心の萌えを解き放て

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月06日〜07月11日

リプレイ公開日:2007年07月15日

●オープニング

 華の都京都。
 神皇陛下お膝元のこの都市は、古くから遥か遠き国へと続く月道が確認され、それを確保する為に街は事細かく計画され、造られた。その為各地から月道を利用しようとする人達が集い、現在の京都情勢も相まってちょっとした混沌の様相を醸し出している。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――




 メイド喫茶柳亭京都支店。江戸に本店を構えるこの店は、店長であるお牧の柳亭全国チェーン計画の第一歩として開店した店である。
 頭に輝くは純白のホワイトブリム。黒の暗闇の如きワンピースに映える一輪の花のような白いエプロンドレス。このフリフリで女の子の夢がぎゅーっ! と詰まったメイド服は支店長である雄治の独断と偏見で選び抜かれた美女・美少女により、メイド服と女の子が生来身に付けている魅力幻惑効果を通常の三倍に引き上げる事に成功した。
 そんでもってそんな美の女神のようなメイドさん達が、背後に花畑を背負わんばかりの笑顔を自分に向けてくれてかしづいてくれるのだ。そしてご主人様、という魔法の言葉。どんな聖人君子で誠実な男だろうと魔の道に誘い込まんばかりの破壊力を有している。
 何というか、男のある種の歪んだ趣味というか性癖というか、そこら辺を増長させ暴走を誘発させそうな店である。
 だがそんな事はどうでもいい。
 オトコゴコロを刺激せんばかりのメイドサービスとか、それぞれの設定に基づいたメイドアクションで一歩間違えれば遊郭とかそこら辺の店に間違われそうなお店が人気が出ない訳がない(断定)。
 実際、江戸の本店で行き過ぎたメイドサービスで営業停止くらいかけた事もあったし遊郭からのイヤガラセも受けた。その上ジャパンでは珍しい西洋文化を取り入れた店である。何もかも間違っている気がするが、こんなキャッキャウフフでおむねがきゅきゅっ! なお店が繁盛しない筈がないのだ。むしろするのが当たり前。
 だけれども、メイド喫茶柳亭京都支店。ここに来て彼の店は経営危機に陥っていた。
「何故だッ! 男の夢と浪漫がこれでもかと積み込まれたこの店が、どうして人気が出ないんだッ!」
 支店長の雄治。朝の店先の掃除中に天に向かって吠え立てた。早朝の街中は昼中より人通りが少ないとはいえそれなりに人の姿が見受けられる。近くにいた人達は怪訝そうに彼を見つめた。
「どうして本店のようにいかないんだ。向こうではメイドさん達でハァハァしている客ばかりで鬼のように売り上げが上がっているのに‥‥‥。俺はメイド服を見るだけでご飯三杯は軽くイケるんだぞ? 何故だ?」
 何故も何も彼の方からして間違っている。いや、人の趣味はそれぞれだというし、江戸は自分の欲望に正直な人が多いのかもしれない‥‥‥それはそれでどうか思うけど。
「これはアレか? 華の都だからって一般市民も何気に気位高いのか? 貴族に至っては麻呂とかおじゃるだからな」
 確かに。そうかもしれない。
 華の都京都。偉大なる神皇のお膝元であるこの街は、ジャパンの象徴と言えるべき街だろう。そのおかげか貴族も侍も妙にプライドが高い者も見られるし、側近とか神皇に直接接する役職の者ならばその極みかもしれない。
 そしてそんな街に住んでいれば、例え侍や貴族でなかろうと多少なりとも誇りを持つのも考えられる。
 だから、内に眠る本能を呼び覚まさんとするメイド喫茶に抵抗を覚える‥‥‥のだろう。ひじょーに間違っている気がするのだけど、きっとそうに違いない。
「だったら‥‥‥。俺が背中を後押ししてやればいいんじゃねえか?」
 萌えという名の冥府魔道。気が付かない内に底なし沼にはまっているパターンもあれば興味はあるけど羞恥心その他で手を出せない、そういうパターンもある。
 大抵後者の方は同じ心境の者と共に進むか先任の進めでいつの間にか底まで突き進む。踏み入れるまではとても躊躇うものなのだが踏み入ってしまえば我先に突き進むものなのだ。
 ――そう。萌えとは荒んだ心を癒し明日への活力を漲らせるものにして甘い蜜のようなもの。一度味わってしまえば食い尽くすまで止められないエデンの林檎なのだ。
 ではそういう事で早速冒険者達に色々してもらおう。
 冒険者は古今東西の策に通じていると聞くしきっと自分に正直になれない同胞達の心の扉を開いてくれるに違い。その上何故か女性冒険者は美女・美少女率が極めて高い。是非彼女等にキャッキャウフフなメイド服を着て来店した同胞達に、その美貌を活かしたメイドアクションやメイドサービスをしてもらえば、理性の扉なんて速攻マッハで打ち破るに違いない。男冒険者は‥‥‥執事な恰好でもしてもらって女性客の相手をしてもらおう。
 まあ何はともあれ――


『Untie the Moe of the mind』


「全ては萌えの為に! 我が魂は萌えの為に!」
 早朝の京都の大通り。通行人達はまたか、と言うような不審そうな視線を雄治に向ける。
 この店が流行らないのはこれが原因の一つかもしれない。

●今回の参加者

 ea6065 逢莉笛 鈴那(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1795 拍手 阿義流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

藍 月花(ea8904)/ エンデール・ハディハディ(eb0207

●リプレイ本文

 メイド喫茶。要するに少し変った喫茶店の店員よね?
 要領を得ないがそういうものだろうとタカをくくっていた逢莉笛鈴那(ea6065)は、用意されたメイド服に袖を通して速攻で後悔するハメになった。
 ピンク色の、エースのみが着用を許された専用カラー。それは彼女が優れたエースメイドだという事の証明だ。何か微妙に間違っている気がするけどそういうものなのだ。
「メイドさぁぁぁぁん!!! 俺の愛を受け取ってぇぇぇぇ!!!」
 開店前。各々着替えた従業員達は掃除や料理の下準備に取り掛かっている。そんなネコの手も借りたい時間だというのに、
「あくりょーたいさーん!」
 走る剣閃悪滅と、仏剣不動明王が轟き唸る。
 邪を払い、人々を導く力があると言われる魔力を帯びた両刃の直刀。萌えという名の冥府魔道を突き進み、ある意味デビルと化したかもしれないメイド喫茶の支店長。名付けるなら萌えデビル? 何というかここまで自分に正直に生きられるって羨ましい。
「グッジョブ! 最高だよ鈴那たん! そのピンク色は俺を誘ってるんだねぇぇぇぇ!!!???」
「何を誘うって言うの! それ行けヴィオレ!」
「ゴーレーム!」
 唸る豪腕ブチ抜く床。ウッドゴーレムのヴィオレの拳が撃ち貫く。
「話しには聞いてたけど、ここまでとは思ってなかったわ! お仕置き部屋じゃなくてここで叩き潰す!」
 ヴィオレを伴い攻撃を仕掛ける鈴那。本気と書いてマジと読むぐらい殺る気全開だ。
 そんな修羅場めいているのに他のメイドさん達は気にも留めない。雄治の暴走っぷりはいつもの事だし、矛先が自分に向かないからって関わりにならないようしているのだ。まあ無理して関わる必要もあるまい。
「ふはははは! それは‥‥‥素直になれない愛故の、照れ隠しなんだね!?」
 殴られて蹴られて、だけど幸せそうな支店長。
「もっと! もっと殴って! 今にも出ちゃいそうだよ!」
「何が出るって言うの!」
「もちろん白い‥‥‥」
「黙れ!」
 不動明王の刃が叩き切る。だけどそれは動いた軌跡すら見えなかった残像。忍者かコイツ。
 魂すら捧げた萌えは人の限界を超えた力を発揮するらしい。多分きっと。
「牛は赤に反応するのだけど、俺はメイド服とピンク色に反応する。これが俺のジャスティス! 正義の名の下にキミを全身骨の髄まで萌え尽くす!」
「〜〜〜ッ!」
 走る悪寒噴出す鳥肌。鬼のように迸る蕁麻疹。
 ――ダメだ。コイツはもう何もかもダメすぎる!
 溢れる本能萌え力。まるでダークなフォースなオーラっぽいアレが雄治から解き放っている。まるで触れる全てを侵食するような‥‥‥
「店長がこんなで、店の環境が良くなる訳ないわ! 仕置いてやる!」
 不動明王を握り締め、ウッドゴーレムを率いる鈴那。普通に殺る気マンマンである。
 開店前に荒らしてどうかと思うが片や己が魂と萌えを賭け、片や常識やら一般理念とか実際は感じた貞操の危機の為に戦っているのだが――
「これは何事?」
 手伝いに来た大工の藍月花は眼の前の戦場を見て唖然とした。仕事が増えそうだ。




 何とか開店にこぎつけて数刻。
「メイドさぁぁぁん! こっち来てぇぇぇぇ!!!」
 支店長の雄治はやっぱりハァハァしていた。椅子に座り駄々っ子のようにテーブルを叩く。
「店長! サボってないで仕事しなさい!」
「今の俺は支店長じゃないもん! お客だもん!」
 ように、じゃなくて駄々っ子でした。
「わざわざ私服に着替えて入り口から入ってきたもん! だからお世話してよ! お金はたっぷりあるからさあ!」
「お金はあるって風俗じゃあるまいし‥‥‥ていうか自分の仕事もあるでしょう!」
「もう終ったもん! メイドさんとキャッキャウフフしたいから速攻で終らせたもん!」
「‥‥‥マジですか?」
「マジですよ!」
 開店を迎えてからまだ早い。こんなアホだが仕事に関してはかなり優秀らしい。というか職と趣味を両立させているだけだがこれはこれで逆に凄い。
「だからお世話して! むしろ添い寝して!」
 そういうメイドサービスの店もあるらしい。
「黙れ!」
「ギャース!」
 暴走する、というか常に暴走している雄治に二本足のトカゲ? をけしかける。性格はおとなしく争いは極力避けようとするがそこは忠誠心。爪をぎらりと光らせ襲い掛かる。
「‥‥‥‥‥‥」
 店中でそんな騒ぎを起こしていれば嫌でも目に付くもので、
「ねえ、どうしようか?」
 来店したお嬢さま方――女性客達は躊躇した。それも当然か。一息付こうとやってきたらこれなのだ。歳若い少女達。年の頃は十五か十六だろうか。
 互いに顔を合わせ店を出ようとするがそれをいち早く見抜いた男がいた。
「お帰りなさいませお嬢さま」
 執事。
 黒髪黒眼のジャパン人。拍手阿義流(eb1795)である。
 彼は支給された、というよメイドさん以外支店長には眼中に入ってないので他の従業員から渡されたそれを着込んでいる。上品な顔立ちと隙のないぴしっとした立ち振る舞い。執事服をきちっと身につけた正統派の執事だ。なら邪道はあるのか、なんて疑問は別として。
「お嬢さま方、どうなさいました?」
「あ、いえ。別に‥‥‥」
 美形は何をやっても絵になる。少女達は彼の微笑みに見惚れたのだ。
 阿義流は少女達をテーブルに連れると着席を促した。
 ――ああ。こんないい男にお姫様扱いされるなんて!
 幸せの極みだ。メイド喫茶なのに間違っている気もするが、とりあえず依頼目的は店の繁盛。顧客を掴んでおくべきだ。
「お決まりでないのなら、これは如何でしょうか。本日のオススメですが」
 近くの少女の隣にすっと近寄る。弟の拍手阿邪流(eb1798)と違いそれほど体格に恵まれていないが男性特有の大柄な身体。吐息すら聞こえる近距離射程で優しく見つめる百万ボルトな瞳に少女のハートは十六ビート。彼女はドキッ! でその友人たちはギラッ! と少女を睨み付ける。
「わたしも同じものを!」
「私も!」
 彼女達は我先にと注文する。何だかこういう時の女性はやる事が決っている気がする。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
 付け込んだら未亡人を騙せるだろう。そんな殺人的な微笑を浮かべ厨房に向かう。
 その足取りも優雅で舞うようで、少女達に好印象を与えた。




「いらっしゃいませ、ではなくてお帰りなさいませとは」
 厨房で注文を伝えた阿義流は改めて思う。同じ言葉も地方や業種によって意味も変わってくるだろうが、
「聞いてはいましたが倒錯的ですね‥‥‥」
 メイド喫茶は帰属性を促すような店かもしれない。
 男性客にとっては美女・美少女達が笑顔で帰宅を迎えてくれて、自分の世話を焼いてくれる。女性客なら美男が。
 結婚願望のある独身相手ならひどく心を穿つ商売だと思う。‥‥‥多分。その辺り狙っているのなら本店の店長は先見の眼があるのだなぁと少し尊敬するかもしれない。しれないだけだヨ?
「よう、兄貴」
 思案に耽っていると聞きなれた声が彼を呼ぶ。弟の阿邪流だ。
「お互いご苦労さんな事で。それにしてもこの店、綺麗どころが多いよなぁ。あそこのメイドさんなんていい身体してるんじゃん?」
「‥‥‥セクハラ発言は控えるように」
 真面目な兄くんはぴしっと嗜める。責任感ある身の上、互いにハタチとはいえ身内の立ち振る舞いには気にかかる。
「いやいやいや」
 筋肉弟は女性の胴ほどもある程の鍛え上げられた腕を彼に回して、
「兄貴の言う事じゃないと思うぞ」
「‥‥‥どういう事です?」
 問い返す。何というか笑顔が笑顔すぎて微妙に怖い。
「ほら、あのきょぬーのエルフをじっと見てたじゃねえか。しかもその連れのエレメンタルフェアリーを見る眼がかなり危険だったぜ‥‥‥」
「サンレーザー!」
「危ねっ!」
 湾曲集中太陽光。阿義流の指先から精霊魔法が放たれる。
「根も葉もない事をッ! この漆染めのハリセンで成敗‥‥‥ツッコませて頂きます!」
「炉の彼女持ちに言われたくねえよ!」
 唸るハリセン暴れる旋風。阿邪流はハリセンの嵐を避けまくる。
 そう。阿義流は上品で真面目そうで美男だけど、むっつりで炉の気があるのだ。だから今回の依頼で狂喜したに違いない。違うなんて言わせないぞっ。
「物好きもほどほどにしとけよ! これ、代わりに持って行くぜ!」
 ハリセンをかわして逃げるついでに先ほど阿義流が取った注文の品を掻っ攫って行く。
「へいお待ち!」
 そう言って乱雑に紅茶と西洋菓子? を置く。驚いたのは少女達だ。
 さっき注文を取った上品な執事が‥‥‥? 彼を見上げた少女達は違和感に気付いた。顔つきはそっくりだが雰囲気も違う。ついでに執事服は同じだが少し着崩しているのだ。
「‥‥‥?」
 一人の女性客がじっと阿邪流を見上げる。注文を取った阿義流と同じ顔つきの、だけど違う野性味の感じる執事だ。察しの付いた阿邪流はにやっっと、粗暴な感じはするが悪い気のしない‥‥‥そんな笑顔を浮かべる。
「兄貴と間違えたか? とりあえず、同じ顔で正統派とワイルド系が選べるって事で宜しくな!」
 親指を立てびしっ! と突き立てるワイルド執事。その日の気分で選べるし確かにこれはこれでいい。
 黄色い悲鳴が心地良くて、何だかメイド喫茶なのに執事喫茶じみているがメイドさんもちゃんと仕事はしている。
 最終決戦メイド兵器。本場イギリス人のエルフのウィザード、ステラ・デュナミス(eb2099)だ。
 銀髪碧憧白肌の、とってもきょぬーな戦うウンディーネ。その上藍色着物美人で知謀と美貌のウィザードとも呼ばれ、世界にその美貌が轟き渡る天下無双の美人さん。暦年齢はエルフ的にまだまだ若輩さ♪
「いってらっしゃいませご主人さま」
 そんなメイドさんは笑顔でお客を送り出す。まるで、長く仕え力の入れ所抜き所を覚え、絶妙な力加減でその場における最良のメイドアクションを行使する熟練メイドんさんだ。というかメイド長?
「あら、阿邪流さん?」
 次の客の下へ向かおうとしたステラは偶然近くを歩いていた阿邪流と眼が合った。
「おっす。好評みたいだな」
 基本的に女冒険者は鈴那とステラの二人だけだ。他にバイトメイドさんもいるが、その美貌やら可憐さやらは彼女らがぐんを抜いている。はっきり言って比べ物にならないぐらいだ。
 阿邪流は仕事している途中、二人の接客を受けた男客を見かける事もあったがその全てが幸せな感じだった。
 こんな美人に微笑みかけられ飲食の世話をしてくれるのだ。男としてある種の幸せの極みかもしれない。
 当然阿邪流だって、
「――うん。いいな」
 にやーんと鼻の下が伸びる。彼は世話する方とはいえ美人を前に眼福である。
「どこ見てるのかしら‥‥‥?」
 ワンピースとエプロンに覆われた、ステキなきょぬーの辺りを腕で抱くように隠す。手に宿る超低温。水の精霊魔法、クーリングを発動させた手が阿邪流の頭を掴み砕くように揺らめく。
「い、いや。何も‥‥‥」
 顔がひきつって後ずさる。こっちは鍛えぬいた筋肉とオーガパワーリングによる鬼そのものな力に精霊魔法。そしてステラは超越クラスの水の精霊魔法。その上経験と踏んだ修羅場の数が違う。
 勝てる気があんまりしない。
 兄と違いスタイルがいいのが好みではあるが、相手を選ぶべきだ、と思ってしまう。
「なら結構」
 クーリングの魔法を解く。どこぞのお嬢さまも仰った。経験の差が戦力の決定的な差なんですよ。
 それはそれとして、ステラは店を軽く見渡す。
「店の雰囲気を町に合わせるんじゃなくて、町の人を店に馴染ませようってあたりに執念を感じるわね‥‥‥」
 支店長の事である。萌えに生き、萌えに殉じるメイド狂。冥府魔道を付きぬけまくった結果だろうが、ここまで自分に正直だとある意味清々しいかもしれない。
「一応依頼は依頼だしやる事はやるけど」
 少し乱れたメイド服を直す。
 彼女の着ているのは支店長の言う、カスタムだの萌えだのを一切廃した正統型なメイド服。微妙に変な言い回しではあるが、基本的に『喫茶』だし本場のメイド服に比べて多少デザインが違うのは当然だ。
 派手さもなく全体的にクラシカルな感じ。襟も袖もスカートもしっかり長い。正直他のメイドさんのメイド服に比べて見る所は減るものの、清楚で理知的な印象を受ける。
 色気辺りを比べてしまえば正直劣るものの――
「だがそれがいい!」
 鬼のような速攻マッハなスピードで現れる支店長。どこから涌いてきた。
「メイドさん! エルフのまじかるメイドさん!」
 何だか全身からヘンな液体を垂れ流してるっぽい支店長。眼は軽く逝って彼女の全身が雄治との関わりを避けたがっている。
「鈴那たんはいじわるだからツンデレだから! ハァハァさせてくれなかったよ!」
 ツンデレはともかく当然だ。
「だからお願い! 添い寝しへぶらっ!」
 唸る両腕聞こえる異音。経験してきた戦闘の記憶から、条件反射で両腕が動いたのだ。
 雄治の首から上が曲がったらいけない方向に捻れ曲がる。
「おい、おまえ‥‥‥。さすがにやりすぎじゃねえか?」
「‥‥‥つい身体が」
 ぴくぴく痙攣する支店長。ぱっと見普通に殺ってるけどそこは萌え賭言う名の冥府魔道に殉じる雄治。既に普通じゃない。
「――それがキミの愛だね!?」
「うぉっ!」
 直立不動で起き上がる支店長。しかも首は凄い事になって揺らめいて、眼はかなり血走っている。
「ツンデレか! ツンデレが流行っているのか! ツンデレメイドっていいネ!」
「うっせぇ! 邪魔だ!」
 ゾンビかこの男。
 阿邪流は乾坤一擲ぶん殴った。





 閉店後、絡んでくるお客をかわす‥‥‥というか支店長の魔の手からの護身術の講義をバイトメイド達は鈴那から受けていた。歴戦を潜り抜けた忍者の鈴那。彼女の教える技のひとつひとつはどれも秀逸なものである。京都で一、ニを争う実力者らしいが、忍者的に名が知れ渡るのは如何な物だろうか。
 ちなみに店長は邪魔にならないよう柱に縛られている。
「この方が邪魔されなくて商売も上手くいくんじゃねーの?」
 茶を片手に一息付く阿邪流。実際そうかもしれない。
 支店長は縛られている。だから手出しはされないだろう。
 そう気を抜いたのがいけなかった。
「こんな事で俺のメイドさんへの愛は止められなぁーい!」
 吹き飛ぶ縄に身体に流れる萌えドナリン。突っ込む所は色々あるがそんな事はどうでもいい。
「メイドさぁ〜〜〜ん!!!」
 バイトメイド達に飛び掛る。だけどお天道様は邪悪を見逃さない!
「これが対処法よ! メイド爆裂けーん!」
 パンチキックの雨嵐。そして肘撃ち膝蹴りトドメのアッパーカット! メイド奥義がメイド狂を粉砕する!
 黄色い悲鳴を上げるメイドさんズ。尊敬の視線が鈴那へ注がれる。
「皆、大丈夫?」
「はい。お姉さま‥‥‥」
 一人危険な熱っぽい視線を向けるが気付かない。
 まあともかく、今日も京都は平和だ。