【もえでび】萌え倒せ! 魔物っ娘大作戦!

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月30日〜10月05日

リプレイ公開日:2007年10月10日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 現在、独眼流の名で知られる伊達政宗が治めるこの地は、戦後の事後処理で何かと忙しいがそれなりにかつての活気を取り戻していた。
 立ち寄る旅人や商人は、源徳時代とは勝手が違ったりそもそも伊達家に支配権が移った事も知らない者もいるがそれなりに日々を過ごしていた。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――




 メイド喫茶柳亭。かつて閑古鳥が大合唱していたこの店は、冒険者達の手により大きく姿を変えた。
 あまねく全ての男が魂の安息を迎える場――。かつてはいち甘味処であったこの店も、今は現界する天使達の笑顔と、世俗の苦しみと悲しみで穢れてしまった勇者達の癒される吐息に満ちている。
 頭を飾るのは揺るぎない忠義と一途に尽くす想いを象徴するホワイトブリム。身は漆黒のワンピースに、例えどんなに身をやつそうとも心だけは汚される事のない吟示を証明するかのごとく、真っ白なエプロンドレスを身に付けている。
 その名はメイドさん。
 主に仕え、支え、身も心も捧げてくれる永久のパートナーにして愛の使徒。
 右も左もメイドさん。どこもかしこも天女たちがいて、自分に笑顔と共に安らぎを与えてくれるこの店は、数多の伝説に謳われるアヴァロンにして桃源郷ではなかろうか――?
 もう突っ込むしかないのだが、萌えに命を捧げ、萌えの為に生き、萌えの為に殉する事を厭わない彼らにとってはそういうものなのだ。
 萌えという名の冥府魔道。一歩足を踏み込む度に常識やら良識やらが壁となり立ちはだかるのだが、最早あらゆる全てを打ち破り、覚醒した彼らの前に敵はない。
 人としてどうかと思うけど、誰だって好きなものには変わりに何かを犠牲にしている。個人の趣味だし別に指を指される事でもない‥‥‥と思う。
 まあそんな事はどうでもいい。
 どう見てもナマのネコミミやら尻尾やらが直に生えているメイドさんとか、ピンク髪のお色気メイドさんとか、看板娘のいる柳亭。今日、新人のメイドさん達のデビューで店内は異様なまでに盛り上がっている。
「メイドさぁ〜ん。こっち来てぇ〜〜〜!」
 ねちっこい声がする。プライベートなら関わりたくない、ハァハァしてる声だ。
「いやいや! こっちだよメイドさん!」
「ああん! その見えそうで見えない絶妙なサイズのメイド服がボクの心と眼を捕らえて離さないよぅ!」
 ‥‥‥こいつら店を間違えているのではなかろうか。
 京都支店では支店長がアレであるが、こっちでは客がアレらしい。あちらでは店の絶対者が権力を持っていて、新人教育や開店前に手伝った冒険者達がえらく苦労したらしい。こちらでは接客すべし客がそうなのだが、どっちもどっちでやりにくいのには違いない。
 それはそれとして、今日のメインターゲット。新人のメイドさんの一人はトレイにお冷を乗せてぱたぱた駆けている。
 背の小さい、侍を模したメイド服の、とっても可愛らしい幼女だ。
「はい。ただいまぁ〜!」
 小さい女の子が、一生懸命に頑張る姿は何と可愛らしいのだろう。
 ぱたぱたと、サイズの大きなメイド服を着て体格からして大きなトレイを抱えている。安定が取れないのだろう。小さい身体はゆらゆらと蛇行して見ている方がハラハラしてしまう。
 大きなトレイのせいで視界がうまく確保出来ない。ゆらゆらと蛇行して、足が絡んでしまって――
「きゃん!」
 転んでしまった。空を舞うコップ。水は客に降りかかる。
「ご、ごめんなさい。ごしゅじんさま」
 涙眼でうるっと見上げる。泣きたいのを必死に我慢して、だけど涙が出ちゃって、何かもうお持ち帰りしたいぐらいですよコンチクショウ。
「気にしなくてオッケー! それより大丈夫かい?」
「はい。あ、あの。濡れちゃいましたしお拭きしますね?」
 ハンカチを持って、濡れた下半身を、赤面しつつ――
「そんな事しなくても大丈夫さー!」
 隣の席の客がイベント発生させた客を殴り飛ばした。
「放っておけばすぐ乾く! そんな事よりキミの方こそ大丈夫かい?」
「ちっちゃいから無理するといけないさ!」
「むしろ小さいのが辛抱タマランよ! 違う意味で食べたいぜ!」
 勢いに乗って別の客がアホをのたまった。
「お嬢ちゃん、俺達は常に魂が燃え(萌え)ているからそんな事しなくてもいいんだぜ?」
 ていうか描写的に色々マズイ。
 そんなこんなで騒いでいると、もう二人の新人メイドさん達がやってきた。
「あらあら。大丈夫?」
 和風メイドの美女と、ウィザード服を模したメイド服の美人さんだ。
「グッジョブ! 美女と美幼女の三人のメイドさん! 俺はもう逝ってもいい!」
「お戯れを‥‥‥」
 まじかるな美女メイドは言う。
「そんな事ないさ! 美人すぎて目も眩む!」
「お近づきの印に、是非お名前を!」
 飲食店に関わらず、客と店員が馴れ合うのは基本的に禁止であるのだが。
「セイ・スイです」
 新人だからか、美女メイドは名乗った。
「‥‥‥ラー・ミアよ」
「小夜叉(華国語発音)です!」
 続いて、平らな胸を沿って幼メイドは元気に名乗る。男共はお持ち帰りしたいと思ったのは何故だろう。
「何か魔物みたいな名前ですね!」
「よく言われますわ」
 そう返すものの、この三人は魔物だったりする。
 偽名もそのまんま。精吸いに蛇女郎にお子さまな夜叉。小夜叉は素性隠す為に名前を華国語で発音している。
 三人はヒートしている客達から一歩離れ円を組んだ。
「狙い通りな男達ね。これなら精気も吸いやすいわ」
「ここで男のハートをゲットして、女の嫉妬を増大させるのです! そして憑依するのです!」
「私も久しぶりに思う存分血を吸いたいしね」
 意気込む精吸いと小夜叉に蛇女郎。普通に危険極まりない連中である。
 人間を始め、パラやエルフとかジャイアントが多く存在し、国家を形成するこのご時世。魔物も魔物で生活がある以上、この世の中は魔物にとって色々と生き辛いのかもしれない。
 三人は生活の為、または本能を満たす為とか、こうやって人里に下りてきた。
 小夜叉は二人に言う。
「うまく潜り込んだのはいいのだけど、冒険者達がいるよね。どうしよう」
「そうね。厄介な相手よね‥‥‥」
 今回、あるお武家が自らの力を自慢する為に野原でイベントを行う事になっている。そこでいくつかの店は屋台を出し、柳亭もオープンカフェを開く手筈になっている。
 冒険者達は店員のバイトや、イベントに悪酔いした客からの警備として雇われた。
「精気を吸おうにも楽に吸わして貰えないし、どうしようか?」
「知り合いの白やぎさんにお手伝い頼むわ。クリエイトゴーレムで作ったと言えばどうにでもなるわ」
「地霊か動物霊の類なのかな? 可愛いから別にいいけど」
 ちまちま動いて愛嬌を振りまく白やぎさん。専用サイズのメイド服がとっても可愛らしく、店員のメイドさん達が何かと可愛がっている。
「それに、折角眼の前に上手い餌があるのに見逃すのも嫌だしね」
 魂を燃やす男達を見る。
 萌えに全てを捧げた戦士たち。ある意味戦いが始まるかもしれない。

●今回の参加者

 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5534 天堂 朔耶(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb9659 伊勢 誠一(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec0997 志摩 千歳(36歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ec3755 沢良宜 命(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 メイド喫茶柳亭の特別店舗。今回のイベントで与えられたスペースは、飲食店だからか他と違ってそこそこ広かった。整った調理場がある訳ではないので出される飲食物の類はいつもより少ないものの、限られた飲食店の数や休息所の数の関係上、テーブルの席は全て客で埋まっていた。
 例えオープンカフェだろうといつもと同じな柳亭。つまりそれは、
「さあ、その西洋的な調味料で卵とご飯の西洋的な料理に文字を書いてくれ! I・LOVE・YUと!」
「追加料金でトークとミニゲーム!」
「その可愛いお手々で食べさせてくれ! 密着して下から覗き込むようで尚かつ服の内側が見えそうで見えない按配で。普通に見えるよりそっちの方がそそるから! というかチミを食べさせてくれ!」
 いつもの柳亭と同じ色々問題がありそうな光景が繰り広げられていた。というか客のアホ共が問題ありすぎで、礼儀諸々に厳しいこのジャパンでは、同じようなサービスを受けようには遊郭でしか無さそうだ。
 まあ柳亭的には日常で、特に目を張る事でもないのだけど。
 そんな警備が見たら即検挙に行きそうな状況ではあるものの、店員のメイド達は冒険者等から教わった対客用の体術で身を捌きつつ接客している。
 何だかよく判らない店である。
「メイドさん! とっても美人だから一緒にイベント回ろうぜ!」
「そしてキャラ別イベント発生させて好感度アップとフラグを立てる! 狙うは全キャラ制覇だ!」
「まあそれはそれは」
 いい感じにハイになっている客を前に精吸いはにっこりと笑顔を浮かべた。客達が不快なオーラを大放出しているというのに嫌な顔一つ出さない。メイドは作り笑顔が大事と聞くが良く言ったものである。
「仰ってる事は判りませんが、楽しんでいただけて嬉しいですわ」
「勿論! チミみたいな美人さんがいると食も進むというもの! 夜叉たん、チミの入れてくれた紅茶は最高さ!」
「ごしゅじんさまがよろこんでくれて嬉しいです♪」
 えへへ、と笑う小夜叉。何だかお持ち(以下略
「チミも違う意味で美味しいと思うよ! 俺はもう色んな意味で我慢出来ないかもしれん!」
「黙れアホウ!」
 唸る豪腕。変態が変態を打ち貫いた。
「このクソ虫がよくそんな事言えるものだな! 俺も食べたいのに!」
 お前もか。
「やかましい! 俺のリビドーはもう止められない! こんな可愛い娘がいるのに黙ってられるかよ!」
「うるさいロリコン!」
「違う! 炉利魂だ!」
 どっちもどっちだ。こんなのばかりが客な柳亭、町の風紀を汚してるような気にもなった。
 魔物の娘達は囁きあった。
「いい傾向ね。冒険者達も忙しそうだし、機を見て襲おうか?」
「でもヘタはうてないよ? やっぱりもう少ししんちょうにうごいた方がいいと思う」
 精吸いへ小夜叉は言う。そこへ蛇女郎が加わった。
「そっちは上手くやってるようだけど‥‥‥どう? 客、襲える‥‥‥?」
「何にしても人気がない所に連れ込んでからね。誘惑するまでもなく客は誘えるわ」
「そう‥‥‥」
 三人娘がそんな物騒な会話をしている中、アンドリュー・カールセン(ea5936)が遠くから彼女達の様子を伺った。彼は三人の教育も担当しているので気になっているのだ。
「それにしても少し変わった雰囲気のある子達だけど、なかなかいいモノを持ってるわね」
 近くを通った御陰桜(eb4757)が三人を伺う。少しも何も、魔物だが。
「モンスターで似たような名前を持つ者がいるが、まあ気のせいだろう」
 さすがに人里に堂々と魔物がいる訳もあるまい‥‥‥とアンドリューは流す。
 三人娘を興味気に見る桜に、柳亭看板娘のナマのネコミミメイド、ねね子は頬を膨らました。
「うぅ〜。桜おねーさーん‥‥‥」
「ふふっ。ねね子ちゃん、お揃いの服で頑張りましょうね♪」
 悪戯っぽく笑ってねね子を促す。角はないけど色違いのエース専用メイド服。ねね子と違い桃色のそれを着た桜は、喜び腕を絡ませ抱きつくねね子と去っていく。仲の良い姉妹のようだ。
 微笑ましいものだ、と感心してアンドリューは魔物の三人娘の下へ向かった。
「お喋りは閉店後にする事だ」
 一喝する。だが三人娘を叱っているのを見た客達は、アンドリューが彼女等を苛めている様に見えた。
「この犬野郎め! 美人さんを叱るとは何たる事だ!」
「それでも男か! 男なら美人さんは愛でるもの。見損なったぞ犬!」
「引っ込め犬!」
 まあ犬耳執事だし。
 言った直後、彼らは別の可能性を見出した。
「確かこいつ店でもちょくちょく見かけたよな」
「先輩店員か。というとこういう事か?」
 翔ける思考、滾る妄想力。彼らの脳内では『考えられる可能性』の光景が再生された。
「そうか、先輩店員の権力であんな事やこんな事をするつもりだったんだな犬!」
「そのシチュがあったか! 見直したぜ犬!」
「お前は盟友だ! 共にハァハァしようぜ!」
「旦那様方。店内ではお静かに‥‥‥」
 鬼のような殺気を抑えつつ、犬耳執事はそれでも紳士的に振舞った。





「ブッ飛んでる客やらハジけるメイドを止める‥‥‥とか、基本的には紳士な執事を通したいとか‥‥‥今更無駄な気がするんですよね‥‥‥」
 そんな店の人外魔境っぷりを見ながら伊勢誠一(eb9659)は諦めのため息を付いた。このメンツの中で数少ない常識人の誠一。ハァハァしたりする客やナニヤラしでかしそうなメイドとか、そもそも気になるあの女(ひと)がいたりする状況の中。どう動くべきか本当に判らないのだ。まあ客には干渉するだけ無駄なのだが。
「みゅー?」と心配そうに顔を覗いてくる白やぎさんに癒されぐりぐりと頭を撫でながら、本気でどうしようかと思った。
 同じく加賀美祐基(eb5402)も遠い目で眺める。
「メイドはよく判らない世界だし天堂も今回は関わらない方がいい気もするし、そもそもおーぷんかふぇって何だ?」
 その天堂蒼紫(eb5401)。
「変態処刑‥‥‥。妹に手を出す輩は滅する!」
 物騒な台詞をのたまって天堂朔耶(eb5534)にハァハァしている連中を滅殺していた。本人曰く、
「妹が楽しく働ける環境を整えてやるのは、兄として当然の務めだろう?」
 と最高の笑顔で言い切った。まあシスコンだし。
「新人教育にしても一般的な礼法や茶の点て方なら指導出来るけど野点とは違うし‥‥‥。普通に店の手伝いしかないかな」
 そんな普通な二人は普通に仕事をこなそうとする。
 だけど、誠一は一抹の不安を抱えていた。
 今にも目覚めてしまいそうな、魂を解放する、もう一人の自分かもしれないあの男を‥‥‥




「愛しの彼が振り向かない〜。こんな大胆なメイド服着ているのに他の男ばかりが〜。切り札の出番〜?」
 何か病み気で切ない歌を歌いながら志摩千歳(ec0997)は彷徨い歩く。見た目美人だけど年齢的に焦っているのだろうか。
「十年前と違って胸だってあるのに‥‥‥。フフ、ウフフフ‥‥‥」
 ダメだ。目がイッている。
 千歳は誠一の元許婚らしい。何故元なのかは知らないが、千歳は今も尚誠一を想っているのに誠一は振り向いてくれないらしい。しかも今現在、千歳は露出の少ない典型的古典風メイド服。だけど生地が薄い作りも特別で、いやという程身体のラインが強調されている。しかもきょぬー。多くの男が求めてやまないきょぬー! これを客連中が放っておく訳もなく、突撃し、その度に迎撃している。
「カズくんに手をだす女は全員排除しているけど、やっぱりもう少しアプローチした方がいいかしら‥‥‥?」
 一つ聞き捨てならない台詞をのたまったけどそれはそれ。誠一は自分で冴えない男と言っているものの、落ち着きもあり理知的な印象を受ける彼に心動かされる女客は結構いた。声をかけようとしたものの‥‥‥千歳に物陰に引っ張られて数秒、全員泣いて帰るハメになっていた。
 そんな千歳に一人の客が迫った。
「ここにいたのか千歳たん!」
 命知らずな男である。
「さっきは遅れをとったけど、その人類の宝のお胸さまに顔を埋めるまで俺は倒れんよ! さあ!」
 さあ、と何を言っているんだこの男。
「キミが三十路近いと言っても大丈夫! 萌えに年齢は関係ない! 萌えは魂で感じへぶらっ!」
 発動するコアギュレイト。ついでに腕が伸び、その細い指から想像も付かない万力のような力でこきゅっとオとす。
「やっぱり、少しあざといぐらいのアクションでもしてみた方がいいかしら?」
 スカートの裾を両手で持ってくるりと回るとか、可愛らしいけど年齢的にどうだろう。
 結構、いい感じに病んでいた。




「お帰りなさいませご主人さまー♪」
 元気な声を上げて天堂朔耶(eb5534)は新たに来店した客を出迎えた。
 背の小さい、ケモノミミを取り付けた美少女メイド。ペットの、まじかるな力で愛らしくなった柴犬もおそろいのメイド服で更に殺人的に可愛くなった子犬のコンボで実際、事故を装ってお触りするぜコンチクショウ! な対象のトップクラスに立っていた。
 飲食店にペットを連れるのはどうかと思うがこの際どうでもいい。
 ターゲットに収められる度に颯爽と現れる兄の蒼紫。彼の活躍によって朔耶は奇跡的にセクハラの被害にあってなかった。何たって蒼紫の、
「旦那様方。当メイドにその様な事をされては困りますので、何卒ご了承を‥‥‥(他はともかく妹に手を出したら殺殺殺!)」
 と朔耶に見えない角度で鬼のような殺気と共に心の声を発していた。
 当然その程度で手を出すのを諦めない変態達であるが、
「お客様は気分が優れぬようだ。外で休ませてこよう」
 目的の為なら手段を問わないと評判の忍者的なスキルでことごとく撃破し店の外へ捨てていた。
 わたわたと慌てる白やぎさんと戯れる愛犬を見て朔耶は言った。
「白やぎさんかわいいし、総司朗、仲良くなれるといいねー♪」
「キャン!」
 愛らしく吼える愛犬。実際食べようと噛んでるし白やぎさんは逃げようと必死だ。
 そんな一部微笑ましい(?)光景が見受けられるのだが、また一部ではそれはそれで変わった空気が醸し出されていた。
 流れるような長い黒い髪。ジャパン人特有の肌の色に碧色の瞳が眼を引く。職業は陰陽師なのに生業が巫女という、聞きようによっては首を傾げそうなきもするが、何と言っても一番、神秘的で神々しくて嫌が応にも視線を集めてしまうその二つの宝。サキュバスの如き艶然さと聖母の如き母性を兼ね備える双丘。世のほとんどの男が求めてやまない、だけど万物の理を現しているであろう代物。
 つまりはある意味デビル的に邪悪で天使的に至高なお胸さまを沢良宜命(ec3755)は持っているのだ! 只の人間だというのに既に神の領域、魔王の世界に到達しているであろうそれを! 大げさと言われても俺は改めないッ!
「これは所謂、みこめいど』言うんになるんかなぁ?」
 改めてそう思いつつ、ずれた胸元を直す。本来肌の露出や身体のラインを隠す為に存在する筈の着衣が、その神で魔王的なお胸さまのおかげで意味を為してない。むしろその大きさと形の良さをアピールしているようだ。
「それにしても‥‥‥んっ。何だか胸のサイズ合わなくてえらいきついわぁ」
 いそいそと乱れを直そうとする命。物陰に隠れているものの、当然変態達は生命全てを注ぎ込まんばかりの集中力を持って凝視する。何か障害物が透けている気がする。
 変態達は囁きあった。
「お、おい。あの神的な乳。おかしくないか?」
「ああ。いい意味でな。ラッキースケベ出来るなら俺、デビルに魂捧げてもいい」
「だがあのお胸さまから放たれるオーラ。神々しくてアクション仕掛けられん! 俺の心が穢れているからかッ!」
「巫女属性が付加されているからな。という事は、巫女的に神さんに全てを捧げているって事で‥‥‥オノレ神めッ!」
 相当危険な事言っているこの連中。これで穢れてなかったら世の中は善人だらけだ。
「俺達は、只見ているだけなのか!?」
 絶望の涙に濡れている中、希望の光が、全ての変態の救世主が疾走、参上する!
 執事服に黒頭巾。額に『萌』の字煌く超新星。その名は――
「「「到萌先生!!!」」」
 萌えという名の冥府魔道。
 萌えに命を捧げ、萌えの為に生き、萌えの為に殉する戦士達の頂点に座す漢。
 萌えマスター到萌不敗。
 どんな場であろうと萌えある所に颯爽と現れるッ!
「馬鹿者共がッ! そんな軟弱で何とするッ!」
 声質からして伊勢某な先生は仰った。
「現実で納得できぬならば妄想の中で萌えい! 現実が萌えぬなら萌えるモノを幻想しろ! イメージするのは常に最強の萌えだッ!」
「「「到萌先生〜〜〜!!!」
 変態達は魂の師匠の言霊により己が身に宿る力を目覚めさせていく。
「耳を澄ますのだ。心の中の中尉殿も言っている。どんな障害だろうと萌え貫くのみと!」
 貫くな。
「震えるぞハート! 萌え尽きる程ヒート! 刻み込むぞ(物理的に)魂の萌えを!」
 誰にナニを刻み込む。
「後はぶつけるのみぃ〜〜〜!」
「ぶつけるな!」
 異変に気付いた祐基が制圧に向かった。




 店がいつもの騒動に発展している中、桜は女子更衣室に小夜叉を連れ込んでいた。
 周りには誰もいない。
 壁に追いやられた小夜叉。笑顔で迫る桜。小夜叉は凄まじい悪寒に襲われていた。
「な、なんですか桜さん」
「お仕置きよ。夜叉ちゃんお客さんにオイタしようとしたわよねぇ」
「!」
 まさか魔物だってバレた? 個別で撃破しようとしているの?
 夜叉とはいえ自分はまだ幼い。小夜叉はこの後違う意味で危機に見舞われる。
 伸びた指は――小夜叉の肌に触れた。そして、なぞっていく。
「あ、あの。何をする気ですか?」
 いいようのない恐怖に見舞われる。指は色んな部位に触れる。
「ひゃん!」
 可愛らしい悲鳴を上げた。
「何って――」
 桜は満足気な表情をして、
「ナニ、よ」
 鬼のような速攻の速さで幼女が青ざめる。
「やめてくださいやめてくださいやめてください!」
 だけど止めない。指は色んな所を撫で上げメイド服をするすると。
 そして、
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
 菊の花がぽとっと落ちた‥‥‥




 それから、
「お帰りなさいませお嬢様」
「やっぱり、これはちょっとやりすぎかしら‥‥‥」
 女性客を優雅に出迎るアンドリューやバニーで色んな所が凄いメイド服な千歳とか、普通に営業を続けていた。
 そんな千歳を、
「ばにーだ! それにあっちには乳神さまが!」
「さあばにーさん! 俺の人参を!」
 ターゲットに定めた伊達所属の若い二人の侍。
 そして、
「サクラコワイサクラコワイ‥‥‥」
 と繰り返す小夜叉。
 突っ込む所ありすぎるものの、一人の少女(魔物)の心に大きな傷を残したまま、今回は事なきを得た。