解き放て妄想力
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月14日〜06月19日
リプレイ公開日:2007年06月20日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
現在、独眼流の名で知られる伊達政宗が治めるこの地は、戦後の事後処理で何かと忙しいがそれなりにかつての活気を取り戻していた。
立ち寄る旅人や商人は、源徳時代とは勝手が違ったりそもそも伊達家に支配権が移った事も知らない者もいるがそれなりに日々を過ごしていた。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
伊達軍士官用屋敷。江戸占拠により徴収されたこの屋敷は、数人の士官達とその配下である足軽達の宿舎として使われている。
元々の持ち主が武術を好み敷地内に立派な道場を持つその屋敷は、宿を借りている彼女の部隊にとって丁度いい訓練の場になっていた。
「あいたたた‥‥‥。ねーちゃん少しは手加減してくれても‥‥‥」
自分に与えられた部屋に戻る途中、道着姿の少年は不満げに呟いた。
歳若い少年である。大きな瞳と小さな唇が、幼い容貌を更に引き立てる。全体的に幼い感じばかりが目立つ元服前の少年。名は立川正春。奥州出身の侍だ。
彼はしたたかに打ち据えられた身体を擦り廊下を歩く。
「いくら竹刀だからって当たると痛いのに、どうして防具を付けさせてくれないのかな」
青痣になっている所も多い。彼女曰く「防具を付けていると安心感から本気が出ない」との事で防具無しで訓練をしている。まあ実戦では当たればほぼ即死だし、鎧や具足を身に付けないで戦う状況もある。その為の訓練、という意味合いにとれるものの、思考も武士としての心構えもまだ子供な彼にはやりすぎだとしか思えない。
不満をぶちぶちこぼしている内に正春は自室の前へ辿り着いた。襖を開ける。中に入り朝からそのままにしておいた布団の中に潜り込んだ。
「明日も早朝から訓練だよ。嫌だなぁ‥‥‥」
布団を頭の上に持ってくる。ごろごろ丸まる。
「‥‥‥ねーちゃん、俺の事嫌いになったのかなぁ。昔はあんなに優しかったのに‥‥‥」
ぶちぶちと、ぶちぶちと愚痴りまくる。元服前とはいえいっぱしの男にしてはあまりに女々しすぎる。
連打乱打と叩かれた頭が熱を帯びたように痛む。ふいに‥‥‥訓練時の光景が思いだされる。
眼の前に竹刀を構えた彼女。真面目が服を着たような彼女を現したような正眼の構えは、まるで剣術の教科書のように一分の隙もない。それを証明するように彼女の剣術は、それこそ基本中の基本にのっとり、音に聞こえた柳生某や各流派の達人とは違って華のように目立って映えるものはないが、基本に忠実だからこそ繰り出される技は確実に勝利を手にする事が出来る。
正春はツバメ返し等必殺技っぽいのに憧れて彼女のようなやり方は敬遠しがちだ。口うるさく言ってくる姉に正直うっとうしささえ感じる事もある。
「でも、強いからなぁ‥‥‥」
果敢に、一気呵成に竹刀を振るう姿を思い出す。
正直に綺麗だと思う。流れる川のような黒髪は手に触れてみたいと思う衝動に駆られるし、かつて自分に優しく微笑みかけてくれたその瞳は、刃のように鋭い黒曜石のようだ。小さな唇は艶やかで、紡がれる言葉はまるで呪文のよう。おまけにスタイルもよくて出る所は出て引っ込む所は引っ込んで、ある一部は更に育ってきたりして‥‥‥
「とても訓練に集中できなかったなぁ‥‥‥」
いい感じに湯だった頭は思考回路を歪曲させる。というか彼のような年頃の少年の場合どんな事でも大抵そっちに向かうものだけど。
「袴から覗けた太腿、綺麗だったなぁ」
基本的にジャパン人は和服で下着を付けないものだ。褌とか腰巻とか突っ込む所があるがそんな事はどうでもいい。
「もっと見たいなぁ。むしろ触って思う存分撫でたいなぁ‥‥‥」
‥‥‥女性にとっては不快極まりないだろうが、年頃の男の子なんてそんなものである。
「揺れてたなぁ。ぷるんぷるん揺れてたなぁ‥‥‥」
正面に向かい合っていた正春は思う存分彼女の揺れっぷりを堪能できた。女性を女性たらしめる二つの双球。それもビッグで知れた西洋人とタメ貼れる位に育ちに育ったシロモノだ。しかも未だに成長が止まらないらしい。サラシ巻こうと揺れて仕方がない。
「触りたいなぁ‥‥‥。というか思いつく限り色々したなぁ‥‥‥」
‥‥‥重ね重ね申し訳ないが、年頃の男(以下略
そこで、彼の脳裏に一つの考えというか妄想が浮かび上がる。
もし、自分が剣術で勝ったらどうなるだろう?
竹刀を何合打ち合おうとも彼女の竹刀は自分に届かない。自分が竹刀を振るう旅、劣勢に追いやられる彼女。焦りの色が浮かび、一瞬の判断の遅れが彼女の敗北を決定させる。
手から離れる竹刀。彼女は今までの攻防で道着が乱れに乱れる汗で濡れ、息も絶え絶えで淫靡さを感じる。
彼女は自分を認めてくれてそれで‥‥‥
『正春なら、いいぞ‥‥‥?』
そして‥‥‥、そして‥‥‥
「はぁぁぁぁん! ダメだよぉぉぉ! はしたないよぉぉぉ!!!」
悶えまくる青少年。突っ込み所ありすぎるが思春期の男の子なんてこんなものである。
彼の部屋に向かう傍ら、鈴山美晴は悩んでいた。
流れる川のような黒髪。黒曜石のような瞳は今はどこか不安げで、小さな唇もどこか震えている。
伊達軍の新兵中心に編成された部隊である。美晴はその隊長を勤めている。
目下の悩みは幼馴染みにして弟分の事だ。訓練でしたたかに打ち据えて、どこか身体を悪くしてないだろうか。
加減でもしてやった方がよかっただろうか。いや、世の中ひょんな事で死ぬ事なんてざらだ。むしろ厳しいぐらいが本人の為になる。
だがしかし‥‥‥
「嫌われてないかな‥‥‥」
そんな事を思ってしまうきょぬーな上司。大きな胸がため息でこれまた大きく上下する。
謝ったほうがいいだろうか? ダメだ。これだと自分が意地悪したみたいになる。だったら、一応上官だし上官として幼馴染みとして見舞いぐらいに行こう。それなら問題はあるまい。
そうこうして部屋の前に着き襖を一寸開けて、
「はぁぁぁぁん! ダメだよぉぉぉ! はしたないよぉぉぉ!!!」
悶えまくる青少年。無言で襖を閉じた。
「――で、急に休暇を与えられた訳だけど、どうしよう?」
江戸の街を歩く中、正春は同僚に尋ねた。
「どうしようって言われてもな。突然だったし」
早朝。正春は美晴に休暇を言い渡された。彼は突然の事だったので戸惑ったが、美晴は訓練を厳しくしすぎたと思い休暇を与えたのだ。ついでにギルドによって、冒険者雇って江戸観光でもしてもうとか。
「そうだ。折角ならメイド喫茶にいかねえ?」
もう一人の同僚が言う。
「メイド喫茶? そういえばネコミミメイドがいるとか‥‥‥」
そこで三人同時にある妄想が浮かぶ。
夜の西洋屋敷。部屋には自分とネコミミメイドさんしかいなくて、ベッドには服が割と凄い事になっているネコミミメイドさんが‥‥‥
『ふにゃぁ〜。ご主人様の、えっち(はぁと)』
熱っぽい視線で見上げて‥‥‥
「うぉぉぉぉ!!!」
「ネコミミメイドさん最ッ高ォォォォ!!!」
まあ思春期の男の子なんてこんなものである。
●リプレイ本文
時は戦国世は乱世。日に数千の命が消え去るこの時代。だけどまあ、そういうのに無縁な連中もいるものである。
「あぁぁぁぁぁ!!! 世界がピンク色にぃぃぃぃぃぃ!!!」
頭を抱えて久遠院雪夜(ea0563)は轟き叫ぶ。
彼らが見る世界はピンク色。何もかもがアレに見えて聞こえちゃう思春期な少年達は、その魂を萌やし――もとい、燃やし尽くそうとしていた。
「えっちぃのは‥‥‥えっちぃのはイケナイと思います!」
その豊満で、たゆんたゆんした二つの果実を備える彼女は、趣向にもよるがそれで魂を燃やす人の魂を更に燃やさしてしまった。
「巫女さん最ッ高ーーー!!!」
「滝に打たれて濡れた巫女服が透けて‥‥‥俺は、俺はもう!」
何をする気だ伊達の新兵。
ここは江戸にある某神社。その滝で(何故街中にあるのかというツッコミは別として)彼らは身体からオーラの如く解き放たれる妄想力によって熱が発せられ水蒸気になっている様な気がする。ねちっこく悶々とした思春期の少年特有のソレは、間違っている感もあるがある意味真っ直ぐだ。
「滝に打たれて煩悩退散のつもりが、油を注ぐ結果になるなんて‥‥‥」
力なく滝に討たれる雪夜。というか原因は彼女にあるのだが。
豊かな肢体に整った美貌。そして何よりも眼を引くのはたゆんたゆんした双球であってそれを強調する巫女装束だ。しかも、渋る三人を促す為に自分も滝に打たれる事にして、それが三人の妄想力に火を付けたのだ。
水を吸って身体に張り付き、豊満なお胸さまがくっきりとこれでまと強調されて、更に濡れる美女は通常の三倍の勢いで艶やかで‥‥‥水も滴るいい女、というかオトコゴコロくすぐられて辛抱タマランですよ、な心境の少年達である。
そんな三人を見てリフィーティア・レリス(ea4927)は呟いた。
「何か良からぬことを考えてそうなのは気のせいじゃなかったな‥‥‥」
「ええ。思春期真っ盛りよねぇ」
呆れるリフィーティアに楽しそうに笑う御陰桜(eb4757)。桜に至ってはからかって遊ぶのが目的で、伊達の新兵達を抑えようとする所か次の行動を楽しみにしているようだ。
思春期の少年は概ね心のブレーキが踏めないものである。
常に暴走の危機に見舞われているのだ(女の子が)。
「他の巫女さん達もステキだ!」
「くそっ! 誰から攻略すればいいんだ!」
脳内ハーレム系萌え書物状態。修行中であろう神社の巫女さん達にねっとりじっとり舐め回す様に凝視する瞳は鬼のように血走っている。
そしてついに我慢出来なくなって、
「巫女さぁ〜ん!」
飛びつきかかる。だがしかし――
「教育的指導ドロップキィーーーック!!!」
岩場を疾走跳躍し、十六文なあの人ばりに蹴り飛ばす。知る人ぞ知る代書人、群雲龍之介(ea0988)だ。
「ツッコミ所の多い連中というか迷惑かけ過ぎだ! 頭の中で思うだけならともかく、他人様に害を為した時点で十分迷惑だ!」
普通に正論だ。だけど、
「黙れ! 迸る妄想を実現してこそ漢なんだよ!」
「妄想こそ男の原動力! 邪魔するなら張り倒す!」
歳若いという事はこんな事も平気で言えちゃう訳で、
「やかましい! お前らのような奴等がいるから犯罪がなくならんのだ!」
鬼のようにブチ切れた龍之介が西洋な体術をぶちかます。
「本当、楽しそうねぇ」
「‥‥‥そうか?」
桜とリフィーティアはそんな彼らを見て呟いた。
「――以上が交通等の要衝でした。皆さん、如何でしたか?」
そもそも依頼のメインである戦略的要所と思われるポイントをいくつか紹介した伊勢誠一(eb9659)。彼は策士を称し、兵法書を良く読む事からその辺り得意としている分野なのだろう。彼ら依頼人達に教えていた。
「私の活動拠点は京都ですが、江戸の要所を確認しておくというのも確かに有意義ですね‥‥‥」
と、感想を述べてきたのは、備前の銘を持つ大長槍を携える御神楽澄華(ea6526)。京都を活動の中心としている志士である。
彼女も彼女で、服装の影響もあるだろうがステキなお胸さまの持ち主だ。それを強調した服装である。
色々珍しいのだろう。あっちを見たりこっちを見たりしている澄華は、頬を染めつつ咳払いをした。
「申し訳ありません、案内の依頼を引き受けたのに自分の都合で話しては失礼ですね。ご容赦の程を」
深々と頭を垂れる澄華。その一つ一つの仕草に優雅と気品が見受けられ、育ちの良さを伺える。しかも何気にジャパン最強と謡われる程の猛者だ。相当な美人だというのに見た目はあてにならないものだ。
「何か質問はありますか?」
誠一は笑顔で澄華に返すと、伊達の三人に問う。だけど彼らは、
「んな事はどうでもいい! それよりメイド喫茶だよ!」
口調も三人微妙に変わるものの、ほぼ同時で言い切った。
「噂に聞くネコミミメイドさん! 楽しみで楽しみで仕方ないんだよ!」
「色んなサービスしてくれんだろ? もう普段口に出来ないような事してもらうんだよ!」
「風俗ではないのですが‥‥‥。それより要所の確認は?」
「んなもん隊長にはどうとでも報告できる! それよりメイドさん!」
いい感じにキている眼だ。依頼でなければ関わりたくない類のものである。彼は助けを求めるようにセピア・オーレリィ(eb3797)へ視線を向けるが‥‥‥
「元服前ぐらいの歳なら、そうなのも仕方がないと思うわ♪」
エルフの神聖騎士さまは笑顔でのたまった。
「判ってるじゃないかエルフさん!」
「さすが大きなお胸さまの人が言う事は違うな!」
「あら。ありがと」
思いっきりセクハラだ。セピアは大人の女の余裕かさらっと受け流す。白髪白肌の、現実味が薄れている薄幸の美女のような外観である。
「いくぜメイド喫茶!」
今まさに軍団を率いらんとする軍団長の如く冒険者達を促す。
こういう所を見ると、侍なんだなぁと思うものだ。
曰く、そこは夢の国らしい。
曰く、そこはエルドラドらしい。
曰く、そこはあまねく全ての男の希望と浪漫の詰まった世界らしい。
視界いっぱいに映る店員の女性達は、メイド服という西洋の使用人の衣服を身に纏い、訪れる者にご主人様、という魔法の言葉を投げかけて――
「‥‥‥ここは異世界か?」
真面目一筋でそっちの属性を持ち合わせていない龍之介は、眼の前の異界っぷりに顎が外れそうになった。
そう。男が何だかんだで懸想し、極めて少ない割合の職者しか味わえない女の子が奉仕している(この言い方もどうかと思うが)様を堪能出来るのだ。
「メイドさん最ッ高ーーー!!!」
「兵舎に来て添い寝してくれぇぇぇ!!!」
伊達兵の二人が悶え叫ぶ。ちなみに正春は桜によって別室に連れて行かれていた。
最近、自宅にメイドさんが来て添い寝してくれるサービスがあるらしい(お触り厳禁)。この国はどこに向かっているのだろう。
「僕も初めて来てみたけど、可愛い格好だね。僕も着て見たいなぁ」
それはそれとして、柳亭の店員のメイドさんを見て雪夜は呟いた。女の子の夢がぎゅーっ! と詰まったフリフリのメイド服。オトメゴコロがきゅきゅっとくすぐられちゃうのだ。
「しかし、賑やかな店ですね‥‥‥」
京都支店で手伝いした事もあって、店長のお牧により無理矢理仕事を手伝わされている澄華。当然メイド服である。しかもやたら胸が強調されたデザインで以下略。
「‥‥‥賑やかなのはあいつらが騒いでいるからだろ」
もう何もかも諦めきったようにため息を付くリフィーティア。例によって例の如くメイド服である。
殺人的に似合いすぎなメイド服なリフィーティアに新兵な彼は言った。
「よく似合ってるぜリフィたん!」
「そんなに突き放して‥‥‥アレか! 世に言うツンデレか!」
異様に爽やかな二人である。
「俺は女でもメイドでもツンデレでもねぇッ! つーか、たんって言うな!」
「デレ期はまだかいリフィたん!」
「サンレーザー!」
「アウチ!」
「メイドの愛で心が燃える!」
本当に幸せな二人だ。焼かれても至福の笑みで転がり回る。そんな彼らに白髪白肌、本場西洋人の彼女が助け興す。言うまでもなくメイド服だ。
「お坊ちゃま方、お怪我でもなされました?」
成人前のお客様にはお坊ちゃま。セピアはわざわざお胸さまの揺れを強調させる。そう‥‥‥今回、煩悩のままに暴走すると手痛いしっぺ返しが来ると思い知らせようと考えているのだ。
「怪我なんて治ったぜ!」
「そのステキなお胸さまのお蔭だよ! 揺れっぷりをしかkり両のマナコに焼き付けたぜ!」
「それはそれは」
こうもセクハラ発言されているのに凄い流しっぷりである。さすがは歴戦を潜り抜けた神聖騎士である?
「セピアたんもステキだぜ! そのカスタムメイド服、騎士みたいだ!」
柳亭では売り上げの向上の為、メイド服のカスタムが認められている。
全員が全員同じであれば面白みがないのもあるし、あるメイドは妹属性である妹は幼馴染み属性とか突っ込み所をあげればキリがない。
まあそんな事はどうでもいい。
ともかくセピアはメイド服の上にブレイブ・サーコートを羽織り聖槍を携える戦闘装束だ。
つまり、これはこういう事なのだろう‥‥‥。
表向きは白の教えの下に技を振るう神聖騎士。だがその実態は心身共に仕えてくれるメイドさんで、ピンチの時は身をもって守ってくれるのだ。そして日々が過ぎて絆が深まり‥‥‥
「セピアた〜ん!」
どこぞの怪盗三世ばりに飛び掛る。それを華麗に避けて澄華の背後に回りこむ。彼女に悪いと思いつつ‥‥‥
「胸、揉み心地良さそうね‥‥‥」
絡んで煽る。これで彼らが耐え切ればいいのだが。
「セピア様!? それに出雲も胸元でごそごそしないで‥‥‥!」
エレメンタルフェアリーがその豊満で夢のような果実で動き回る。悶える澄華を見て彼らは当然我慢できなくて、
「澄華た〜ん!」
やっぱり飛び掛ろうとした。だけど、
「たわけがぁ!」
疾風一陣叱声と、緑の影が二人を弾き飛ばす。
「何処を見ておる! 儂は此処だ、此処に居るぞ!」
残像すら残さない、天の道を行く人のように駆け抜けた、心を解き放つ陣風が一喝する。
「さっきから聞いておれば、メイドだのエロスだの、萌えのイロハも知らぬひよっこ共が囀るなッ!」
その時の彼は‥‥‥萌えという冥府魔道に生きる勇者達に後世語り継がれた‥‥‥らしい。
「‥‥‥伊勢、さん?」
雪夜が怪訝そうに伺う。
「伊勢ではないッ! 人呼んで、到萌不敗とは儂の事よぉっ!」
萌えに生き、萌えに殉ずる萌えマスター。それこそが、
「到萌不敗或いは、到萌先生とでも呼んでもらおう!」
心の扉を開放し、裏の魔人様を呼び出したどこぞの御仁みたいだ。
到萌先生は彼らに仰った。
「萌えは極めると同時に良識を守らなければならぬ。一般人を巻き込むでないわぁッ!」
正論に違いなかろうが、何か微妙に間違っているのは気のせいだろうか。そして、『到萌不敗』の名に相応しきダメ台‥‥‥もとい、言魂(ことだま)を轟き叫んだ。
「まずは古典的正統派を知らずんば何も始まらんわ! メイドとは(中略)なのだ!」
――それは、まさしく『到萌不敗』の二つ名に相応しいものだった。二人の新兵は感無量で、
「あんたの言う通りだ! 師匠と呼ばせてくれぇぇぇ!!!」
こうして新たな神話が生まれた。
「ふぅん? じゃあ正春ちゃんはその美晴ちゃんってコが好きなのね?」
誠一が魂の叫びを上げている中、桜は別室で正春と向かい合っていた。休憩時間なのだろうか。生のネコミミと尻尾を生やしたメイドさんは畳の上にネコっぽく丸まって寝ている。名前はねね子と言ったか――
「聞いた感じだと美晴ちゃんの方も満更でもなさそうだけど」
言葉巧みに色々聞き出された正春は桜を直視出来ずにあっちを向いたりこっちを向いたりしている。
――だめだ。その二つの鞠は凶器だよ!
前屈みになって胸元を強調して、桜はすっかりからかっている。
必死に意識をそらしたりしているのがいけなかったのだろう。話しをあまり聞いてなかった。
「多少強引にでもあぷろ〜ちを掛けないと幼馴染の関係のままよ?」
それはつまり襲えという事で、
「大丈夫、美晴ちゃんもきっと待ってるわ」
頭のスイッチがいい感じに入った。
後日、美晴にボコボコにされた正春が部屋の入り口に吊るされたのだが、それはまた、別のお話し。