高槻慎一郎は男を上げられるか?
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月08日〜12月13日
リプレイ公開日:2006年12月16日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
メイド喫茶柳亭。かつて閑古鳥が大合唱していたこの店は、冒険者達の手により江戸屈指の迷(?)店となっていた。異国情緒な店内に、右を見ても左を見てもメイドさん。ある意味天国だ。
そんな綺麗だったりスタイル抜群だったりネコ耳だったり、色々なメイドさんを見て顔が緩みきっている幼馴染みを、冬の蝦夷の地の如く冷たい眼で馳川更紗は睨み付けた。
腰まで伸びた流れるような金髪。宝石のような青い瞳。遥か遠く、イギリスの地からジャパンが旗本馳川家に養女に出された美少女だ。
「‥‥‥随分、嬉しそうだね、慎一郎」
一言一句、ドスが効いているというか言葉そのものが呪詛のようなというか、何はともあれ振りまく殺気だけで子供が泣き出しそうだ。顔は笑っているのに眼は笑っていない――慎一郎は、蛇に睨まれた蛙な心境だ。
「そ、そんな事ないよ。ほら、このお団子美味しいね」
全身から冷や汗がだらだらと。元が甘味所だった頃かの人気商品なのだが突き刺された超殺気。味が全く判らない。
「別にボクはいいんだよ? 慎一郎だって男の子だし女の子が気になるのは普通だと思うよ」
意味は微妙どころか絶対に違うと思うけど、外面菩薩内面夜叉とはこの事に違いない。見る者の心を奪うプリティフェイス。解き放つは超殺気。何というか今すぐにでも逃げ出したい。
「ここの店員さん。同性のボクから見ても綺麗な人ばかりだし慎一郎好みのきょぬーさんもいるしメイド服だってふりふりとか面積とか、男の人から見れば垂涎だったりすると思うよ? でもね。連れの女の子と一緒なのに、違う女の人ばかり見るのはどうかと思うな」
せ、折角二人いっしょなのにな、と心の中で付け加えた。
異性と遊んだり食事したり、異国の地では「でーと」と言うとか言わないとか。
「でもね。まず胸を見るのはどうかな。メイドさん気付いてないようだったけど苦笑してたよ。じろじろ舐めるようにねっとりたっぷり視姦してさ、これだから男の人っていやらしい」
何も言えません。慎一郎だって異性に激しく興味のあるお年頃。そんな事に興味はありませんよ、なんて顔している割に心中女の子ってどんなのかなぁ、と激しく妄想したり。底のない膨らみ続ける青いリビドーは理性で抑える事は出来ません。
「しょ、しょうがないじゃないか。俺だって男だし‥‥‥」
精一杯の反論。随分の都合のいい言い分だ。
「だからって見てもいいと思ってるの? 女はね、男の都合のいい性欲の捌け口じゃないの。そんなだから性犯罪はなくならないのよ。あんた一応役人なんだからその辺りわきまえれば?」
「ごもっともです‥‥‥」
何を言っても無駄無駄と。慎一郎は頭を垂れた。こういう局面、男は何を言っても無駄である。口で女に勝てる事などまずない。耳を傾けると「別れ話?」「修羅場?」「男って最低ね‥‥‥」とか他の客やらメイドさんの声も聞こえるが今更どうにもならない。
「まあいいわ。慎一郎はすけべでいやらしくてえっちなのは今に始まった事じゃないもの。とりあえず仕事の話しをしようよ」
あんまりな言い方だ。軽く泣けてきた。
慎一郎は目頭を押さえて書類を取り出した。紙面には、今回承った仕事の内容と冒険者ギルドへ依頼する旨が記されていた。
慎一郎の勤める役場は、致命的な人材不足で度々冒険者ギルドで冒険者の調達をしているのだ。
「カップルばかりを狙う変質者の逮捕。犯人は鍛えぬいた超筋肉で褌一丁の集団。街中や夜中であろうとカップルを見つければ襲撃をかける」
書類を読み上げたそこで更紗は赤面した。
「そ、そして犯人集団は男を拉致して裸に向いて、お、お尻の穴を‥‥‥!」
更紗は一気に紅茶を飲み干した。
「と、とにかく! 冒険者達に手伝ってもらって犯人捕まえるよ!」
結構純情な更紗。この手の話題は苦手らしい。更紗は「し、尻‥‥‥。入るの?」と呟いた。何が入るんだろう。
突っ伏した更紗に慎一郎は尋ねた。
「でもさ、どうやって捕まえようかな」
「それは慎一郎の仕事じゃない。なんでボクに尋ねるのよ」
ごもっともだ。
どうしようかなぁ、と頭を抱える慎一郎に、違う理由で真っ赤になった更紗はもじもじと呟いた。
「冒険者に協力してもらうのは勿論だけどさ、どうしてもって言うならボクも手を貸してあげるよ」
「更紗?」
「そ、その‥‥‥。えっとね?」
更紗は思い切って言ってみた。
「囮、捜査。してみない?」
「囮捜査?」
鸚鵡返しで尋ねた。
「う、うん。そう。囮捜査」
かーっ! とこれ以上ないぐらい赤面する更紗。実際のところ、これは口実だ。
「犯人はカップルを狙うじゃない。だからさ、ボクと慎一郎が、こ、恋人みたいに、い、いいいいちゃいちゃしてたらさ、犯人も出てくるかなぁって、ダメかな?」
緊張と羞恥に染まる頬。ふるふると真っ直ぐに、恥かしさのあまりうっすらと涙眼だ。
何ていうかもの凄く可愛い。慎一郎はつい「うん」って答えた。
「そ、それじゃあ慎一郎。そ、その。よろしくお願いします‥‥‥」
何だかもの凄く訳の判らない空気に包まれた。
●リプレイ本文
「お二人をきっちりガードする為に予め計画を立てておきましょう」
ギルドの一室。『慎一郎と更紗嬢のドキドキいちゃいちゃ大作戦!』と書かれた横断幕を背に、ガユス・アマンシール(ea2563)はそう切り出した。円卓。何も考えていなさそうな能天気なスマイルフェイスの慎一郎に足のつま先まで真っ赤な更紗。今更自分のアイディアに恥かしくて死にそうになって後悔して、頭抱えて突っ伏していた。
「皆さんよろしくお願いします」
落ちぶれたとはいさすが元旗本の息子。身に染み付いた礼儀作法は慎一郎の善人ぶりを更に引き立てている。
慎一郎は隣で唸っている更紗を促した。
「ほら、更紗どうしたの。挨拶しないと」
「うぅ〜。だって、だってぇ‥‥‥」
今回の仕事は変質者のタイホ。その為に自分は囮捜査を申し出た。そしてそれの相談。つまりデートの打ち合わせだ。ぶっちゃけデート。表向きは囮捜査だけどデート。デートなのだ!
「あーうー」
恋する乙女の胸は十六ビート。物心付く前からずっと一緒にいて何をするにも一緒で、一緒すぎるからこそ慎一郎は何も思わないのだろうか。更紗の小さな胸には大きな恋心。何だかんだで今回が初デートだ。
ドキがムネムネしてたまらない。だって、大好きな慎一郎とデートなんだモン☆
そんな更紗を何かを思い出したのか、シターレ・オレアリス(eb3933)がしみじみ呟いた。
「更紗ちゃんくらいの金髪の娘さんをみると嫁にいった娘のことをおもいだすのぅ。是非、更紗ちゃんには幸せになってほしいのぅ」
「嫁!?」
更紗は飛び起きた。
嫁というのは夫の相方。夫と嫁はいわば愛という名の絆で結ばれた二人。そしてその絆を得るには儀式を行わなければならない。その儀式を行うには恋人同士の同意が必要だ。今回は慎一郎といちゃいちゃしないといけない訳でいちゃいちゃするのは恋人同士で、つまり、慎一郎と結婚!?
「う、うわああああ!!!!」
「更紗!? 落ち着いて!」
混乱している。ものっそ混乱している。激しくヘッドバンキング。
「ふ‥‥‥若いな。」
そんな更紗を見つめるシンザン・タカマガハラ(eb2546)。確かに若さ故のアヤマチもいい所だ。
「ええ‥‥‥。今回も生暖かく見守りましょう‥‥‥」
頷いたメイドさん。もとい柳花蓮(eb0084)。聞けば某メイド喫茶でバイトしているらしく、その制服のままやってきたとか。獣耳ヘアバンドで巫女装束をもとにしたメイド服で獣耳巫女メイドとか。冗談のような恰好だ。邪悪極まりない笑顔が最高にイイ。
‥‥‥‥‥‥‥
んでもって、更紗が落ち着いてから再び会議が始まった。さすが優れた知力と豊富な知識を持つウィザード。ガユスの司会によってデートプランが纏まって‥‥‥強制的に決められていた。
「この茶店の後は、ここの縁結び・恋愛成就のご利益がある神社仏閣のはしごはどうでしょうか」
地図を広げガユスは調べた情報と乏しい経験を元にオススメデートスポットを指差す。女性経験に乏しいらしい男が言っても説得力ない気もするが、そんな事はどうでもいい。
「その茶店はあんみつがおいしいと評判です‥‥‥。お互いに食べさせあうのはどうでしょう‥‥‥」
「その際『あ〜ん』は必須だな」
蓮に三笠流(eb5698)は続いた。
「あ、あ〜ん、なんてそんな事出来ないよ‥‥‥」
「何を言うのだ更紗嬢。今回の依頼目的を忘れたのか? 是非二人には腕を組んで歩いて茶屋であーんして、そして接吻をして欲しい。むしろやれ」
「もっと無理!」
人の恋路ほど弄るのは楽しい。更紗はいい感じに煮えきっている。対して慎一郎。極めて鈍いというか欠落しているのか、こっちは普通ににこにこしている。そんな慎一郎にシターレは言った。
「変態集団を捕まえる為、アドバイスじゃ慎一郎殿。更紗殿の手を握るか肩を抱きながら歩くといい。そして雰囲気がよくなったら接吻を狙うがいい」
「え? え、ええ。狙ってみます」
「し、慎一郎!?」
これまた真っ赤な顔を向ける更紗。慎一郎は年配の者に対し礼を尽くす‥‥‥という事で返事しただけだが余計なのか違うのか。慎一郎も結構煮えてるのかもしれない。
トドメとばかりに牧杜理緒(eb5532)、
「しっかりいちゃいちゃしてね♪」
グっと立てた親指がいやに決まっていた。
「初々しいのが余計に可愛らしいお嬢さんだな。しかし、既に心に決めた相手がいるのが実に口惜しい」
角の茶店で軽食を取りながら、慎一郎と更紗が甘味を食べているというかいちゃいちゃしているのを鷹見仁(ea0204)はどこか冷めた眼で眺めていた。
「は、はい。慎一郎。あーん‥‥‥」
「あ、あーん‥‥‥」
「どう? おいしいかな‥‥‥」
「うん。おいしいよ。じゃあ、次は更紗でそ、その。あーん‥‥‥」
「あ、あーん‥‥‥」
振りまくラブラブオーラ。周囲はピンク色。世界には私達だけだよステキだネ! とばかりにいちゃつき倒すお二人さん。片や変態をおびき寄せる為、片や大好きな男の子とデートしているから、なんて前提がすれ違ってるけど、こんな気にあてられたのか慎一郎もいい感じに染まっていた。ピンク色に。
高槻慎一郎と馳川更紗。天下の往来の真昼間で人目はばからずいちゃついて、逮捕の対象どころか近くの通行人にすら鬼のような殺気を向けられていた。バカップルは公害だ。
「だがまあ、そう言うことなら出来るだけ幸せになれるよう協力してやるのがイイオトコってモンだな」
筆をすらすらと、二人のラブっぷりを激しく転写中。自称ジャパン一の美人絵師。腕の見せ所だ。
そして神社。二人をストーキングもとい離れた所で護衛しながら仁は思い出した。
「確か、この神社はあいつが先回りしていた筈だよな」
慎一郎と更紗は二礼二拍手一礼。何をお祈りしているのか知らないがというか想像つくというか、そこで花蓮のリードシンキングが発動した。ちなみに読んだ思考を超改竄。
「そこの金髪の女性は慎一郎に自分を攫ってほしいと思っています‥‥‥。そして、そこの殿方は更紗を奪いたいと思っています‥‥‥」
なんちゃって神の声。せめて声色ぐらいは変えた方がいいと思う。だけどその技能を持たない花蓮。頭が煮えたぎっている二人は気付かなかった。
「し、慎一郎。ボクにそういう事したいと思ってるの‥‥‥?」
「ち、違うよ更紗! これは何かの間違い!」
何かいつでも間違いが起きそうな雰囲気だ。
「あ、あのね? 牙神さん。何とか貞操は守れたんだし元気だそうよ」
某所。変態集団の聞き込みを行っていた理緒は牙神幻十郎(eb9652)を慰めていた。ぐずっている幻十郎。半裸というか褌も半ばまでむかれ、全身にキスマークの痕がくっきり付いていた。
「‥‥‥もう、もう! お婿にいけない‥‥‥!」
聞き込みを行っていた二人。それだけで殲滅対称になったのだろう。突如空から降りてきた超筋肉。血涙流しながら「男同士の愛が真実の愛なんじゃあああ!!!」とか叫びながら迫ってきた超筋肉達に幻十郎が凄い事になりかけた。
奇襲というのも理由の一つだろう。あわやタイヘンな事になりかけたが理緒の活躍で事なきを得たのだ。一応。
「元気だそうよ。掘られなかっただけでもありがたいと思おう?」
というかそれが理由で死んだら死んでも死に切れない。
幻十郎は、
「復讐してやる! あの筋肉共に正義の鉄槌を下してやる!」
まあ、いい傾向だ。
そんなこんなで夜中。道を誤ったのか大人のお店のある区画に入り込んだ二人は鬼のように緊張しまくっていた。二人とも右手と右足が同時に動く始末だ。
そこの角を曲がった。
人通りはなかった。
急に人気がないのは不安で、ついくっついて歩いて自然に手が触れ合ってどちらかともなく握ろうとして‥‥‥空から筋肉が降ってきた。
「フッハァ!」
「汚らわしい女といちゃつくアホ男め! 我らが正しき愛を教えてくれるわ!」
「尻を出せぇぃ!」
慎一郎と更紗を取り囲む。急にねっとりした熱気が二人を包んだ。
「‥‥‥本当に居るんだな、あんな連中」
「ジャパンの行く末が心配じゃ」
かなり窮地に陥っている二人というか慎一郎を見つめながら、シンザンとシターレはしみじみ呟いた。
「ていうか助けに行きますよお二人とも! ウインドスラッシュ!」
「効かぬわ!」
「マジですか!?」
マジですよ。
轟き唸る超筋肉。ガユスのウインドスラッシュは筋肉の壁に防がれた。間隙を縫って流がナックルを握り締め駆け抜けた。
「江戸を騒がす不埒な輩共め!」
狙うは金的。例え筋肉がいくら鍛えぬかれようとも――
「何!?」
鋼が如く金属並みの硬度がナックルの一撃を防いだ。
「我らが『男』はその程度でやられぬわ! 邪魔するなら貴様から掘ってくれる!」
「ダンコ断る!」
暴れだす。身の危険だから。花蓮が援護のブラックホーリーを撃った。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
「溶けた!? アレは魔物の類なんですか!?」
似たようなものかもしれない。
急な展開に追いつけない慎一郎と更紗に「細かい事は気にするな」とシンザン。ソードボンバーで筋肉達をなぎ倒す。
玄十郎の魂の叫びが聞こえた。
「おのれ筋肉共! タイホすら生温い! 先ほどの恨み、身を持ってしるがいい!」
鬼のような血涙。日本刀を振り回す。
「何があったんだあの男‥‥‥」
「掘られかけたからね、牙神さん」
呆れたように呟く仁に理緒は相槌を打った。「若いのう」と何故か悟り気なシターレ。それしか言う事ないのか。
その日の夜は、筋肉血涙事件と呼ばれたり呼ばれなかったりしたらしい。
後日、仁の書いた慎一郎と更紗のいちゃいちゃドキドキな絵が流れに流れ、二人の知人に渡り散々からかわれる事になるのだが、それはまた別のお話し。