それ行け! 萌えっ娘あしゅらたん☆
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月30日〜11月04日
リプレイ公開日:2006年11月07日
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●オープニング
華の都京都。
神皇陛下お膝元のこの都市は、古くから遥か遠き国へと続く月道が確認され、それを確保する為に街は事細かく計画され、造られた。その為各地から月道を利用しようとする人達が集い、現在の京都情勢も相まってちょっとした混沌の様相を醸し出している。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
古来より、もののふとはゲンを担ぐものである。
いざ戦場にはせ参じらん時。いざ宿敵と決着を付けん時。いざ大事な商売を成功させようとする時、どうか勝てますように、と神仏に祈りに行くのはよく見る光景である。そういうのを自分に自身が持てない軟弱者だという者もいるが、超常的な存在に祈り、その加護を得たような気分になって心の安定を得る事は、いざ決戦を迎えようとする者にとってはひどく重要な儀式だ。
阿修羅教。
インドゥーラやモンゴル。華仙教国等で主に崇められているこの宗教は、偉大なる戦神の名を冠しているだけあって、その信徒たるパラディンや僧達はそれこそ鬼神の如き無双の力を持つ。そんな神様に拝めばそれこそ鬼のような力を得られるに違いない‥‥‥と思う人はいない事もない。
ジャパン人は他の文化や風習を偏見の目で見らず受け入れ、自分達が使いやすいよう改良し取り込む民族性を持つ民族だ。悪く言えば自分に取って都合がいいからお参りに行く。そういう片面で考えればいい性格しているものだ。
正月は神社。葬式は仏式。そういういい加減――他国の人から見れば――なジャパン人を見て厳格で有名な阿修羅教の人は当然怒りもする。宗教上な理由もあるが、そんなこんなでお参りに来た参拝客を全て撃退してしまったのだ。
中にはお子様もいたし試験の合格祈願をする者もいただろう。とにもかくにも力ずくで殴り飛ばした。当然そんな事やってしまえば役所が出張ってくるし近隣住人からの評判は最悪だ。
阿修羅教の布教員の同行人としてやってきた彼女――貿易商人団の一人のミリーナは、上司からどうにかしろと改善計画を全て押し付けられてしまった。さすがにどうかと思うが、面倒ごとを下っ端に押し付けるのはどこも同じらしい。
とまあそういう訳で、ミリーナ・ペンドルトンは頭を悩ませていた。毎日毎日商売の勉強三昧の十七歳の彼女には、こういうのは専門外すぎてどうしたらいいか判らない。花の乙女の十七歳が勉強三昧なんてもの悲しいにも程があるが、そういうのはお国柄にもよるし変に口出しできないものだ。
熟考に熟考を重ね、もういい加減に頭がどうにかなりかけて、ふと視線を向けた先に一冊の本を見かけた。
ミリーナを本を手に取った。
「確かこれ、信徒さんが没収した本‥‥‥」
表紙が毒々しいほど色鮮やかに、キャッキャウフフな読む相手を選ぶような痛々しい絵の数々。厳格な修行を重ねてきた信徒もとい一般人は気持ち悪いだの何だのと破り捨てるのが普通だろう。
――とはいえ、もう数日も寝ずに思考回路が焼け切らんばかりに頭を働かせていたミリーナには、まさに神が語りかけているような錯覚に陥ってしまった。よく神職者が激しい修行の末に神の声を聞くというのがあるが、一種のトランス状態でそう錯覚するというパターンも多い。どっちかなんて怖くて聞けはしないけど。
とにもかくにもミリーナは神の声を聞いた(本人はそう思ってる)。これは蔑視を向けている一般人に対し最も効果的な手段だと神が(脳内麻薬が)がそう訴えている。宗教上の理由で阿修羅教信徒にはなれないとはいえ、勤めている店の店主が阿修羅教の後援者の一人でありその関係上、それらの経典(または類する物)を目にする機会があって何となく読んで、独学とはいえ阿修羅教の教えをミリーナは身に付けているような気がする。
ならば、いち信徒(もどき)としてそれを実行しなければならない。
手段は演劇。華の都というだけあって京都は劇場だのそういうのに近い施設は多い。そこを借りて演劇を披露しよう。
神が(脳内麻薬が)が仰ったのは、誰でも理解できるよう内容も難しくない劇。意外性や子供受けするよう対象年齢を低くして、偉大なる阿修羅神の肝要さを示してらっしゃったのだろう。その劇において阿修羅神をキャッキャウフフなロリっ娘神にせよと仰せの事だ。
さすが偉大なる阿修羅神。愚かなる我々を導く唯一存在だ。本気でそう思っているのなら信徒が怒り狂いそうだがそんな事はどうでもいい。とにもかくにも、神が(脳内麻薬が)そうしろと言うのだから従うだけだ。
とはいえさすがに演劇に事なんて専門外だからそこら辺は冒険者に頼む。シナリオや小道具や演技者等、その他諸々は冒険者に丸投げする事になるが、その辺り分野が違うからしょうがない。
依頼料は上司を騙くらかして調達し、準備が整いしだいギルドへ向かう。
「ククク‥‥‥。ハハハ‥‥‥。ハーハッハッハ!」
悪の三段笑い。
何もかも間違っている気がするが、
「時代は萌えているゥゥゥゥ!!!」
嫌な世の中だ。
●リプレイ本文
時代は萌えているらしい。
ハーフエルフだというのがバレたら色々厄介なライル・フォレスト(ea9027)は、布で耳を巻くちょっと怪しげなスタイルで、阿修羅教の信者から阿修羅教入門編講座を夕方になるまでぶっ通しで受けていた。
さすが厳格な事で有名な阿修羅教。依頼の演劇で使えそうな話や阿修羅教のシンボルを教えてもらおうと聞きに来たものの、どうせだから講釈を開くのでと朝っぱらから延々と聞かされ続けていた。演劇で使うから、という所は伏せていたし、純粋に阿修羅教に興味を持ったと思われたのだろう。布教活動の一環として半強制的に半日拘束された。
何というか、さすが「阿修羅神の教えによってのみ、静かな世が訪れる」という謳い文句があるだけあって凄い話だった。天界の覇者、阿修羅。嘘か真か多分絶対におそらく後世の創作だろうがそれとも布教活動の為の宣伝の、阿修羅神が主人公の異形の魔物と戦う英雄譚もついでにたっぷり聞かされた。この濃すぎる内容でこの時間が入門編なら、中級編と上級編はどんなのだろう。今でも普通に、軽く洗脳されている気がする。
あれ程勇ましい戦神を萌えっ娘に、いくら時代が萌えているとはいえ、厳格で有名な阿修羅教徒が知ったらそれこそ鬼神の如くキレだしそうだがそんな事はどうでもいい。
真っ白になってぶつぶつつぶやくライルを他所に、アリティシア・カーザンス(ea0909)はペゥレレラ(eb5989)と共に衣装合わせをしていた。
「ねえねえ! 次こんな感じの服はどう? ちょっと派手かなぁ?」
「こちらの衣装も良い感じと思いますわ。いっその事、これなんかどうです?」
――なんて、結構盛り上がっていた。女三人よれば姦しいと言うが、二人でも十分やかましい。
「え〜と。それもいいと思うけど、ちょっと露出が」
違いない。結構凄い事になっている服だ。誰が調達したんだろう。
「さっきルカさんが言ってたじゃありませんか。どうも客の層は男中心になると。ならば、客のハートをがっつり掴んで離さないべきですよ」
「それは判るけど、こういう服はスタイルのいい人が着てこそ映えるんじゃないかなー? と」
「そんな事はありません! 世の中アリティシアさんみたいなろくに育ってない貧弱で未熟な青い果実な女の子が好きな殿方もいますから問題なんてナッシング!」
「‥‥‥好き勝手言うね」
「まあ私が着る訳じゃありませんし!」
いい性格している。
轟き唸るペゥレレラの理美容技。女の子なら可愛い服とか色んな化粧品あれば試して見たいと思うものだが、ちょうど目の前にサンプルがいるという事で思いつく限りの組み合わせをやってみた。同性だから突っ込んだ事も出来たのだろう。しばらくして、アリティシアは「もうお嫁に行けない‥‥‥」なんて泣きを見る事になったのだが、ペゥレレラにとってそんな事はどうでもいい。
「では次はこれを」
楽しそうなペゥレレラの笑顔は、まるで悪魔の哄笑みたいに見えた。
そんでもって劇当日。宣伝効果もあったというか依頼人の要望や阿修羅教教徒にばれると色々まずいから層を選んだとはいえ、客の入りは上々だ。劇場内はどちらかというと嫌な感じの客層がひしめきあっていた。
「いやいや。中々の盛況ぶりだな。これなら劇は必ず成功させないといけないな」
ルカ・レッドロウ(ea0127)は舞台袖から客席を覗きつつ口笛を吹いた。演じるのは悪役らしく、全身黒ずくめで見た目もわりとチンピラみたいな顔しているから中々に似合っている。借金取りが似合いそうないでだちだ。
「練習もしっかりしたし、後はこの本番――いや、アリティシアの前で恰好悪い所は見せられないぜ! むしろちょいワルな所みせてますますアリティシアのハートを鷲掴みだ!」
恋する中年もとい青年も大変だ。三十路近くなると負け犬と呼ばれる年頃だし、可愛い彼女さんの心を繋ぎとめようと必死なのだ。二人はともかくバカップルは死んだ方がいいと思うけど。
「公演までもう少し。頑張ろうぜ皆!」
ルカの背後から炎が燃え盛っているような気がする。ああ暑苦しい。
「まあ、そうですねぇ‥‥‥」
「とりあえず全力は尽くすけど」
うーん。と唸る二人。あしゅら母とあしゅらたんのツッコミ兼マスコット風子役のペゥレレラと、道具係兼広報兼賞金稼ぎ役のライルはそれぞれどう言ったらいいか‥‥‥そんな顔をしていた。
「どうした二人とも。もうすぐ本番だからって腰がひけているのか? そんな事で劇が成功、いや、俺とアリティシアの愛の交流が成功すると思っているのか! 失敗は許さん! 気合だ気合!」
ああ刺し殺したい。
「知らぬが仏、というやつですね」
「バカップルは死なないと直らないんじゃねーの?」
ため息を付いてそれぞれの準備に取り掛かるペゥレレラとライル。恐らくルカは見てないのだろう。劇の宣伝のポスター。可愛くデフォルメされて背景も見て痛々しくなるほど色鮮やかな色彩が施されていて、キャッキャウフフなポージングを決めたアリティシア。客はこのポスターを見てやって来たのだろうが、何となくジャパンの将来が気になりそうだ。
※
むかしむかし、あるところにあしゅらたんという女の子がいます。遥か天の上の神の国。天に住む人々は水の代わりに、一滴でも人間が飲めば寿命が延びるという甘露を飲み、下界で暮らせば訪れるであろう苦楽の一切から解放されるという夢の生活を送っています。望めば悦楽のままに日々を過ごせるのはしあわせに違いないでしょうが、普通にダメ人間だと思います。
それはそれとして、ちみっこくて半人前の神様のあしゅらたん。彼女は毎日毎日沸き起こる戦闘本能のままに目の前のあらゆる全てに喧嘩を吹っかけて撲滅したり爆殺したりまたされたりと、血で血を洗う日々を過ごしています。花も恥らう女の子というより人としてどうかと思いますが、そこは半人前なれど天界の覇者(将来は)の戦神。今日も今日とて目の合った老若男女に大突貫です。される方はたまったものではありませんが、神様は間違いを認めない事で有名ですから気にしません。
ある日の事、あしゅらたん以上にちみっこくてなでなでごろごろしたい感のある見た目は女の子のあしゅら母は彼女にこういいました。この外見で母親なのは突っ込む所ですが、神様に人間の概念を当てはめたらいけません。
「あしゅらたん。そんなに暴れたいのなら人間界に行きなさい」
只今群雄割拠で血で血を洗ってる真っ最中な人間界。戦いに事は書きません。ですがあしゅらたんはこう言いました。
「ダンコ断るよ! 人間界に行ったら自分の事は自分でしないと行けないから面倒な事はしたくないよ!」
凄い言い分です。これだからやんごとなき家の娘さんは。それを見たあしゅら母の腕は轟き唸りました。五指があしゅらたんの頭に食い込みます。
「そんな事言っては一人前の阿修羅神になれませんよ?」
「べ、別にいいよ! 三面六臂なんてキモイだだだだだッ!!!」
指がぎりぎり食い込みます。一説では阿修羅神はそんな姿形をしていると聞きますが、実際はどうなんでしょう。
あしゅら母は娘を思いっきり振り被りました。
「あしゅらたん。お母さんのようなりーっぱな阿修羅神になれるよう、人間界でがんばってね☆」
笑顔が逆に怖いです。外面菩薩内面夜叉とはこの事ですね。
そして人間界にやってきたあしゅらたん。伊達にあしゅらと名乗っているのではないので強くなろうとする事自体は別に異論ないので、道中通りかかる老若男女を手当たり次第なぎ倒しまくってました。お陰様で賞金首。いくらなんでもこれはどうでしょう。
そこへ話しを聞きつけた賞金稼ぎがやってきました。
「見つけたぜ賞金首! お前を倒して賞金をぷぐるぁっ!」
あしゅらたんの拳が轟き唸りました。綺麗に顎を打ち抜いてテンプルです。
「喧嘩を売られたら通販でも! 悪即撲で撲殺ネ!☆」
タックルかましてマウントポジション。殴りまくって容赦がありません。そんなあしゅらたんに風子は言いました。
「あしゅらたん。このくらいじゃあ生殺しだからもっと痛めつけたら?」
「うん! その通りだね!」
助け舟を出してくれると思ったらあんまりです。軽く血の海に沈めた賞金首を捨て置いて、あしゅらたんは旅を続けます。その間にもひたすら腕力で旅を続けている内に彼女に目を付けた悪人がいました。悪人にありがちな、『世界の支配』を目指す出羽というちんぴらちっくな悪人です。
「クックック‥‥‥。この世界のなんと美しく広大なことよ。世界は俺の手中にあることこそがもっとも相応しい、そう思わないか?」
突然現れて何を言うのでしょうこのちんぴらは。とりあえずあしゅらたんは殴りました。
「お、おのれ。人の話を最後まで聞かずに殴るとは。親からどんな教育を受けたんだ?」
「撲殺惨殺毒殺その他諸々!」
育てられ方云々の話ですね。天界の覇者たらんとする者、戦いの術以外覚える必要はないのでしょうか。
なんとなく、出羽は命の危険を感じました。
「こ、これも俺の計画通り。また会おう! あしゅらたん!」
ですがあしゅらたんは逃がしません。
「自分の器を理解するのは好感が持てるけど、悪い人だからお仕置きだよーん」
あしゅらたんもとい、アリティシアの精霊魔法[水]が大発動。周囲の空気が凍結していきます。
「あたしのこの手が氷点下まで下がると思う! 冷やして砕けと叫んでいると思う!」
なんか微妙な言い回しですね。
「打ち砕け! 握殺!」
クーリングの魔法が手を包みました。
「あしゅらたんフィンガーーー!!!」
超低温の五指が出羽の頭をがっつり掴みました。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
これにて一つの悪は滅しましたとさ。
後日、依頼人から渡された回復アイテムで恋人を甲斐甲斐しく介護する冒険者の一組を見かけたのだが、それはまた、別のお話し。