奇跡少女じーざすちゃん!

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月18日〜11月23日

リプレイ公開日:2006年11月27日

●オープニング

 華の都京都。
 神皇陛下お膝元のこの都市は、古くから遥か遠き国へと続く月道が確認され、それを確保する為に街は事細かく計画され、造られた。その為各地から月道を利用しようとする人達が集い、現在の京都情勢も相まってちょっとした混沌の様相を醸し出している。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――




 最近、阿修羅教に関する話をよく耳にする。
 ジーザス教ジャパン布教団の広報を勤める彼は、そんな情勢を快く思っていなかった。
 そもそも阿修羅教は思想に修行や戒律がもの凄く厳しいと評判だし、彼らも彼らで都合があるだろうから派手な布教活動を行えないだろう。だが、時間が立てば土台もしっかり整えられるし近くの有力者に縁を作って何らかの布教活動をする事は明白だ。
 それは、非常にまずい事だ。
 たとえ歴史深い宗教団体だろうと所詮人が作り上げて人の手で運営されている組織。俗な言い方だが、つまり金がいる。建物の維持費だろうが構成員への手当てだろうが活動費だろうが、とどのつまり金さえなければ何にも出来ない。例え偉大なる神を祭っていようが世の中の多くを動かすのは金である。
 各宗教団体の財政の一端を担うのは信者のお布施。財政担当は一般人のはした金より権力者や大富豪からの援助もといお布施が望ましいのだが、なかなかどうして庶民のお布施も馬鹿に出来ないのだ。
 このままいけば阿修羅教の信者が増えるかもしれないし、当ジーザス教布教団との確執があるかもしれない。宗教によれば自分の所の神様が唯一神で他は魔物に偶像の類。戦争の理由になる可能性がある故にこの国においても細心の注意を払わなければならない。そして勢力差は拮抗していた方が互いの抑制力になる事もある。
「そうだ。萌えっ娘にしよう」
 彼はふと思いついた。
 少し前、阿修羅教関係者が冒険者を雇い、宣伝の為に演劇をしたらしい。それも大幅にアレンジして、『萌え』なる異界の言葉を取り入れ見事に成功を収めたらしい。二番煎じなぞ既に負けているような気もするが、手段を選んでられる状況じゃないかもしれないし見習うべき先達があればそれは見習うべきだろう。
 演劇、奇跡少女じーざすちゃん。
 何故か同僚達に知られるとフクロにされそうな気がするのでそこは上手く誤魔化す事にする。ジーザス教に興味を持つ又は布教に積極的な同士がより多くの人に伝わるようアレンジしたと。
 自分でも偉大なる神を冒涜しているような気もするが‥‥‥とりあえず広報たる自分の仕事をやる事にしよう。

●今回の参加者

 ea0980 リオーレ・アズィーズ(38歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6437 エリス・スコットランド(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea7652 カレン・ストロー(30歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb1065 橘 一刀(40歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 eb3834 和泉 みなも(40歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 eb7445 イアンナ・ラジエル(20歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785

●リプレイ本文

 カレン・ストロー(ea7652)のブラックホーリーが依頼人を盛大に吹っ飛ばした。さすがジーザス教の信者。宗教者よろしく清い人のようで、派手に転がったわりには術のダメージはないようだ。
「確かにわたくしは、自分でも老け顔だと自覚しています。年寄りのような考え方をするのもその原因の一端を担っていると思います」
 京都の街の一角。ジーザス教布教団が間借りしている、貸家にありがちな中途半端な仮教会でカレンは依頼人に対峙していた。笑顔のわりに眼は笑っていない。
「ですが。ですが‥‥‥」
「お、落ち着いて? ミセス・ストロー」
「ブラックホーリー!」
 聖なる力が轟き唸った。
「いくらなんでもそこまで年配に見られる覚えはありません! 百歩譲って三十路はいいとしましょう。ですが、いくらなんでもミセスはないでしょう! わたくしはまだ二十二です!」
「え? いくらなんでもサバ読みすぎで」
「ブラックホーリー!」
 また聖なる力が轟き唸った。悪意がないから余計にタチが悪い。
「このっ! 聖職者はっ! 神に仕える身でありながらどの口で侮辱しますか! この口ですか? この口ですか!?」
 唸る両腕依頼人を締め上げる。
「いくら自覚しているとはいえ、そのように申されるのは正直辛いです。ですが、これも試練の一端。神が耐えろと仰るのならいくらでも耐えます。‥‥‥ですが!」
「か、神の前で嘘はいけませんよ? 恥かしからずに‥‥‥自分の歳を仰った方が」
「ふん!」
 刹那、両腕を駆け抜けた剛力。首が凄い音を立てた。
「それでも我慢出来ない事もあります! 人を年増とご老体と! このまま神の御許に送って差し上げますので祈りなさい!」
「お邪魔しまーす」
「何ですか!?」
 依頼人がなかなか凄い事になりながら、かけられた声の方へ振り向いた。
 子供達がいた。先日も見かけた、ジーザス教の布教を受けていた近隣の子供達だ。関心を持ったのだろうか、尋ねてきたらしい。
 先頭の子供が尋ねた。
「おばちゃん。何してるの?」
「おばちゃん!?」
 子供は正直だ。こっちもこっちで悪意がないから余計にタチが悪かった。




 仮教会でカレンが大暴れしている中、残りの冒険者達は買出しに出かけていた。
 演劇で使う小道具。大道具は別として、必要な小道具は演技者が直接選んだ方がより良い劇になるだろうとふんだからだ。まあ冒険者とて依頼を受けた以上成功させないといけないし、その為の買い物だ。別にそれ自体に不満はない。不満はないのだが‥‥‥
「みなも殿。次はあの店に入らないか? きっと、みなも殿に似合うものがあるに違いない」
「そんなにおだてないでください。一刀殿が選んでくれるのなら、どんなものでも良きものです」
 京都の長い路地。市場だの店だのあるその一角に、見るだけで撲殺したくなる新婚ホヤホヤならぶらぶオーラをぶっ放つ一組のバカップルが歩いている。橘一刀(eb1065)と和泉みなも(eb3834)。
 本人達はそう思ってないのだろうが、婚約したばかりらしく無意識というか周囲の空気が化学変化を起こしているというか‥‥‥ともかく、あてられる所か独り身だと軽く殺意が沸きそうだ。
 本人達は、殊更イチャイチャしてないつもりらしい。
「何を言うのだ。みなも殿はこの世の何を差し置いても最も輝いている。そんなみなも殿に生半可なものを送る訳にはいかない。拙者の名において、一番の品を探し出してみせよう」
「一刀殿‥‥‥」
 見詰め合う二人。桃色オーラ大炸裂で、西洋で言う恋のエンジャル達がトランペット片手に祝福しているようだ。ああ殺したい。
「‥‥‥まあ、アレですね。故郷の教会が懐かしいです」
 幸せオーラで近づけないというか関わり合いになりたくないというか、リオーレ・アズィーズ(ea0980)は思い出したように呟いた。
「私は、公演が終ったら依頼人を問い詰めようと思います。いくら布教の為とはいえ、このようなやり方には抵抗を覚えますし」
 エリス・スコットランド(ea6437)は神聖騎士だし、というかいちジーザス教関係者としてそう思うのは当然だろう。イアンナ・ラジエル(eb7445)は呟いた。
「そう言えばエリスさんチンピラ役でしたね。依頼人が雇ったエキストラのチンピラ役の人に、本気で絡むように伝えようかしら」
 グラビティーキャノンぶっ放してやろうかなー、とイアンナはわりと本気で思った。









『時は戦国世は情け。ある国では魑魅魍魎が暴れたり別の国では戦争の真っ最中だったりと、とにもかくにも世の中は乱れています』
 ナレーションを勤めるリオーレの口上の下、劇は始まった。客の入りはわりと上々だ。
『そして彼の西洋の地。キャメロットではセーラ神。ビザンチンではタロン神と、それぞれ国により差異はありますが、偉大なる神と神のいやしきしもべたるジーザス教教徒の信仰心により西洋の地は神の祝福に満ちています』
 いかにも宗教色強すぎて逆にインチキくさい前口上だ。
『偉大なる神の化身にて存在そのものが奇跡。ある日の事、我らがじーざすちゃんが町を歩いていると悲しみにくれる青年と女性と知り合いになりました。それが奇跡の始まりです』
「人前でいちゃいちゃしてんじゃねえぞコラァ!」
「いかにも幸せです、なんて顔しやがって。羨ましくねえんだよコンチクショウ!」
「いちゃつくなら他所でやりな!」
『ガラの悪い女のチンピラ(エリス)を筆頭に、チンピラ達が二人に鬼のような勢いで絡んでいます。愛しあう二人。己の不甲斐無さ。自分を庇って怪我させた負い目。一端距離を取ってはいたものの、愛し合う二人の前にそれは無意味で、そして奇跡少女の御力によって二人は再び共に手を取り合う事と相成りました。しかし、そんな二人に新たな試練が舞い降りたのです』
「タイヘン! 助けないと!」
『シフールがやってきました。彼女の名前はイアンナ。じーざすちゃんのパートナーです』
「お待ちになって下さい。そのような悪事をはたらいては、聖なる母と大いなる父の御心に適うことはできません」
『さすがじーざすちゃんのパートナーをしているだけあって、ご立派なお言葉です。しかしチンピラ達は嫉妬に狂って聞いてません』
「聖なる母と大いなる父の御心? はっ! 人目を気にせずいちゃついてたこいつらが悪いね! 私らはそれこそ人のためにやってるんだ。むしろ感謝されるべきだね!」
『凄い嫉妬です。まるで世の独り身の代弁をしているようです。女のチンピラさんはまさに血の涙を流す勢いです』
「偉大なる神を冒涜するとは‥‥‥。神より授かったこの力で天に召しなさい! グラビティーキャノン!」
『重力波が炸裂しました。しかし、嫉妬に狂うチンピラ達を制圧するには不十分でした』
「じーざすちゃん、どこにいるの? 皆さん、一緒にじーざすちゃんを呼んで下さい! 奇跡少女じーざすちゃんを!」
『イアンナは呼びかけます』
「せーの‥‥‥じーざすちゃーん!!!」



「神のご加護と慈愛をこの身に受けて、奇跡少女じーざすちゃん、只今惨状!」
 ふりふりきらきらきらめいて、魔法少女なカレンが小道具のステッキ片手に決めポーズ。突っ込み所が多すぎるのに本人は至って大真面目。練習もしまくったらしいのでいやになるぐらい決まりすぎだ。
 舞台は思いっきり山場。ヒロインの登場に場は湧くが、
「しょ、正気か!?」
「あのババァ歳いくつかと思ってやがるんだ?」
「服は可愛いのに台無しだ!」
「気味の悪いもの見ちまった!」
「ブラックホーリー!」
 まじかる☆カレン‥‥‥もとい、じーざすちゃんの聖なる力が轟き唸った。客席が軽く飛ぶ。
『え〜と、とにもかくにも奇跡少女じーざすちゃん大登場。偉大なる神の名の下に、チンピラ達を粉砕撃滅確定です!』
「愛し合う二人の仲を裂かんとする嫉妬狂い。偉大なる神の名の下に成敗です!」
 まじかるステッキくるくると、まるで背後が星が流れてきらめく異空間のよう。年端もいかぬようじょなら完璧なぐらい似合っていたのに極めて残念だ。
 当然チンピラ達は突っ込んだ。演劇の台詞じゃなかった。
「ババァに用はねえんだよ! そこのバカップルのタマ殺るからすっこんでろ!」
「バ、ババァですって?」
 何かにヒビが入った音がしたような気がする。
「当然だコンチクショウ! そういうふりふりでドキがムネムネでキャッキャウフフな服はちまいようじょが着てこそ似合ってんだよ! お前みたいないい歳こいたオバサンが着るなんてどんな勘違いだ! 喧嘩売ってんのか!?」
 あんまりとも思うが激しく間違っていない。しかも客席からもひそひそ同意するような声までも。
「お、落ち着きましょうカレン殿!」
 さすが鍛えぬいた神聖騎士としての感。エリスはカレンからの殺気というか怒気というか暗い気配に気が付いた。
 浮き出る青スジ。面は修羅か羅刹か魍魎か。
「老け顔だろうが実際に老けているとしても、人それぞれです! 人によってはそういう女性が好みだという方もきっといらっしゃいますよ!」
 何かが盛大にブチ切れた。
「私は‥‥‥。私は‥‥‥!」
 カレンに聖なる力が満ち満ちる。
「私はこれでも二十二よーーー!!!」
 劇場が半壊した。





 ある日の昼下がり。仮教会は小さな子供達が集まっていた。
「わたし、じーざすちゃんみたいな強くて逞しい子になるー!」
 声を上げ、走り回る子供達。いつかの演劇でカレンのまさしく鬼のような暴れっぷり‥‥‥もとい活躍で、子供達を中心に人気が出たらしい。強くて英雄に憧れる年頃の子供達。じーざすちゃんのまさしく鬼神のような姿を見て一種の憧れを抱いたようだ。
 何か間違っているような気がするが‥‥‥中には商家の子供も何人かいるし将来は有力なパトロンになるかもしれない。ちなみに半壊した劇場は取り潰し予定だったので手間が省けたらしい。
 後の信者とする為、ジーザス教教徒達は教えを説き始めた。