滅! 決戦はクリスマス〜
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月25日〜12月30日
リプレイ公開日:2008年01月10日
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●オープニング
――まあ、よく見れば物騒な事もあるもので?
いざクリスマス。どこぞの神様だとか聖人の誕生日らしいその日は、西洋では聖なる日とされているらしい。教会ではミサが行われ、神父さまのありがたい言葉を仰り、少年少女たちが聖歌を紡ぐ‥‥‥。それらは神なるものの生誕日として相応しい、実に荘厳なものだろう。
だが長い年月の後、それは少々歪んでしまった。
クリスマス近づく度に見られるようになった、多くの恋人達‥‥‥。
近く訪れる聖なる夜は、特別な日だよって、愛を囁きあい肌寒い冬の空の下を寄り添い共に暖めあっているのだ。
『せい』なる夜の読み方と意味合いは少々変わるのだけど。
そんなクリスマス期間。誰もが気付かない――否。無意識の中で認識を拒否する暗黒の片隅に彼らはいた。
ある意味デビルかもしれないけれど。
「同士諸君! ついに時は満ちた!」
デビル(仮)の長は集った仲間達に仰ぎ見た。
「今日この日はクリスマス、忌々しいバカップル達が人目はばからずいちゃつく日だ。――諸君等は、連中を生かしておけるか?」
いや本来の意味はそうでは無いし、そもそもジーザス教の浸透していないジャパンで聖夜祭なんて覚えてる人は少数派ですよ?
という正論は彼らには全く聞こえない。
「生かしておけません!」
同士達は速攻マッハで頷いた。一部の噂も拡大妄想的に解釈して疑わない。
「あの連中、普段からいちゃいちゃしてますし目の毒です! 俺なんてこの間振られたばかりなんで余計につらいです!」
「バカ野郎! いただけでもいいじゃないか!」
「そうだ! 自分の年齢=彼女いない歴の俺達に喧嘩売ってんのか!」
「つーか話しかけられて、『もしかしてこのコ、俺に気があるんじゃね?』って勘違いする奴の気持ちが判るか?」
「『好きな人っているの?』って聞かれたら勘違いするだろ常識で考えてさぁ!」
「似たようなネタなら肩叩かれたり偶然手が触れ合ったりとかもだ」
「散々気を持たせておいて、告った時の冷たい眼と反応と、いくら何でもあの言い方はないじゃないかよおぉおお!!!」
まあアレだ。現実というものはかくも厳しいものである。
「お、俺なんて、触れたものにアルコールかけられて、まるで汚物扱いで‥‥‥」
そこまで来るともうイジメの気がするがそんな事はどうでもいい。涙ぐむ彼は別おいといて、長は場を制した。
「皆が申告したように、バカップルは滅ぼさなければならない。我らの他にも独り身で苦しんでいるものもおる。ならば、その者らの為にも滅するのが善意というものだろう」
随分身勝手な言い分である。
「それにバカップルは、特別な日だからと聖なる夜を『性なる夜』と履き違えておるからな。異国の神とはいえ、神を冒涜するのはどうかと思う」
繰り返しになりますが、全部彼らの妄想です。ジャパンで聖夜祭を祝うこと自体が稀です。
「その通りです! 基本的に俺ら魔法使い予備軍ですし!」
「違う! まだ清く、穢れていない綺麗な身体なんだ! 自ら汚れようなんてバカのする事にしか思えん! 思えないんだぁ!(涙目)」
「いやむしろ、ここまで来ると逆にどうでもよくなってくるんだけどな‥‥‥」
むしろキモイ。同士達の悲しみは地の底より深い。
だったら彼女作れとか努力しろとか友人各種に言われたりするのだが、実際にそういう環境じゃなかったり暇がなかったりと、現実的に作れないのも理由のひとつだ。一人一人の変態性は別として。
浪人、足軽、侍、騎士エトセトラエトセトラ‥‥‥。虚しい野郎共は、自然と集まりいつの間にか徒党となっていた。
「復唱しろ同士諸君! バカップルには死の制裁を!」
「バカップルには死の制裁を!」
「いちゃつくアホには人権無し!」
「いちゃつくアホには人権無し!」
「カップルたちに絶望を!」
「カップル達に絶望を!」
影達は一斉に跳躍し夜の街を駆け抜ける。一瞬月光が彼ら――修羅達を照らす。
「いいか皆のもの! カップルを見つけたら攻撃もしくは破局させるんだ! 彼女いない俺達の力を見せ付けるんだ!」
咆哮が夜の空を震わす。今、男達の心は一つになる。
「嫉妬の魂は無限力! 目指す先はバカップル達が大量に集っている英国亭! 店が防衛用として冒険者その他を雇っているらしいが、こちらも対策として冒険者を雇っている! 進路上のバカップル諸共蹴散らせえぇぇぇ!!!」
「おぉぉぉぉぉ!!!」
繰り返しに‥‥いやもういいです、ハイ。
聖夜の決戦が始まる。
●リプレイ本文
「レェェェェッツ・ハルマゲドォォォォン!!!!」
集いし同士達と心を一つに重ね、嫉妬の心を胸にやって来ましたよクリスマス。
今日この日はカップル達が愛を語りあう特別な日。連れ合いがいる者、もしくは今日をその切っ掛けにする者、その差異はともあれ、共に過ごす相手がいる者にとって今日と言う日はやはり特別な日になるだろう。
だがその相手がいない者は?
過ごす事も許されない者は?
カップル達が愛を確かめ合い深め合う聖夜祭。江戸の一角の大通り――恋人達の笑顔と愛の言葉で溢れると予想されたそこは、突如現れた集団により阿鼻叫喚の暗黒クリスマスと変わり果てていた。
「ゲヒャヒャヒャー! 汚物は消毒じゃー!」
「邪悪の象徴バカップルには血の制裁を!」
燃え盛る炎に轟く爆発音。ここは戦場だろうか? 辺り見渡せば、松明片手にカップルを追いかける浪人に神聖魔法をブチかます破戒僧。逆恨みとか自業自得なんてノーセンキュー?
「ククク‥‥‥。その調子だ同士諸君! あのカエルの軍人も言ったように、嫉妬、そねみ、つらみその他諸々でバカップル共を殲滅するのだぁ!」
轟き吼える変態達。更なる突撃を指揮する変態長。役人の少ない時間帯を狙ったのだろうが、彼の見事な手腕によりカップル達は次々に攻撃を受けていた。
嫉妬の力は燃え盛る炎と同じだろう。彼ら変態達は上半身裸の、目元にどこかで見たアイマスクの見事な漢っぷり恰好である。
「カップル撲・滅!」
地面にめり込む乾坤一擲の超踏み込み。あらゆる全てを初撃で仕留めると評判の示現流の踏み込みは、刹那の瞬間変態を神速の頂きへ誘う。
また一つカップルが犠牲になろうとしたが、
「させるかぁぁぁ!!!」
そんな嫉妬全開の男衆。やっぱり天は放っておかなかったようだ。
天から落ちる電光が如き必殺の槍。加賀美祐基(eb5402)の全力キックだ。
唸る豪脚めり込む地面。重力落下をも活かしたそれは正に雷――神鳴りそのものだ。達人とはそういうものだろう。大気との摩擦熱で煙を上げる中心点、蹴散らした変態達を前に祐基はガンたれた。
「人の幸せを妬み、さらには踏みにじろうなんて‥‥‥貴様らそれでも男か! 特にお前、腰に下げた刀に申し訳ないと思わねぇのか! ジャパン男児なら恥を知りやがれ!」
普通に正論だ。彼の持つ正義感は京都で有名な集団の如く悪即斬。いくらその日その日を生きるのが精一杯で女性との縁そのものが無い浪人が相手だろうと見過ごす訳にはいかないのだ。
「おのれ加賀美祐基‥‥‥」
だけど嫉妬をパワーの源にしている皆さん。日頃からカップルを羨望の瞳で眺め続け、更にキモがられている彼らはこの程度では屈しませんよ? だってカップルが憎いんだもん。
「邪魔しおって俺達を裏切るつもりかコンチキショウ!」
「訳の判らない事言うな! 漢なら、人の幸せを暖かく祝福してやるくらいの度量を見せろってんだ!そんなんだからいい歳して彼女も居ないんだよ!」
「やかましい! 正論言うな!」
彼らも一応自覚しているらしい。
「そもそもお前の言う台詞かよ!」
「その通りだ! つい先刻まで、俺らと一緒に集会に参加してただろう!」
「ちょっと待て!」
祐基は突っ込んだ。
「加賀美殿、貴殿という方は‥‥‥」
「これだから男は」
「けひゃひゃひゃ〜。真面目なフリして結構やるねぇ〜」
遅れてやって来た仲間の冒険者達。一同、なんとも微妙な顔している。
「違う! 誤解だ!」
「何を言う! さっきまで居ただろうが! 多分!」
「今になって腰が引けたかコンニャク野郎!」
「言いがかりだ! ていうか多分って何だよ!」
「‥‥‥‥‥‥」
仲間達から向けられる冷たい視線。特に今回の仕事仲間の紅一点、セピア・オーレリィ(eb3797)からのがキツすぎる。こういう時慌てるほど疑われるものである。
「自分に正直になれ! カップルが憎いんだろう!」
「志士だろうとその前に一人の人間だ。嫉妬の心は隠せないぞ!」
ほんとに何だろうコレ。だけど言われてみたら? 心当たりありますよ?
北武蔵のとあるお姫様。ここ半年会ってなくて、世間はいちゃいちゃでいちゃいちゃーのいちゃいちゃ? 心はもう大寒波。泣けてきましたよ。
「俺だって、俺だってー!」
嫉妬の力は無限力。彼の身体を燃え滾らせるのはフレイムエリベイション?
扉の形をした炎は縛る鎖を引き千切り大開き。そこから炎の魔人さまが大出現。
「変態相手じゃなくて、琥珀ちゃんと聖夜祭を過ごしたかったんだ馬鹿野郎ーーー!!!」
「うぉっ! 『裏加賀美』か!」
「あの伝説の男と同じ領域に辿り着いているとはな。嫉妬力が計りしれん!」
人間内に秘めし願望を解放すると凄まじい力を発揮するらしい。
誰でも魂を解放すれば『そこ』に辿り着けるもので、祐基もそっち側のようだ。
轟音響く最前線。カップル達の悲鳴が阿鼻叫喚。少し下がった場で長は同胞達に指示を飛ばしていた。
「長、東方面のカップルを制圧したと報告が入りました!」
「このまま押し進め! クリスマスを闇色に染め上げるのだぁ!」
「前線の同士達が冒険者と遭遇、戦闘中であります!」
「カップルを庇護するような連中など即殺だ! 念の為、別働隊を英国亭に向かわせろ!」
ここはどこの戦場だ。あっちの方では正義感震わせ立ちはだかった町人を、きえぇぇぇと剣を抜き追い掛け回す騎士が。嫉妬の前では騎士道なんて覆るのですよ。
「同士祐基が活躍しているようだな。このままカップル共を殲滅だ!」
そこに忍び寄る黒い影。銀色アームが頚動脈をこきゅっと絞める。
両腕にケルトの神さまが使用したとされる、夜闇でも眩き煌く銀の腕を身に付けた天堂蒼紫(eb5401)。忍者なのに銀色アームのおかげで全然忍べてない。蒼紫は長を隅に捨て置いた。
「中々に面白い事をする連中だが、まだ物足りないな。第一無関係の者にまで被害が出るのは頂けないな」
蒼紫は声色を変えて変態達へ指示を飛ばす。ちょうど長も指示の途中だった。
「だが、しかぁし! 無関係な町人の皆さんに迷惑を掛けるなど、バカップルどもと同じで迷惑千万! 無闇に突っ込んでいっては役人どもの邪魔が入るのも必至! ここで貴様らに策を授けよう!」
「アイサー!」
心を一つに大返答。どうして男はこういう時だけ異様なまでに同調しあい力を発揮するのだろう。
「一つ! 町人の賑わいに紛れ、バカップルへの接近は悪魔のように細心に!」
「一つ! 町人の賑わいに紛れ、バカップルへの接近は悪魔のように細心に!」
「発見後天使のような大胆さで一気に路地裏へ引き込み、男は剥け! だが、女には手を出すな! 剥いたら即座に離脱し次の獲物を狙え!」
「男は剥く! 女には手を出さない!」
「一つ! 罠は嵌って踏み潰せ! 我らの熱き魂が障害物程度で止められぬことを見せてみろ!」
「一つ! 罠は嵌って踏み潰せ!」
「一つ! 女冒険者相手とて必ず三人一組で動け! 妨害の術者に一人やられたら、その隙に残りの二人で術者の口を塞げ! 手段は問わん。その褌は何の為にある!」
「ウォォォォォォォ!!!」
夜の闇を吹き飛ばす野獣の咆哮。嫉妬の炎に油を注ぎ変態達はブッ込み特攻。もう力ずくじゃないと止められない。
「ここまで唆せば充分だろう。さて、俺は高みの見物をさせてもらうか」
路地裏に入り闇に溶けようとして叫び声の方を見る。
ぎゃおぉぉぉと叫ぶ炎の(嫉妬の)魔人さま。色んなモノを千切って投げている。
「加賀美‥‥‥。何やってるんだあいつは」
少なくとも蒼紫の突っ込む事じゃない。
長大な十字架が迫る足軽を打ちすえる。柄には聖遺物が埋め込まれたそれは、十字架を象った造りで古き時代より戦いに赴く高位の司祭が好んで使っていたという。
聖槍グランテピエ。神聖騎士であり、また、称号も神聖の二つ名を持つセピアにはこれ以上ない程相応しい武器はないだろう。
突き出される槍に十字の一閃。セピアの背の炎が――ブレイブ・サーコートが翻る。
「全く。ジーザス会信徒としては、例えわずかでも聖夜祭が知られているのは喜ぶべきなんでしょうけどね」
セピアの周りには死んでないけど襲ってきた変態達の死屍累々。見てみれば色んな職業の人がいっぱいだ。というかこんなのばかりでこの国の治安は大丈夫なのだろうか。
刹那セピアを覆う影。月光を遮り死角から変態がダイブする。
「セピアたん、ゲットだぜ!」
「断る!」
褌一丁の変態に、グランテピエの超一閃。常人ならスゴイ事の、ギャグ世界の住人じゃないとタイヘンな事になる問答無用の一撃をブチかました。そして角をドリフトしてやってくる変態衆。
「追い詰めたぜセピアたん!」
「自分だけ抜け駆けしようとなんて俺が許さん! 俺が『せいなる』夜を楽しむんだぁ!」
「むしろ皆一緒で! 新しい世界を目指すんだ!」
「‥‥‥‥‥‥」
セピアを見つけるやいなやうぉぉぉと欲望の叫びをあげる野獣共。セピアは割りと本気で貞操の危機を感じていたりする。変態達を引き付ける為にとある台詞を言ったのだが、
「これはマズイ事になったわね‥‥‥」
火に油を注ぎまくった結果になったのだ。
一寸前の変態達と遭遇後、セピアは『もし私を捕まえられたら‥‥‥そうね、私の二つ名も神聖メイド騎士だし、“ご主人様”になってね(はぁと)』とナンパ技巧全開で仰った。しかもおまけに、皆一緒に『せいなる夜』を楽しみましょうと投げキッス付き。自分の年齢=彼女いない歴の野獣共が、美人さんにそんなフラグな台詞を眼の前で言われたらビーストモードになるのがジャスティスじゃないですか。
おかげさまで念の為に持ってきた聖槍が大活躍ですよ。
「‥‥‥言っておくけど、正道の『聖なる夜』の方だからね? 勿論判ってるわよね?」
妙に眠く、痺れる身体を押して睨み付ける。
ものっそ今更だ。当然変態達は、
「勿論判ってるぜ!」
「セピアたんとっ捕まえて主従プレイ!」
「口で言えないあんな事やこんな事ご奉仕してもらうんだぁぁぁぁ!!!」
吼え叫びますよ衝撃波。何かが切れた音がして、
「――フッ」
セピアは全力で聖槍を突きこんだ。
「陰陽師はどこだぁぁぁ!!!」
「さっきから小細工ばかり仕掛けやがって! 褌で縛ってやる!」
「むしろ、この際男でも構わん! うおりゃぁぁぁぁ!!!」
気合一発トラップを踏み破る。落とし穴も拳突き上げ跳躍。新たな穴を作って破る。
変態達をやり過ごし、インジブルの魔法を解いて様子を伺う。
「行ったか‥‥‥。しかし、彼女がいない程度でそこまで荒れることができるとは、私には良くわからぬな」
それは女性に縁が無い事に困らない者の台詞である。上杉藤政(eb3701)は彼女いるのか知らないが、男たるもの遅かれ速かれ実感する事である。
「女人に興味がないとは言わぬが、自分は自分、他人は他人ではないか‥‥‥」
このご時世、彼の様に立派な事を言える人は少ない。
それにしても妙に身体がだるく痺れるものだ。気配を消しきれてなかったのだろう。藤政を見つけ出し、変態達が四方八方から飛んでくる。
逃げ道も防がれて――
「待てぃっ!」
空から響く声。
「どのような絶望的な状況に陥ろうとも、自らの全てを託せる者が傍にいれば、その者のために全力を引き出し窮地を脱する事が出来る‥‥‥人それを『愛』という」
月を背に、側に妖精さんを伴う勇者が立つ。
「お、お前は誰だ!」
変態は突然の乱入者に問いかける。この辺りジャパンの様式美であるが、
「西中島導仁(ea2741)、只今参上!」
「名乗るのかよ!」
変態達は突っ込んだ。
「その曲がってしまった根性、焼き直す!」
霊剣ミタマの七色の刃が光って唸る。フェイントアタックで吹っ飛んで、ソニックブームのコンボで錐揉んだ。
角から出た瀬戸喪(ea0443)の攻撃だ。
「少しやりすぎではないのか」
眼の前の『変態だったもの』を見て言った。何かこう、常識で考えてスゴイ事になっている。
「いえいえ。変態など多少やりすぎてしまっても問題のない生物ですから」
「そういうものか?」
「そういうものだぁ!」
轟き唸る嫉妬力。変態達は速攻マッハで復活した。
直後、さくさくさくって薄緑の刃が突き刺さる。
「‥‥‥‥‥‥」
「こういう輩は何故か生命力だけは有り余ってますからね。変態達の命までは取りませんがある程度はいいですよね?」
ていうか死なないのが逆に不思議である。本当に人間か。
「まー人間、群れるとバカになるって言いますし」
ひょっこり顔を出したのは設楽兵兵衛(ec1064)。彼は一般に被害が出ない様交通整理をしたり、変態との戦闘を店の宣伝と誤魔化す為に即席の観客席を作ってたりしてたのだ。迫力のある、所か変態達は刀やら槍やら全力で振り回している。冒険者側もそれに対抗しているしまるで本当に戦っているようだ、と評判だ。
「一人だと抑えられるものが、共感、共振で増幅されて最後はボカーンと。見事に暴走してくれるわけで、困ったものですねぇ。はっはっは」
「タマァ取ったらァ!」
そんな能天気に笑う兵兵衛に、ドス腰溜めにとても親切な職業の人が襲い掛かる。喪のソニックブームと導仁の七色刃が斬り飛ばす。
「ええい。終ったらとことん説教だ!」
オーラ全開の導仁。すぐさま復活する変態へ睨み付ける。というか何故死なないんだろう。
そして戦闘を観察していたドクターことトマス・ウェスト(ea8714)はバランスを間違えたな、と残念そうに呟いた。
「けひゃひゃひゃ。元々の能力が高いからあまり効果が無かったようだね〜」
依頼の始まる前、冒険者達は店側から差し入れを頂いた。その際ドクターは毒草知識を駆使し、痺れ眠気諸々の弊害が出る食い合わせの料理をリクエストしたのだ。自分だけ食べなかったら怪しまれるので食後、アンチドートで回復。今まで観察していたという訳だ。
戦い終わって陽が暮れて、本日の営業が終った店内に冒険者と変態達はいた。
店と冒険者達、変態達に説教という事である。
「そもそも、この降誕祭とはだね〜‥‥‥」
語り始める元クレリック。微妙に頭のネジが外れているような印象を受けるとはいえ、聖母への感謝の気持ちもあるドクター。こういう手合いは捨て置けない。
「店も聖なる祝いを商いにしていいのかね〜? 君たちも君たちだ〜。異教の儀式を邪魔するとはいい度胸だね〜」
聖職者の説教というものは長いのが相場である。逃げ出そうとしたのを指差して、
「ちゃんと話を聞きたまえ〜! コアギュレイトォ〜!」
魔法の力で呪縛する。
「しかし‥‥‥。まさか役所が許可を出してくれるとは思いませんでしたよ」
「うぉーーーん! 琥珀ちゃーん!」
損害を纏めた紙に眼を通している兵兵衛にヤケ酒の祐基。蒼紫は妹の土産になるものを店員に見繕ってもらっている。
まあ、何とも濃いクリスマスである。