男たちの祭典

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月17日〜10月22日

リプレイ公開日:2006年10月26日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――






 草木も眠る丑三つ時、生い茂った森の中。その中央で大きな櫓が燃え盛っていた。
「祭りじゃぁぁぁ! 宴じゃぁぁぁ!」
「伝説の聖地。ソドムとゴモラの再現じゃぁぁぁ!」
「筋肉の祭典じゃぁぁぁ!」
 燃え盛る櫓を中心に、たいまつだの石槍だの、どっかの部族の仮面を被ったりとひたすらに踊って回る。その中に石の仮面をつけたマッシブなおにいさんもいるが、何かが足りない気がする。額に宝石だろうか。
 とまあそんなこんなでこの祭場(仮定)。汗で輝く異様にマッスルボディで褌以外生まれたままの姿の、これまた爽やかすぎる笑顔が異様に怖いビルダー達が悪魔を召喚しそうな勢いで踊り狂っていた。炎が部分部分照らしその上明かりの強弱で余計に不気味さが際立っている。
「た、助けてください! どうか命だけは!」
「はっはっは。落ち着かれよお客人」
「私は何も見ていません! 夜も更けたから早く村に帰ろうと近道したら偶然なんです! 信じてください!」
 椅子にくくりつけられて早四時間。逃げる事も叶わず自らの意見も通じず、彼女は今日始めて、親の言いつけを守ろうとしなかったのを後悔した。母さんは言っていた。「夜は物騒だから陽が暮れない内に帰ってくるんだよ」。父さんも言っていた。「男は狼だから夜中に出歩かないように」。出歩いてしまった。そして捕まった。いかにも自分を焼くために燃え盛っている炎の前に踊り狂う狼達に!
「勘弁してください! 私は誰も言いませんから家に返してください! 助けてくんろおっかあ!」
 どこのか知らないけどお国言葉まで。錯乱しているが、いっそアタマの線が切れた方がまだいいかもしれない。
「落ち着かれよお客人」
「い、いやぁ! 筋肉が! マワされる!」
「落ち着かれよお客人!」
 決まるダブルバイセップス・フロント。唸りを上げる上腕二頭筋。総前面部の筋肉が娘の顔面ゼロ距離、触れる触れない距離でみちみち軋みを上げる。
「ひぃっ!」
 恐怖が娘の許容量を振り切った。華奢な身体のどこにあったのか、ロープを引きちぎり逃げようとしたけど椅子に足を引っ掛けてそのまま後ろにぶっ倒れた。
 火花散る瞳をうっすらを開けると眼の前一杯に広がる宝物。
 どこの国のか知らないが、一糸纏わぬマッシブな全裸の男神像。彼らのご神体らしい。そして股にぶら下げているのも、これまた異様に逞しい宝物。
 またまた娘の許容量が鬼のような勢いで振り切った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 耳を劈く超絶叫。娘は白目を向いて気絶した。


――一刻後。


「落ち着かれたかお客人」
「‥‥‥ええ。とりあえずは」
 来賓席で味噌汁のような豚汁のような、彼ら曰く『漢汁』を頂きながら彼女は頷いた。
「寒くなってきたここ最近。これを飲んで温まるがよい」
「どうも‥‥‥」
 口調はともかく、この筋肉は意外と紳士だ。彼女は特にする事もないので漢汁を飲む。具も大雑把で味付けも大雑把な感もあってかなり大味なものの、これはこれで中々に美味い。
「この汁美味しいですね。ダシは何を使ってるんですか?」
 何となく尋ねた。
「ダシですと? それは勿論我らの輝き映える汗だ!」
「汗!?」
 水圧で穴を開けんほどの勢いで汁を吹いた。
「いかにも。我ら筋肉を愛しトレーニングを愛するビルダー達。そんな我らから流れる汗は最高の調味料にしてダシとなる。つい先ほど、お主が食した魚とて我らが汗が染み込んでおるわ! その漢汁とて交代で鍋に我らが一晩浸かった熟成物。そこいらの味噌汁なんぞ足元にも及ばんわ!」
「何て物を食べさせるんですかぁ!?」
「照れるなお客人」
「どこが照れてるように見えるんです!?」
「偶然にしても我らが祭りに訪れたのも何かの縁。今宵は陽が上がるまでもてなそう」
「スルー!? ていうか朝まで!?」
「いかにも。客人を持て成さずして何がビルダーか」
「結構でヒィッ!」
 凄い勢いでそっぽを向いた先、外国人だろう。食い込みすぎて宝物がもっこり過ぎるほど浮き上がった褌のマッスルが娘の顔面直前にいた。宝物を前に押し出して。
「助けておっかあ!」
「安心なされよお客人。我らは基本的に汚らわしい女子に興味はない」
「汚らわしい!?」
 速攻マッハで振り向いた。
「いかにも。我ら筋肉を愛し筋肉を愛する者を愛する正義のビルダー。かの聖者は同性愛こそ真実の愛とおっしゃったように、我ら鍛えぬかれ鋼の精神を得たビルダーに、この世の邪悪の権現たる女子に興味の一欠けらも抱かんよ」
「邪悪!? つーか真実の愛!?」
 一部の趣味の人にとってはそうに違いないだろうが、そんな事本気で言っている辺り、世の中のビルダーさんたちにもの凄く失礼だ。
 ハイになった彼女は近づいてくる気配に気付かない。生暖かいモノが後頭部に触れた。
「はふん!」
「むう。イッたか」
「何処にですか!」
 もう泣いている。食い込み褌の男は幸せの絶頂とばかに至福の笑顔だ。
「まあそれはそれとして」
「話を逸らさないで下さい!」
 しかしビルダーはやっぱりスルーする。
「まだまだ夜は長い。夜明けまで我らが宴を楽しむがいい! 筋肉の誇りにかけて!」
「いっそ殺してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 三百六十度踊り踊る筋肉たち。どこがで「オゥイエェ〜」とかくぐもった二人の男の声が聞こえたが、気のせいだと思いたい。
 人生最後の光景としては悪夢に程があるので、とりあえず理性が先にブチ切れた。





「この森を調査してほしいんだが、ついでに頼まれてくれないか?」
 ギルドで依頼内容を伺っていた冒険者たちは、ギルドの隅っこで震える娘を見た。
「ああ。あの娘に関係ある事だ」
 ギルド員は何を想像したか知らないが、哀れみの視線を投げかける。
「元々この森、新開発で開拓される場所と決まってるんだが、最近になって異様にマッシブな連中が現れているらしい。野党の類なら追い払うべきだが、そのマッスルばりに近郊の役人達は腰が引けていてな。それで色々な部署に回ってきた挙句、依頼になったんだ」
 ギルド員はため息をついた。役人もしっかり仕事をしてほしいものだ。
「それで彼女はその森にいたらしいが、マッスルな連中の所にいたんだぞ? きっと‥‥‥つらい思いをしたに違いない‥‥‥」
 地獄のような光景(娘視点)を逃げる事も叶わず見続けただけだが。
「人としてそんなの許せないだろ? だから、森の調査とマッスル連中を追い出してくれ。元々の依頼も不法占拠者を追い出す事もあるんだし、大して変わらないけどな」
 虚ろにぶつぶつ呟く娘を見て、冒険者は頷いた。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb7369 乾 宗午(42歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb7416 藍 采和(68歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb7840 葛木 五十六(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb7981 カエ・ユエリミア(22歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●サポート参加者

ネム・シルファ(eb4902)/ 火野 仙吉(eb5190)/ 葛木 五十六(eb7584

●リプレイ本文

「まあ、アレね。言うまでもないけど、か弱い女の子をこんな酷い目にあわせるなんて許せないわよね」
 どっかの草むら。森の中で繰り広げられている暗黒大魔境を覗きつつ御陰桜(eb4757)は呟いた。
「祭りじゃぁ! ワシの筋肉が喜び悶えるんじゃぁ!」
「お客人! 我らの筋肉美に酔いしれるがいい!」
「筋肉神のご加護の下に! 筋肉神のご加護の下に!」
 どこの神様だ。
 草木も眠る丑三つ時。櫓燃え立つ森の中。異様に逞しくて頼もしそうなマッスル達が踊り狂っていた。褌以外生まれたまま全裸のマッスルボディ。身体を滴る汗は炎の灯りに照らされ、その異様なまでに爽やかな笑顔と共に輝いていた。見ようによってはどう見ても、目標だの夢だのに打ち込む汚れのない好青年のように輝いて見える。
 それが第三者に迷惑をかけなければ本当に応援したくなるぐらいに。
「お願いします! 助けてくださいお家に帰してください!」
「何を申されるお客人。宴は今始まったばかり。存分に楽しむがよい!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
 近郊の村娘だろう。服装を見る限り夜中にこっそり抜け出した感じ。若い娘がこんな時間に出歩くなんてジャパンの将来が心配だが、まあ、そんな事はどうでもいい。
「それより助けなくていいんですか?」
 一緒に覗いている葛木五十六(eb7840)が尋ねた。
「あの『びるだぁ』達は一応もてなしてるつもりなんだし、別にいいんじゃない?」
「そんな薄情な」
 まあ、狼藉を働く事はないだろう。
「というか拙者は森の調査と聞いていたのですが、もう少し話しをよく聞いておけばよかったです」
 踊り踊る幾多の超筋肉。全裸の男神像は普通に刺激が強すぎる。破廉恥と思う反面、心なしか恥かしいような照れるような。
 五十六は思い出したように桜に尋ねた。
「そう言えば桜殿。先ほど記録係が酷く怯えた様子でしたけど何か心当たりあります?」
「ああ――。ちょっと脅――何でもないわ。それよりセクハラ男って死んだ方がいいと思わない?」
「‥‥‥まあ、そうですね」
 五十六は疑問符を浮かべて答えたが、気のせいだろうと再び祭場を覗いた。桜が一瞬、悪鬼羅刹鬼子母神、夜叉や鬼女のような凄惨な表情を浮かべたのは気のせいに違いない。
 桜は全裸の男神像や異様に頼もしそうなビルダー達を見て呟いた。
「ふむ。大体ああいう感じが好まれるのかしら」
 ビルダーにとっての理想の身体つきをイメージする。鍛えぬいた忍びの技が光って唸る。
「それじゃあたし、ちょっくら行って来るわ」
 颯爽と歩く桜の後ろ姿がかっこいい。五十六は「なんであんなに平気なのかなー?」と呟くが、桜は自分と違って経験豊富な冒険者だ。あんなのが平気になるぐらいの修羅場をくぐってるに違いないと思う事にした。
 五十六はまだ覗いているというかいち女として警戒してると‥‥‥
「ここにも新たなお客人!」
 異様に逞しくて頼もしいマッスルボディ。スキンヘッドがステキなビルダーが、彼女の超目の前に現れた。
「ククク。今日は千客万来。お主も我らが宴を楽しむがよい!」
「け、結構です! 謹んでご辞退――ていうか拙者の話しを聞いて下さい! 引き摺らないで下さいよ!」
 鍛え抜かれた超筋肉。抵抗なんてままならなくて、
「い、いやぁぁぁぁぁ!!!」
 轟き唸る超筋肉。その群れとそれから流れる鬼のような汗で軽く気が狂いそうになった。




 迷い込んだ村娘と共に恐怖や生理的嫌悪や女としての危機感諸々で、理性が遠いところに飛んでいった五十六は、村娘と共にがっくんがっくん頭を揺らしていた。さすがにどっかの黒魔術ばりの光景を、逃げる事も叶わず見せられ続ければそうなってもおかしくはないが、そんな事はどうでもいい。
 燃え盛る櫓を中心に、異様に盛り上がって逞しいマッスルボディが踊りに踊る。
 乾宗午(eb7369)は漢汁を飲み干した。
「ありがとうございました。お陰様で生き返りました」
 礼儀正しく深々と宗午は頭を下げた。原材料は既に聞いているものの、お坊さんだから食べ物を粗末にしないというか保存食忘れて即身仏になりそうな勢いだったから食べる物は何でもおいしい。
「うむ。そう言って頂けると我々も作った甲斐がある。まだまだある故にたんと食べるがいい」
 ありがとうございます、と宗午は二杯目をもらった。
「しかしこういう祭りもあるのですね。考古学を学ぶ者として、実に興味が沸きます」
「ほう! それはちょうどいい。我らとしても筋肉を愛し筋肉を愛する者を愛する者。世に広まり理解者が増えていただけると実にありがたい事だ」
 盛り上がる上腕二頭筋。ぼっこぼっこん喜びを表しているのだろう。身体中の至る所の筋肉が超躍動。
 何か危険を感じたのだろう、
「僧には男色家も結構いますけど、私は女の人が大好きですよ? それはもう遊郭に通い潰すぐらいに!」
 どこの生臭坊主だ。本気と書いてマジというぐらいに後ずさった。
「ククク。何を怖がってらっしゃるお坊殿」
「なら舌なめずりしないで下さい」
「フハハハ! 穴の奥までもてなすのがビルダーよ!」
「結構です!」
 ビルダーの超筋肉が轟き唸った。





「ラァァァットスプレッド・フロントォォォォ!!!」
 鎖武、もとい桜の轟き唸る超筋肉が光って唸る。
 盛り上がる背筋。みちみち軋む超筋肉は、腕の隙間からその先が見えない程盛り上がり、まさに羽を広げんとばかりに背筋が轟き唸る。
「キサマ等開発予定の森にたむろし、近隣の者等に不安を抱かせる悪党共。ワシの筋肉の超絶美技に酔いしれるがいいわァァァァ!!!」
 ダズリングアーマーでもあるまいし何故か桜が光って唸る。
 鍛え抜いて逆に骨格の妨げにならんとばかりに盛り上がる筋肉。褌一丁のその姿は只でさえ逞しすぎる超筋肉を更に強調し、スキンヘッドが妙に決まって近寄りたくない。
 どこから見ても異様なまでに逞しいマッスルボディなのだが、人遁の術でビルダーに化けているのだ。口調も変わっているし、これが素だったら何もかもがもう嫌だ。
「ククク。鎖武とやら。突然我等が宴に乗り込んできて何かと思うが中々にやるな。だがしかし! その程度で真なるビルダーに勝てると思うてか!」
 真なるビルダーらしいマッスルボディが跳躍する。何んでか後光。
「サァァァイドトライセップゥゥゥス!!!」
 轟き唸る上腕三頭筋。異様なまでに爽やかな笑顔に殺意が沸いた。
「うぬぅ!」
 みちみち筋肉が軋みを上げる。
「どうあっても聞けぬというならば、ポージングで決め倒してくれるわぁ!」
 筋肉達が踊りに踊った。





 草木を分け逃げ回り、宗午は割と人生の危機に陥っていた。耳を澄ますと、
「坊主狩りじゃぁ!」
「穴掘りじゃぁ!」
「狩りの始まりじゃぁ!」
 なんて、たいまつ片手に筋肉達が山狩りならぬ森狩りをやっていた。
 何かもう、男として本気としてまずい気が全開だ。
 まあ、そんな事はどうでもいいのだが、宗午は数珠片手に「オンキリキリバサランンキリキリバサラン!」とか本気で祈って逃げ回っている。違う意味で自分の身がかかっているのだからもう必死だ。
「あそこまで、あそこまで行けば大丈夫な筈!」
 木々を掻き分けて宗午は走る。走る走る。一つの大きな木に腰をかける。周りの木々より一つ群を抜いて、夜自体の暗闇もあって隠れるには十分だ。
「それにしても聞く耳持たずですか。やはりああいう手合いには力押ししか通用しないのでしょうか?」
 宗午はため息をついた。
 いくら冒険者とはいえ、宗午は僧侶が本職。どちらかというと寺に引き篭もって念仏を唱えるのがやはり性に合っている。僧侶ならば立派な例え話でも話して場を収めるところだが、その話しすら通用しない相手となると役には立たないものだ。
「おや、宗午さん?」
 がさがさと茂みを掻き分けて、瀬戸喪(ea0443)が現れた。このうっすらな月明かりの中でも判る、何かやり遂げたようなもの凄くすっきりした顔立ちだ。何故だろう。逆に嫌になるぐらいつやつや輝いている。
「喪さん? 姿が見えないと思ったらこんな所で一体!?」
「フフフ。少々ハメを外しすぎたんですよ」
 喪はにこやかに答えた。
「こ、これは何事です!? 誤瑠碁無の仕業ですか!?」
「いやいや。王様な石は持ってませんから」
 何かよく判らないけど危険だ。
「実に、そう。美味しい材料でしたので、調きょ、いえ、話し合いをしていたのですよ。ああいう手合いは説明したところで判ってくれませんので」
 矛盾しているが、喪の後ろの茂みの中、鞭でしばかれまくったビルダー達が恍惚な表情を浮かべて悶えていた。
「フフフ。本当に可愛い人たちでしたよ。いい悲鳴で鳴いてくれました」
「そ、そうですか。あのまっするな人はお尻を抑えてますがどうかしたんですか?」
 宗午は脂汗びっしりで尋ねた。
「あれですか? 喰いました」
「喰った!?」
 速攻マッハで突っ込んだ。「冗談ですよ」と喪は苦笑したが、同性愛者で基本ドSらしいから冗談には思えない。
 何故か本能的な危険を感じて後ずさろうとして、
「ここにいたかお坊殿!」
 ビルダーがポージング決めて現れた。
「最早逃げられはせぬわ! 諦めて我らにもてなされるが良い!」
 月が輝く森の中。周りは瞳が光る狼の群れの如くビルダー達が包囲網を狭めている。
「結構です!」
 月光の杖を構えなおした。



 乾いた声で笑う五十六や疲労困憊でぶっ倒れている宗午を他所に、喪はビルダー達に役所からの胸を伝えた。
「ふむ。そういう事ならば致し方ない」
 あっさりと退いていくビルダー達。今までの苦労は何だったんだ。
 最近の新人冒険者は、新人故の勝手が判らないからかいざ冒険当日に現れない事が多い。良い意味でも悪い意味でもというか悪い影響しか与えなさそうだったこの依頼。新人で唯一現れた五十六にはもの凄く強烈だったらしい。
 いい加減煩くなってきたので桜は五十六の首筋にチョップを打ち込んだ。