メイドこそは男の浪漫!
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月16日〜04月21日
リプレイ公開日:2007年04月23日
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●オープニング
華の都京都。
神皇陛下お膝元のこの都市は、古くから遥か遠き国へと続く月道が確認され、それを確保する為に街は事細かく計画され、造られた。その為各地から月道を利用しようとする人達が集い、現在の京都情勢も相まってちょっとした混沌の様相を醸し出している。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
メイド喫茶柳亭。江戸の地に居を構えるこの店は、かつて閑古鳥が大合唱を轟かせていたものの、冒険者達の手により江戸屈指の迷(?)店となっていた。
頭に輝くは純白のヘッドドレス。漆黒の暗闇の如きワンピースに映える一輪の花のような白いエプロンドレス。まるでそれは、例えどれほど蔑まれ様とも決して明日への希望を忘れない心の象徴の象徴のようだ。
主を支え、時に励ましてくれる常に側に控えてくれている水仙の如き美女。
美の化身の如き彼女等の献身と奉仕は荒んだ心を癒してくれて‥‥‥明日を生きる為の活力源にしてくれる。
どんなに苦しくても、どんなに悲しくても、メイドさんの笑顔があるから頑張っていける。
そんな、何もかも間違っているけどメイドに己が全てを捧げる男がいた。
んでもって、彼は大願を成就するチャンスも手に入れてしまった。
彼の名は雄治。萌えに生き萌えに死す、萌え道という名の冥府魔道を突き進む漢だ。
「俺の‥‥‥。俺の時代がついに来たぜ―――!!!」
目の前にあるのは空き家。元は何らかの飲食店だったが経営不振で廃業してしばらく買い手がつかなかった。さすが元飲食店らしく中は広々として調理場も結構広い。掃除もされなく埃がつまっているからだろうか。内装は地味で変更の余地が大いにある。
事の発端は江戸の遠縁から送られてきた手紙から始まった。
『雄治へ あんた確か、イギリスに一時期居たって言ってたよね。だったらウチの支店の店長やってみない? お牧』
江戸でメイド喫茶を開いている、遠縁のお牧からの手紙である。
元々柳亭は甘味処で評判のいい甘物を売り出していた。
味も良くお牧の両親が存命していた時は客の足は絶えずに売り上げは良かったらしい。
だがその両親も死去してからというものの、柳亭は閉店の危機に陥った。甘物作りの技を身に付けているといってもまだ未熟。お牧とその弟では亡き両親のような甘物を作れなかったのだ。
客足は遠退きに遠退き、閉店か借金してまで経営を続けるか‥‥‥その選択肢に迫られようかとする手前、リニューアルオープンを行う事にした。どうせ何らかの決断をしないといけない。自分の代で店を潰すのは忍びなく、店の姿を変えようとしても残す事を選んだのだ。当の本人は何か吹っ切れたようだけど。
そして開かれたメイド喫茶。訪れた客は誰でもご主人様でお嬢様で、心身ともに尽くしてくれる様は至福の時らしい。
何故か現在の客層は妙に濃い連中ばかりだけれど。
あっちを見てもこっちを見てもメイドさん。数多のメイドサービスで癒してくれる。そんなドリームワールド。いつか自分も訪れたいと思っていたのだ。
そんな折に振ってきたような大チャンス。これを逃さない手はない。
「あっちを見てもこっちを見てもメイドさん! 必ず最高のメイド喫茶を作り上げてみせるぜ!」
改装準備は整っている。メイド服も多くのサイズをそれなりに備え、アルバイトの募集の張り紙も出しておいた。喫茶というだけあって、雄治本人は一応それなり料理の技術は持ち合わせている。
開店まで近い。メイド教育と改装を急ピッチで行う事になるのだが、間に合うだろうか。
「‥‥‥そうだ。冒険者を雇うか」
冒険者は様々な事柄に長けている。武芸やら魔法やら、戦闘以外にも何故か妙な知識や技術を高い水準で身に付けている者が多い。
それに外国出身者も冒険者としてジャパンに多く訪れているし、人によれば本場のメイドスキルを身に付けているかもしれない。自分の持つメイド知識だけでは足らないかもしれない。
もちろん相手の了承さえ取れればメイド服でメイドプレイをお願いするつもりだ。何故か卑猥なイメージがあるが気のせいに違いない。
様々な技術と知識を持つ冒険者。個人の特徴を活かした属性やらカスタムメイド服で客のハートをがっつりゲット。開店初日という事もあるが、個人設定を活かせば今後の顧客を掴めるに違いない。
その為に冒険者には自由な裁量で各自判断してもらおう。幸い開店資金は大目にあるしある程度の要望には答えられる。
彼はこれから開かれるであろう桃源郷へ想いを馳せた。
眼に映るは微笑むメイドさん。
拳を握り天に突き上げ咆哮。彼の信条が轟いた。
「全ては萌えの為に! 我が魂は萌えの為に!」
京都の大通り。周りの通行人達が不審そうに見つめた。
●リプレイ本文
本来、メイドは清掃、掃除、洗濯等の家事労働を行う女性使用人を指すものである。
年齢や知識又は技術的な問題で――聞き様によっては女性差別のようだが――重要な仕事に就けなかった少女が付く職業だ。
男性の場合も男の使用人として働いていたり成人女性も職業としてのメイドに従事している者もいるがそれはそれ。使用人をより多く雇うのが一つのステータスシンボルだったり、どこかの国では雇っている男性使用人の数で支払う税が決まったり女性使用人の賃金の割合が比べて低い等の事情で上流階級の人はこぞって女性を雇っていた。
主な仕事は先述の三つに子守、小間使い、給仕、台所に家庭教師。細かい所まで見ると色々あるが、それぞれの仕事を担当の者が従事している。一人のメイドが全ての仕事を担当しているというイメージが先行してしまいがちであるが、働く環境によって職場そのものが巨大な屋敷だったりするし専門の知識と技能を持たねば行えない仕事もある。職場の財力により使用人の数は変動するものの、各種様々なメイドが仕事に従事している。
まあ言うまでもなくメイドは普通に使用人を指す言葉である。
とはいえメイドは仕える者。
職場の従事者の事情もあるだろうが、大抵は衣食住の保障の代わりに雇い主に従属しなければならない。
その辺り国や当時の思想によって使用人の立場も変わるし貴族女性は良家の出身者を侍女に選ぶ等一概にメイドの立場も低いとは言えない。大昔の古代では同様の仕事は奴隷階級の仕事だったらしいがそんな事はどうでもいい。
仕事の関係上雇い主の命令に従う、という姿は雇い主というか男に変な幻想を抱かせて、メイド=『主に服従または忠誠を誓う存在』としてアレなイメージが男は抱がちである。
何もかも間違っているが、メイドをよく知らない国の人は先行している情報だけで判断してしまうもの。
つまり、依頼人のようにキャッキャウフフで辛抱タマランですよな勘違いをするバカというかある意味漢はいるものである。
「‥‥‥視線が気になるな。物珍しさだろうか」
店の改装に必要な木材を調達に出たカノン・リュフトヒェン(ea9689)は周りから向けられている視線に居心地が悪そうに呟いた。
来ている物はメイド服。依頼人の趣味なのかそれともこれが制服なのか、微妙に布の面積が足りない。スタイルのいいカノンが着ると妙に色っぽい。
彼女曰く使用人として接していたた覚えがあるので割と抵抗もないが、メイドについてよく知らないジャパンの人からは色んな意味で好奇な眼で見られている。
カラット・カーバンクル(eb2390)からは宣伝の為に外出はメイド服でと言われたが、彼女は依頼人や客に釘を刺しておかなければならないな、とそう考えた。
「さて、せっかく西洋の女中を売りにするのであれば、店の中もいくらかそれらしくした方がいいのでしょうか?」
一通り掃除が終り改装を始めようとして御神楽澄華(ea6526)は尋ねた。
尋ねられた依頼人は、
「メイドさんが箒を持って掃除! ステキなメイドアクションをありがとう!」
何やら全身から妙な液体を垂れ流しながら狂喜した。
「あの。雄治様?」
「メイドさんが! 夢にまで見たメイドさんが! 俺の為に働いている! 俺のメイドさんが!」
「ゆ、雄治様?」
全くもって聞いてない。
流す液はナイアガラ。興奮も最高潮で痙攣しているかのように空高く飛び回る。
そんな奇行にというか女としての本能が危険を訴えている。
「澄華様。どうしました?」
後ずさる澄華にカラットは尋ねた。今まで台所周りを掃除して、搬入された調理道具を点検していたのだ。
「えっと‥‥‥依頼人様が」
「ダメですよ。今はメイド服ですからご主人様と呼ばないと」
そもそもメイド喫茶である。開店前の仮想客として彼に客役をして貰おうと思っていたので間違ってはない。
澄華は一つ咳払いをして、
「‥‥‥ご主人様?」
「はい! 何ですか俺のメイドさん!」
「ひっ!」
速攻マッハで駆け雄治が彼女の手を握った。
唸る鉄拳くの字に折れる。雄治は昇天せんばかりの至福の笑みで倒れ伏した。
「あらあら。ご主人様に少々お聞きしようかと思ってたのですが」
カラットは澄華の鬼のような刹那の如き打撃に顔色一つ変えずに笑顔で言った。可愛い顔して物騒であるが、スリの達人として生計を立てているのでこの程度は修羅場に入らないのだろう。というか度胸がなければ務まりそうもないが。
「それで‥‥‥澄華様はご主人様に何か用でもあったのですか?」
まるで茶飲み友達と話すようにカラットは尋ねた。何というか肝が据わっているメイドさんだ。
「内装について少し。工作の心得はありますが、私は西洋の様式に疎いのでどうしたものかと」
そもそも建築技能を持たない連中である。さすがに外回りは業者に頼むのだが、洋風の建築物について乏しいジャパン大工に西洋出身者であるカノンとカラットがあれこれ言って『それっぽい』ものに現在改装中だ。
外回りが一段落した現在、カノンに頼み内装回りに必要な材料の調達に行ってもらっている。その辺り工作に長けた澄華の判断なのだが彼女自身ジャパンの人。『それっぽいもの』を製作するのに必要な材料を若干多めに、意見を聞いたり完成品の出来を見てもらおうと思っていたのだ。
彼女は自分で潰した依頼人を一瞥して言った。
「まあこれに関してはお客様方も西洋に詳しい方は多くないでしょうし、『それらしい』出来であればいいのかもしれませんが」
貴女の方はどうなんですか? カラットに尋ねた。
「料理の材料について提案がありまして」
達人の領域に到達した家事技能を持つカラット。何というかその眼は主婦のそれだった。
「その土地で手に入るものとか、なるべく安い物を買うべきと思うのですよ!」
何故か知らないが妙に説得力のある台詞である。
「どんな食べ物でも受け入れやすくするには工夫が大事と思うんですよね。西洋風にするときでも」
「確かにそうですね」
「でも香辛料は高いんでハーブ使った料理なんかどーでしょー? 育てやすいの多いし、今すぐはともかく余った土地で栽培してみては」
微妙に意味が違うが産地直送のハーブ料理、というのもいいかもしれない。
「それにご主人様はイギリスのお菓子も作れるとか? ならプティング! ぜひカスタードプティングも! ‥‥‥って、別に自分が食べたいとかそんなんじゃないですよあははは‥‥‥」
笑って誤魔化しているようだがバレバレだ。そんなこんなしていたらカノンが戻ってきた。結構立派な木材を調達してきたようだ。
カノンは雄治が倒れている事情を聞くと溜息を付いた。
「往来の真ん中で叫び声をあげるほどのようだからな」
「ええ。ご主人様は並々ならぬ情熱がおありのご様子ですし」
ぶっちゃけセクハラだ。
とはいえこのまま捨て置く訳にはいかない。カノンは雄治の身を起こし気付けを食らわした。
「なあご主人。あまりサービス的な事を期待するのはどうかと思うぞ。本格的にメイドを再現する訳でもあるまいし、不埒な事をやりすぎると‥‥‥」
なんて釘を刺していたが、
「メ、メ、メイドさぁ〜〜〜ん♪」
速攻マッハで抱きつこうとして、
「ふん!」
木材が凄まじい勢いで危険な音を立てて雄治に突き刺さった。
「いいか。メイドとはかくかくしかじかでこういうものだ」
「アイラブメイド! ドリームメイド!」
アルバイトの募集でやってきた女の子達にメイド授業を行っているカノン。その後ろで雄治がハァハァしたりハァハァしたりハァハァしたりしていた。
「とはいえあくまで喫茶店だ。難しく考える必要はない」
「ビーナスメイド! ファンタスティックメイド!」
彼女の言う通りあくまで喫茶店だ。喫茶店の店員としての教育も必要だし雄治にも随伴してもらっている。さっきまで凄い事になっているのだが今は完治。本人曰くメイド力で回復したらしい。突っ込んだら負けな気がするが気のせいだろうか。
「さほど難しい事でもない。私も手伝いはするし他の仲間もそれぞれの担当での仕事を行う。まずは彼女等のサポートとして動くといい」
「メイドは神! メイドは心のご飯!」
冒険者達が柳亭でメイドとして働くのは開店初日だけ。アルバイトのメイドさん達にはちゃんと仕事を覚えてもらわないといけない。
隣の部屋から聞こえるのは工作音。カノンが調達してきた木材で洋風なオプションを製作中。カラットは自らが思案した洋風料理の試作品を調理中。本来ならもう一人いる筈なのだが、新人の冒険者で色々判らない部分もあったのだろう。結局現れる事はなかった。
「まあつまり――」
「メイド様のご加護の下に! メイド様のご加護の下に!」
「やかましい!」
走る剣閃。黄金の柄には聖遺物匣が仕込まれ、古の時代よりデビルを滅するとされる聖剣ミョルグレスの刃が煌めいた。
「危ないよカノンたん! でも‥‥‥それはキミの愛だね!?」
「何が愛だ! というか誰がカノンたんだ!」
必殺の一撃のつもりだった。ある意味デビルかもしれない依頼人。神聖騎士として邪は滅するべきである。
「そんなつれない事言って! キミはアレだ、クーデレ! クーデレメイドだ! 素直になれないんだろう!?」
「訳の判らない事言うなー!」
唸る聖閃。鍛え抜いてきた技なのに何故か当たらない。
「あ、あの。やっぱりアルバイトは‥‥‥」
店長が変態なら働くのに不安が生まれまくるのは当然だ。
「待て! 給料は高いんだ!」
そんなアルバイトの面々をカノンは必死に止めた。
そして訪れた開店初日。カノンのおかげで美人ばかりの喫茶店、として評判の立った柳亭の前にそれなりに客は並んでいる。
開店時間。一人目のご主人様が帰宅した。
「お帰りなさいませご主人様」
こうして柳亭京都支店の経営がスタートした。