馳川更紗は幸せを掴めるか? 情緒不安定編

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月28日〜02月02日

リプレイ公開日:2007年02月04日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――






 メイド喫茶柳亭弐號店仮店舗。キワモノめいたこの店が何だかんだで人気が出て江戸の街にもう一軒店舗を建てる事になった。
 場所は某所。広い街では休息を取る場所は例えキワモノな店でも好まれる。
 本店での評判が伝わっているからか、それともその場でとはいえセレブ気分を味わえるからか――ぶっちゃけ可愛い女の子達が可愛いフリフリなメイド服を着ているからなのだがそんな事はどうでもいい。
 仮店舗の悲しさからかそれともそういう傾向で行くのか、オープンカフェな店内? で彼は二人の友人に相談していた。
 高槻慎一郎。元旗本で現在下っ端役人の少年だ。
「つまり、馳川の姫さんとの間を取り持ってほしいんだな?」
「何か違う気もするけどそういう事かな」
 呆れ顔で頬杖を付く浅生友孝に慎一郎は頷いた。
 昼も過ぎて休憩時。ちょうど小腹が空く頃だからかそれとも単に暇だからか、まあともかくこの時間帯は甘味処に客が多い。稼ぎ時というのもあるだろう。物珍しさもあって店内はちょっとした混沌の様相を見せていた。
「ったく。深刻そうに相談持ちかけられたと思ったらそんな事かよ」
「浅生くん。君にとってはそうかもしれないけど、俺にとっては大事な問題なんだよ」
 聞いた本人にはともかく相談を持ちかける本人には確かに重要な問題なんだろう。慎一郎は友孝をにらみつけた。
 そんな相方を彼女はたしなめた。
「友孝。不謹慎だぞ」
「――笹山さん」
 蓮山大隊所属笹山中隊中隊長笹山式子。凛々しくどこか抜き身の日本刀のような印象を受ける彼女は、見た目どおり結構きつい性格をしているし鬼のようなSでその上すぐに逆ギレしてしまう所もあるが、実は押しに弱かったり面倒見が良かったりする。上司に恵まれてない感もあるが、なんとか毎日を頑張っている。そんな女の子だ。
「あの優柔不断でダメダメな高槻殿が、ようやく更紗殿に告白するんだ。これは喜ばしい限りじゃないか」
「‥‥‥笹山さん‥‥‥」
「セッティングは私に任せて。しっかり決めるんだぞ」
「だから、違いますって」
 他人の恋路は密の味。親指グッと立てる式子に頭を抱えた。
 ――何で、自分の周りにはこういう事しか言わない人ばかりなんだ――
「まあ別にいいよ」と慎一郎は持ち前の利点というか物事をあまり突っ込んで考えないという、どちらかと言うと欠点な所で納得する事にした。
「別に、俺は更紗に告白しようとなんて思ってないよ。第一、更紗は俺の事好きなのか判らないじゃないか」
 言い分だけなら確かにそうだ。間違った事は言ってない。とはいえ、
「お前、本当にそう思ってんのか?」
「うん。そうだけど」
「姫さんもうかばれないな‥‥‥」
 全く疑いもなく頷く慎一郎に友孝は頷いた。
「全く。皆、俺と更紗が付き合ってるってからかってくるけど、別にただの幼馴染みだよ。更紗だって好きな相手がいるかもしれないし、失礼だよ」
「だから、それはお前だって」
 ここまで鈍いとさすがに脳を疑うものだ。今まで散々アピールされてきたのに気付かないのはむしろ何かの呪いか。それとも、相手が自分を好きなのを知っていて、だからこそのリアクションとか‥‥‥はさすがに気のせいだろう。そもそもこの男にそんな甲斐性はない。
「それに、今の俺は只の下っ端役人だから。更紗には釣り合わないよ。‥‥‥本当に」
 その一言は無意識なのか違うのか、どこか寂しげだ。
「別にそうでもないだろう」
 紅茶を飲んでいた式子は思い出したように言った。
「神のお告げだが、設定からして無理があるとかで再調査されていると聞いたぞ」
「神のお告げ?」
「ああ、こっちの事だ。まあともかく、高槻殿の父上の名誉も回復されるかもしれないし、もしかしたら旗本に戻れるかもしれないな」
「そうだといいんだけどね」
 今の慎一郎にとっては皮肉にしか聞こえない台詞だ。
「んじゃまあ、とりあえず仲を取り持つのはいいとして、姫さんと何かあったのか?」
 どこか脱線している途中、友孝が尋ねた。
「俺もそう思うんだけど、これといって思いつかないんだよ」
 慎一郎は年末、年明けから今までの事を振り返った。
「更紗と一緒に散歩したり、更紗と一緒に演劇を見に行ったり、更紗と一緒に食事に言ったり‥‥‥あ、そう言えば異性と二人で遊んだり食事を取ったりするの西洋で『でーと』とか言うらしいんだよ」
「‥‥‥随分と青春している事で‥‥‥」
「だから違うって」
「ったく。どこがだよ」
「全くだ。普通、そういうのは彼氏彼女と言わないのか?」
 どこか汚い物を見るような眼。というかどこでも問答無用でいちゃつきまくるバカップルに情けをかける理由は全くないのだが。
「いつもみたいに『でーと』してたんだけど、『くりすます』の日から妙によそよそしくなったんだよ」
「押し倒して拒否られでもしたのか?」
「違うよ。告白されたの」
「更紗姫に?」
「いい加減しつこいよ。柳亭のメイドさんに」
「なるほど。そういう事か」
 友孝は得心を得た。
 つまり、
「お前がそのメイドさんと付き合っているから姫さんの様子がおかしくなったんだな?」
「だからどうしてそう思うの。第一断ったし」
 慎一郎はため息を付いた。
「全くもう。どうして俺の周りはそうやって考えがすぐ飛躍するのかな。それに、俺が誰と付き合っても更紗はそうやって変になるの?」
「間違いなくなるね」
「肯定だ」
 速攻マッハで言い切った。
「確かに自分が好いている男に他の女が告白されでもしたらいい気分はしないものな。同じ女として判らないでもない。一応、依頼は出しておくさ」
「つーか慎一郎、お前って無駄にモテるからな。羨ましすぎるぞコンチクショウ」
 お前が告白すれば全て丸く収まるんだがな。友孝は心の中で付け加えた。

●今回の参加者

 eb0084 柳 花蓮(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb4802 カーラ・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 彼ら冒険者が受けた依頼は更紗の調査。ギルドに直接依頼に来たのは笹山式子ではあるが、元を辿ると慎一郎だし契約上の手続きは慎一郎の名前を使っているから別に彼が依頼人で問題はないだろう。
 そして調査なんてものは、本来人を使ったりあまり世間様には言えない手段を使ったりするものだ。そういう訳だから、
「‥‥‥と言った経緯で高槻から依頼が来ている。正直、阿呆だとしか言いようが無いな」
 既に調査でも何でもなくなっている気がする。勝手知ったるなんとやらで、馳川家の屋敷の厨房を借りた天堂蒼紫(eb5401)は適当な材料を見繕って茶菓子を作った。甘すぎる感もあるが、渋すぎる茶のおかげでほどよく口の中を中和している。
「男の子が煮え切らないと女の子は辛いのよね。どちらも好きって気持ちを素直に言えればいいのに」
 茶菓子を口に運び至福の笑みを浮かべるカーラ・オレアリス(eb4802)。女性が甘い物を好きなのは万国共通なのだろう。その微笑みがそう語っている。
「ですけど‥‥‥、高槻さんにでーとという自覚があったのは予想外‥‥‥というか、でーとって何か知らないのでは‥‥‥?」
「ありうるわね。あの鈍さは病気だわ」
 持つ柳花蓮(eb0084)は言って御陰桜(eb4757)は頷く。別に普通のやり取りだが桜は所々が赤く染まっている。まるで返り血を浴びたようだ。おかげで違和感あること極まりない。
「ま、そんな事よりもっと食べましょ。こんな高価な材料を使ったお菓子なんて中々食べられないし」
「その上美味だから文句のつけようがないわね」
「そう言ってもらえて光栄だ」
 蒼紫は胸を張る。傲岸不遜な態度が嫌味にならないほど随分と決まっているものだ。
「どうした更紗嬢。口に合わなかったか?」
「別にそんな事ないんだけどさ」
 更紗はお茶で流し込み、
「結局何しにきたの? 一応ボクも暇じゃないんだけど」
 一行を睨みつける。旗本のお嬢様となるとどんな小用も下の者に任せっきりな感もあるがお嬢様はお嬢様ならではの用事もあったりするものだ。
「だから、先ほども申したように恋の相談ですよ」
 ぶっちゃけ主旨が変わっている。カーラはにこやかに言い切った。
「突然押しかけて何のたまうかと思ったら‥‥‥。これだから下賎の者は」
 旗本のお姫様。何だかんだで育ちが良いのだろう。
「忍者にそんな事言われてもねぇ?」
「全くだ」
 忍者二人頷いた。
「しかしだ。このままでは埒もあかないな」
 蒼紫は腕を組み一言、
「俺達に案がある。上手く行けば慎一郎との仲が深まるかもしれん」
「ど、どういう事?」
 更紗は一瞬気圧された。
「簡単な事だ。もう一歩、あいつに踏み出させるために協力してもらいたい。逆効果になるかもしれんが、どうだ? 乗ってみるか?」
 不敵な笑みを浮かべた。まるで、世の中の全てが自分を中心に回っているとでも言いそうな雰囲気だ。
 何となく、この人に任せたら上手く行くような気がして、更紗は‥‥‥
「大変だ皆!」
 加賀美祐基(eb5402)が襖をブチ抜いて現れた。
「どうした加賀美。何をそんなに慌てている」
「天堂! そんな事より聞いてくれ! 記録係りの耳に綿棒突き刺さって凄い勢いで血を噴出してたぞ! 今診療所の人が連れて行ったけど!」
「あらあら。それはまあ。‥‥‥桜さん?」
 カーラは尋ねた。
「さあ? 事故よ事故」
 結構非情だ。





「それで、様子はどうでした?」
 メイド喫茶柳亭弐號店仮店舗。呼び出された慎一郎は花蓮に尋ねた。
「可もなく不可もなく‥‥‥。特にこれといっておかしくありませんでしたよ‥‥‥?」
「そうですか。ならいいのですけど」
 どこかジャパン語が間違っている気もするが、そこは華国の人。異国の言葉をいまだ正確に理解はできてないのだろう。
 慎一郎はため息を付いた。
「更紗は、いったい何で悩んでいるのかな。俺で力になれる事があればいいんだけど」
 空を見上げる。オープンカフェだからか――というかこの季節にどうかと思うが――見上げる空は快晴。風に揺れる雲は移り気で、まるで慎一郎の不安を象徴するように揺れ動いていた。
「随分と気にしてるんですね」
 カーラは尋ねた。
「ええ。幼馴染みですし」
「成る程。ですが、本当にそれだけですか?」
「‥‥‥どういう事です?」
 どこか冗談ではすまなさそうな物言いだ。慎一郎はつい身を固めた。
「好きな人の様子が変だと誰だってきになるものですし」
「いや、別にそういう訳でじゃ」
「そうでしょうか‥‥‥。何度も、更紗さんとでーとをしていると聞きますが‥‥‥」
「西洋では男女が一緒に遊ぶ事、って意味でしょう?」
「でーとは西洋では恋人同士が取る行動なのですが‥‥‥貴方は本当にご存知ないので? 更沙さんは知ってますよ‥‥‥」
「ま、まさか。まるで更紗が俺の事を好きみたいじゃないですか」
 花蓮は追い討ちをかけまくる。どこか独特のトーンの喋り方で聞き取りにくい感があるのだが、それが返って重々しい。慎一郎にプレッシャーがのしかかる。
 ついでに黒い波動やらオーラが大放出。エルフの暗黒面でもあるのかと問い質したい。
「貴方が恵理さんを断るとは意外でした‥‥‥。好みじゃなかった? いえ、それは心の奥底では更紗さんが好きだと思ってるからですよ‥‥‥」
「何をとつぜ」
「‥‥‥ブラックホーリー」
 花蓮のブラックホーリーが黙らせた。
「貴方は何かと事情があるようですが‥‥‥心の内はどうしても否定できませんよ」
「だ、だから何を」
「‥‥‥ブラックホーリー」
 再び聖なる力が轟き唸る。飛ぶ様はまるで紙くずのようだ。
「慎一郎くん。更紗ちゃんとの思い出を振り返ってみて。どんな感じだったか、どんな風に思っていたか、言葉にして伝えてみるといいわ」
 花蓮はリードシンキングを使った。
「‥‥‥成る程。やはり更紗さんの事が好きなんですね‥‥‥」
「そ、それは‥‥‥」
「‥‥‥ブラ(以下略)」
 何か大切な事を言いそうになったけど、三度慎一郎は吹っ飛んだ。





 慎一郎が診療所送りになった後、桜は更紗を連れて柳亭弐號店にやってきた。本店の店長曰く画数多いほうが強そうだ、との事らしいがそんな事はどうでもいい。見渡す限りふりふりメイドさん目当てな野郎だらけだから名前負けしているような気がする。
 ちなみに、ついさっき役人衆がかけつけて冒険者と大立ち回りを演じたとか。
 まあそれはともかく、桜は更紗を促した。
「『くりすます』の一件はあたしも一枚かんでる訳だし、更紗ちゃんが気にしてるんだったら相談に乗ろうかなって思ってね」
 気のない返事をする更紗。桜は近くのメイドさんを呼んで適当に注文をした。
「奢るわ。経費で落とすから、何でも頼んでいいわよ」
「‥‥‥じゃあ、これとこれを」
 メイドさんは注文を繰り返して奥に下がる。少しして運ばれてきた。適当よろしくそれぞれ味を活かしあいそうにない。
「お屋敷でもそうだったけど、本当に元気ないわよねぇ。そんなに慎一郎くんの事気になるの?」
「別にいいでしょ。ボクの事なんかどうだって」
「そういう訳にはいかないわよ。こっちも依頼受けてるし」
 結構ふてくされている。女の子のこういう顔はとても可愛らしい。
「それにね。いつまでもはっきりしないからこの間みたいになるんじゃないかしら」
「‥‥‥‥‥‥」
 更紗は答えない。
「いっその事、自分から告白してみるべきかもね。そうでないと違う誰かに横取りされるわよ」
「その通りですよ‥‥‥」
 空から花蓮が降ってきた。
「どこから涌いてくるのよ」
「人を虫みたいに‥‥‥」
 花蓮は乱れた巫女装束――僧侶的にどうかと思うが――を整えると更紗を見つめた。
「あの日、恵理さんは告白しました‥‥‥。貴女は? 勇気がないと言ってる場合ではないと思いますが‥‥‥」
「知ったような事言わないで下さい」
「言いますよ‥‥‥。ご自分でもお分かりになってると思いますが、御仏は自ら行動する者に加護を与えます‥‥‥」
 人は、誰でも勇気を振り絞らなければいけない状況がある。更紗にとってはそれが今かもしれない。
「もう来ましたか‥‥‥」
 花蓮が振り向いた先、役人の集団。
「あんた、何やったの?」
「それはこっちの事‥‥‥」
 そう言って駆け抜けた。ブラックホーリーで吹き飛ぶ役人。
「まあいいわ。それより恵子ちゃん代わってあげるから色々決着でも付けたら?」
「え、ちょっと桜さん!?」
 物陰に隠れて人遁の術。
 そして‥‥‥





 夕暮れ。診療所に慎一郎を迎えにいった更紗は二人並んで帰路に付いていた。
 思い出す遠いあの日。
 あの時もこうやって一緒だった。お互い子供同士だったら、手を繋いでいたけど。
「ははは。今日は災難だったよ。ひどい目にあった」
「日頃の体調管理がなってないからだよ。貧血で倒れたって?」
「うん。そんな所」
 さすがに冒険者にやられたなんて言えない。男の子だから女の子(見た目は)に負けたなんて口が裂けても言えないものだ。
「‥‥‥‥‥‥」
 話題がまったく思いつかない。空気が重過ぎる。お互いに、冒険者達に突っ込まれたから意識しあっているのだ。
 だけどいつまでもこのままじゃいけない。
 慎一郎何となくそう思って更紗は心からそう思う。
 だから更紗は、
「ねえ慎一郎」
「何?」
 問い返す。更紗は一瞬躊躇い覚悟を決めて、
「‥‥‥ボクの事好き?」
「‥‥‥はい?」
 自分でも間の抜けた返事だと思った。更紗は少しむっとして言いなおした。
「だから、慎一郎はボクの事好き?」
 夕暮れの空。燃え尽きる炎のような陽を背に更紗は問い質す。瞳は潤み身体は震えまるで触れると今にも崩れ落ちそうなそんな錯覚すら覚える。
「ボクの事、好き?」
 真剣な声。今の状況もあるだろう。切ない、それでいて精一杯の勇気を振り絞った声が慎一郎の胸を締め付ける。
「幼馴染みとしてじゃなくて、一人の女の子として、ボクをどう思ってるの?」
「う‥‥‥」
 冗談で答えられそうにない。
 同時にこれが、返答によっては全てを失う事だと直感した。
「慎一郎がボクをどう思っているか知りたい」
「お、俺は‥‥‥」
 熱にうなされている気がする。慎一郎は無意識に更紗の肩を掴んだ。
「あのね、慎一郎。ボクは――」
「いいご身分だなぁ。真昼間からいちゃいちゃと‥‥‥」
 邪魔が入った。ゴロツキ風な恰好の蒼紫と祐基だ。
 蒼紫は更紗を一目見ると腕を掴んだ。
「ほぅ‥‥‥気に入った。お前、俺の女になれ」
「い、いきなり何を‥‥‥祐基さん!?」
「ごめん更紗ちゃん。今の今の天堂に逆らうとろくでもない事になりそうなんで」
 確か策があるとか何とか。内容は聞いてなかったけど、こんなのは嫌だ。
「ちょっと! 更紗に何するんです!」
 慎一郎は蒼紫の腕を振り解き更紗を庇うように立つ。
「ふん、腰抜け侍が邪魔をする気か?」
「そ、そうだそうだ! 口出しすんな!」
 睨まれた祐基は思い出したように言った。棒読みだ。
「邪魔って‥‥‥俺の更紗に手を出すな!」
「し、慎一郎?」
 言った慎一郎自身気付いてなかったりする。
「上等だ‥‥‥。行くぞKAGE山(偽名)」
 前もって練習したらしい。
「頼打亜跳躍!」
「頼打亜跳躍!」
 空高く跳躍。どこかで見た光景だ。
「慎一郎! 何か危ないよ!(色々な意味で)」
「大丈夫。こういう時の対処法、書物で読んだ事あるから!」
 オーラの力を漲らせる。あれが正しければこれで返せる筈だ。
 蒼紫と祐基はそれぞれ技の態勢に入る。
「頼打亜蹴撃!」
「頼打亜拳撃!」
 必殺の技が慎一郎を襲った。だがオーラの力で防がれる。
「あ、やばい」
「ふむ。後は任せた。苦路津久亜通譜!」
 一人だけ疾走の術。蒼紫は逃げ出した。
「っておい! 置いてくな!」
「頼打亜跳躍!」
 跳躍。慎一郎は技の態勢に入った。
「ちょっと待て! 話せば判る!」
「頼打亜蹴撃! 頼打亜拳撃!」
 星になった。






「全く。慣れない事するから」
 見よう見まねで技を使った慎一郎を介抱しながら更紗は呟いた。着地に失敗したのだろう。気を失っている。
「うう〜。更紗は渡すものかぁ〜」
 うめく慎一郎。気絶なんてオチはみっともないものの、女の子を守って戦った結果なら賞賛されるべきかもしれない。
「やっぱり、慎一郎はボクが付いてないとダメだよね」
 結局答えてくれなかったけど、今はこれで十分だ。
 何となく、昔もこんな事があったなぁ‥‥‥とそんな事を思った。