愛! 決戦はクリスマス〜
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月25日〜12月30日
リプレイ公開日:2008年01月16日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
現在、独眼流の名で知られる伊達政宗が治めるこの地は、戦後の事後処理で何かと忙しいがそれなりにかつての活気を取り戻していた。
立ち寄る旅人や商人は、源徳時代とは勝手が違ったりそもそも伊達家に支配権が移った事も知らない者もいるがそれなりに日々を過ごしていた。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
いざクリスマス。どこぞの神様だとか聖人の誕生日らしいその日は、西洋では聖なる日とされているらしい。教会ではミサが行われ、神父さまのありがたい言葉を仰り、少年少女たちが聖歌を紡ぐ‥‥‥。それらは神なるものの生誕日として相応しい、実に荘厳なものだろう。
だが長い年月の後、それは少々歪んでしまった。
クリスマス近づく度に見られるようになった、多くの恋人達‥‥‥。
近く訪れる聖なる夜は、特別な日だよって、愛を囁きあい肌寒い冬の空の下を寄り添い共に暖めあっているのだ。
『せい』なる夜の読み方と意味合いは少々変わるのだけど。
そんなクリスマス期間。とある店へ一組の少年少女が向かっていた。
「ねえ慎一郎。こうやって一緒に出かけるのも久しぶりだね」
流れるような長い金髪に青い瞳。西洋人の顔立ちなのにどこか和風な印象を受ける――着物を着ているというのもあるが――彼女の名は馳川更紗。旗本の姫君だ。
「そうだね。ここの所、お互いにずっと仕事ばかりだったからね」
笑顔で応えた彼は高槻慎一郎。こちらも生まれは旗本で、没落して一時は下っ端役人をしていた少年である。
先の乱による源徳家の敗北。江戸を伊達家が治める事になり、源徳家に仕える者は源徳公の後を付いて回ったり、地方に逃れたり、江戸に潜んだり、もしくは伊達に下る等‥‥‥それぞれ選択する事になる。
二人は江戸に留まる事を選び、表向きは若夫婦として日々を過ごしていた。
普通敗戦勢力の潜伏と考えるなら悲壮だったり決死だったり鬼気迫るものを感じたりするのだが、更紗に至っては結構楽しんでいた。
気心の知れた幼馴染み同士。通じるものがあるのだろう。
「でさ、更紗」
「なあに?」
見上げる慎一郎の表情は戸惑いの色。そんな慎一郎が楽しくて更紗は絡ませた腕にもっと身体を寄せる。決して豊かではないが‥‥‥柔らかい膨らみがむにゅっと腕で潰れた。
ヒィッと小さな悲鳴を上げる。
「そ、そろそろ、離れてほしいなって。人目もあるんだし‥‥‥」
そんな慎一郎は別の意味で死にそうだ。嬉しさと恥かしさで顔がアホみたいに赤い。
基本的にカップルという輩は人目はばからずにいちゃつく。本人達は楽しんでいるそれは、他人から見れば殺意を抱いたりからかったりする対象だ。
慎一郎の場合、侍の模範みたいな大真面目な性格故にこの手のものは恥かしくて仕方がない。
「んー。でもさぁ」
更紗は、擦り寄るように更に身を寄せる。
「周り、そんなのばかりだよ?」
そうなのだ。クリスマスのこの日。西洋から色々伝わったせいか、『クリスマスはカップルのいちゃつく日』だと一部で有名になってしまっていた。そして二人の向かっている英国亭という英国料理を出す店は、クリスマス期間としてカップルを対象としたイベントを行っている。
いつもは出さない割高の料理にちょっとした寸劇にムードを盛り上げる音楽。いつもと違った空間でかわされる会話は二人の絆をより深めるだろう。そういう場だからこそ言える言葉もある。
そしてその愛を確かめあう為に、恋人達は‥‥‥
(絶対キメてやるんだから!)
心の声が更紗を煽り立てる。
基本的に慎一郎と更紗はお互いを好いている。お互い何故か微妙というか絶妙なタイミングが入り気持ちを伝えきれてないが、互いに相手を好きだという感情は強い。
更紗に至っては全力でアピールしているものの、慎一郎の場合アホみたいに真面目で言えないのが現状なのだ。
そしてまあ、一つ屋根の下に暮らして、その上表向きとはいえ夫婦生活を営んでいれば大義名分はあるんじゃないですかと思うのが健全なオトコノコというもの。
つまり間違いが起きるのがジャステイスってもんですよ?
だけどアホみたいに真面目な慎一郎。ギリギリな同棲イベントでフラグは立ちまくっているものの――態度をはっきりさせない慎一郎に更紗は少しずつ歪みはじめていた。
女性情報誌を読んだ更紗は変な方向にスイッチが入っていた。
(鈍感な彼氏をその気にさせる百八の方法。第二十四条・特別な日に迫るべし!)
いつの世も男女の中は楽しげだ。情報誌には、未成年には絶対真似できない方法も載ってるし、百八という所が的をいている。
(クリスマスなら特別な日だし心タイミングはいいよね。クリスマス特集も載ってたし、一番効果の高いプレゼントは‥‥‥最後の最後の手段よね)
養子とはいえ旗本のお姫様。この辺りさすがに抵抗はあるのだろう。
(でも慎一郎鈍いのに程があるし、恥かしいけど、でもどうしてもっていうなら、ハダカにリボンを巻いてプレゼントはワ・タ・シ♪(はあと)って。 もう、慎一郎ってば!)
‥‥‥抵抗はなかったようだ。色ボケか。
(それとは別に普通にプレゼントもあるし、ともかく行ってみないとね)
決戦はクリスマス。目指す先は英国亭。
更紗だけではなく、並み居るカップル達の戦いが始まる?
冒険者達は英国亭の手伝いとして雇われた。
数は多く、今店内にいるのは店のスタッフとサクラ役の冒険者だ。
客寄せの為にクリスマスイベントを行っているとはいえ、ジャパン人にとって西洋の文化の勝手――既に本来の内容とは違っているが――が判らないので、サクラのカップルを用意して愛を語り合わせ場を暖めようと考えての事だ。
他にも調理やら寸劇やら音楽やらやる事は多いが、恋人の愛を祝福する夜の裏方は結構修羅場だったりする。
●リプレイ本文
「おおロミオ。あなたはどうしてロミオなの?」
英国亭店内。即席の簡易舞台で着飾っているリフィーティア・レリス(ea4927)は、情感をたっぷり込めた台詞を言いながらいつ突っ込むか悩んでいた。
クリスマスの夜。新規開店という事もありイベントで客を呼び込む事に成功して英国亭の客席は見事に埋まっていた。
客席は男女の連れ合いばかり。手と手を取り合い見入っているカップルや、肩を抱いたり感嘆のため息を付いたりと、全ての席が独自の世界を形成している。所謂、愛の世界というやつだろう。見ればウェイター・ウェイトレス達は居づらそうに声をかけづらそうに動き回り注文の品を届けている。これだけ雰囲気を盛り上げれば依頼は成功したも当然だ。しかし‥‥‥
(一体何をやってるんだ俺は?)
伴奏を受け、謳いながらリフィーティアは逡巡する。
元々彼女は店の雰囲気を盛り上げる為に恋愛の歌を歌っていたのだ。リクエストに応えたりもして客受けもいい。更にジャパン人にとって異国の歌であるアラビアの唄は普通に理解出来ないものであったものの、歌に込められた想いはカップル達の心の琴線に触れた。例え言葉が判らなくても想いは伝わるものなのだ。
そこに冒険者達とは別口に雇われた役者達に声をかけられ、何故かオペラをやる事になった。既に寸劇のレベルじゃない。
(というかこの演目は向いてないんじゃないのか?)
リフィーティアはジプシーで謡い手を生業としている以上、世界中の色々な物語に精通している。当然、今行っている劇のそれも知っている訳だ。
(確か最後は男も女も死んだ筈だけど、脚本家によっては天国で結ばれたりもするし、そもそも今回は色々はしょりまくっているから構わないのか?)
まあ色々突っ込む所はあるのだろう。だけどこの後、また歌ったりウェイトレスしたりといけないし余計な事を考えてる暇はない。
紡がれる愛の歌。これもアラビアの言葉で歌われているものだが‥‥‥胸を打つこの感情。自然、涙を流す女性も多い。それほどまでに彼女の歌唱能力は優れているのだ。
(人の恋愛ごとなんてはっきり言ってどうなろうと関係ないし。まあやれることはやるけどさ)
本人の心情はまあ別として、涙と感動の嵐を巻き起こしオペラはフィナーレを迎えた。
最早異界と化したラブラブ空間のその隣。調理場に顔を出したガユス・アマンシール(ea2563)は呟いた。頭には黒いバンダナ、身体には同じ色の上下に身を包み真っ白のエプロンがそれを引き立てている。クールな印象を受ける優男だ。
「さて、イギリス料理に美味い物無しが欧州の常識なんだが。どんな料理を出すのかな」
イスパニア出身のウィザード。彼は賢者と呼ばれるウィザードの知識を総動員して美味しいと評判の英国料理を検索する。検索終了。彼の料理知識では該当しなかったようだ。
「そんな心配は無問題! 料理は真心です!」
親指をびしぃっと立てたのはコルセスカ・ジェニアスレイ(ea3264)。イギリス出身の神聖騎士だ。
「クリスマスプディングやミートパイ、ローストチキンなど作ってみようかと。ジャパンではあまり馴染みのない料理ですけど、このお店にはぴったりのはずです」
包丁くるりと回し、おぉぉぉぉと材料を切り刻むコルセスカ。彼女にとって母国の料理であり、そして母国の雰囲気を漂わせる英国亭は彼女に故郷を思い出させたのだろう。今はかなりハイテンションになっている。
「私の母国の料理ですから、張り切って作っちゃいますよー!」
「おおっ」
そう言ってざざっとコルセスカは料理を次々と完成させていく。さすがに言うだけの事はある。家事達人は伊達じゃない。
だが‥‥‥
「うぉぉぉぉ!!!???」
それを上回る驚愕の叫びをガユスは吐いた。
砦に対して、それは城だろう。屋敷に対するなら宮殿。数打ちに対して名刀。石ころに対して宝石‥‥‥。レベルが一つ所か二つも三つも違う、まさに芸術品と称されても間違いではない料理の数々は完成されていく。
その芸術品の製作者は飛麗華(eb2545)。華国出身の武道家であり料理人だ。
彼女の調理技能は達人を越え、超越に極めて近い技術を持つ。料理人であると同時に芸術家だ。そして料理人を生業としている彼女にとって他人の料理を見るのは勉強になる。コルセスカのそれを見て、たいしたものだと微笑むが暴走中の彼女にしてみれば、
『フッ。あの程度のものしか作れないなんて、私の足元にも及ばないわね』
こんな風に脳内変換されました。
「おにょれー!」
どこぞのメディ娘みたく叫び材料を切り刻むコルセスカ。女として料理で負けるのは沽券に関わる。
今、炎の料理人対決は始まらない!
「はい、慎一郎。あーん!」
愛一色に染め上げられた店内の一つのテーブル。二人の達人によりマズイと評判の英国料理は美味極まりないものとなっていた。一般人なら普通にうまいうまいと連呼するだけだがどこぞの味な王さまが食せば口からビーム‥‥‥そんな領域の品々である。
だが緊張しまくっている客の衆。舌鼓を打つ暇なんて全く無い所か今何を食べているのか判らない始末だ。
更紗は真っ赤になりつつもフォークに指した鶏肉を食べさせようと突きつける。それはもう、恥かしさ全開で勢いが凄まじいものだ。まさに鋭い槍の突きの一撃で、刺されかけた慎一郎はこっちも真っ赤になって俯いた。
「い、いや。それはちょっと」
さすがに思いとどまる慎一郎。全方位ラブラブオーラ全開で、他のカップル達は人目気にせずいちゃいちゃしまくっている。というかそれを見る連中も店員以外はいちゃついているので、負けてたまるかとカップル達は更にいちゃついて‥‥‥の悪循環だ。張り合う必要もなかろうに。
「もう、何よ」
更紗はフォークを突きつけたままぷぅっと膨れる。元々が美少女だ。幼馴染みだし、それこそ物心付く以前より顔を合わせてはいるがそれでも可愛いし、何気ない仕草にどきどきする。美人は三日で飽きるなんて嘘だ。だがそんな事はどうでもいい。
「自分で食べるからさ、それに恥かしいからいいよ」
慎一郎はこんな状況ではむしろ非常識な一般常識をのたまった。慎一郎は別に間違った事を言ってはいないが、場を読むというのも大事だと思う。
「バカ慎一郎! ボクが食べさせてあげるっていってるでしょう!?」
乙女回路は激しく大暴走。こと恋愛が絡めば男も女性も暴走するのがデフォルトであるが、思春期の女の子はある意味神の領域だ。ぶっちゃけ更紗は、もう何をやっているのか微妙に判ってない。
「そ、それに。御陰さんだっていちゃついているじゃない!」
フォークがずびしと指した先、夜十字信人がある意味死にかけていた。
「信人ちゃん、あ〜ん♪」
紫水晶のティアラを頭に添えて、実りに実った豊かな二つの水蜜桃と溢れんばかりの艶を覆うのは、それを更に強調し露出部分の多いスカーレットドレス。ここまで来るともう服の意味をなしてない。そして天女が羽衣を纏うように薄いショールを羽織っている彼女は御陰桜(eb4757)。魔法的な効果を持つ衣類を着ているから、というのもあるが、桜自身のサキュバスのような美貌で輝いて見える。というか実際光っている。
「あ〜ん♪」
スプーンを前に、全身から滝のように冷や汗を流している信人。蛇に睨まれたカエルとはこの事だ。
「信人ちゃん、食べないの?」
桜はにっこり微笑。信人の一挙手一投足が楽しくて仕方ないようだ。そもそも彼が中々食べないと判っているというのに。
「‥‥‥‥‥‥」
信人はついに観念して口に含む。この店最高値のフルコースなのに味がまったく判らない。
「ふふっ。美味しい?」
「ああ、そうだな‥‥‥‥というか、カップル役で突っ立っているだけでいいと俺は聞いたが?」
「カップルを演じるからそれらしくした方がいいじゃない」
「そうかもしれんが」
打つ相槌は超適当。何故なら眼の前のあの娘が気になって仕方ないからだ。
普段見ているのは和装。これはジャパン人だから当然だろうが、いつもと違う場所、いつもと違う雰囲気、そしていつもと違う服装――当社費五割増で美化されている。後光がされて直視出来ないくらいだ。
「し、しかし洋装か。珍しいな。それに、その櫛?」
「ええ。信人ちゃんに貰ったものよ。洋装には合わないけど、信人ちゃんに貰ったものだから」
「‥‥‥‥‥‥」
信人は全力でうなだれた。結構な殺し文句である。
そして何を思ったのか。桜はそっと擦り寄り、指で頬を擦った。そしてぷるぷるした唇でぬっとりと、ぺろりと――
「ほっぺにソース付いてたよ♪」
信人は全力で悩殺されました。
トドメとばかりに彼の腕には豊満で大収穫なお胸さまが当たって、もう、もう色んな意味でダメですよ!
「ほら、ボク達も見習ってあんな風にやるべきだよ!」
「いや、それはさすがにどうかと思うよ!」
桃色オーラの震源地、桜と信人を指して叫ぶ。二人とも、見ている方が滑稽と思えるぐらいのテンパぷりだ。
そこへ料理を運んでいたガユスがそっと耳打ちした。
「奥様、落ち着いてください。旦那様が狼狽しておられます」
「お、奥様ー!?」
頭から火を吹いて頭からぶっ倒れる更紗。
「旦那様、奥様の気持ちを汲み取るべきですな。次の料理を運ぶのを少し遅らせますので、奥様の手を握って目を見つめて気持ちを落ち着けては如何でしょうか」
「だ、旦那様ー!?」
頭から火を吹いて頭からぶっ倒れる慎一郎。さすが幼馴染みだ。行動パターンが同じだ。
そんなバカップル色全開の店内を見渡してリフィーティアはため息を付いた。
「しかしどいつもこいつもクリスマスの意味わかってねーだろ」
「聞く所によるとカップルがラブコメする為のお祭りとか‥‥‥?」
「それは違う」
消え入るような柳花蓮(eb0084)の呟きに突っ込んだ。
この店の制服とは違う、クラシカルで地味な黒いウェイトレス服だ。だが野に咲く、可憐な花のような楚々とした花蓮には良く似合っている。彼女自身の魅力を見事に引き立てている一品だ。
「それにしても、伝わってくる間に曲解が混じるとはいえこの状況はどうなんだかな‥‥‥」
眼の前のこの光景。オリジナルの面影が全く無い状況である。
リフィーティアは今ウェイトレスとしてホールを回っていた。寸劇の終った後、先刻までアンコールとリクエストが続き愛の歌を歌い続け、休む間もなく店内を動き回っている。
彼女の細い身体のどこにそれだけの力があるのだろう。長い銀髪は上質の絹を思わせるほど繊細で、青い瞳は宝石のよう。肌なんて深窓の令嬢のように白く、ウェイトレスなんて見た目の華やかさに反してハードな仕事には向いてない。
だけど、百人中百人が見ても美少女だと応える彼女――彼は男。これでも男なのだ。いや、これだけ可愛いと別に関係ない気もしない?
「まあ、でも」
そこに降臨するゴッドさま。
「お祭りってことだし気楽にやれればいいわね」
基本的にこの店のウェイトレス服は胸を強調しているデザインである。だから見た感じ、胸が膨らんでいるといった印象を受ける。
だけど。だけどですよ? 果樹農家が汗水垂らして働き大豊作を迎えたかの如く、超高級のソファだったり、たくさん綿を詰めたりと、凄まじき魔乳の持ち主日下部明穂(ec3527)。
伝説の胸ゴッドには及ばない。だが、神の加護を受けむしろ神乳の明穂のそれは、何というかおかしい。ここまで来ると服を着ている方がやらしいと思うのは気のせいだろうか?
おかしいのは明穂だけじゃなかった。
「にゅふふ、皆さんラブラブだね〜♪」
こっちは胸王か。伝説や明穂には及ばない――というか比べる対象が間違っている――ものの、一般女性を越えるお胸さまを持つ神山神奈(ec2197)。規定のウェイトレスだけど胸元を大きく開けただけで漂いまくるこの色気は何だろう? ちょこんとお胸さまの上にのっかっているヤギネックレスがちょっとアンバランスだ。
桜といい神乳さまといい遊女さまといい、冒険者(おっぱいの)レベルが高すぎである。
「別口で依頼を受けているお仲間の事ですが‥‥‥」
そう言えば、と花蓮は言った。
「噂のしっ○団も見られるのでしょうか‥‥‥」
「見られるのですよウェイトレスさん!」
落下してくる大隕石。天上をブチ破り変態達が振ってきた。
「長の命を受け別働隊、ここに参上!」
「この忌々しいオーラ、おのれバカップル共め!」
「まるで世界は自分達を中心に回っていると思い込む思い上がりめ。キサマラの存在が罪無き人々(独り身)を苦しめると何故気付かん!」
「即殺だ! 天に代わってバカップル共を討つのだ!」
「むむ、こんな時期に一人寂しいひと発見?」
完全な逆恨みである。神奈はじっとねめつけた。
「いくぜ野郎共! 世界の悪を誅する為魂の叫びを、正義の雄叫びを上げるんだぁぁぁ!!!」
「‥‥‥ブラックホーリー‥‥‥」
「ぐっはぁぁぁぁ!!!!!!!」
花蓮の手から魔法弾。今年も涙を呑む事にあいなった。
営業終了後の英国亭。制圧されたり捕縛された変態達はそれを担当していた冒険者達にお説教をくらっていた。
「そもそも、この降誕祭とはだね〜‥‥‥」
役所に突き出せばいいのだろうに、ドクターと名乗る彼は変態達に長々と説いている。聖職者のようだからこういう手合いを捨て置けないのだろう。
銀色腕の忍者に捕まった麗華は妹へのお土産にしたい、と頼んだ彼へケーキを作り包装する。
「甘さはそのまま、カロリーは出来るだけ抑えました。食べ過ぎても安心ですよ」
女の子にカロリーは魔王より大敵だ。麗華の配慮は嬉しい。
まだまだ冒険者達の修羅場は後数日は続く。後始末と明日の仕込みを終え、それぞれ帰路に付いた。
『お2人の相性は良好ですよ』
英国亭からの帰り道。更紗は占いコーナーでの事を思い出していた。
『夫婦になるには越えねばならぬ壁もいくつかありますが、喧嘩になってもお互いの意見を聞く事は忘れずに』
実に、胸を打つ言葉だった。冷静に考えれば誰でも判るような事だけど。
いつまでもこのままではいられない。幼馴染みの関係では何も進まない。
始めの勢いはどうしたのだろう。だけど、せめて今日を切っ掛けに。
「はい慎一郎。メリークリスマス」
一生懸命編んだマフラーを渡す。
受け取った慎一郎。そして自分もプレゼントを取り出す。
更紗の細い手を取り、左の薬指に――
「し、慎一郎?」
「メリークリスマス。プレゼントだよ」
慎一郎はプレゼントを選ぶ際に店員さんに見繕って貰った。そしてその店員さん、気を利かせたのだろう。左手の薬指につけるといいですよと言ったのだ。
「こ、これってそういう意味?」
更紗は意味を知っている。
「そういう意味だけど?」
慎一郎はさっぱり理解していない。
「し、慎一郎‥‥‥」
そして、夜は更けて行く。