●リプレイ本文
――どんな事にしろ、事の発端は割と些細なものである。
色々な過程の後、彼の『作品』は確かに完成を迎えた。
「気のせいかの。最近死人絡みの依頼が多いような気がするんじゃが」
目的の村へ向かう傍ら、磯城弥魁厳(eb5249)は思い出したように呟いた。
「そうかい? 俺は久しぶりに受ける仕事が死人憑きまみれの村の奪還とはね。まぁ、死人憑きを追い払えばいいんだし、そこら辺は何とかするさ」
どこをどうするかなんてまだ考えてはないものの、とりあえず鷹城空魔(ea0276)は適当に相槌を打った。
現場は流動的だ。前もって聞いている情報だけでは行動の判断はしかねる以上、その場での状況判断も必要になってくる。それにしても忍者刀に小太刀に胴丸鎧。忍者にしては重装備な男だ。
「依頼主様によると成功の暁には村を荼毘にふすそうです。供養にお坊様を派遣なされるそうですし、亡くなられた方の為にも、必ず依頼を成功させましょう」
前もって依頼人に話しを聞いてきたヨシュア・ウリュウ(eb0272)は馬の手綱を握り返す。馬上から見下ろすように言ってくるのは気に入らないが、あいにくと空魔と弥魁厳は馬を持っていない。それ以前にナイトは馬に乗ってなんぼの職業だし、この構図はある意味間違ってはいない。
「しかし、だ。今回の目標の宝玉はいったい何なんだ? どうしてそんなものがあるか知らないが、とりあえず破壊するか」
レオニード・ケレンスキー(eb3961)は思考を張り巡らせるが、死者に関係する事柄に関わった事はないので検討もつかない。いつかの狂兵士とはいささか事情が違う。
「レオニード、お前の言う通りだ。生者を退けて、死者が横行するとはタチが悪すぎる」
手綱を引っ張り木の下(通常馬)を止めるのは柚衛秋人(eb5106)。地面に突き出た岩を避ける。
「ああ。アンデッドの群れが出たとなれば放ってはおけない」
京都での黄泉人の例もある。死人憑きと侮っていては後々脅威になる。その為の戦力もあるにはあるのだが‥‥‥今の状態では戦力と判断するのは難しい。
「うむ。理由の如何を問うより、目前の脅威をどうするかを考えた方が‥‥‥どうしたのじゃ」
このメンツの中で年長者(暦年齢)として締めくくろうとした魁厳。だが頭の上に輝く皿に全身を彩る緑の肌。そして唸る水かき。
失礼な話しだが、魔物連中に混じっていてもあまり違和感なさそうな気がする。
相談事や占ってもらおうとする者は大抵心中決まっていて、後一歩踏み出そうとする勇気がないだけである。そこで言って欲しそうな言葉を選んで、背中を後押しする‥‥‥そんな感じだ。後はそれっぽい格好すれば箔も説得力も付くし、陰陽師の宿奈芳純(eb5475)にとっては占師カウンセラーはお手の物だ。
トドメとばかりにレオニードの口車じみた言い回しでカウンセリングは上手くいっていた。さすが貴族万能スキルに長けているだけはある。どうでもいいが、聞く限り詐欺師じみているのは気のせいだろうか? いや、貴族なんて生き物はそんな話術で世の女性をだまくらかしているし似たようなものか。
「レオニードさんの言う通りだ! 一緒に酒呑んだり飯喰った仲間の仇だろ、やられっぱなしでいいのかよ!」
アトゥイチカプ(eb5093)は大声を張り上げる。口八丁手八丁なやり方も悪くはないが、こういった直球な説得も効果がある。仲間の仇‥‥‥。この言葉が彼ら足軽達の心を揺さぶった。
「し、しかしよう。もし死んだ仲間が死人憑きみたいになってたらどうするんだ。俺たち、さすがに戦いたくなんか‥‥‥」
一人の足軽がおずおずと申し出た。
腹は決まっている。だが、不安と刷り込まれた恐怖はそうそう拭えない。
「そうなれば私達が相手をしましょう。さすがに貴方方がかつてのお仲間と戦えるとは思えません」
嫌な言い方だ。
「ですが、だからこそ自らの手で打つこそが最大の供養になるのではないでしょうか。アンデットとして死して尚恥を晒すより、いっそ安らかに‥‥‥。如何なさいますか?」
胸が小さいルナ・フィリース(ea2139)はあくまで強要しない。決めるのは足軽達だ。
芳純は足軽達の訴えを否定しない。カウンセリングだけではないが相談事の基本だ。聞き役に徹し、打開策・妥協案を提案する。そして他の仲間が盛り上げていく。
ルナの言葉が決め手になった。
さすがに胸が小さいだけの事はある。
昼前、村についた冒険者達は手筈通り迂回しながら進んでいた。
正面から乗り込んでも死人憑き達とは戦闘になるものの、全員で迂回してもあまり意味がない気がする。
とはいえ戦いを避けられるなら避けるべきだ。二人の忍者とアトゥイチカプを先頭に、一向は進んでいた。
「東より二匹の不死者。この距離なら追いつかれる事もなかろうが、念の為急ごうぞ」
蝙蝠の術と惑いのしゃれこうべを使い分けながら弥魁厳は辺りを警戒していた。隠れて進んでいるものの数が数だ。つい先刻は釣瓶落としに奇襲されて敏感になっている。
「そう気を張り詰めなさるな弥魁厳殿。いざとなれば私の鳴弦の弓で不死者達の動きを押さえ込みましょう」
こんな真昼では芳純のやる事は限られている。いざとなれば死人憑きを殴り倒すだけだが、直接戦闘は自分の専門外だ。
惑いのしゃれこうべが歯を鳴らす。
「頭上注意、だな」
秋人が合図を送り、後方を歩いていた足軽達が身を隠す。前もって提案した通り足軽達はそれぞれの鎧に細工をしていた。おかげで行軍独特の派手な金属音も鳴らずに結構な位置に潜り込めた。
「しかし本当に死人憑きが多いですね。謎なのですが宝玉、これは死人憑きを引寄せる? 魔物を引き寄せる? まさか死人憑きを作るなんてことはないわよね?」
魁厳はああ言った手前、目的を優先しようとするものの気にはなる。ヨシュアの言に耳を傾けた。
「今更考えても仕方がない。やれる事をやる。それだけだ」
先行の三人の合図を受けて、秋人を初め一向は足を止めた。
「日のあるうちに決めたいものだな。このまま突っ込むか」
村長宅が見える位置。この先身を隠す場所がない。
「このままやり過ごした方がいいんじゃないか? もう少し数が少なくならないと包囲されるかもしれない」
アトゥイチカプは見える範囲で死人憑き達の数を確認する。通りまでの木々や屋根に釣瓶落としの姿も確認できて、辿り付くまでに包囲殲滅される可能性もない訳でもない。
今が好機かもしれない。
「いいか、確かにこれから戦うのは俺達の二倍以上の数相手だ。しかし、こちらには歴戦の冒険者がいる。中には江戸に知れ渡る名声の者もいるではないか。さらに、不死者に有効な闘気の魔法もある。何も恐れることはないだろう!」
レオニードは日本刀を抜いた。
「行くぞ! 突撃!」
貴族とはお偉いさんだ。レオニード本人そういう家柄なのか知らないが、割と堂に入った振る舞いだ。
レオニードを先頭にそれぞれ陣形を組んだ。
走る剣閃。駆ける槍。
オーラパワーの宿ったそれぞれの得物は、次々と死人憑きを打ち倒していった。
ヨシュアは大きく槍を振りかぶる。
「邪魔っ!」
強烈なスマッシュの一撃が瓶落としを打ち砕く。さすが音に名高い魔槍レッドブランチ。柄に書き付けられた『一撃必殺』の名の下に、強力な威力を誇る。
「壁班後よろしくっ! 俺は宝玉奪ってぶっ壊す! それぐらいしか出来ねぇしね〜」
唸る忍者技。
持ち前の鍵開けスキルは見事に施錠に成功するが、忍者の技は泥棒に流用できるものが多い。見事な手際だ。
続いて秋人とヨシュアが入ったのを見届けると、ルナがかの僧兵のように立ち塞がった。
「この先へは行かせません! この村と村人、そしてここを訪れ命を落した方の為にも‥‥‥!」
ここでカットイン! ‥‥‥が入るような気がする。
「吹っ飛んでください! ソードボンバーッ!!」
衝撃波が死人憑き達を薙ぎ倒す。
「なに、そう易々とやられはせんさ」
レオニードが敵を引き付ける。攻撃より防御を重視するその戦法。死人憑き達を引き付けこれより先へ進ませない。その隙を突いて足軽達が斬りかかっていく。
その頭上から必殺の一撃を狙う瓶落としに、宿奈が鳴弦の弓をかき鳴らす。瓶落としは動きを押さえ込まれ魁厳とアトゥイチカプがそれぞれの得物で叩き落としていく。
そして、空魔の忍者刀が宝玉を叩き割った。
「宗派は違うかもしれんが、それは許せよ」
村人達と前の作戦で死んでいった兵を弔い、秋人は御神酒トノトを数滴垂らす。豪気に一本丸ごとくれてやってもいいが、こういうのは気持ちで十分だ。
「しかし、解せませぬな。なぜこんな宝玉がこの村にあったのでしょうか?元からあったのが何かのはずみで封印が解かれたのか。或いは何者かが宝物と称して村長殿を騙してこの村に置かせたか‥‥‥」
芳純は村を調べたものの、これといって収穫はなかった。今となっては推測はいくらでも出きる。
「まあ、無事終わったんだしさ。江戸に帰って旨い飯でもたらふく食おうぜ!」
空魔の言う通りもう終わった事だ。後はこの地の管理者の依頼人に任せればいい。
どこか一つ腑に落ちないまま、冒険者達は一路江戸に帰っていった。
某所にて
「よおあんた。金持ってそうだな。よかったらこれ買わねえか? こいつはな、何か強い魔法の力を持った宝玉で、何と死人憑きだらけの屋形から手に入れたんだ。命賭けだったぜ‥‥‥。今なら少しだけ安くしておいてやるよ。あ? それっぽっちか? そんなはした金で買える程安かねえぜ。場所が場所だからもっと価値のある代物に違いねえよ。他にも買いたいって言う御仁もいるしな‥‥‥。へへっ、判ればいいんだよ判れば。いいぜ。その値段であんたに譲ってやるぜ‥‥‥」