あるメイドの恋

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:12月24日〜12月29日

リプレイ公開日:2007年01月01日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





 メイド喫茶柳亭。かつて閑古鳥が大合唱していたこの店は、冒険者の手によって江戸屈指の迷(?)店となっていた。
 師走の江戸。
 柳亭はもうじきクリスマスという事で店の外装も内装も、メイドさんもクリスマス一色になっていた。元々はジーザス教関係のイベントらしいが、そこは巡り巡って普段より奮発していいもの食べて騒ぐというイメージが一部に浸透している。少なくとも柳亭ではそうだ。そんでもってカップルには聖なる夜が『性』なる夜に。ああ殺したい。
「メリークリスマス! ご主人さま!」
 一人のメイドが大声で来客を告げる。店内にはお客さんもといご主人さまが一杯だ。こうやって新たな客入りを知らせるのは大事だ。
 時期的に台詞も恰好もまだ少し早い、メイドサンタなんて冗談というか突っ込み所満載というか、そんな折衷な恰好したメイドさんはご主人さまとお嬢様、高槻慎一郎と馳川更紗をテーブルに案内した。
「お決まりになりましたらお呼び下さい」
 彼女、恵理は二人にそう注げて奥へ下がる。
 物陰で、気になるあの人をそっと見つめる。
「ねえ慎一郎。どれにするの?」
「うん。そうだね‥‥‥‥」
 紡がれる声は空を踊る鳥のさえずりのよう。腰まで伸びた長い金色の髪。エメラルドのような青い瞳。白い肌は処女雪の如く汚れのない純白。そして何気ない仕草ですら漂う高貴な気品。
 どこからどう見ても異人だけど、彼女は恵まれた環境に豊富な財産を持つ旗本のお姫様なのだ。
「ここのあんみつ美味しいし、でもクレープも捨てがたいよね。慎一郎はオススメなのある?」
「うん。そうだね‥‥‥」
「‥‥‥。飲み物の注文はどうする? 紅茶にする?」
「うん。そうだね‥‥‥」
 尋ねる更紗に慎一郎はあっちきょろきょろこっちきょろきょろ。メイドサンタやミニスカメイドサンタとかリアルネコ耳メイドサンタを見てにやにや中。
 更紗はため息を付いた。
「ねえ慎一郎。あそこのメイドさんストリップしてるよ?」
「え、本当!?」
 速攻マッハで振り向いた。数逡を置いて慎一郎は謀られたと気付いた。
「いや、その、うん。これはアレだよね。アレ」
「‥‥‥‥‥‥」
「えーと、更紗、サン?」
 絶対零度が如く冷視線。熊すら射殺せそうな冷たい視線に突き刺されつつ慎一郎は何とか言葉を口にする。冷や汗が鬼のように大濁流だ。
「これはね、アレなんだよ。突然ああ言われたら誰だって驚くよね? ていうか男なら当然だと思うんだよ」
「さっきからアレアレって。アレじゃ判らないよ」
「だ、だからその‥‥‥」
 挙動不審もいい所だ。慎一郎は何とかご機嫌取ろうとするけど何も思いつかない。どうにか、どうにかしようと思ったけど――更紗は困ったように微笑んだ。
「まあ、しょうがないか。ここのメイドさん可愛い娘ばかりだしね。特に今日のメイド服とか一段可愛いし」
「う、うん、そういう事なんだよ!」
 随分と都合のいい。更紗は聞こえるか聞こえないぐらいの声で呟いた。
「結局、惚れた弱みなんだしね‥‥‥」
「え? 更紗、何か言った?」
「な、何でもない!」
 今度は更紗がうろたえる番。赤い果実のように真っ赤になったけど慎一郎も結構動転してたから気が付かなかった。



「――――――」
 そんな、二人を見る恵理。
 とても仲のいいあの二人。胸が締め付けられる。
 ――やっぱり、あの二人付き合ってるのかな。
 恵理はトレイを胸に抱いてどこか羨ましそうな瞳で見つめた。
 否。性格には違う。
 羨ましいのは、慎一郎と仲良く放している更紗だ。
 旗本馳川家のお嬢様。自分みたいな平民と違って家柄も財産も恵まれて、何不自由もなく過ごしてきただろう女性。外国人な見た目もあるだろうが愛らしい顔立ちに美しい金髪と青眼はどこか人を引き付ける。ミスマッチな和服も合わせて尚更だ。
 まあ服装はともかく、家柄も財産も恵まれて、その上可愛い。
 だから、付き合っていなくてもあの人はあの旗本のお姫様の事が好きに違いないのかな。
 ――ダメだ。後ろ向きすぎる。
 もしそうだとしてもお姫様の方もそうだと限らないじゃないか。そう自分に言い聞かせてもう一度二人の方を見た。
「―――ッ!」
 瞬間、心臓が止まった。
「慎一郎。口元が汚れてるよ」
「あ、そんなに慌てて食べたつもりはなかったのにな」
「吹いてあげるよ。顔、こっちに寄せて」
「い、いいよ! そんな事!」
 頬に更紗の手が触れて、慎一郎は真っ赤になった。
「ダメよ。身だしなみはきちんとしないと」
 更紗は一層身を寄せてハンカチを取り出した。
「――もう。本当に慎一郎はボクがいないとダメなんだから」


 まるで、断たれる事のない絆で結ばれた伴侶のよう。恵理はそこで確信した。
 ――やっぱり、付き合ってるんだね。
 少し泣けてきた。なんとなくわかっていたけどそれでもやっぱり泣けてきた。
 想像の通りだけど、それでもあの時受けた恩は返さないといけない。
 いつかの日、暴漢に襲われかけた時に助けてくれたあの人。名前は高槻慎一郎。お役人だ。
 お礼を言いたいと思っていた。助けてくれた時は気が動転していて何も言えなかったけど、店にやってきた時は少し驚いた。真面目そうに見えても男の人なんだな、って。
 まあその辺りはしょうがないと思う。だって男の人はそういうのが好きだから。
 ほとんどあのお姫様と来る事が多いあの人は笑顔がとっても素敵だ。
 優しい感じがするし誠実だと思った。接客する際ほんの僅かなやり取りやたまに聞こえる二人のやり取りを聞いている内にその通りの人だった。
 いつからだろう。
 あの笑顔が、私に向けられたなと思ったのは。
 この気持ち、何度も自問したけどやっぱり――。
 店長の思いつきで柳亭はクリスマスイベントをするらしい。その為に冒険者を雇ったようだ。
 クリスマスは勿論前日当日修羅場になる事は間違いない。当日、来店したお客さんにプレゼントの贈呈。もし、あの人が来てくれたなら、これを上げたいと思う。心を込めて作った、お礼の品。
 着てくれるなんて判らない。多分私の事も覚えてないだろう。色々な事に多芸な冒険者なら柳亭に来させる事も可能ではないだろうか?頼んではみよう。





 叶わぬ恋ならば、せめてこの品をあの人に。

●今回の参加者

 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb0084 柳 花蓮(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5002 レラ(25歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb5532 牧杜 理緒(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb9531 星宮 綾葉(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb9543 ラファエル・シンフィニア(22歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

逢莉笛 舞(ea6780)/ バデル・ザラーム(ea9933)/ サクラ・フリューゲル(eb8317)/ 篁 光夜(eb9547

●リプレイ本文

 店長曰く、クリスマスは普段より恋人達がいちゃいちゃするらしい。
「行ってらっしゃいませご主人様」
 お客さんを入り口までお見送りした後、私はすぐ次のお客さん‥‥‥もとい、ご主人様の下へ行く。バイトをはじめてそれほど長くはないけど培った営業スマイル。これだけは自信がある。
「お呼びになりましたでしょうかご主人様」
「呼んだよ恵理ちゃん! これとこれ頂戴!」
 脂ぎったぎとぎとフェイスのご主人様。バイト仲間から聞いたけどこのニート‥‥‥ご主人様は商家のお坊ちゃんらしい。見ての通り我が侭で贅沢三昧に過ごしてきたのだろう。外見が証明している。私も仕事じゃないと関わりになりたくない。
「かしこまりましたご主人様」
 私は鍛えぬいた営業スマイルでそう答えて調理場へ向かう。この超混雑した店内では直接言いに行った方がいい。というかクリスマスだというのにこんな店――勤めている自分が言うのもなんだけど――に来るのはどうかと思う。ご主人様達は彼女はいないのだろうか。まあ、見るからに女っ気に縁のない人ばかりだから判らないでもないけど。
 そんな事を考えていると隅の方でにやにや幸せそうな顔をしている二人のサンタ執事を見つけた。レイナス・フォルスティン(ea9885)さんとラファエル・シンフィニア(eb9543)さんだ。
「しかしだ。客として来ればよかったな(イギリス語)」
「全くだ。右を見ても左を見てもメイドさん。正直な所本物のメイドと随分方向性が違うがこれはこれでいいな(イギリス語)」
 今回お店の手伝いに来てくれた冒険者の一人、ラファエルさんはジャパンの言葉が話せないらしい。出身は違うけど同じ外国人のレイナスさんはイギリスの言葉は学んでいるらしく通訳及びペアを組んでいると聞いているけど、全く仕事をしていないじゃないか。
「フフフ‥‥‥。あいつ、御陰桜(eb4757)を見てみろ。あの露出が結構大胆なメイド服。スタイルもステキな上に赤白なのが余計に身体のラインを強調しているようでタマランな(イギリス語)」
「いやいや。牧杜理緒(eb5532)も捨てがたい。凹凸こそ桜に及ばないが赤いミニチャイナとニーソックスが最強だ。あれで絶対領域と呼ぶのか微妙だがあのスリットの切り込み具合といい俺の斬馬刀は暴発寸前だ(イギリス語)」
「俺も同じだ。というか既に二人ともメイドに程遠いな(イギリス語)」
「いや全く。だがそれがいい(イギリス語)」
「うむ。いつかハーレム作ったら是非二人を加えたい(イギリス語)」
「ハーレムは男の浪漫だな(イギリス語)」
「当然だ(イギリス語)」
 HAHAHAと声高らかに笑う二人。何ていってるか判らないけど、きっとロクな事じゃない。
 とりあず私は先に上がった注文の品をテーブルに運んだ。そしてまた出来上がったであろう軽食を取りに行こうとしたらどこからか声が聞こえた。耳をすますと何か話している様だ。全く、只でさえ忙しいのにサボって――こんなに修羅場ってるとサボリたくもなるけど真面目に仕事をする気あるのだろうか?
 一言言ってやらないと。私は声のした方へ向かった。更衣室前だ。
「その‥‥‥リフィーティアさん。元気だしましょう‥‥‥。これもお仕事ですから‥‥‥」
「お、俺、男なのに。男なのに」
「そうですね‥‥‥。殿方ならセクハラされる事もありませんしね‥‥‥。犬に噛まれたと思うしか‥‥‥」
「だから、俺、本当に男なんだよ」
「判りました。判りましたから‥‥‥」
 何だろう。微妙にかみ合っていない。話しているのはリフィーティア・レリス(ea4927)さんとレラ(eb5002)さんだ。
 私は尋ねてみた。
「どうしたんですか?」
「恵理さん‥‥‥」
 レラさんは蹲るリフィーティアさんと私を交互に見ると立ち上がった。そして小声で、
「彼女、ご主人様達にセクハラされたんです」
「‥‥‥ああ。そうですか」
 凄く納得した。確かに女としてセクハラされるのは死ぬほど嫌だ。それにしても何か卑猥だ。
「メイドサンタ服用意されてるって予想してたさ。着せられるって予想してたさ。だけどこれはあんまりだよ。俺男なのに‥‥‥」
 そう言って彼女は泣いた。
 彼女の気持ちも判らないでもない。私もこの店でバイトしたばかりの頃は勘違いしたお客さんにセクハラされそうになった。彼女の気持ちは十分に判る。
 それにリフィーティアさんは同性の私から見ても美少女だ。男の人からすれば悪戯したくなるんだと思う。だから、自分が男なら悪戯されないって、そういう意味で言ってるんだと思う。
 だけどそれは勿体無い。彼女ほどの美少女がそう言うのは可哀相だ。
 だから私は言った。
「大丈夫です。リフィーティアさんはとっても可愛いからその内白馬の王子様が来てくれますよ」
「あ、いや。だから俺男」
「判ってます。判ってますから」
 それ以上言うのはあまりにも切ない。
 私は何か言いたげな彼女の口を無理やり遮ってホールへ戻った。







「ご主人様、オイタが過ぎますよ」
「当店はそういうお店じゃありませんよ!」
 桜さんの銀のトレイが轟き唸って理緒さんのリベットナックルがご主人様達の頭をかち割った。お店を勘違いしている、というか、二人の大胆な恰好というか何というか‥‥‥とにかく、あんな凄い恰好をしていると勘違いもされるかもしれない。それにねね子ちゃんに悪戯しようとしたし、とにもかくにも桜さんと理緒さんはそんなご主人様達を制裁した。
「ねね子ちゃん、そっちのご主人様おねがいね♪」
 半泣きになっているねね子ちゃんをあやすと桜さんは別の席へねね子ちゃんを促した。正直休ませたいと思うけど、想像以上の修羅場だ。そんな余裕はない。
 何となく向かった方を見ると――彼がいた。
(た、高槻さん!?)
 私は思わず控え室へ逃げた。勿論そんな事をしたらいけないと思ってる。
 だけど、彼と一緒にいた女の子。旗本馳川家のお嬢様。クリスマスだからか、いつもより気合の入った恰好だ。
 ‥‥‥やっぱり、デートだからかな。
 二人が恋人同士っていうのは端から見て判る。それほど仲がいい。
 だから、私がしようとする事は全く意味のない事なのかな。‥‥‥だとしても、あの時のお礼くらいはしないといけないと思う。
 私は胸にしまったお礼の品に触れる。
 一生懸命に作ったこの品。
 受け取って欲しいと思う。
 だけど――堂々巡りになる中、どれくらい時間が立っただろう。いや、実際は数秒と思う、私は声をかけられた。
「‥‥‥皆さん。どうしたんですか?」
 振り向くと、桜さんに柳花蓮(eb0084)さんがいた。
「元気ないわね、どうかしたの?」
 桜さんは尋ねた。だけど私は答えなかった。否、答えられなかった。
「恵理さん。既に細工は隆々です‥‥‥。只今お店にいるご主人様達はミニゲームの最中ですので手筈通りに進めばもうじきです‥‥‥」
 花蓮さんは淡々と言うだけ言った。何だろう。まるで彼女の弁は何か裏がありそうだ。凄く気に入らない。
「西洋ではクリスマスの日、木の下で愛を誓えばどうとかと聞いた覚えがあります‥‥‥。ちょうど裏庭にも木はありますし‥‥‥セットも用意してますから後は告白するだけです‥‥‥」
 確かに事前にそういう風に段取りをつけて貰う様にお願いした。ついでに来店したご主人様達には安物だけどワインとベルモットを。彼女の提案だ。
 後者の方は別にいい。
 だけど、今更無駄じゃないか。高槻さんと馳川様は恋人同士に違いない。あんな、とても仲のいい、まるで硬い絆で結ばれた伴侶のようで‥‥‥
「お礼の品を渡すだけです。申し訳ありませんがそれだけにします」
 そうするしかないじゃないか。だって、あの二人の間に私が入り込む余地はない。
 きっとそうだ。あの二人を形容する言葉は他に何がある?
「それで? 贈り物を渡すだけでいいの?」
 桜さんは言った。事も無げに。
「いい訳ないじゃないですか! だけど他にどうしようって言うんです!」
 声高らかに。本当にどうしようもないじゃないか。
 だけど、
「気持ちを伝えなきゃ後で後悔すると思うわよ?」
「―――ッ!」
 その言葉が私の胸を穿った。確かにそうに違いない。言う事が出来ないままなんて後悔しか残らない。
「どうせなら当って砕けましょう‥‥‥」
 砕けたら意味がない。でもそんな軽口みたいな台詞が逆に私を元気付かせた。
 私は腹をくくった。





 慎一郎が当たりを引いたという事で席を外してから更紗はずっと不機嫌な顔だった。内容は『メイドさんと半刻二人っきり』不機嫌になるのも判る。
 そんな更紗に理緒が声をかけた。
「理緒さん? ここでバイトしてたんだ」
更紗は理緒と面識がある。そんなこんなで大切な幼馴染みはいつ帰ってくるのかなー? と聞いてみると、
「ちょ、ちょっと待ってよ! そんな話ボク聞いてないよ!」
「更紗さんの気持ちは判るけど、少しだけ高槻さんを貸してもらえないかな」
「嫌に決まってるじゃない! もし、もし慎一郎はその娘と付き合ったりしたら、ボク、ボク‥‥‥」
 更紗の身に駆け抜けたのは恐怖。大切な幼馴染みが違う誰かの下に行ってしまうかもしれないという恐怖――。
「江戸っ娘の粋ってことでお願い。彼女にきっかけを与えてあげて」
 自分でも嫌な立ち回りという事は理解していた。






 柳亭の木の下、私はあの人と、高槻さんと向かい合っていた。
 手にはお礼の品を。紡ぐ言葉は心からの想い。
 だけど、この人は私の事を覚えているだろうか。ただの店員としか見てないかもしれない。
「‥‥‥確か、君はあの時の娘さんだよね。久しぶりだね。あの時は怪我なかった?」
「――ぁ」
 ‥‥‥覚えて、くれてたんだ。
 心が燃える。勇気が湧く。
 もう怖くはなかった。
 私はお礼の品を差し出して想いを紡いだ。
「た、高槻さん。貴方の事が、好き、です」
 心を込めてこの人に。