この子の姉として、武士の娘として
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:01月20日〜01月25日
リプレイ公開日:2007年01月28日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
一月の初旬。新年を迎えてまだ日も浅い最近は、ご近所や親戚一同、そして仕事先のお得意さんや上司の下に挨拶に出向いたりする。それに寺社へのお参り等個人的に参拝したりする事もある。
まあそれはいい。
仕事だのなんだのでご近所回りするのは別段気を使う訳でもなく、今年もよろしくだの言うだけだ。
「こ、これは一体‥‥‥?」
つまり問題は別にある訳で、源徳軍所属の侍、木崎友香は結構本気であせっていた。
旗本だの上級武士だの富豪にもなると本業とは他に様々なイベントに顔を出さなければならない。それは仕事上の付き合いであったり立場上の付き合いだったり、お貴族様だとそれだけで『高貴な家の者の責任』とやらで行うだけ実際無意味なイベントに出席しなければならない。
本人達には本人達の理由があるのだろうが、そういう連中への警護に駆り出される方はたまったものではない。
友香自身も上司達の付き合いの護衛に駆り出され、その場の勢いで酒を鬼のように飲まされるはめになった訳だ。
そして人間酔うといつもはやらない事をしてしまう訳で、
「‥‥‥まさか、まさか私が!?」
乱れた寝巻き年頃の乙女の素肌が艶かしい。
彼女が護衛していた上官の息子、上田直正。これまた着物が乱れたまま隣で寝ていた。
ザ・同じ布団。
これは考えるでもなく―――
「そんな馬鹿な! いくら酔ってたからって、私が直ちゃんに手を出すなんて!」
そこまで男に飢えてない。
彼、上田直正の家と友香の家は隣同士で父親同士が上司と部下の関係だ。そういう事もあって幼い頃から何かと一緒に過ごす事も多かった。
子供達自身も仲がいいのもあったのだろう。直正の母が逝去してからは、友香が母親の真似事なんかもしたりした。昔を振り返ってみれば、よくおねえちゃん、おねえちゃん、なんて後ろを付いて来て回ったものだ――
「‥‥‥って、それはどうでもいいし!」
結構どうでもよくない。
母親代わり、姉のように接してきた女が酔いの勢いのままに弟分を襲ってにゃんにゃんなんて、世間様に知られたら鬼のようにやばい。しかも武士だ。侍だ。立場上、上司の息子に手を出すのは陰口叩かれるかもしれない。
普通なら男の方が酒の力を借りて女を手篭めにした、と考えるのが普通だけど、あいにくそういう一般思考は軽く消し飛んでいた。
「どうしよう‥‥‥。どうしよう‥‥‥!」
考える木崎友香。今年で十七歳。現在嫁に行く予定は皆無也。
「そうだ。こういう時は冒険者に頼むべきよ」
困った時の冒険者頼み。きっと力になってくれる筈だ。
と、友香が気合を入れているというか軽く頭が違う方向に回転している中、大事に大事に可愛がって育ててきた直正が眼が覚めてきた。
「う‥‥‥ん‥‥‥」
寝起きの頭に揺らめく視界。だけど、目の前の宝物が速攻マッハで意識を大覚醒。
乱れた着物というものは、つまり見えそうになる訳で、
「‥‥‥ごくっ」
「あ、やっ! ダメよ、見ちゃダメ! 直ちゃんにはまだそういうのは早いんだから!」
論点がずれている気もするが、至高の双球が『たゆーん』となっていた。
●リプレイ本文
「話は至極簡単なようですね‥‥‥。つまり直正さんが木崎さんを襲ったと証明すれば良いのです‥‥‥」
事情を聞いた柳花蓮(eb0084)はそんな事をのたまった。
「上司の息子が慕っていた女性をお酒の力を借りて勢いで告白‥‥‥。そしてそのままコトに及ぶ。どこにでもありそうな話‥‥‥」
「違いますよ花蓮さん」
「酔って記憶がないんだろ。いいじゃないか、このまま結婚すればいい男になるかもしれないぞ」
「他人事だと思っていい加減な事言わないで下さい」
お昼時。友香は冒険者達の薦めもあって居酒屋で一同を集めていた。
そんな依頼人の悩みも何のその。南天輝(ea2557)は普通に酒を飲んでいる。
「ていうか輝さん。何こんな昼間っから飲んでるんです」
周りには何本も転がる銚子。いい感じに頬が朱に染まっている。
「ん、いや。依頼が依頼だからな。宴会の再現をした方がいいと」
「自分が飲みたいだけでござらんか?」
「そう言うなよさくや。ほら、早く酒出せ」
甲斐さくや(ea2482)から銚子を受け取る輝。
迫る隠密行動万能技。達人だけど酔っているから気付かない。
「これくらいじゃまだまだ酔わな」
コキャッと首が捻じ曲がる。
「輝さん、立場もありますので無礼な行いは控えてもらいます」
白目を剥いてぶっ倒れた輝を捨て置いて北天満は言い捨てた。お家かそれとも何かの理由だろうが、やる事が結構非情だ。
「まあこの酔っ払いは放って置くとして、どう証明するかが問題だな」
肴を箸で突きつつ山下剣清(ea6764)は言った。
「しかし酒によってか。難しいな」
「だから直正さんが木崎さんを襲ったと証明すれば良いのですよ‥‥‥」
まあ確かに依頼は『友香が襲ってない事の証明』だから、逆に直正が友香が襲ったという事実が判明したとしても別に問題はない。違う問題が発生してしまうがそんな事はどうでもいい。
「それはそうと、直正さんはまだ来ないでござるか?」
待ち合わせの時間に遅れている。さくやは尋ねた。
「まだ道場と思いますけど。近い内に剣術の試合があるとかで、その居残り練習ですよ。多分」
胸を張って誇らしく。着物でも隠せない豊かな双丘がぷるんと揺れた。
「随分といいものをお持ち――いや、誇らしいな」
「もちろん。自慢の弟ですから」
まるで家族かそれとも恋人の事を語るような友香。自分にとって大切な人の事を訪ねられたらそれはもう嬉しいだろう。
聞いてない事を次々と語る友香。時折大げさな身振り手振りも合わせ技一本。その度にぷるるんぷるるんShall We DANCE?
「う、うぅむ。個人的にどれくらい直正が剣の腕を持っているか試してみたい気分だな」
今回はセクハラはまずいとしないつもりだがその両のマナコはバスト・オブ・バビロンに超釘付け。まるでいつもはセクハラしているのかと突っ込む所だがそんな事はどうでもいい。
ある意味自業自得というか、剣清はしばらく直正談義を聞かされる羽目になった。
ぴちゃーんと水滴が石の床を打つ。薄暗い石造りの地下室。情報収集として当時宴会の護衛として参加していた、源徳軍蓮山大隊所属蓮山玲香を尋ねて彼女の職場を訪ねた叶朔夜(ea6769)は、ものの見事に吊るされていた。
首やら股間やら全身網の目上に。いわゆる亀甲縛りというやつだ。
「な‥‥‥。ここは何処だ!?」
辺りを見回す朔夜。玲香を尋ねようとやって来たら、気がついたらこうなった。殴られたのだろうか。後頭部が痛い。
どうにかしようともがいてみるが、縄がいい具合に決まっているからもがく度に食い込む。しかも風の外套着ているし、通常の三倍ほどすばやいのが仇になって痛みも×三。むしろ快感になりそうだ。
人として道を踏み外しそうになっていると、どこからか高笑いが聞こえた。
「お〜ほっほっほ。どこの草の者か知らないけれど、この私の城に足を踏み入れるとは見上げた根性ね」
「だ、誰だ!」
勢いを付けて振り返ってみた。
朔夜の視点もあるだろう。
高き石段に立つ黒い影。漆黒の闇の如く着物に身を包み手には竹の棒。しかもご丁寧に頭には『拷問一筋ウン十年』と見るからに胡散臭さ炸裂な鉢巻。蝋燭の灯りに照らされたのは――
「蓮山大隊大隊長、蓮山玲香、推! 参! とうッ!」
跳躍。着地。どこぞのヒーローみたく決めポーズ。
「最近仕事は面倒になったし暇だったのよね。でも丁度遊び相手が来てくれたのは嬉しいわ。という訳で遊びましょう」
こんなのが大隊長でいいのか源徳軍。
「蓮、山、殿? 俺は怪しいやつじゃない! 冒険者で、用があって来たんだ!」
江戸に知れ渡る名声の忍者の朔夜。彼ほどの経験を持っていれば捕まった忍者がどういう扱いを受けるかは嫌と言うほど判っている。というか忍者的に江戸に知れ渡るというのは如何なものか。
「怪しい者は皆そう言うのよ。本当にそういう人は自分から言わないものだけど」
「確かにそれはそうだけど‥‥‥」
でもそれは状況にもよる。正論とはいえどうかと思う。
「まあ、貴方が友香ちゃんの依頼を受けてこの間の宴会での酒を飲まされてどんな風だったとか、そして翌朝眼が覚めたら直正くんと同じ布団にいて、タイヘンな事になったかもしれないから襲ってない事の証明の為私に当時の状況を聞きに来たとしても馬の耳に念仏よ!」
えらく精細に知りすぎだ。
「事情知っているなら縄解けよ!」
「忍者の言う事なんてノーセンキュー! ウチの友孝くんと式子ちゃん、何だかんだ言いながら仲いいし私は彼氏がいないからって別に羨ましいなんて思ってないわよ! 彼氏いない歴○十年を舐めないで!」
「八つ当たりかよ!?」
「という訳でジェーノサーイド!」
――人間、危機にさらされると凄い力を発揮すると言う。
元々達人レベルの隠密行動万能の技。速攻マッハで縄抜けて忍者刀を引き抜いた。
道場から直正と情報収集に散っていた三人の冒険者。これから手に入れた情報を元に当時の状況を合わせ考察しようとしたがそこは居酒屋。先に集まっていた衆は軽く酔いが回っていた。
「よし。こうなったら宴会の再現でもするか」
首を擦りながら輝は言った。
「俺は上司役だからな多少しか呑まんが2人にはとことん呑んで貰おうか」
「もう十分飲んでいるでござらんか」
ちびちびやりながらパラ忍者は突っ込んだ。さくやはどうも酒に弱いらしい。
「酒は水だ。よもやジャパン男児がその程度で酔いはしまいだろう?」
「その通りだ美人! まだイケる!」
鬼のような勢いで飲みまくる輝。過去、輝は上司に狼藉を働いて浪人に落ちたと言う。今回の依頼で何となく昔を思い出したのかもしれない。
銚子を二人に押し付ける超美人(ea2831)。
「酒の一滴は血の一滴。酒を飲んでも呑まれるな。鍛え直してやる!」
「いや、その。僕まだ元服前ですので」
「却下だ! 飲め!」
頭を掴み四十五度曲げて直接流し込む。
「な、直ちゃん!?」
「貴女は友香と言ったな。警護の任に就きながら挙句前後不覚になり記憶が無いなど言語道断! 私が酒飲み大原則を教えてやる!」
「そんなの後にして下さい! 私の直ちゃんが!」
「酒飲み大原則ひとーつ! 飲むより飲ませろ! 限界を知れ! 以下略!」
教えてない。
「若いなぁ、色々と」
目の前の乱痴気騒ぎを眺めながら雪切刀也(ea6228)は呟いた。
ジャパンの実力者にて五十人斬りの一人と呼ばれるほどのつわものの刀也。久しぶりに受けた依頼の割にどこか平和だなぁと達観してはいる感もあるが、
「まあ、それはそれ。しっかりやらないとな」
いい加減に場を収集しようと簗染めのハリセンを持って立とうとしたが、人の気配を感じた。朔夜だ。結構ボロボロだ。
「遅かったな」
「死ぬかと思った‥‥‥」
事情は知らないが色々あったのだろう。酒を勧めて結果を聞きだした。
「結局、襲ってないのか。飲んで騒いだだけなら、周りもみんな同じだったんじゃないかな」
宴会とは概ねそういうものだ。刀也は別で騒いでいる隣を見た。
直正が軽く洗脳されていた。
「あなたは何も覚えてないの? やわらかい白桃のような山に囲まれたとか、 甘酸っぱい女の匂いがしてむしゃぶりついたとか。あったらあったで面白いけど」
「事実を激しく歪曲‥‥‥いえ、当時を思い出してもらいます‥‥‥。特に布団の中の感触と寝乱れた寝巻きの様子を‥‥‥」
眼が怪しく光るマクファーソン・パトリシア(ea2832)と花蓮。やりたい放題やりすぎだ。
「二人とも何やっているんだ」
「何って‥‥‥洗脳、ですよ‥‥‥?」
言い切った。黒いオーラが炸裂だ。ついでにリードシンキング。
「なるほど‥‥‥。お嫁さんに木崎さんを貰いたいですか‥‥‥」
「うう‥‥‥。姉上‥‥‥」
酒のせいかそれとも洗脳のせいか、結構曖昧な具合だ。
「だいたいこれくらいかしら。後は当時の状況を捏造するだけね」
何もかも間違っている。マクファーソンは友香を呼んだ。
「これくらい洗脳すればいいかしら。後はどんな行動を取るかよね」
「直、ちゃん? 大丈夫?」
いい感じに揺れている直正を覗いてみる。すると、
「姉上ー!」
速攻マッハで押し倒した。
毎日道場で一生懸命剣の練習をしている直正。男の子よろしく筋力もあるし捕り物のような技も学んでいるのだろう。あっというまに友香は身動きが取れなくなった。
「うんうん。彼の方もあなたの事好きなようだし、将来について話し合ったらどう?」
「ていうか貞操の危機がー!?」
虚ろな瞳だけど身に付いた技はしっかりと友香を拘束している。そこから本能よろしく脱ぎ脱ぎされかかっている。
「直ちゃん! それ以上はシャレにならないから我に返って!」
「姉上‥‥‥。僕は、僕はもう!」
「や‥‥‥。ダメ、それ以上はダメ!」
タイヘンだ。
「さて、わたくし達は帰りましょうか」
「いいのかこれで」
マクファーソンは嬉々として一同を促すが、刀也は真っ当に突っ込んだ。