〜続 萌え倒せ! 魔物っ娘大作戦!

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月02日〜11月07日

リプレイ公開日:2007年11月09日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 現在、独眼流の名で知られる伊達政宗が治めるこの地は、戦後の事後処理で何かと忙しいがそれなりにかつての活気を取り戻していた。
 立ち寄る旅人や商人は、源徳時代とは勝手が違ったりそもそも伊達家に支配権が移った事も知らない者もいるがそれなりに日々を過ごしていた。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





 メイド喫茶柳亭。かつて閑古鳥が大合唱していたこの店は、冒険者達の手により大きく姿を変えた。
 和風テイストであった店内は洋風に。出される飲食物も和と洋が混ざり合って、決してそれが互いに呑む事もなく絶妙なバランスを醸し出している。これで華国の料理も出せば完璧かもしれない。
 そして何といってもメイドさん。この店の一番の売りだ。
 漆黒のワンピースに純白のエプロンドレス。そして頭に添えられたホワイトプリムは全体的に地味な印象のメイド服を――色彩の問題でビジュアル面からすれば目を引きまくるが――引き立てている。
 いや、志士メイドとかクレリックメイドとか、衣装の組み合わせ及びカスタムタイプのメイド服を始めとする、種類によってはメイド服の原型をとどめないものがある。だがそれでも野に咲く可憐な花のように、決して派手ではないものの、しっかりと存在を主張するホワイトプリムのおかげで『それ』はメイド服としっかりと判るだろう。
 むしろホワイトプリムそのものがメイドかもしれない。
 メイドとは――ひっそりと咲く野花のように、見る者の心に一時の安らぎを与える存在。主人の一切を助け、主人の為に尽くし、主人を見守り慈しむ女神なのだ――
 もう突っ込むしかないのだがそんな事はどうでもいい。
 西洋で言えば今の時期はハロウィン。西洋魔物にとって特別な時期かもしれないが子供達にとっては決まり文句と共に家々へお菓子をねだりにいく時期だ。
 メイド喫茶柳亭。西洋風味なこの店も、折角だから西洋的なイベントをやってみようという話しになった。
 店員達はこのイベントの為に用意されたカスタムメイド服を身に纏い、決まり文句と共に客――ご主人様を迎える。
「お帰りなさいませご主人様。お菓子を買ってくれないと悪戯しちゃいますよ♪」
 そんなどこか間違った感のある台詞を、るんっ♪ と効果音が付きそうな具合で幼メイドは言った。
 名前は小夜叉(華国語発音)。その名の通り幼い夜叉だ。
 見た目はそれこそ少女で、奉公とかあるもののおおよそ勤労という言葉とは無縁と思えるぐらいの年齢だ。
 だが、まがりにも夜叉の名を冠するだけあってそれはもう見事に美少女だ。整った顔立ちにくりくりした大きな瞳。長い黒髪も入念に手入れされていて夜空と、瞬く星のように輝いている。肌は年齢的な事もあり張りはある。スタイルの方は――お子様だし期待する方が間違っているだろう。特殊な趣味の人は逆に喜ぶだろうがそんな事はどうでもいい。
 人間やエルフやシフールやらが国を作ったりする社会の中、色々と生活が苦しくなった彼女は、二人の仲間と共に人間の街にやってきて、素性を隠して生活を営んでいた。
 彼女の本来の目的は女性の嫉妬を増大させて取り憑く事であったものの、カスタムタイプのメイド服。ジャック・オー・メイド服を着てメイドの仕事をしている。
 ハロウィン。それの代名詞であるジャック・オー・ランタンをイメージしたカスタムメイド服らしい。期間中はこれがデフォルトになり他の店員も着用して決まり文句と共に業務に励んでいた。
 イベント期間中とはいえクッキー諸々も買わせ売り上げも伸びているのだが、何というかこう店員達も深く考えないようにしていた。
 つまり、考えたら負けなのだ。この店は。
 そんな店内に二人のメイドが業務を行っている。
 一人はぼうっとしているような、どこか浮世離れしているようなメイド。セイ・スイ。
 もう一人はセイ・スイとは対照的な、並んでいるせいで攻撃的とすら思える意思の強い瞳の美女。ラー・ミア。彼女は床を『這って』歩いていた。
 ラー・ミアは次の卓に向かう傍ら尋ねた。
「何というか、私達普通に馴染んでないかしら?」
「‥‥‥まあ、日々が忙しいですし‥‥‥。充実しているからだと思うわ‥‥‥」
 抑揚のない声でセイ・スイは答える。
「そうよね。私は人間の血を吸う為に街に下りて、エサの選別がしやすいようにこの店を選んだのに、今まで一度も血を吸えてないわ」
「‥‥‥私も似たようなものです‥‥‥。正直、当初の目的を忘れかけていましたし‥‥‥」
 悲しんでいるようにも聞こえる。しかしこの口調がデフォルトな彼女の場合は本当にそうなのか区別が付かないのだけれど。
「‥‥‥それに‥‥‥。あの子も仕事を楽しんでいるようです‥‥‥」
「ていうか小夜叉、オープンカフェ後から性格変わってないかしら」
 そうなのだ。二人の仲間である小夜叉は、この間とある武家が開いたイベントで柳亭が開いたオープンカフェ以降、まるで人が変わったみたいに明るくなっていた。いや、終った直後は隅っこで恐怖に震えて、今はその記憶が『無かった事』のように振舞っているようにも見える。正直聞けなかった。彼女にも他人に言えない事もあるのだろう――そういう事にした。
「‥‥‥まあそれは追々聞いてみる事にして‥‥‥貴女の恰好はどうにかならないかしら‥‥‥?」
「あら、おかしい?」
「‥‥‥おかしいも何も‥‥‥」
 セイ・スイはラー・ミアの、スカートから伸びている爬虫類の尾を見て言った。
「‥‥‥本性の姿を晒しては‥‥‥素性を隠す意味はないと思うのですが‥‥‥」
 床を蛇そのものの動きで這うラー・ミア。上半身は超の付く美人の人間女性。つまり彼女は蛇女郎と呼ばれる魔物なのだ。そしてセイ・スイも精吸いと呼ばれる魔性の存在。まあぶっちゃけ人間の敵である。
「そう? ハロウィンだし仮装だとしか思われないわよ」
「‥‥‥さすがに、そう堂々とされては‥‥‥」
 言いかけるも、
「ラー・ミアたん蛇女郎の仮装ですか! グッジョブです! 本物みたいです!」
「ラー・ミアたんみたいな蛇女郎なら巻き付かれても血を吸われてもよし! つーか俺が巻きついて思いつく限り色々したいぜ!」
 凄まじい波動やらナニヤラを垂れ流してのたまう変態達。隙あればラッキースケベを狙ってくるアホな客達で、柳亭では見慣れた連中である。
「ほら、堂々とすればかえってバレないものよ」
「‥‥‥そうですか‥‥‥」
 それは脱力か。というか萌えに生き萌えに魂を捧げ萌えに殉じる萌え戦士達。明らかに蛇女郎だというのにメイドだから疑問に思わないのだろうか。
「まあ、冒険者また雇うようだし、そいつらにバレなければいいわよ。ていうか変態達はイベント期間だからっていつも以上に行動を起しているしそっちの警戒も必要ね」
「‥‥‥昨日は大変でした‥‥‥」
 客にどんな事をされそうになったのだろう。精吸いは胸をかき抱きため息を付いた。
「折角だからさ精吸い技使ってみたら? バレないかもよ?」
 ハロウィンだし。

●今回の参加者

 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb0084 柳 花蓮(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec2197 神山 神奈(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec3755 沢良宜 命(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 メイド喫茶柳亭。かつては普通に甘味処であったものの、冥府魔道に人外魔境。ある意味救いのない無限地獄をを突き進む勇者達。萌えに己が全てを捧げた漢達は今日も今日とて魂の叫ぶままに駆け抜けていた。
「メイドさん! 手が滑ったよ!」
「身体が滑って抱き付くかもしれないよごめんなさい!」
「物を拾おうとしただけでスカートの下を覗こうとしたのは偶然だから!」
 迫る変態達をムーンアローやサンレーザーがなぎ倒す。だけど懲りずに連続爆音。店の風紀云々の問題だが既にこれが店の常体だし普通の客も気にするのをやめている。
 突っ込む事そのものが意味がない。
 店としてどうかと思うものの、新たに来店した客をアンドリュー・カールセン(ea5936)は迎えた。
「Trick or Treat。 ただ今ハロウィン期間中でして、お菓子とイタズラのどちらかをサービスさせていただきます」
 店中に吹き荒れる爆風と鳴り響く爆音絶叫をスルーして、ジョンブルに執事ヴァンパイアは接客する。
 一通り注文の品とサービス品を出して下がろうとしたが、
「どこ触ってるんだぁぁぁぁ!!!」
 唸る細腕変態滑空。美少女メイドのリフィーティア・レリス(ea4927)の怒りの鉄拳により吹っ飛ばされた変態は、今カップやお菓子を楽しもうとした女性客の中心を鬼のような速攻の勢いで駆け抜けた。
 遅れて駆けた疾風。轟音を立てて壁に叩きつけられた変態は、壁に蜘蛛の巣状の切れ目が走っているというのにダメージがまるでなかったかのように立ち上がった。
 瞳が萌えていた。
「ふふふ‥‥‥リフィたん。チミは着痩せするタイプなんだネ? そしてひんぬーなんだネ? なら俺が育ててあげよう! 『胸が小さいのが悩みだけど、揉めば大きくなるのかな? だけど自分でするなんてはしたないよぅ‥‥‥』なんて悩みは無・問・題! 俺に任せれば解決さ!」
「するかぁぁぁぁ!!!」
 抜き放つ二振りの鬼神の小柄。一振りでも不運に見舞われるそれを持ち続け、不運に見舞われる事幾星霜。既に大殺界の領域に到達したかのような不運っぷりは他の追随を許さない。
「俺、苛められるのも好きだよ!」
「ぬがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 ‥‥‥とまあ以下略。
 嵐のような変態バトルの過去って、沈黙する女性客。
 アンドリューは取り合えず、
「申し訳ありませんお嬢さま方。うちの者が粗相をしたようで‥‥‥」
 腕を一瞬もぞりと動かしてぽんっと煙が立つ。色とりどりの花々や数羽の鳩がくるっぽー。
 手品で誤魔化した。どうでもいいがタネと仕掛けが気になるものだ。





 まあ基本的にリフィーティアは美少女である。
 夜の空に流れる天の川のように眩く煌く銀の髪。どこまでも広がる青空色の瞳。俗世も知らず穢れも知らない、大切に大切に育てられた深窓の令嬢のような白い肌。只、そにいるだけで全てが癒される慈愛の天女‥‥‥それがリフィーティアだ。
 実際街を歩けば十人中十人、百人中百人が足を止め振り返る程の美貌を備えている。
 触れると折れてしまいそうな、俗世の垢に染める事を躊躇する細い肌にはカスタムタイプのジャック・オー・メイド服(以後ジャック服)。一種の神々しささえ伺える肢体に魔物を模した衣類を身に纏うのは何か倒錯的な魅力が発せられて逆にそそる。
 最早同姓すら妬むのを忘れる程の美貌の持ち主であるが、そんなリフィーティアにも唯一の欠点がある。
 それは――彼が男であるという事。
 むしろ望んで女装しているという訳でもないし、デフォルトで既に女性と思われているのだから男としてそっちが欠点だろう。
 だがそんな事はどうでもいい。彼は変態の制圧後、重いため息をついて店内を歩いていた。
「メイド服が用意されてるのは何となく予想ついてたけどさ。毎回毎回違うっつってんだけど確認する気ないんだろうかなー‥‥‥」
 身に纏うのはカスタムタイプのメイド服。しかもリフィーティア専用にと、通常のジャック服よりフリフリとリボンが増している。可愛い小悪魔ちゃん♪ な風味に仕上がっていた。
「あの危ない客どもに手加減する必要なんかないって思ってたけど、本当に大丈夫か? この店」
 色んな意味で危険な店である。
 客というか店長に小一時間問い質したい気分で、ラー・ミアとセイ・スイに声をかけられた。
「お疲れ様。キレのいい拳撃だったわね」
「‥‥‥あそこからの追加コンボは常人なら即死でした‥‥‥。参考にさせてもらいます‥‥‥」
「あれで倒せる相手じゃないけどな‥‥‥」
 普通に喫茶店で交わす会話じゃない。リフィーティアは疲れきった声で相槌を打った。
「そう言えば小夜叉も含めてだけどさ、おまえ達わざわざこんなとこ働きに来ることないのになとか思うんだけどな」
 全くもってその通りである。来店している男客はほぼ女の敵だ。
「‥‥‥まあ、それは‥‥‥」
「こっちにはこっちの事情があるしねぇ?」
「‥‥‥それならいいけどさ」
 あの三人には色々事情があるのだろう――そう思う事にした。冒険者的に無視出来ない事情を持つ三人であるが、リフィーティア自身知らない事である。
 そう三人並んで歩いているとネコミミメイドのねね子がアホ共に絡まれていた。いつもは揺れている尻尾は小刻みに震えている。
「カスタムタイプのメイド服似合ってるね! だけど、ボタンを後二つ外したり少し肌を見せるといいと思うよ。むしろ見せて!」
「それにふさふさのお耳と尻尾を触りたいよ! 追加料金でお願いプリーズ!」
「むしろ俺らが悪戯してあげる方向で!」
「あうぅぅぅ‥‥‥」
 眼がかるーくどころかかなりキテて色々なモノを垂れ流してる変態達。ねね子はすっかり脅えている。
「またあいつらか! サンレーザー!」
 メイドさんの指からビームが走る。とりあえず手近の変態を焼いたリフィーティアはねね子を庇う様に間に立ちねね子はリフィーティアの服の裾をきゅっと握り、後ろから伺うように覗いている。
「どっちに非があるかなんてというより、少しはTPOを考えろ! 店を勘違いしてないか!」
 まあ今更な話しである。
「メインディッシュに更にメインディッシュが! 今日はどんな日だ!」
「ナマのネコミミメイドに妖精さん。これはもう狩るしかないな」
「至萌先生、俺は今日、萌え道の新たな一歩を踏み出すかもしれません!」
「バカかお前ら!」
 バカに違いない。
「フフフ‥‥‥リフィたん。いつもそう言ってるけど本当は構ってほしいんでしょ?」
「何だかんだいってここで働いてるし」
「やかましい! 別に好きで手伝いに来てるわけじゃないんだからな!」
 死角を取ろうと動く変態。リフィーティアは積りに積った怒りで上手く呂律が回っていない。
「そんなにヤキモチ焼かなくても大丈夫。ちゃんとリフィたんもお相手するから」
「構ってもらえないから怒ってるんでしょ?」
「勘違いするな!」
 ねね子が心配なのだ。変態に毎日脅えていると思うと腹が煮え立つ。
 ちなみに彼自身言い返しているだけなのだが、この変態達にはその台詞がとても致命的だった。
 容姿が女の子でそういう恰好を長期に続けていると仕草も女の子のそれになるのかもしれない。
 両の握り拳を下に突き出して少し前のめりの『女の子のポーズ』で、
「ねね子の事が心配なだけなんだからな!」
 声高らかに火に油な台詞を叫んだ。
 一瞬硬直する変態達。歓喜に身が震え、
「「「ツンデレだーーー!!!」」」
「誰がツンデレだ!」
 変態達は聞いてない。脳内で様々な妄想が駆け巡る。
「いつも冷たい態度やそっけない言葉しか言わないけれど」
「本当は素直に伝えきれないキモチの裏返し」
「フラグを立ててイベントを攻略し続けて、『こ、こんな事してあげるのはお前だけなんだからな‥‥‥』と言って来たり! 最高だ!」
「ちょっと待て!」
 羊を囲い今にも狼のように飛び掛らんとする変態。ラー・ミアなんて鼻血たらしながら震えている。
「か、可愛い。リフィちゃん可愛すぎる‥‥‥」
「‥‥‥スイッチ、入った‥‥‥?」
 にょろにょろリフィーティアに絡みつき牙がきらーんと光らせるラー・ミアをセイ・スイは見つめた。
「な、何だ蛇女郎みたいに絡みついてきて! それに今にも血を吸いますよ、的に歯が牙ってるし! 前から変態が!」
 微妙に口調がおかしくなってるリフィーティア。
 前から変態が迫り自分は絡み付けられて動けない。色んな意味での人生の危機に何かがキレて、
「やーめーろー!」
 魔法の光りが炸裂した。




「ハロウィンの響きでキャメロットがふと懐かしくなって寄ったけど、間違いだったかも」
 通算三桁に近い――既に二桁越えた辺りで数えるのを止めたが――変態を制圧したステラ・デュナミス(eb2099)は遠い眼をしながら深い深いため息をついた。
「前回は大丈夫やったけど(ゆさり)、今回はどうか分からないんよねぇ〜‥‥‥(ゆさり)」
 こちらもため息を付くメイドさん。沢良宜命(ec3755)だ。
 彼女はステラと同じくジャック服ではなく自分で選んだ物を着用している。ステラはネコミミなのに対し、命は白地と包帯の危険なメイド服だ。
 属性と言えばそれだけなのだが異様なまでに二人は野郎連中の眼を引いている。
 それはお胸さまだからだ。
 二人に共通しているのはきょぬーであるという事。しかも命に至っては最早神の領域に到達している。もう合うサイズがなく、アホ程胸を強調したメイド服を着ているという訳だ。
 命はあまりのお胸さまぶりに仕草の一つ一つでお胸さまが「ゆさり」と動く。変態ではなくても男は気になって気になってしょうがないのだ。
「はろうぃんが(ゆさり)この国にまで浸透しているなんて、驚きやわぁ♪(ゆさり)」
「ていうか、むしろ悪戯してくれ! って暴走するお客ばかりだし。あんな真似をするんじゃなかったわ‥‥‥」
 お色気たっぷりの美人のステラ。さすがに小夜叉のように語尾が付く媚を出来るでもなく、お菓子をその豊かで、収穫前の瑞々しい桃のようなお胸さまに挟んで前屈みで迫ったのだ。いい感じに店に染まってきた感があると自覚しているらしい。
 そんな不安が炸裂な二人に対し、もう片方の二人組みは割りと陽気にメイド業に勤しんでいる。
「お牧ちゃんも次から次へとイロイロ企画頑張ってるわねぇ。あたしも頑張らなきゃ♪」
「ふふー、なかなか楽しそうな依頼だー♪ 思う存分楽しもうっと☆」
 こちらも色気が服を着て歩いているような超美人。御陰桜(eb4757)と神山神奈(ec2197)だ。
 二人とも人というか、サキュバスと言われても信じるかもしれない。
 桜は整った容姿は勿論の事、たわわに実った二つの双球に引っ込む所は引っ込むという理想的な体型。しかもデビルを模したのか殺人的に露出を強化して背中にはコウモリ羽。しかもナンパ技が超越の領域に到達し、接客された男は皆総じて骨抜きになっている。甘いというか本能を刺激するような何ともいえない香がして‥‥‥官能的という言葉すら生温い。
 神奈はジャック服を更にカスタムした高機動型。ぶっちゃけ極限にまで露出を強化した服だ。
 もう致命的に露出が危険なので動く度に中が見えそうで怖い。むしろ見えたりもにゃむにゃむで、偶然を装って変態がアクション仕掛けるがその度にスタンアタックで潰している。
 お触り厳禁というならそういう恰好しなければいいのでは、と思うが突っ込むのは野暮というもの。漢として黙ってじっとりねっとり嘗め回すのが筋というものだ。
「ご主人様♪ お菓子を買ってくれないと悪戯しちゃうよ〜☆」
 変態の顎を蹴り上げる。迫る変態を鬼のような速攻の速さで変態をノした神奈は、幸せそうな表情で倒れている男に言った。‥‥‥何を見たんだろうか。
「ただで触ろうなんてダメだよー。見るのはただだけど触りたければお金払ってね☆」
 そういう問題でもないだろう。
「ご主人さま、これ以上なさるなら魂を対価に頂きますがよろしいですか?」
 こっちも迫り来る変態に、アイアンクローで掴み上げた桜が優しく脅す。
 各々色々やっている中、ようやく薬の調合を終えたジャック巫女メイド、柳花蓮(eb0084)が店内に入ってきた。巫女風にカスタムした上に魔女風のマントでよく判らない恰好だ。
 通りすがった、やけにつやつやしたラー・ミアを見て首をかしげた。
「‥‥‥面白い人達ですが‥‥‥ていうか、あれは蛇女郎‥‥‥?」
 ようやく不審に思ったらしい。



 ちなみに今回柳亭は八人の冒険者を雇っている。今まで七人しか姿を見かけなかったものの、実は虎魔慶牙(ea7767)はちゃんと店内に居た。
 着崩した荒事歌舞伎羽織を身に纏い、客に扮した隠れ用心棒として、
「英雄色を好むというではないか、男には当然の機能だぜぇ!」
 とメイドさんに絡みまくっていた。とは言っても変態連中のアクが強すぎるせいか、慶牙のそれは影が薄い。それでもメイドさん達にとっては同じらしくムーンアローとかで一緒に吹っ飛ばされたりもしているが。
 そして変態達を彼を仲間と思ったのか、
「同士慶牙! 手を貸してくれ、このままじゃメイドさんを襲えん!」
 ステキな犯罪台詞をのたまった。桜に締め上げられた変態である。
 そんな変態へ、
「待て待てぇいっ!」
 斬馬刀片手に瞳が轟きビームが走る。
「誰が同士だ! そもそも女は(中略)だ!」
「この変態め!」
「お前達が言うな!」
 どっちもどっちだ。客にバレぬよう場に合わせているだけだが端から見れば同類だ。
「そもそもお前は何者だ。俺らと同じ業界だろうに」
「どこの業界かしらねえが‥‥‥遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 我が名は戦闘執事【鴎】(コンバットバトラー・シーガル)、悪を断つ剣なりぃ!」
 盛り上がる超筋肉。どっかの侍みたく服がはじけ飛ぶ。こいつはすげぇとか言いそうだ。
 そして‥‥‥




「用心棒としては頼りにしておくけど、お触りは禁止だよ☆」
 違う意味で戦闘不能になった慶牙を突付きながら神奈は言った。周りは水浸し。ステラのウォーターボムにより、変態諸共『男』を攻撃されたのだ。巻き添えだがむごすぎる。
 だがそんな事はどうでもいい。黙々と仕事をこなしていたアンドリューと花蓮は、互いの見解を交換しあっていた。
「魔物と思いますが‥‥‥ここのお客様達、精吸われる方が世の為かも‥‥‥」
「茶店で働く魔物か。世界は広いな」
 とはいえそれなりにレア度のある魔物だ。街中であるし、断定は出来ないが。
 彼は花蓮が抱えている容器に眼を細めた。視線に気付いたのか花蓮は言った。
「惚れ薬です‥‥‥。試作品ですので、ドロドロしてますが‥‥‥」
 注意が逸れたと、一人の変態が狙いを定める。
「今が勝機! 無口メイドさん、もらったぁ!」
 獲物の首に牙を突き立てるように飛び掛るが、
「ご主人様、困ります‥‥‥」
 ブラックホーリーが炸裂した。