振り回さなければ意味がない。それは室内において振りであるし、脇差やナイフならともかく、太刀ならば余計に振りになる。だから攻撃を仕掛けるには自分の位置と敵の位置、そして場の空間を把握しなければならない。
 足軽の槍が迫る。
「こんな事になるのなら、理由を聞いておけばよかったですわ」
 天国を盾代わりに受け止めた。
 結局、実験ねずみ隊はともかく冒険者には関係のない第三者だ。護衛をするぐらいならそれなりの理由があるのだろうし、理由を教えてくれた方が何かと対策を立てる事が出来る。しかし、それすらないという事は、知られたくない理由があって、知らない方がいいのだろう。
「癪に障るのは間違いないのですが――」
 誘導は成功して、庭に出た。
「冒険者だって良い仕事するんだってトコロを、思い知らせてあげます!」
 天国の刃が駆け抜けた。





 外の敵を殲滅した菫達三人は、屋敷に侵入した敵を討つ為中に入った。自戦力の少ないこの状況、いくら警戒し善戦しようとどこかで無理が生じる。むしろ、侵入された事によって敵戦力が低下して、各個撃破出来た事を喜ぶべきかもしれない。
 菫は気合咆哮、大薙刀を振り上げた。
「大薙刀、今が駆け抜ける時! あたしは刈萱菫。襲撃者を討つ浪人なり!」
 轟き響く前口上。
「乾坤一擲、てやぁぁぁぁ!」
 まさに鎧袖一触一刀両断。豪快かつ無慈悲なその一撃は、足軽を冥府へと送り付けた。
「菫に負けてられないわね。私達も続くわよ!」
 琴音をけしかける。
 二天一流の技の冴、霞は足軽達を踊る様に斬り捨てた。
「二人とも、凄い‥‥‥」
 感嘆する琴音。誰かが走ってくる音がして刀を握る手に力を込めたが、花子だった。
「花子殿? 血相変えてどうした?」
 花子に尋ねた。
「万が一を考えて部屋の中を探し回ってきたわ」
「護衛対称をか?」
「そうだけど‥‥‥でもあれは多分――」
 言いかけて、突如明後日の方向が光り輝いた。
「何なんだ一体――て、何と破廉恥な!」
「あれ、デザインいいですね〜」
 明後日の方向。褌姿の男二人が、跳躍し激闘を繰り広げていた。




「ふはははは! 罪深き者達よ、裁きを受けるがいい!」
 弐牟芭栖の神速の二刀が鹿嶋を襲う。鹿嶋は刀を巧みに操り攻撃を防いだ。
 得倶座舞と得倶座舞の共鳴――強制脚須都男不により褌一丁となった鹿嶋と弐牟芭栖は、風の如く駆け抜け刃を交え続けていた。
「京都の腑抜けどもに仕える忍びにしては大した腕だ。だが、既に目標は達した! 最早貴様らがどうあがこうと結果は覆らん!」
「‥‥‥‥‥‥!」
 褌の力なのか、全身に活力がみなぎる。敵は間違いなく強い。そして形状は違うがおそらく似た効果を持つ褌――条件が同じ以上、着用者の腕で勝敗が決まる。敵の刺客部隊はほぼ壊滅し敗走を始めているが、この男と対峙した瞬間、勝利の確信が消え去った。
 油断したら、負ける!
「これすら凌ぐか。『魔璃怨』が選ぶ訳だ。だがな、真に『魔璃怨』に選ばれし者はこの私だ!」
「‥‥‥‥‥‥‥!」
 駆け抜ける疾風。決着を付ける為、弐牟芭栖は二刀を構え疾走。鹿嶋も風のように疾走。
 交差する二つの褌。下半身は蒼く輝く。
 刃が、何かを切り裂いた。
「まさか、まさかこれほどと!」
 弐牟芭栖は切れた褌を抑える。
「ええい! 調子に乗るなよ! 貴様が勝てたのは、褌の性能のおかげだという事を!」
 鹿嶋も切れた褌を片手で押さえ膝を付く。褌により強化された身体能力。褌の破損により、強化の反動が身体を襲い鹿嶋は後を追う余裕は残されたいなかった。


 敵の刺客部隊の迎撃は完了。敵戦力のほぼ壊滅に対し、自戦力の減少は認められず。完勝と言ってもいい結果だが、屋敷からは身元不明の死体が発見された。実験ねずみ隊の上司かと思われたが彼らの上司は既に京都へ帰京していると聞き、結局誰のものか判らなかったが、任務上、上司を護りきる事が出来て成功と、不信感は抜けぬもの納得する事にした。




――数日後、某所が何者かにより襲撃されある褌が強奪された。そして彼らはそれの奪還命令が下され、鹿嶋は最後に残った褌が貸し与えられた。