そう言っても見た目に騙される

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 47 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月13日〜03月20日

リプレイ公開日:2007年03月20日

●オープニング

 ――まあ、よく見てみれば物騒なこともあるもので




 人間パニくってる時は判断力は鈍るものだし、その筋の知識がなければ以前耳にしたものだと思うものである。
 先日、依頼人から受けた四体の怪骨の退治に向かった冒険者達は、重傷という結果で帰参した。
 依頼は失敗である。
 彼らはちょっとした応急手当の技術を持ち合わせもしていたし、何とか江戸に戻る事は出来た。大抵の使い手は剣術やら魔法やら、自分が得意とするものばかり修練するものだが、彼らはそれなりに場数も踏んで無駄とも思える知識も思いも寄らない場所で必要だという事を学んでいる連中だ。
 そんな優秀な冒険者の敗北。しかし相手は怪骨――決して弱くはない相手だが――だ。
 色々疑問が浮かぶし重傷を負った冒険者も気がかりだがそんな事はどうでもいい。
 依頼人にとって、怪骨をどうにかしなければ死活問題だ。
 再度ギルドに依頼が持ち込まれ、危機に陥っている村を救って欲しいとの事。
 怪骨は村外れの野原。大昔は戦場で穴を掘れば当時の戦死者の遺骨やら武具やらが採掘出来るらしい。
 怨念だろうか。何故今頃になって化けて出るのかは判らない。


 ――今のジャパンの状況からすれば、怨霊なんていくらでもいそうだけど。


 先任の冒険者から話しを聞いた所によると、二mもある怪骨だとか。
 詳しく聞いていくと怪骨なのか疑いたくなるけれど。
 とにもかくにも、装備を整え江戸を出立した。

●今回の参加者

 ea5384 シャルク・ネネルザード(24歳・♀・レンジャー・ジャイアント・エジプト)
 eb0908 リスティ・ニシムラ(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5532 牧杜 理緒(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

志乃守 乱雪(ea5557

●リプレイ本文

「本当に怪骨かどうかっていうのが怪しい所なんだよね。乱雪さん。あなたはどう思う?」
 メイド喫茶柳亭。診療所で先任の冒険者の話を聞いた一行は、取り合えず腰を落ち着けて相談してみる事にした。
 周りにはたくさんのキャッキャウフフなメイドさん。それぞれ担当する役柄やら属性やら駆使して接客しているおかげか、冥府魔道を突っ走るお客さん達は湯水の如く売り上げに貢献しまくっている。萌えの道は修羅の道。ジャパンの将来が心配だ。
 まあそんな事はどうでもいい。『カスまで絞りつくせ菜種の如く』が店の信条だからか、シャルク・ネネルザード(ea5384)やリスティ・ニシムラ(eb0908)のような完全武装な二人組みがいても誰も突っ込んでこなかった。売り上げばかり重視してその内痛い目にあいそうだ。
 それはともかく、牧杜理緒(eb5532)に尋ねられた志乃守乱雪は答えた。優れたモンスター知識を持つ彼は、手伝いに来てくれたのだ。
「そうですね。ボーンゴーレムが考えられます」
 理緒が尋ねた。
「聞いたことないね。どんな魔物なの?」
「一回り大きい怪骨、と言った所でしょうか」
 彼はいつか覚えた知識を掘り起こす。こういうのは使う機会がないと中々思い出せないものだ。
「骸骨に魔法を付与して作られたゴーレムです。素材が骨ですし、外見は怪骨とほぼ同じです。怪骨と違う点は身長で二mあります。材料の都合上、墓場や戦場跡でよく使われるらしいの事ですが、本来ジャパンには生息? していない筈です」
 西洋のみに姿が確認される魔物だ。とはいえ、エチゴ屋の福袋とかで異国産の動植物が手に入る昨今。その上依頼人からは件の魔物は戦場跡に出ると聞いているし、外国人の遺体か西洋に関係する何らかの遺物か何かか‥‥‥等も考えられる。
 だが依頼に調査は含まれてない。それに余計な事に首を突っ込まないのが長生きする秘訣だ。わざわざ調べる必要もないだろう。
 腐っても(骨だけど)ゴーレム。小鬼とか通常の魔物に比べればずっと強力だ。気を引き締めなければならない。だけどシャルクは能天気にのたまった。
「二mってたいしたことないですよ。ふつうのホネじゃないですか」
 武者兜にグレートマスカレードに武者鎧。ついでに魔法の力を持つ手斧と狼意匠の盾。グレートマスカレードのおかげで間が抜けているのだけれど、こういう戦いに縁のない場所では物騒この上ない。激しく場違いだけど頼もしい台詞である。
「ジャイアント的にぜんぜんふつうだし、人間でもそれくらいいます」
「そうかもしれないけどさ‥‥‥」
 とはいえ不安は不安だ。アンデットの類ならそれなりに対策を立てなければいけないけれど、とりあえず殴って倒せる相手だ。勿論それはそれで対策を立てる必要はあるのだけど。
「まあシャルクさん。あてにしてるわよ?」
「まかせてくださいよー」
「‥‥‥‥‥‥」
 にこにこと能天気に。激しく不安だ。隣を見ると乱雪も結構不安そうにしている。どうやらあまりいい印象を持っていないらしい。
 そこでもう片方を向いてみた。
 加賀美祐基(eb5402)が熱血してた。デフォルトでフレイムエリベイションが発動しているみたいに熱血してた。
「志士として! 困ってる人たちが居るのに黙っていられるわけないぜ!」
「別にどうでもいい。加賀美、と雛祭りを過ごすのを諦めてまで協力してやるんだ。無様な戦い方をするようなら‥‥‥判ってるな?」
 不機嫌そうにドスを利かせる天堂蒼紫(eb5401)。今回の依頼はあまり乗り気じゃないようで、ぶちぶち不満を述べている。
 別の方を見てみるとリスティがメイドさんを口説いてた。まるで本物みたいな、というかニセモノには全く見えないネコミミと尻尾をぴこぴこさせているメイドさん。口説きっぷりはよほど良かったのだろう。相当物騒な装備を身に付けているのに怖がっている訳でもなかった。むしろ頬染めて喜んでいるというか同性に口説かれるはどうだろう。
「‥‥‥‥‥‥」
 理緒は頭を抱えて机に突っ伏した。今後が激しく不安だ。
 いまいち緊張感に欠けるメンツである。





 依頼人の村から少し離れた所。戦場跡の野原を一望できる丘から冒険者達はボーンゴーレムの姿を探した。
 見晴らしのいい場所である。元々人の手が入ってなかったのだろう。よく見れば大昔使われていた武具の残骸がそこいらから突き出ている。距離的に見ることすら難しいのではあるが、幸い彼らは全て優良視力を会得していた。二人ほどは常人に比べれば、程度だがそれはそれで立派な技能だ。
 そしてその視界の先にボーンゴーレムがいた。
 四体、横一列に並ぶ様は門番のようである。
 物言わぬ骨の怪物はただそこに立っている。まるで糸の切れた人形のように。
 そんなボーンゴーレムを見下ろしてリスティが言った。自前の酒を舐める程度に飲んでいる。身体を暖めているらしい。
「しかし、ゴーレムだとしても、骨程度に熟練の冒険者とやらが負けるかねぇ」
 見た目のビジュアルは大きい怪骨。過去に遭遇したり専門の知識がなければただの骨だ。
「ちょいと気になるところだけど、ま、行ってみないとなんともわからんやね」
 酒を舐め舐めのたまった。こういう油断が早死にする原因になる。
「あたしは攻撃担当だね。盾役の皆に負担がかからないよう、撹乱しながら戦うよ」
 そういうのは理緒。挌闘術も回避術も優れ今回の主力である。それ以前に胃が痛くなる連中ばかりだけれど。
 理緒はシャルクに尋ねた。
「どう? 何か弱点でもありそう?」
「う〜ん。なにかへんなところはありますか?」
「それはこっちの台詞よ」
 乱雪の不安は的中した。あの後詳しく聞いていたおかげで理緒はおおよその概要は聞いたいたのだ。
 とはいえシャルクにばかり非はない。彼女はまだ嗜む程度に学んでいると言っていたしそれほど詳しく知らないのだろう。
「よくわかんないです‥‥‥」
 知恵熱出していた。理緒は礼を述べて戦いの準備を促す。相手が動く気配がないのなら、先手必勝で即殺だ。リスティはまだ舐める程度にちびちび飲んでいた。
「骨‥‥‥。犬連れてたら咥えていくとかしないかねぇ。や、あたしは犬連れてないけど」
 この際酔っ払いはどうでもいい。蒼紫は十手片手に呟いた。彼だけはこのメンツであっても戦闘前だから落ち着いていた。
「俺は格闘は苦手なんだがな。撹乱と陽動を受け持とう」
 祐基は熱血してた。正義感もここまで来れば立派なものだ。
「俺は天堂が撹乱してくれている間に攻撃しまくるぜ! 頑張って骨を倒すんだ!」
 軍配をかかげて、
「突撃ーーー!!!」
 フレイムエリベイション使ってた。テンション上がりすぎだ。






「うやーーー!!!」
 ボーンゴーレムの剣がシャルクを打ち付ける。魔力の込められた狼の盾は骨の魔物から彼女を守り抜いていた。
 元より盾受けの技に長け、完全武装で更にウルフブランドで身を固めている彼女にそうそう攻撃は通じない。このまま立ち往生しそうな勢いだが彼女は囮だ。ボーンゴーレムがシャルクを打ち据えている隙をついて理緒は殴りかかる。同じ壁役のリスティは狂化してしっかり暴れまわっていた。叩かれまくってむかついたらしい。
「あーもう! 鬱陶しいねえ!」
 スマッシュの技がボーンゴーレムの頭をかち割った。蒼紫が隙をついて牽制したり、理緒や祐基との連携でダメージを与えていたのだ。
 乱戦。狙う敵はすぐ側にいる。
 理緒は跳躍。ボーンゴーレムの剣をかわしリベットナックルの打撃を打ち込んだ。
 ボーンゴーレムは大きく仰け反った。着地して、トドメの龍叱爪を握る右手で骨の胴を打ちぬいた。鉤爪が骨を粉砕する。
「やっと二体‥‥‥!」
 牽制や陽動を繰り返しようやく二体目を撃破。なかなかの善戦である。
 ゴーレム特有の高い攻撃力。鍛錬を積んだ剣士のような剣の技。確かに、怪骨と思って挑めば返り討ちにあうのも納得できる強さだ。
(乱雪さんに礼を言わないとね‥‥‥)
 理緒はオーラパワーを拳に付与する。長期戦に持ち込めばシャルクが倒れるかもしれない。彼女は蒼紫と祐基を支援する為壁になっている。がんがん叩かれていた。
「人々の平和な生活を踏みにじる魔物たち、俺は絶対に許さない! バーニングソード!」
 祐基はバーニングソードを唱えた。炎の力が霞刀に宿る。
 こんな乱戦の中、何故こんな事をする暇があったのかと言うと‥‥‥
「フッ‥‥‥。お前達にお天道様の輝きを遮る事は出来ない。行くぞ!」
 疾走の術で駆け抜ける蒼紫。陽動と撹乱を繰り返し祐基から気を逸らしていた。時折叩きつける十手の打撃。決定打には遠いが牽制には十分だ。
 祐基はボーンゴーレムの剣と打ち合い、鍔迫り合い。
「この! 負けられないんだよ!」
 距離を取って再度斬りつける。炎の力で強化された霞刀は骨の一部を焼き斬った。
「邪魔だ! 失せろ!」
 再度叩きつける十手の打撃。それは祐基に攻撃の隙を作り上段に断たれた。炎の刃の唐竹割りだ。
「よし、後一体だ!」
 残ったボーンゴーレム。これが生き物の類なら不利を悟り逃げようとするが、ゴーレムである骨の魔物にその選択はなかった。果敢にも挑んでくる。
 全員の攻撃を受け理緒の龍飛翔で砕けた。






「人々の平和を守るのも冒険者の務め! これで村の人たちも安心して暮らせるようになる、かな?」
 戦闘後、冒険者達はそれぞれ健闘を讃えあったり怪我の有無を確認していた。何はともあれ依頼は成功だ。祐基の明るい声続きリスティも大きく肩を回した。
「やれやれ。面倒な依頼だったさね。装備は重いし、戻ったら可愛い子を捕まえて楽しまないとやってやられないねぇ」
「うーん。このホネ、たべられるところはないのかな?」
 シャルクの戯言はどうでもいい。
(ゴーレム、か。変な依頼だったな)
 理緒は首を傾げたが理由は判るものでもない。
 蒼紫に促され、一行は江戸への帰参の準備を始めた。