呼び覚ませ妄想力

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2007年11月01日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 現在、独眼流の名で知られる伊達政宗が治めるこの地は、戦後の事後処理で何かと忙しいがそれなりにかつての活気を取り戻していた。
 立ち寄る旅人や商人は、源徳時代とは勝手が違ったりそもそも伊達家に支配権が移った事も知らない者もいるがそれなりに日々を過ごしていた。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――




 伊達軍士官用屋敷。江戸占拠により徴収されたこの屋敷は、数人の士官達と、その配下である足軽達の宿舎として使われている。
 敷地内の道場では訓練に励む多くの兵と侍。まだまだ歳若い彼らは戦場に立つには経験も技術も未熟。お家の為主君の為、力を尽くし活躍できるよう日々修練に勤しむ。今日明日死ぬかもしれないという職業に付いている彼らには一時の暇もなく、遊びや趣味に費やす時間なんてありはしないのだ。
 そう‥‥‥ありはしないのだ――
「――さて、申し開きはないか?」
 屋敷の一室。この部隊を率いる隊長の鈴山美晴は呼び出した二人の部下を促した。
 もうじき元服を迎える若い少年達である。
 一人はツリ目の、もう一人は年齢の割りにガタイのいい身体をしている。性格に少々というか相当問題のあるものの、将来が楽しみな少年だ。そして、この二人は、大事に大事にしている、小さい頃から可愛がってきた大切な幼馴染みの弟分の同僚だ。その可愛くて可愛くてしょうがない弟分は‥‥‥
「って、今は関係ないし!」
 軽く脱線しかけた妄想に自分で突っ込みを入れた。真っ赤にほてった頬に両手を添えてにゃむにゃむ悶える。何だろう。この間からも本当に、自分はどうかしてる。
 美晴は咳払いをして本題を切り出した。
「ここ最近、お前達の行動は眼に余る。本来なら切腹ものなのだが良い訳があるなら聞こう」
 何かもうダメダメであるものの精一杯の威厳を込めて言った。
 二人の若侍は全力で逆ギレした。
「隊長! 何で俺らが呼び出し喰らわなければいけないんですか!」
「そうですよ! ついさっきまで休憩を満喫してただけなんですが!」
「お前達、本気でそう言っているのか‥‥‥?」
「勿論です! 侍たるもの、日々修練を積まなければいけません」
「そして疲れきった身体ではまともに修練も出来ないでしょう?」
「まあそれはそうだな」
 美晴は冷たい眼で適当に相槌を打つ。
「それなら、さっきやっていた事は何だ?」
 冷たい、というより軽蔑したような眼で見つめ、
「「女子更衣室除いてました!!」」
 部下の二人は一字も間違えることもなく、むしろ事前に打ち合わせしたみたくハモッて言い切った。
「修練終った後の着替えの時間! 一時の解放感に包まれた乙女達!」
「この後の時間を何するかとか、今日の訓練はきつかったとか、黄色い声と共に囀りあうのさ小鳥達は!」
「そして着替えを始めるエンジェルタイム‥‥‥」
「無防備になるのさ天女たちはッ!」
 立ち上がる二人放たれるオーラ。何というか、これだけ見ればどこぞの達人のようだ。
「するすると音を立てながら脱いでいく胴着。汗に濡れた肌に張り付いてたりもするさ!」
「濡れ透けの肌も結構イケる。しかし嬉々として脱ぐ様もイケる! 俺らが覗いているとは知らずにな!」
「‥‥‥‥‥‥」
 何かもう美晴は汚物を見ている気がする。
「勿論角度によって見えない部位もある。むしろ腰巻やら襦袢やら邪魔以外のなにものでもないんだが、だがそれがいい! 見えそうで見えないのが逆にいいんだよ!」
「それに脳内変換で補っているからむしろオッケー! 実際に手を出している訳じゃないので法に触れてないし! 妄想は人類最初で最後の宝とはよくいったものさ!」
 触れすぎだ。美晴は大きくため息をついて、
「やっぱりお前達切腹だな。介錯ぐらいはしてやるぞ」
 至極真っ当に言い切った。
「冗談はよしてくださいよ隊長。俺らそこまで悪いことしてないですよ?」
「ただ覗きしてただけですし、いいとこペナルティぐらいじゃ?」
 悪いことしている、という自覚はあるらしい。というか侍たるもの覗きなんてマネすれば士道不覚悟だ。
「色々突っ込む所はあるが、これを見てみろ」
 美晴はもう、怒るを通り越して能面のような表情で束になった書類を渡した。
「何です、これ」
 何やら紙一面にびっしりと文字が書き尽くされている、量的に全部読破するのにどれくらい時間がかかるだろうか。
「先日、上の方から渡された書類だ。主に市民からのものだが、全て苦情が記されている」
「苦情ですか? それもこんなに? 町方は何やってるんだか」
「全くだ。俺らはいつも頑張っているのになぁ」
「頑張っているのは‥‥‥」
 美晴は一泊を置いて、
「変態活動だろう?」
 重々しく言った。
「それに記されているのは『伊達の若侍が女子風呂を覗く』とか『この間しつこく伊達の若侍にハァハァされた』とか『神社の境内の掃除中に伊達の若侍が巫女さん萌えー! とか迫ってきて仕事の邪魔になった』とかそんなのばかりなのだが」
 何というか本当に、伊達の侍は何をやっているのだろうとか文法が微妙に変になるぐらいに頭が痛くなる内容である。
「そ、それはまあ大変ですね?」
「そうだな。どこの奴か知らないけど、侍の誇りってものはないのかな」
 ものっそ声が裏返った。二人の若侍は滝のように冷や汗を垂らした。何たって思い当たる節がありすぎだからだ。
「監察方の調べによると、そのほとんどはお前達のようだな。普段の業務がそんなに負担か? それとも私に不満があるのか?」
 美晴はもう泣きたくなったものの涙を堪えて、彼らに言った。
「本来なら腹を切らせるのだが、お前達の御父上殿の立場からしてそれもまずい。よって、誘惑防御と欲望制御の訓練を受けてもらう」
 聞き様もなにも、もの凄く馬鹿らしい響きだ。
「部下に冒険者を手配させた。冒険者なら色々な事に精通しているし、万が一お前達に襲われても返り討ちに出来る。まあせいぜい――」
 途端、二人が沈黙する。
「どうした? お前達」
 またもや放たれるアレなオーラ。美晴は後ずさりした。
「美女が多いと評判の冒険者達と個人授業! 個人授業ですか隊長!」
「最高だ! 個人授業の響きはオトコゴコロを激しくくすぐるぜ!」
 燃え立つオーラ両のマナコから鬼のような勢いで放たれる怪光線。萌えとは人間の限界を超えるのか。
「この前読んだ春画本で! 教え子と美人家庭教師の秘密のレッスン! 俺も手取り腰取り教えて欲しいぜ!」
「あくまで訓練だからな。訓練と称してあんな事こんな事、狙いまくってやるぜ! 訓練だから誤魔化せるよなぁ!」
「正春は任務で出払っているから可哀想だが、あいつの分まで楽しんでやる!」
「それが親友‥‥‥いや、心友というものだ! 全力でラッキースケベを、むしろ強引に迫ってやる!」
 それは犯罪だ。
「あ、お礼という事でいい事教えますよ」
「正春が帰ってきたらあいつの部屋に待ち伏せて、裸エプロンで『お帰りなさいませ旦那様(はぁと)』と言えば落せますよ?」
「出来るか!」
 何かもうグダグダだ。

●今回の参加者

 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea3264 コルセスカ・ジェニアスレイ(21歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb9659 伊勢 誠一(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec3527 日下部 明穂(32歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ セティア・ルナリード(eb7226

●リプレイ本文

 お仕置き部屋として用意された一室、そこへ件の二人の若侍は待機を命じられていた。
 これから冒険者主導による教育的指導が行われるのである。
 名誉やお家の名を何よりも大事にし、恥となるならば自ら命を絶つことも厭わない気構えのお武家さま。本来こういう仕打ちを受ければ潔く腹をかっさばこうものなのだが、
「「予想通りだ! 美人さんキタ――――――!!!」」
 放たれるオーラ、大気を震わす超振動。明日の伊達家を背負う二人の若侍は、それこそどこぞの猛将かのごとく迂闊に踏み込めば斬り捨てられますよ、な感じにオーラを放出させている。
 彼らのような将来の明るい侍がいるという事は伊達家も安泰だ。きっと伊達に仇なす者も打ち破れるだろう。
 しかしだ。思春期真っ只中で女の子に興味津々な彼らにそんな真面目な武士思考はイマイチ欠けていて、
「待ちに待った美人家庭教師との個人レッスンだ! 狙ってやる‥‥‥真面目に勉強をしていると見せかけて、そのたわわに実ったお胸さまとか! 白く滑らかなフトモモとか! スキを見つけて滑ったと見せかけて触ってやる!」
「しかも狙ったように美人美少女ばかりだからな。それぞれ属性も揃っているしよりどりみどりだ! 隊長、激しく感謝しますよ!」
「‥‥‥‥‥‥」
 二人の上官、鈴山美晴はもう呆れ返る所か情けないとか諸々の感情で全力でうなだれていた。上司に恵まれない部下もそうだが、部下に恵まれない上司というのもどうかと思う。
 美晴はいい感じに胃がキリキリ痛んでいるがそんな事はどうでもいい。
 若侍が狂喜乱舞する理由の一人、コルセスカ・ジェニアスレイ(ea3264)は二人を恐る恐る伺いつつ言った。
「ギルドではダメな若侍の更正をすると聞いていたんですが‥‥‥」
 猛る若さ留まる事を知らない暴走。コルセスカは何とも言えないオーラを放ち続ける若侍に女的に警戒感を抱いているが、これは依頼だと思いなおし眼の前の脅威に立ち向かっている。
「彼らって本当に人間なんですよね?」
 まあアレだ。この二人のオーラは、最早邪気といった方がいいかもしれない。
「に、人間‥‥‥」
「とても失礼なこと言ってるとは思うんですけれど‥‥‥」
 コルセスカはびくつく飛鳥祐之心(ea4492)に気付かず続ける。
「彼らからものすごく邪悪なオーラが出てる気がしてたまらないんです。なんだかちょっと寒気も感じるし‥‥‥。万一にもデビルが化けてるとか、そんなことはないんですよね?」
「ど、どうかな?」
 妙にかつぜつの悪い祐之心。彼は女子供が苦手ならしく、コルセスカのような美少女が相手だと喋るのも一苦労だし触れられでもしたら大変だ。
 そういう訳で、
「う〜ん‥‥‥。こういうのも若さというのかしら」
「美晴ちゃんが困ってるみたいだしねぇ。あの二人を真っ当にする事って出来るのかしら?」
 更に美女二人、日下部明穂(ec3527)と御陰桜(eb4757)が会話に入ってきた。
 何故か女性冒険者には容姿に恵まれている者が多い。
 男として美人さんに話しかけられるなんて嬉しい以外の何ものでもないんどだけど、祐之心にとっては拷問だ。よく見ると冷や汗を垂らしている。
 しかし‥‥‥
(伊達が占拠してから更に碌でも無い事になってるんじゃないだろうか、江戸は)
 正面の龍、後門の虎(祐之心ビジョン)な心境で祐之心は伊達侍を伺う。例え実態がそうでなくとも、たった小数が不埒な行為を行えばそれが全体の評価になるのが世の常である。悲しい事にそれでワリを食うのが、美晴のような生真面目で実直な人だったりする。
(だが‥‥‥情けないな‥‥‥)
「はしたない! はしたないよ!」
「女の子がそんな肌を露出したら! 逆に俺らが指導しないといけないぜ!」
 凄まじい鼻息吹かすアホ二人。若さ故と言うが、こんなのが侍というのが情けない。むしろ可哀想な気さえする。
 そんな哀れんだ眼を向けられているのに件の二人は、
「これはきっと、毎日業務に励んでいる俺らに天が与えてくれたご褒美に違いない!」
「毎日毎日、萌え探索の合間に鍛錬や業務をやっているからな。萌え神さまがそんな俺達を認めてくれたんだろう」
 鍛錬や業務は合間か。
「冒険者の女の子達は皆かなりのハイスペックだしな。銀髪ハーフのきょぬー浪人なんてそうは見ないぞ?」
「お色気くのいちもレベル高いぞ。俺的にはコルたんがストライクだ」
「え、コルたんって私ですか?」
 ぎらりと、それこそ嫌な感じで射抜くような瞳を向けられたコルセスカ。
「あの白磁の陶器のような白い髪と肌。オッドアイの瞳も特徴的だが、あの何とも小動物のような構ってあげたいオーラがグッジョブですよ?」
「しかもネコミミとメイド服の合わせ技コンボでこれはもう俺らを誘ってるとしか思えん」
「あの‥‥‥お二人とも?」
 後ずさるコルセスカ。二人には彼女がネコミミメイドに見えるらしい。
「ああ、刻が見えるよ。ネコミミコルたんが布団でお待ちになっているのが」
「俺にも見える。極めつけにメイド服をはだけさせて恥かしそうに俯いて。これ何て据え膳?」
 幻覚だ。
 じりじり下がるネコミミコルたん(脳内変換)。迫る若侍。
 だけど壁際に追い詰められて、
「ジャパン男児なら!据え膳食わぬと何とやら!」
「行くぜ!」
 行くな。
「ちょ、ちょっと!」
 何故か人生の危機に突入してしまったコルセスカ。もうこの二人はデビルとしか思えない。
 毒牙にかかり掛けた瞬間――
「この大馬鹿コンビが〜〜〜ッ!!!」
 唸る豪腕疾風怒濤。
 群雲龍之介(ea0988)のダブルラリアットが二人に炸裂した。




「全く。女性達にどこまで迷惑を掛ければ気が済むのだオノレ達は!」
 寺の入り口の仁王像のように、悪鬼の群れを迎え撃つ修羅のように龍之介は二人に立ちはだかった。
 溢れる殺気こめかみ震わす血管。必死に殺気やら怒気やらを抑えているものの、あまりの暴虐無人ぶりについにキレた龍之介は、それこそ眼で人を殺せんばかりに睨んでいた。実際殺気で辺りが歪んでいる気がする。
「どこのアホかは知らないが、俺らの萌え道を阻むとは許せん!」
「どこぞのだんだら羽織りの連中みたいにフクロにしてやる!」
 かなり卑怯な台詞であるが、某組織は敵に対しては一人でも複数で一斉攻撃で殲滅しているという噂がある。どうかと思うものの、街の治安維持が目的でもあるしそういう手段を取るのもしょうがないかもしれない。
「アホはオノレ達だ! それでも武士か!?」
 余程怖い思いをしたのだろう。コルセスカはめそめそと両手で顔を覆って桜が慰めている。
「武士ならば! 一度志したものを覆さない!」
「故に萌え尽くす! それが俺達のジャスティス!」
「オ・ノ・レらぁ〜〜〜!!!」
 燃える炎正義の心が眼の前の邪悪を粉砕せよと吼え叫ぶ。
「潰す!」
 跳躍。陸奥流奥義でイニシアチブとかマウントポジションとか諸々とって、関節技で締め上げる。どこぞの魔法少女が関節技は王者の技と豪語するだけあってかなり強烈だ。
 そんな教育的指導――というか制裁行為――行っている風景を眺めながら夜十字信人(ea3094)はまるで他人事のように呟いた。
「明らかに制裁だな‥‥‥。上の権力を傘にして暴力働く連中よりマシだと思うんだがなぁ‥‥‥」
 確かにそういう連中に比べればマシかもしれないが、若いだけあって色々な事に制限のかからないこいつらはある意味より危険だ。
 それだけ『萌え』には力があるのだろうか。
「確か、伊勢の旦那は‥‥‥」
 この単語にやたらと反応していたな、と振り向いた。
「旦那?」
 一緒に部屋に入ってきた筈なのだがそこには誰もいなかった。




 まあとりあえず、「若さゆえに道を踏み外す子がいるなら、指導してあげるのが年長者の務めね」と明穂の鶴の一声でとりあえず制裁は収まった。ちなみに二人には、これで堂々とラッキースケベ出来るぜ! という意味合いで取ったのだが。
 だが速攻で迫ろうとすれば先刻のように泥沼バトルだ。だから我慢して我慢して、最高のタイミングを見計らいラッキースケベを仕掛けようと思ったのだ。ちなみにラッキースケベは偶然そうなるのであって、二人が行おうとするのは普通に犯罪だ。
 という訳で、二人は蛇の生殺し状態に突入していた。手を出したくても出せなくて相当苦しんでいる。
「助兵衛根性丸出しの男は嫌うさかい。脳内桃色思考を垂れ流している様な輩は絶対に相手されへんよ」
「‥‥‥‥‥‥」
「このままの状態で過ごせば一生女っ気がないまま老後迎えるし、一人寂しくあの世逝きとなる事間違いないやろねぇ」
「‥‥‥‥‥‥」
 とくとくと言い聞かせる西園寺更紗(ea4734)。彼女は妙に殺気だったこの部屋で、自分も割りと二人の様な女の敵に殺気を抱きつつもやんわりと説き伏せていた。
 優しく叱られるのは逆に結構辛い。しかも大人――まだ元服を迎えてないが――の侍なら尚更だ。
 だが二人が苦しんでいるのはそれじゃない。更紗の恰好に激しく問題があった。
「だから――聞いてはる?」
 むにゅっと歪むお饅頭。もうダメだった。
「ぐっはぁ! 勘弁してくれェェェ!!! これは拷問だァァァ!!!」
「お胸さまが! お胸さまが! うわぁぁぁぁん!!!」
 ごろごろ転がりまくる青少年。欲望やら煩悩やらが、まるで裏○下のように心の扉をブチ破らんとする。だけど二人は、絶好のタイミングを狙って最高のラッキースケベを待っているのに! これでケモノになったら負けてしまう! 既に人生レベルで負けているけど、侍的に自らの信条を覆す訳にいかないのでこれでもかと苦しんでいるのだ!
「萌えとかよく判らないけど、女性に対して積極的過ぎる行動を仕掛けようとするのはよくないわよ?」
「「ぎぃぃぃゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」
 穿たれるチキンハート。ついにに(精神が)瀕死状態に追い込まれてしまった。
 更紗と明穂。ハーフとジャパン人――赤毛の時点で怪しいが――の差異はあれど共通している点がある。
 それは、美人でデビル的スタイルだという事。
 二人がデビルだという意味ではなくて、育ちに育ったたゆ〜んなお胸さまとか、きゅっとくびれた腰とか、ぷりっぷり(だと思う)お尻とか、男の理性を打ち砕かんばかりのデビルそのものなスタイルなのだ。桜もそうなのだが二人に呆れてサボタージュ。美晴と世間話をしている。
 まあそれはそれで、美晴の立てていた目標の通り、欲望の制御訓練も兼ねて二人は、『とってもスゴイ恰好』をしている。文章に出すのもギリギリな具合にギリギリだ。
「こんなので本当に彼らを更正させられるんでしょうか‥‥‥」
 復活したコルセルカは同じくスゴイ恰好――IN ネコミミメイドで恥かしそうにもじもじしている。
「煩悩を抑えるには身体を動かすとは良く言うが、修練とかしていてこんな事態に陥ってる訳だからな。というか、あれでその煩悩も抑えられるのか?」
 と、祐之心。
 どう見てもやってる事は誘惑だ。これを我慢だというのだから、健康的な一般男子にはもう拷問以外の何ものでもないだろう。
「‥‥‥いえ、私たちが弱気になっちゃダメですよね。がんばりましょう」
 そう言って、えいっとやるネコミミコルたん。三度二人は悶絶する。
 そんな死地(?)を信人は眺めて言った。
「何か殺せそうな威力だな」
 ある意味そうに違いない。
 そして極めつけ。
「はい、よく出来ました」
 明穂は二人を、そのデビル的なお胸さまでむにゅっと抱きしめた。
 よくこの指導に耐えられたとのご褒美なのだ。駄目なことに罰を与える指導が効果薄なら、いい事をしたときにご褒美をあげるやり方で欲望を制御した方が得、と覚えこませる。そう考えての行為だ。
 おまけかトドメか知らないが、
「体に自信もあるのだけれど、どう? 気持ちいいかしら? なら嬉しいわ」
 そんな事までのたまった。おおらかなのか天然か知らないが、男にそれは危険すぎる。
 振り切れるメーター迸る獣性。我慢が出来なくなって、
「「明穂たぁぁぁぁぁぁん!!!」」
 内に潜むケモノが解放された。




「この、バカ弟子がぁぁぁぁ!!!」
 響く咆声轟く烈風。一陣の風と共に黒き鬼神が現れた。
「「と、倒萌先生!」」
 吹っ飛ばされた二人の若侍は、颯爽と現れた己の師匠へ居住まいを正した。
 彼ら萌えに生き萌えに命を捧げ、萌えに殉じる萌え戦士達。その頂点に立つ存在到萌不敗。彼らのような下っ端萌え戦士にはお眼にかかるのも難しいお人なのだ。
「やってくれたなお前達。萌えという名の冥府魔道の技術は世に出てはマズイのだ‥‥‥」
 怒気を孕むその声。一言一言に表現し難い怒りが滲んでいる。
「萌え道を流出させた、或いはさせかねない者は処分される。それが萌術協会の掟。一部の妄想戦士が良識を守るのは、世間から隠れ神秘を隠匿する為なのだ!」
「し、しかし先生!」
「いい訳など聞きたくない! そもそも私は『倒萌不敗』ではなく『至萌不敗』だ! 萌えは至るのではなくて倒れるのではない! 覚えておけ!」
 一般人からすればどうでもいい事だ。突然の事に驚いたその他の面々は呆然と見つめていた。
「旦那の声に似ているな‥‥‥」
 信人は聞き覚えのある声に顔をしかめた。
 伊勢誠一(eb9659)。この依頼を共に受けた冒険者であり、親交を持つ友人だ。
 眼の前の頭巾の不審人物はその友人の声とひどく似ている。その上背恰好もそっくりで身振り手振りにも覚えがある。というか本人としか思えない。
「萌えは極める、良識は守る。この意味理解できなかったか。情けないぞ‥‥‥!」
 だが今はそんな事より、
「目に余る色欲に塗れた不埒な所業、これ以上は許しちゃぁおけねぇな」
「頭の中がきれいサッパリリセットされるまでどつきまわす‥‥‥!」
 祐之心はバックパックいあらクレイモア――と言い張る木刀を――構え、龍之介は指をぽきぽき鳴らして迫る。
「コアギュレイトは‥‥‥ホーリーフィールドならなんとか防げるかな‥‥‥?」
 コルたんもヤる気だ。
「妄想は妄想具現化に至る神秘の過程。本来ならキサマらを仕置くのだがそんな事を言ってられる状況ではないな」
 立ちはだかる萌えの的に、瞳を光らせ威嚇する誠一‥‥‥もとい到萌先生。
「先生、萌えという冥府魔道に生きる者の力、見せ付けてやりましょう」
「その通り。同士よ。手伝ってくれ」
「同士って俺か?」
 突然振られた信人。
「業界では有名だぞ? ろりきゅあの名は」
「共に萌えの敵を倒そうではないかさあ、あいつらをきゅあしてくれ!」
「俺に振るな!」
 既に変態の仲間と認識された信人は弁明するも、
「‥‥‥幾らやってもどうせ無駄なんやろねぇ」
 更紗筆頭に冷たい視線を向けられる。
「だから違うと‥‥‥」
「さあ、ろりきゅあ!」
 既に致命的で。
「誰がろりきゅあだーーー!!!」
 部屋に暴力の嵐が吹き荒れた。