オペレーション・コード・ジェラシー

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月20日〜02月25日

リプレイ公開日:2008年03月09日

●オープニング

――まあ、よく見れば物騒な事もあるもので?





 いざバレンタイン。元々はとある聖人を起源にする祭りである。
 古い時代、軍隊の士気の低下を防ぐ為に結婚を禁止した王に背き結婚式を執り行い、奇跡の力で盲目の少女の瞳に光の加護を与えたとされている。
 その由来により西洋では彼の聖人の殉教の日をバレンタイン・デーとし、守護聖人として、または恋人達の祝福の日として信仰されている。
 そして月道による世界各国の交流が可能となった今日。極東の地、ジャパンにおいてもバレンタインは一部、恋人達の日として知られているようになったらしい。
 本場西洋では当日どのような事を行うのか知らないが、ジャパンでは女性が男性に猪口を贈る姿を見かける。気になる異性や普段世話になっている人に贈り物をするのは間違っていないし、猪口を贈るのは何かの暗喩だろうか?
 まあそんな事はどうでもいい。江戸の街のとある一角。誰もが無意識に認識を拒否する空間に彼らはいた。
 この世全てのつがいを憎む、ある意味デビルかもしれない亡者達――
「同士諸君、よく集まってくれた」
 道場だろうか。板張りの広い一室の上座、デビル的な集団の長な仲間達を仰ぎ見た。
「先日よりバレンタイン期間として街では陶器店がセールを行っている。それに伴いなんだ? 街中では忌々しいバカップル共が更に溢れ、人目たばからずいちゃついておる。諸君等は連中を生かしておけるか?」
「生かしておけません!」
 同士達は速攻マッハで頷いた。
「クリスマスの時もそうでした! 連中、普段からいちゃいちゃしているのに、ここ最近当社費三倍でいちゃついています!」
「全くです! 恋人がいるのがそんなに偉いのか! 天下の往来でいちゃつくのが迷惑だって何故気付かない!」
 歯を食いしばり拳を握り締め血の涙を流し、慟哭する変態達。彼らから発せられる暗黒オーラは部屋に満ち満ちて、出口はなく凝縮し部屋をより一層暗く、そして暗黒物質として漂っている。
 世界中の人間の悪意を集めればこうなるのだろうか――クマやライオンの拳法家の放ってそうなそれを放つ彼らは一様に絶望し、怒り、憎しみに身を焦がしていた。
 というかここまで逆恨めるのも一種の才能のような気がする。
 長は同士達のように悲しんでばかりではない。この状況を打破する為、とある作戦を立てた。
 こんな事するくらいなら、真っ当に恋人を作る事に専念すればいいのに。
「前回のクリスマス・ジハードは残念ながら失敗に終った。冒険者達の手により、バカップル共の狂宴を防ぐ事が出来なかった! 悔しいか!」
「悔しいです!」
 大気を震わす超振動。同志達は同時に言い切った。
「今回の作戦にはクリエイト・ゴーレムを使う事の出来るウィザードが参戦してくれる。‥‥‥今月、三十を迎えたばかりの同士だ‥‥‥」
 苦々しく、同情するように言う長。長の紹介により進み出たウィザードは夢○転生。悲しみの瞳で、そして全てを受け止める優しさに満ちている。
 まるで、悟りを開いたようである――
「三十歳でウィザード? ま、まさか」
「あの伝説は本当だったのか。いや、伝説は伝説であって欲しかった‥‥‥」
「『名刀』とて使う機会がなければ錆びてしまう‥‥‥。あいつは素晴しい刀を持ってたのに、くぅっ!」
 湧き上がる同情の声にウィザードは眉一つ動かさない。むしろ微笑み、
「抜く機会がなかっただけですよ」
 菩薩様のごとく安らかに言い切った。
「そこまでだッ! もういい!」
 もうこれ以上は聞いてられない彼らは流れる涙が止まらない。
 何故なら男社会にはある伝説があるからだ。
 男は純潔を護ったまま三十歳を越えると魔法使いになれる。
 これは、世界中の、国家や風習の垣根を越えて伝えられる男達の伝説。何故ウィザードになれるか知らないが、巫女さんと同じく男でも純潔を護る事にある種の神秘や法則が働くのだろう。
 とはいえだ、ウィザード自身流れる涙を止められない。
「本当はな? この前漢になれる筈だったんだよ。職場で女の子と仲良くなってな? 食事して、帰りにアレ的な宿屋で『今夜は帰りたくないな‥‥‥』って誘われたんだけど、俺他に好きな娘いて断って、でも後日思い直して告白したらもう彼氏できたからって、無駄に選り好みなんかするから、俺は‥‥‥俺は‥‥‥うわぁぁぁぁん!!!」
「もういい! もういいからぁぁぁぁ!!!」
 聞いてるこっちも涙が止まらない。というかこの手の連中は女性慣れしてない事もあり妙に理想が高い。
 こういう女性。この日。こういうシチュエーション。現実を見ようとしないからチャンスと、自分を好いてくれる女の子の気持ちに気付かないのに。
 長は同志達を起立させる。カップル達を逆恨み。
「バカップル共のいちゃつきっぷりにきっと世間の独り身達は絶望しているに違いない! むしろ聖人の撲殺された日にいちゃつくなんて不敬にもほどがあるだろ!」
 浪人、足軽、侍、騎士エトセトラエトセトラ‥‥‥なんというか一戦仕掛ける事が出来そうなメンツである。
「復唱しろ同士諸君! バカップルには死の制裁を!」
「バカップルには死の制裁を!」
「いちゃつくアホには人権無し!」
「いちゃつくアホには人権無し!」
「バレンタインには喪に服せ!」
「バレンタインには喪に服せ!」
 完全武装の修羅の皆さん。アホな事なのに本気でやろうとしているからシャレにならん。
「いいか皆の者! 今作戦は役所に潜んでいる同志達の協力により役人はこないが、目標地域の陶器店その他は冒険者を雇っている! だが、こちらにはウィザードと、同志の冒険者もいる! 恐れるな! 俺達は、勝つ!」
 拳が突き上げられ修羅達が咆哮を上げる。見事な人心掌握術だがやろうとしている事は犯罪だ。
「これはバカップル共を滅ぼす聖戦だ! 殲滅するのは猪口とバカップルと、それを邪魔する全て。しっとの神はきっと我らに力を与えてくれる!」
 そこで長は一息ついて、
「バカップルを滅ぼせ! 猪口も陶器店も滅ぼせ! 邪魔をするものも同罪だ! これよりオペレーション・コード・ジェラシーを発動する! バカップル共を滅ぼせぇぇぇぇ!!!」
「おぉぉぉぉ!!!」
 色々間違っている気がするが、バレンタインの決戦が始まる。

●今回の参加者

 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1276 楼 焔(25歳・♂・武道家・ドワーフ・華仙教大国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec4371 晃 塁郁(33歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)/ 神剣 咲舞(eb1566)/ 四沼 泥将(eb5238

●リプレイ本文

 死して屍拾う者なし。修羅達の宴は今、終焉を迎えようとしていた。
 砕かれた鋼鉄の切り札。迫る狩人。楼焔(eb1276)は死を覚悟するもまだ諦めてはいなかった。
「まだだ! この程度‥‥‥食い逃げで故郷を追われた時や伊豆での恥辱に比べればっ」
 自分を取り囲むのは七人の冒険者達。数人、知った顔もあるが、世界最強の侍やジャパンの実力者、江戸で一・二を争う実力者とか‥‥‥いずれも名を知られた猛者達である。プライベートで会うならともかく、喧嘩は勿論命に関わる相手としては絶対に関わりたくない。
 そんな連中は皆、刀や鉄球を手に包囲を狭める。本気と書いてマジで殺る気だ。というかさっきからどこぞの王族みたく「人がゴミのようだ」とか言わんばかりにすぱーんとお星さま。次は自分だろうか? ペットの大型陸生鳥類、モアっとボールが「くけー」と鳴いた。
 刀に血糊的な何かを滴らせている妙齢の美女、霧島小夜(ea8703)はふん、と焔を睨みつけた。
「男は狼と言うが、狼の方がいくらかマシだな、これは」
 浪人とはいえ武士の端くれ。兵法に長けている者もおり包囲網には一部の隙間も無い。小夜もそうだが、冒険者達は集団戦術というものを心得ている。
 だけどここで倒れる訳にはいかない。散っていった同志達の為、セクハラの為、セクハラの為にセクハラの為にセクハラの為に今やられる訳にはいかないのですよ!
 これはそう、そこに山があるからさというように、そこに女体があるならセクハるのが礼儀と言うものではないデスカ? いや、声を出して言おう! セク道こそ我が覇道也と!
「おのれ‥‥‥。カップル狩りに乗じて堂々とセクハラしようとしたのに、よくも邪魔してくれたなっ!」
「邪魔も何もな。こうなっては仕方ないだろう」
 知り合いらしい。九竜鋼斗(ea2127)がため息を付いた。
「何を言う! 女体を見れば即セクハラ、これは礼儀だろう。なあ、そこの浪人!」
「‥‥‥俺か?」
 本気でそう信じて疑わない。まるであの西洋楽器に憧れる少年のような曇りのない瞳でずびしと指差した。本気でそう思っている辺り逆にタチが悪い。
 飛鳥祐之心(ea4492)はいや、その、と言って、
「俺はそういうのとは避けて暮らしてんだよ、命に関わるからよ‥‥‥」
「寝言は寝て言え! すぐ隣にあんな美少女がいるっていうのに、俺なら偶然装って速攻でセクハラするぞ!」
「するな!」
 リフィーティア・レリス(ea4927)は突っ込んだ。
 波打つような長い、豊かな銀髪。青い宝石の瞳に抜けるような白い肌。凹凸の女性的な魅力には欠けているものの、触れれば壊れそうな、薄幸の美少女然としているリフィーティアにはそれがよく似合っている。
「ククク。むしろ、俺の脳内では『恥かしい‥‥‥でも‥‥‥ぽ』と頬を赤く染めてハァハア」
「死ね!」
 唸る細腕突き立つ刃。所有者に不運をもたらすとされる鬼神の小柄は問答無用で貫いた。
「黙ってれば好き勝手言いやがって、俺は男だぞ!?」
「激しい照れ隠しだな。これが今話題のツンデレか!」
「人の話は聞け!」
 鋭い蹴りは焔を空中回転。当然聞くわけも無い。
 完全無欠の美少女。か弱い印象の、護ってあげたいとかむしろ悪戯したくなっちゃうよもうタマリマセンなリフィーティアは、こう見ても男なのだ。一応。
 きっと幼少の頃はご近所さんに「女の子に生まれてくればよかったわね♪」と言われたに違いない。だけど持って生まれた美貌は覆せないのだ。
 常人なら普通にヤバイ状況なのに、セク魔人Zな焔はまだ生きていた。セクハラは男に無敵の生命力を与えるのだ。
 とはいえ無敵なのは生命力だけ。セク魔人Zは敗北を覆せないのを理解している。
「此処までか‥‥‥。志半ばですまない同士達よ! ろりきゅあ! 至萌不敗!! 俺が死すとも我ら円」
「サンレーザー!」
「アウチ!」
 疾る熱閃聞こえる奇声。リフィーティアの精霊魔法で焼かれた焔は最後まで言えずのた打ち回った。
「い!いや!ちょ!待っ!最後まで言わせ!」
「――――」
 聞くに堪えない、と小夜は刀を振りかぶり――
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
 断末魔が響き渡る。刀を振るい血糊っぽいものを払う。
 抜けば玉降るかの名刀、村雨。村雨はその不思議な力により血糊が付かないというし、付いたのは血糊に似たものだろう。きっと今まで斬り伏せてきた無数の修羅達は殺陣担当の役者なのだ。
「また、つまらぬものを斬ってしまったな」
 ふん、と村雨を鞘に挿す小夜。焔が『焔だったもの』になっているけど気のせいに違いない。
 修羅達の死屍累々。諸行無常の響き在り。戦い終わって日が暮れて、晃塁郁(ec4371)は呟いた。
「どーでもいいですけど、この結束力と戦闘力、どーしてまともな方向に使えないんでしょうかこの方々‥‥‥」
 事後処理を始める仲間達。
 彼女の回想は戦場になった街から始まる。




 襲ってくると言ってもどうせは営業妨害程度のものだろう――。それはそれで迷惑であるものの、そう踏んでいた冒険者達は思わぬ苦戦を強いられる事になった。
 巨大な鋼鉄の巨人、アイアンゴーレムを先頭に、
「レッツゴーパラノイアー!」
「レッツゴーパラノイアー!」
 焔と、それに続く修羅の皆さん。訳の判らない奇声を上げて、手当たり次第にカップルと陶器店を襲いまくっている。
 唸る白刃轟く悲鳴。平和な筈の江戸の街は、局地的とはいえ普通に戦場になっていた。
「カップル撲滅! 猪口もぶっ壊して、ドサクサに紛れて女の子にセクハラだー!」
「パラノイアー!」
 焔の鼓舞。侍や騎士に足軽、彼らはそれぞれの武器を手にカップルを本気で襲い掛かる辺り本気でタチが悪い。
 だけどやはり天はそんな修羅達を見逃さなかった。
 鉄球が唸り数人の修羅を殴り飛ばす。
「おうおうおうおう! みっともねぇことで人様に迷惑かけやがる三下ども!! テメェらの腐った所業、ここで叩き潰してやらぁッ!!」
 縦横無尽にホーリーパニッシャーを振り回す祐之心。棘付き鉄球の物理的な殺傷力もあるのだが、神の祝福を受けた聖なる武器。ある意味デビルの修羅の皆さんにはとても効果的だ。
 大きく振りかぶって殴り飛ばし、祐之心は言った。
「他人のことどうこう言うめぇに、チンケな騒ぎ起こしてやがるテメェらが一番不敬に決まってんだろーが! まずはテメェらが喪に服してやがれってんでぇ!!」





「なるほど。江戸では『ばれんたいん』がこういう祭りに変化して流行ってるんですか‥‥‥」
 うぉぉぉと棘付き鉄球振り回し、迫る変態(修羅)の皆さんと戦っている祐之心を眺め塁郁は言った。つい先刻まで変態達と大立ち回りしていたものの、「女体だぁぁぁ!!!」と(性的な意味で)攻撃を仕掛けてきた変態達に身の危険を感じ、回避行動を中心に撹乱、身を隠していた。
 元々はカップルと猪口の撃滅を目的としていたのに著しく修整が加えられている。焔の煩悩力も中々にたいしたものである。
 何とか撒いた、と安堵の息を付いた塁郁はびくっと軽く飛び上がる。突然声をかけられたからだ。
「クリスマスも似たようなものだったわねぇ」
 いつの間に隣にいたのか。呆れ顔で頷くのは御陰桜(eb4757)。忍者業界でその名を知られる達人、変幻自在ネコ忍者だ。
 しかしまあ何とも眼を引く女性だ。西洋人の血の影響と思われる桃色の髪と瞳。豊かというか殺人的に凶悪な、胸に携えている天にそびえる二つの巨峰。そこから下は細く、そしてぷりんぷりん。桃、という言葉が似合いすぎだ。更に露出部分が多く、殺人的なお胸さまを殺『神』的に昇華するスカーレットドレスを身に纏い、西洋で言うサキュバスのように色気に溢れている。
 それほどスタイルに恵まれていないならともかく、桜のような女性が着ると猥褻物陳列罪になりそうで同性でもくらっときそうで――まあそんな事はどうでもいい。変態だけではなく男なら普通に放って置く訳もない桜は眉間を吊り上げる。美人なそんな表情も似合うものである。
「こういういべんとホントは好きな人と一緒に過ごしたいんだけど、お仕事だから仕方ないわよねぇ。まあ、無粋なヒト達でもからかって憂さ晴らしでもしようっと」
 何となく「‥‥‥きゅあ?」と呟くも、気のせいだ塁郁と頭を振る。どうしましょうかと尋ねた。
「まともにぶつかりあっては『嫉妬の鬼』と化した相手の集団には勝てそうにないんですが」
 まあ後先考えないやつほど怖い者はない。
「う〜ん。一気にたくさん来られるとどうしようもないし、切り崩しにかかろうかしら?」
「まぁとりあえず気をひきつけて、その後は交戦と逃走を繰り返して数を減らす。そういう所だな」
「つーか手加減無用だ」
 その逃走の最中だろう。小夜とリフィーティアは塀に手を付き呼吸を整える。二人は優れた使い手だ。大抵の相手には苦戦どころか敵にすらならないものの、ここまで消耗している様を見ると変態達の煩悩の強さを伺える。
 そしてその変態達が現れた。
 豊かな髭と風に揺れるエチゴヤマフラー。使う技はセクハラに特化したテコンドウ。その名は――
「天が呼ぶ地が呼ぶ煩悩が俺を呼ぶ。円卓のきゅあ団三番隊隊長・ぼいんきゅあの楼、参上!」
 太陽を背に無駄にカッコイイものの、ホーリーバニッシャーに殴られた影響だろうか微妙に溶けている。きっと石の中の蝶があれば鬼のように羽ばたいているに違いない、セク道に生きる煩悩鬼神、焔はある意味デビルめいている。というか軽く眼がイッっていた。
 そして決めポーズ。邪気が放たれる。
「この髭を見たものは‥‥‥一生に一度だけ俺の言った事を実行する。と良いなぁ!」
「しないんですか!?」
 塁郁は突っ込んだ。
「ククク‥‥‥。さっきは撲殺されるとおもったが、これは好機! 美人が四人も揃ってる!」
「同志焔! セクハラしてもいいですか!」
「構わん! 女性にはセクハラするのが礼儀。むしろしなければ失礼ではないか!」
「では早速」
「サンレーザー!」
「アウチ!」
 唸る熱閃焼かれる変態。リフィーティアから放たれた熱閃は確実に変態を焼いたものの、
「ツンデレってやつデスカー!?」
 変態は最高の笑顔で飛び上がる。常人なら割と重傷かもしれないのに、煩悩の力で強化された変態達にはあまり効果がないようだ。
「熱い、熱いぞ! これは、きっと愛の炎に違いない!」
「羨ましいぞお前! あんな美少女から構ってもらえるなんて!」
「今はツンの状態だが、これからフラグを立ててデレ期に突入だ! そして口では言えない事やこんな事を」
「するかー!」
 飛び蹴りを食らわし怒髪天。「変態どもはまとめてぶっとばーす!」と血気盛んに吼えているものの、天下無双に美少女スキルにうさ耳バンド。女の子がぷりぷり怒っているだけにしか見えずにむしろ可愛らしくてそれが変態達を刺激する。
「ふはははー! 今からフラグをを立てようじゃないか! という事でイベント突入だー!」
「ぬがー!」
「だ、駄目だこいつら‥‥‥早く何とかしないと‥‥‥」
 変態達をフルボッコするリフィーティアに、たじろぐ小夜。江戸には変態しかいないのか。
 こんな連中をいつまで相手にしていたらいずれこちらがやられる。どういう意味でかはともかくとして小夜は一つ思いついた。
 塁郁は慌て尋ねた。
「ど、どうしま――って、いない!?」
 突然現れて、突然姿を消した桜と小夜。小夜はいつの間にか屋根の上にいた。
「そら、お前らの好きな独り身女が逃げるぞ。猪口なんぞに現を抜かしていていいのか?」
「えええ!?」
「同志達! 逃がす前にセクハるぞ!」
 焔の呼びかけに変態達は瞳を燃やす。
「体は煩悩で出来ている。心はジェラシー、やる事はセクハラ! キャッチフレーズは酒池! 肉! 林! いざ、レッツゴーパラノイア!」
「パラノイアー!」
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
 十二形意拳・卯の奥義。兎跳姿を駆使しつつ塁郁は逃げ出した。




 塁郁は全力で逃げ出し、リフィーティアは鬼のように変態をフルボッコしている中、彼らは真面目に戦っていた。
 オーラの力がホムラに宿る。結城友矩(ea2046)は霊刀ホムラで変態達を迎え撃つ。
 迫る足軽の槍。友矩は返す刃で斬りつける。この足軽もそうだが、溶けたり浄化したりと実はこの連中アンデットとかそういう類の相手ではないだろうか。
 友矩は刀を一閃し啖呵を切った。オーラが、正義の波動が放たれる。
 静かなる剣狼。
「巷に蔓延る外道ども異国の聖者に成り代わり拙者が成敗いたす。人の幸福を羨み非道を働く不埒な輩、天が許しても拙者が許さぬ」
「俺も一応独り身だが、あんなのと一緒にされたくないねぇ‥‥‥」
 木刀を手に鋼斗が援護に入る。彼も彼で全力で変態達を迎撃している。何故なら鋼斗も経験上、手を抜けばこちらがやられると知っているからだ。
「貴殿か。祐之心殿はどうした?」
「祐之心なら燃え尽きているぞ」
 そう言って指差した先。アイアンゴーレムの残骸の上に立ち、某世紀末覇王みたく拳を天に突きつけている祐之心。勿論彼一人だけではなく、仲間達との連携で倒したのだが、何にしろ相手は鉄の塊だ。苦戦したようだ。
 変態達は冒険者が勝利を確信したと踏んだのだろう。威勢よく吼えた。
「ふん。ゴーレムが倒されようと滾るしっとの力は衰えぬわ!」
「キサマらごとき潰して、カップル達を撃滅してくれる!」
「――ほう」
 友矩は獰猛な笑みを浮かべ、パートナーのジルベルトを引き寄せた。
「男子たる者、こうありたいものでござる」
 変態達を威圧し、見せ付けるに、ジルベルトと唇を重ねた。じっくりと――酔いしれて。
 唇を離し、つぅと唾液の糸が伸びる。右手に刀を。左手にジルベルトを抱いて言い放つ。
「我と思わんものはかかって来い。女子一人ものに出来ぬ貴様に負ける筈が無いでござる」
「おのれぇぇぇぇ!!! カップル撲めぇぇぇぇつ!!!」



 
「――また、つまらぬものを斬ってしまったな」
 ふん、と村雨を鞘に挿す小夜。
 本当に、ある意味つまらない戦いだった。しっとに燃えて、セクハラに魂を燃やす変態達。男は狼と小夜は言ったが狼が可愛いぐらいに思えるケダモノぶりだった。
 塁郁は呟いた。
「どーでもいいですけど、この結束力と戦闘力、どーしてまともな方向に使えないんでしょうかこの方々‥‥‥」
「そう? からかって楽しかったけど?」
「‥‥‥‥‥‥」
 塁郁は苦笑した。
 報酬と共に貰ったハート型の猪口を手に上機嫌の桜。彼女は戦闘中、変態へ接触しずっと好きでした、とかほざいて撹乱していたのだ。
 しっとを胸に生きる変態達。当然それを見逃す訳にはいかず、同志を撲滅。桜はそれを繰り返し戦力低下に貢献した。魔性の女とは桜の為にあるような言葉だ。
 火事と喧嘩は江戸の花と言うものの、
「に、にぎやかな国ですね」
 そんな台詞で締めるものの、何か間違っているよなぁと心の中で呟いた。