ネコ耳ねね子の奮・闘・記! おしごと編

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月25日〜11月30日

リプレイ公開日:2006年12月02日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――




 メイド喫茶柳亭。冒険者達の手によってかつての閑古鳥が大合唱していたこの店は、今や江戸に名を轟かせているような迷(?)店となりました。
 お店の中は右を見ても左を見てもメイドさん。店長さんが選びに選び抜いた結果、店員さんは美女に美少女ばかり。フリフリの付いた白と黒のコントラスト。ふわりと翻るスカートに客の男共は目が血走ります。
「お帰りなさいませご主人さまぁ〜」
 振り向いて、舌ったらずに来店したお客様を出迎えます。来店したのにお帰りなさいと言うのは変な話ですが、そういうお店だから突っ込むのは野暮というものです。
「ねね子ちゃん今日も可愛いねぇ」
「もっと服の面積を短くしよう」
「おぢさんネコ耳と尻尾を触りたいよ」
「ありがとうございますご主人さまぁ」
 セクハラです。それにねね子も意味も理解していなのに返答なんかして、その内凄い事になりそうです。
「そう言えばねね子ちゃん。最近変質者が多いって聞くけどねね子ちゃんはどうもないの?」
 そういう自分が変質者だと思います。
「変質者さんですか? そういうのよく判らないですけど、店長さんが近々冒険者さんを雇うそうですよ。怖い人いなくなるといいなぁ」
 トレイを胸にきゅ、と。リアル猫娘に男共のドキはムネムネです。
 最近は上州という所で大きな喧嘩が起こってますし、兵隊さんは大慌て。仕官や志願兵として各地から色んな人達が職を求めるので治安は必然に悪くなります。そしてそれを取り締まるべきお役人さんの仕事も増える訳で、どうにもこうにも細かい所に手は届きません。
 それに加え、美女美少女ばかりが勤めるメイド喫茶柳亭。下心全開の変質者にはストーキングされたり勤務中セクハラされたり女性としての危機感は大炸裂です。仕事辞めようと思っているメイドさんもいますし、女性としては割と人生の機器に陥っているかもしれません。
 一部「ねね子たんハァハァ」とねっとりたっぷりした嘗め回すような視線を送る客というか変質者というか、そんなのがいますが、そこは見た目の通り野生の感が超敏感で結構腰が引けてます。
 ねね子ちゃんの明日はどっちでしょう?

●今回の参加者

 ea0276 鷹城 空魔(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5532 牧杜 理緒(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb8219 瀞 蓮(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

神剣 咲舞(eb1566)/ 剣 真(eb7311

●リプレイ本文

「ストーカー? ねね子君の依頼に前から出ている君達の方が怪しくないかね? けひゃひゃひゃ〜」
「いやいや。ドクター、お前には言われたくはないのだが」
 男子更衣室。それぞれ割り当てられた衣類と持参したまるごとかぶりを手に、男連中は着替えていた。しゅるりしゅるりと衣擦れの音。無限のごとく続いてきた激戦と鍛錬の中で鍛え上げられた筋肉は、我こそ最強のもののふだとばかりにひしめき合う。女の子のハダカならともかく、野郎のハダカは見たくない。地獄絵図のような光景だ。
 まあともかく、執事服やらまるごと猫かぶりやらメイド服やらに彼らは着替えた。
「けひゃひゃひゃ。我が輩のどこが怪しいと言うのだね。アンドリュー君」
 ドクターことトマス・ウェスト(ea8714)はアンドリュー・カールセン(ea5936)に尋ねた。
「そうだな。直に四十を迎えようとする中年が、猫のまるごとかぶりなど着ているなど悪い冗談としか思えないが」
「けひゃひゃ。言いたいこと言ってくれるな犬レンジャー」
「誰が犬だ」
「けひゃひゃ。違ったな。犬執事だ」
「やかましい!」
 声を大に突っ込んだ。前回のねね子を護衛する依頼で輝かしき『犬レンジャー』の称号を手にしたアンドリュー。名誉な事なのか微妙だ。
 アンドリューとトマスがそんなやりとりをしている中、ふりふりでろりろりな、身体を覆う面積もそれなりに凄い事になっているメイド服を着たリフィーティア・レリス(ea4927)は両手を床に思いっきりうなだれていた。
「変質者は許せないと思う‥‥‥。捕まえるからには最大で最高の手段を持って立ち向かうべきさ。だけど、だけど‥‥‥」
 わなわなとリフィーティアは身を震わし声高らかに叫んだ。
「だがな何で俺がメイド服を着なければならないッ! 確かに俺は女顔だ。よく異性にも間違われるさ! だけど、俺は男だって何回も言ってるだろうがッ!」
 窓から差し込む陽光にきらめく長い銀髪。エメラルドやサファイアの如く輝く青い瞳。白く華奢な、触れる事さえ拒まれるような肢体‥‥‥。きっと生まれて来る時に性別を誤ったのだろう。女性にしては背が高めで胸がつるぺたーんなメイド服に身を包んだ女顔の二十歳男児がそこにいた。
正直言って、どうしても女の子にしか見えない。超絶究極美少女。それも男として生まれたからには、必ず胸に抱き恋焦がれ? この世に現界する夢という名の浪漫の具現であり人類の至宝、メイドさんだ。
「そう自分を卑下する事もないでしょう。とても似合っています」
「女装を褒められて誰が嬉しがるかよ」
 轟き唸る騎士万能技。さすがはナイト。まさにレディの為に命を捧げる騎士が如くルーラス・エルミナス(ea0282)はリフィーティアの手の甲に口付けした。リフィーティアは思いっきり引いたがナイトのルーラスにとっては別に普通の行為だ。女性には。
「ナイトとして女性に奉仕するのは使命。故郷では変態退治に敗れてしまいましたし、そのような輩はこの国の女性の為にも必ずや撲滅してみせましょう」
 凄くかっこいい。格好よすぎだ。同性でも思わず胸キュンしてしまう。女性相手ならきっと悶死してしまうに違いない。
「正義の犬耳執事として、必ずや貴女を守ってみせましょう‥‥‥」

 ‥‥‥嗚呼‥‥‥殺したい‥‥‥

 泣けて来た。凄く泣けて来た。このままサンレーザー打ち込みたい。
 ナイトというものは女性に奉仕するものだと聞いた覚えはあるが、どうして俺は男に口説かれてるんだろう? リフィーティアは心の中で泣いた。ルーラスが口にした「あなた」の二人称も、この国の言葉では女性を意味するんだろうな、と直感した。


「‥‥‥‥‥‥」
 そんなルーラスとリフィーティアと、アンドリューとトマス。それぞれを見ながら鷹城空魔(ea0276)はため息を付いた。
「なぁ〜んか変なヤツが多いな、この店」
 違いない。




「桜おねーさん!」
 所変わって女子更衣室。久しぶりに知り合いに合ったねね子は御陰桜(eb4757)に抱きついた。未だ知り合いの少ない江戸の街。いつか世話になった恩人に再会できるのはなにより嬉しい。
「ねね子ちゃん久しぶりね。元気にしてた?」
 ぎゅ、っと抱きしめてなでなでと。嬉しいのかねね子は喉をごろごろ鳴らした。
「えへへへ‥‥‥。店長さんがお手伝いに冒険者さんを雇う、って言ってましたけど、桜おねーさんだったんですね。嬉しいなぁ」
 豊かな双丘に顔を埋めてすりすりと、まるで母親に甘える子供のようだ。
「そう言ってもらえて嬉しいわ。あたしもねね子ちゃんに逢いたかったもの」
「おねーさーん♪」
 甘えるねね子を十分撫で回して、桜は自分が着るメイド服を取り出した。自前の服の上から重ねるようにあてた。ねね子のメイド服を参考にしたものだ。
「ねね子ちゃん、これ似合うかしら?」
「うん! とっても似合ってる!」
 ちょっと大人っぽくしたものらしい。大人の女魅力全開の、桜が着たら最終兵器忍者だ。しかも人遁の術を使ってネコ耳と尻尾をつけるらしい。最強だ。
 既に存在そのものが最強な桜。
 だけど、既に別な最強が、先に店内でご主人さまの接客をしていた。





 今日も今日とて満員御礼なメイド喫茶柳亭。実も蓋もない言い方だが、お金を払ってご主人さま気分を味わえるこの店は結構な評判のようだ。例えば庶民とか立身出世のアテのない浪人とか‥‥‥泣けてくるが千客万来はいい事だ。そんでもって店の性質上、男が多くを占めている訳だが、今日はいつもより拍車をかけて野郎共の顔は緩みきっていた。
「お待たせいたしました。紅茶のご主人さまはどちらですか?」
 にこりと微笑む牧杜理緒(eb5532)。だがそんな事はどうでもいい。とにかく凄い。妖婦すら逃げ出すほど凄かった。
 元々、理緒はメイド服を着ようとした。だけど、華国出身と聞いた店長は、華国人ならばこれを着ろと言って渡された。断ればよかったのだが、一応故国の民族衣装。たまには着てみたかったのだ。
「ハァハァ理緒たん」
「カーニバル。カーニバルだよ」
「あんなに動いているのに肝心なのが見えない。でも、それがたまらないよ‥‥‥」
 男たちから向けられるねっとりたっぷりな視線。今すぐ龍飛翔ぶち込みたくなったけどそこは我慢した。
 だけど男は我慢できなくなった。
「理ー緒たーん♪」
 男はふらふらと後ろから襲おうとして‥‥‥鬼のような鉄扇の打撃が男の顎を打ち砕いた。宙を舞う漢、もとい変態。笑顔だけど青スジたっぷりな理緒は、本日五人目の変態を撃滅する。そして「けひゃひゃ。新しい実験体確保だね〜」とトマスがずるずるどこかに引き摺った。
「‥‥‥‥‥‥」
 周囲の空間すら歪ませる超殺気。小さな羽虫なら殺せそうな殺気を放ちつつ、顔だけは笑顔で理緒は振り向いた。最近の流行を思い出してみる。よくわからないが『クーデレ』というのは流行ってるらしい。
「我が主達。ここはそのような無体を働く場所ではないぞ?」
 笑顔なのが余計に怖い。
 だけど理緒の恰好も悪かった。
 胸元が、凄まじいというかそのレベルですまないぐらいあいたチャイナ服。スリットもこれまた形容するのが不可能なほど切れ込んでて、ほんの少し動いたら中の聖域が覗けそうになっている。
 だけどそこは鍛えぬいた武道家。武術独自の体捌きもあって見えそうで見えないなんて、その服じゃありえない神技を披露していた。全裸よりこういうのが逆にぐっと来ると思うがどうだろう?
 ちなみに瀞蓮(eb8219)も最終兵器武道家だったりする。両の拳が真っ赤に染まったり返り血を浴びてたり、ペットの鱗で足なしが変態の首に巻きついたりしていた。客がとち狂って飛びかかってきたらしい。
「ごくろーさん。ここが戦場だったら勲章ものじゃん」
 こっちもこっちで変態を撃滅した空魔が蓮を出迎えた。龍叱爪の爪がいやに赤い。
「そちらこそ大戦果のようじゃな。空魔殿」
「ん。別にそんな事」
 最終兵器武道家な蓮。空魔はまともに正視できないからそっぽを向いた。
「しかし、世の中珍妙な商売があるものじゃな。まあ経営していけるということは需要があるのじゃろうが、まあ人の趣味に口は出すまい」
「俺には何がいいのかさっぱりわかんねえけど」
 そうかもしれないが、可愛い女の子達がふりふりひらひらだったり露出が凄い恰好なのを嫌いな漢もとい、男はいまい。現に空魔はちらちら蓮を見てたりしている。
「しかしなんじゃな。冥土という割りに、黒い以外は冥府のようなおどろしい印象を受けぬ服じゃが物々しい名前がついておるのかや? ほんに珍妙な商売なことじゃ」
 蓮の勘違い、神剣咲舞が拍車をかけてたりしている。そう言えばついさっき、もう一人のサポートが変態に間違われて撃滅されたとかされなかったとか。
「それにしてもじゃ、リフィーティア殿のメイド姿殺人的に似合っておるな。いっそ工事した方がいい気がするの」
 どこを工事する気だ。思い出したのか空魔はぽ、と頬を赤らめた。
「うん。俺、あいつが着替えてる時どきどきしたぜ」
 こいつも変態に違いない。客達にハァハァされて一時むかれかけたリフィーティアは大暴れしたとか。でもそれが「ツンデレっていいよネ☆」とかでさらに爆萌えしたらしい。
 あっちを見ればルーラスが轟き唸る貴族万能技で女性客のハートを盗んだり、獣耳ヘアバンドだけならともかく首輪を付けられて泣きながら犬執事してたりと一生懸命仕事している。ちなみに裏で度が過ぎた変質者に特別な「接待」をしたとか。
 空魔は妙にハイになった客達に駆け出した。
「皆、仕事の邪魔だから店の人に手出しちゃダメだろうが〜!」
 蓮もそれに続いた。
「冥土冥土と、口に出して騒いでばかりでは死後本当に冥府魔道へ落ちてしまうぞ。良識を持って大人しくしておれば極楽浄土も見れるやも、のう?」
 腕を組んで思わせぶりに胸を持ち上げて、妖艶に微笑んだ。
 今日も平和だ?