初心に帰る事は大事と思うんですよ

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月02日〜10月07日

リプレイ公開日:2006年10月10日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





 どんな職業や鍛錬や戦いでも、やはり日々の積み重ねが大事なものだ。
 仕事ならば自分が使っている道具の手入れ。鍛錬ならば準備体操に始まって素振り。実戦なら基本的な型だろう。
 それはもちろん冒険者とて当てはまる。
 今この時冒険者になった者。冒険者になって数々の冒険をこなした者。冒険者になって有頂天になったり、繰り返した冒険の経験で自分は一流だと天狗になっていたり等、本人は自覚しないでもそうなったりするものだ。
 そしてそういう風になった場合、大抵痛い目を見るものだ。
 いつもならしない筈の失敗。そしてそれの繰り返し。果ては最悪、自分かもしくな違う誰かの死に繋がる。
 知らない他人ならまだいい。だが、命を落とすのが親しい友や家族、愛する人ならばどれくらい悲しい思いをするだろう。
 だからこそ、そんな自分を叱咤する為にも初心に帰らなければならない。
 いつも自分は未熟者だと言い聞かせ、今ある種の高みにいようとも更なる高みを目指す姿勢を持つ。きっとそういう人物こそ大成するものだ。
 一人の冒険者が依頼の張り紙を見た。
 内容は小鬼退治。依頼人は近郊の村人で保存食は五日分。場所は街道外れの先にある林の、丘にたむろっている八匹の小鬼だ。それに対し冒険者の定員は八人。他にこれといった条件もないし、難しい依頼じゃないだろう。
 依頼の内容を頭に叩き込んだ冒険者は、
「小鬼退治なんざ余裕余裕。一人一殺で楽勝ヨオォォォォォォォ!!!!!」
 なんて、初心に帰る必要が本気であるかもしれない。





――後日、他の冒険者が依頼書の片隅に、気を付けて見ないと気付かない一文を見つけた。

『この丘に生えているコケは漢方薬を調合する為、林の木々は良質の材木と為る為、可能な限り傷を付けない事』

●今回の参加者

 eb5521 水上 流水(37歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb6832 川上 幽座(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb7197 今川 直仁(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb7311 剣 真(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb7341 クリス・クロス(29歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7369 乾 宗午(42歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb7421 東野 小弥太(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb7428 サクラ・アスカ(14歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 大まかな作戦として、二つの班に分けた内の一つが囮として小鬼を引き付けた後、待ち伏せていた伏兵との挟撃。芸もないし定番すぎる程定番だ。誰でも思いつきそうな手ではあるものの、こういったものは手を加えなさ過ぎる方が返って効果的な事が多い。それに新人の冒険者の一人が、新人故の勝手の判らなさでこなかったものの、人数を二班分分けれるぐらいにいるから何とかなるだろう。
 まあ、油断さえしなければ難しくはない依頼である。
「とまあこのように、私と今川さんとクリスさんが囮として小鬼を引きつける。戦闘場所まで十分に誘い込んだら残った川上さんに剣さん。そして乾さんと東野さんと共に全員で攻撃。それぞれ各個撃破、または共闘でこれを撃破する。異論はないな?」
 水上流水(eb5521)は道中相談しあって事をまとめ、確認を兼ねてそう締めくくった。
「依頼としてはごく一般的だな。確かに『初心に帰る』のも悪くはないだろう」
 それなりに冒険をこなしているそれなりに名がしれている自分。だからといって図に乗る訳にもいかないし、こうやって気を引き締めるのも必要だな、と流水は誰に言うでもなく頷いた。この参加者の中で唯一の熟練者だ。何となく、皆を引っ張っていかないとな、とそう決意じみてしまう。
 そんな流水に今川直仁(eb7197)が尋ねた。
「囮となるなら、やはりそれらしく見せなければいけないか? 例えば武器を置いていくとか」
「それも一つの手だが、全員が全員無手でやってくるのも逆に怪しまれるな。伐採用の斧やコケを入れる籠を用意している訳でもあるまいし、大の男が群れて突然現れて逃げるのもな」
「では適当に戦うか挑発でもした方がいいか? 偶然通りがかった旅人と思わせるのも悪くないな」
「そんな所だな。で、クリスさんは何か意見はあるか?」
 頷いて、流水はクリス・クロス(eb7341)に尋ねた。
「自分か? 自分も挑発でもして誘き出した方がいいと思うが‥‥‥正直な所、良い案も思いつかない。情けないが貴方方の意見に従おう」
 流水は「そうか」と頷いた。クリスは暦年齢の上では自分の約倍程の年齢ではあるが、冒険者としてはこの依頼が始めてだ。下手に粋がるよりは先達の意見に従おうとしたのだろう。さすが年の功。好感が持てる。
「では、囮班は挑発をして小鬼を誘導する事にして、待ち伏せ班はどうする?」
 とりあえず、手近にいた剣真(eb7311)を見た。何となく名前の読みを変えれば十字傷が印象的な人斬りと同じだが、そんな事はどうでもいい。
「特に何も。――ああ、囮の誰かに錦のハリセンを貸して、小鬼を叩いて怒らせるのも面白いかもな」
「何不真面目な事をおっしゃってるんですか。もう少し真面目に取り組んだらどうです?」
 乾宗午(eb7369)が真を一睨みして嗜めた。僧侶というだけあって、何事も真剣に取り組み真面目だ。そういう性分なのだろう。
 真もふざけて言ったつもりはないが、少し険悪な空気が流れそうになって東野小弥太(eb7421)が間に入った。
「落ち着かれよお二方。きっと真殿は、初依頼で緊張しているであろう拙者等の肩の力を抜く為に言ったに違いないでござるよ。乾殿とてこの初依頼、緊張していないでもないでござろう?」
「――確かに。私にはこの依頼が初依頼です。足を引っ張らない様と少し硬く考えすぎたかもしれません」
 こんな所でいがみ合ってもしょうがない。宗午は自分の役割を述べる。
「戦闘時は回復担当として後方に回りましょう。怪我をした時は、すぐリカバーで癒します」
「では拙者は罠を設置しよう。戦闘に入ったら他の方の邪魔にならぬように立ち回ろう」
 小弥太は宗午に続いた。
「成る程。では川上さんはどう動くつもりだ?」
 流水は川上幽座(eb6832)に尋ねた。
「俺か? 俺も囮をやる!」
「あ、いや。折角やる気を見せてくれているのは感心するのだが、既に囮班は決まっ‥‥‥」
「やっかましい! とにかく小鬼を斬ればいいのだろう。一匹残らず叩き斬る!」
 猪突猛進取り敢えず殴ってから考える。そんな幽座は轟き叫んだ。
「囮なんざ生ぬるい! 斬って斬って斬りまくる。ギルドでも言ったように小鬼退治なんざ余裕余裕! 一人一殺で楽勝ヨオォォォォォォォ!!!!!」
「‥‥‥今川さん。貴方には待ち伏せ班に回って頂きたいのだが」
「心得た。こちらは任せてくれ」
 まあ、戦力は均等に分けるべきだろう。
 流水は額を押さえ、宗教者よろしくクリスは天を仰いだ。





 囮どころかそのままブッ込み特攻しかねん勢いの幽座を簀巻きにしてそこら辺に放り込んだ流水は、目の前の丘を覗いてため息をついた。
「依頼人に場所を聞いてやってきたが、随分と荒れているな」
「そうだな。だが、木の方は量から見れば被害も少ないし、コケも見えにくい場所に生えているからそう問題もあるまい」
「では手筈の通り」
「了解した。それより幽座さんはいいのか?」
「構わんよ。言って判るような手合いでもない」
「確かに。その方が無難だな」
 ひどい連中だ。二人は得物を引き抜いて丘に躍り出た。
「やあやあ。我こそは江戸の冒険者〜」
 随分とやる気のない。自分らのテリトリーに踏み込んできたからか、小鬼は奇声を上げて襲い掛かる。
 二合、三合、適当に打ち合った。
「こ、これはたまらん」
「うわぁ〜。助けてくれ、殺される〜」
 尻尾を巻いて逃げ出した。途中、捨て置いた幽座は掴んで引きずり回す。
「んー! んー!」
 逃げ回る中、色んな所にぶつかりわめく。途中、何かもの凄い音がしたが気のせいに違いない。
 広けた場所に出た。小鬼達も全員、群れをなして付いてきた。
「逃げる振りはここまでだ」
 流水は足を止めた。今まで全力疾走しての急ブレーキだから、引きずられてた幽座は弧を描いて綺麗に頭から地面に落っこちた。
「よし、一気に殲滅するぞ! 川上さん。出番だ!」
 拘束を解く。
「流水! 後で絶対シメる!」
 日本刀を抜き放つ。手近な小鬼に斬りかかる。
「オラオラオラァ! テメェ等全員斬り捨てるぞコラァ!」
 バーサク状態とはこの事か。鬼のような形相で刀を振り回す。
「魔物にも魔物の都合があるだろうが、悪く思うなよ」
 新陰流の技の冴。真の霞刀が小鬼に襲い掛かる。必殺の刃が小鬼の頭をかち割った。
「さすが真殿。見事な腕前。拙者も負けておられん!」
 とりあえず逃げ回りながら言う台詞じゃない。二匹かかりで追われている小弥太は、状況の割には結構余裕だ。
「宗午殿! じっと見てないで援護を!」
「そうしたいのは勿論なんですが、私は回復を担当すると言いましたので。まあ頑張ってください」
「それが坊主の言う事か!?」
 口に出した以上それ以外はやる気がないらしい。約束をなんとしても守ろうとする性格らしいが、そういうのは時と場合によるものだと思う。どの道結構いい性格している。
「ええい! 忍びの道は修羅の道ィィィィ!!!」
 忍者刀片手に躍り出る。人間死ぬ気になれば力が湧くもので割と善戦している。そんな小弥太にクリスが助けに入った。
「おお! かたじけない!」
「気にするな。確実に一匹ずつ倒す!」
 仕込み杖の白刃が煌く。小弥太との連携で小鬼を切り伏せた。小鬼の腕を斬って捨てた直仁は二人を見て「中々にやる」と呟いた。
「さて、情けをかける義理は無いからな。覚悟してもらおう」
 どういう経緯で丘に巣食ったのか知らないし、依頼である以上は遂行しなければならない。直仁は、既に戦意のない小鬼へ日本刀を振り下ろした。





 忍者技だのなんだのを駆使してキレた幽座から逃げ切った流人は、依頼人から漢方薬を頂こうと調合が終るのを待っていた。直仁と宗午は小鬼の亡骸を埋葬しに行っている。直仁は放置は迷惑だろうという理由でやっているに過ぎないが、宗午は僧侶として思う所があったらしい。
「しかし川上さん。もう少し周りに気をつけて戦えなかったのか?」
「ふん、苔なんて無ければ楽だったよ」
 そっぽを向いて悪態をついた。
「未熟な‥‥‥。自分の腕の未熟さを環境のせいにするものではないぞ」
「人を簀巻きにして引きずりまわしたやつの言う台詞か!」
 違いない。
 小弥太と無事生き残れて神に感謝しているクリスと違って、無駄に武芸に秀でているせいかやっぱり癪に障らしい。ちなみに真は疲れたといって爆睡している。つい先刻まで斬りあいしていたのに肝が据わっているものだ。
 まあとりあえず、依頼は成功である。