彼の者を篭絡せよ!

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月19日〜02月24日

リプレイ公開日:2007年02月27日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





 メイド喫茶柳亭。かつて閑古鳥が大合唱していたこの店は、冒険者の助け諸々のおかげで今では江戸屈指の迷(店)となっていた。
 和風情緒な江戸の街に西洋風情なお店。そして店内にはメイド服をきた美少女・美女ばかりで笑顔と共に迎えてくれる。ある種のカオスっぷりを醸し出している感もあるのだが、何はともあれ優れた営業成績をたたき出し支店を出すほどだ。
 どこか間違っている気もするが、柳亭が繁盛を続けているのは需要がある結果だ。
 だが‥‥‥只今営業停止の危機に直面していた。



「――さて、二人に集まってもらったのは他でもないわ」
 お役人のお達しにより一時的な営業の停止を喰らった柳亭。店長であるお牧は弟と住み込みで働いているネコ耳尻尾の女の子――どこの生まれだか知らないが――ねね子を呼びいかにも深刻そうな顔をしていた。まあこの状況では深刻になって当然ではあるが。
「今、ウチのお店は大変な事になってるの」
 肘を立てて足を組み、睨みつけるように二人を見る。
「まあ、大変って今更言われなくても」
「ねね子、お店そんぞくのためにがんばるよ!」
 片やしらけきっている六歳児と片や意味はよく判ってないけどとりあえず頑張るネコ娘。というか営業停止を喰らう非は店側に十分ある。
「全く、いつもながら冷めているわね愚弟。もう少しねね子ちゃんを見習ったら?」
 聞くだけならどこにでありそうな会話だ。しかし、
「見習うも何も――」
 弟は一度ため息をついて、
「耳掃除で耳フーしたり、デリバリーメイドとか訳の判らない事したり、メイド野球拳したり、ウチはどこの風俗店? 摘発されてもおかしくないと思うんだけど」
 頭抱えながら言い切った。
「う、うるさいわね。イケるって思ったのよ。男ってそういうの好きなもんだしさ」
「だけど少しは常識ってものを‥‥‥」
「お黙り。この業界は売れたものの勝ちなのよ。話題になったし、お陰様で繁盛したじゃない。‥‥‥さすがに、デリバリーはどうかと思ったけど」
 そもそも間違っている。
「その結果、お役人様に知られて仮の営業停止くらったしね。そして営業再開の数日後に査察も入る羽目になったし」
「やかましい」
 速攻マッハで突っ込んだ。
「あのね。お姉ちゃん。この柳亭は今は亡きお父さんとお母さんが残したお店なの。残された僕達はお父さんとお母さんの分も立派にならなきゃいけないし、お店をより発展させないといけないって思ってるよ」
 でもね、とそこで一息ついて、
「だからってやり方ってものがあるんじゃないかな。店長はお姉ちゃんだし、店の経営方針を決めるのもお姉ちゃんだよ。メイド喫茶にしたのも、時代の流れかなって納得しているよ」
 それはそれで嫌だ。
「だけど、金儲けの為にどんな手段を使っても許されるなんて事はないんだよ」
「‥‥‥うるさい‥‥‥」
「商売にもルールはあるんだし、それを破ったら法的にも罰せられる上、同業者の人も敵に回すかもしれないじゃないか」
「‥‥‥うるさい‥‥‥」
 血管が浮き上がる。何やらドス黒いオーラが漂っているような気もするが――というか、今の江戸にメイド喫茶の同業者がいるかが気になる所だ。
「第一、ウチはアルバイトで他所様の娘さんを預かっているんだよ。只でさえフリフリだったりロリロリだったりキャッキャウフフなメイド服を着ているんだから、男のお客さんは今すぐにでもケモノになりそうじゃない。それなのに、更に野生の本能を呼び覚まそうとしてどうするの」
「‥‥‥うるさい‥‥‥」
 さすがに弟にも思う所があるのだろう。いくら店の発展の為とはいえ、やっている事はアレっぽい気がする――というか、どこから先が摘発されるのかが微妙ではあるのだが。
「全く。さっきから黙ってばっかで聞いてるの?お姉ちゃんもお店の為に頑張っているけど、もうちょっとは合法――」
「うーるさいうるさいうるさーい!」
 ブチ切れた。
「この愚弟! さっきから人が大人しく聞いてれば好きな事ばっか言ってからに! 私だってお店を繁盛させようと色々頑張っているのにどうして文句を言うのよ!」
 それけなら随分ご立派だ。
「今の世の中チラリズムよ!? マッパより襦袢、下着姿より乱れた着物の方がだんぜんおっきするもんじゃない!? 女の私には判らないんだけどさ!」
「それは判らないでも――って普通僕に聞く!?」
 どう答えてもある意味終わりそうだ。
「だから! 法に触れそうで触れないぐらいなドキムネプレイ! そんなご奉仕でお客さん達のハートをがっつりゲット! イコールこれ、お金がっぽりって寸法よォォォォ!!!」
 どこの風俗店だ。
「第一! そういう愚弟だってメイドの皆前屈みになって変な眼で見てるじゃない! 姉として、あんたは冷めているからある意味安心してたんだけど、見ようによっては犯罪者の眼よ! アレは!」
「ちょっと待って! 僕まだ六歳だし!」
「非行に走るのに年齢は関係なし! つーかねね子ちゃんを見る時の眼は結構引くものがあるわよ。一つ屋根の下で暮らしてるんだから気を付けなさい。ばれなければどうとでもしていいから」
 よくない。あんまり意味の判ってないねね子は首をかしげた。
「お、お姉ちゃん!」
「まあいいわ。目下の目標は数日の内にくる査察のクリアよね。正確な日取りが判らないけど、五日以内って言ってたわよね」
 弟をスルーして彼女は言った。
「もう一つ手を打っておこうかしら。今までを振り返ってみると、どうやら男はネコ耳に弱いようだし、ねね子ちゃん使ってお役人篭絡させようかしら。確か、査察班の上司の人の屋敷が近くだったと思うんだけど」
 まあどんな組織でも頭を抑えればどうにかなるものだ。ようは誘惑させろと言う事か。
 ちなみに無類の、というか主君への忠義より重度な女好きなで有名なお奉行さん。ネコ耳はにゃーん♪ なねね子が一人行けば結果が見え過ぎだ。
「フフフ‥‥‥。柳亭百年の野望の為、ここで終る訳にはいかないのよ。ねね子ちゃん、やってくれるわよね♪」
「よく判らないけど‥‥‥ねね子がんばるよ!」
 とにかく頼られてる訳だから気合一発ネコ娘。これはいつか大変な目に、というか今にもあいそうだ。
(――ダメだッ! 僕がどうにかしないとッ!)
 冒険者を呼ぶしかない。
 何を言ってもねね子をお屋敷に向かわせる気だから、変な事にならないよう護衛も兼ねて説得? を成功させて、ついでに余った冒険者をメイドさんに仕立て上げて変な客がいたら店員に不埒な振る舞いが行われないよう制圧したり眼を光らせたり。
 ――どうせ、ウチに来る客は変な人ばかりだから。
 白髪が見え始めているそんな弟君。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb0908 リスティ・ニシムラ(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb4802 カーラ・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb9659 伊勢 誠一(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb9708 十六夜 りく(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec1073 石動 流水(41歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヒナ・ホウ(ea2334

●リプレイ本文

 場の雰囲気というものは思うより結構重要なもので、どんな真面目で潔癖で真摯な青年だろうとあっという間に呑み込んでしまうものだ。
 つまり、メイドさんは男の浪漫というやつだ。
「メイド喫茶とは手ごろな値段で異国の上流社会を味わえるというのが売りの店か。聞いた通りの盛況振りだ。本国のほうに女中喫茶なるものを立ち上げてみるように打診してみる価値はあるかな?」
 ――俺は今、伝説に名を残すアヴァロンにいるのだろうか。
 あっちを見てもメイドさん。こっちを見てもメイドさん。事情を知らない者が見ればただ西洋の仕事着を身に纏った女性が仕事をしているだけと思うだろう。というかメイド服は元々作業着だしそれ以前に仕事をしているのだから間違ってないがそんな事はどうでもいい。
 そう。メイド服は女の子の憧れでると共に男の希望(妄想)と浪漫(アレ的な)が詰まっているのだから。
 考えてごらん? 美の女神の化身と間違えんほどの美貌を持ち、出る所は出て引っ込む所は引っ込む、それも極端ではなく、それでいて服の上すらあまりにも扇情的という黄金率の下に成り立っているナイスバディ。何か一つの仕草の度にたわわに実った双球はたゆーんと揺れてボクらオトコノコのヒトミとココロを掴んで離さない。
 他にも色々あるが割愛するにしても、男というイキモノはメイドさんに対しどうもアレ的なイメージがある。あるのだ。違うとは言わせませんよ。
 それを商売に利用するのはいい発想だと思う。風俗店と間違われないよう気を付けなければならないけれど。
「よし、従業員の立場になって本当に打診する価値があるか見極めないといけないな」
 目の前のキャッキャウフフなメイドさんを前にガッツポーズのカイ・ローン(ea3054)。そんなにメイドが大好きか。
 カイはそれこそ女性が見たら惚れそうな程の爽やかスマイルで振り向いた。
「査定を無事成功させる為に風俗店と間違えられぬよう、本場仕込の奉仕術を俺は皆に教えればいいのだな」
「そうですけど、そんなに鼻血を滝みたく流しながら言っても決まってないんですけど」
 弟君は突っ込んだ。姉のお牧といい、どうも変な人に縁があるようだ。そして変な人はもう一人いた。
「フフフ‥‥‥。全く、趣味と実益を兼ねた素晴らしい依頼だね」
 こちらも鼻血を鬼のような勢いで垂れ流している石動流水(ec1073)。彼はコックとして働いていている。自己紹介で失業中と聞いたけど、とりあえず今はニート脱出中だ。
「今のご時世、メイド喫茶をはじめるとは、お牧はなかなか商才があるな。しかもチラリズムに目を付けるなんざ、 男のロマンを解かってるねぇ」
「ああ。実際のメイドの再現をする訳じゃないから、フリフリでロリロリで、布面積もステキにカット出来るという訳だ」
 結構ギリギリなのもある。
 だけどそこはそんな店のメイドさん。見えそうで見えない絶妙な体捌きで期待にドキムネな視線を鷲掴み♪ オトコゴコロも鷲掴み♪
「全部見せるより少しだけ。その方が想像も働くし何倍も旨みがある! こんないい店を潰さない為、必ず依頼成功させてやるぜ!」
「俺が執事となって客に目を光らせる。だけど本国に通達する為、メイド達を穴が空く程凝視しよう! それも際どい衣装ならそれが問題になるかならないか確かめる為に、より嘗め回すように!」
 ギラリとサンレーザー打ち出さんばかりに光って唸る二人の四つのマナコ。言うまでもなく犯罪者の眼だ。
「‥‥‥‥‥‥」
 これも姉の経営の悪影響か。弟は天を仰いだ。




「お帰りなさいませご主人様」
 御陰桜(eb4757)が客の来店を告げた。響くソプラノボイスにふわりと踊る色香。まるで西洋でいうサキュバスのように魅了した桜は、客達をテーブルに案内した。
 達人レベルのナンパ技に魅惑の香袋に始まる魅惑グッズ。只えさえ神がかっている上にネコミミメイドさんなんて殺人コンボ。これで撃ち落とされない男なんていませんよ。
「ご主人様。何をご所望でしょうか?」
 まだ甘かった。誘惑技では桜に譲るもののきょぬーのメイド。それもやたら胸元を強調して、見るなという方が無理ですよな凄い事になっているメイド服のリスティ・ニシムラ(eb0908)。ジャパン人がメイド服を着るとどうもパチモンくさいがそこは本場イギリスの人。サイコウにイイ。桜あわせてダブル美人だ。
 トドメに畳み掛けるのも手だが先の二人は切り札級。食傷っぽくなるしここは安らぎを与えるべきだ。
「お持ちいたしました。他に用件がありましたら是非及びください」
 桜とリスティが猛獣ならば、カーラ・オレアリス(eb4802)は空の海を泳ぐ涼風。
 スタイルだけなら負けることはないが、上品な印象を受ける彼女は同じ条件を満たしてはいても柔和な辺りを優しい気分にさせる。清涼剤といった所だ。
 トリプル美女と来ましたよ。今日の柳亭はレベルが高い――。客達はいつ、メイドアクション(セクハラ)をしかけようと狩人の如く眼を光らせていた。
 勝負は一瞬で決まる。
 世界が遅くなる。研ぎ澄まされた神経は視界に映る全ての光景をゆっくりと再生し、高速回転する思考は一瞬の光明を見出した。
「――もらった!」
 手が疾走する。目指す先は二つの丘。
 男の浪漫めがけ駆け抜ける。だが、
「アウチ!」
 仕込み杖の刃が客の手を打ち据える。峰打ちの一撃。客は一瞬の内に昏倒した。
「誠一さん? 何かしました?」
 カーラは振り向いて気絶した客を見下ろした。
「いえいえ。それは秘密です」
 人差し指立ててどこかの神官みたく、伊勢誠一(eb9659)は微笑んだ。
「そうなの。それで、そのご主人様どうするの? 今日はやけに多いけど」
「貴賓室に連れて行きましょう。介抱もしなければいけませんし」
 理由はともあれ(漢気発揮した連中だが)気絶者が多く頻出するのは飲食店として致命的だ。とりあえず隠さなければならない。
 変態を連れている途中、誠一はへこんでいる十六夜りく(eb9708)を見かけた。
「あんなの‥‥‥あんなの脂肪のカタマリよっ!」
 ぼいーんでばいーんでたゆーんなメイド三人衆。比べて自分は? コレはイジメですか。
「りくさん。未成熟というのも需要はあるらしいですよ?」
「くぅっ!」
 ピンポイントでえぐりやがりますか誠一さん。策士を名乗るだけあって容赦が全く無い。
 りくは涙を拭い傷心なハートを癒す為理論武装。
「女の価値は胸で決まるものじゃないわ! それに外見だけで判断するような男なんてロクな男じゃないもの!」
 まあ間違ってはいるまい。
「それに今はそんな事はどうでもいいし仕事を優先しないとね。両親の形見らしいこのお店を続けさせてあげたいし、実を言うとメイド服着てみたかったし!メイド服を着れるちゃんすはそうそうないもの!」
 男泣きならぬ漢女泣き。彼女の背中には哀愁やら決意やらその他色々なものを背負って、戦場に出向く孤高の勇者のようだ。
「それにネコミミを付けるのもいいかも。桜さん術使っているしねね子ちゃん大人気だし」
 あっちを向くとネコミミはにゃーん☆ なねね子たん。当店ご指名ナンバー1でございます。
 しかし誠一は言い切った。両の眼がぐわっ、とばかりに見開かれる。
「猫耳や過度な露出は飾りです! 偉い人にはそれが判らんのですよ!」
 萌え神様ご降臨?
「確かに男というものは愚か者。あざとすぎると知っていてもそこに求める理想郷があるのなら手を伸ばします。何故なら、男とは燃え落ちると知っていても天を目指すイカロスだからです!」
 どこの妄想戦士だ。
「私は思うのです。茶の湯の侘び寂びや刀の美しさと同じく、ナイチチお粗末メイドにも簡素で実用的な古式ゆかしい様式にこそ美しさがあるのです。故にそう簡単に安易な萌えに走るのはいけません!」
 放たれる後光。これぞ漢の魂でございます。
 りくの電光石火のボディブロー。くの字になった誠一の頭を掴んで鬼の膝連打。
「おほほほほ!!! アタマ悪い人にはおしおきですわーーー!!!」
 鬼神様が現れた。





「嫌な予感がしましたけど、付いてきてよかったわ」
 所変わってお屋敷。件のお奉行の卓に彼女等はいた。世間の評判の通り、常軌を逸する程の女好きで知られたお奉行さん。平日真昼間でも平気で屋敷にお店の女の子を呼びなれているらしく普通に遊んでいた。
「ねね子ちゃーん。触っていーい?」
 江戸の治安を守ったり風紀を守る筈のお奉行さん。こんなのがお奉行やっているのが激しく不安だ。
 カーラはため息をついた。
 んで持って、
「ねぇお奉行さまぁん。柳亭の査察なんだけど、どうにかしてくれないかしら?」
「とりあえずお酒を一杯、どうかね?」
「お酒よりにょたーい♪」
 お奉行さんに誘惑コンボをしかける桜とリスティ。二人ともナンパ技に長けているしお色気たっぷり。女好きじゃなくても誘惑されない訳ありませんよ。その上現在、柳亭では瀬戸喪(ea0443)が従業員を指揮して査察班の対応したり。しかも見た目はプリティメイド。メイドアクションしかけた変態達は血の涙流して超撃沈。
 お奉行さんは色々耐えられなくなって割と眠れてないケモノが大覚醒。
「俺はもう辛抱タマリマセン!」
 しかしそこは数多の戦いを潜り抜けた冒険者。
「おっとそこまでさねぇ。これ以上したければちょぃとお願い聞いて欲しいんだけどねぇ?」
 リスティは回り込んで追い詰める。そのお眼々はこの世の宝に釘付けさ☆
「お奉行様。本当は柳亭みたいなお店好きなのよね?」
 桜はしなだれかかって調達してきた命令書を取り出す。後はGOサイン描くだけで有効になるけど立派な犯罪だ。
「でも、世間体があるから大っぴらには行けない。違うかしら?」
 天下無敵な胸元を強調させてトドメの一言。
「お願い聞いてくれたら、人目に付かない特別な席を用意させて貰うんだけど?」
 男って極めて馬鹿だ。
 でも、そうだと判っていても突き進むのが漢気というもの。
 命令書にサインが書かれた。





 んでもって、査察終った後の柳亭。
 役人達が帰っていったという事で客達は、それこそメイドアクションを仕掛けまくっていた。何というか檻から解き放たれた猛獣だ。
「メイドさぁ〜ん! 褌に水がかかったよ! その綺麗なお手々で優しく拭いて!」
 この手の変態、さっきから三桁近くいる。こいつらメイドをどう思っているのやら。
「いけませんご主人様。ご無体は」
 響くソプラノボイス。喪は線が細く女性のような顔立ちで、理美容技を使ってメイドさんに大変身。しかも、
「メイドさんはご主人様の命令聞くものだろぉ? だから早く拭いて! 俺の斬馬刀は凄い事になってるよ!」
 だから何考えている。
「しょうがないですね。ご主人様」
 喪はスカートをたくし上げて、
「ひゃっほう!」
 変態は狂喜乱舞。だけど一閃。
「お客様。そういう事をお望みなら遊郭へ行ってくださいませ」
 客と店員の立場を思い出させる為、あえて単語を置き換える。鞭の技が変態を打ち据える。
「断る! ご主人様に暴力振るうメイドの言う事なんて聞くものか! ここはご奉仕してもらわないといけないなぁ!」
「ご奉仕ですか?」
「当然だ! 店として客に暴力を振るう店はいけないだろ! お役人に言いつけるぞ!」
 自分を凄い勢いで棚に上げてよく言うものだ。
「判りました。それでは貴賓室へ」
 喪は変態を奥の貴賓室へ連れて行く。その途中、鼻血を出しすぎてぶっ倒れているカイと流水を見かけたがどうでもいい。
 貴賓室へ入る。顔が結構凄い事になっている誠一にシバかれている変態達とされた変態達が死屍累々。
「ちょ、ちょっと待って!」
「いやいや。待ちませんよ」
 喪は鞭を構えた。
「当店の方針で、度が過ぎたお客さんにお仕置きをするようになっています。まあ、自業自得という事で」
「え、え? ギャ―――!!!」


 後日、柳亭の営業再開の正式許可が下りて店内の治安がよくなったらしい。