ボウケン7

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 29 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月09日〜07月16日

リプレイ公開日:2006年07月18日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





「さあさ、どうぞこちらです」
 一人の若者に連れられて冒険者はギルドにやってきた。
「いやいや。あなたの様なとても優れた方に依頼できるなんて光栄ですよ。村に帰って皆に自慢できます」
 口を休めずに次々と冒険者をヨイショする依頼人。‥‥‥そうでもしないと、彼の村は山賊から救えないからだ。
 村の場所は‥‥‥片道二日半の距離だったか。道中聞いてみたが、村は何度も襲われその度に食料や金、女は奪われ、この地を管理する武家の者に足軽の掃討を頼んだものののらりくらりかわされた。これといった特色も価値のない村に、そうそう兵隊を送る気はないようだ。
 いくらそのような村とはいえ、そこを管理するならば立場にいるのなら守らなければいけない。それを放棄する武家にひどい憤慨を覚える。ならば自分が救ってみせよう。
 依頼人の若者はギルド員に頼んで空けてもらっていた部屋に冒険者を進める。
 先行していた筈の依頼人に疑問を持ち訪ねるも、自分は後で入ると繰り返すばかりでどうも腑に落ちない。
 だがとりあえず、この部屋に入ればその疑問も氷解する筈だ。
 依頼の詳しい内容を聞いて、この依頼を受けているだろう他の冒険者達を打ち合わせをして、窮地に陥っているであろう村を救わねばならない。この鍛えぬいた技が冴える。
 冒険者は部屋の入り口で立ち止まり深呼吸する。何事も最初が肝心だ。元気よく挨拶だ。
 部屋へ足を踏み入れようとして、部屋の中の『もう一人の冒険者』が振り上げた木刀を振り落とそうとして、
「ご冗談を」
 冒険者は彼らに微笑んだ。

●今回の参加者

 ea1401 ディファレンス・リング(28歳・♂・ウィザード・パラ・ノルマン王国)
 ea5273 ノンジャ・ムカリ(36歳・♀・ナイト・ジャイアント・モンゴル王国)
 eb0272 ヨシュア・ウリュウ(35歳・♀・ナイト・人間・イスパニア王国)
 eb4629 速水 紅燕(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5106 柚衛 秋人(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5253 中川 彦左衛門(40歳・♂・僧侶・河童・ジャパン)
 eb5421 猪神 乱雪(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 馬に乗って村に先行したヨシュア・ウリュウ(eb0272)、速水紅燕(eb4629)。そして柚衛秋人(eb5106)の指示の下、村大工を中心に村の若者達は入り口近く、それもいつも山賊達が襲ってくる方角へ馬防柵を組み立てていた。木こり達は逃走用の罠に使う丸太を伐採する為に森へ。どちらにしろ木を使う。
 村も森も、彼ら冒険者達が訪れた時から慌しい。そう、自分の村を救う為だ。この地を管理する武家に見捨てられた以上自分達の力で何とかするしかない。村人は皆、妙に高揚している。
 紅燕は一人の村人を捕まえた。聞いた限り、馬の者は一人でそれが大将らしい。
「成る程。四人編成の小隊で動くのか。戦い様によっては十二分に勝機はあるな」
 村長の説得から戻ってきた秋人は柵の出来具合を見ながら頷いた。中々によく出来ている。人間自分の命がかかれば嫌でも集中は増すもので、ざっと見る限り広場の方へ誘う様に作られていると判らない。
「上手くやれば各個撃破出来るさかい。それに、小隊事に攻めてくるけど作戦とはないみたいやわ。力押しだけなんて所詮足軽崩れやわ」
「ええ。それに女性にも狼藉を働く者等見過ごせません。最近女性の存在を脅かす者が多く、騎士道にいえ、士道に籍をおいた者がしていいことではありません。全力を持ってこれを撃滅致しましょう」
 紅燕にヨシュアは頷く。物騒な物言いだ。丁寧口調が逆に恐ろしい。
「弓兵はいないそうやわ。脱走兵の集団さかい武器も粗末な槍ぐらいで恐るに足りまへんな」
 武器の性能差が戦力の決定的差になる訳でもないが、武器の状態が戦いの優劣を決める理由にならない訳でもない。敵の情報は知っておくべきである。
 猟師を初め村の若い衆も幾人か戦闘に参加すると確約を取り付けた。これから付け焼刃だが訓練を付けなければならない。ヨシュアは秋人を連れて竹槍を調達に行く。それぞれやる事がありすぎる。先行しただけに余計に動かなければいけないのだが、紅燕も逃亡阻止の罠を仕掛ける場所の下見に向かった。




「私ですか? そうですね。ナカガワに『足軽を二十人ほど斬ってみる気はないかな?』と誘われたからですが」
 小屋の前、ノンジャ・ムカリ(ea5273)はディファレンス・リング(ea1401)にそう言った。
 一日遅れてやってきた残りの冒険者達は、先行していた三人に柵や罠の出来具合と訓練の練度を聞きそれぞれの行動へ映る。二人はまだ村から馬で半日離れた山中、ノンジャはステインエアーワードを行うディファレンスの護衛を買って出たのだ。
「とてもお坊様の言う台詞とは思えませんが、よくそれに乗りましたね」
 ディファレンスは苦笑した。
「ええ。依頼人に事情をお聞きした所、何度も村を襲う山賊も、それを放置する不甲斐ない武家も許せません。浮世の醜い鬼を退治する為に、この剣はありますので」
 実にナイトらしい立派な言葉だ。彼女のような人がナイトの鑑だ。
 自分も似たようなものですよ、と言って彼は戸を開ける。
「ステインエアーワードを使うのか?」
「ええ。依頼人に聞いた通り、山賊達はこの小屋周辺を中継地点としているようですからね。焚き火の後もまだ新しい」
 ディファレンスはステインエアーワードを唱える。魔法の力により、空気は彼の問いに答えた。
「槍や刀を持った足軽崩れの男達‥‥‥。馬留めに馬‥‥‥。火をおこし休息を取っていた‥‥‥」
 全員が全員、小屋の中という訳でもないのだろう。
「成る程。襲撃前に英気を養っていた、という所ですか」
「そうですね。山賊達も馬を持っているとはいえ恐らく大将のみ。大分近い距離まで迫ってきています。私達も速く村へ戻りましょう」
 ノンジャは頷き二人は来た道へ帰っていく。前もって依頼人に聞いていた村への近道のおかげで、ここまで随分短時間に来れたものだ。さすが山奥の田舎という事で道は入りに入り組んでいる。こうやって地の利も活かさなければ勝てはしない。
 情報は、最大の武器だからだ。




 槍というものは、基本的に誰でもある程度は使えるものらしい。それ以上は訓練を積まなければ扱えないのだが、突くだけなら付け焼刃の訓練でもどうにかなるだろう。
 あくまで戦闘の主体は冒険者達‥‥‥村人達はいざと言う時の自衛の為にと足軽等への牽制にだ。
「よいか? 竹槍は一度だけの使い捨ての武器じゃ。先ほど薪を突いた様に判ったと思うのじゃが、一度突くだけで穂先は砕け、折れる。連続仕様には向かんのじゃ」
 柵の内側へ三人ずつ三列に並ぶ村人へ中川彦左衛門(eb5253)は講釈を続ける。
「故に一度突くと直ぐ後方の者に変わり、その者等が突き、さらに後ろの者に変わる‥‥‥これを繰り返していけば攻撃の連鎖は絶えぬ。竹槍も多く用意しておる。投石の支援も合わせれば何とかなるじゃろう」
 中途半端な言い方はどこか引っかかる以前に、坊主が殺生を推奨する事を言っていいのか微妙に気になるが、あいにく突っ込む余裕のある村人はこの場にはいない。
 近くには使える村人総出で柵作りを終えた猪神乱雪(eb5421)が剣術指導をしている。
 一応自衛用の刀が数本保管してあって、腕力のある若者に数人、基本を教えていた。
「筋はいいな。だが、実際に戦う事があっても無理に倒そうとしないでいい。生き残る事を優先するんだ」
 死んでしまっては元も子もない。中途半端に実力を身に付けた者こそ早死にしやすいものだし、褒めるより鞭も兼ねた方が薬になる。
 こうして、村は要塞に。村人は兵士になっていく。





「放てェッ!」
 早朝。朝靄が翳る中、彦左衛門は指示を出す。
 物陰と柵の内側に隠れていた猟師達は一斉に姿を現し矢を放つ。続いて投石が始まり、襲撃を仕掛けてきた山賊達は完全に出鼻を挫かれた。
 冒険者達が踊り出る。
「中条流、柚衛秋人。いざ参る!」
 疾走。山賊達の一小隊の中に飛び込み、短槍で突きにかかる――ではなく振り回す。
「お前達正規軍から逃げ出したような腰抜け共に、中条流の技を見せるのは勿体無いが相手をしてやろう」
 数に長けている相手にまともに戦う必要はない。こちらも村人の支援もあるものの、所詮は素人だ。かき乱すだけかき乱し、隙を突く。
 自分に集中させれば村の中までに入る事はない筈だ。短槍とはいえ刀より長い。振り回すだけでも相手に間合いへ入り込まれる事はないだろう。
「やりすぎず、手を抜かず‥‥‥ウインドスラッシュ!」
 迫ってくる一人の足軽に、真空の刃を叩きつける。ディファレンスは村人達と共に援護攻撃を行っていた。既に数人の足軽が柵近くまで迫っているが、彦左衛門の的確な指示により村人は次々と竹槍を突き出し足軽を近づけない。河童でもさすが僧侶。仏に仕えるだけあってこういう田舎では信望を集めるらしい。
 防衛に関しては彦左衛門に任せて十分の様だ。



「山賊に落ちぶれた足軽ですか、騎士の名にかけて狩らせてもらいます。我が名ヨシュア・ウリュウ、槍の錆になりたい者からきなさい」
 既に三人目を討ち取ったヨシュアは魔槍を下段に構える。その柄に刻まれた一撃必殺の祈願の呪文。技であるスマッシュの威力も含め足軽を葬っていた。
 囲まれている。それぞれの得物でじりじりにじり寄る足軽達の間合いを図りながら、彼女は動いた。
「‥‥‥遅いッ!」
 突きを放ち、崩す。そこを狙い済ましスマッシュを打ち込んだ。
「まずは――一人!」
 たたらを踏む足軽へ向かい、魔槍の一撃を見舞う。




「ここから先は行き止まりです。他を当たりなさい‥‥‥地獄への道を」
 退却を始めた足軽達を遮るようにノンジャは立ちはだかる。両の手には日本刀と小太刀。命大事に逃げ出した足軽達にとって、ノンジャの姿は死神のように見えた。
 数はそれほどでもないが油断は出来ない。
 そこへ紅燕が牽制のファイヤーバードを身に纏う。足軽達の武器を、砕く。
 だがまだ終わらない。
 バーニングソードで燃え上がる日本刀で敵を討つ。
「勝機‥‥‥!」
 ノンジャが駆ける。
 右の日本刀。左の小太刀。踊るように刀の刃が足軽達を確実に討ち、シュライクの技が足軽を素早く断つ。
 生き残った足軽に紅燕は刀を突き付けた。
「教えてくれますやろか?この村にきたので全員ですか?」
 血に濡れた刃を喉下に押し当てる。
 答えなければ殺される‥‥‥そう悟った足軽は小さく頷いた。
 勝敗は決しつつある。




「刀を前に背を向けるかぁ! 戯けがぁぁ!!」
 逃げる足軽を追い乱雪が吼える。ノンジャと紅燕が逃走防止の為に罠の近くに控えているとはいえ、足軽全てが同じ方向に逃げるとは限らない。逃がす訳にはいかない。
 一人の足軽へ追い付き、切り伏せる。逃げられないと観念したのか足軽達は立ち止まり得物を構えた。数は五人。普通に考えれば逃げた方が無難だ。
「雑魚共が。臆病風に吹かれて敗走した足軽風情など幾人来ようが相手ではないわ! 死ね!」
 脳内麻薬が溢れ出す。ある種のリミッターが外れた乱雪は嬉々として足軽を切り伏せた。
 ブラインドアタックが放たれる。
「僕の太刀筋はキミの様な下賤な輩には見切れんよ‥‥‥」
 次々に斬り捨てる。その剣捌き、鬼神の業か――
 最後の一人。だが、脳内麻薬の溢れた乱雪は今自分が負っている傷に気付かない。いつ付けられたものか――
「最後くらい綺麗に血の大輪を咲かせて逝きな‥‥‥」
 足軽の首が飛んだ。





「こりゃあ勝ったのはわしらだけの力じゃなかったようだなあ」
 戦い終わって日が暮れて、冒険者達は村の好意で宴会を開いていた。酒はノンジャが好意で出した天護酒。祝い酒、こういう時に飲むべきだ。
「自業自得だからな、謝りはせんが弔いはしてやろうおとなしく黄泉路へ旅立てよ」
 埋葬した足軽の墓に自分のどぶろくを添える秋人。
 乱雪は秋人に貰ったリカバーポーションで傷を癒した後一人で月を見ながら飲んだりと、それぞれ依頼の成功の余韻に浸っていた‥‥‥。