勤しめ! アムドゥスキアス
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月25日〜09月30日
リプレイ公開日:2007年10月03日
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●オープニング
――まあ、よく見てみれば物騒な事もあるもので
私は思うのだが、我らデビルのジャパン侵攻はどうなっているのだろう?
街並みを歩く彼、人間男性に化けたデビルの青年(?)は何となくそう考えた。
空は雲一つない晴天。店々の前に立つ客引きの声や鳥のさえずりもこの平和な日を祝福しているようである。
こういう場所は何か自然心躍る。いや、デビル的にどうかと思うのだけど。
まあそんな事はどうでもいい。彼はこの先を行った店にいるという上司に会いにきたのだから。
大きな店だ。一昔名を馳せた音楽家が経営する店で、弟子に音楽を教える傍ら、楽器の販売を行っているらしい。どうもその音楽家は自ら奏でる音楽は自分で作った楽器で奏でなければ気が済まないタチらしいが、その筋の達人というものは総じてこだわりを持つのが常だろう。彼の上司も職業柄共感を持つ筈である。
「だからと言って、まさか人間如きの弟子に成り下がってる訳では‥‥‥」
一筋いやーな汗が流れる。
彼の上司は数多のデビルの中でも『地獄の音楽家』と称される稀代のデビルだ。
デビル社会では様々な音楽会に呼ばれるほどの名人でもあり、人間の音楽家は、より優れた技術を得る為に魂を引き換えにして召喚してしまう程の実力の持ち主だ。
そう、彼の繊細? な指から生まれいずる音楽は、まるで天使の微笑みのようであり、下界の泉に水浴びに来た天女たちの談笑のようであり、風の妖精が運ぶ涼風のよう。デビル的にはどうかと思うけど、彼の上司とはそういうひと(デビル)なのだ。
だから人間如きの弟子になっている筈がない。
色々というか問題ばかりしか起こしていないし、仕事は放っておいて笛ばかり吹き散らしているし、上司が遊んでばかりだから違うデビルの伯爵とか何とかの下に就職した同輩や後輩達に馬鹿にされまくりだけど、デビルとしての使命は忘れていない筈だ。
きっとジャパン侵攻に重要な何かがあるからいるに違いない。
暖簾をくぐって中に入る。
「へい、らっしゃい!」
デビル社会随一の、地獄の音楽家と呼ばれるデビル。上司のアムドゥスキアスがねじりはちまき・半被姿の何故か異様にキマッた姿と最高の笑顔で出迎えた。
「情けない! 自分は本当に情けないです!」
本日の業務が終って深夜。アムドゥスキアスとその部下は、俺の奢り、という事でいきつけのおでんの屋台で飲み明かしていた。
人間対象の酒――こういう言い方も変であるが――にデビルが酔うのかという疑問もあるが、彼らが飲んでいるのはデビル向けの酒。実はこの屋台のオヤジは人間に化けたデビルなのだ。
ジャパン侵攻が進んでいたりしていなかったりする中、末端のデビル達も任務に応じて出来る事を精一杯頑張っている。このオヤジは所謂娯楽や慰安部に所属するデビルで、前線で活動するデビル達に食事や休憩場所などの提供を担当している。
色々と突っ込む所はあるのだが、デビルはデビルでそれなりに社会が成立しているのである。
彼はデビルの大衆向けの酒を一気飲みしてコップを叩き付けた。
「このジャパンに来訪している諸侯の方々は、忌々しい冒険者達の抵抗を受けつつもジャパン侵攻の為に力を尽くしております! だというのにアムドゥスキアス様は‥‥‥。これでは偉大なるマンモン様に顔向け出来ないではありませんか!」
「まあまあ。落ち着け? あ、大根一つ」
「何悠長に食事など! 貴方様何故そうも仕事に対してやる気がないのです!」
「デビル的に真面目はどうかと思うんだけどな。ちくわくれ」
「あ、アムドゥスキアス様‥‥‥!」
怒りに顔が歪む。真っ赤に染まるが‥‥‥それと同時に情けなさが表に出る。
「どうした? 食べないのか?」
どこまでもマイペースなデビルである。彼のような類は相当の大物か、それとも単なる馬鹿なのかどちらかだ。
「いやな? 音楽修行に日々を費やしていたんだがな? ウワサを便りあの店言ったんだよ。そしてら音楽の技も大したものだし、何より自ら奏でる音楽には自ら作った楽器を使う、ってのに感銘を受けたんだよ。俺は音を出すのは得意だけど、楽器は作った事ないからな。どうせなら自分で作った自分専用の楽器を‥‥‥って、どうした?」
ぷるぷる震える部下デビル。いやもう本当に、上司に恵まれない部下はどこにおいても苦労するものらしい。
「いつもいつも言ってますが、今日こそ言わせて貰います‥‥‥」
「うん?」
「アムドゥスキアス様は、普段から仕事を放っておいて遊びに行って、そのせいで自分を始めとした部下達は他の仲間達から馬鹿にされています。何度も他のデビル諸侯達から引き抜きの話しは勿論、内応の声もかかりアムドゥスキアス様を共に討って利権諸々を頂こうかという話しはあったんですよ。何度も頷きたかったのですが」
「成る程な。というかお前、そんな事思ってたのか」
「当然です。誰のせいだと思ってるのですか」
酒が回る。失望と落胆で悪い風に酔いが回ったらしい。
「自分は実家に病気の両親と幼い弟妹達がいます。貧しくとも精一杯日々を過ごしているとこの間届いた手紙に書いてありましたし、自分がアムドゥスキアス様に仕えている事を誇りに思っているようで、その上微力なれど尽くせと、そう書いてあったのですよ」
「そうなのか? 照れるな」
「自分は両親と、弟妹達の期待に応えないといけないんですよ。そして功績を挙げて、出世して、いい暮らしをさせたいから、だからその為に」
彼は酔いで真っ赤になった顔を泣きながら、凄い勢いで土下座して、
「お願いですから仕事して下さい! このままじゃ自分、両親と弟妹達に顔向け出来ません! 他の魔王の方々のようにとは言いませんから、人並み(?)に働いてください!」
言い様も何も、相当上司を侮辱した台詞である。というか普段のアムドゥスキアスの言動を感じさせる魂の慟哭‥‥‥彼が不憫でならない。
「わ、判ったよ。そういや昨日、とある怨念から生まれた怪骨の一群がどっかの貴族の離れの屋敷に進軍していると聞いたからな。それに便乗してその貴族の首とるからいいだろ?」
「是非っ! 是非それでお願いします!」
その貴族にはいい迷惑であるが、泣きを見せる部下の為、地獄の音楽家はようやく真面目に、ジャパン侵攻に重い腰を上げた。
京都郊外、人里離れた貴族の屋敷は怪骨の群れに襲われていた。
その持ち主であり只今滞在している貴族は、若い頃より私利私欲の為に人を陥れてきたぶっちゃければ悪人である。
築き上げた財産は山の様。だけどその大半は奪われた人々の血と怨念に彩られていた。
霊感のある人や魔導に携わっている人が眼を凝らせば見えるだろう。彼の貴族に凄まじいほどの魑魅魍魎が巻きついているのを。出家して悔い改めたとして許されるだろうか――そんな具合である。
今回彼の貴族は、秋の景色を楽しもうと遠出して怪骨の群れに襲われたのだ。
ちなみにその怪骨は全て、その貴族に恨みがあった者達の骨。復讐したいという怨念が形となり襲っている最中なのだ。
場所は紅葉美しい林の中。目指すは屋敷中央部。
貴族に雇われた冒険者達は必死の抵抗を続けている。
貴族配下の陰陽師の見立てによると、後数日持たせれば怪骨は動きがただの骨に戻るらしい。
後、何か強大な力を持つ者が迫ってきているとか‥‥‥。
まあともかく、色々な事情を抱える連中がこの場に集まっている。
●リプレイ本文
「グラビティーキャノン!」
突破してきた怪骨達に向けてルーティ・フィルファニア(ea0340)は魔法の重力波を放つ。直線100mの対象全てにダメージを与える地の精霊魔法。この屋敷の主たる貴族目掛け迫ってきた怪骨達は瞬時に砕け散る。
屋敷全体を精霊魔法のアイスコフィンやストーンの魔法にその他の手段で改造し尽した屋敷。既に雅の風情はなく一切を『防御施設』としての実用性一点のみに作りかえられている。
崖の下という屋敷の立地条件のおかげで敵の進軍経路は正面入り口のみであるが、怪骨の数も多く、先刻のように突破してくる怪骨も多い。
怪骨の群れが目指すのは屋敷の主の貴族。何より怪骨は疲れも知らず、恨みを晴らす為に只ひたすらに攻め続けている。
達人と呼ばれる精霊魔法の使い手であるルーティもかなり消耗していた。
「‥‥‥それにしても、何処でどういう恨みを買ってこれば、こんな事態になるんでしょうか?」
肩で息をしながら、一言一言区切りため息を付いた。
一息付いて味方を支援しに行く。突破してきた怪骨を討つ為に、後方に下がったのだ。
ユニコーンのヤリーロに合図して共に向かう。入り口で今も尚怪骨を食い止めているのは御神楽澄華(ea6526)と僧兵の長寿院文淳(eb0711)だ。
澄華はルーティから借り受けた死者殺しの太刀、姫切で次々と迫る怪骨を切り伏せる。
魔力を帯び、死者を切る為に鍛えられたその太刀は、佐々木流の奥義を習得したという彼女の技によりその真価を発揮されていた。
その美貌と細腕から想像出来ない剛剣、スマッシュEXが怪骨を叩き切る。
「今回怪骨に襲われるのも件の貴族が業を積み重ねたが為とはいえ、不死者が生者に害をなすのを自業自得と見てみぬ振りも出来ませんか」
彼女自身怪骨に対し有利に立ち回っている。だがしかし数の問題は如何ともしがたく――
「やはり疲れを知らぬ多量の不死者を相手に数日間、となると厳しいですね‥‥‥」
仲間の冒険者達や貴族が連れてきていた足軽達もそれぞれ役目を果しているものの、やりにくいのには違いない。
空からの電撃が怪骨達を砕く。リアナ・レジーネス(eb1421)のライトニングサンダーボルトだ。
電撃により態勢の崩れた怪骨を破邪の剣が一閃する。
文淳の持つ仏剣・不動明王。邪を払い、人々を導く力があるといわれている魔力を帯びた両刃の直剣は、非業の死を遂げ骨となってでも尚復讐を遂げようとする亡者達を討ち取っていた。
風を切って仏剣が怪骨を薙ぐ。
「昨日に比べ数は減ってますが、このままでは戦線を後退させる必要もあるかもしれませんね」
怪骨もアンデットだからか知らないが、昼間は勢いは夜中に比べて無いし、連日戦い続けている事から充分に数も減っている。勿論今まで持っているのは作戦と屋敷を改造し、それで戦線を維持し続けている冒険者達の優れた技量によるものであるが、いつまでも持つと考える訳にはいかない。
「強力な力を持つ者も現れると聞いてますし‥‥‥」
貴族配下の陰陽師によると、それは音楽の技に長ける人外の者らしい。
どこかで聞いた覚えがあるような気がするのだけど――
「それにしても手が足りないですね。もう一人同業が来ると聞いてますが、どうしているのやら‥‥‥」
様子を伺う怪骨達を見つめ文淳はため息を付いた。
とある道にある茶店。屋敷に向かう途中、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)はそこで休憩を取っていた。
「依頼文は良く読まないとダメね‥‥‥」
行儀良く茶を啜りヴァージニアは呟く。彼女はギルドで依頼を受けたものの、内容を見間違え出発に遅れ、今こうやって向かっている途中なのだ。
本当は休憩をしている暇なんてないものの、馬も休ませなければならないし強行するぐらいなら休みを挟んだ方がマシだ。
勿論それが許される状況なら別として、実際屋敷はかなりシャレになってない状況だから今すぐ向かった方がいいのだけど。
和菓子を行儀良く食していると眼の前を西洋人が通り過ぎた。
美形で長身の、逆十字と『ジーザス撲殺』の文字が刺繍されたコートを着た、西洋人的に捨て置けない男だ。
持ち物からすると音楽家なのだろう。まあ作家の類はその実力と引き換えに何かを犠牲にしている者もいると聞くしそういうものだろう‥‥‥と納得する事にした。
金髪の音楽家も休息を取る為茶店に入り注文する。何気なく視線を移すと、ヴァージニアの所有する各種音楽グッズが眼に留まり興味がそそられた。
「お嬢さんこんにちわ。そのナリからすると音楽家か何かか?」
「吟遊詩人です。音楽に携わる仕事をしていますが」
馴れ馴れしい男である。ヴァージニアは愛想よく答えた。
「そうかそうか。俺、音楽を仕事にしているんだけど、この国に修行をしに来たんだ。いやはや、ジャパンはジャパンで独自の音楽体系を築いているけど実に勉強になるなぁ」
「そうですね」
聞いてもいない事をよく喋る。どうも自意識過剰な男らしい。
ナンパか知らないが、早く立ち去った方がいい。仲間の冒険者は今頃依頼主の護衛に勤しんでいるだろう。
ヴァージニアは早々と和菓子を食べ終えた。
「では、私はこれから仕事がありますので‥‥‥」
そう話しを打ち切ろうとしたが、
「俺もこれから仕事(貴族の首を取る)なんだけど、正直面倒でな。部下がどうしてもって泣きついてしょうがなく向かっている所なんだよ」
「‥‥‥‥‥‥」
人の話を聞いてないらしい。何ともマイペースな男だ。
「そうだ。ここで会ったのも何かの縁だから、一曲弾いてくれないか? お前は結構な使い手と見受けるが実に気になるな」
「‥‥‥まあいいですが」
ローレライの竪琴を構える。正直一曲弾いてやる義理もないのだが、この手の人間にまともに相手もしょうがない。適当に相手をして退散願おう。
――指が、弦を撫でる。
柔らかく暖かい音が奏でられる。
「ほう。これはこれは‥‥‥」
金髪の音楽家は感嘆のため息を付いた。
ヴァージニアの細い指から奏でられる奇跡の数々。まさにそれは、悪の化身であるデビルすら改心させてしまうような、天上の旋律ではないか!
彼も負けじと自前の笛を取り出す。
(これは‥‥‥)
奏でられる曲。それは達人を越えた超越と呼ばれる楽器演奏スキルを持つヴァージニアですら知らない未知の曲。
だがそれは、彼女の奏でる音を乱さず逆に映えさせ、むしろ一つの音楽として成立させているではないか!
(大したものね‥‥‥)
そう思わずにいられない。即席の相方を得てヴァージニアは更に弦を弾く。
どれほど時間が立っただろうか。演奏は終了し、いつの間にか集まった観客達は大喝采を上げた。
ヴァージニアは竪琴を仕舞い互いの健闘を讃えあった。
「そう言えばあなたの曲、聞いた事のない曲だったけど、何ていう曲なの?」
「故郷(地獄界)のだ。お前も中々に凄いな」
音楽業界において知らぬ者はいないかもしれない彼。その彼が素直に褒める程ヴァージニアの演奏技術は卓越していた。
「機会があればまた共に演奏したいな。俺はアムドゥスキアスって言うんだけど、お前の名は?」
「ヴァージニア・レヴィンです。機会があれば次に」
そう返し馬に跨る。これ以上依頼に遅れる訳にいかない。
「‥‥‥アムドゥスキアス?」
何かこう、西洋人的に引っかかる名前だが気のせいにする事にした。西洋には普通に天使の名を名付けられる人もいるし、あの男もその類だろうと。
ちなみにフラグは立ってない。
遅れてやってきたヴァージニアを加えた一行たちは、果敢に怪骨達を迎え撃っていた。
ヴァージニアが屋敷に向かう途中群れを見かけたらしく、彼女によると地中から新たに現れたりどこからかやって来たりと、一定以上数が揃って屋敷に向かうらしい。
結果的に波状攻撃となっているようだ。怪骨が総戦力を持ってして攻めて来るよりはマシだろう。
だが、次から次に現れる怪骨に、依頼人の貴族がどれほどの恨みを買っているのか逆に想像出来ない。一体どれだけ悪事を働けばこうなるのか‥‥‥人の業を伺わせる貴族だ。
「ライトニングトラップ!」
防衛線を突破してきた怪骨の足元に電光が走る。ジャパン最強と謳われるウィザード、ベアータ・レジーネス(eb1422)は、風の精霊魔法ストームで更に迫ってくる怪骨達を押し戻した。
彼のいる場は事前の改修作業で氷を張っており滑り易くなっている。転倒した怪骨もいるので押し戻すのは容易だ。
ソルフの実を飲み込む。魔法の連発でMPの消費も著しいが、依頼後に使用分支給される。
「全くあの貴族は。いっそ凍らせた方がいいかな」
交代で休んでいた時、依頼人の貴族は無能だの役立たずだの本当に口煩かった。今までの自分の行いの結果だというのに、悔い改める気はないのだろうか。
遠方――屋敷の入り口付近で凄まじい炎の柱が上がった。怪骨達は美しい紅葉と共に地中から吹き上げる炎に滅せられる。
爆炎惨禍や爆炎の大魔女と謳われるウィザード、ジークリンデ・ケリン(eb3225)の魔法だ。
直径15mを焼き尽くす円柱の炎の被害は当然尋常ではない。依頼人の貴族は紅葉か自分の命かと迫られたが、さすがに命には代え難い。ベアータはよく八つ当たりされていた。
「咲く華があり散る華があります。人の世は無常なれど、憐れなものですね」
業火に焼き尽くされた近辺を見つつ呟いた。
休憩でMPの回復に努めてはいるが、魔法を使いすぎな気もする。現れるという『強大な力を持つ者』が来た場合、対応は出来るのか‥‥‥
「ですが依頼人の貴族さんの命ばかりはお護りいたしましょう」
掲げる手に炎の球が生まれる。
炎の精霊魔法。ジークリンデはファイヤーボムを撃つ。
爆煙を切って備前響耶(eb3824)は手近の怪骨を斬って捨てた。
無駄な動きのない洗練された動きだ。
「詠え、姫切。静まらぬ魂に安眠を‥‥‥」
刃が風を切る。
死者殺しの太刀は怪骨を元の物言わぬ骨に変えた。
夢想流達人の技の冴え。彼は足軽やペットの柴犬、影牙を援護を頼み上手く立ち回っていた。他の冒険者も強力なペットと共闘している者もいるが、響耶の活躍は際立っている。
足軽から塀の損傷を聞いた響耶は手早く指示を出した。
「板を使え。館から好きなだけ調達出来る。非常事態に首を横には振るまい」
そもそも今回が後手に回っている。貴族の護衛という事で守ってはいるが、怪骨の群れが来るなんて全くの想定外だ。それに最終日に来るという者が気にかかる。
「黄泉人か妖狐かデビルか知らないが、アラハバキが役に立つかもしれないな」
そして明日を迎える。
「総員突撃ぃ!」
怪骨がただの骨に戻ると予想された日。怪骨は突如統率の取れた動きを持って攻めてきた。
例の強大な力を持つ者が現れたのか――冒険者一行は総力を持って迎え撃っていた。
勿論この日を迎えてすぐに怪骨がただの骨に戻るなんて思っていなかったとはいえ、ここまで苦戦を強いられるとは思わなかった。
どこからか聞こえてくる笛の音に仲間がたまに操られたりと、怪骨はいつ何時にただの骨に戻るのかと、前日までと違い動きにキレがない。
しかしヴァージニアは思う。この音色はどこかで聞いた覚えがあると。竪琴で戦意高揚の曲を弾いたり月の精霊魔法メロディーで士気を上げる。
冒険者達の激しい抵抗で怪骨は多く数を減らしたものの、戦線を下げる事になった。
「件の者が出てきたようですが、鬼が出るか蛇が出るか‥‥‥」
肩で大きく息をするものの澄華は構えを崩さない。姫切の切っ先を怪骨へ向ける。
一人の男が怪骨達の空けた道を通り姿を表した。
「貴方は――」
文淳とヴァージニアが同時に声に出した。
流れる金髪に端正な顔立ち。長身を包むのは逆十字と『ジーザス撲殺』と刺繍されたコート――
「お前がこの屋敷の主か? 俺はアムドゥスキアス。こんなナリだが一応デビルだ。諸事情によりその首を頂きに来た」
冒険者達の後ろに隠れている貴族は、デビルと名乗る男を見て恐慌を来たした。
ここ数日襲ってくる無数の怪骨。その背後にはデビルが? 自分でも多くの恨みを買っていると思っているが、よもやデビルに復讐を願う奴までいたのか!?
「お、お前達! 金を払っているのだから早くあの者どもを討たぬかっ!」
貴族は声が裏返るのも気にせず叫ぶ。思い当たる節はいくらでもあるのだろう。
だが冒険者達は彼の期待に答える返事はしなかった。
「そういえば悪魔と契約するサタニスト、なんて方もいるようで?」
「悪銭身につかず。欲は己を滅ぼす。自分だけは大丈夫だと思うのが大抵の人間らしいがな‥‥‥」
一行は蛇蝎を見るような視線を貴族に投げかける。
その中文淳は一歩前に進み出た。交渉を持ちかけるようだ。
「お久しぶりです。覚えてますか?」
「確か、文淳だったか?」
以前ちょっとした事で知り合っていた。文淳は続ける。
「今回の件ですが、貴方のやり方としては些か似合わないですね。貴方とは上手くやれると思ったのですが」
「そう言うな。俺にも俺の事情があるさ」
「そうですか? 百歩譲って戦いが避けられないのであっても、貴方には貴方の戦い方があるのではないですか? ‥‥‥そう、音楽のような」
音楽家ならば音楽こそ戦いの手段。なればこう武を競うこそは愚かの極みではなかろうか?
だがしかし、
「そう言うなよ正直俺もめんどい。だから貴族の首を上げてさっさと帰るんだよ! 骨ども進め!」
「させません!」
激しい電光が怪骨を打ち砕く。フライングブルームに跨るリアナだ。
リアナは空から見下ろし改めて思った。
「骨の海と化してますね‥‥‥」
指揮する怪骨と共にアムドゥスキアスは攻め立てる。
「ムーンアロー!」
月の光が響耶を狙い討つ。だがその隙を狙いジークリンデは魔法を放つ。
地面から炎が吹き出て――
「効くかっ! カオスフィールド!」
魔法の業火がアムドゥスキアスを包み込む。だが、それより早く悪魔の周囲を覆った漆黒の炎がマグナブローを完全に遮断していた。
アムドゥスキアスは疾走する。足軽達を一蹴し貴族に直進する。
「その首貰った!」
新たに魔法を唱えようとするが――
「させません!」
澄華の斬撃が彼を阻む!
更にリアナの電撃が疾る。先程まで屋敷内に入ろうとした怪骨達に使っていたのでこれで打ち止めだ。
「効くかどうか判りませんが――サイレンス!」
ベアータの魔法がアムドゥスキアスにかけられる。
実際効いたか判らないがアムドゥスキアスは逡巡する。
(人間にしては中々やる‥‥‥。怪骨もいつ只の骨に戻るか判らん)
戦いでは状況を見極められない者が先に死んでいく。
(癪に障るが仕方ない。ここは退くか‥‥‥!)
瞬時に決断し退いていくアムドゥスキアス。
それと同時に――怪骨は動きを止め、物言わぬ骨へと崩れ落ちた。