まあ、男の子なんてそういうものですし

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月14日〜11月19日

リプレイ公開日:2006年11月22日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





 やはりそういうのには個人差はある。練習にもよるし、絵画や小説など携わる作品により表現方法は当然変わる。絵画は絵画の、小説は小説でのやり方はある。より優れた技術を得たいのならその専門の練習方を試せばいいだろう。
 とはいえだ。創作に携わるなら、一部の意見で極論で、これまた事実に裏付けてその延長の上に売れている作家さんもいるにはいる。
 成人指定作品に関わっている作家は凄い勢いで上達する。
 これを賛同するのは作家客層合わせて賛否両論あるが、現実的な意見としてそれらに携わる作家は成長が早いというのも一つの事実だ。
 絵画なら紙一枚に平面な――勿論立体感とか手法諸々で印象は変わるが――絵だけで閲覧者に、小説ならば文章のみで読者に、こんな言い方でどうかと思うがハッスルさせなければならない。この系統の作品は需要がはっきりしすぎているせいか顧客が離れたらすぐ仕事がこなくなる。だからこそ次に出す作品次に出す作品と、客がよりハッスルするレベルの作品を出さなければならないので、半ば驚異的というか強制的に――一部の表現にかたよりがちだが――技術が上昇する。
 もちろん全年齢向け作品を創作する作家への冒涜ではないが、やはり成人指定作品の作り手達は世間様から評価される事はない稀だが上達スピードは早い。作家にとって死活問題だから気を抜く訳にはいかないけど。
 まあそういった訳でそうやって技術が上達した作家は、客層には理解されない反面、創作関係者から一目おかれるしそういった縁で大手の仕事を請けれる事は少なくない。個人的な想像だが、案外そういった目的があって成人向け作品に携わっているかもしれない。デビューするだけなら下手に大手より中小の方が窓口が広い。
 そんでもって江戸市中の古本屋。明日の大作家を目指す貧乏書生は、カウンターを前に店長から渡された一冊の本を流し読んだ。
「な、何たるエロス! このような本があるとは!」
 軽くどころか法に触れまくった本だ。
「巡り巡って手に入れたご禁制ほ本ですぜ書生さん。ちょいと手垢がついてるが、買える時に買った方がいいですぜ?」
「た、確かに‥‥‥!」
 貧乏書生は本を手に逡巡する。指定された金額。払えない事はないが今月食いつなげるだろうか? それよりどういう経緯で手垢が付いてるなんて普通に想像できそうだが、気にしない事にする。
「裏で高値で取引されてるこの本‥‥‥。今買わなかったら二度と手に入らないかもしませんぜ? 別にあっしは買ってくれるなら誰だっていんですが」
 店主は当然とばかりに足元見まくった。店主の言う通り、商品なんて買ってくれるなら誰でもいい。
「ん〜〜〜」
 頭が生まれてこの方、回った事がないくらい凄い勢いで大回転。買えば今後の創作に間違いなく有利になるだろう。個人的にお世話になる事もあるだろう。しかし月末まで生活がとかんなとか考えても、人間、特に男でそういった事に興味が大爆裂な十代に理性で抑えろという方が無理すぎる。
 袖から財布を取り出しカウンターへ叩きつけて、
「よし! 買っ」
「お前等そこまでだ! 猥褻物販売(法で触れているレベルの)その他諸々でタイホする!」
 役人達が二人をブタ箱へ叩き送った。






「はっ。これだから男ってのは」
 ギルド員から話を聞いていた女性冒険者は、まるで汚らわしいものを見たかのように吐き捨てた。
「いやいや。そう言われましてもねぇ?」
 さすがに居心地悪そうに、ギルド員は偶然彼女と同席していた男性冒険者に振った。こういう話題で男は総じて居心地悪くなるものだし、仲間がいると心強いというか巻き添えだ。巻き添えされる方はたまったものではないけど。
「とどのつまり、男の下劣でクソ虫でアレな願望が留まる事を知らないから、後日積荷が降ろされる華国の船を調査して、猥褻物を確保しろって事でしょ? 普通、女にそういう依頼薦めるかしら? 軽く死んでみる?」
「そっちの方から何か依頼はないか、って聞いたんじゃないですか‥‥‥」
 突き刺さる鬼のような殺気。相手の言い分も判らないでもないが、何か理不尽だ。
「ただの猥褻物ならいざ知らず、軽く法を無視しまくった物品ばかりでしょう? 男は幾つ歳をとってもそういうの見たがるものらしいけど、さすがにひくわね。逝けばいいのに」
 間違ってないが言い過ぎだ。
「確か役所の方でも動いているのよね? 後は証拠品さえ上げれば密輸業者を捕まえられる――。気が向いたら受けて上げるわ」
「あ、船には通常の輸入品(猥褻物ではない)もあるので、中身は確認して下さいね。入れている木箱は見た目同じらしいですし」
「‥‥‥猥褻物を女である私に直に見ろと? 判ったわ。あなた、涅槃に旅立ちたいのね」
「依頼書をそのまま言っているだけですよ!」
 これで冥土に旅立つなんて死にたくても死にきれない。
「ふぅん‥‥‥。暇が出来たら依頼を受けてあげるわよ。暇が出来たら――」
 そこで彼女は思い出したように尋ねた。
「そう言えば、さっき言ってた貧乏書生どうなったの?」
「同じ男だから気持ちが判るってすぐ釈放されたようですよ」
 まあ、役人だって若りし頃は似たような経験もあったのだろう。
「――はっ。全く下衆な話ね」
 男とは色んな意味で悲しい生き物だ。

●今回の参加者

 ea0758 奉丈 遮那(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3757 音無 鬼灯(31歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb5002 レラ(25歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb6966 音羽 響(34歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb8565 クナウ(21歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

西園寺 更紗(ea4734

●リプレイ本文

「やれやれ。どうして男ってものは‥‥‥」
 依頼書片手に、城戸烽火(ea5601)は大きくため息をついた。依頼内容、ご禁制の密輸品の回収。報酬は多め。まあ、それだけなら普通にとはいっても書類上では割と責任が重い仕事だ。
「殿方とはえてしてそういうものですし、その辺り性別や趣味の違いですよ」
 仕事に貴賎も優劣もなかろうが、とりあえずステラ・シアフィールド(ea9191)が突っ込んだ。
「でも気持ち悪いと思いません? あの野郎二人はもう本当に嬉しそうにしていますし」
 港の死角部分に隠れている冒険者一行。近くでは本人はそんな気はないようにしているが、妙にハイになっている奉丈遮那(ea0758)と白井鈴(ea4026)がいた。
 回収目標、ご禁制の密輸品――もとい、法に触れまくった猥褻物。山の如く。
 何というか世の中は正直だと思う。
「フフフ‥‥‥。ご禁制の品の取引とは許せないな。ここは正義の冒険者らしく、依頼の名の下に見つけ出そうではないか。とはいえ勿論、一見しただけでは法に許されたものかもしれん。だからじっくりと見なければいけないな。ああそうさ! これは仕事なのだ。決して見たいから言っているのではない!」
「目的は猥褻物を回収することだよね。潜入は得意だから任せておいてよ。ご禁制の品は見た目同じ木箱に入っているらしいし、もし違ってもそこは僕の忍者技でしっかり誤魔化すよ」
 全身の穴という穴から何か汁を大噴射しかねん勢いの遮那に、くりくりヴォイスの鈴。
「それにしても猥褻物なんて見て楽しいのかな。僕子供だから判んないや」
 見た目は子供。歳は大人。当年きって二十三歳のパラの忍者は言い切った。見た目子供だから違和感ないのが余計にタチが悪い。
「――あれ見ても、どうとも思いませんの?」
「殿方とはそういうものですから」
 性に関しては偏見がなくオープンで理解があるらしいステラに、烽火は愛犬のダッケルを撫でつつため息をついた。




 船乗りや港で働いている者はそうじて気性が荒い。なんてったって常日頃、筋肉をもりもり働かせているからだ。
 もちろん担当部署により専門の知識や技能を行使する仕事もあるだろう。しかし、大重量の積荷を扱ったり海に投下して魚が大量に引っかかったであろうそれを引っ張り挙げたり、とにもかくにも筋肉が轟き唸る。
 毎日そんな事やってれば自然鍛えられるし思考も腕力思考に傾いたりする。
 つまり、必然に気性が荒い連中が多くを占めてしまう訳だ。
「鬼灯の姐さん! 酒をお持ちしました!」
 そしてそういう手合いの連中は、喧嘩の一番強い者を頂点に置いて一種の社会を独自に形成してしまう。船乗りも大概船長が海賊と言っても通じそうな外観だしシンプルに力関係で立場を悟ってしまうものだ。
「そんなものよりこの魚を食ってくだせえ鬼灯の姐さん!」
 船乗りや港の従業員が主に食事を取る酒場。局地的な竜巻が吹き荒れたようなその店内に、音無鬼灯(eb3757)はあれよこれよと持ち上げられていた。積み上げられた机の山の上、上等な酒を片手に鬼灯の気分はまるで女王様だ。
「悪いねぇ。折角食事をとっていた所だってのに」
「いえ! 姐さんみたいな美人の世話を出来て感激ッス!」
「ふふっ。可愛いやつらだよ‥‥‥」
 一人の水夫の顎をつい、と。鬼灯もすっかりどもぞの組の姐さんみたいだ。ジャイアント特有の長身と恵まれた筋力。そして「つい先ほどまで使われた」であろう赤黒い液体がこびりついた名刀・丁々発止が突き刺さっている。曰く呪いの刀らしく、こびりついた赤っぽいものが余計に刀を不気味に見せて怖い。
「姐さんのようにお強い方の為なら火の中水の中ッス! 何でも申し付けてくだせえ!」
 水夫達が一斉に敬礼。見るからに頼もしい姐さんに部下が慕うのは別段珍しくもないが、こうなったのは理由がある。
 お昼頃、男だらけのむさくるしい酒場に女がやってきた、という事で水夫達は絡みに行ったのだ。当然鬼灯は断った。それでも絡んできたので軽く捻ってやったらキレて襲ってきて、殴り倒している内にドスだの振り回してきたのでこちらも刀を抜いた‥‥‥という訳だ。ちなみに刀についているのは魚の血だったりする。
 そんな水夫達を見て鬼灯は満足そうに頷いた。
「だったら教えてもらおうかしら。あの船の積荷はどの店のものなんだ? ちょいとこちらも色々事情があってね‥‥‥」
 これで後は証拠品を手に入れるだけだ。






 ところ変わって船倉。レラ(eb5002)が陽動で船員達に蝦夷からの流れの踊り子という事で注意を引いて、烽火の春花の術で眠らせたり音羽響(eb6966)のコアギュレイトで船員を眠らせたり、一向は積荷が敷き詰められている船倉へ辿りついた。
 目の前に詰まれた木箱の群れ。目的の物以外何が入っているか知らないが、売り払えば結構な金になりそうだ。
「いよぉし! 早速探すぞ卑猥物!」
「僕も頑張るよ! でもばれないよう細心の注意を払わないとね!」
 何か異様に頼もしい野郎二人。遮那と鈴を冷ややかに女性陣は見つめていた。もの凄い勢いで木箱はなぎ倒したり中身が溢れまくっているが、ここまで来るのに割と術とか色々使ったりしたのでまあ問題ないだろう。
「何というか、男はこういう時だけ無駄に力を発揮しますよね‥‥‥」
 卑猥本片手に「見つけたぁぁぁぁ!!!」と成仏しそうなぐらい爽やかな笑顔を浮かべる鈴を、烽火は変なものを見るように見つめた。見た目子供だ。本の表紙は表紙からして凄すぎるし微妙というか違和感ありすぎる。
「殿方とはそういうものですし」
 唯一の理解者のステラはにこにこと微笑を浮かべるのだが、これはこれで何か嫌だ。ステラ過去に色々あって色々な経験をして、その経験上言っているのだろうが、普通に一女性としてはそんな男は軽蔑する。
「鬼灯。男のようにその様な物を眺めないで下さい」
「ん。こういうのはなかなか見た事ないから。話に聞いてはいたけど、本当に男はこういうのが好きなんだな‥‥‥」
 複雑な表情で鬼灯は近くの猥褻物を手に取った。とても描写できない内容だった。
「‥‥‥凄いな、これ。こんな事もするのか」
 遮那に尋ねた。軽く眩暈がした。
「するかと聞かれたらするものさ! 人間うわべでは善人ぶっているが一皮めくれば皆ケモノォォォォ!!! 内に秘めたセイ☆欲に身をまかせ秘密の花園へダイブ! イン! 轟き唸れ我が斬馬刀!」
 度が過ぎた卑猥物は男を変えるようだ。
 腰がズキュン。比喩表現らしい。
「‥‥‥‥‥‥」
 何となく身の危険を感じた鬼灯は遮那と鈴から離れた。こういう時、下手に刺激しない方が身の為だ。理屈以前に本能がそう叫んでいる。
 もはや二匹の猿と化した二人の射程範囲の中に、運悪くレラと響が残っていた。片や仕事の内容を理解してないのと片や僧侶なんて職業柄真面目なのだ。
「う、受けてしまった以上。果たすのが責任なんですけど、その」
 卑猥物片手に顔を朱に染めて、響は立ち尽くしていた。見るからに卑猥物。しかし中身を見聞しなければ法に触れているのか違うのか、確認が出来ない。
「響様どうしたんです? 中身を確認しないと」
 と、こちらは依頼内容を理解していないチュプオンカミクル。よく判らないが、中身を確認して法に触れているのか違うのか、確認すればいいと思っている。どの辺りが法に引っかかるか‥‥‥よく知らないけど常識的に変と思えばそれは違反物なのだろう。
「そうは言われましても、その」
「本の中身を確認するだけではありませんか。私が代わりに勤めましょうか?」
「それは助か――いえ。そうはいきません。未成年であるあなたに頼む訳には参りません」
 歳の割りに純情というか真面目というか、響はいち成人として至極真っ当に断った。レラは軽くイラついた。
「子供だからって馬鹿にしているのですか? 心外です」
「そのような事はありません。ただ、これは大人がみるものですので」
「私とて十六。このジャパンにおいては十分に大人ではありませんか。それに冒険者として多くのものを見て聞いてきました。ある程度の事には動じませんよ」
「そうかもしれませんが、やはり見せる訳にはいきません」
 宗派によっては快楽を極める事も修行の道と言うかもしれないが、いち常識人としては見せる訳にはいかない。
 レラは響から本を奪い取った。ページがめくれた。
「‥‥‥‥‥‥」
 レラはばっちり見た。響もばっちり見た。
 レラの「これ、何ですか?」と問うたのと同時、「いざ開かん桃源郷!」と遮那と鈴が木箱をぶち破った。
 中から雪崩の如く溢れまくる猥褻物の山。口にも出せない所持しているだけでも性格が疑われそうな品の数々。曰く男の煩悩の化身。
 ぷつん、と、糸が切れた音がした。
 レラは卒倒した。響も卒倒した。しかも最悪な事に猥褻物のに上に。
 翌日、証拠品として猥褻物を密輸していた商人が捕まった。役人が踏み込んだ時は既に商人は縛り上げられていて押し込みにあったかのような悲惨な様相だった。後日事情徴収すると、鬼神のようなチュプオンカミクルと僧侶に襲われたとの事らしい。