あなたのハートを以下略!
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月21日〜03月26日
リプレイ公開日:2007年03月31日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
一に足踏み。
射位で足を踏み開き、武射系は二足で踏み開き礼射系一足で踏み開く。
二に胴造り。
腰を据えて下半身を安定させる。
三に弓構え。
矢を番えて弦を取り掛けて、的を見定める。
四に打起し。
弓を持ち上げる。
五に引分け。
押し開く。流派によって動作を一度止める場合もある。
六に会。
引き絞り狙いを定める。
七に離れ。
矢を放つ。
八に残身。
射の善し悪しは全てその身と心に現れる。澄まし、とも言う。
これを射法八節と言う。弓道の教えだ。
見た目の年齢通りの幼い少女は、その見た目に全く似合わない超大な鉄弓を片手に立ち尽くしてた。
放った矢は十本。その全ては的の中心部を穿っていた。
「いやいや。お見事な腕だな」
「全くだ。今すぐにでも軍に就職出来るぞ」
未だ正面の的を見据えている少女――加奈に男二人は感嘆の声を上げた。
「貴方達は‥‥‥」
引き締まったマッスルボディ。瓜二つの暑苦しい双顔。あるだけ無駄というか、鍛えぬいた筋肉美を返って邪魔している申し訳程度の商人衣装。いつかの件で『弓と矢』を譲ってもらった相手だ。これで射抜かれれば何となく特殊能力が身に付きそうだがそんな事は同でもいい。
加奈はいつの間にか近くにいた二人にさほど驚きもせず尋ねた。それほど弓に集中していたのだろう。この間から短期間の内に随分と上達しているものだ。
「今日は何の御用で? あいにく、今私は持ち合わせはあまりありませんが?」
「別に商売が目的ではないさ」
筋肉の片割れは言った。身体がもりもりしているから口も眉毛も無駄にもりもりしている。
「辰臣、とか言ったよな。あの男についてだ」
「先輩がどうかしたの?」
加奈は顔をしかめた。
先輩に何かあったのだろうか。最近は弓の練習ばかりで私塾に最低限しか顔を出してない。
「何かって、この間みたいに女を囲ってたな」
「あれはあれで羨ましい限りだが、女にうつつを抜かすよりまず己を鍛えなければならぬ」
「うむ。男とはこれ筋肉だからな」
それはちょっと勘弁願いたい。
加奈は突っ込んだ。愛しの先輩がこんな肉ダルマに? 冗談じゃない。
「ていうかちょっと聞き捨てならないわね。私の先輩が女を囲ってるって?」
独占欲を出してみた。
大好きな先輩と、いつかは恋仲になってみたい。今手に持っているのはそれを実現する為の一品だ。
左胸を射抜けば、相手と必ず恋仲になる羅武羅武大明神の加護を得た魔法の弓矢――。
突っ込み所がありすぎるけど突っ込んだら負けな気がする。弓道習い始めたからか、この間に比べて大分落ち着きが身に付いてその辺りの思考は働いているけどそこは恋に恋する純情娘。乙女ちっくパワーは無限大♪
「どうせあのあばずれ共がよってたかって先輩に群がっているだけでしょ? さながら灯りにたかる虫みたいにさ」
結構言いすぎだ。落ち着きが身に付いた分、内面にキているのかもしれない。
「まあそれはそうなんだが‥‥‥」
「やっぱり。これだから教養のない娘子は」
その教養を学ぶ時間を潰して他の事をしている奴に言われたくない。
「それに、この間、私の先輩に銀髪女がモーションかけてたからね。そいつはいなかった? いたら必殺しないとね」
真顔で言っているが余計に怖い。筋肉達はぶるっと身を震わせた。
「それはそれとしてだ。今日はその先輩とやらの通塾路を調べてきたのだよ」
筋肉の片割れは地図を取り出した。先輩卓から私塾まで線が引かれていた。
そこで加奈は気付いた。
「これ、通塾路が変わってない?」
「ああ。この間から変えたらしい。安全の為とか」
「そう‥‥‥」
加奈はため息をついた。これでは作戦が上手くいかないかもしれない。
元々、加奈と辰臣の通塾路は途中から交わっていた。それも理由だろうが二人は知り合えたりそれなりに話しもするようになった。道を知り尽くしているし物陰から狙い打つつもりだったのだ。
「これは‥‥‥作戦を変えないといけないかな」
場合によっては接近しないといけないかもしれない。
「あの男は未だ冒険者に護衛をさせているようだ。前回は激しく妨害を受けた事だし、迂闊に動けんぞ?」
「顔、見られたかもしれないしね」
そうなのだ。あの時、女がブッ込み特攻してきた。一瞬だったから判らないけれど、もしかしたら面が割れているかもしれない。
だとすると近づくのは危険だ。だからといって、地利のない場所に踏み込んで狙撃、というのもいいとは思えない‥‥‥。
どうするべきだろうか? 頭を捻って考えている中、思い出したように二人に尋ねた。
「そう言えば、どうして二人は私を助けてくれるの?」
確かに気になっていた事だ。この筋肉達は行商人。物を売ればそれだけの関係だろうに。
「気にするな。その後のアフターケアというやつだ」
「それにな。売った商品がその通りの効果が出ななかったら、他で売った場合クレームが来てしまう。物が物だけに気を使うさ」
だったら殺人武器を売りつけるなと言いたい。まさかと思うがこの筋肉、本当にそういう効果があると思っているのだろうか。
「こちらの事情もあるからな。お前はこの間みたいに矢をうちまくればいいだけだ」
――こうして、また恋する乙女の暴走が再開する事になった。
●リプレイ本文
「しふじゃないかしふじゃないか、よいよい♪ しふじゃないかしふじゃないか、よいよい♪」
塾の帰り。辰臣と加奈の帰宅を見守る冒険者達は何となく居づらかった。
二人仲良く見ようによっては仲睦まじい恋人同士のような――そんなほほ笑ましい光景である。邪魔したら何か悪いようなそんな感じ。二人の上空でベル・ベル(ea0946)が見張りと称してひたすら踊りまくっているが、何というか脳を疑いそうな陽気ぶりである。色々突っ込みたくなるがシフールは概ねそういうものだろうか。まあ春も近い。
んでもって世のバカップルがそうであるように辰臣と加奈もそうだった。
二人にベル・ベルはアウトオブ眼中だ。
「あの、先輩。こうやって一緒に帰るのも久しぶりですね」
「そうだね。僕も最近忙しかったから」
平和な江戸の街。国外や近郊の魔物の騒動はともかく、治安も良く活気のある江戸の街は多くの人が危険に見舞われることなく平穏な営みを過ごしている。そんな平和な環境で咲くのはやっぱり恋の花。
気になるあの人に振り向いてもらいたい。憧れのあの人と仲良くなりたい。特に十代となると特別だ。
そんな恋する少女は大好きな先輩に。
辰臣少年は妹みたいに思っている気になるあの娘に。
微妙にアプローチしたり本心を問い質してそうな台詞を投げかける。まあ見ている方が恥かしい。
そんなある種の異空間。リフィーティア・レリス(ea4927)は思いっきり疲れたように呟いた。
「何つーか、すっげー場違いだと思うのは気のせいか?」
「‥‥‥まあこれも依頼ですし」
リフィーティアとは対照的に落ち着いたように柳花蓮(eb0084)は答えた。割とどうでもよさげであるが、そこは俗世を断ったお坊さん。メイド喫茶柳亭から借りてきたというネコ耳とメイド服で思いっきり俗に塗れまくっているが本人曰く変装らしい。髪まで黒に染めてもらってポニーテール。随分可愛らしいものの、ネコ耳にメイド服のおかげで結構浮いている。場所を選ぶ恰好である。
「‥‥‥あなたの懸念も最もですが、それはさておき。現実的な対処の問題を。辰臣さんの護衛をどうするかですよ」
今回の依頼はそれである。犯人が護衛対象の隣にいる時点でもうダメだけど。
「俺は逃げるぞ」
あなたはどうします? そう尋ねられる前にリフィーティアは速攻マッハで言い切った。
「‥‥‥逃げられては困るのですが」
まあ普通に仕事にならない。リフィーティアは冗談じゃないと言わんばかりにため息をついた。
「前回えらい目にあったんだよ。何度も死にかけたし」
怪訝そうに見つめる花蓮。リフィーティアは遠い目をして空を見上げた。
「ホントに洒落にならなかったんだよ。矢が雨みたく降ってきたし。今回も嫌な予感がするにはするんだけど」
そもそも貧乏神の加護を受けんばかりの不運っぷりである。鬼神ノ小柄二振り持っているから極め付きだ。
「とりあえず狙われるようなら速攻で逃げるんで後ヨロシク」
「‥‥‥‥‥‥」
親指立ててさわやかに。何か軽く死相が見えた気がする。
幸先が不安になるが、護衛に関しては白井鈴(ea4026)が物陰から見張っているからどうにかなるかもしれない。達人の隠密技を彼がいればそれだけで十分事足りそうだ。おかげでどこにいるのかすら判らないけれど、忍者とはそういうものだ。
そんなやりとりをしていると、辰臣がリフィーティアと花蓮を友人として加奈に紹介した。命狙われているからその護衛だとは言えまい。
「はじめまして。加奈って言います」
「あ。どうも――」
手を差し出され握手して――刹那、リフィーティアは殺気を感じた。まるで、親の仇を見るようなそんな視線。何故かよく判らないが、加奈のリフィーティアを見る眼は普通じゃなかった。当然彼はそんな眼で見られる覚えはない。
花蓮はそこで何か思う所があったのか、加奈と握手する際こっそりリードシンキングを使った。そこで役所に連れて行けばいいものの彼女は腹黒かった。
「加奈さん。ちょっとこちらへ‥‥‥」
化けネコみたく怪しさ満載である。
「‥‥‥ふむ。それは痴情のもつれですね」
物陰に連れ込んで、仁王立ったネコ耳メイドさんは言い切った。
「聞けば貴方‥‥‥、男に走ったという話。それが許せなくて相手が手に入らぬならいっそと思い詰めているのでしょう。違うと言っても聞きません。その方が面白いのでそういう事にしましょう‥‥‥」
随分と勝手な言い分である。だけど加奈も割と普通(脳が)じゃなかった。
「まるで私が先輩を殺そうとしたような言い方ですね。私は先輩のハートをゲットする為にしているんですけど」
普通に自供である。それも悪いと思ってないからタチが悪い。
「それは構いません‥‥‥。むしろ、貴女の力になりましょう‥‥‥」
「え? 協力してくれるの?」
花蓮は頷いた。全ての衆生に手を差し伸べる僧侶として人助けは当然だ。だけどその顔は笑ってた。新しいおもちゃを手にした子供みたいに笑ってた。
「‥‥‥ええ。こんな面白――いえ、悩みを解決する手助けをするのも仏に仕える私の役目。是非貴女の本願を成就させましょう」
「ありがとう。でもいいの?」
迷惑にならない? そう問う彼女に花蓮はにっこりアヤシク微笑んだ。
「そんなの大した問題ではないですよ。では、まず邪魔者を始末する事から――」
茶屋で二人を待つリフィーティアに凄まじい悪寒が走った。
用事があるから、とどこかに加奈を連れて行った花蓮を待つ為リフィーティア達は茶屋で休息を取っていた。
「しふしふるんるん♪ しふるんるん♪ ぴったんらんら♪ しふぴったん♪」
未だに踊ってるベル・ベル。周りからじろじろ見られているがまあそれはいい。
納得いかないのは‥‥‥
「リフィーティアさん。美人だからやっぱり人の眼を引くよね」
「だから俺は男だって」
今更そう言うのも激しく無駄な気がする。リフィーティアはため息をついた。
「アレか。俺が男だって納得させるには脱ぐしかないのか」
闇色の空を照らし大海を彷徨う船の道標の如く輝く長い銀髪。エメラルドのような青い瞳。華奢で汚れを知らない処女雪を思わせる白い肌。整った顔つきの、人によっては喜ぶであろう凹凸のない肢体。どう見ても美女の単語を思い浮かべる人物だ。それも頭に『超』が付くほどの。
「またまた。冗談ばかり」
辰臣は笑い飛ばすものの確かにリフィーティアを一目見て男だと思うのは無理がある。性別を間違えて生まれて来たに違いない。
どうせ言っても無駄だと判っているし、リフィーティアは話題を変えた。気になっていた事がある。
「そういや前に気になるって言ってた加奈ってヤツとはどうなんだよ?」
「えと、まあそれは妹みたいに」
「結構可愛いヤツだし、言い寄る男もいるんじゃないか? 告白するとかしたらどうだよ」
何か言う前に畳み掛ける。散々女と勘違いされているし仕返しするのもいいかもしれない。
「妹みたいに、って言ってるけどさ、気になるなら気になるってはっきり言えばいいじゃんか」
横からかっさわられても知らないぞ、と釘を刺す。確かにこういうのは自分から動かない者に手に入らない。受身に回る時点で負けと同じである。
「‥‥‥‥‥‥」
じ、っと見つめるリフィーティア。美女――男だけど――に見つめられるは悪い気がしないものの、結構余裕のない辰臣には視線が痛かった。
「ちょ、ちょっと厠に!」
奥に逃げた。そんな余裕のない辺り彼の本心を表しているようだ。そこへいつ姿を現したのか鈴が隣に座っていた。
「そんなに苛めなくてもいいんじゃない?」
茶を啜りながら突っ込んだ。白髪と大きな碧眼の可愛らしい男の子だ。こうやって茶屋で団子を食べているのが似合っているものの、これでも二十三歳。パラである。
「毎度毎度女に間違われているこっちの身を考えろって。この間死にかけたし」
本人にしか判らない事情というのもあるだろう。鈴は思いっきり他人事みたいにのたまった。
「リフィちゃんは相変わらず不幸を呼んでるよね。頑張れ?」
「‥‥‥おまえに助けを求めても面白がって見てそうだな」
「うん。面白そうだから黙ってるー☆」
「‥‥‥‥‥‥」
こうもはっきり言われると何も逆に何も言えない。大物の器かもしれない。
「でも本当にやばそうだったらフォローは入れるよ」
普通に助けて欲しいものだ。踊ってたベル・ベルも便乗する。
「大丈夫ですよ〜ん。怪しい人が来たら、すぐにお知らせするですよ〜ん☆」
「僕も矢が飛んできたら射手を探ってみるよ。射撃得意だから何となくどの位置から狙うといいかっていうのわかるし」
「もし襲ってきたら私は攪乱要員で一生懸命動き回るですよ〜ん☆ 変なことする人は私がぺしぺしするですよ〜ん☆」
「そいつはどうも」
激しく不安だ。リフィーティアが頭を抱えていたら物陰で辰臣の姿が見えた。茶屋の外に出ていた。
「ああもう何やってるんだよ辰臣さん‥‥‥」
リフィーティアは外に出た。そこに辰臣の姿はなくてまた物陰に見えた。そに行ってもまた物陰に‥‥‥まるで幻影のようだ。
「追わなくてもいいの?」
ベル・ベルは尋ねた。
「いいよ。あれ、幻影だし」
優れた対人鑑識技。あれが本人ではないと見抜いた。というか厠の場所とは真逆だし普通に判りそうなものだが。
「あれ? リフィーティアさんは?」
そこに辰臣が戻って来た。
「出て行ったよ。何か用事があるって」
護衛対象から離れる訳にはいかないし、鈴は辰臣が帰宅するまで同行した。
「辰臣さん。こんな所にいたの」
彼を追って、リフィーティアは人気のない路地裏に来ていた。建物が多く身を隠す事が出来、隠れて狙撃するに向いている。
周りには人がいない。
「一人でいると危な――」
肩を掴もうとしてすり抜ける。
「げ、幻影?」
そこで、嫌な予感と気配を感じた。自分に向けてかけてくる殺意。
条件反射で身を捻る。鉄の矢が突き刺さる。
次々に弦を弾く音がして――
「やっぱりそういうオチか―――!!!」
鬼のような勢いで矢が飛んできた。
リフィーティアが襲われている様を見て花蓮は満足そうに頷いた。
「‥‥‥これでよし」
全然良くない。でも護衛対象が襲われているのではないのでいいかもしれない。彼女はファンタズムのスクロール片手にのんびり眺めている。
「‥‥‥フフフ。ラブコメ万歳です。もっと走らないと当たりますよ?」
助けようとしないのか。眺めていたら、
「そこネコ耳メイドさん!」
「いい物売ってやろう!」
筋肉達が降って来た。
「女と言えば恋に生きる者」
「そういうお主には是非これを!」
刀を取り出した。装飾の立派な逸品だ。
「これは羅武羅武大明神の加護を受けた刀だ」
「何とその効果は斬りつけた相手と両想いになる」
「その名も『心中くん』。これでどんな難しい相手との恋も成就間違いなし!」
「今ならこれだけ。さあ! 買え!」
「‥‥‥ブッラクホーリー」
花蓮は筋肉達を吹っ飛ばした。
「な、何をする!」
「この値段では不満なのか? 何なら割り引いても――」
「‥‥‥ブッラクホーリー」
再び吹っ飛ばした。一般の娘子を騙して殺人武器を売りつけるような相手は悪人に違いない。本人達はそう思ってないのが致命的だけど。
「‥‥‥筋肉双子は見つけ次第ブラックホーリーです。罪状が判明してようとしてまいと問答無用」
「ちょっと待て。お前、何か勘違いしてないか?」
花蓮は聞いてなくて、
「‥‥‥フフフ。問答無用」
眼がきらーんと光って‥‥‥ブラックホーリーをぶっ放した。