藩主狩野茂光 伊豆の始めに

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月10日〜11月15日

リプレイ公開日:2007年11月19日

●オープニング

――これは、所謂前フリというやつで





 江戸から遠く温泉の湯気が立ち上る地、伊豆。
 この地は古くから温泉が豊富で湯治に訪れる者が後を断たない。また、優れた薬やそれらの原材料の産地でもあり薬の名産地としても知られている。
 特に薬の原材料は、子供やパラのような小柄な体型の者でしか採取にいけない特殊な環境にあった為、結果としてパラ人口が多い。市街をよく見渡せば他の藩に比べてパラの姿を見かける。
 温泉と薬。これだけでも観光地としての要素は充分であるが、もう一つ、宗教的にも重要な場がある。正確にはとある血筋にはであるが。
 三嶋大社。源氏に縁ある神社だ。
 祭神を大山祇神・事代主神の二神としこれらは総称し三嶋大明神と呼ばれる。歴史を紐解くと主神は誰か、という説が色々論じられたらしいが――今となってはどうでもいい事だ。この辺り深く突っ込んでいくと色々マズイ。
 他に同敷地内にはタタリ石と呼ばれる岩があり、これの近くにいる者は怪我をしたり気分が悪くなるなど総じて不調に見舞われる。この地に伝わる伝説によると、タタリ石には強力な悪霊や妖怪を封じ込めたという。大昔は流刑地だったという話しもあるしそれらの経緯でそんな伝説が生まれたのかもしれない。
 だがそんな事はどうでもいい。
 三嶋大社や厳島神社等源氏に縁のある土地、伊豆。
 先の乱においてはその関係上源徳に対し友好的であったこの藩は、乱後、一つの選択を迫られていた――





「狩野殿、お呼びになられたでしょうか」
 伊豆にそびえる城、その天守。傍小姓に内密に呼ばれた一人の侍は上座に座す男へ頭を垂れた。
 狩野茂光。伊豆の地を納める藩主である。
 彼は人払いを済ませると呼び出した侍を近くに来るよう促す。二十代後半ぐらいだろうか。三十路には届いていないだろうが小さい子供からすればおじさんと呼ばれる――そんな年齢だ。
 だがそんな事はどうでもいい。真面目さが伺える硬そうな顔つき。その姿勢には一分の乱れも無く一つ一つの仕草に彼の実直さが見受けられる。
 堅実に実績を積み上げてきたであろうその侍は年齢以上に落ち着きを感じる。今、己の立場はひどく危ういものであろうに、その不動ぶりは一種の尊敬すら抱く。
「貴公の意見を聞きたい。今日の論議での事なのだが――」
 ため息を付く茂光。彼の悩みの種、伊豆の家臣団が二つに割れていた。
 先の乱により源徳が敗北し江戸を手中に収めた伊達軍。そして姿を現した源氏の嫡流、源義経。これらの結果は伊豆の地を混乱に陥れる要因となった。
 三嶋大社に厳島神社。かつて度々源氏に連なる要人がそれらの神社で結婚式を挙げたり祈願をしたりと宗教的な意味合いでも源氏に深い関わりを持つ伊豆。その関係上、源徳家に対してもそれなりに結びつきもあり友好的な関係でもあった。
 だが先の乱による源徳の敗北。伊達家の台頭。これは先述の通り伊豆藩に一つの選択を迫る事になる。
 友好関係を結んでいたのなら源徳を支持すればいいのだし大げさな話しだと思うのだが、論議の対象となった存在が伊豆藩を論争に陥らせてしまう。
 源義経。今までいないとされていた源氏の嫡流である。
 義経は奥州に匿われていたという。その奥州から出陣してきた伊達軍。これは伊豆の抱える状況に波紋をもたらせた。
 そもそも伊豆藩は豊富な温泉や薬草に薬の精製。そして各種寺院の多さに比べ、軍事関係が弱かった。寺院が多ければ殺生を禁じる思想がより広まるのか、多量な温泉や製薬産業に場所と人手を取られているのか。ともあれ、伊豆藩は近隣他藩に比べ軍事力に劣っていた。
 更に先の乱の影響か、街道では野盗の類の被害が目立ってきている。今すぐにでも藩としての姿勢を統一し領内の不安要素を一掃しなければいけないのだが、議論は乱から半年を経っても収束する気配が無く、分裂した家臣団に藩主は頭を抱えていた。
 そんな伊豆藩に世話になっている彼は、衣食住の代わりに藩の治安に奔走していた。
 彼は答えた。
「冒険者に接触してみては、どうでしょうか」
「冒険者? 江戸や京の都にいるという者達の事か?」
「はっ。いづれも豪傑揃いで、私も江戸にいた頃は彼らと共に戦場に立ちました」
 一拍の間を置いて、
「誰も彼も一騎当千の実力の持ち主です。正直敵として相対したくはありません」
「それほどの者達なのか‥‥‥」
 茂光は驚きに眼を開く。眼の前の、客将として迎えている彼も相当の武芸者であるが、そんな彼が絶賛する程の冒険者とは如何程の者達であろうか。実際冒険者といってもピンからキリまでいるが、魔物怪物と渡り合うためか、達人級の武芸者・術者も珍しくない。更に上を見れば、世界にその名を轟かせている者もいるというし、冒険者侮り難しと言った所だ。味方に付ければこれほど心強いものもないだろう。
 だが‥‥‥
「しかし安達殿。この伊豆より江戸は遠い。今から呼ぶにしても時間がかかるではないだろうか」
 伊豆の抱えている問題点。茂光の不安要素はいつ暴走するか判らない。彼の見るところでは家臣達の論議は今日明日のうちにも最悪の事態を迎えるように思えた。それは、藩主の考え過ぎかもしれないが、いかに腕の立つ冒険者と言えどいきなり江戸からやってきて難しい問題を解きほぐせるとは到底思えないのも道理だ。
「ご心配には及びません」
 安達藤九郎は言い切った。
 かつて源徳家の家臣として仕えていたこの侍。生まれは決して良いとは言えないが、実直な性格、優れた武芸の技でそれなりの役職に付いていた。その彼は、客将という今の立場でも真面目に藩内の平和を守る為に日々勤しんでいる。源徳軍の敗北の折、伊豆の地に落ち延び客将として世話になった恩を返したいと思っていた。
「部下の報告によると、只今三嶋大社に滞在しているようです。依頼で江戸の神社から物資を運んできたらしく、神主殿の薦めもあり今は藩内を観光しているとの事です」
「成る程、わが藩は観光地としての側面もあるからな」
 温泉に薬に、由緒正しい名刹、海の幸も豊富で観光地として申し分が無い条件が揃っている。一年を通して藩内では多くの観光客の姿が見られる。年末年始となると忘年会や新年会で騒がしいものである。
「では明日にでも三嶋大社に向かおう。表向きは参拝で‥‥‥安達殿も付いてきてくれるか?」
「それは構いませぬが‥‥‥」
「浮かぬ顔をしているが、何かあるのか?」
「気になる点が二つ。伊東殿と工藤殿です」
 伊豆の家臣団を真っ二つに割った元凶。
 源徳支援派筆頭の伊東祐親と、義経(伊達)派筆頭の工藤祐経。二人は伊豆が生き延びる為として日々激しい論争を続けている。
「お二方もそれぞれ冒険者に接触しようと、温泉街や薬草と薬の専門街に出て行かれるという報告を受けています。いかにも冒険者が観光で回りそうな場所、どこかで冒険者の存在を知ったのでしょう」
「独自に情報を手に入れようとしているのか‥‥‥もしくは戦力として考えているのかもしれないな」
 伊豆藩の騒動は論戦に留まらず、表沙汰にはなっていないが一部過激派は両派閥の要人を襲う事態にまで至っている。
「どうします。部下に見張らせておきましょうか」
「頼む。あの二人も、伊豆を思っての事だろうがな‥‥‥」
 様々な思惑蠢く伊豆。茂光は深くため息を付いた。

●今回の参加者

 eb0084 柳 花蓮(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb1276 楼 焔(25歳・♂・武道家・ドワーフ・華仙教大国)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5668 ルーフィン・ルクセンベール(22歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb6966 音羽 響(34歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb8219 瀞 蓮(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec3755 沢良宜 命(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 伊豆温泉街。黒根の岩風呂とか、伝統の漁法で獲った新鮮な海の幸に恵まれた味と湯の街である。
 他にも夢のお告げで掘り当てたとか、謎に包まれた名匠が作った山門の寺とか――各種温泉街はそれぞれが抱える特徴を活かししのぎを削りあっている。いずれも並ぶものなしの名湯である。
 その中の一つのとある温泉。楼焔(eb1276)は、燃え盛る魂の下、尋常ならざる波動を迸らせていた。
「伊豆‥‥‥大好きだーーー!!!」
 叫ぶ竜声大気を叩く衝撃波。彼の歓喜の叫びは風を超え光りを超え、物理現象を持って駆け抜けた。
 その余波を受けよろめく伊東祐親。波打つ湯船に足を取られぬよう、一生懸命踏ん張っている。そうでもしないと立っていられないからだ。
「伊豆屈指の秘薬・女神の雫。それの精製方を知る為には、あの柵を覗かなければいけない漢として!」
 うぉぉぉぉと吼える焔。彼はそう、その名が示すが如く燃えている。
 何故ならば、目指すものはそこにある。
 それは、世にあまねく全ての男が切望するものだろう。
 それは、名誉を犠牲にしても価値のあるものだろう。
 それは、命を賭してでも見ようとするだろう。
 その名は女湯。
 生きた宝石たる女性が一糸纏わぬ姿になる聖域だ。
 侵されるべからず聖域に炎の魔人と祐親は向かおうとしていた。
 見つかれば六道輪廻の、終わる事なき苦しみを受けるだろう。聖域を汚すものに生きる権利はない。
 だが焔の背に死地に向かう悲壮な決意は見られない。伝説に謳われる英雄・勇者の姿がそこにある。
 冒険者とは総じてこういうものだろうか。頼もしい限りだが――
(‥‥‥何故、こんな事になったのだ‥‥‥!?)
 伊豆藩家臣伊東祐親。万が一捕まりでもすればお家の恥。
 話しは少し前に遡る‥‥‥





 温泉街を練り歩いていた御陰桜(eb4757)は、同じく練り歩いていた焔に偶然出会い、折角だからと同道する事にした。
 元より顔見知りだ。どこの温泉が良かったとか次はどこの温泉に行くかとか世間話をしていたが、二人の前に武士の一団が立ちはだかった。彼らは二人を拠点にしている某旅館に連れて来た。
「冒険者殿とお見受けする。私は伊豆藩が家臣、伊東祐親と申す」
 旅館の一室。部屋に祐親は桜と焔と対面した。
 祐親は情報を得ようと事情を一部隠し尋ねた。
 だが桜は一蹴。ある『用件』と引き換えに取引に応じた。
 祐親はこの状況下ですら余裕な態勢を崩さない桜の正気を疑ったものの、冒険者は豪傑揃いと聞く。よく見てみれば隙だらけな恰好なのにどう考えても手を出せない気がする。
 そうして二人は奢りで有名温泉をハシゴしたり高級料理を食べ歩いたりしたりする訳で、場面変わって女湯。雄大な海原を鑑賞しつつ温泉を満喫していた。
「う〜ん。やっぱり大きいお風呂はいいわねぇ♪ それに、とってもいい景色だし言うコトなしね♪」
 大きく伸びをして感嘆のため息。湯気に隠れているけどお胸さまを堂々と、男がいたら出来ない真似である。女湯だから気が緩むのだろう。他の女性達も行儀作法から考えればとってもはしたなく、まるで天国だ。
 そんな天国に忍び寄る黒い影。
「伊豆‥‥‥大好きだーーー!!!」
 大気を貫く超音波。ざわめく女性客に桜はため息を付いた。
「減るもんでもないからあたしは覗きとか気にしないけど、他のコもいるし‥‥‥覗きが出たら簀巻きにして晒し者にしようかしら」
 思い当たる人物が約二人。焔のターン!
「俺はジャパンの情勢には興味はない。ましてや派閥等はな‥‥‥」
 適当な大きさの石に足を掛け上り始める焔。柵には指を掛けるでっぱりはあまりなく上りづらい。
「だが、あんたらの目指す先に極楽浄土があると言うならば‥‥‥俺はその道を進むだけだ!」
 一気に駆け上がるが、
「覗きよー!」
「ぐはっ!」
 桶の嵐が焔を打ち落とす。
 かなり凄まじい音を立てて落ちて祐親は止める様促すものの、
「俺は戦う! あいつらが! ろ○きゅあや至萌○敗がこのお湯をを待っているんだ!」
 まあ確かに女湯の残り湯は需要はある。業界では『女神の雫』と言われているらしいがどういう用途で使うのだろう。
 何かが弾けるイメージ。彼は今、一陣の風となった。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
 柵を駆け上がり跳躍する。
 彼はこの瞬間、聖域に足を踏み入れた英雄となった。だが、
「ぐぅ」
 桜の春花の術により眠りの世界に旅立った。
 彼女の背後から、羞恥と鬼神の如き表情でそれぞれ得物を持つ女性達。そして、
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
 響く砕音飛び散る血潮。
 星が一つ瞬いた‥‥‥




「あんた達冒険者には面白そうな話しだと思うけど、伊豆には伝説の薬草があるって言うぜ?」
 薬草と薬を専門に扱う専門外。そこへ向かった一行はそれぞれ店を覗いていた。
 その一人のルーフィン・ルクセンベール(eb5668)。商人である彼は、薬と薬草の種類、地域別による売れ行き具合など‥‥‥商売に必要と思われる情報の収集を行っていた。ついでに独自のパイプも作れればと、やる事にそつがない。
 情報収集の中、彼は伝説の薬草というものを聞いた。
「面白そうな話ですね。もう少し詳しく聞かせて頂けません?」
 興味深い話しだ。続きを促した。
「何でも数百年間、月光を浴びたとか何とかで、それ自体が魔法薬だという言い伝えがある。それだけじゃ約に立たないから複数の材料で調合すると、あらゆる怪我と難病を完治する薬になるそうだ」
「それはそれは」
「今度、どこかの豪商が調査団を設立して探索を始めるって噂だが、もしかしたら冒険者にも‥‥‥」
 そこまで言って中断した。商人の部下がやって来て彼に耳打ちしたのだ。
 相手は大物だろうか。今から部屋に来るらしい。
「御免。そこの冒険者に用があるのだが」




 使いの侍に連れられたルーフィンはとある料亭の一室にやって来た。
 そこには同じく専門街を回っていた上杉藤政(eb3701)と柳花蓮(eb0084)がいた。
「君達もいるのですか。上杉君。青い顔をしているがどうかしたのかい?」
 まるで恐ろしいものを見たかのような表情の藤政に尋ねた。
「専門街での事だが、あれは惨すぎた‥‥‥」
 先刻の惨事。藤政は思い出すように説明を始めた。
『薬草と薬‥‥‥。錬金術を生業とする者として見逃せません‥‥‥』
『私と同じパラが多い国と聞く。いろいろ観光させてもらうといたそう』
 ルーフィンとは途中まで一緒だったものの、商人活動を初めた為藤政と花蓮は別行動を取っていた。
 見渡す限り薬と薬草。壮観な光景である。
『どんな物が売っているんでしょう‥‥‥。わくわくですね‥‥‥』
 彼女は惚れ薬を作りたいとかねてから考えていた。その材料たるものがあるのか、楽しみなのだ。
 店を巡っている中、一つの店を覗いた。用途の判らない丸薬とかトカゲと思わしきミイラとか、如何にもな店である。
 謎が謎を呼ぶ錬金術。彼女の目的の惚れ薬はその手の材料を使うのか知らないが、奥に進み店長に声をかけた。
『ごめんくださいまし‥‥‥』
『へいらっしゃい。何をお求めで?』
 幾つかのアレ的なモノを持った花蓮は店主へ値引きの交渉を始めた。
『さすがにこれは‥‥‥。もう少しまかりません‥‥‥?』
『そいつは入手が困難で‥‥‥』
『江戸では良く見かけますよ‥‥‥。値は張りますが‥‥‥』
『こっちも商売で‥‥‥』
 商品を見物しつつ店内をうろつく藤政。花蓮達の会話はよく聞こえないが、一瞬感じた殺気で二人を見た。
『貴方の名前‥‥‥心に刻みました‥‥‥。冒険者を詐欺にあわそうなんて覚悟がおありなんですね‥‥‥』
『あ、アンタ何言ってるんだ‥‥‥?』
 花蓮の頭に角が見えたのは気のせいだろうか。
『‥‥‥ブラックホーリー‥‥‥』
『ぐはっ!』
 呟く呪文輝く聖光。店主は放たれた光弾により吹っ飛ばされた。
『な、何しやがる‥‥‥?』
 突然の攻撃。吹っ飛ばされた店主はよろめきつつも何とか立ち上がる。だけど、
『‥‥‥ビカムワース‥‥‥』
『うおっ!』
 生命力が奪われた。花蓮は倒れた店主を捨て置いてどこか遠く見た。
『これは、そう‥‥‥。あのミイラの呪いですよ‥‥‥? 更にこれは‥‥‥』
 新たな聖光が手に宿る。そして、
『ぎぃやぁぁぁぁ!!!』
 哀れな店主の絶叫が木霊した。
 話しを聞き終えたルーフィンは苦笑いを浮かべた。
「それは酷いですね」
「ああ。惨い。惨すぎた‥‥‥」
 直で見た藤政はその光景が鮮明に思い出せるのだろう。よく見れば震えている。
 そうこうしている内に一人の侍が部屋に現れる。上座に座り冒険者一行を見据えた。
「工藤祐経だ。わざわざ呼び立ててすまない」
 彼は一行に呼び立てた事情を話した。
「つまり、私達を味方に付けたいと? まあ私は伊達政宗公が好きですし、仮に戦が起これば伊達公の側に付きますね」
取引材料だろうか。一向の前には『お菓子』が積まれている。
「それは好ましい。では、陰陽師殿は?」
 ルーフィンの答えに満足したように頷いた祐経は藤政に尋ねた。
「伊達は藤原北家の流れ、そのバックアップをするのも奥州藤原氏だというのはわかる。その奥州藤原氏と源義経の縁もわかる。しかし‥‥‥」
 そこで一息付いて、
「江戸を制圧する際に、なぜ伊達の名前を前面に出したのかというのが謎なのだ。初めから源軍として行動すればよかったのではなかろうか?」
 結構、突っ込んだ質問である。
 祐経も冒険者達を引き込む以上ある程度答えなければいけないものの知らない事も多い。今まで手に入れた情報から推測すると‥‥‥
「義経公は大将ではないからだ」
 祐経は言った。
「大将ではない? だが源氏嫡流を旗印にするのであれば、源氏として江戸城を所有すると思うのであるが」
 確かに藤政の言も一理ある。そもそも伊達――奥州藤原氏は、本領と馴染みのない、遠方の土地の支配を容易に出来ると思っていたのだろうか。
(もしや、伊達公は義経公の名を利用するつもりで‥‥‥?)
『源氏嫡流』の名は彼ら武家にとってひどく重要な意味合いを持つ。義経の名があれば江戸の支配もやりやすいのでは‥‥‥?
 しかしそれは所詮憶測だ。手の内にある情報は少ない。
 祐経は‥‥‥





「この国の神道とやらには詳しくないが、確かに面白い社よの。温泉、薬草、いずれも興味はあるが後でも構うまい」
 三嶋大社のとある部屋。さすが神域だけあって部屋一つよってもある種の神聖さがある。
 そんな俗人にとって圧迫感のあるような部屋に、更に圧迫感をもたらす権力者。
「しかしじゃが‥‥‥」
 伊豆藩藩主・狩野茂光を前に瀞蓮(eb8219)は恨みったらしくぶちぶち呟いていた。
「あの者達面倒ごとはおしつけてからに‥‥‥。一応目上の相手じゃ。不意の事とはいえ礼を尽くすであるがな‥‥‥」
 結構不満らしい。茂光の様子からすると冗談の通じそうでもなく、こういう手合いと向かい合うというのはやはり気が引けるものだ。
「さて瀞殿。貴公は先程、伊達に源徳、この国はそう長くないとおっしゃられたが、どのようなお考えをお持ちか是非お聞かせ頂きたい。新たに台頭する勢力があるとお思いで?」
 笑顔で尋ねる。が、眼が笑ってない。一言一句聞き逃さない、射抜くような目付きだ。
 まるで刀の切っ先を向けられているような感覚。蓮は落ち着かないものを感じつつも答えた。
「いや、ただ過去の歴史を振り返ってみれば、乱をもって権力の座に着くも歴史を顧みれば珍しくもない。また滅ぼされるのもな。是非はともかく、乱からそう間を置かずに表面的にでも落ち着いた状況を作っておる伊達の手腕は評価すべきじゃろう」
 確かにそうかもしれないが、
「むしろ、江戸よりもその近辺が騒がしいのが気になるものじゃ」
「というと?」
「小さな話で申し訳ないが、ある寺の僧が叛乱を企てた話もあったが、悪鬼と思しき影がちらついておった。睨み合い、立ち回る隙を窺いあうこの状況‥‥‥悪鬼にはさぞ甘露じゃろうて。狩野殿も浮き足立たぬことじゃ」
 京都ではデビルが暗躍しているという。江戸でも、いずれは多くのデビルが闊歩するかもしれない。




 赤松と黒松の、一本の木に生えている縁起の良いとされる相生の松。そこに安達藤九郎はいた。彼は自分の生まれを卑下し、神域たる三嶋大社に踏み入る事を拒んだのだ。それに不審な者の見張る事も出来る。
 仁王のように立っていたが、そこに二人の冒険者がやってきた。音羽響(eb6966)と沢良宜命(ec3755)だ。
 まあ真面目で実直な侍とはいえそこはいっぱしの男。中華衣装の美人さんと、『胸が間違ってる』美人さんを見て鬼のような速攻の速さで眼が飛んだ。
「いやはや〜(ゆさり)。伊豆の地を観光できるなんて(ゆさり)荷物運び頑張った甲斐があったわぁ♪(ゆさり)」
「あなたはほとんど運んでなかった気がしますが?」
「まあまあ終った事♪(ゆさり)ともかく、うちは巫女という立場上(ゆさり)、三嶋大社に前々から来てみたかったんよ〜♪(ゆさり)」
 胸が神秘な領域に到達している命。何かアクションする度にお胸さまはゆさりと揺れる。響は苦笑するも相槌を打った。何かアヤシイ視線を感じたのだろう。眼を向けた先、藤九郎が見かけた。
 変な目で見たと思われたのだろう。藤九郎は声が裏返るのも気付かずに適当に話しのネタを振った。
「一通りお参りしましたが立派な所ですね。大鳥居を入って直ぐの、参道脇の、さる貴人とその奥方が座った大石。それにタタリ石。敷地内の神池には鯉がいるようですね」
「何でもこの鯉を捕って食べると祟りで髪の毛が無い子供が生まれるそうだ。うん」
 美人に免疫がないのだろうか。藤九郎は真っ赤になっている。
「それはそうと、良ければ江戸の状況を教えてくれないか? 私は以前江戸にいて気になってな」
 お胸さまに聞いてみた。
「実はうち(ゆさり)、つい最近まで京で修行ばかりしてたから(ゆさり)、伊達とか源徳とかの情勢って良く分かってないんよ〜(ゆさり)」
「伊達家も配下の者達が威張りすぎて乱暴狼藉を働いたものだから困っているご様子。ただ、その配下も影で懲らしめられたりして落ち着いてきている様子です」
 そこで一つ区切って。
「でも、源徳家に対して密かに忠誠を誓っている者の動きもありそうな様子ですから、この先どうなるか判りません」
「うちは今(ゆさり)、自分の修行で手一杯やから〜(ゆさり)どこかの勢に引き抜かれても動かないよ〜(ゆさり)」
「そ、そうか。伊達の支配は磐石ではないという事だな?」
 揺れる悪魔に誘惑抵抗。無双の武人とてこれは最凶兵器だ。
 祐経は冒険者を自分の勢力に引き入れようと交渉を続け茂光は蓮から情報を仕入れ、祐親は見つかる前に脱兎の如く逃走。
 焔はかなり凄まじい惨状で吊し上げられて役人が引き取りに来るらしい?
 そんな焔を肴にして酒を楽しみつつ、桜は温泉を楽しんでいた。