●リプレイ本文
「全軍突撃! 江戸城を攻め落とせ!」
決戦の場である江戸城の戦いが熾烈を極める中、八人の冒険者は城から遠く、離れた市街で各々の決戦を繰り広げていた。
市街と言えば聞こえはいいが長屋の密集地。場所柄、侍や騎士等の長物を得手とする戦士達は苦戦を強いられている。おまけに狭いせいか避けるのも難しい。
走る剣閃。
刹那の見切り。牧杜理緒(eb5532)は浪人の放つ必殺の突きを頭一つずらし避けた。
疾走、照準、拳撃。龍叱爪が浪人を穿つ。
「どちらの陣営につくかは自由だけど、市民に手を出すのは最悪よ!」
天翔ける龍の爪が道を道を外れた浪人を屠る。今の今まで思うままに殺戮と破壊活動を行っていた浪人達は倒された仲間を見て逡巡した。
強敵であるが数で押せばどうなるという訳でもない‥‥‥一人の浪人は一歩進み出て問うた。
「お前、大方源徳に雇われた冒険者だろうが俺達と手を組まねえか? この局面、落ち目の源徳より伊達に付いた方がいいぜ?」
彼は城を促した。この時には既に大局は決していた。大部分が占領され伊達の旗が立っている。
理緒は下卑た表情の浪人達を軽蔑しきった瞳で見つめた。江戸城で戦った伊達武士の言葉ならともかく、民を斬った浪人が我が事のように言う様は醜悪だ。
「かける言葉も聞く耳もないわ。逝きなさい」
幾人かの浪人の刀には赤い血糊が滴っている。既に‥‥‥犠牲者となった市民がいるのだろう。
「はっ。そうかよ。いい女だがしょうがねぇなぁ!」
浪人達はそれぞれの得物を構え突撃。理緒は一瞬どう動くべきか迷ったが――
「従属せし者よ、主を裏切りその動きを縛れ」
朗々と、月の詩が響く。
「シャドウバインディング!」
影が先頭の浪人を拘束する。御門魔諭羅(eb1915)のシャドウバインディングだ。長屋独特の狭い環境のおかげで後続の浪人達を押し止める。
駆け抜ける銀の疾風。間隙を縫ってセピア・オーレリィ(eb3797)の十手が浪人達を打ち据えた。
そして漆黒の刃、忍者の陰守森写歩朗(eb7208)の魔獣の短剣が場に残りシャドウバインディングとセピアから逃れられた浪人の命を刈り取る。伝説の魔獣の心臓を切り裂いたとされる青く黒い短剣。人の身を断つ事は造作もない。
「ありがと。助かったわ」
ひとまずこの場を制圧し窮地を脱した理緒は仲間の冒険者達に礼を述べた。遅れて残りの仲間達が追いついてくる。
道中、幾人か犠牲になった市民を見て彼女は激昂した。浪人達を見つけ、速攻。助けられた結果になってしまったけれど。
「気にしないで。気持ちも判らないでもないから」
銀髪の戦乙女は苦笑した。十手を弄んで余裕を見せているものの、本来最も得意としている槍を使えず落ち着かないのだろうか。
一同揃った所で道中、屋根上やフライングブルームネクストで空から市街の状況を確認していた森写歩朗はその旨を仲間達に伝える。江戸から逃げ出そうとする市民の一部が浪人達に襲われている。冒険者達はそれぞれ別れて挟撃を図る事にした。
「皆さん、浪人達をこの地点で殲滅します。追い込み班の方に無理をお願いするようですがお頼みします」
地図を片手に大宗院真莉(ea5979)は言った。
良家の出のような気品を持つ、仕草の一つ一つの上品な彼女はただ立っているだけでも美しい。紅絹の装束に包まれたその肢体は香り立つ色気を隠す所かむしろ強調するようで、若い娘では持ち得ない色気をふんだんに醸し出す『大人の女』だ。実際人妻で一児の母である。
「市民の方は出来うる限り救出します。見付け次第随伴、または避難経路を教えるという事で」
既に一時避難令が出され、江戸は大混乱の極致にある。随伴し護衛が一番望ましいがそんな余裕はない。一児の母である前に一人の志士。学び身に付けた兵法は彼女を策士に変えていた。
「俺は定点待機班で頑張ります。大宗院さんの魔法の前の露払いをしましょう」
伊達和正(ea2388)が申し出る。それなりに修羅場を潜ってきた真莉であるものの、剣より魔法の方が得意。和正は剣の腕に長けている。
「んな事どうでもいいんだけどよ。不逞浪士は一首いくらなんだ? 見逃して報酬が減ったら泣いちまうからな」
まるで場の空気を読んでないような天山万齢(eb1540)が飄々と言った。睨まれたり軽蔑の眼で見られたりで万齢はばつが悪そうに笑った。
「オレは育ちが悪くてね。お上品には戦えねェから遊撃に回らせてもらうよ」
各々が即興の作戦の下に動く前、陰陽師の魔諭羅がゲン担ぎに占いをする。結果は‥
「‥‥‥占いと言う物は、あくまでもその時点での可能性の一つを示すものですわ。皆様、精一杯努力しましょう」
幸先不安な台詞だ。
戦場の江戸。ある者は逃げ惑いある者は戦い、城では最後の攻防が行われている中、市街には浪人達に立ち向かう斑淵花子(eb5228)の姿があった。長屋が密集しあう狭い中、数と刀の長さで行動を制限されている浪人相手に彼女は小太刀一本で上手く立ち回っていた。
「おたくらのような外道に今日を生きる資格は無いのでぃぃぃぃぃぃす!!!」
疾走する河童戦士。魔力を帯びた片刃反身の刀剣、微塵の刃が敵を討つ。
「ふははははー! 裏で誰が何を企んでいるのか、等々の大局だか背景だかを考えるのは他の人にお任せなのでーす!」
「おのれぇぇぇ!」
生き残った浪人達が刀を振り下ろす。その刹那、
「見えた!」
走る電撃。
鍛え抜かれた直感と心眼はちまきにより高められた集中力が一寸先の未来を見せたかのように刀の軌道を見切る。
そしてそれを実行に移せる達人の域の回避技。
花子、中空。黄色の瞳がぎらりと光る。
「ひ〜さつ。河童、微塵切り!」
きらめく刃。浪人の首を斬り飛ばす。
――最初は、彼ら、浪人達にとって楽な仕事だったのだろう。
伊達の者からゲリラ活動を依頼され、恨みを持つ源徳の街に鬱憤を晴らし、思い思い暴れる事で報酬を得る事が出来る。しかも働きによって仕官も可能だ。
なのに、どこで間違った? 既に仲間の浪人は倒されている。しかも自分を倒した相手が名のある将や剣豪ならともかく名も知らぬ冒険者――らしい。
冒険者は豪腕無双。数多の修羅場と経験を潜り抜けてきている彼らは例え無名だろうと一騎当千の実力を持つ。こんな強敵連中と戦うハメになったのは何の因果か。
『ゴーレーム!』
しかもすぐ側には二体のゴーレムを率いて唄う魔諭羅。
「月影の調べよ、彼の者を眠りへと誘え‥‥‥」
スリープの魔法が眠りへ誘う。そしてそれを、
『ゴーレーム!』
問答無用で殴り飛ばすスモールアイアンゴーレム。十文字分しか命令を与えられない事もあるだろうが、結構えげつない。殴られた浪人も凄い事になっている。
斬っては殴って斬っては殴って、おかげでこの場所における市民の避難は順調に進んでいた。
「血の気が多くて覇を競うのはまあ仕方ないことなのかもしれないけれど。覇なんてどうでもいい人を巻き込むのはいい加減やめた方がいいんじゃないかしら」
浪人達を追う傍らセピアは呟いた。全身には返り血。激戦を潜り抜けたのが一目で判る。
逃げる浪人の一人が振り向いて斬りかかろうと刀を振り上げる。しかしそこにホーリーフィールドの結界。刀の進入を妨げセピアの十手が浪人の頭を叩き割る。
森写歩朗はどこぞから調達した麻痺毒を塗った魔獣の短剣で斬りつける。
そしてその直後に回避を繰り返す。それは敵の霍乱となっていた。
「民間人は大宗院殿達が避難させている‥‥‥浪人の誘導に専念出来るか?」
追い込む中明後日の方向へ行かないように、時には側面からの攻撃。そして撤退。予定のポイントへ進んでいた。
月に忍びが踊る。
地に下りようとして、浪人達が斬りかかって来た。避けられず、印を切る。
「‥‥‥微塵隠れの術!」
森写歩朗を中心に爆発。ダメージを与えつつ場を駆ける。
そこを狙い、万齢の小柄が浪人を貫いた。明王彫の剣で刀を受ける。
この男も、結構血に塗れていた。
「ま、なんだ。ついた旗が悪かったと思ってあきらめるんだな」
まるで獲物を前にした狩人のような――命を奪う事に躊躇いのない笑み。楽しんでいるようにも見える。
「じょ、冗談じゃねえ! こんなの聞いてねえよ!」
「逃げんじゃねェ!おれの小遣いが減っちまうだろォ!」
追走する万齢。
追いつつきびすを返し斬りかかろうとする浪人を打ち倒す冒険者一行。追っ手を倒そうと迎え撃ち、逆に数を減らされていった浪人達。
予定のポイントに辿り着き‥‥‥両の手で数えられる程減っていた。
「皆様。こちらは戦場になりますので避難していただけないでしょうか」
睨む前からはこちらに向かってくる浪人達。その後ろには判れた仲間。どうやら彼らも何とか無事のようだった。
下がる市民達を眼に真莉は和正に目配せする。
闘気の力がこの身に宿る。
「オーラショット!」
狙い定めたオーラの弾丸が浪人を撃つ。残りの浪人達は前も後ろも逃げる事もあたわずただ前を突き進もうと刀を振り上げる。
冷気が真莉より放たれる。
「あなた方も武士を志した者であるならば、恥を知りなさい!」
冷気の暴風。
「アイスブリザードッ!」
狭い路地が凍結する。
浪人達は動きを封じられ背後の冒険者達に次々に制圧される。その中の、たった一人免れた浪人が狂気さながら逃げ遅れた市民に斬りかかろうとした。
「いい加減に――しなさい!」
アイスコフィン! 氷の棺が浪人を封印する!
そして、
「うおりゃぁぁぁぁ!」
理緒がセピアと連携し浪人達を制圧した。
「城が‥‥‥落ちましたか」
江戸城の天守が制圧され伊達の旗がひしめく江戸城。同じ伊達姓を名乗る和正は複雑な心境で江戸城を見上げていた。
怪我をした市民の手当てや乱れに乱れた場を掃除をしてる冒険者達。それぞれの、思いを抱きながら動いていた。
「お互いに助け合って治療して下さい。薬を置いておきましたので」
どこぞで調達した薬を差し出す森写歩朗。理緒はと言えば‥‥‥
「あなたはそれが仕事なんでしょうけど、許せないわ」
見つけた伊達の間者に龍の爪を撃ち振り上げた。