馳川更紗は幸せを掴めるか? 同棲編
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月16日〜07月21日
リプレイ公開日:2007年07月24日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
現在、独眼流の名で知られる伊達政宗が治めるこの地は、戦後の事後処理で何かと忙しいがそれなりにかつての活気を取り戻していた。
立ち寄る旅人や商人は、源徳時代とは勝手が違ったりそもそも伊達家に支配権が移った事も知らない者もいるがそれなりに日々を過ごしていた。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
「疲れたなぁ」
帰路の途中、高槻慎一郎は大きくため息を付いた。
ここ最近、やけに仕事で忙殺されすぎである。
見た感じでは線の細い身体で身長も同世代と比べて低い部類に入る。元服は既に終えているものの、その顔立ちは血気盛んなもののふとして引き締まっている、というより女の子とすら見えてしまう優し気な印象を受ける。まあ元より女顔だし今は溜まった疲労のおかげで重苦しく感じるがそんな事はどうでもいい。
現在伊達支配下の江戸の役人の高槻慎一郎。とにかく彼はここの所のおかしいぐらいな大量の仕事で心身ともに疲れきっていた。
「今日は早く帰らせてもらったけど、明日からまた残業だよなぁ」
ここしばらく、彼はまともに定時に帰った記憶がない。
はっきり言ってサービス残業もいいとこだ。同僚や上司は自分に気を利かせてくれたのだけど、そういう彼らも結構シャレになってない。
「嫁さんを大事にしてやれって、別にそういう関係じゃないっていうか一応表向きにそうしているんだけど‥‥‥」
何だか恥かしくなってきた。確かに可愛いと思う。
物心付く前からずっと一緒にいて、嬉しい時も悲しい時も、色んな時間を共に共有してきた大切な幼馴染みだ。恋愛対象として考えているのかというと‥‥‥ドキがムネムネして辛抱たまらないというか彼女の何気ない仕草に色気を感じるというか二つの膨らみはどちらかというとひかえめでうなじがグッと来たりして、メイド喫茶で知り合ったあの三人組の伊達の若侍は「幼馴染み萌えキターーー!!!」とか言ってたり裸エプロン
なんて考えてみると色々我慢できないというか何考えているんだよああもうああもう!
そんな思春期特有のアレなソレをしている内に自宅前に着いたらしい。本人は気付いていないがあの三人組と知り合って悪影響受けすぎである。まあ汚れのない純白の紙は染まりやすい。
「と、とにかく落ち着かないと」
慎一郎は大きく深呼吸して戸に手を当てる。借りている家は彼の生活レベルを物語っているものだ。
――更紗に、こんな顔を見せられないな。
顔をきりっと引き締める。男の面子もあるし情けない所は見せられないのだ。
「ただい――」
言いかけて絶句した。
仕事しすぎてついに幻覚を? もしかしなくても既に夢の中? 脳が軽くフリーズしている中、金髪金眼異国の少女は微笑んだ。
「おかえりなさい慎一郎」
源徳旗本お姫様。養女ではあるものの高貴なお家の長女は親が見たら失神しそうな恰好で彼の帰宅出迎えた。
裸エプロンなのだ。
「ご飯にする? お風呂にする?」
一糸纏わぬ細く白い肌を覆うのは大きめのエプロン只一つ。
「それとも――」
幼馴染みの少女は即死判定のフィニッシュブロウを決め込んだ。
顎に指を当てて可愛らしく思案して、
「わ・た・し♪」
小悪魔めいた笑顔を投げかけた。
更紗の必殺の新婚コンボをくらった慎一郎は部屋の隅っこでぶつぶついじけていた。
いつもより早い夕食は久しぶりに更紗と一緒にとれたものの、脳がいい感じに飛んでいてあまり味を認識出来なかった。ただ、肉っぽいものを食べたなぁと漠然と覚えている。
一本取られた、というか何もかも負けた気がしてどうにも立ち直れない。
ついでにあの時肯定しかけて自分にもの凄く腹が立つ。いや、あれはあれで先がどうなってたのか気にはなるのだけど――
「ダメだよ! そんなのはダメだよ!」
「ど、どうしたの? 慎一郎」
洗濯物をたたんでいた更紗は驚いて彼を見た。
「どうしたのって、さっきみたいな新婚コンボはいけないよ! 思わず更紗を頂こうと思ったじゃないか!」
さりげに凄まじい事を言っているものである。やはり以前に比べて相当毒されている。
「へー。ふーん。そうなんだー」
思いっきり軽蔑されると思った慎一郎は予想していなかった更紗の反応に逆に驚いた。
見た感じ、妙に嬉しそうなのだ。
いや、表情はそれで実ははらわた煮えくり返っているとか‥‥‥。
「慎一郎がねー。ボクをねー。そういう風にねー」
にこにこにこ。相当上機嫌である。以前の慎一郎は真面目一筋でこういう事はさっぱり‥‥‥。少々アレ的だけど自分を意識してくれているという事は嬉しい。一人暮らしで変わったのかな。
「とにかくね。いくら一緒に暮らしているからってああいうのはいけないと思うよ。表向きは若夫婦、って事にしてるけど」
「若夫婦、の前に新婚ホヤホヤを入れないとダメよ?」
更紗は新婚、の辺りを強調した。
どこぞの源徳侍も似たような事をしているが、男女が潜む場合、手段が似通うのは必然だ。
「それにいいじゃない。ボク、前からあれをしてみたかったんだし」
こういう事をこんな可愛い顔して言うのは反則だ。
「ねえ慎一郎。今度の市場の警備、冒険者を雇うって聞いたんだけど」
「うん、まあそうだけど」
上の空。視線が泳いでいる。
「確か月道からの珍しい品物を大量販売するんでしょ? 盗難防止の為に人手がいるとかいらないとか」
慎一郎に迫って至近距離。慎一郎は部屋の隅っこだから逃げられない。
「そんなに人がいるんだからさ、仕事は冒険者に任せてデートしよっか」
「で、デートって仕事が‥‥‥」
「いいじゃんいいじゃん。新婚さんらしくデートしよ?」
ぴとー、とくっついて見上げる更紗。何というか犯罪的に可愛すぎだ。これでこんな台詞言われれば人を殺せるかもしれない。
どう言っていいのか判らなくて、視線は泳ぎに泳いで、更紗はわざとらしく、今更みたく頬を染めて小ぶりな胸を抑えた。
「どーこ見ているのかなー?」
更紗のその恰好、布面積は薄くて丈もアホほど短い西洋の衣服なのだ。ぶっちゃけ角度によれば布の内側が見えるしあのエプロンを付けていれば下は裸と勘違いしてもおかしくない。実際勘違いしたのだけど。
「慎一郎の‥‥‥えっち」
所謂『クールビズ』とかいうその恰好。視線は嫌が応でも言ってしまう。見られるのが嫌ならそんな恰好しなければいいじゃないか! だけど眼福だから言わないけど!
「慎一郎の、えっち」
くっはぁ! ぶっとい槍で突き刺された気分だよ!
古今東西この手の技で男が勝てる筈がない。更紗は絶妙な速度で慎一郎の胸に潜り込んで腕を背中に回して、
「これなら‥‥‥見られないかな?」
うわああああ!!! 打ち首もんだあああ!!!
妖艶な美女のような色香を醸し出し慎一郎を見上げ――
「帰ってるか、しんいちろ――」
尋ねてきた友人、浅生友孝が固まった。
「悪かった。続けてくれ」
「ちょっと待って!」
戸を閉めて去っていく友孝。何となく助かったような残念なような、そんな気がした。
●リプレイ本文
市場解放からぶっ通しでお昼過ぎ。それでもなお市場は盛況で人が溢れかえっていた。
祭りと喧嘩と新しいものが好きで、見栄っ張りの好奇心旺盛な江戸ひ住民にとってこの市は開催初日にして成功を収める事になる。
人が多すぎるのだ。
市場全体の一日の目標売り上げはとうに超し逆に商品が足りない店も出ている程だ。
老若男女色んな人がいる。侍もいれば志士もいるし月道を渡りジャパンで活動をする外国人もいる。そして数々の珍しい品物は見るだけで楽しめるしよく周りを見れば連れ合いと共に店々を覗いていく人によっては殺したくなるぐらいほほ笑ましい光景が伺える。
「ねえねえ慎一郎。次あっち行ってみよう」
金髪金眼のお姫様。馳川更紗も大好きな彼と一緒に市場を回っていた。人ごみをネコのようにするする抜けていき慎一郎を引っ張る。どちらかというと逆であるべきだ。
「ちょっと待って」
慎一郎は何とか後を付いていっている。引っ張られた手の暖かさと柔らかい感触にどきどきしながら。ちなみに彼は今仕事の最中である。
『随分積極的になったみたいね、でも押し続けてもオチない相手には時には引く事も大事なのよ?』
決戦前夜。更紗は女衆との談義を思い出した。
ナンパの技が超越に達し神がかりな誘惑技(技的にデビルっぽい気もするが)を持つミス・テンプーテーションの御陰桜(eb4757)。しかもメイド喫茶で働いているから神すら殺せそうな勢いのゆーわく忍者である。
そんな彼女の教える恋の駆け引きは自分が考えていたのが子供だましとすら思えるほどのものだった。同席していた他の女性冒険者達も真剣に聞き入っていた。
『惑してるみたいだからとか魅力がないからとか言えば殆どの男はそんな事無いって食い付いてくるものよ?』
まあ男というイキモノは単純なものである。男側からがっつりゲット! がっつりゲット! で飢えた狼の如く迫りまくるんですよ。
それで見事ゲットしたら? もちろんレッツ夢の国。んなの野郎の都合のいい妄想なんですよコンチクショウ。
『やはり床で待つ位するとか‥‥‥今必要なのは勢いと覚悟です‥‥‥』
独特のイントネーションの柳花蓮(eb0084)。
『押しの一手でもそのうち落ちるやろうけど、違う面を見せるとより早く落とせるかも知れまへんぇ』
大人しそうな印象の割りに過激な発言の花蓮に対し銀髪美人さんは比べて正道である。銀髪黒瞳白い肌の、ハーフの巫女さんはそう仰った。巫女装束に覆われたその豊満な二つの果実は白衣を殊更に押し上げ、桜も結構実っているもので同姓の更紗ですら何というか、羨ましい通り越してぐっとキたものだ。
まあそれはそれ。女同士だから結構ストレートに言えるものだ。あまりそういう耐性がなかったり年相応な潔癖の更紗は頬を赤らめたり一人百面相。
『お酒飲ませて朝一つの布団とか良いかも‥‥‥』
それが僧侶の言う事か。男女の戦いにおいては勝敗を決する切り札に違いないが。
『ほな頑張っておくれやす』
西園寺更紗(ea4734)。自分と同じ名を持つハーフの巫女さんはそう笑顔で送り出してくれた。名前が同じで、お互い西洋に関係があるから西園寺自身気にかかっているのだろう。
今日、この日この時は馳川更紗の天王山。何としても勝ち鬨を上げなければならない。
更紗は自分の腕を絡ませた。
「もう。遅いよ、慎一郎」
甘えるような、熱っぽいような、そんな視線が彼を捉えた。
「さ、更紗。あのね? そのね?」
「ふふっ。どうしたの?」
くちびるが濡れている。
胸がドキドキで全身から冷や汗で心の妖精さんはオクラホマミキサーで腕にあたっている膨らみは柔らかい。まだまだ発展途上な青い果実だけど、ふにふにでふにふにでふにふにで! ああもうああもう色々辛抱タマリマセンヨ血の涙!
何故更紗がこうしてくるのか判らない。軽く殺したくなるがこれが現実である。
慎一郎にとって今日この日、人生における山場の一つだ。
なんたって理性が今にも自害しそうだから。
市場のどこかで甘々でとろろ〜んな逢瀬? が行われている中、別の区画で思いっきり異彩を放っている二人がいた。
夜十字信人(ea3094)と虎魔慶牙(ea7767)である。
赤髪の彼は清心のたすきをかけ心眼はちまきを巻き締め気合十分。そして夜闇のように黒く光る刃の、全ての魔物を切り裂き倒すとうたわれる長大な斬魔刀だ。空いた左にはアンバランスな感があるが桃の木刀を握っている。
そして慶牙は斬馬刀にライトシールドの武装姿。体格に恵まれ筋肉質のその身体は盛り上がり鎧のようだ。しかも銀の髪と茶色の瞳もあいまってどこぞの鬼神さまと言っても通りそうな風体だ。
眼の前を通るのはほとんど女の子達。並ぶ店も女性用商品ばかりでとっても華々しい。女性による女性の為の、女性客をターゲットにおいた区画なのだ。
そんな所に今にもカチコミに行きそうな完全武装な男が二人。はっきり言って場違いな事この上ない。
「久しぶりにゆるりと過ごせるかもしれんなぁ‥‥‥」
通り過ぎる女の子達に白い眼で見られつつも信人はぽつりと言った。何というか疲れきっている。
「おうおう水無月。なかなかいいもの見つからねえなぁ」
主の言葉に水無月、シフールの半分くらいの大きさの彼は頷いた。エレメンタルフェアリーと呼ばれる小さな妖精だ。
「‥‥‥む。別に構わんが警備に手を抜くなよ」
腕に巻いた腕章を。彼の二人のエレメンタルフェアリーもデフォルメされた同じ物を巻いていて、「YA−!」なんて元気良く拳を天に突き立てている。ノリのいい妖精である。
「任せとけ、ついでに警備もしとくからよ」
メインとついでが逆だ。信人は突っ込もうとしたが嬌声が聞こえた。ひったくりである。
「誰か捕まえて!」
盗まれた本人であろう。若い女性が走る男を指差した。見るからにチンピラで犯人だ。
今日のような珍しい品々が多く売りに出されている日は犯罪にしても恰好の狙い目だ。高値の品もあるし人が多いという事はその分財布があるという事だ。
「スリか泥棒か‥‥‥」
似たようなものである。
ちょうど進行方向にいた信人と慶牙は立ち上がる。慶牙は問答無用でスタンアタック気絶させ信人はソニックブームでスリを軽く吹っ飛ばす。
おもむろに近づき信人は睨み付ける。見た目も似ているしどこぞの人斬りが覚醒したみたいにむちゃくちゃ怖い。
「五体満足で神妙に反省するのと、両腕を折られて寺院に行く。好きな方を選べ」
どこからどう見ても二人が悪人にしか見えなかった。
「あの。少しおつきあい願えますか‥‥‥?」
挙動不審な少年の三人組を見かけた花蓮は、スリとかよからぬ事を考えている連中だと踏んで声をかけた。三人とも元服前の刀を差した侍の少年達だ。
おどおどした風に、女の方から殿方に声をかけるなんてはしたない‥‥‥そんなシチュを速攻で思いついた少年達は電光石火の速さで頷いた。まあアレだ。
「逆ナン? 逆ナンか!」
「くぅ〜〜〜! 今までナンパしまくったけど全部外したと思ったら女の子の方から! きっと苦労が実ったに違いない!」
「俺にはねーちゃんがいるんだけど、こういう女の子もいいかも!」
うっひょっひょする三人組。これが次代を担う若者だと思うと花蓮は心から嘆かわしいとため息をつく。
「こんな人気のない所でなにするんだい!?」
「勿論誘ったって事はそういう意味に違いないぜ!」
「ねーちゃん、俺、大人の階段登るかもしれないよ」
「‥‥‥ブラックホーリー」
「はぶし!」
妄想炸裂暗黒オーラ。そんな欲望一直線な彼らに黒の神聖魔法が轟き唸った。
「な、何しやがる!」
「美人局か!?」
「‥‥‥ブラックホーリー」
再び黒の神聖魔法が三人を吹き飛ばす。
「お前、何しやがるんだ!」
「警備です‥‥‥。怪しい人は問答無用‥‥‥」
随分ステキな言い分だ。まあこんな連中、リードシンキングを使うまでもないし放っておいたら犯罪起こすに違いない。
「怪しいだと? 勘違いするな!」
復活した一人の若侍が叫んだ。
「俺達はナンパしてたんだ!」
「おうよ! そんでもって仲良くなったらあんな事やこんな事を!」
「だって男の子だもん!」
「‥‥‥ブラ(以下略」
痙攣する三人に花蓮はゴミを見るような冷たい眼で見下ろす。
「世の為女性の為、叩きのめします‥‥‥」
「軽い武器や盾には興味無えなぁ。防具は篭手で十分。後は魔法の斬馬刀みたいな物があればいいんだがなぁ。軽いものはいらんしなぁ」
信人と別れた慶牙は買い物の為に市場を練り歩いてた。だけどここは女性客向けの店舗が並ぶ区画。武具も女性用のものを多く扱っている。
「水無月の服も、何か買ってやらんとなぁ」
地のエレメンタラーフェアリーの水無月。シフールの半分の大きさしかないのだから、専用の服を売ってある店は探す方が難しい。あればいいのだけど。
そうやって歩いていると見知った顔を見つけた。レイナス・フォルスティン(ea9885)と磯城弥魁厳(eb5249)だ。彼らも警備でこの辺りを通ったのだろう。三人は挨拶すると共に歩き出した。まあ特に理由はないが。
女の子ばかりの華やかな区画に完全武装の男が三人組。むちゃくちゃ目立っている。
レイナスは武者鎧を着込み腰にはデビルスレイヤーの聖剣アルマスが下げられている。魁厳は忍鎧を始め和洋折衷ないでだちで手には軍杯。彼らはその筋の達人であったりするし放つ空気も何か独特だ。少なくともこんな完全武装では何かやらかすとしか思えない。
カタギの人なら絶対に関わりたくない。ちなみに先ほどぶつかった女の子は泣いて謝っていた。
まあそんな事はどうでもいい。レイナスは道すがら気になっていた事を口にする。慎一郎と更紗の事である。
「二人の仲が進展すると面白そうだし。いい感じで染まっている気もするな」
いつか知り合った伊達の若侍の三人組。真面目が服を着て歩いているような慎一郎だから悪影響は受けすぎて、ようやっと人並みに汚れたりしたのだ。それもそれでどうかと思うけど。
「このまま押し切れば面白そうだな」
にやりとほくそ笑むエジプト戦士。色恋に興味はありませんよ、なんてクールな顔をしているのにナンパが好きでハーレムを作りたい男の中の男。
何と言われようとハーレムは男の浪漫なのだ。その日の気分で女の子チェンジ。ある日は褐色肌のアラビアンだったり白い肌の西洋人だったり。男の浪漫と魂は留まる事を知らないのさ! 女の子の冷たい眼なんてどこ吹く風だぜ!
そんな浪漫戦士のレイナス。どこかで見た覚えのある商品を手に取った。故郷のエジプトで見たような気がする。
「月道を通ってやってくる商品とはどんなものでございましょうか」
レイナスを慮ったのだろうか。魁厳は辺りを見渡しつつ言った。スリや万引きがないよう眼を光らせる。目こぼしがないよう気を配るがこんな今にも戦場にブッ込み特攻しそうな男が三人いれば犯罪なんてしようとなんて思う気すらしない。ちなみ先ほど偶然ぶつかった女の子は泣いて謝っていた。まあ無理もない。
「なにか自分でも買えるものがあればいいのでございまするが」
魁厳も商品を手に取った。見た事のないものだ。使い道は想像できない。
そんなこんなで見回りをしていると驚きの声を魁厳は聞いた。まるで珍しいものを見た声だ。
「やややっ! あれは河童!」
商人達だ。彼らは魁厳の姿を認めると仲間を呼んだ。
一体何事だろうか。緑の肌とクチバシが珍しいのか? 軽くムカついた。
「わしに何か用――」
「その勇ましい姿。その覇気。いつぞやの時と同じだ!」
「ああ。河童大明神さまのようだ!」
「‥‥‥は?」
突然の敬称に魁厳は間の抜けた声を出した。
彼ら商人達にとって河童大明神は信仰の対象である。いつかの危機の時(シナリオ、全ては夢幻の如く 二)で天から颯爽と現れ(商人ビジョン)自分達を救ってくれたとある河童の冒険者。そんな状況なのなら無理もあるまい。
「今日は目出度い日だ! 行くぞ野郎ども!」
「おうよ! 奉るぞ! 奉り倒すぞ!」
「わっしょいわっしょい!」
鬼のような速攻の早さで胴上げされ拉致られていく魁厳。突然の事に慶牙とレイナスは反応が遅れた。
「‥‥‥誘拐とかには注意しないとな。うん」
これはこれで微妙にずれているのだけど。
「あんじょうやってるみたいやねぇ」
警備中、更紗と慎一郎のデートを見かけた西園寺は安心したように言った。
今回は相手に主導権を与えるとか大胆な行動は避けるとか甘え尽くすようにするとか、熱心にアドバイスした。これで上手くいってくれるといいのだけど。
「ははは、若いというのは羨ましきことですかな」
同道していた宿奈芳純(eb5475)もほがらかに笑う。色々不自由な事にしばれる事のない恋愛が出来るのは十代の特権だ。
彼の足元にはうめきをあげる男が数人。制圧したスリの類の連中である。
ほほ笑ましいのだけど、見ている分は軽くイラついてくる。あれよこれよで誘惑する更紗に慎一郎は思いっきり歯を食いしばって心が血の涙を上げている。
そんな彼らの前に三人組が現れた。
「よろしくやっているじゃねえか慎一郎!」
友人の伊達の若侍達である。大暴れしたのか結構ボロボロだ。
「その娘が言ってた幼馴染みか! 可愛い女子だのう!」
「いつもキャッキャウフフしているらしいがお前は喧嘩売ってんのか!」
「ひどいよ高槻くん! 俺だってねーちゃんと色々出来てないのに羨ましすぎだよ!」
よく判らないがノリノリだ。
「その幸せを分けろ! お前だけ幸せなのは許さん!」
「そうだ! 俺だってキャッキャウフフしてーよー!」
「ねーちゃん! 俺は、俺はへぶら!」
芳純のムーンアローが彼らを吹っ飛ばす。芳純は三人を掴むと路地裏へ向かう。
「お侍様。大丈夫ですか?」
更紗へぐっと親指を立てて健闘を祈る。
ひと段落ついて休憩中。信人は遠い目でしみじみ言った。
「女子って怖ぇよなぁ‥‥‥」
警備していた時の事を思い出す。女の子ばっかりの区画。平静を保っていたけど内心泣いていたのだ。何たって向けられていた視線は「ないコイツ?」である。女の子ばかりの場所に武装した男は場違いだろうが。
「好きにしろよ、畜生」
結構打たれ弱いのだろうか。うずくまってのの字を書いている。
そんな信人に桜を声をかけた。次の警備は二人で回る事になっている。
「ほらほら。お客さんのフリしてた方がいいって♪」
腕を組んで楽しそうに。そう言えば可愛い妖精服があった。彼のペットの夕に買ってあげようか。
「いや。アホほど祭り上げられて‥‥‥」
あっちを見ると商人達から解放された魁厳が大量のお賽銭を手にしていた。
更紗と慎一郎。桜と信人。二組の連れ合いを見て西園寺は寂しそうに呟いた。
「うちの春は何時訪れることやら‥‥‥」
彼女の春はまだ遠い。