死者の鳴く村

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2007年12月11日

●オープニング

――まあ、よく見れば物騒な事もあるもので




 陽も暮れた夜。痩せた土地と少ない人口、寂れきった村の一軒家に一人の若侍が世話になっていた。
 この村に宿はない。野宿の心配をせずに済んだのは行幸だろう。
「お武家様、粗末なものしか出せずに申し訳ありません」
「いやいや。突然の事ゆえももてなして頂けるだけありがたい」
 簡素というか粗末極まりない食事――この村の経済状況をこれでもかと証明するそれを食した後、差し出されたお茶に口を付ける。
 育ちがいいのだろう。彼のような恵まれた環境の出ならば嫌な顔一つする筈だが、心からの感謝の表情が伺える。誰だって善意を込めたもてなしを受ければ嬉しい。
「しかし、お武家様のような立派な身なりのお方が何故このような村へ? 見るものもありませぬが‥‥‥」
 男は若侍へ尋ねる。だが彼は気付いているだろうか。善良な村男の瞳に隠された『何か』を伺う光りを‥‥‥
「別に大した理由はない。江戸に戻る途中、立ち寄っただけだ」
「そうですか。最近は物騒だとお聞きします。戦が近いのですか?」
「それは‥‥‥。それより、村外れで墓の山を見たが疫病でもあったのか? やけに真新しいが‥‥‥」
 ――その一瞬、彼は再び気付いただろうか。村男の眼が鋭くなったのを。
「以前盗賊に襲われまして。その際死者が出ましたので‥‥‥」
「そうか。変な事を聞いてすまなかった」
「構いません。それより夜も更けました。もうお休みになられては?」






 深夜。家を抜け出た若侍は村の蔵の中にいた。
 鍵はかかっていたものの、簡素なもので彼が持っている鍵開け道具でどうにかなった。そして中で見た物は――
「やはり間違いない。この村は旅人を襲っているようだ」
 納められた物品を見て呟いた。
 月明かりに照らされたのは絹や書物に鎧兜。刀や槍も見受けられ、この村ではどれ一つたりとも買い揃えられないものばかりだ。
 だが種類こそ多いが量は数えるばかり。普通の保管庫なら一種類予備も含めそれなりにあるものだが、ここにはそれがない。ただ手に入れたものを置いているだけ、といった風情だ。
 その中で若侍は一つの刀を取った。
 霊刀ホムラ。邪を払う破魔の太刀だ。
「これが殿を仰ってた刀か。確か、戦友の形見だと聞いたな」
 独特の鍔だ。ホムラがそうなのか、それともこれだけ鍔が変わってるのか。
 彼は上司からの任務を思い出した。


『旅人及び来訪した商人団の姿が消失する村を調査すべし』


 江戸を立って何日過ぎただろうか。訪れる途中の村や茶店でこの村の噂はそれとなく聞いていた。
 要領を得ない話しばかりであったものの、統一してどれもいい評判ではない。
 ただ、一つ気になったのは呻くような声が聞こえた事と、人魂のようなものが見えた事――
 村外れの真新しい、墓の群れ。眼の前の詰まれた品々。そして人魂。総合すると、これは‥‥‥
「いや。まずは江戸に帰り報告しなければ」
 証拠としてこの中の品をいくつか持って帰ろう。ホムラも勿論そうだが、これは元々江戸に搬送途中だったものらしい。だとすると、自分と同じくこの村で一泊し、その担当者が襲われたのだろうか。なら自分も同じ――
「馬鹿な。早々起こりうるものではないな」
 鼻で笑った。自分に限って何かが起こるわけがない。人間誰だってそう思う。武力の象徴たる侍だってそう思う。
 その過信がいけなかったのだろうか。
 若侍は自分の背後にいた影達に気付かなかった。
 ――ドカッ。
 棍棒が若侍の頭に振り下ろされた。
「お武家様。やはりお調べに来たのでしたな‥‥‥」
「お、お主は‥‥‥!」
 痛む頭を抑え殴り倒した相手を見上げた。自分が倒れたのを気付いていなかったのだろう。頬が地面を擦る。それに遅れて頭を抑えた手が濡れているのを気付いた。暗くて見えないが確かめるべくもない。血だ。
「今お上に知られては困るのですよ。貧しいこの村、豊かにする為に手段を選んでいられませぬので」
 自分を迎えてくれた村男は、先刻見た人当たりのいい笑顔で言う。だがその瞳は残酷に輝き満ちている。
「お武家様には死んで頂きます。その腰のものやお金は村の財源として有効活用させて頂きますよ‥‥‥」
 若侍は刀に手をかけた。
 だが後頭部を痛烈に殴打した彼は視界も定まらずまともに立っていられない。
 膝を付いた彼は既に戦える状況ではなかった。
 そして、意識が朦朧しかけているのは救いだったかもしれない。
「は、母上‥‥‥!」
 月光が振り上げられた鎌や鍬の刃を照らす。
 最後に母の姿が頭をよぎる。蔵の片隅、巻き物のようなものが光ったように見えたのは気のせいだろうか。
 そして――




 某日、冒険者ギルドに依頼が持ち込まれた。
 依頼内容はとある村の調査及び証拠の品と行方不明者の所在の確認。依頼人である伊達軍のとある将校は、過去の調査から危険と判断。状況に応じて武力行使も黙認――そういう言い方のようだったが――するという。
 それだけ難しい依頼かもしれないが冒険者達が各自準備を整え出立した。

●今回の参加者

 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6751 ミラルス・ナイトクロス(20歳・♀・侍・シフール・フランク王国)
 ea7242 リュー・スノウ(28歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb1276 楼 焔(25歳・♂・武道家・ドワーフ・華仙教大国)
 eb3019 関 雄介(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb8219 瀞 蓮(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb9508 小鳥遊 郭之丞(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb9659 伊勢 誠一(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 商人団を装い村に到着した冒険者一行は、村長の許可を得、空き家を宿代わりに使う事になった。見せ掛けとはいえ荷車にはそれなりに荷物は積んでいるし置き場所の問題もある。それに調査の事もあり、空き家を拠点として使えるのは都合が良かった。
 村へは出発するまでの少しの間滞在するという事にしている。
 並み居る面々を前にした群雲龍之介(ea0988)は数枚の紙を渡す。江戸にいた際に手に入れた情報を整理し、書き写したものである。
「これが行方不明者の人相や衣類、身に付けていたと思われる品で、こちらが運んでいた荷の目録だ。眼を通しておいてくれ」
 痣や背格好等の体格を始めとする身体的特徴。所持品の細かい種類に衣類の柄や刺繍の有無など――積荷の目録ならともかく、まるで直に見たかのような調査結果だ。リュー・スノウ(ea7242)も手伝ったのだが、出発までの短い間で中々に仕事の出来る男である。
「俺は地利を把握したい。村を散策しつつ、怪しい場所があれば調べてみよう」
 そう言ったのは関雄介(eb3019)だ。侍だというのに旅装束に太刀のみという簡素ないでだちだが、真の武芸者とは余計なものを身に付けないのだろう。渡された紙に視線を落としている姿は普通に考え込んでいるように見えるものの――何というのだろうか。腹に一物、油断出来ない『何か』を抱えているような印象を受ける男である。
 まあそんな事はどうでもいい。冒険者達はそれぞれ行動内容を言った。
「私は墓の調査に参ります。石の中の蝶を――もしかしたら役立つやもしれません」
 それはデビルが関係しているかもしれないと言っているのだろうか。リューは蝶の姿が刻まれている指輪を皆に見せる。大粒の宝石だ。売れば結構な金になりそうだ。
「わしはリュー殿に同伴しよう。世話役とでも言えば怪しまれまい」
 シスターに世話役というのも変な話であるが、やんごとなき家のお嬢さまが色々な理由でシスターだったりその修行をしている娘もいない事もない。ジャパンでも似たような事はある。問題はないだろう。
「自分もご一緒しましょう。栗駒に積んでいるものが役に立つかもしれません」
 栗駒――通常馬にはスコップや松明等が積んでいる。状況によれば墓を掘り起こすと彼は言っているのだ。
 墓調査にはリューと瀞蓮(eb8219)、伊勢誠一(eb9659)が行く事になった。
「俺は留守番する。荷物番は必要だろ」
「雄介殿と同じく辺りを調べよう。何か見つかるかもしれん」
 続いたのは楼焔(eb1276)と小鳥遊郭之丞(eb9508)だ。最後にミラルス・ナイトクロス(ea6751)が言った。
「わたくしは夜まで潜んでます。頃合を見計らい、偵察に向かいます」
 結構、ミラルスはボロボロになっていた。彼女は自らの存在を隠す為、村近くからここに至るまでずっと荷物の中に入っていたのだ。道中当然揺れていたので、中のミラルスは戦傷兵かくや、と言った感じである。シフール特有の身体の小ささを活かしての考えだがダメージは大きかったようだ。
「ミラ‥‥‥大丈夫か?」
 心配そうに雄介は尋ねた。ミラルスはにこりと笑顔で頷く。
「‥‥‥無理するなよ」
 優しさの込められた言葉だ。親しい仲なのだろうか。
 そして場を締めくくるように龍之介は言った。
 正義の龍、群雲龍之介。彼は悪を決して許さない。
「依頼人からこの村について話を聞く以上、村人は疑いようはない。だが、第三者に扇動されている可能性まる。しかし‥‥‥」
 龍はそこで一度言葉を区切る。瞳を閉じ、カッと力強く開き、
「もし違うなら、奴等が行った非道な行為を死んだ方がましだと思う程後悔させてやるッ! 皆気合入れていけ!」
 彼の覇気に当てられたのだろうか。冒険者一同はおうっと叫んだ。




「――ふむ。特に変わったものはないか」
 村を一回りした郭之丞は呟いた。
 情報通りに、朽ちかけた家々が立ち並び、痩せた畑があり、蔵と妙に墓の多い墓地があった。目に付いたと言えばその二つだが、どこにでもある施設だ。『普通の状況』なら特別怪しむ必要はない。
「いっそ村人に聞いてみるか? ちょうどそこから俺達を伺っているようだしな」
 雄介は視線だけで促す。村人が隠れて様子を見ている。
 ――これは、もう何かあると断定してもいいだろう。隠そうともしない、剥き出しの悪意が伝わってくる。
(ク‥‥‥。人間ってのは正直だなァ‥‥‥)
 自然、にやりと口元が歪んでいた。邪悪ともいえる笑みだ。
 墓地や蔵はそれぞれの担当者に任せ、とりあえず自分達の出来る事をしよう。郭之丞の着物の胸元に隠れているペットの妖精さんがやー、と元気良く拳を突き上げる。忍者のような恰好もして、こんなちみっちゃい女の子が元気に無邪気に笑う様は、某先生が見ると内に秘めた波動を解き放ちそうだ。
 まあそれはそれ。
「もし、少し尋ねたいのだが――」
 郭之丞は村人へ声をかけた。




 冒険者の拠点の空き家。今、ここはちょっとした宴が催されていた。
「いやー、最近は物騒だしなぁ。おかげで飯が食えるってモンんだが、あんまり手放しでは喜べんよなぁ」
 村人から出された酒を手に、がっはっはと焔は笑った。ドワーフらしい豪快な笑い方である。
 名目は商人団を持て成そうというものだ。一応、宿泊という事でそれなりに賃金――後で依頼人から貰える――を出しそれに見合ったごちそうやら酒を頂いている。このような寒村では相当な価値だろう。
「積荷も立派なものばかりですが、冒険者の方々も大変貴重な品々を持っているようですなぁ。やはり冒険者家業は儲けるようですねぇ」
「そうか? いや、そうかもしれないなぁ」
 酔っているのかそれともわざとなのか――それはともかく、焔の所持金は、一般人からすればかなりの高額だ。それに装備品やバックパックの中の数々も値が張るものばかり。職業柄手に入れたのだろうが、それでも一般人にとっては驚くばかりだ、
「‥‥‥ふん」
 煽てまくる村人を一瞥し龍之介は酒を口に運ぶ。彼の周りには大量の徳利が転がっていた。
 彼は酒好きの浪人を装っているのだ。
 着物に酒の匂いを染み込ませ、自前の徳利と周りの状況含め見事酒好きを演じきる事に成功している。
 勿論これだけの量を飲めば酔いつぶれる。だが実際、彼は酒を飲んでいない。事前に仕込んだ仕掛けで、酒等の飲み物を全て徳利に流し込んでいるのだ。着物の中に隠しているのだが量が量的に動けない。触られて悟られないよう、煽ててくる村人へ眼光で牽制している。
 焔は村人がどう反応を示すかを探る為、バックパックからロイヤルヌーヴォーと御神酒トノトを取り出した。どうせ後から依頼人から必要経費として貰える。それなりに、惜しくはない。
「これは礼だ。宿代の足しにでもしておいてくれ」
「おお! これはこれは‥‥‥」
 村人の表情が一瞬、酷薄なものに変わった。やはり金を持ってる‥‥‥。
「結構飲んだな。皆が帰ってくるまで休むか」
 そう言って焔は積まれたバックパックの一つを取り、枕代わりにして寝転んだ。ぐえっ、と声が聞こえた。
「あ、あの? 何か声が聞こえましたが‥‥‥?」
「気のせいじゃないか? ああ、そう言えば月道からの珍しい枕を持ってるって仲間が言ってたな」
 ごろりと体勢を変える。やはり、何かが潰れた声が聞こえる。気になるが魔法の物品などあるしそういう類の品かもしれない。
「では、わしらはこれで‥‥‥」
 村人達はとりあえず納得して去る事にした。出て行く一瞬、濁った瞳を見逃さない。
 休むと言ったのは本当だったのだろう。もういびきをかいている。寝つきのいい男だ。
 焔は寝返りを打った。中のミラルスはクリティカルヒット。何かヤバイ音がしたのは気のせいだろうか。
(焔様‥‥‥。油断ならないと思いましたが、後で必ず焼き潰します!)
 必殺のヒートハンド。絶対に燃やす!
 更なる打撃と重圧が彼女を襲う。気が付くと間接がスゴイ事になっていた。
 ミラルスの長い長い昼は、こうして始まったりする。




「それにしても物騒な話よのぅ」
 いざ墓地にやってきて蓮は呟いた。見渡す限り墓の山。普通にあまり長居したくない場所である。
 シスターのリューは一通り墓を見て回った後、五行星符呪を始め、供養アイテムを取り出し供養の準備を始めている。符を使うとか宗派が違う気がするがそんな事はどうでもいい。月道で異文化が混ざり合っている世の中だ。宗教だってそんな世の中に対応するべく変化しているかもしれない。
 墓地の場所を聞く時、シスターとして供養をする為と前置いている。調査をする為の方便だ。監視されてるかもしれなし調査を装う事も出来る――だが、シスターとして、この『異様』な墓地に立ち居ても立ってもいられなくなったのだ。
「はっきりと確証はありませんが、このような寒村ではありえる話ですし」
 応えたのはスコップその他を抱えている誠一。結構重そうだ。
「だが襲われるものにとっては溜まった話でもあるまい。もっとも、本当にそれだけの話であれば、白日の下に晒せば済むだけまだ良いがの」
 確かに。罪は裁かれるべきだ。だが誠一の言う通り、証拠もなければ動きようもない。
 依頼人からの情報。現実に消息が立っている人々に村人が放つ、獲物を前に襲い掛かる機会を待つ気配。
 そして、波打つように並ぶ墓の群と墓地全体を包み込む無念と憎悪の感情。
 それはぶつける対象があれば今すぐにでも手を出しそうで――
「――ッ!」
 地中から伸びた手が蓮の足首を掴む。這い上がってきたのは、
「死人憑き!?」





「‥‥‥ホーリーライト!」
 光球が死人憑きの群れへ疾る。リューが放った聖光は、津波のように迫る死人憑きの進攻を食い止める。慈愛神の力の込められたそれはアンデットの進みを許さない。明確な使命もなく、憎悪だけで動いているアンデットには鉄壁の防壁となるだろう。だが、それは光球が照らす先だけ――
「させぬわっ!」
 鋭い蹴りが死人憑きを打ち砕いた。リューの背に自らの背を合わせ、互いの死角を庇いあうように立つ二人。
 全周囲死人憑きの群れなし包囲を徐々に阻めている。蓮は自らにオーラパワーを付与しているものの、正直これは‥‥‥
「これは襲われた者の無念の霊か? 迷い出るとのぅ‥‥‥」
「うぅ‥‥‥っ!」
 凄まじい無念と憎悪。様々な感情がリューに流れ込む。シスターだからそういうのに敏感なのだろうか。そして聞こえる声。


 ‥‥‥ユルスマジ、ムラビトユルスマジ‥‥‥


 復讐を願う声がリューを襲う。人は――人であったものはここまでの憎しみを抱くのか。
「‥‥‥さて、どうします? これ以上は持ちませんが‥‥‥」
 死人憑きと切り結んでいた誠一が二人に尋ねる。考えるのは参謀志望の彼の領分だがこの状況、策より武力が必要だ。三人だけというのは戦力と呼ぶには心ともなさすぎた。
 だが彼女達の卓越した技の数々に得心を得た『何か』がいた。
 それは若い侍の姿をして三人の前に立つ。
『彼』は言葉を紡ぎ――
「――カタナ?」
 冒険者一行は真相を得た。





「なあ雄介。夜の散歩ってのは野朗二人でやるもんだっけか?」
「悪い冗談だな。常識で考えるなら女とだ」
「普通そうだよな。でも、いくら囮だからってむなしい」
「嘆くな。これも依頼だ」
「どうせ依頼なら女の子とキャッキャウフフな依頼がいいに決ってるだろ! 今回のお仲間は一様にレベル高いのに、こんな殺伐な依頼はどうかと思うんだよ!」
「落ち着け焔」
「いっそ逆ギレまがいの屁理屈で! あんな事とかこんな事とか! つーかセクハラしてぇよぉぉぉ!!!」
「ええい。黙れ!」
 ――とまあそんなコントを聞きながら、見張り役の郭之丞は蔵の入り口付近で眼を見晴らせていた。ペットの妖精さんはお胸のベッドですやすや眠っている。深夜。お子様は夢の世界で遊ぶお時間だ。
「今の所異常なしか。ミラルス殿、中はどうだ?」
 鍵をヒートハンドで焼き切って入った蔵の中は様々な品で埋められていた。このような寒村では揃えきれない品ばかりだ。
「売れば一財産、自分では価値の判らないものもありますね」
 まあそういうものだろう。
 リュー達から真相を伝え聞いた一行は証拠品を手に入れる意味合いも含み蔵への侵入を決行した。
 真相を得た以上成功したも当然だが、亡霊の証言で信用は当然得られない。第一数人の冒険者も怪しんでいたし決定的な証拠がない。
 しかし侵入した成果はあった。目録に記されたものと、霊が訴えていたものと一致していた。これだけでも何らかの証拠になるだろう――
「これは‥‥‥」
 ミラルスは独特の形をした刀を見つけた。
「目利きに自信はございませんが、恐らくは依頼人様の仰っていたホムラでしょうか?」
 自分だけで判断は難しい。郭之丞にも聞こうとして――
「ミラルス殿、逃げろ!」
 金属音が響いた。蔵の中に転がり込む郭之丞。
 大脇差を手に入り口を睨み、武装した村人へ切っ先を突きつけた。
「おやおや。何か騒がしいと思いましたが、何をなさっておいでです‥‥‥?」
 ぞろぞろと村人達。手には鎌や鋤、鍬を持っている。邪悪な瞳と共に――
「最初から様子が変だと思いましたよ。お上の手の者か知りませぬが、ここで死んで頂けばいい事。まあ、金品はこちらで有効活用させて頂きますがね‥‥‥」
「下衆め、本性を現したな。成敗してくれる!」
 大脇差を正眼。このような悪党は許す訳にはいかない。
「勇敢な方ですねぇ。ですが、この数の前にどうにかできるとでも?」
 数の差は開きすぎている。村人が相手とはいえ、油断は出来ないだろう。だが――
「出来ると思っているさ」
 入り口にたむろっていた村人をソニックブームで吹き飛ばした。エペタムを振った誠一を先頭にした、仲間達だ。
「ば、馬鹿な! 夜襲に向かったあいつらは!」
「あの程度見抜けぬのなら冒険者はやってられませんよ。それより貴方がた、覚悟して来ている人ですよね?」
 閉じた瞳が開かれる。怒りの眼だ。
「人を始末しようとするという事は、逆に始末されるかもしれないという危険を常に覚悟して来ている人という訳ですよね‥‥‥」
「う、うぅ‥‥‥」
 誠一の――冒険者達の怒りを突きつけられた村人は一瞬飲まれる。だがすぐさま、
「数はこちらが上だ! かかれぇ!」
 村人は襲いにかかる。
 まず立ち向かったのはミラルスだ。
「私の手が真っ赤に燃えるぅ!」
 どこぞの格闘王みたく叫び、
「俺か!?」
 焔の頭を掴む。
「ヒート‥‥‥ハンド!」
 村人へは別として、ミラルスは焔にもぶちかましたりした。




 墓地――。何とか逃げ出した村人は恐慌に陥っていた。
 自分を取り囲む無限の如き死人憑きの数々――
「な、魔物? 死んでたまるぁっ!」
 命を奪われた旅人もそう思ってたろうに。
 そして、自分が殺した若侍が、死人憑きが迫り‥‥‥。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」