ネコ耳ねね子の奮・闘・記! 野生化編

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月16日〜04月21日

リプレイ公開日:2007年04月19日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





 メイド喫茶柳亭。かつて閑古鳥が大合唱していたこの店は、冒険者達の手により江戸屈指の迷(?)店となっていた。
 支店も出し近日京都にももう一軒出店する予定の喫茶店。こんなせちがらい世の中に確かに癒しは必要だろうけど、客を選ぶ経営方はどうかと思う。洋風のお店だからって珍しがって訪れた客も、引いた事は頻繁にある。
 そんな柳亭。早朝の外。ウィザードの彼はどうするか激しく悩んでいた。
 目の前にはメイドさん。作り物とは思えない、ネコの耳と尻尾を生やした女の子がどこか楽しげに――というか何も考えて無さそうな――生きているのが楽しいとばかりに箒を振っていた。どこの店でも開店前の掃除は必要である。
「チャンスなんだ。薬を試せる機会なんだ」
 物陰からネコ耳メイドを眺めるウィザード。青年といった風情だが、ローブに身を包んで見つめる様は普通に変質者だ。
 手に持っているのは竹筒。内には研究の失敗で生まれたある薬が入っている。
「どんな生き物でも野生に返る魔法薬。あの娘はどんな風になるのかな‥‥‥」
 瞳は虚ろ纏う衣類も薄汚れ、肌も何日も湯浴みをしていなく垢が溜まっていた。研究に没頭しまくるウィザードにはよくある事である。
 彼は魔法薬の研究を行っていた。魔導に関わらず研究には金がかかるもので、いかにも貧乏している彼にそんな余裕はなさそうだが彼にはパトロンがいる。
 どこかの商人だったり武家だったり‥‥‥そういう人種の人は何かと金を湯水のように出してくれるものだ。寿命を延ばす為とか心身を強くする為とか、古今東西金をつぎ込む馬鹿はいる。神ならぬ身で出来る事などたかが知れるが、魔導を極めた先には可能の事かもしれない。
 幾日も研究を続け成功と失敗が繰り返してきた中、ある薬が完成した。飲み薬である。
 元々の用途とは大きく違ったものの、何故か心の内に眠る野生を目覚めさせる効能があると判った。
 ペットなら野良に。人なら原人に。研究中の失敗ゆえに一人分の薬とそれの中和薬しかないものの、実際のそれの効果を試してみたい。組成を調べれば量産も出来るし売り込むならちゃんとした実験データは必要だ。
 それに実験データ取るなら多くの種族を試すべきだろう。種族によって結果が変わるかもしれない。
 目の前の少女はどうだろう?
 ネコの耳と尻尾を持った女の子。ケモノと、人との、まるであいの子のような女の子である。
 そんな娘に薬を試してみたらどうなるだろう? どんな野生が目覚めるだろうか。
 とても気になって。凄く気になって、
「あのー‥‥‥。ちょっといいですかー?」
 恐る恐る声をかけた。





「大変よー! ねね子ちゃんが行方不明なのよー!」
 メイド喫茶柳亭。店長であるお牧はギルドに突貫して事のあらましを述べた。よほど心配なのか、早口で聞き取りにくい。
「今日で五日も帰って来てないわ! 最初は外泊したものかと思ってたけど‥‥‥拉致られたかもしれないわ!」
 そしてお牧は言い切った。
「ウチの店はたくさんのご主人様達に心からのサービスを提供する癒しの店。より満足していただく為に行っているキャッキャウフフなメイドサービスを勘違いして、バカなご主人様が勘違いしたのよ! ああ、可哀想なねね子ちゃん!」
 この手の店は風俗店と間違われないよう届出を出すのも必要である。
「今頃○○○で×××な事をされて△△△な事を‥‥‥! 犯人見つけたら五体バラして晒してやるわよ!」
 物騒この上ないが女の子の言葉としてどうだろう。周りにいた女性ギルド員が汚らわしげに表情を歪めたり頬を染めたりした。
「そういえばねね子ちゃんがいなくなる日の早朝に怪しい男がいたとか、別のご主人様がねね子ちゃんぽい女の子が深夜にネコの群れを引き連れて走ってたと聞いたわ。後者の方はネコじゃあるまいし違うわよね」
 お牧は自分を納得させるように頷いた。不安は少しでも減らしておきたい。
「とにかくお願い。冒険者を都合して!」
 これがお牧側の依頼である。






 江戸の診療所。全身爪あとだらけで運ばれた仲間の下に駆けつけた料理人達は怒りの声を上げた。
「ちくしょう! これで四人目だ!」
 頭にねじり鉢巻の若い料理人は畳に拳を叩きつけた。
「落ち着け吾郎。太助の傷が触るぞ」
「んな事言ってられるかよ! ここまでやられて、俺たち料理人にあきらかにバカにしてるじゃねえか!」
 そう、今まで被害にあった者とここに集まった料理人。彼らは同じ系統の料理人だ。何の料理かと言うと、
「化け猫め! 何度も何度も魚を奪いやがって!」
 彼らは魚を中心にあ使う料理人なのだ。
 早朝、築地の帰りに大量の魚を仕入れ帰宅途中、大群のネコを率いる化け猫に襲われた。人的物的被害も甚大で、次が起これば確実に一般の家庭や料亭に支障が出る。どうしても退治しなければならない。
「腕っ節に自慢のある太助もやられちまった。くやしいが俺は勝てる気がしねぇ‥‥‥」
 吾郎は拳を爪が食い込むほど拳を握り締める。食いしばる口からは今にも血が出そうだ。
「こうなったら冒険者に依頼するぞ。皆の敵討ちだ!」
 まだ死んでない。
 これが料理人達の依頼である。





 それぞれの依頼を見て不審に思った冒険者達は両方を調べる事にした。何となく、どちらも関わりがあるように思えたからだ。
 こうしてネコの宴が始まる事になった。

●今回の参加者

 ea0276 鷹城 空魔(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0946 ベル・ベル(25歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5002 レラ(25歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb7311 剣 真(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 メイド喫茶柳亭。店長のお牧の方針により選りすぐった美女美少女ばかりが雇われているこの喫茶店。足を踏み入れて瞳に映る西洋一色に染め上げられた内装は、まるで遠き西洋の異国に訪れたよう。
「お帰りなさいませご主人様」
 そして出迎えてくれるメイドさん。
 頭には一輪の花のように添えられるホワイトプリム。身を包む漆黒の如きワンピースの上で一際映える純白のエプロンドレス。湛える笑顔は安らかな春風。
 あのメイドは落ち着いた印象を持つ大人の女性。あのメイドは元気一杯の美少女。訪れたご主人達は各種様々なメイドさんの心行くサービスを心逝くまで堪能する事が出来る。
 昨今の流行か知らないが、『癒し』を求める人――客を選ぶが――には最良の店かもしれない。
 そんな美女美少女が最高の笑顔と共に迎えてくれるこの店で、
「‥‥‥何で俺がまたメイドやらなきゃいけないんだッ!」
 ジプシーをモチーフにしたカスタムメイド服のリフィーティア・レリス(ea4927)は突っ込んだ。
 流れるような長い銀髪。触れると壊してしまいそうな処女雪のような白く細い肌。儚い輝きを放つ宝石に似た青い瞳。アラビアン風味なメイドさんは言い切った。
「まずこの店で話しを聞くと聞いた時点で嫌な予感がしたんだッ! よりによってこれかよ!」
 店内に轟くメイドさんの大声音。他のメイドさんや客達は彼へ振り向いた。悪い冗談のようだがこんなナリだが一応男だ。
「ご機嫌ななめねぇ。それじゃあ可愛い顔台無しよ?」
 そうなだめるように言ったのは御陰桜(eb4757)。リフィーティアとは対照的な『大人な女性』のメイドさんで、名前の通り桃色の髪が印象的だ。
「おまえ知ってて可愛いとか言うな! つーかこんな事してる暇ないだろ!」
 違いない。
「仕方ないわ。これもねね子ちゃんの為だもの」
 柳亭としてねね子は優秀なメイドさんだ。ねね子の抜けた穴は大きく、残りのメイドで補いきれないという事で一時的に手伝いをしている。店には店の都合があるだろうがいい迷惑である。
 そんなむかついている時に、
「どーして怒ってるの? ツンデレ? ツンデレ?」
「サンレーザー!」
 陽の精霊魔法が轟き唸る。妙に興奮して嫌な手つきで迫り来るご主人様を焼き払った。お触り厳禁なお店なのだ。
 そんなこんなで手伝いの終りを告げられてお牧は二人に尋ねた。
「ねね子ちゃんは『桜おねーさん』って慕ってくれる可愛い妹分だもん。放っておけないわよ」
「江戸に来たときからの知り合いだから心配だし」
 二人は彼女の問いにそう答えた。何故かリフィーティアは憔悴していたけど。
「お願いがあるんだけど、ねね子ちゃんの持ち物を貸して貰えるかしら?」
 疑問符を浮かべるお牧に桜は答えた。
「桃に匂いを追って貰おうと思ってね」
 鍛え抜かれた忍犬にとってはたやすい事である。





 診療所から帰路へ付くウィザードを見つけ剣真(eb7311)はクリス・ウェルロッド(ea5708)を伴い後をつけた。事前にウィザードの概要を聞いていたおかげで間違える事もなかった。
 二人は長屋に入り彼を問い詰めた。部屋は研究で使ったであろう備品や資料が雪崩を起こしたようになっていて足の踏み場もない有り様だ。
 真はウィザードの真意を問い質す際、場合によっては力ずくでもと考えていたもののその必要はなかった。まじかるなアイテムのおかげで見目麗しくなったり交渉が上手くいったのだ。まあ彼とて今回の件が表沙汰になると困る。
「‥‥‥で。あなたは何をしてるのですか?」
 興津鏡のまじかる効果できらめく真は尋ねた。宝手拭といい良くできた代物である。
「魔法‥‥‥いや、薬。自我を崩壊させるのか?」
 クリスはレポート片手に呟いた。
「知能を著しく低下させるものか拷問時の自白剤なのかあるいは‥‥‥。まあ全ては試してみてからの事‥‥‥」
「クリスさん?」
 もう一度尋ねた。何やらレポートと散らばった薬品やら器具やらを見つつ精製を始めた。
 この段階で、何となく嫌な予感はしていたのだ。というか夢見がちでロマンチストなクリス。ぶっちゃけるとアホなのだ。
「この薬品。研究の末のものか、偶然に生まれた産物か‥‥‥。これは秘密裏に味方すら欺き試してみる必要がある」
 レポートに記された通りの分量を加え一定の時間フラスコを振る。ウィザードが調べたものだろう。薬の組成は素人でも手順さえ守れば作れるよう事細かに書かれていた。
 それに加え鬼のような器用さを持つクリス。アレに刃物を持たせたようなものである。
「‥‥‥クリスさん。それを置きましょう」
 刹那感じた悪寒。真は越後屋ハリセン片手に身構えた。
 軽い爆発が起きて薬品が完成した。
「後は色々試して症例のサンプルを取れば研究は完成する‥‥‥。そこで初めて、私の知的好奇心は満たされる!」
 ぎらりと濁って光るクリスの瞳。バカが刃物を持った瞬間である。





 桜とリフィーティアが忍犬を頼りにねね子を探して真は鬼のような必死の形相で攻防を繰り返している中、リアナ・レジーネス(eb1421)はフライングブルームで江戸の空を飛んでいた。辺りは暗くもう夜である。
「イシュマルテェ! 彼の前に回りこむんだぁ!」
 そんなやりとりがどこからか聞こえる中、彼女はブレスセンサーでネコの群れの位置を調べていた。
 少し前に桜達と会って情報を交換しあい件の化け猫はねね子だと判断したのだ。
 それにしても聞いた分ではネコの耳と尻尾が生えているという女の子だ。普通に化け猫だと思うのも無理はない。料理人達の怒り用はとても凄い物だった。
「桜さんが助けたいと思う方ですから、いい人なんでしょうね。そのねね子という娘は」
 猫サイズの小型呼吸の集まり、そして人サイズの中型呼吸が群れているところはないか上空を飛び回りながら探知。それはそれとして、宵闇の空を箒で舞う美人ウィザード。絵になる光景である。
 空はリアナが眼を光らせて、地上はレラ(eb5002)が道行く人にネコが集まりそうな場所を聞き込みつつ探索を続けていた。途中、桜やリフィーティアと情報を交換しあったり、真に逃げるよう警告されて眼がイッてるクリスに変な薬を飲まされそうになったり、色々大変である。
 今回は知己であるベル・ベル(ea0946)と共にいる機会が多かった。
「しふしふですよ〜ん☆ ネコ耳さんを探すですよ〜☆」
 空と地をいったりきたり。何が楽しいのか知らないが陽気で――というか脳の大事な部分が抜けてそうな――見ている方も何だか幸せになりそうな気がする。連れているエレメンタルフェアリーと並んで仲の良い姉妹のようだ。
「ベルさん‥‥‥どうですか?」
「あの方角にいるそうですよ。しふ仲間に聞いてみたら、最近メイド服を着た化け猫がネコの群れをシメた、って言ってましたですよ☆」
 こういう時はしふしふの力の情報源は凄いですよ、と胸を張るベル・ベル。本人の暦年齢はアレだけど、見た目のおかげでとっても可愛らしい。
「ねね子さんを見つけたらどうします? 無難なのは魔法などで眠らせるのが良いんでしょうが、あいにくとそのような物は持っていませんし」
 レラの持ち合わせている魔法と言えば天気を予知したり遠くを遠くを覗いたりそんなものだ。もちろんそれはそれで役に立つのだけれど。
 ベル・ベルは可愛い顔して物騒な事を言い切った。
「化け猫を発見したら、みんなを呼んで一網打尽にするですよ〜☆」
 冒険者やっていれば心は荒むのだろうか。冒険者について一寸考えてしまう。
 その時ヴェントリラキュイでリアナの声が響いた。
『ねね子さんとネコの群れと思しき一団の呼吸の群れを感知しました!』





 今回鷹城空魔(ea0276)を顔を合わせたのはこれが初めてだ。
 どこからともなく姿を表した陸奥忍者。彼には彼の事情があったらしく、相談すら姿を見せなかったものの、忍者としては達人レベルの実力を持つ空魔。必要な情報を得て化け猫の居場所を突き止めていた。
「‥‥‥人の姿をした化け猫。なんかこれって何処かの誰かに似ている気がするんだけど」
 リフィーティアはそんな台詞を聞きつつネコの群れの中を突き進む桜を心配そうに見つめた。
 人遁の術でネコ耳ヘアバンドと尻尾のアクセサリという突っ込み満載な恰好なのだが、今ネコの群れを牛耳っているのはネコ耳娘のねね子。今更細かい事を突っ込んだら負けだ。
 今この場に来たばかりの空魔はそんな事情は知らず。思い出したように呟いた。
「そういやぁこの話が出てくる時期に合わせたようにねね子がいなくなったってちらりと聞いたぞ? まさか‥‥‥」
 塀から顔を覗かせて、
「ほ〜らねね子ちゃん。不思議なマタタビよ〜」
「にゃーん♪」
「‥‥‥って、ねね子かよ!?」
 突っ込んだ。一応化け猫を倒して連れ帰ると考えていただけに手を出すのには抵抗があるのだ。
「にゃ?」
 そんな大声を出したものだから、ネコ群は二人に気が付いた。そして見つめるはリフィーティア。
 一応、作戦としては魚で釣る事も考えていたのだ。んでもって。彼は所有者に不運もたすとされる鬼神の小柄を二振り刺して。
「「「「「にゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」」」」」
 ネコ群は眼の色変えて突貫。ねね子も速攻マッハで飛んできた。
「ネコさん発見ですよ〜☆」
 遅れて挟むような位置のベル・ベルとレラ。



 べる・べるはなかまをよんだ!

 しふーるのむれがやってきた!


「突撃ですよ〜ん。やっつけるですよ〜ん☆」
 この不運。何かもう大殺界。リフィーティアはぷちっと潰れた。
 そんな中。ネコとシフールのあい争う間隙を縫って、
「‥‥‥よっと。痛いけど我慢してくれよ」
 ねね子の背後に回り空魔はスタンアタックを叩き込んだ。



 それから。中和薬を飲ませたり、件のウィザードを役所に連れていったり記憶がないとは言えねね子を伴って謝罪に回ったり色々あったのだが、それは別のお話し。