木魂と少女と狂気と
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:10 G 51 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:02月01日〜02月08日
リプレイ公開日:2008年02月11日
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●オープニング
――まあ、物騒な事もあるもので
江戸から遠く離れた地に小さな村がある。山と森に囲まれた、見ようによっては外界と隔絶した村である。
活気と熱気に縁遠い村は、寒村よろしく面白い事や眼を見張るものはなく、年に一度ある祭りを除けば行事らしい行事もない村だ。
変化を忘れた村――若者達はそんな故郷から離れていく一方で、畑も継ぎ手がいないという問題も抱えている。このまま進めば遅かれ速かれ村は捨てられるだろう。
だがこんな村だが一つだけ知られている美点があるのだ。
それは、村を囲む山と森が美しい事。
およそ文明の発達を断って来たかのような田舎だが、それ故に人の手が入っていない自然そのものの美しさがそこにある。
勿論寂れているとはいえ人が住んでいる以上、最低限手入れをしなければ木々に呑みこまれてしまう。というかここまで来るとどこの未開地だ、と突っ込みたくなるが案外そういう環境はあるものである。
まあそんな事はどうでもいい。
季節の移り変わりにより様々な顔を見せる森と山は『生き物』。生きた美景を見に貴族や上級武士、豪商などの裕福層の人間達が度々訪れている。
春には桜と梅を、夏には湖を、秋は紅葉を楽しみ冬には温泉を。
そう。よく考えればもの凄く恵まれた土地なのだ。ただ、交通の便が悪い。そして在住している村人にとっては日常の風景であるが故、利点に全く気付いていない。非常に勿体無い事である。
そんな村の禁忌の地として立ち入りが禁止されている森の一角。そこへ一人の少女が訪れた。
『彼女』にとって大切な友人だ。
(――ああ。今日も来てくれたのね――)
一月も終ろうとする中、寒いだろうに少女は今日も『彼女』の下にやって来た。今の『彼女』には自らを彩る衣もないのに。
辺りに広がるのは一面の同胞達。『彼女』のように歳は取っていないものの、皆逞しく立派な体格をしていて、春になると若さ溢れる姿を見せてくれるだろう。
ただ一つ――沢山のツタを絡ませた一人の同胞が気になるのだけど。
『彼女』は少女に触れる事が出来たらと思う。暖めてあげたいと思う。
だけどそれは少女を怯えさせてしまう。それだけは避けたい。『彼女』はもどかしさを感じつつも少女を受け入れる。
(――寒いでしょうに。もう少し近づきなさい。風をしのげるから――)
その声が届いたのだろうか。少女は『彼女』の下に駆け、手を合わせた。
「ご神木さま。今日もきました――」
――そう。『彼女』は木。数百年の時を生きてきた巨木である。
森を守る知性ある樹木であり、温厚な性格をしているが森を荒らそうとする不届き者や不用意に火を使おうとする者には力を振るう事を厭わない、西洋ではトレント、ジャパンでは木魂と呼ばれる存在だ。
この村においてご神木である『彼女』は崇拝の対象であり、畏怖の存在として恐れ敬われていた。
少女は、畏怖の存在として恐れられている『彼女』に自然な好意を持ってくれる相手だ。ほぼ毎日会いに来てくれているのだからそれは嬉しいだろう。
「やっぱりご神木さまのところにいると安らぎます。お父さんや村の皆は祟られるって言いますけど、そんなのご神木さまに失礼ですよ」
ぷうっと少女は頬を膨らます。
少女は来るたびこうやって色々な話を繰り返す。ほとんどたわいのない話である。
だがそれはとても微笑ましい。出来る事なら自分も何か話したいと思う。
だけど自分は木。思う事は出来ても喋る事は出来ない。
(――本当にいい娘ね――)
その小さな頭を撫でる事が出来たなら。
瞬間、少女が消える。
(――!?)
鈍い打撃音の正体は長いツルだ。『彼』から伸びた長いツルは気絶した少女を掴み上げる。
そして『彼』は口を大きく開けた。
(――止めて! その娘を食べないで!)
姿はトレントに似ている。だが違うのは、それには貪欲な食欲しかないという事。自分のツルは獲物を拘束する為にあり、うろは噛み千切り食い尽くす為にある。
その名は人喰樹。西洋ではガヴィッドウッドと呼ばれる魔物である。
人喰樹は大きく開けた口に少女を放り込もうとして、
(――させないっ!)
木魂のツルが少女を奪い取る。『彼女』は守ろうとしたのだ。だが――
「チサトっ!」
娘を探しに来た父親が悲痛の叫びを上げた。
「この魔物めっ! 娘を放せっ!」
親は子の危機を前にして自らの命すら厭わない。例え自分が死ぬ事になっても。
(――違う。私じゃない!)
木魂の声は届かない。父親の必死の抵抗により娘は離された。逃げ出そうとして、父親は新たな恐怖に顔を引きつらせた。
「ま、また魔物!? 村長の言う通り、やっぱりここは――!」
複数の土蜘蛛‥‥‥。食料を求め移動してきたのだ。
「チサト、絶対に父さんが助けるからな!」
娘を抱え、土蜘蛛と人喰樹の手から逃れようとする父親。
(――危ないっ!)
木魂はツルを伸ばし土蜘蛛の進路を遮る。父親それを見て、悲鳴を上げて逃げていった。
彼にとってどれも変わらない魔物なのだ。
(――ああ。わたしは、わたしは――)
恐怖に彩られた瞳が忘れられない。
去っていく後ろ姿を眺めるだけ。少女は無事だろうか。
(――わたしは――)
人喰樹と土蜘蛛が嘲笑っている気がする。
『彼女』は背中が見えなくなっても眺め続けていた。
数日後、ギルドに森に住む魔物と人喰樹二匹の退治が依頼された。
●リプレイ本文
「――では、次の人」
訪れた辺境の寒村。ギルドで依頼を受け、件の村へやってきた冒険者達はまず村人の不安を取り除く事から始めた。
村以外の人間と関わる事は極端に少なく、陸の孤島のようなこの村は魔物の存在は一般よりも――それでも充分に脅威だが――恐怖の象徴として扱われている。
戦う手段を持たないなら尚更だろう。村人達は、土蜘蛛の群れと人喰樹に滅ぼされるかもしれない――そんな恐怖により軽いパニック状態に陥っている。
そんな彼らを落ち着かせる為、陰陽師である宿奈芳純(eb5475)を中心とした冒険者達一行はカウンセリングその他を行っている。
陰陽師は古来より、その豊富な知識や占い、陰陽道の奥義により国の運営を助け支配階級に助言を授けている職業だ。この手の事は芳純の専門分野だろう。
一通りカウンセリングを終えた後、夜十字信人(ea3094)が尋ねた。見れば自分達二人を除き仲間の冒険者の姿は見かけない。芳純の見事な手腕により全員が残る必要はないと踏んだのだ。
「む、桜や他の皆はどうした?」
ペットのちみっこ達と戯れていた信人は今更ながら気付いた。まじかるな魔女っ娘衣装の妖精さんに勇ましい鎧姿の妖精さん。とっても可愛らしく、そして背伸びしているのが見ていて微笑ましい。
ちみっこの方もご主人さんにしっかり懐いているらしく、というか犬猫ならともかく、人――お子様ビジュアルだからなんともアレ的だ。だから彼はろり‥‥‥
「情報を集めに行きましたが、貴殿は行かれなかったので?」
「面倒だ」
信人は至極真っ当に言い切った。
「そもそも、俺が戦闘以外で役に立てるとも思わん。皆が戻ってくるまで適当に暇を潰しているさ」
本人がそう言うなら別に間違ってはいないだろう。下手に苦手な分野に手をだすより得意とする事に集中する方が効率もいいと思う。だが‥‥‥
(幼女をはべらせて言う台詞ではないと思いますが‥‥‥)
心の中で突っ込む芳純。誤解だろうが彼がそう思うにはある理由がある。
世界最強の神聖騎士・夜十字信人。彼にはある不名誉な称号がある。
単に自分を慕う者に対する愛情かもしれない。だがその称号により、そして名声により彼はこう呼ばれる。
『世界最強のろりきゅあ』
まあ有名になりすぎるのも如何なものである。
そして情報収集に散っている残りの冒険者達。天城烈閃(ea0629)は言った。
「‥‥‥襲われたという少女の話、少し気になるな」
集まった一行はそれぞれ集めた情報を交換しあう。大抵地方の村は余所者に対し冷たい印象を受けるものの、芳純のカウンセリングにより冒険者達に対し好感を抱いた。元々魔物退治として呼んだのだ。心強い印象を持たれて悪い気はしない。
「確か、チサトさん、でしたか?」
瀬戸喪(ea0443)が尋ねる。彼も話を聞いて回った際に幾つかその名を聞いた。
「ああ。近づくには危険な場所を神域とし、人が無闇に踏み込まぬようにさせるというのは珍しい話ではないが、その少女が祟りを恐れず何度も森に踏み入っていた理由‥‥‥。作り話と見抜いていたにしても、何か目的があったのではないか?」
「確かに、その通りだな」
頷いたのは浪人の飛鳥祐之心(ea4492)。彼は山篭りをしていた経験から、山や森に関する知識は豊富に蓄えている。
「頻繁に出向いていた辺り、目当てのものがあったのだろうな。禁忌とされている以上、人喰樹の存在は知っている筈だが‥‥‥いや、人喰樹ではないと知っているのかもしれないな」
祐之心はまさか、と思う。山篭りの経験もあるが、猟師として身につけた知識の中である種類の樹の記憶がある。それは樹というよりむしろ‥‥‥
「何か心当りますの?」
映える銀髪黒の瞳。白い肌がどこか儚げで、西洋の血のおかげかお胸さまがとってもビッグでぷるるんな美人さん、浪人の西園寺更紗(ea4734)だ。
しかもあれだ。豊かなお胸さまのせいでサイズがあってないのか、着物が肩からずれている。これはもう、グッジョォォォォブ!!! で見ないフリして凝視したり偶然を装って触りに行くのが礼儀(?)だけど、そこは女性が苦手な祐之心。彼は滝のように冷や汗全開だ。
(普通なら泣いて喜ぶんだろうが‥‥‥よくよく考えてみると、山篭りで外界と謝絶していたから、ここまで女性が苦手になった様な気がするな‥‥‥)
ある意味可哀想な話である。そこへ更にもう一撃。
「あらん? 魔物について詳しいの?」
ピンクの髪は桃色オーラの証。大きなお胸さまはお色気無双。全身から溢れんばかりの艶を醸し出し、服では抑えきれない、というか着方も計算され尽し溢れる艶を強化している。
男を誘惑する術を極めつくしたサキュバスが如き女。女忍者の御陰桜(eb4757)だ。
「戦いになったらアテにしてるわよ? 温泉が楽しみだわ♪」
実は桜は温泉の方が目当てだったりする。
右を見れば銀髪きょぬー。左を見ればお色気無双。これはいつも頑張ってるボクのゴホウビですかー!? と思うのが常考だけど、
(お、俺が一体何をした。これは拷問か‥‥‥!)
ついに見ている方が可哀想になってきた祐之心。
感じた時間は永遠。チサトの家に着くまで祐之心は生きた心地がしなかった。
「人喰樹の事について、知っている事を教えてくれないか?」
訪れたチサトの家。一堂を代表して日向大輝(ea3597)が尋ねた。
冒険者達が情報を収集した後、やはり誰もがチサトについて語っていた。相談した後向かったのだが祐之心の姿はない。彼は臨界点を突破してある意味死んでいた。家の前でかなり危険な具合に痙攣している。
だがそんな事はどうでもいい。大輝は懸命に食い下がる。
「あんた達の言う事は判る。だけど、これは村の為でもあるし娘さんだってどうして毎日出向いていたか気になるだろう?」
チサトの両親は冒険者達の来訪にひどく迷惑していた。親達にとって、娘に危害を加えるかもしれないと考えているからだ。
娘は魔物に襲われた。こいつらは娘の心の傷を暴こうとしている――。過敏になった両親は冒険者達を信用しようとしなかった。だが――
「キミのような子供が、そこまで懸命に言うのなら‥‥‥」
志士とはいえ小さな子供が魔物と戦おうとしている。大輝本人はそう言われ不愉快極まりないが、親達はその姿に心を打たれた。
少しだけなら、と数名がチサトの部屋に通される。大輝を含む数人は残り、チサトの両親から話を聞いている。
「貴女がチサトちゃんね?」
不審気に見上げてくるチサトを安心させる為、桜は優しく微笑む。
「お姉ちゃんたち‥‥‥誰?」
「うち達は冒険者よ。依頼で、チサトちゃんを傷つけた魔物をやっつけに来たの」
魔物に襲われて大変やったね‥‥‥更紗はそう慰める。チサトのような、幼い少女が受けた心の傷はどれほどのものか‥‥‥。
「ち、違うの! あんまりはっきり覚えてないけど、ご神木さまはわたしを助けようとしれくれたの!」
彼女はトレントが自分を助けようとしてくれたのを、唯一知っている。だが両親は、村人達は、襲われた時のショックで混乱していると取り合ってくれない。
不審に思った喪はチサトの親に尋ねた。
「どういう事ですか?」
「きっと、魔物に襲われて混乱しているんだろう。全く、魔物が助けようとする訳ないのに」
何度繰り返した言葉だ。両親はいい加減にしなさいとため息まじりに言い含めた。
桜はかがみチサトの頭を撫でた。両親からチサトを見えない位置で。
「きっと、ご神木さまはいつも会いに来てくれるチサトちゃんを助けたかったのよ」
目配せして芳純へ合図を送る。
最初からこうする事は決めていたのだ。おそらく、チサトが真実を知っていたとしても両親達はそれを信用しないだろうと。
相手が幼かろうと被害者自身からの情報は重要。芳純は月の精霊魔法、テレパシーを唱えた。
『この場で口に出し辛い事がございましたら、心にその内容を思い浮かべて頂ければ伝わりますのでお願いします』
心に響く声。動揺し叫びそうになるのを更なる声が心に伝わる。これは魔法だと、チサトから自分はどう思ったのかを知りたいと一気に畳み掛けた。
そして聞く、木魂との出会いと過ごした日々。事件当日の出来事――
(成る程。では、ご神木というのは――)
学んだ魔物の知識に該当するものがある。広く浅く学んだ程度だが、どういうものかを知るには充分だ。
芳純はもう一度チサトの心に語りかける。
『貴重な情報、ありがとうございます。またご神木さんに言伝等があれば、このような形で意志疎通はできますので、御遠慮なくお申し付け下さい』
「二匹の人喰樹の内、片方は木魂と思われます」
チサトの家を出て芳純は言った。これから目指すは深い森の中。日中とはいえ高くそびえる木々により影が差している。
輝く光球が芳純の周りを飛び交う。燐光と呼ばれる陽のエレメンタルビーストだ。
「森で火を使うのはまずいでしょうから」
木魂は火を使う者に対し敵意を見せる。大輝は人喰樹の事について知っている範囲を説明していたが、人喰樹もそうなのだろうか。
そして、一行は森へ向かう――
――向かってすぐ、一行は土蜘蛛に襲われた。
唸る真空裂かれる土蜘蛛。ソニックブームで薙ぎ払った祐之心はこれでもかと野太刀を振りかざす。
「悪ぃが手前らの所為で迷惑被ってるのが沢山居るんでな、遠慮はねぇぞ!」
魔物相手に情けをかける必要はなかろうが、なんとも容赦がなさすぎる。というか先刻までの生き地獄。うっぷんを晴らしているのか知らないが、ある意味地獄を見て生き延びた修羅の心に宿るは悪即斬だ。
傍から見れば単にキレているだけに見えない気もするがそんな事はどうでもいい。烈閃は長大な魔弓、十人張に矢を番える。
感覚が研ぎ澄まされ目標へ狙い定める。
「‥‥‥これだけ自然が豊かな土地であれば、当然、魔物も多くいるというわけか。確かに人喰樹の一本や二本、あって不思議ではない」
指が弦より離れ、矢が翔ける。木が並び立つ森の中、矢は狙いが逸れる事なく土蜘蛛を貫いた。
喪は土蜘蛛を薙ぎ払う。
「相手が人型ではないためいつものような戦いがしにくいですね‥‥‥」
烈閃の矢との連携。返す刃で土蜘蛛を断つ。
目的の地はすぐそこ。信人は道を遮る土蜘蛛を蹴り飛ばした。
「ええい、邪魔だ!」
彼の歩いた後には蹴り倒した土蜘蛛の累々。長い斬魔刀では不利と踏んでの事なのだが、自分で戦い以外には役に立たないというだけ、見事な活躍ぶりだ。徒手空拳でも普通に強い。
最後に壁となっていた土蜘蛛をソニックブームが吹き飛ばした。太刀を振り切った喪だ。
一同はついに禁忌の地へ――。
真空の刃が飛び魔力を帯びた矢が人喰樹への道を切り開く。
信人はスラリと斬魔刀を抜き示現の構え。全ての魔物を切り裂く黒い刃が輝き光る。
「剣を抜かずば無事泰平。だが、抜いたからには何とやら、だな」
迫るツタの攻撃を見切ってかわす。太刀を握る手に力を込め、踏み込む足に力を込める。
風のように疾走。
「問答無用だ。‥‥‥斬り砕く!」
「信人ちゃん、頑張って〜♪」
大上段からの秘剣・破剣圧が人喰樹を斬り砕く。桜の応援が力が抜ける気がするがそんな事はどうでもいい。
手近の土蜘蛛を掃討した更紗が支援に入る。
「巌流、西園寺更紗参ります」
袈裟切りを始めに、返しの切り上げによる連激、佐々木流奥義・燕返し。人喰樹の身体に大きく斬り傷を付けた。バーストの使える信人ほどダメージを与えきれない。だがそれは注意を向けるには充分だ。
人喰樹は迫る大輝に気付かない。
大きく身体をえぐる手斧の一撃――。信人はもう一度斬魔刀を振り上げる。
「これで終いだ。散れッ!」
死角に入り込み、必殺の破剣圧。大輝の攻撃、そして蓄積されたダメージにより限界を迎えた人喰樹は砕け散った。
「残った土蜘蛛を掃討する。誰か手伝ってくれ!」
残すわけにはいかない。大輝は仲間達に声をかけ後を追う。
戦闘が終ったのを確認した芳純は木魂、注連縄が巻かれた巨木へテレパシーで問いかけた。
『――貴方達は――?』
木魂は警戒と敵意を向ける。人喰樹とはいえ、同じ木の同胞だ。同胞を殺した相手に警戒を抱かない訳がない。
芳純は木魂へ、自分達は木魂へ敵意はないと説明する。そして、
『チサトさんからの言伝です――』
一瞬、木魂の大きな身体が震えた。
「過疎に悩んでるそうだけど温泉に綺麗な森に資源はないわけじゃないみたいだな」
戦い終って村長宅。冒険者達は村長に招かれ、村おこしのそれぞれ意見を述べていた。ざっと見て回って所温泉や湖や、見所が大変多い。そういう環境に長い事暮らしていると返って気付かないのだろうか。
大輝は言った。
「もし開発するなら、俺としては藩主導で開発してもらうか、自分達で少しずつやっていくかの二つだと思う。前者はうまくいけばたくさん資金もでるから一気にできるだろうけど、その分変化は急だし藩主導で村の人達の思い通りにいかないこともたくさん出てくる。自分達でやるのは逆に好きなようにやっていけるけど
時間はかかるし資金面も厳しい。ちょっと見たくらいじゃこれくらいしか言えないな」
「村を神木に護られた温泉宿、として売り出すのもいいと思いますなぁ」
更紗の提案に村人は顔をしかめた。
「ご神木かぁ‥‥‥」
「チサトちゃんを傷つけようとしなかった、というのはもう判ってるでしょう?」
村人達は沈黙する。現実はそうだとしても、今まで邪悪な魔物だと見てきた以上いまいち信用しきれないのだろう。元々はご神木と祭られていたとしてもだ。
「神木の枯れ枝や豊富な木材を利用して、破魔矢や工芸品を作る、というのもいいかもしれまへんよ」
相談しあう村人へ烈閃が締めくくった。
「焦らず、自分達に都合が良いと思うものを、じっくり考えてみると良い」
ちなみに――
「気持ちイイ?」
温泉を楽しんでいる桜。むりやり連れ込まれた信人は軽く死にそうになっていた。
混浴で、湯浴み着来ているとはいえお色気無双の桜。色々大変だ。
「‥‥‥‥‥‥」
背中流してもらっているのだけど、こんな状況頭が煮えたぎる。
そして、
「信人ちゃん!?」
頭から湯船にぶっ倒れる信人。剣豪とはいえ、勝てない相手もいるようだ。