【上州征伐】これもある意味戦場だと思う
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月27日〜12月02日
リプレイ公開日:2006年12月06日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
遥か遠くの上州。現在彼の地では、真田雪村や真田の十勇士を初め、天下に名を轟かせる猛将達が激戦を繰り広げていた。
群雄割拠のこの時代。京都では現在進行中で物騒な事が起きているし、少し遡ると黄泉人との戦いが行われた。よくよく見ていれば物騒な所はしっかり物騒だ。
そんでもって源徳公がお膝元。江戸の街も結構タイヘンな事になっていた。
上州の地における戦争。上の方は上の方の事情があるのだろうが、まあ色々あって源徳軍も出兵した。
国防力とは領地内における兵数とそれを指揮する将によっておおそよ決まる。
自領地から兵が出て行ったという事は、つまり国防力の低下を意味する。それほど多くなくても数字の上ではマイナスだ。
残った兵力で領地を守る。全ての兵が領内にいるならともかく、減った場合はそれに付け込まれて近隣諸国から攻められるかもしれない。例え同盟を結んでいても気が抜けない。
そんな居残り組の一つの蓮山玲香率いる蓮山大隊。攻めるより帰る場所を守る方が実は大仕事のような気がするのに防衛部隊は何故かいい評価を受けない――はともかく、彼女達の職場はさながら修羅場じみていた。
出兵した兵達の分の仕事も回されて、つまり、居残り組には色々と仕事が増える。
「式子ー! この書類どこに持って行くんだ?」
「式子ちゃん。補給部隊が早く物資を持って行きたいって言ってるけど、申請受理はしてたかしら?」
飛び交う同僚と上司の声。蓮山大隊指揮下の笹山中隊中隊長、笹山式子のイライラは頂点に達しようとしていた。
「式子。治安強化の為に役場から兵を少し派遣してほしいって」
「式子ちゃん。エチゴ屋の使いが納品した武具の代金受け取りに来たんだけど」
「式子。戦死者供養の為に寺社から坊さんが営業に来てるぞ」
「式子ちゃん。志願兵に来た人どうしようか?」
――本当に、イライラしてしょうがない。
「式子ー」
「式子ちゃーん」
いやもう本当に、
「式――」
「やっかましい!」
「あふん!」
まるで夢想流の居合いが如く。愛用の鞭が轟きしなる。
「大隊長も友孝も! いちいちどうして私に聞く! 二人とも一応管理職だから自分で判断しろ!」
全くもって違いない。嬉しそうに悶えている同僚に気付かず、直属の上司である蓮山玲香に噛み付いた。
「だいたい何だ! 私も私で忙しいというのにどいつもこいつも聞いてきて! そんなに暇か!」
「え〜。だって式子ちゃん頼りになるし、有能だからつい聞いてしまうのよ。頼れる部下をもって幸せね」
手をあててのんびりと、上官はのたまった。
「幸せね、じゃありません! 部下に判断を仰ぐなんて無能の証。上官らしく威厳をもって、私達部下に命令を下さないと下の者に舐められます」
いやもう本当に上下関係が逆みたいだ。
「それもそうだけどね。部下を鍛えるのも上官の仕事なのよ。さっきみたいに受け答えさせる事によって、的確な判断力を付けさせ人の使い方を学ばせる。判る? これも私流の教育なの」
「さいですか」
言い切った。そんな上官は急に頬を朱に染め上げる。
「でもね? 私は恋愛についてはさほど自由とは思わないの」
「‥‥‥は?」
急に何を言うこの上官。
「確かに愛の前には年齢も国境も種族も身分も関係ないわ。でもね。それでも守らなきゃいけない一線はあると思うの」
「だ、大隊長?」
「式子ちゃんと友孝くんが相思相愛なのは十分に判っているわ。冒険者に聞いた話だけど、一夜を共にした間柄みたいだし、燃え上がる青い情欲に流されてしまうのはしょうがないわ」
「ち、違う! あれは酔い潰れてそのまま同じ布団で寝てしまっただけだ!」
「だからそれで酒の勢いに任せてでしょう? その場の勢いに流されるのはどうかと思うけど、きっかけってどうとでもない事だし私としては若さに任せてどんなプレイに走ったか気になるわ」
「ええ。自分もどんな事したのか記憶にないのが残念です」
「黙れ友孝!」
鞭が唸ってしなる。実際この間の事は、冒険者がいらん気を回して、酒に酔いつぶれた二人を同じ布団に叩き送っただけだ。ちなみに二人とも凄い勢いで酒を飲みまくったせいか、翌日を迎えるまで一度たりとも目が覚めなかった。
「あらあら。それが式子ちゃんの愛し方? 激しいね」
「何を誤解しているのです!」
「だって‥‥‥。西洋でいう『えすえむプレイ』なんでしょう? 私、人様の趣味に口を出す気はないし、愛のカタチはそれぞれだと思うわ」
「だから違うと!」
「もう。そんなに恥かしがらなくてもいいわ。――そうだ。ついでだから冒険者に依頼しましょう」
玲香は名案だ、とばかりに両の手を合わせた。
「只でさえ私達の部隊には仕事が鬼のように回ってきているし、我ながら情けないとおもうけど、捌けてないのが実情ね。だから、その手伝いに冒険者をやとって、そのついでに式子ちゃんと友孝くんの仲を進展させようと思うの。私っていい上官よね」
「余計なお世話です!」
と、しまったとばかりに式子は口を抑えた。
「あら。何だかんだ言って、式子ちゃんもどうかしたいと思っているのね。私に任せなさい」
江戸の武家の者としては微妙に婚期を逃している、迷惑でしかない上官のお節介が始まった。
●リプレイ本文
※アル・アジット(ea8750)の手記から抜粋
『浅生友孝は、前回の報告書から判断する限り仕事は出来るしバイタリティもある。
若さ故の暴走をしているようではあるが破滅的とまではいえない。つまりは優良物件ということになる。
特に手綱をとることのできるレベルの女性にとってはちょー優良物件。
笹山式子は、前回の報告書から判断する限り様々な意味で出来る女性と思われる。
しかしできすぎるが故に男との縁が薄くなり婚期をの(血痕により以後の解読は不可能)』
「‥‥‥‥‥‥‥」
アルへの拷問もとい調教を終えて自分の職場に戻ってきた式子は、目の前を見てにっこり笑うと、壁にかけてあった鞭を手に取った。
時刻はお昼過ぎ。平時なら午後の仕事が忙しくなる、そんな時間だ。
「あ、あのな? 式子、これは誤解だよ。何でもないんだ」
そんな時刻の笹山中隊用オフィス。若さ故のアヤマチというか暴走というか、友孝は十七歳の自称『ジョシコウセイ』のエリー・エル(ea5970)を押し倒していた。出身のローマの言葉だろうか?
まあそんな事はどうでもいいとして、もの凄くマズイ状況である。
「えっとな? 何ていうか、その、事故なんだよ事故」
「相も変わらず馬鹿な事しか言わないな。只でさえクソ忙しいというのに情事の真っ最中か? いやいや、お盛んな事は結構な事だが、もう少し場所をわきまえた方がいいと思う。一応私のオフィスなんだがな」
「だから、これは事故であって誤解であってだからな?」
きっと浮気現場を押さえられた男はこんなだろうな――場違いというかある意味ふさわしいというか、そんな事を考えながら友孝は答えた。精一杯の笑みを浮かべる顔は真っ白だしよく見ると震えている。状況が違えば気の毒と思うだろう。
「いいんだいいんだ。お前もいっぱしの男、溜まるものもあるだろうし日々のストレスもあるだろう。だがな、いくらなんでもこんな明るい内はどうかと思うぞ」
「だ、だからこれは――」
古今東西、男はこういう局面、いい訳か逆ギレするかどちらかだ。そんでもってエリーがトドメの一撃をぶち込んだ。
「友孝君におそわれるー」
棒読みだ。もの凄く棒読みだ。
それに気付く余裕は二人ともなかった。
「さっさと離れろぉぉぉぉ!!!」
鞭の嵐が友孝を『友孝だったもの』に変えた。
「なるほど、友孝さんがああなっているのはそんな理由が」
書類の束を運んできたフィリッパ・オーギュスト(eb1004)は式子に書類を渡した。彼女に与えられた仕事は、外国から渡ってきた物資の点検や外国人との間で起こった諍いが記された書類の纏め。和風一直線な江戸とはいえ、月道を通して外国人に外国文化が流入している。フィリッパのような様々な外国語に精通している人材は必要だ。
「ちょぉっと、悪ふざけが過ぎたわねぇん」
なんてどこか間延びした口調のエリー。見た目も合わせて幼げな印象を受けるのだが、これでも当年きって三十五歳の子持ち。歳相応の落ち着きを持てばいいと思うが見た目と同じ今どきの若者のような性格。未婚の母らしく色々苦労してきたのだろうか。
「煮えたぎらない式子ちゃんの為に友孝くん誘惑して聞き出そうと思ったんだけどねぇん」
それで襲われたら意味がない。
「これでも十五歳の息子がいるの。つまりマダム。暴走する青い性に振り回される若者に、マダムの妖艶な魅力は強烈過ぎたのねぇん」
自称十七歳はどこいった。サバ読みすぎだ。
「ん〜。式子ちゃんも友孝くんも相変わらずみたいだわ。若いっていいことなのだわ」
「ほんにのう。わしにも遥か昔はときめいた事もあったとは思うがの」
そんな面々をヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)とマハ・セプト(ea9249)は微笑みながら眺める。二人とも百を越えた御大。見た目はともかくとしても軽く一世紀を生きている二人には、式子と友孝のような恋に生きた時分は、今はとなっては通り過ぎた懐かしき思い出だ。
シフール同士で一世紀を生きれば互いに芽生える連帯感もあるのだろう。そんなヴァンアーブルにフィリッパは尋ねた。
「そう言えばヴァンアーブルさん、以前の依頼で式子さんと友孝さんに関わったと聞きましたが、その時お二人はどうだったんですか?」
「ちょっと待て。お前もか」
いくら神聖騎士とはいえフィリッパも人の子(エルフとのあいの子だけど)。色恋沙汰に興味はある。
何か嫌な予感のした式子は止めようとしたが、ヴァンアーブルの方が早かった。勘違いしかしない言い方だった。
「同じ布団で寝ていたわん♪」
要点絞りすぎである。
「それはそれは‥‥‥。口で言う割にはやる事やってますね」
「ち、違う! あの時は酔っていたし記憶にない!」
「ですから、酒の勢いのままに、でしょう? お二人ともお若いですし、ありあまる若さのままに、どういうプレイに走ったか気になりますわ♪」
「だから違うと!」
親指グッと立てるフィリッパに式子は真っ赤になって噛み付いた。やはりこの手の話題はからかうに限る。それにしてもどこかでしたようなやり取りだが、そんな事はどうでもいい。
それでどうなったんですか? とフィリッパはヴァンアーブルに尋ねた。式子はもう泣きそうだ。
「二人とも、けもののようだったわ☆」
フィリッパは生暖かい視線を投げかけ、判ってるとでも言うように微笑んだ。マハなんか「若いのぅ‥‥‥」とのんびり茶をしばいている。
「式子さん、わしをしばくのは勘弁じゃぞ。まだ孫の様な子の成長を見守りたいのでの神の元には行けぬのじゃ」
マハは先手を打った。
羞恥に染まる式子の顔。指先までが朱に染まって振り上げた鞭は行き場を無くした。一応年配に対する思慮はわきまえている。
「う、う、うううう!!!」
自分に向けられる生暖かい視線。にっこり笑う皆がいやに優しい。何ていうか耐えられなくて、
「うわあああああああ!!!!」
逃げ出した。
諜報部からの帰り、水上流水(eb5521)はアルと土守玲雅(eb8830)を引き連れた蓮山玲香と会った。片や眼が軽く血走って、片やぶつぶつ俯いている。怪訝に思ったが、流水は調査報告書を玲香に渡した。
「大隊長、例のものです」
「ありがとう水上くん。これで『例の作戦』が発動できるわね」
にやりと、面白い遊びを思いついたような笑みを浮かべる玲香。付かれきった表情で玲雅は尋ねた。
「‥‥‥作戦? 作戦というと仕事ですよね? 仕事と言ってください。今までいらん事つき合わされましたけど、ついに仕事するんですよね? お願いですから仕事と言ってください!」
「玲雅さん?」
泣きすがる玲雅。さすがに流水は引いた。
「そもそも私達は仕事に来たんですよ!? なのに誰も仕事しませんし式子殿と友孝殿をからかうばかり! せめて貴女だけでも仕事をして下さい。大隊長でしょう!?」
全くもって正論だ。だけど玲香は断った。仕事が鬼のように忙しいのに。
「い・や・よ♪ せっかく面白いおもちゃをもっと面白く出来るのに」
言い切った。さも当然と言い切った。
「蓮山殿〜っ! 私達は貴女達の仕事を手伝いに来たんですよ! その貴女の返事がどうしてそうなのですか!」
「あらあら。私は大隊長よ? 部下の為に身を削るのは当然じゃない」
「こういうのは本人達の問題じゃありません! ていうかアル殿! 貴方も散々こき使われたから何か言う事あるでしょう! ほら!」
「そうですね。浅生氏は飼い慣らされてさえ荒々しさを失わない悍馬みたいですから、色々な意味で釣り合いが取れると思います!」
「貴方もですか!?」
「フフフ。あの二人、夜はもの凄く激しそうと思います!」
「やかましい!」
鞭の痕が生々しいアル。眼が普通じゃない。とりあえず殴って黙らせた。
「水上殿。貴方もそうなのですか? 真面目に仕事しましょうよ!」
既に玲雅には悲壮感すら漂っている。
「玲雅さん。『ギャップ萌え』というのをご存知か? わたしも最近知ったのだが、世の女性はこれに弱いとか。勿論逆も然りだ」
「貴方もかーーー!!!」
全ての希望が断たれた瞬間だった。
深夜。夜通し行われている仕事中、式子は友孝と共に休憩を取っていた。夜勤の当番ではないし本来この時間には帰宅している。それだけ仕事が殺人的に多いのだ。ちなみに残業代は出ない。
「あれだけ騒いでたのに一応仕事はやっているんだな」
提出された報告書を手に式子は感嘆の声を上げた。からかわれまくった午前中。不本意だが仕事と遊びを両立させていたらしい。
なあ、友孝――と式子が、流水は一瞬の隙をついてペットの燦を差し向けた。
「きゃっ!」
突然の発光生命体。飛び上がって、つい、友孝に抱きついてしまった。
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
沈黙。眼があって鼻先が触れ合うほどの距離で――
「と、友孝? これは、その――」
「式子ーーー!!!」
押し倒した。思いっきり押し倒した。
「式子! 式子! もうだめ。俺はもうだめだ!」
「友孝!? ちょっと待て。落ち着け!」
「これが落ち着かれるかよ! 俺は、俺はもう!」
「ふ、や、そんな強引なんて‥‥‥」
「強引じゃないければいいのか!?」
「そういう問題じゃっ! だ、だからだめ、よ‥‥‥」
何やらタイヘンな事になってる二人。
(よし、そこよ!)
(はりきってゴー!)
(フォフォフォ。お盛んじゃのぅ)
(確かにけものですわね)
(狙い通りなのだわ)
(うん。男らしい)
約一名勘違いしているが、冒険者一向しっかりでば亀している。止める気はないのか。
「それじゃあ頂きます!」
声を高らかに超宣言。堂々とし過ぎている辺り確かに男らしいかもしれない。
――奪われるの!? なんて不安やら何やら渦巻いている中、救いの手なのか余計なのか、ともかく差し伸べられた。
「私だけ仕事をさせて、少しは手伝えーーー!!!」
鬼のような形相の玲雅が、小太刀振り回して襖ぶち抜き部屋に突貫した。