己の見栄を切りとおせ
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月18日〜09月23日
リプレイ公開日:2007年09月26日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
現在、独眼流の名で知られる伊達政宗が治めるこの地は、戦後の事後処理で何かと忙しいがそれなりにかつての活気を取り戻していた。
立ち寄る旅人や商人は、源徳時代とは勝手が違ったりそもそも伊達家に支配権が移った事も知らない者もいるがそれなりに日々を過ごしていた。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
彼は今、ある意味人生最大の危機に陥っていた。
昼下がりの街。眼の前には一組の男女が腕なんて組んで仲睦まじく歩いている。
「ねえ慎一郎。今日は何が食べたい?」
金髪の少女は少年に伺う。恋人‥‥‥夫婦だろうか。少年の方はどうやら侍らしいし、侍ならこんなに若い夫婦というのもあるだろう。
だがそんな事はどうでもいい。肝心な事は、そう。あいつとのやり取りだ。
つい先日、引っ込みつかなくて別にそうでもないのにポロっと言ってしまったのだ。
「山菜料理は昨日食べたし、洋風は何かと脂っこいからね。さっぱりなものにする?」
他にも言い様があったのに何故あれだったんだ?
「それとも、違うものにする?」
口にしてしまった以上、もう後戻りは出来ない。
「た・と・え・ば、ボクとか? うふふー♪」
眼の前のバカップルをぶち殺してやりたい。
目線を変えてみる事にする。
二十かそれの少し前ぐらいの美人さんと童顔な男の子。刀を差している辺り二人とも侍のようだ。
「待て待て正春。お前はまだ子供なんだから、こっちにするんだ」
姉弟だろうか。見た目の年齢からそう伺えるけど顔は似ていない。でもまあ、身なりがそれとなく立派な所から良家の出だろう。
だけどそれはそれ。こちらの抱える問題には関係ない。
ジャパン男児たるもの、一度口にした以上は後には引けない。ギルドにお願いして一日付き合ってもらうよう取り計らってもらったのだ。
「背伸びしたい年頃だというのは判るぞ? だがな、歳相応という言葉もある」
一日彼女の用意をさ‥‥‥
「だがどうしてもって言うなら別に構わないぞ? さ、最近はまあ、男らしくなってきたからな? やり方は相当問題はあるが」
眼の前の美人さんは急に赤面したりどもったり。美人は何をやっても絵になるものだ。
あの手の人は普通ならどうって事もない事でイベントフラグが立ったりするんだよな。逆にそれが良いって言うか。
こちらも切っ掛けは些細な事だったんだ。お菜美のやつ、どうせ俺の事だから彼女なんて出来ないって。黙ってられないぜ。俺だってさ、江戸っ子の端くれ、彼女を作ろうと思えばいつでも作れるんだ。ただ作ろうとしなかっただけ。
「私としてはだ。ああいうやり方はもう少し順序を踏むべきというか、段階を踏むべきというか」
何でだろう。今日はカップルデーなのか? 世の中の独り者に対し喧嘩を売っているのか?
‥‥‥話しを戻そう。
そしたらあいつ、馬鹿にしやがったんだ。むかついたから彼女がいるって言って、なら見せてみろって。俺も言い返してやったら自分はもう彼氏いるって言ったんだぜ? うそ臭いぜ。
だけどまあ、ああも見栄を切った以上は最後まで遣り通して見せるぜ。冒険者さんには迷惑だろうけど、彼女を演じてもらう。その他大勢の人は、エキストラとして細かい事やってもらおう。
あいつに彼氏がいるのは、何故か凄く悲しいのだけど。
「どういう意味だって? そ、それは私は、その‥‥‥ああもう! いいじゃないか! 正春のばか!」
眼の前のバカップルを以下略。
彼女は今、人生の危機に陥っていた。
言ってしまった以上、後には引けないからだ。
昼下がりの街並み。眼の前を歩いているのは肩をいからせている女性と何とかご機嫌を取ろうとする男性。両方とも刀を下げているけど、身なりからして浪人だろうか。
「式子、そんなに怒るなよ。ほら、ついムラムラっとさ‥‥‥」
喧嘩‥‥‥しているのかな。見ようによれば、私もそうなのかな?
そう。ただ、言葉のアヤなのだ。会話の流れからそうなって、ちょっとからかうつもりで言った。他にネタはあった筈だけど、勢いで、こう。
「頼むから許してくれ! 俺だって健全な男なんだ。お前みたいな可愛い女の子と一つ屋根の下にいたら、間違いを起こしてしまうのは当然じゃないか! ああそうさ! 開き直りさ!」
そしたら菊治のやつ何て言ったと思う? もう彼女がいるって! 冗談じゃないわよ!
馬鹿にして、許せないわ! だから言ったの! もう彼氏がいるって!
「そういう訳だから機嫌直してくれよ! 今後とも我慢はなるべくするからさ!」
このご浪人、すっごくかっこ悪いな。
男の謝り方はとにもかくにもまず土下座、とどっかの執事が言ってた気がするけど、端から見ると情けないな。
でもまあ、それは他人さまの話しだ。こちらの問題とは関係ない。
それならという事で、今度の休みの日、お互いの彼氏彼女を見せ合おうという話しになった。ついでにダブルデートをする流れに。皆は呆れて見ていたな。
「ほら、謝罪の意を込めて何か奢るよ。そうだな‥‥‥このかんざしなんか似合うと思う」
菊治のやつさ、あそこのご浪人さんみたいに、たまには優しくしてくれたっていいんじゃない?
ギルドにお願いにいって冒険者調達して、私がどれだけいい女か見せつけよう。わたしにあんな暴言はいた事を泣いて詫びさせるのだ。残りの冒険者さんは色々小細工してもらおうかな。
だけどさ‥‥‥菊治は見てくれだけはいいし、彼女がいるって聞いた時、判らないけど胸が痛かった‥‥‥
「うんうん。綺麗だよ」
嗚呼。このバカップルを捻り潰したい。
二人の見栄っ張りの、意地の張り合いである。
●リプレイ本文
「まあ、あれだな。ダブルデートとか意地の張り合いとかそーいうのはいいとして」
客引きや他愛無い会話など、喧騒が聞こえる茶屋の前。雲一つない空の江戸の街。かんざしや各種装飾品が店々の軒先に売られ若い娘や老若男女、連れ合いの姿を多く見かける。
所謂一つのデートスポットというやつだろう。耳を澄ませば女性が男性に甘える声も聞こえたりするし、腕とか組んだり甘い言葉を交し合ったり、腕なんか組んで独自の世界をそれぞれ×連れ合い分形成していたりと、独り身がその場にいたりするとあまりの桃色オーラにバリアを張られているかの如く足を進めないに違いない。
というか同じ空気も吸えやしないだろう。
カップルとはある特定の人種に対して最大最強の攻撃力を保持する超兵器。各々が持つ独自のフィールドに侵食しようとする者など、日光を浴びた吸血鬼みたく滅してしまうものなのだ。
まあそんな事はどうでもいい。約束の茶屋の前にやって来たリフィーティア・レリス(ea4927)は、きりきり頭痛のする頭を抱えて呟いた。
「俺は男であって、この場合お菜美の相手するのが普通なんじゃないのか?」
夜闇を彩る、きらめく星の川のような流れる美しい銀色の髪。儚く淡く、天に住まう汚れを知らぬ天女のような白い肌。あまねく全ての宝石すら霞むエメラルドの瞳。
生まれはエジプト職はジプシー。九曜に並ぶ内の二つの、最凶最悪の天下の大凶星の加護を受けんばかりの不運に見舞われた感の、清楚で可憐で儚い印象を受ける美青年である。
著しく描写が間違っている気がするが、リフィーティアはその容姿から、持ち主に不運をもたらすとされる鬼神の小柄を二本所持している影響もあるかもしれないが、相対するほとんどに美女に間違われたりしている。彼に極めて失礼な話しではあるが、染色体に問題がありそうな程の美女っぷりである。
まあこの件はおいおいどうにかするにして、御陰桜(eb4757)は至近距離でにらみ合う依頼人――菊治とお菜美を微笑ましそうに見つめながら言う。
「素直になれないコ達のお手伝いなんだから、我が侭言わないで頑張りましょう♪」
相当ノリノリである。
リフィーティアに対して桜、彼女は普通に人遁の術を使って化けていた。元が結構な美人であるからか、化けている今も相当な美男になっている。道を歩く人もちらちらとリフィーティアと桜を見ている。当然、その連れ合いから文句を言われたりする光景を見受けられるのだが。
「ステラ‥‥‥謡い手の方のだけど、あいつの話しでは俺がお菜美の相手で桜が菊治の相手だったろ? この状況と面子じゃ言っても無駄だっていうことはわかってるけどさ」
何か自棄になっている様な気がする。というかメイドとかメイドとかメイドとか、己の美女っぷりで散々な眼にあってきているのだが。
「ていうか、デートコースの中に柳亭って何か間違ってないか」
メイド喫茶柳亭。店長が厳選に厳選した美女・美少女達が出迎えてくれる男にとってはある意味パラダイスな店である。
ちなみに萌えという名の冥府魔道に生きる戦士達の魂の安息の場であったりする。
「デートコースで外せないのは柳亭よねぇ♪ リフィーティアちゃんの晴れ姿をお牧ちゃんやねね子ちゃん達にも見せてあげなきゃ♪」
「お前が仕組んだのかよ!」
まあ、今更である。
その話題のメイド喫茶柳亭。今、新人の美女メイドのデビューによって彼らの魂は更なる解放を迎えていた。
「グッジョブ! グッジョブだよステラたぁ〜〜〜ん!!!」
「その見えそうで見えない布面積の、きわどい胸元がいいネ!」
「ていうか見せてくれ!」
「ふざけるなアホウ!」
暴走気味‥‥‥というか既にゲージ振り切っているばかりの連中の一人を、別の客が殴り倒した。セクハラしるようなやつには当然の結果だろう。
長い銀髪に白い肌。線の細い雪の妖精のような女性、ステラ・デュナミス(eb2099(同名PCがいるので以後、メイドステラ)。その細身の割りにアンバランスな大きな二つの膨らみを持つ‥‥‥何とも男の本能を刺激する女性だ。その上美人とくれば完璧である。
彼女は、京都支店での柳亭で色々面倒な事があったから、江戸の本店でも‥‥‥と思っていた所、見事に的中したらしい。
「馬鹿かお前! 見せてくれなんてよくそんな事言えるな!」
全くその通りである。メイドステラはたまりつつあるイライラを抑えながら頷いた。
「あれは。あれは‥‥‥見るものじゃない!」
どこか微妙に引っかかるような言い方であるが、まともな客もいるんだな、と感心する。
「あのお宝な‥‥‥世界人類半分のお宝は! 想像して楽しむものなんだ!」
お客さんは声を大にのたまった。
「いいか、よく聞け! 勿論俺も見たり触ったり楽しみたい! だがしかし! 妄想こそ真の楽しみがある!」
「俺だって、ステラたんで軽く百通りの妄想はしたぞ!」
メイドステラに鬼のような速攻の速さでさぶいぼが立った。
「それだけか! 俺なんてもっとだ!」
「教えてくれ! 凄く気になる!」
「それは‥‥‥こうで‥‥‥そして‥‥‥ああん! これ以上は恥かしくて言えないよ〜〜〜ぅ!!!」
悶えまくる変態達。
「‥‥‥‥‥‥」
メイドステラに漂う凍てつく冷気。空気が氷結する。
男達の魂は更なる高みへと昇華する。
「さあ! ステラたんを舐めるように嬲るように這うようにじっくり見るのだ!」
血走る数多のマナコ。ほぼ同時に食い入るように凝視する。
「‥‥‥フッ」
何かキレた音がして、
「アイスブリザードッ!」
氷の嵐がメイド喫茶を蹂躙する。
「もし、そこの方々」
菊治とお菜美が、それぞれの相方と腕を組んでこれでもかと仲がいいのを強調しながら街を歩く中、一行は占い師に呼び止められた。
ステラ・シアフィールド(ea9191)。謡い手を生業とする、ウィザードである。
あからさまにラブラブ感を醸し出しながら練り歩く一行はいかにも胡散臭げで、リフィーティアなんか野郎に腕を組まれていちゃつく振りをしなければいけないのでかなり消耗していた。
「‥‥‥‥‥‥」
派手さを抑えた、それでいて清楚なリフィーティア(の外見的印象)に良く似合う女物の西洋服は、普通に似合っていてこのように男と連れ合っているのに何の違和感もなかった。
乙女とは、彼女(彼)の事を指すのだろう――そんな感じである。
「‥‥‥‥‥‥」
依頼の為とはいえこの状況、いっそ刺しちまうか? なんて思ったりするのもしばしば。見た目は美女でも性別は男。やっぱりこういうのは可愛い女の子や美人さんとしたいものである。
そんな光景を見たステラは、決めていた予定と違うと怪訝に思ったものの、とりあえず自分の役目を果す事にした。
「占い師さんですね! 桜さん、相性を占ってみましょう!」
お菜美が言う。菊治を一睨みし、見せ付けるように大振りに振舞う。
「俺達も占ってもらおう! あいつに負けてられるか!」
むしろ負けてくれ。これで勝っても人として負けてしまうから。リフィーティアはかなり本気でうなだれる。
それでは別々に、とお菜美を先に占う。
実はステラは本職の占い師ではなかったりする。
今回の依頼で、占い師に扮して行動しようとこの場にいるのだ。そもそもこの場に至るまで、各種手段を用いて二人の情報を収集し、更に当日の今日、一行の後を付け様子を伺い、先回りして両人に声をかけた。
ウィザードなんて一般人からしれば怪しいイメージもあるし、占い師と称しても真偽は判らないだろう。
今まで得た情報を整理し、それっぽい事を言ってお菜美の信頼を得つつあった。
「‥‥‥このデート事態が偽りですね」
「うっ!」
どこぞで調達した水晶球に手を掲げ、それとなく雰囲気を作る。封魔の外套のフードを深く被り、更に裏地に縫い付けられた経文は仕草の合間合間に覗ける。
失礼な話だが、それで胡散臭い印象が増して占い師の謎っぽさが際立つ。
ステラは続けた。
「そして貴女様には別に思う方、気になる方が居ますね」
「それは‥‥‥」
隣に立つ桜を伺いステラの次の言葉を待つ。
ふと頭をよぎるのはよくいがみ合うアイツ。だけど、どうしても嫌いになれなくてついつい気になって――
聞きたいような、聞きたくないような。悪い内容かもしれないと、お菜美の心に不安が渦を巻く。
フードで窺いにくいが、ステラは優しく微笑した。
「此処で虚勢を張らず、ご自身の気持ちを見つめ返し正直になられれば、事態は好転するはずです」
「‥‥‥ほんとう?」
お菜美は、まるで童女のように問う。その瞳は様々な不安に揺れている。
「ええ。現状のままでは状況は悪化するだけですよ」
これで終り、と二人を下がらせ菊治達を呼ぶよう促す。去り際桜は親指をぐっと立てる。
あいつに負けてられるかと意気込む菊治と付かれきったリフィーティアがステラの前に立つ。
「‥‥‥このデート事態が偽りですね」
「うっ!」
どこかで聞いたようなやり取りを始めた。
「思うのですが‥‥‥」
とりあえず変態達を一通り制圧して、柳花蓮(eb0084)は上品に紅茶を啜った。
「相手居ない同士なら、いっそ二人付き合えばと軽く思うのですが‥‥‥」
「意地を張り合って偽恋人を披露しあう‥‥‥ね。片方に本当に恋人がいて片方だけ偽恋人を見繕って、とかよりは大分マシかな」
柳亭特製あんみつを突付きながらメイドステラは呟いた。つい先刻までの騒動のせいか、一仕事終った後の休息‥‥‥といった風情だ。
店長のお牧の言による、「あんたはお色気属性だからこれを着なさい!」と渡された、お店を間違っちゃうような凄いメイド服を着せられた。魂を解放した変態達はまるでデビルのようにしぶとく、超越なアイスブリザードをついに使う始末だ。世の中は広いと言うか業が深いと言うか‥‥‥人の浅ましさを感じさせたものである。
「でもまあ、世の中そう上手くいかないというのも、面白いですね‥‥‥」
他人事だからこそ、であるが。
「きちんとハッピーエンドに落ち着かせることも出来るし、どう立ち回るか考えものね」
周りには死屍累々の変態達。花蓮とメイドステラにノされた連中だ。
離れた別席に座っている四人を伺う。
何か微妙な雰囲気でそわそわして、互いをちらちら見たりそっぽを向いたりするお菜美と菊治。桜おねーさんの匂いがするなー? と、隅の方でそんな視線を向けてくるネコミミメイドにひらひら手を振る桜、そして何故かメイド服を着ている――というか着せられて両手で頭を抱えて突っ伏しているリフィーティア。
何だかよく判らない光景である。
「――むしろ店長さん捕まるかも。弟君も苦労してるわよねぇ」
「え‥‥‥? ええ‥‥‥」
奇妙な四人に気を取られてたからか生返事を返す花蓮。――ふと、後ろからにじり寄る気配を感じた。
復活した萌え戦士。眼の前の二人の天女を目指して匍匐前進。
「さっきは遅れを取ったが‥‥‥俺は負けん! 魂の叫ぶままに! 本能が訴えるままにチミ達を萌えしゃぶり尽くす!」
隠れる気はないのか。声高らかに叫んで跳躍。だけど、
「‥‥‥ブラックホーリー」
聖なる力が邪悪を吹っ飛ばした。天におわす再現神は、彼を悪と認識したらしい。
「とりあえずデートを盛上げる演出を‥‥‥」
まるでなかったみたいに捨て置いて花蓮は席を立つ。
メイドステラはいってらっしゃい、と手を振った。
(もしかして、菊治は私のこと好きなの――?)
占い師にみてもらってから、お菜美の頭は色々なものが駆け回っていた。
菊治と過ごした日々。ほとんど喧嘩したりいがみ合ったり、そんな事ばかりだけど、時折見える優しさが反則で、見た目より逞しくて、こないだはどこかの商家が急ぎの荷を運ぶ傍ら、台車に引かれそうになった時ざっと引っ張られて思わず胸に飛び込んだ形になってもう何が何だか判らなくて。
(でも、そうなら何で恋人なんているのかな‥‥‥)
もしかして、自分と同じフェイク? いや、あれでも見た目は一応以下略。
一方、菊治は。
(もしかしてお菜美のやつ、俺の事が好きなのか?)
占い師にみてもらってから、菊治の頭は色々なものが駆け回っていた。
お菜美と過ごした日々。ほとんど喧嘩したりいがみ合ったり、そんな事ばかりだけど、時折見える優しさが反則だと思う。この間風邪で寝込んだ時とか、見舞いに来てくれて、わざわざ看病してくれたとか他にも色々‥‥‥。
(でも、もしそうなら恋人とか‥‥‥)
もしかして自分と同じ恋人役? いや、あいつは結構可愛いし以下略。
思春期の少年少女は思考ループにはまって軽く熱暴走。
それはそれとして、リフィーティアは本気でヘコんでいた。
「女扱いでも何でもすればいいだろって言ったけど、結構、さすがに‥‥‥」
店長のお牧は、「本当に照れ屋さんね♪」なんて普通に女の子と思っている。今までは恥かしくていやいやしていたと思っていたらしい。
何というか不運ここに極まれりである。桜はそれに追い討ちをするみたく、
「この男の子、リフィちゃんのカレシよ♪」
死んでいる変態達に爆弾発言をのたまった。
「な、なにィィィィ!!!???」
「り、リフィたんに彼氏が!?」
「俺達のアイドルが! 頼むから嘘だと言ってくれ!」
「世界は終わりだァァァァ!!!」
復活して慟哭する変態達。色々突っ込む所はあるが、彼らにとってリフィーティアは美の女神。ショックも一際強い。
「彼氏という事は‥‥‥毎晩アレなのか」
「ちょっと待て」
さすがにリフィーティアは突っ込んだ。だけど魂が燃え盛り続ける彼らは聞いてない。
「きっとそうに違いない! あんな事も、こんな事も!」
「あまつさえそんな事とか! 泣いてもいいか!」
「だから待てって言ってるだろ! そもそも俺は男」
荒波のように続く慟哭によりそれは遮られる。
そんな騒ぎの中花蓮はお菜美と菊治の下へやって来た。お菜美を見て、涙ぐむ仕草を見せて菊治へ向く。
「素敵な方ですね‥‥‥。その方が前に言ってた彼女なんですね‥‥‥」
「はい!?」
私が菊治の彼女!? って私をそういう風に言ってたの?
よく考えなくても判るのに、いい感じに頭が煮だっている。更にこの状況、只でさえカオスってるのに更にカオスな様相を見せている。
もう訳が判らない。
トドメとばかりにメイドステラが、
「菊治さんからの贈り物だそうです。花言葉は『秘めた思い』だそうですよ」
小声で囁いてホトトギスを渡す。
(や‥‥‥やっぱり。菊治は私の事が好きなの!?)
野生に返り自分を目指してくる変態達を迎撃するリフィーティア。
魂を解放し迫る萌え戦士を迎撃するメイドステラと花蓮。いつの間にかやって来て紅茶を啜るステラに術を解いてネコミミメイドと談笑する桜。
そして悩める少年少女。
本当に、訳が判らない光景である。