冒険の始まり
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月07日〜10月12日
リプレイ公開日:2006年10月15日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
今日、俺は初めての冒険の依頼を受けるつもりだ。
冒険者になってまだ数日。日は浅いとはいえ、日々の鍛錬は重ねてきたし勉学も励んできた。例えどんな困難に見舞われようとも、この鍛えぬいた技と身に付けた知識で解決できる筈さ。
え? 何で俺が冒険者になったからって? もちろん世の為人の為に決まってるじゃないか。
戦国乱世のこの時代。何かと物騒な事が多い。剣や魔法、または資金力に優れた人ならそれらを駆使して解決できるけど、ほとんどはその日暮らしの人ばかりじゃないか。
そんな人達の多くは、トラブルに見舞われたら、ほとんど泣き寝入りするしかない。そんなの黙って見てられないじゃないか。俺には昔から鍛えぬいた技がある。この力、世界中の皆の為に使いたいって思うのは当然だろ?
綺麗事すぎて怪しいって? どうせ口だけだろって? オーケーピルグリム。正直に言うぜ。本音を言うと、金と名誉が欲しい。おいおい、そんな所だろなんて言うなよ。
でもさ、それと同時に世の為人の為に働きたいってのも本当だぜ。
冒険者ってのは色々な仕事を請け負うもんだ。
近郊の魔物退治や要人の護衛とか、どっかの店の小間使いなんてのもするし、果ては本当に冒険者が必要なのかどうかな仕事もあるんだ。――それに、実力を持って有名になれば、このジャパンの国の行く末を決める戦争の切り札としてもだ。へへっ。男として生まれたら、そういうの憧れるよな。
それに冒険よろしくスリルを楽しめたり、一生をかけても使い切れない財産を築く事も出来る。依頼ってのは何かと困った事が起きてそれの解決を求める人がいるんだから、スリルと報酬と依頼人の感謝で一石三鳥。活躍したら有名になって名が売れる。成功が前提だけど、いい事づくめだ。
さてと、今公開されている依頼を見るとするか。俺が受けれそうな依頼は‥‥‥この小鬼退治の依頼か。
俺の晴れの冒険者デビューは小鬼退治なんてしょぼいけど、こういうのは何事も最初が肝心だよな。かの大軍師様だって、緒戦こそ大勝すれば後の戦を有利に運ぶ事ができるって言ってた。だからこそ、一番初めの依頼は難しすぎず簡単すぎず‥‥‥この小鬼退治にしとくか。
定員は八人で、退治する小鬼は四匹。小鬼一匹に対し二人ずつで攻撃すればまず負ける事ないな。卑怯くさいが俺だって怪我したくないし、下手すれば死ぬ事も考えるし危ないマネは避けたい。詳しくは他に受けるだろうお仲間の冒険者と相談するか。
小鬼のいる場所はこの江戸の街から離れた廃寺か。往復五日もかかるし、費用は冒険者持ちか。職業別に色々と必要なものもあるけど、とりあえず保存食は五日分必要だな。こいつはエチゴ屋に売っているから後で買いに行こうかな。
他は‥‥‥特にないか。小鬼退治で保存食五日分。後個人で必要とされるものは各々調達する事。
さて、依頼を受けるか‥‥‥って、『予約』? 何だこれは。
――ふむ。成る程な。気に入った依頼があったら、正式に冒険者を募集する前、その依頼を受ける権利を得る為の先行予約ができるのか。それも確実じゃなく、予約の定員は募集冒険者の半分。それを超えたらランダムで決まる仕組みか。それも予約落ちたらそれに支払った金は返ってこない。懐と相談って所だな。
それに冒険に参加した場合、まず作戦ルームで挨拶をしないといけない。経験者曰く最低限挨拶は暗黙の了解らしいというか挨拶は人として当然というか、俺はまだ勝手が判らないからな。
そうそう。挨拶の時、自分のスキルも公開するといいんだぜ。そうすればお互いに所有スキルから得意戦術が判るから作戦も立てやすい。それと噂に聞いたんだけど、スキルを書き込む際、『マイページ』にあるスキル覧を『コピペ』すると簡単なそうな。マイページとかコピペとか何の事か判らないけど、きっと冒険者の専門用語だな。難しい事はおいおい覚えていけばいいか。
後は冒険の際、どういう方向で動いていくかを決めなければいけない。お仲間と作戦ルームで相談するんだ。皆が皆、勝手に動いたら成功するのもしないからな。それに最初は作戦ルームで意見するのも気が引けるけど、そこは恥を覚悟で発現だ。人間誰しも最初は失敗あるんだし、それを繰り返して大きくなっていくと思うんだよ。まだ作戦ルームで話題が上ってなかったら自分から作るのもアリだな、ていうか受身ばかりだと、最悪誰も発言しないまま冒険出発なんて事も考えられる。それは出来るだけ避けたい。
一線で活躍している先輩冒険者も参加してくれたら色々な事も聞ける。冒険者酒場で質問をするのもいい。
さてと、一通り頭の中に叩きこんだ。どうしようかな‥‥‥
「キミもこの依頼を受けるの?」
取り合えず受付のギルド員に話を聞きに行こうとしたら、一人の女性冒険者が声を掛けて来た。‥‥‥綺麗な人だ。何か初々しいというかギルドの中で浮いているというか、ああ成る程。俺と同じ初心者冒険者か。
俺は、「そうだけど」と答えた。
「そうなんだ。私も受けようかなーって思ってたんだけど」
彼女はほっとしたようにため息をついた。
「実は私、冒険者になったばかりでまだ勝手が判らないの」
俺も同じなんだけどね。
「この依頼受けるかもしれないし、もし一緒に参加する事になったら、初心者同士一緒に頑張りましょうね」
もちろんさ。それより、これからお茶でもどうだい?
――俺の冒険者デビュー、必ず成功させてみせるぜ。
●今回の参加者
ea0276 鷹城 空魔(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
eb7167 八頭 大(26歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
eb7311 剣 真(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
eb7341 クリス・クロス(29歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
eb7534 アレフ・タウ(24歳・♂・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
eb7540 草薙 武斗(25歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
eb7550 シャクヨウ(23歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
eb7597 風見 烏(24歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
●リプレイ本文
イスパニア王国を発って幾星霜。青雲の志を抱いてているのか知らないが、遠くイスパニアの地からジャパンが江戸に訪れたアレフ・タウ(eb7534)はシフールらしくその辺り陽気に空を飛んで回っていた。
季節は秋。とはいえまだこの時期は日中は十分に暖かい。江戸の街並みを思い出せば子供達が薄着で遊びまわっていた。結構な日和である。
まあ、そんなこんなで目的の廃寺に向かうのも特にこれといった障害もなく順調に進んでいたのが正直暇だ。本当なら後四人アレフと同じ初心者冒険者が同行する予定だったが、初心者よろしく勝手が判らなかったのだろう。結局この場に現れなかった。
それはそれとしてイスパニア王国出身。ジプシーのシフール、アレフ・タウは、ジャパン語のスキルを習得して置けばよかったと心底後悔していた。
今回の依頼を受けたメンバーの内の一人はイギリス王国出身者であるものの、ジャパン語スキルを身に付けていて他のメンバーと雑談しながら歩いてる。シフール語以外にスペイン語を結構な腕前というか口前で喋れるのだが、今回において全く必要ない。ギルドにいた時は通訳のシフールを挟んで会話だの筆談だの出来たが、いざ出発するともの凄く暇だ。やる事がない。この疎外感は何だろう?
とりあえずギルドで通訳してもらった事を思い出す。
『ます持ち物を整える』
『野営用の道具、寝袋。提燈、松明等の照明器具』
『点火用の油に火打石』
『食料の保存食五日分』
基本中の基本だろう。何をするにしても、準備が整ってなければ成功するものも成功しない。
通訳を挟んでいるので硬い言い方だったものの、百面相のように表情が変わる鷹城空魔(ea0276)は陽気な性格だと伺える。保存食は調達を忘れたから志士という職業の剣真(eb7311)に分けてもらったけど。改めてお礼を言わないとな、アレフは思う。
そして次は装備らしい。説明するまでもないが、戦う為の武器防具。さすがにこれを身に付けないと戦いにすらならない。華国の武道家なら別なものの、お国が違えば武芸も変わる。途中で話しに飽きたアレフは空魔の話から逃げて飛んでいった。
そういう訳で、今のアレフはナイフもマントもバックパックに突っ込んだままだ。それ以前に格闘術のスキルを身に付けていないし精霊魔法のスキルを習得しているものの、肝心の魔法の方は習得していない。どういう理由でこの戦闘依頼に参加したか気になるが、まあ、その辺は色々あるのだろう。
それにしても本当に暇だ。とりあえず飛んで回っているものの、言葉が通じないのは本当に辛いものがある。
何となく、真が騎乗している馬の前を通り過ぎる。
「おわぁっ!」
小さいから餌か何かと思ったのだろう。食われかけた。
「――とまあそういう事で、やって来ました廃寺に♪ 今回俺は初心に帰るって事で頑張るぜ!(ジャパン語)」
お天気お姉さんみたく口上を述べて、空魔はヒットマンスタイルで拳を素振った。龍叱爪が唸って吼える。
好奇心旺盛らしく何かの本で覚えた言動を真似ているらしい。「フリッカージャブ。フリッカージャブ」なんてどこの国の言葉か知らないが、そんな台詞のたまいながら繰り出す拳は、人間をそこに置いたとするとその全てが人体急所の位置に寸分狂わず打ち抜いている。幼い顔して結構怖い性格している。
「いざ戦闘前にその陽気さはどうかと思うが、この人数では頼もしい限りだな(ジャパン語)」
「クリスさん。あなたも人の事言えないぞ? そんな物騒な恰好して正直怖いのだが(ジャパン語)」
クリス・クロス(eb7341)に真が突っ込んだ。
「何を言う。あなたとて戦場に馳せ参じる時は相応の武装に身を固めるのであろう。小鬼退治とて同じ事。油断すれば命を落とすのは明白だ(ジャパン語)」
「まあ、それはそうだが‥‥‥(ジャパン語)」
クリスの言はどこも間違っていない。
「というかだ。イギリスの神聖騎士殿が武者鎧を身に付けるのはどうかと思うぞ(ジャパン語)」
違いない。よく考えなくても普通に違和感全開だ。
「まあそう言うな。自分とて贅沢を言えば母国の鎧を身に付けたいが、必ずしも自分の希望の武具を使えると限らない。故にその土地によって使われる武具で賄うべきだ(ジャパン語)」
「歳の功というやつか。よく考えているな(ジャパン語)」
言葉が通じないからアレフにはやっぱり判らなくて、廃寺の前を適当に飛び回っていた。
「突貫――!(ジャパン語)」
異様なハイテンションのまま廃寺の戸をぶち破り、空魔が龍叱爪片手にブッ込んだ。アレフもそのテンションについ誘われて突っ込んだ。
刹那振り下ろされた棍棒。空魔に向けられたものだったのだろう。アレフの真正面を走った。
「そんな攻撃なんて無駄無駄無駄ァ! 出鼻を挫くって事で陸奥流の奥義を喰らいやがれ!(ジャパン語)」
鬼のように殴る。殴るのが忍びの奥義ではないが、とにもかくにも龍叱爪が唸って吼える。
「よっしゃ! じゃあ二人とも、後よろしく!(ジャパン語)」
遅れて内部に踏み込んだクリスと真が、それぞれの得物を手に小鬼へ斬りかかる。
「アレフさんを数にいれないから二対三か。この勢いのまま、一気に片付ける!(ジャパン語)」
ひるんだ小鬼に真の霞刀が迫る。だが室内における長柄の不利。斬りつけたものの致命には至らなかった。
真はクリスを見た。魔力を帯びた橙紅色の修羅の槍。繰り出す技の姿、地獄の業火が燃え上がるようだ。
「器用に使っているな。いくら長くても突くだけなら周りに気を付ければ問題ないのか(ジャパン語)」
真は突きの構えを取る。狙い澄まし小鬼を貫いた。
冒険者にとって小鬼は別段手ごわい相手でもないが、これといった戦闘手段を持たないものにとっては十分な脅威だ。
なのでこれといった戦闘手段を持たないアレフは鬼のような形相で逃げ回っていた。武器も持ってないし小さいし、小鬼からは恰好の得物だ。アレフは何も道具を持ち合わせてないから身軽だとしても、後ろからそれこそ言葉通り、鬼がそんな形相で襲ってくると逃げ回るのは必死にもなりまくる。
結構というかもの凄く必死だ。
「来! る! な〜〜〜!!!」
とにかく飛んで逃げ回る。逃げて逃げて逃げ回って、羽を通常の三倍とばかりに動かしまくる。神の領域に届かんばかりの速度を生み出しそうな、そんな錯覚すら覚える。
人間――シフールだけど――必死、それこそ命がかかればいつも以上の力が引き出せそうな気のするものだ。
「アレフさん。伏せろ!(ジャパン語)」
飛んでいるのに伏せろと言うのはどうかと思う。ジャパン語が判らないからどの道意味はないけど。
「――へ?」
振り向いて、凄い風圧がアレフを襲った。地獄の業火――修羅の槍がアレフの上面を通過する。
身体が小さいし、飛んでいる事もあってふんばりも効かなかったのだろう。クリスの放った修羅の槍に風圧に吹き飛ばされてしたたか床に叩きつけられるのと同時に、小鬼は断末魔の悲鳴を上げた。
江戸へ帰る途中、空魔に真、クリスのジャパン語を喋れる面々は依頼成功を祝って互いの健闘を讃えあったりしているのだが、やっぱりジャパン語が判らないアレフはその輪に入れなかった。つまり暇である。
「ジャパン語学んでおけばよかったなー‥‥‥」
三人を見てアレフは呟いた。