犬鬼砦制圧戦

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月17日〜08月22日

リプレイ公開日:2007年08月25日

●オープニング

――まあ、よく見てみれば物騒な事もあるもので




 江戸の街より伊達の一部隊が出陣した。お世辞にも軍隊と呼べるほどの規模ではない。
 目標は犬鬼の一団の殲滅及び追放と、彼らに制圧された砦の奪取である。
 いつかの戦乱。源徳が江戸を追われたかの合戦に使用されたその砦は、規模こそ小さいものの堅牢な作りであり、攻めるには難しく守りやすい。そんな砦である。
 源徳の敗北により廃棄され、そのまま放置されていた砦であったがいつの頃からか犬鬼の群れが棲みはじめた。ただ、魔物の集団が現れたというだけならたまによくある話しだし、放っておいても統治している勢力の軍隊や依頼を受けた冒険者が退治に向かうだろう。その辺り特別気にかかる事でもない。
 事前に得た情報によると、その砦には犬鬼族長がいるのだ。
 犬鬼族長とはその名の通り犬鬼を束ねる族長。その犬鬼の群れの頂点に立つ存在で剣術においても優れるつわものなのだ。
 その上数こそはっきり確認できなかったらしいが複数の犬鬼戦士もいるらしく、更に数の確認出来ない多くの犬鬼達。犬鬼達が砦の有用性に気付いているのか判らないが、戦術に少し詳しい者がいるのなら迂闊な突撃を躊躇うだろう。
 しかし‥‥‥基本的に兵隊を生業をするのは血の気が多い連中ばかりである。
 かたや「犬鬼なんぞ恐れるにたらず」かたや「あいや待たれよ、策を練るべきだ」。伊達兵達の意見は二つに分かれた。
 規定の数が揃っていれば普通に突撃して殲滅戦を行っていただろう。だが、ある事情により予定の数の半分にも満たなかったのだ。
 何故ならこの任務を与えられた部隊の多くの兵達は、怪我に伏しているのだ。
 聞けばメイドや執事の一団に襲われただの、調査団として某所に派遣された足軽達は勇名を馳せた冒険者達に襲われただの、どうも世迷言のたまっているらしい。まあどこかで喧嘩でもして、それに負けたとかの良い訳だろう。だとしても、こんなに多くが、というのはどうかと思う。
 まあそんな事はどうでもいい。部隊長は戦力を補う為冒険者を雇った。十分に経験を積んだ猛者たちである。
 道中、冒険者達は意見を求められた。砦を制圧するに対し、このまま突撃するか否かである。
 彼ら伊達の兵達は正規の訓練を受け戦力として十分であろうが相手は犬鬼。魔物である。人間相手ではないので自分達の基準で考えるのは危険だろう。
 そこで冒険者達である。冒険者は様々な経験を重ね豊かな知識を持つ。何か有益な案があるかもしれない。
 冒険者達は‥‥‥

●今回の参加者

 eb3867 アシュレイ・カーティス(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb7700 シャノン・カスール(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8646 サスケ・ヒノモリ(24歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9659 伊勢 誠一(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

大泰司 慈海(ec3613

●リプレイ本文

 先行した陽動隊が敵主力に対し攻撃を仕掛け、挑発。その後後退しつつ犬鬼達を引きつけつつ誘導した後味方本隊と合流。既に設置したゴーレムや埴輪などを用い本隊と共にこれを迎撃する。
 本隊は戦線を支え、陽動隊が陽動をかけ、別働隊突入の隙を作る。別働隊突入後は敵主力を殲滅した後に砦へ進軍。別働隊により敵総大将、犬鬼族長を撃破。戦闘中かまだそこまでに至っていないならば砦を攻撃する友軍に合わせ内部制圧を計り味方を内部に引き入れ、犬鬼族長の撃破・残存戦力の殲滅及び追討‥‥‥これが今回の作戦の概要である。
「――以上です。質問はありますか?」
 伊達軍討伐隊本陣。その天幕にて伊勢誠一(eb9659)は依頼人兼討伐隊隊長と、今作戦に集められた冒険者達へ質疑を乞うた。元々は何か戦術や意見を求めて雇った冒険者達である。魔物の討伐とはいえ、天幕に呼ばれ作戦会議の場に席を置く事を許されている。
「特にない。犬鬼達は殲滅するつもりだ。生かしておいてもろくなことはないだろう」
「いくら砦が守り易いとは言ってもそれは中に敵を入れないことが前提です。入ってさえしまえば後はどうにでもなります」
 事前に入手した砦の内部見取り図を見てシャノン・カスール(eb7700)が言った。アシュレイ・カーティス(eb3867)もまた、テーブルの上に置かれた近隣の地図を見て自分たちの侵攻ルートを確認する。二色に分かれた複数の凸型。別働隊である彼らの青い小さな凸は赤の凸が残る砦の側面にあった。
「兵の皆様にはもう一度埴輪やゴーレムについて説明をしておくべきかと。理解してもらわないと危険ですわ」
 別働隊のもう一人、刈萱菫(eb5761)が念の為、と提案する。よくも知らずに勝手な事でもされたら困るからだ。特に今回のような数で負けている戦いなら尚更だ。
「葛城丸に与える命令は『範囲内の犬鬼を攻撃』ですわ。敵主力を引き付けた後、別働隊と合流して補佐を中心に動きます」
 自分の作戦行動を復唱する菫。
 今回彼女は陽動も兼ねている。引き付けた後は主力に任せ彼女自身は別働隊の一人として動く予定だ。
 味方本隊には強靭なゴーレムが三体もいる。見かけの割りに相当に強力な埴輪もいる事だし戦力的な部分では負けてないだろう。
「密集している所あればロックに『破壊の光』を発動させます。巻き添えにならないようお願いします」
 スモールストーンゴーレムと埴輪を率いるサスケ・ヒノモリ(eb8646)。スモールアイアンゴーレムを二体率いているシャノンも含め彼ら二人のゴーレムが戦闘の主軸となるだろう。鉄と石の巨人の身体に剣を主武器としている犬鬼は傷を付け難い。
 誠一は顎に手を当てて思案した。
「犬鬼については弓を使うのもいると聞きます。それらについては竹束所持兵で対処するとして‥‥‥本隊と伏兵を隠せる場所を見つけておきたいですね」
 基本的に野戦である。その上巨体のゴーレムも三体いる訳だからこの辺りよく考えておかねばならない。
 何より誠一は陽動隊を指揮する立場でもある。合流ポイントを見誤れば辿り着く前に撃破されてしまう。
 これを足がかりに、という訳でもないが軍師として自分を売り込もうとしているのでそういう意味でも失敗は許されない。
 足軽が報告に入る。行軍速度に支障をきたすとして後発の隊に運ばせていたゴーレムと埴輪の搬入が終了したらしい。
 作戦開始は明朝。
 彼は作戦をシュミレートしつつ呟いた。
「戦というのは準備が大事ですからね。始まった時には終わっている。そうしたいものです」
 一同は頷いた。




「衡軛の陣!」
 敵の挑発に成功した陽動部隊は犬鬼達を迎え撃った。
 衡軛の陣。敵陣を誘い出し押さえ込む戦法で、長蛇の陣や鶴翼の陣等に移行して敵の包囲殲滅を目的とした陣形である。
 誠一は揮下の足軽達に命令し足早に陣形を整える。
 犬鬼達の先鋒隊が前衛の足軽と切り結び、弓兵が支援射撃に入る。
 犬鬼と足軽、剣と槍のひしめく中で菫は器用に立ち回る。素早い身のこなしで犬鬼の剣を避ける菫は転瞬、不可視の斬撃を繰り出した。
 ブラインドアタック。夢想流――ジャパン剣術においては居合いと呼ばれる、『鞘の中の勝』を真髄とする技である。
 鞘から抜き放たれた霞小太刀の刃が犬鬼を斬り捨てた。太刀筋はおろか技の体運びすら判らない、疾風のようなひとだ。
 菫は遥か犬鬼達の後方、砦を見つめる。
 後発の犬鬼達が迫りこのままだと数で押し切られるだろう。
「殿はあたしが勤めますわ。後退し主力と合流を!」
 犬鬼と切り結ぶ友軍に叫んで最前衛で戦う足軽達の援護に向かう。手近の犬鬼へシュライクで止めを刺した。
 誠一は新たに命令を飛ばし陣形を変える。
「弓隊は支援射撃しつつ後退! 殿は敵と戦闘しつつ下がり、各小隊は壁を維持しつつ後退します!」
 流動する陣形。どう動かせば最も効果的かと考えた結果、菫達殿がちょうど攻められ易い形になった。
 犬鬼の雪崩が殺到する。




「葛城丸、『範囲内の犬鬼を攻撃』ですわ!」
 怒涛のような犬鬼達の攻撃を避け続け何とか本隊近くまで下がった菫は魔法のメダル手に念じた。
 竹や木を埋め込み、巧妙に、それでも事情をしっているなら認識できる程度に隠した枠から埴輪が飛び出した。東洋の古代の兵士を模した土くれ人形。全身を硬く焼き固められたその身体は刃物や槌系統の武器以外では傷を付け難く、鋼の如き頑強さを持って犬鬼の群れへ向かう。
 犬鬼達は突然現れた埴輪に一瞬驚くもたった一人――一体と知ると雄叫びを上げてそれぞれ剣を掲げ、一斉に振り下ろす!
 まるで槍玉に上げるように葛城丸へ犬鬼達が襲う。しかし葛城丸には傷一つも付けられない! むしろ自分自身を囮にでしているようで、犬鬼を一匹一匹と確実にダメージを与えていくではないか!
「ロック、破壊の光発動!」
 主の命を受けた石の巨人は両眼から光線を発射する。回避も受けも不可能な必殺の技だ。
 閃光が視界を染め上げる。斜線軸にいた伊達兵達は眩さに顔をしかめつつも咄嗟にその場をのく。
 破壊の光が犬鬼達を一掃した。
 サスケはスクロールを手に場に合わせた支援も行う。ストーンゴーレムと埴輪を率い、数に勝る犬鬼達に遅れを取らない。
 控えていた討伐隊の主力と合流した陽動隊との連携もあるだろうが、彼のゴーレムの用兵は戦線を支えるに充分に足る物だ。
 数の上では負けている。だが戦闘は拮抗している。
「第二、第三小隊突撃して下さい!」
 長引く前に一気にカタを付ける。誠一は予備戦力含め全ての戦力を投入させる。
 二体のスモールアイアンゴーレムは鋼鉄の双腕を地面に叩きつけた。人程の大きさしかないものの、全身が鉄で出来たゴーレムは凶器そのものの腕を犬鬼へ見舞う。斬りかかろうとした犬鬼はその顔をひしゃげられ盛大に飛んでいった。
 この二体のゴーレムは誠一の指揮で動いているという訳ではない。
 主のシャノンが予め、『範囲内の犬鬼を攻撃』と命令していたのだ。とにかく目に付いた、近づいてきた犬鬼達を攻撃し続ける。サスケや誠一、誠一揮下の伊達兵達とは独立して動いている。
 勿論場に適した命令を与えた方が効果的だが今その命令を与えるべき主はいない。更に強力な上に鉄の塊ゆえに犬鬼程度では傷一つ与えるのも難しい。
 放っておいても勝手に犬鬼を倒してくれるだろう。
 そして、ゴーレムと埴輪と、足軽達の猛攻によって犬鬼達は気付かなかった。
 別働隊が回り込み、既に砦の側面に取り付いてる事を‥‥‥




 ウォールホールで突入した別働隊の動きは実に迅速なものだった。
 アシュレイを先頭に菫とシャノン。そして精鋭や志願を募った足軽達。少数精鋭による一点突破により曲輪を抜け、犬鬼族長が座する本丸の近くまで彼らは接近している。
「くたばれっ!」
 アシュレイのスマッシュEXが犬鬼戦士を絶命させる。遥か西洋のウーゼルの剛剣。使う得物が東洋の武器だろうと彼の剣技は如何なくその実力を発揮する。
 実際砦の構造はある程度似通っている節がある。事前に砦の地図を見ていた、という事もあるが彼ら別働隊の動きは実に早い。迷うことなくここまで上り詰めている。
 スクロールを広げる。稲光がシャノンの周りを走った。
「ライトニングサンダーボルト!」
 稲妻が走る。斜線上にいた犬鬼を焼いた。
 疾走し駆け抜け様一閃。犬鬼戦士を横薙ぎに払ったアシュレイは叫んだ。
「このまま本丸に突入するぞ! 俺に続け!」
 応! シャノンと足軽達は大声で、菫は乙女的にちょっとボリュームを下げて応える。
 助走を付けた蹴りが戸を蹴り飛ばす。突然の乱入者に眼を剥いた犬鬼達は一瞬たじろいだ。だが直後、狼のような叫び声が木霊する。
 犬鬼の群れを率いる長、犬鬼族長だ。
「ええい、邪魔だ!」
 群がる犬鬼達を捌きつつ舌打ちする。アシュレイは日本刀を巧みに操り応戦する。
 犬鬼達は己の長を護る為、身を挺してアシュレイの壁になる。捨て身の防御陣形が鉄壁の守りを形成しようとするが、一陣の風が駆け抜けた。
 花も舞い散る疾風の剣撃。軽業師のような身のこなしを持って両者の間に立った菫が、眼にも留まらぬ早業で霞小太刀を繰り出したのだ。
 彼女は花咲かす手と呼ばれている。その名の通り、斬り付けられあまりの鋭さと速さで転瞬遅れ、犬鬼に赤い花を咲かせた。
「雑魚は引き受けますわ。アシュレイさんは犬鬼族長を」
 アシュレイは彼女の技に感嘆しつつ頷いた。彼は動体視力は優れているし見切りの技も卓越している。負けてられない、と渇を入れた。
 シャノンのグラビティーキャノンが活路を開く。重力波が範囲内の犬鬼に叩き付けられ転倒させる。ソルフの実で失った魔力はある程度回復している。使ったアイテムは依頼終了後に依頼人から請求できる筈だ。
 スクロールを広げ炎の鳥が現出する。
 次のターン。炎を纏ったシャノンが一体の犬鬼へ集中突撃する!
「焼き尽くせ! ファイヤーバード!」
 後方支援だけがウィザードじゃない。戦法によっては近接戦闘でもその真価を発揮するのだ。
 足軽達も槍を手に犬鬼を相対する。アシュレイもまた、場を抜けて犬鬼族長と相対する。
 人と魔物の差異はあるものの、互いに優れた剣術家である両者は同時に思った。
 ――こいつ、出来る!
 犬鬼族長の剣が迫る。
 アシュレイは聖騎士の盾で受け応戦する。
 この剣筋、この技の冴え。確かに普通の犬鬼や犬鬼戦士とは違う。その上鉱物毒が塗られた剣は通常の剣以上に厄介で、アシュレイも迂闊には踏み込めない。解毒剤は持参しているが使ってもいい余裕は当然与えてくれないだろう。
「――!」
 一瞬の見切り。卓越した動体視力は犬鬼族長の剣筋を見抜いた。
 盾で受け、必殺のスマシュEXが犬鬼族長を討ち取った。




 犬鬼族長を破り、野戦で敗れた犬鬼の主力を、砦内に残っている犬鬼諸共伊達の主力と挟撃する形で殲滅戦に移行した伊達軍は、壊走する犬鬼達を次々に打ち破っていった。
 片側の数が少ない別働隊であったが、砦にいるという事もあり、それの有用性を活かし砦に引き返そうとする犬鬼達を迎撃したのだ。更に追撃してくる伊達の主力部隊とゴーレム達。大方討ち取り、また、他所に逃走しようとする犬鬼へは追撃隊を募りそれが向かっている。
 砦にはゴーレムと埴輪と冒険者、多くの伊達兵達が事後処理を行っていた。
「戦は勝つ事よりも、勝った後の処理が重要にして面倒ですからね」
 そう誠一も苦笑したものだ。彼はこの砦の再建を提案し、通ったので修築作業の監督として忙しく駆け回っていた。
 元を正せば源徳の領地。近い内に源徳との戦争が再び起こるかもしれない以上、こうやって使えるものは何でも使っていかなければならない。
 ちなみにサスケは負傷兵の治療に回っている。
 やる事は多い。他の冒険者達もまたそれぞれ出来そうな事に手を付けている。
 ただ敵と戦うに比べ、その作業はひたすらに面倒で手間がかかった。