【伊豆】信じる正義のために

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月25日〜02月01日

リプレイ公開日:2008年02月06日

●オープニング

 三嶋大社を抱き豊富な温泉資源と薬草に恵まれた地、伊豆。
 伊豆藩に、相対する二つの派閥在り。
 一つ。源徳家との繋がりを保とうと主張する伊東祐親率いる源徳支援派。
 一つ。源氏嫡流の力となるべきだと主張する工藤祐経率いる義経(伊達)派。
 伊豆の存続に必要だと信じる彼らは、今日も語り、語る!





「叔父御め。本当に口が達者な男だ」
 今日の評定が終り、その帰り道。屋敷へ向かう中、祐経は毒づいた。
 かつて江戸で起きた乱。源徳家の敗北、源氏の嫡流源義経を有する伊達家の台頭――。他藩に比べ著しく軍事力に劣る伊豆藩は選択を狭まれていた。
 江戸を奪われたとはいえ未だ強力な力を有する源徳家。
 侍にとって重要な意味合いを持つ源氏嫡流を抱えている伊達家。
 どちらも、味方とするには心強くて敵とするには強大すぎる相手である。
 選択は誤るわけにはいかない。伊豆の地と、民草を守る為に藩主と家臣団は江戸陥落から評定を続けてきた。
 源徳家との友好を続けるか、それとも伊達家――源義経に付くか。年を明けた今も尚、評定は終る様相を見せていない。
 もう、言葉で解決は出来ない程に。
「あれからどれほどの月日が立っていると思う? 早々に藩の方針を固めねばならぬというのに」
「工藤様。そうお気を立てずに」
 随伴しているのは側近と若い侍達だ。
 最近、伊豆では侍を狙った辻斬りが多い。彼は藩に置いて重要な人物であるが故に狙われる可能性も高い。配下の者に護衛をさせていた。
「黙っていられる筈もないだろう。殿も殿だ。祐親の言う事にも一理あると仰られるが、それが調子に乗らせるとお判りになられないのだろうか」
 それを言うなら祐経もそうだろう。
 実際、長期間続き過ぎたせいでお互い相手の意見に反論する前に挑発や妨害行動を行うまでに至っている。藩の方針も決る訳がない。
 屋敷への帰り道は暗く通りに人の姿はない。月と星と、提灯の光だけが辺りを照らしている。
 そういえば、辻斬りはこの様な時刻に多いらしい。
「全く。伊豆藩はどうなる――」
「工藤祐経殿とお見受けする」
 灯りが届かない闇の先から刀を抜いた集団が姿を現した。
 夜の闇に溶けた、地味な色の着物である。顔も目元だけ外気に晒し覆面で隠している。
「おのれ、曲者かっ!」
 側近は祐経の壁になる様前に出、護衛の侍達は刀を抜き切っ先を向ける。
「我ら伊豆の平穏を真に願う者」
「伊豆の未来の為、伊豆を滅ぼさんとする貴殿には死んで頂く!」
 斬り込みにかかる覆面達。
「お主ら! 工藤様をお守りするのだ!」
 響く剣撃音。
 護衛の若侍達は迎え撃った。




 翌日、城へ登った祐経は見つけ出した祐親へ問い質していた。両者大勢の侍を従え、双方刀に手をかけている――誰か一人先走れば即血を見かねない状況に陥っていた。
「祐経。どういうつもりかと言われても、儂には皆目検討も付かないのだが」
 そんな一触即発の中、伊東祐親は悠然と祐経へ問い返していた。
 一般人なら逃げ出したくなる所か腰が退けて逃げるのも出来ず、侍なら冷や汗を流している中、祐親は臆した風もない。政治という環境と、派閥の筆頭となるだけの経験が彼の肝を鍛え続けたのだろう。
「よく言う。昨日の帰り、狼藉者に襲われてな」
「それは同情しよう。だが、それが儂の指示というつもりでも?」
「違うと言うつもりか? お互いの状況はよく知っていると思うが」
「‥‥‥お互い、相手が失脚するなり、死亡するなりすれば随分都合はよくなる」
 その一言、祐経の配下の侍達は刀のこいくちを切り、祐親の配下の侍達は刀のこいくちを切る。
 あとは切っ掛けだけ。いつ斬るか斬られるか長い長い、一瞬の緊迫した中――
「まあ良い」
 祐経は配下達に刀を収める様手を振った。
「証拠の品はある。こちらで調べてみるまでだ」
「心当たりはあるのか?」
「狼藉者が落した脇差がある。第一、不審な動きのある者も幾つか知っている」
「それは心強い。見事犯人が捕まる事を祈っておこう」
「ふん‥‥‥」
「祐経」
 祐親は配下達を促し去っていく祐経を呼び止めた。
「まだ何かあるのか」
「数日後の、殿の三嶋大社への参拝には随伴するらしいな。狙われているなら欠席した方がいいのではないのかな」
「そうもいくまい。殿の供を務めるのは家臣の務め。それに、」
 そこで一言区切り、
「護衛の為にちょうど伊豆に滞在している冒険者を雇っている。彼らにも同行してもらう」
「安達殿が言うには一騎当千のつわもの達だそうだな。彼らが居るのなら不安はなかろう」
 これが、伊豆の現状である。




 祐経との一件後、祐親は側近達から報告を受けていた。
「――なるほど。彼らの仕業と考えていいのだな?」
「はっ。以前より不審な動きがありました故、下の者に探らせて置きました。間違いありません」
「そうか、残念だ。彼らも伊豆を思うが故の行動だろうが‥‥‥」
「しかし暴走してはそれは害悪に過ぎません。――始末します」
「‥‥‥仕方がないか」
 本当に、残念そうに祐親はため息を付いた。
 今、伊豆で起こっている辻斬り事件の被害者は工藤祐経の部下や義経支援派に連なる侍達。それと同時期に祐親の部下である数人の侍達は不審な動きを見せていたのだ。
「情けはおかけずに。このまま放置しておけば伊東様は必ず失脚させられます。そして、伊豆は必ずや滅びてしまう事に」
「判っている。調べによると、祐経の暗殺に参拝当日にも現れるのだろう? その際祐経が討たれればよし。そうでなくとも暗殺者達を始末するのだ。藩の治安を乱す者、と建前はある。どの道生かして置いても我らに害なすだろう」
 非情。だがそれが率いる者の立場なのだろう。少なくとも自分の部下達の生活と生命は守らなければならない。
「冒険者達にはくれぐれも気を付けるのだ。感づかれてはならない」
 側近達は頭を垂れた。





 城内の一室。夜も更けた時刻に数人の侍達はいた。
「決行は参拝日だ。覚悟はいいか?」
 蝋燭の火だけが照らす部屋。暗がりの中では相手の顔を判別するのも難しい。
「覚悟などとうに決めている。それに、仕込みも充分だ」
「盗賊達の手引きか? 確かに境内には武器の持ち込みは禁止されているが、もし殿に何かあったらどうする?」
「兵が何重にも警護しているんだ。それに当日は安達殿も境内まで随伴するという。問題はあるまい」
「あの御仁は何故か中に入りたがらないな。だが盗賊など所詮は囮だ」
「ああ。注意が逸れて、その隙に工藤の首を取る」
「しかしいいのか。伊東様は話し合いで勝ち取ろうとしている。だというのに我らは‥‥‥」
 良心、だろう。散々やり尽くして置いて今更なのに。
「臆したか。確かに伊東様の本意を犯すようなまねはしたくない。だが伊東様は甘すぎる」
「言葉を尽くしても伝わらない。ならば‥‥‥斬るしかないだろう」
「人は我らを蔑むだろう。だが、後世伊豆の歴史は我らを評価する。これは、伊豆の未来にとって必要なのだ」
 自らの信じるものの為、人は自ら道を外す。
 それはもう、既に正義ではない。
「全ては伊豆の為、工藤めを必ず討つのだ!」
 いつまでも決らない評定の歪みは、着実に姿を現し始める。

●今回の参加者

 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb4890 イリアス・ラミュウズ(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb5668 ルーフィン・ルクセンベール(22歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec1064 設楽 兵兵衛(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 神事前日。神社の境内には翌日の準備の為に多くの人が行きかっている。
 関係者を始め出店を出す商人達はそれぞれの持ち場で手を動かすのも止めない。同じく的屋を開くルーフィン・ルクセンベール(eb5668)もそんな一人だ。
 堅苦しいお題目だが結局はお祭りのようなものだろう。
 このご時世、神事をそれこそ秘匿としたり禁忌としたりするのはないもことないが、長い年月が経ち人との関わりを続けていけば儀式も形骸化し本来の目的も薄れたりする。
 出店とか利権やら諸々が絡んで裏では割りと眼も当てられない事があったりするのだが‥‥‥その辺り西洋の神様でもあるまいしジャパンには八百万の神様がいると聞くからスルーしたりする神様もいるだろう。
 まあそんな事はどうでもいい。宿奈芳純(eb5475)ダウンジングペンデュラムを三嶋大社の見取り図の上に垂らし陰陽技を駆使していた。
「この辺りですか」
 芳純は反応のあった場所へ赴き物色を始める。隠し棚を見つけ中から数本の刀を取り出す。弓矢など含めこれで何度目だろうか。
 護衛を始めて数日、祐経の周りに幾つか怪しい姿を見かけた。件の襲撃者だろうか。今までの経緯を鑑み、神事当日は武器の持ち着込みが禁止されている以上、翌日に襲われる可能性は捨てきれない。
 なので今日、隠してあるんじゃないかと探索してみたのだ。だが‥‥‥
「さすがにここまで来ると、神社の警備所か藩の治安が気になりますね」
 刀を束ね発見場所の位置を見取り図に印を付ける。見取り図は結構墨に染まっていた。
「全くだ。まさか、伊豆に来てまでこの様な依頼に出くわすとはね」
 相槌を打ったのはジャパン最強の忍者、闇目幻十郎(ea0548)。そうですねと芳純は自然に返事をするが、いつ現れたのだろう。芳純はぎょっとした。職業柄か気配を完全に消し、なおかつすぐ側まで存在を悟らせないのはさすがジャパン最強と言われるだけはあるだろう。敵に回すとこれ程脅威になる男もいない。
 芳純は尋ねた。
「そちらの首尾はどうです?」
「周辺の偵察を始め、探りを入れておいた。何か危険な兆候もあるかもしれないからな」
 情報収集は忍者の専門だ。調べられるなら可能な範囲行うべきだろう。
 石の中の蝶を取り出す。
「流石にこれは杞憂でしょうがね‥‥‥」
 凶事や事件が起こる時、それにはデビルが干渉している場合もないとは言えない。デビルは人間世界を侵略しようと常に眼を光らせているからだ。
 辺りをよく見れば関係者や商人の他に侍の姿も多く見られる。伊豆藩士だ。翌日の警備の相談や下見を行っているようだ。
 こうして翌日を迎える。




 三嶋大社への道程。一般市民が平伏し、様々な武具や装飾品で着飾った侍達の長い長い行列が道を練り歩く所謂藩主行列の中で天城烈閃(ea0629)は呟いた。
「派閥争いか‥‥‥。まあ、魔物相手でなく人間同士で争う余裕があるのだから、ある意味でここは平和なのかもしれないな」
「うぅむ。有望な仕官先を探すついでにジャパン名物の温泉とやらに来てみたら、妙な仕事を請けてしまったものだ」
「お二方、そう言われるな」
 祐経は同道させている二人、烈閃とイリアス・ラミュウズ(eb4890)へ悪びれもなく言った。
 今回、祐経の護衛をする事になった冒険者一行は、彼の配下の侍という事にして連れている。部外者が行列に並ぶのは許される訳もなく、冒険者だという事を堂々と明かしていれば冒険者達所か祐経もこの場にいられなかったかもしれない。
 まあ、そもそも彼ら冒険者は個人的な理由だったりギルドからの依頼だった、それぞれの理由で伊豆に訪れていた。滞在中、祐経の依頼を受けたのだが、やはり予定になかったので心なしか思う所もあるのだろう。ただ、烈閃を筆頭にひどく注目されているのだが‥‥‥
「こちらの事情に巻き込んでしまって申し訳ないが、某としても貴公らのようなつわものに護って戴けると実に心強い限りなのだ」
「いやいや、それは嬉しい限りですが、冒険者の存在ってところかしこに誇張されて伝わってませんかねぇ?」
 設楽兵兵衛(ec1064)が言った。
「おかげで私のようなへぼが今回のように報酬の良い仕事にありつけたりしますども」
「謙遜めされるな。冒険者と言えば一騎当千のつわものぞろいと評判だ。他の藩も戦力強化の為に仕官の口を用意していると聞いている」
 ギルドのある江戸や京都ならともかく、冒険者に縁の少ない地では噂が先行するのだろう。勿論言われるだけの実力があってこそなのだがここまで持ち上げられると妙にこそばゆい。
「何より。天城殿は今世紀最強の志士なのだろう? 日向殿は世界にその名が知れ渡り、闇目殿にイリアス殿も‥‥‥これほど心強いものはない」
「‥‥‥さすがに煽てすぎじゃないかな」
 神皇に仕える志士でもそこまで言われたら悪い気がしない。日向大輝(ea3597)は幼さの残る童顔で、子供らしい――本人はダンコ否定しているが――笑みで言った。
 彼ら冒険者は様々な出来事を体験している。
 強力な魔物との戦いに始まり、何でもない小事に関わったりお家騒動に関わったり。伝説上の存在と相対もすれば国家間の争いに身を投じたりしている。
 経験と死地の中で鍛え抜かれた技と知識の数々は確かに謳われるだけの価値と結果を残すのだ。
 今世紀最強と呼ばれる烈閃は遥かなる地、エジプトで更にその名を知らしめた。
 ジャパン人の一般武芸者にとって生きた伝説。藩士達に注目されまくっている現状は当然だろう。
「何にせよ、お主らには期待する。暴漢共の手から護ってくれ」
 表面は愛想良く笑む祐経。だが、
(上手く行けば叔父御を失脚する事が出来るやもしれぬ。是非活躍してもらねば)
 心の内は謀略の算段に満ちている。
 そうして行列は三嶋大社へ到着する。




「今の所変わった事はないみたいだな」
 神事が行われている真っ最中。本殿では神主を始め神社関係者及び、藩主・狩野茂光と数人の重臣のみが入室が許されている。護衛の兵達は本殿周辺を始め境内の至る所に配置され怪しい者はいないか警戒を怠らない。
 祭りそのものは一般に開放されているものの、神事事態はやはり神聖なものである。さすが伝統と格式高い三嶋大社だけあって立ち入りを徹底しているようだ。だが藩主の立場の関係上護衛も必要だろうがここまで物々しいとかえって不安を感じるものである。一般の客達は関わり合いにならないよう、迷惑そうに眺めている。
 冒険者達もまた、本殿周辺や境内でそれぞれ待機している。
「まあ、とは言っても予測不可能な事が起こり得るのが世の常。油断は出来ませんね」
 辺りを警戒している大輝へ同じく警邏中の兵兵衛が答えた。これだけの護衛がいても多くの要人がいるのだからやはり警戒は怠れないだろう。冒険者達の護衛対象以外に、普通に藩主やその他の要人を狙って、の襲撃者がいるのかもしれない。
 冒険者達は祐経を護りきればいいだけなのでその分気は楽になりそうなものだけど。
「烈閃じゃないけど派閥争いか? それで邪魔者を消そうなんてな」
 物騒だが幾らでも聞きそうな話である。
「境内で襲撃、間接なら毒か狙撃、直接なら得物を密に持ち込んでか外から誰かに襲わせてになるかな」
「そう言えば芳純様が隠してあった武器を見つけたようですね。そちらでは何か不審な人物を見かけましたか?」
「妙な雰囲気の侍が数人ほど。殺気を感じる者もいれば大きな包みを抱えている者もいた。折角立派な神社に来ているのに、仕事でなければもっとゆっくり見学できたのに残念だよ」
「全くです。神域での人傷沙汰は避けたいですねぇ」




「商談序でに伝説の薬草を‥‥‥と思っておりましたが、これまた厄介な事になっているようですね」
「ようですね、って随分他人事ねぇ」
 敷地内に開いた屋台で客の相手をしているルーフィンは次々と商品を捌いていた。冒険者以前に商人としても優れている彼は、持ち前の商品知識や話術を駆使し多くの売り上げを叩き出している。事前の情報収集も勿論だが、伊豆では珍しい品も幾つか並んでいる。この辺りルーフィンの商人としての優秀さが成せる技だ。
 並んでいる商品を眺めている巫女さんは、そう言う本人も微妙にやる気のなさそうに呟いた。
「ま、私も気が付くと巻き込まれてるんだけど、どうしたモノかしらねぇ」
 巫女さんはちょっと考え込んで、
「祐親さんの命を助けて温泉付きの別荘を貰うんだっけ?」
「それは違う」
 ご老人が突っ込んだ。
 いつ眼の前に現れたのか、気付かなかったルーフィンは息を呑んだ。
「あらん。手厳しいわね幻十郎さん」
「‥‥‥幻十郎君? 君なのか?」
「ああ。変装している」
「見て判りますが、見事なものですね。誰か判りませんでした」
 今の幻十郎は白髪の目立つ老人だ。変装していると言うが、どこをどう弄ればそうなれるか非常に気になるものである。
 老人は嬉しそうに微笑した。
「伊達に四代目を名乗っている訳ではないからな」
 そういうものですか、とルーフィン。
「しかし中々の盛況。この手のものは何かと面倒と聞いていますが‥‥‥」
「知り合いの商人を通じて顔役や的屋の元締めと会って手続きをしていますので。何事もなく、このまま続けばいいんですが」
「あたしも、正直言って温泉を楽しめるなら伊豆の方針なんてどうでもイイんだけど♪」
「桜君。さすがにそういう訳には‥‥‥」
 ルーフィンは苦笑した。
 幻十郎もそうだが、この巫女さんも事前に聞かなければ誰か全く判らないものである。
 今の今まで姿を見かけなかった御陰桜(eb4757)。彼女は巫女さんに変装していたのだ。
 しかし忍者の変装技術は一体どういうものだろうか。
 桜は桃色の髪が目立つ女性で、究極無敵のビッグなお胸さまを危険そーな衣類で危険そーな魅力を爆裂させている女性だ。それはもうまともな服を着ても溢れんばかりの魅力は男を放っておけないし、どちらかというとサキュバスと言った方が正しいかもしれない。むしろサキュバス?
 幻十郎自信、素顔の面影を全く残していないし、桜に至っては髪の色を始めお胸さまや溢れん以下略を完全に消し去って一山幾らの巫女さんに化けきっている。忍術が秘伝とされるのも判るものである。
 まあそんな事はどうでもいい。ルーフィンは尋ねた。
「桜君。今まで姿を見なかったのですが、調査に赴いてたんですか?」
 当日まで桜は一切現れなかったのだ。
「え〜とね。温泉に行ってたの」
 満面の笑顔で言い切った。
「温泉に浸かって、美味しいご馳走を食べて、思いっきり遊んで、祐親さんっていい人ね?」
「伊東祐親殿の事ですか?」
 そう言えば見かけた時やけに青い顔をしていたが‥‥‥?
 ルーフィンは小首をかしげたが、
「盗賊だ! 盗賊が出たぞ!」
 悲鳴が思考を中断させた。





 インフラビジョンで盗賊の姿を確認した芳純は仲間へ伝えた。
 ダウンジングペンデュラムを始め、各種陰陽技を駆使する彼は、迫り来る盗賊をピンポイントで探し当てていた。
「‥‥‥おおよその位置と数は今の通りです。私は依頼人の下へ向かいますので、この場は頼みます」
「足止めは任せておけ。誰一人、先には通さん。だが、油断するなよ。こんな連中が境内に入っているくらいだ。おそらく手引きした者がいる。大社の兵も含めて、疑わしい者は一切、近づけるな」
 神域を汚す、悪魔達の前に立ち塞がる烈閃。
 盗賊達の持っている短刀は血に濡れている。連中の近くには刺され斬りつけられた一般客が赤い血溜まりの上に倒れ伏している。
 烈閃は縄ひょうを取り出す。
 手首を回転。先端のナイフが凄まじい烈風を巻き起こす。
「神域を血で穢すことを厭わぬのなら当然、神罰を受ける覚悟もあるのだろうな‥‥‥!」
 盗賊達は一瞬、彼の怒気に気圧された。だが縄を回しているだけと思っている盗賊達は短刀を握り直しその表情を狂気に塗り直す。
「そんなもので何が出来るって言うんだ! 野郎供! 殺ってしまえ!」
「出来ると思うな!」
 旋回する刃が一閃。
 迫る盗賊達を切り刻む。
「‥‥‥ふん。殺しはしない。神域を穢し罪のない命を奪った報いだ。せいぜい苦しんでおけ」
 こんな連中とはいえ神社を穢す訳にはいかない――。烈閃は縄ひょうを巻き取り次の相手に向かおうとしたが、
「――!」
 突然振ってきた矢に射抜かれる盗賊達。射抜かれた盗賊達は絶命した。
「甘いですよ烈閃君。確実に戦力を減らす為に‥‥‥ね?」
 どこに隠していたのだろう。弓に矢を番え、次の盗賊達を狙い打つ。
「私も何もやらない訳にはいかないわよねぇ」
 近くでは桜が二振りのマグナソードを構えている。
「おまえ、どこにそんなもの隠してたんだ?」
「忍者ですもの。色々とね♪」
 少なくとも桜に二振りの剣を隠せほどスペースは無かった筈だが‥‥‥。
 烈閃はまあいい、と頭を振って縄ひょうを回す。





「殿、こちらです!」
 襲撃の旨を受けた境内は大騒ぎになっていた。兵達は動き回り、茂光の安全を確保する為様々な命令が飛び交っている。
(む、あの者達か?)
 茂光の後を追っていた祐親は配下へ目配せし一行から離れた。
 混乱の中、茂光からはぐれた祐経は冒険者と共に『己の危機』へ立ち向かっていた。
「工藤! その命貰ったぁ!」
 走る斬撃。イリアスは十手を抜き迎え撃った。
 もう一人の侍の刀をもう片方で受け止める。頑強な鉄の手袋だ。侍を押し返し壁のように立ちはだかる。
「俺の近くから離れるな。藩主から離れてしまったが、くれぐれも慌てるな」
 狭い通路だと一度に相手にする数は限られる。側面に回った大輝は木杖を叩きつけた。
「よし、このまま一気に畳み掛けるぞ!」
 芳純と兵兵衛へ呼び掛ける。幸い、相手の技量はそれほどでもなく仕込み杖を抜くような相手でもない。
 芳純は精神を集中させる。
「敵の頭目を射抜け! ムーンアロー!」
 いくら数で勝ろうが一人の超越と三人の達人の敵ではない。
 それは、戦いではなく一方的な蹂躙だった。





「しかし、丸腰になる機会だからと言って藩主の近くで邪魔者を暗殺すれば真っ先に疑われる者の心象は悪くなるでしょうに」
 襲撃者の侍達を捕縛した冒険者達は他に敵はいないか、警戒しつつ彼らに問い質していた。
 鉄扇を付きつける兵兵衛。飄々としているが――その眼は笑っていない。
「藩主さまとしても、そのような思慮に欠ける相手にお国を動かしてもらいたくはないでしょうねぇ」
「おのれ‥‥‥」
「聞かせてもらおうか。お前達の目的は? 藩主立会いなら黙っていられまい?」
 イリアスは問い質す。しかしその答えは聞けず、飛んできた矢に葬られる。
「危ない所だったな祐経」
「‥‥‥叔父御!?」
「ふふふ。先程、その者達が怪しい動きをしていたのでな? 仕方なかろう?」
 彼の配下が睨み付ける。これは黙っておけと言っているのだろうか。
 伊豆の先は未だ決らない。