源徳討伐軍包囲戦

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月07日〜09月12日

リプレイ公開日:2007年09月16日

●オープニング

――まあ、よく見てみれば物騒な事もあるもので





「若! 伊達の軍勢、我が軍のおよそ三倍。既に物見櫓より視認できる距離に布陣しているとの事です!」
 偵察に出ていた斥候から報告を受けた部隊長は表情を歪ませた。手に持つ軍配をもう片方の手で苛立たせるように叩き熟考する。
 先の乱に敗北した源徳軍。奥州の独眼流、伊達政宗は江戸城に入城し江戸の支配を磐石たるものにしようとする中、源徳軍は勢力を盛り返そうと三河など己の影響力が強く残る地に移り、また潜伏するなど様々な行動を行っていた。
 彼らもその一つだ。
 敗戦後、諸事情で江戸の土地から脱出できなかった彼らは、かつて山岳地に建設され、重要性が低いとされ廃棄された砦に移る事にした。
 廃棄されて新しいそれは、比較的損傷も少なく、修繕も早く新たに居を構え反撃の機会を待つに相応しい環境にある。その上山岳地という事で切り立った、急激な崖。交通の便も悪い事から身を隠し易い上に他人が寄り付かない事もあり、この地を拠点に散った同胞を探し、迎え入れるなど戦力の増強にも努めた。
 今は同じように他の砦に居を構える同胞と連絡を密に取り、各種訓練に同胞の探索、情報収集に日々を過ごしている。
 しかし戦準備を整える今。その平穏は跡形もなく崩れ去っていた。
 残党の潜伏を知った伊達軍が討伐隊を派遣したのだ。
 いや、同胞を探していたのだから、どこかで源徳ゆかりの者がいるかもしれない――。秘密は秘密になりえないものなのだ。
 砦に向かってくる討伐隊は当砦の戦力のおよそ三倍。まともに考えて勝てる数じゃない。
 そこで彼は最も近くの味方の砦に援軍の要請をした。受け取った返書によると至急支援に向かうそうだ。
 だが、この状況と砦間の距離。どう考えても間に合わない。
 斥候の報告によると早朝に伊達軍は突撃してくるとの事で、距離から考えると援軍の到着はそれから一刻後と思われる‥‥‥。地理的状況からすれば、急勾配だったり切り立ったりしている崖の間に一本の道がある程度だ。部隊が通れるぐらいの幅がある。
 崖の上には岩石や山林伐採の途中で廃棄されたと思われる木材が大量に見られる。近くに森もあるし聞けば山師や木こりの住処後があったようで山林事業を行っていたらしい。崖の上から射掛けたり岩を落すなんてのも考えられるだろう。
 ちなみに砦そのものは重要性云々のおかげで堅牢に作られてないから篭城戦は論外だ。
 何はともあれ援軍が到着するまで砦を死守し、援軍と共に伊達軍を包囲・殲滅しなければならない。
 こちらには勇猛を馳せた冒険者がいる。江戸に潜伏させている工作員が上手い事やってここに連れ、各種戦術の教官として働いてもらっている面々だ。この状況、彼らも生き残らなければならないので是が非でも協力しないといけないだろう。
 冒険者は各小隊の小隊長。希望があればフリーで動くのも認める。強引だがこの際認めてもらうしかない。
 部隊長は決断し軍杯を掲げる。
「冒険者達を呼べ! これより会議を始める!」
 こうして伊達の討伐隊の迎撃戦が始まった。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0276 鷹城 空魔(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

 砦の本丸。
 この砦に陣を構える残党軍の指導者たる若侍を中心に、数名の部下の侍と冒険者達は議論を交し合っていた。
「なんとか持ちこたえればいいんだろ? だったら、まず正面に部隊を投入して、迂回した味方部隊を側面からぶつけたらどうだ?」
 地図を前に、鷹城空魔(ea0276)は部隊の展開や攻撃の手順を説明する。
 相手側からしても地形の関係上、何か仕掛けてあると思うだろう。だが相手側に有利だと思わせるのも作戦の内だ、と空魔は言う。しかし戦いは生き物。そう思う通りに事が上手く運ぶのかという疑問もある。
「‥‥‥これがうまくいけば地の利がある俺らが有利に立てるけど、数の問題で完成するまでがチト厳しいんだよね」
 諜報や工作活動に長ける忍者ならではの優れた作戦である。職業柄この手の知識に長けている彼は、畑違いとはいえ作戦立案も一通り可能なようだ。
「砦の死守か。味方の援軍が来るまで、出来る限り敵の数は減らしておきたいところだな」
 繰り返される議論の中、眼帯のナイトは呟いた。
 世界最強と謳われる、壬生天矢(ea0841)だ。筋肉質で体格にも恵まれた、歴戦の勇士である。彼の評判を聞く限り、誉れ高い幾つもの武勇を築き上げたらしい。その中で『少女教育達人』何ていう聞き様によっては激しく人間性を疑いそうな称号はどういう経緯で手に入れたのか気になる所である。
 まあそんな事はどうでもいい。ああでもない、こうでもないと議論を繰り返す中、上杉藤政(eb3701)は案を上げた。
「私としては、地形と資材を最大限に活用した戦いが一番であると心得る」
 様々な書物を紐解き、細く険しい陰陽の道に身を置く藤政は戦争をどう見るだろう。
「最初の頃は崖の下の部分での戦いがメインとなるであろう故、その隙に砦に近い部分に木の壁を建設‥‥‥というのはどうであろうか」
 兵に英気を養っていただくのも重要であるが、だれてしまう方が危険だ、と彼は言う。
「この壁は縄で上を結んであるゆえ、くぐれば味方は簡単に通り抜け可能なものにしたい。攻めてきたら木の壁があったでは、絶望的となろう? そこに後方から丸太を落とすなどの奇襲を行えば、パニックに追い込めよう」
 中々に優れた案である。だが源徳侍からは「壁作りなど時間がかかりすぎる」「所詮戦さ場を知らぬ者の台詞よ」と批判的である。
 今の状況から鑑みれば源徳侍の言う事も一理ある。だが同時に藤政の案も有効性は高い。
 誰かが案を上げる度に誰かが否定する。
 議論は全く進まない。
 その中で天風誠志郎(ea8191)は違う可能性を考えていた。
(‥‥‥どちらにしろこちらの動きが上手くいけば問題はないが、内通者が居ないとも限らん)
 普通に考えれば負ける可能性の高い戦である。よほど優れた軍師でもいなければ難しい状況には違いない。
(仮に裏切られたとしても伊達軍が信じるとは思わんが、情報を流されたりこちらに工作を仕掛けられては厄介だ。不用意に抜け出す者が居ないか警戒を強めておく必要があるな‥‥‥)
「誠志郎殿。貴公はどう思われる?」
 残党軍の主の若侍は意見を伺う。誠志郎はふむ、と前置きする。
「何もしなければジリ貧になるのも事実。俺は――」



 その後更に議論が交わされ、今まで上げられた案を混ぜ、切捨て、ようやく一つの作戦が実行に移される事になる。
 ちなみに、山下剣清(ea6764)は石を落すとか部隊編成とか、彼なりに色々考えていたものの、いつまでも続く議論に飽きて砦の女人衆を口説きに回っていた。さすがはナンパの達人にして剣豪。この状況だというのにもの凄く肝の据わった男である。




 空魔率いる先発隊が撤退してくるのを見て、第二陣は出陣の準備を整える。侍を中心とした部隊を率いる天矢と多くの足軽を率いる夜十字信人(ea3094)は、砦の門前で合図が上がるのを待ちわびていた。
 作戦目的そのものは友軍が到着するまで持ちこたえる事。作戦終了後は伊達に砦の位置を知られてしまった以上、そのまま別の地に移動するとの事で、別に荷駄隊を編成し撤収準備を行っている。
 冒険者達にも、どこに行くのかは知らされていない。彼らは依頼によって伊達にも雇われる事もあるし、何より軍隊の事情にこれ以上付き合わせる訳にもいかない。合流した友軍と伊達の討伐隊との戦闘後、適当な所で別れる手筈になっている。
「今のご時世落ち着いて仕事出来る訳もないがね、俺達が居る時に攻めて来んでも良いだろうに。簡単な筈の仕事が‥‥何やら貧乏くじを引いたようだな」
「だが信人。こちらとて楽観できる状況でもなかろう」
 個々の戦闘能力では足軽や侍に対し圧倒的に優位に立っているとはいえ、相手は軍隊。個人がいくら優れた技を持とうと組織力の前では抵抗は難しい。今回の戦いにおいてもどう立ち回るか、がひどく重要である。
 斥候が行ったり来たりする中、誠志郎がようやく場に顔を出した。今まで内部調査を行っていたらしい。
 一人の斥候を捕まえて報告を聞く。舌打ちした。
「動きが早い。それも短時間にこれだけの兵を集めるか。どうやら厄介なようだなこの砦は」
 だがそれを差し引いても伊達の動きは素早い。まるで、誰かが手引きしているような‥‥‥
 轟音が聞こえる。合図が鳴り兵達は出陣の合図を待つ。
 信人は自らの手勢に言った。
「この戦場が死に場所だと思うなら、遠慮は要らん」
 そこで一端区切り、
「生き残れとは言えん。だが、自分が決めた死に場所意外では死ぬな‥‥‥」
 人斬りと呼ばれた男の、数多の死地を潜り抜けた故の言葉である。同じ武に生きる侍達はそのひとつひとつを噛み締めるように聞き入る。
 戦闘馬に跨り誠志郎は霊刀を抜く。とにかく今は自分の役目を果さなければいけない。調べた限り、内通者は作戦行動中に移るとの事だ。
「開門せよ、波状攻撃を仕掛ける!我らの武名を伊達に知らしめるのだ!」
 出陣する。




「弓隊、僕に着いてきてください!」
 空魔率いる先発隊を追って来た伊達軍の第一陣を落石や射撃で壊滅させた別働隊は、迫る伊達の第二陣を迎え撃つ為移動を始めていた。
「伊達軍の指揮官は第二陣の最後部にいます。こちらの本隊の動きに合わせ、攻撃を始めて下さい」
 弓隊率いる沖田光(ea0029)を始め、崖を上り、そのまま後方へ周り撹乱を仕掛けようとする空魔やその他面々へ白面の陰陽師は言う。今回の現場指揮を取る宿奈芳純(eb5475)である。
 貸し与えられた地図の上にダウジングペンジュラムを垂らし、敵指揮官始め伊達軍の現在所を調べる。近頃このアイテムに頼る冒険者が増えている。ただの占いグッズなのだが、意外に当たると評判だ。
「地の利はこちらにありますが‥‥‥。数は向こうが上ですか」
 ババ・ヤガーの空飛ぶ木臼に跨り中空へ飛ぶ。上空より敵の状態を見つつテレパシーで仲間へ情報を伝える。冒険者達はそれに従い友軍へ指示へ飛ばす。
 それにしても空飛ぶ木臼に乗る、白一色の面を付けた巨漢の陰陽師。中々シュール‥‥‥と言うより、本人には極めて失礼だろうが結構不気味な光景である。デビルと言われても信じてしまいそうだ。
 まあそんな事はどうでもいい。
 天矢と誠志郎率いる部隊が伊達軍と衝突した。
「天壬示現流! 総員押し込め!」
 敵陣に切り込む最強の騎士。黄金と銀で装飾された名剣を振りかざし戦線を切り開く。もう少し身軽であるならば、『乱舞』という天壬示現流――本人談――の技も使えただろう。だがその代わりにアヴァロンの名を付けられた黄金の盾を持ち防御を固めている。こういう局面では防御に気を配ったのは正解かもしれない。
 スマッシュの剛剣が足軽を両断する。
 霊刀を手に切り結びつつしつつ、誠志郎は味方含む兵の動きを見定める。
 今はまだ、特別目立った行動を――離反する者はいない。それとも戦いに紛れて判らないだけか。
 天矢のような剛剣とは違うものの、ポイントアタックやカウンターアタックなど、技を駆使し伊達の軍勢と渡り合う。
 そこへ光のファイヤーボムが撃ち込まれた。直径30mを焼く炎の球。突然の火球に襲われ伊達兵達に動揺が走る。
「このジャパンでもデビルが跳梁跋扈しているらしい今、ほんとは人間同士で争ってる場合じゃないんですけどね‥‥‥。今です!」
 弓隊が射掛ける。火に追われ、矢に射掛けられ、更に前方から攻められる。ほぼ同時に行われたそれに伊達軍は対処できず混乱の最中にあった。
「密集しなければ砦を攻められず、密集すれば焼き払われる。さて、どうします? 僕としては、このまま穏便に帰って貰いたいんですが」
 崖下の伊達軍を見つつ、魔法の炎を生み出しながら彼はひとりごちた。
 数が同じならこのまま呑み込めるだろうがそのようにはいかない。このまま混乱から回復し攻めきられるのは眼に見えている。
(空魔さんが回り込むにはまだ時間がかかります。援軍もまだですし、もう少し時間を稼がなければ‥‥‥)
 どうやら敵指揮官は有能らしい。見る限り混乱を収拾しつつあるようだ。
 同じく場を読み取った芳純がテレパシーで状況を伝える。そこへ遅れて信人率いる歩兵部隊が到着した。騎馬を含む天矢や誠志郎と違い、歩兵の足軽中心に構成された部隊だ。編成の関係や行軍速度など、本来真っ先に敵と衝突する筈であったものの、命令の行き違いや議論の際一部の将兵の恨みを買ったやらで指示が遅れていたのだ。こんな状況でどうかと思うものの、軍隊並び組織というものは概ねそういうものである。
「踏み込め!」
 足軽が横一つに並び槍襖を作る。――先発していた天矢や誠志郎の隊は攻撃の際、勢いで敵中央部へ食い込んでいる。押し分けられた陣形を崩された伊達兵達へ信人の隊は槍衾で蹴散らしていく。
 斬魔刀の剣圧によって生まれた凄まじい衝撃波が伊達兵を蹴散らした。
「俺の生き様はこの太刀の如し。悪いが心も血も涙も無いぞ‥‥‥」
 神聖騎士としては世界最強と謳われる信人は迫る足軽達に怯みもせず斬魔刀を構える。全ての魔物を切り裂くといわれる破魔の太刀。刀身が陽光にきらめき――
「死にたくなければ退け!」
 一気に薙ぎ払う!
 多勢を相手にしているのにも関わらず迷いも怯みもしない剣捌き。ただひたすらに眼の前の敵を倒す――これこそが世界最強と謳われる所以だろうか。
 それでも数の差は強力だ。戦闘の合間を縫っていくつかの小隊が突破した。
「抜かれたか!」
 だがそれを追えない。今向かうと膠着している戦況を崩されてしまう。
 その小隊を剣清の隊が迎え撃った。
「読みが当たったな‥‥‥」
 霊刀オロチを抜き――鎌鼬のように斬り捨て駆ける。
 彼は信人や天矢ほどの名声はないものの、戦闘能力においては二人に並ぶほどの剣豪。彼自身率いているのは一小隊程度であるが突破してくる伊達兵達を殲滅させていく。
 伊達軍の背後を空魔の隊が強襲した。
 龍の爪が敵総大将らしき侍を切り裂く。
「敵将、討ち取ったぜ!」
 それと同時に援軍が到着する。そしてまた、内通者を発見した誠志郎。
「鼠か。動かれると面倒だ。始末しておかねば」
 芳純のテレパシーを受けた藤政は崖の上に温存させていた兵を投入させる。
「援軍は到着した! 一気に撃破するぞ!」
 砦の防衛は成功した。荷駄隊は先行して脱出している。
 そして、援軍と挟撃しつつ移動を開始した。