燃(萌)えろ、その魂

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月18日〜03月23日

リプレイ公開日:2008年03月30日

●オープニング

 江戸の街は広く大きい。
 現在、独眼流の名で知られる伊達政宗が治めるこの地は、戦後の事後処理で何かと忙しいがそれなりにかつての活気を取り戻していた。
 立ち寄る旅人や商人は、源徳時代とは勝手が違ったりそもそも伊達家に支配権が移った事も知らない者もいるがそれなりに日々を過ごしていた。
 人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
 人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。



――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――





「――とまあ、そういう事でホワイトデーイベントを敢行しようかと思っているんだけど、何か質問ある?」
 メイド喫茶柳亭。かつて閑古鳥が大合唱していたこの店は、冒険者達の手により大きく姿を変えた。
 かつては甘味処であった柳亭。今や西洋風味の内装へと姿を変えジャパンでは見る事の難しい西洋文化を知る貴重な店となっている。
 だが連日の満員大黒字の理由はそれだけではない。
 訪れた客へ最高の笑顔と安らぎを与えてくれる天使達――その名はメイドさん。
 頭に添えられているのはホワイトプリム。漆黒のワンピースにその黒を、また上に纏う白が強調される純白のエプロンドレス。
 三種の神器を身に纏い、奉仕という名の究極奥義を繰り出す天使。剣や魔導の達人だろうと天使の微笑みに勝てはしない。彼女達の笑顔は辛い日常に絶望し、ささくれたった勇者達の何よりの清涼剤なのだ。
 だが――
「何がとまあなのか判りませんけど、いろいろ問題があるんじゃないんですか?」
 舞台裏を覗けばそうでもない。仕事なのだから当然だろうが、女性は顔の使い分けが上手いものである。
 メイドさんの一人、ラー・ミアは言った。
「先月のバレンタインイベントもそうですけど、色々危険じゃないんですか?」
「あら? ハイリスクハイリターンは当然じゃない?」
「‥‥‥判っててやるつもりですか?」
 どこかのんびりとした口調のメイドさん、セイ・スイはため息を付いた。
「というかそれ、仕事なの?」
「お金を貰うから仕事よ。夜叉ちゃんはまだ小さいからわからないだけよ」
 くりくりした大きな瞳が印象的な、労働法に引っかかりそうな幼女、小夜叉。店長のお牧は胸を反る。
 そもそもこの店長、西洋の行事とか理解していない。
「三人とも、昔の偉い人はこう言ったわ。勝てば官軍、負ければ賊軍って。ようは金が入ればそれでいいのよ!」
「‥‥‥私達よりよっぽど魔物らしいですね‥‥‥」
「何か言った?」
「‥‥‥いえ。メンバーの選出ですが、私達三人と‥‥‥冒険者に依頼しましょう。他のメイドにさせようとするなら(性的に)危険ですから」
「そう? ‥‥‥まあ前例がないから冒険者雇うのもいいかもね。色々詳しいし」
 じゃあこれ依頼料ね、と金子と企画書を渡し事務室を出た。
 途端、三人は円陣を組むように近寄る。
「面倒ごと、と言えば面倒よね。どうしようか?」
「‥‥‥どうしようも何も、私達がどうにかしないと他の皆が餌食になるわ」
「速攻とりつぶしになるね」
 基本、この店に訪れるのは変態。それも頭のネジが十本単位で外れたちょっとアレ的な連中だ。
 メイドさんを見るやいなやダイブしたり偶然を装いセクハラを仕掛けてきたりと、お陰様で一般の客には入りづらい濃い店になっている。最近は視察が入ったりとしているものの、よく潰れないものである。
「ご主人様方、というかあの変態達普通に人間離れしているしね。最近、蛇女郎の私でも対処しきれなくなってきているのよね‥‥‥」
 ラー・ミアがため息を付き、セイ・スイと幼メイドは頷いた。
 蛇女郎。西洋で言うラーミア。彼女と、二人のメイドは人間として素性を隠して江戸に住んでいる魔物なのだ。
 ラー・ミアは蛇女郎。セイ・スイは精吸い。小夜叉は幼い夜叉と、名が体を表しまくっているし精吸いにいたっては眼を凝らすと微妙に透けているような気もしているが、堂々としていると案外バレないようだ。
「冒険者ならどーにか対処できるとおもうよ。男のひとがきたらサクラとか暴走したごしゅじんさまの対応とかしてもうとか」
「‥‥‥バラけて動くより、固まって動いたほうが安全かしら‥‥‥」
 コアな客にコアな人気を誇る小夜叉。変態達の間では「ろりきゅあに手を出される前に手を出してやるぜー!」とかステキに危険状態であるものの、魔物スキルや同僚のメイドさん達により難を逃れているものの、やはり気にしてしまう。
 セイ・スイは腹をくくった。ラー・ミアもしょうがないかと頷いた。
「それじゃ、ホワイトデーのデートイベントのヘルプ、ギルドに依頼するよ」
 ――ちなみに、デート権を得た変態達はデビルに匹敵せんばかりの力に目覚めたとか、身体能力のリミッターが外れたりしたらしい。

●今回の参加者

 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea6751 ミラルス・ナイトクロス(20歳・♀・侍・シフール・フランク王国)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0908 リスティ・ニシムラ(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 彼女を見た瞬間、あれこそが一目惚れだと思う。
 腰まで届く長い銀髪。星のきらめきを閉じ込めた宝石のような青い瞳。雪のような白い肌。
 カスタマイズされたメイド服をなびかせる。
 いつも不機嫌そうだけど笑顔がとても魅力的。やはり美少女には笑顔がよく似合う。
 誰かを好きになるというのは時間なんて関係ない。好きなものは好きなんだ。
 だから、俺は――


「リフィたぁぁぁぁん!!! 大好きだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 そういう事でデート当日。江戸の街のド真ん中。天下の往来で変態の皆さんは我先にとリフィたんにブッ込んだ。
 唸るアビュダの奥義に轟く陽の精霊魔法。リフィーティア・レリス(ea4927)は群がる変態達にサンレーザーを連射する。ずばばん、と討ち込む光線はまるで千手観音像の隙間のない手の群れのよう。後光が差しているように見えなくともない。
 この一帯軽く焼き尽くせそうな勢いであるものの、そこは滾る妄想力。よく見るとマッシブだったり妙な波動というか邪気が溢れ出している。異様にタフだ。そこら辺の武芸者といい勝負しそうである。
 リフィたんはブチ切れた。
「何度も言うようだが俺は男だ! 何故俺がメイド服で変態の相手をしなければならない!」
「はっはっは。照れてるのかいリフィたん」
「キレてんだよ!」
「つまりツンって事だネ? フラグが立って次はデレ期に」
「デレ期なんかあってたまるか。そーいうのを見せるのは本当に好きな奴だけに決ってるだろうが!」
「それは俺って事だね!?」
「サンレーザー!」
「アウチ!」
 光る指先走る熱線。ダイブする変態を焼き尽くす。獲物に群がるハイエナの如く、迫り来る変態をリフィーテイアは迎え撃つ。
 そんな光景を眺めていた他のメイドさんはため息を付いたり、まあそれぞれ呆れていた。
「茶店の店員を変態から護る依頼だと思っていたのだがな‥‥‥」
「もはや欧州の曲解どころか、ありもしないイベントを作り出してまでいるなんてねぇ」
 他人事みたくしみじみと阿修羅ってるリフィたんを眺める二人のメイド騎士。カノン・リュフトヒェン(ea9689)とセピア・オーレリィ(eb3797)。ジャパン、恐るべしとセピアは呟いた。
「ところで、名目を聞くにバレンタインのお返しらしいけど?」
「ええ、まあ」
「‥‥‥先月は‥‥‥悪夢でした‥‥‥」
「がくぶるがくぶる」
 そっぽを向く魔物三人娘。というか小夜叉に至っては本気で怯えている。魔の二月十四日。どんな事されたのやら。
「まあそれはそれとして」
 すっと指差すリスティ・ニシムラ(eb0908)。
「ミラルスは何してるのかしらね」
 ナニヤラ変態の皆さんの輪にいるミラルス・ナイトクロス(ea6751)。
 都心部では勤め先など、中心部では昼間人口が増えるものの夜中にはその人口が減り、郊外にそれらが集中する現象があるらしい。
 で、その都心部のミラルスに郊外の変態達。凄まじい熱気というか邪気というか、どっかの邪神でも召喚しそうな勢いだ。
「よってらっしゃい、見てらっしゃい。何時も心に献身の文字、飛行はおっけぇ、非行はダメよ? そんな感じでシフ侍。ミラルスでっす♪」
 くりくりお目々にぷにぷにほっぺ。四十cmにも満たない、小さくて小さくて小さいのがとっても可愛いシフールの女の子だ。暦年齢はかなりスゴイ事になっているのがそこは知らぬが仏である。
 妖精さんは仰った。
「本家からの命令で(中略)メイドさんにセクハラするのですよー!」
「オイース!」
「セクハラしない子は耳から手を突っ込んで、奥歯をヒートハンドで溶かしちゃいますよー!」
「オイース!」
「わたくしにもどんと来いですよー!」
「‥‥‥‥‥‥」
 とんだカオスだ。



 そんなデートというか戦闘を、見守る影が二つある。
 暴走した変態の殲滅係を申し出た西園寺更紗(ea4734)と山下剣清(ea6764)である。変態の暴走防止、ではなく殲滅と言う辺り二人は柳亭の客層をよく心得ている。
「警告はしたんやけどなぁ‥‥‥」
「そもそも聞くような相手ではなかったな」
 いざデートを始める前、更紗は変態の皆さんにこう言った。
『過剰な行為を行った場合は、それ相応の対処しますよってにその辺りは心に留めておいておくれやす』
 そして無駄だろうけど釘を刺す為、木刀暗闇を突き出して、
『もし行えばその頭叩き割ります!』
 鬼すら泣いて帰りそうな気迫で啖呵切ったのにコレである。奇声を上げながら女性陣へセクハラを仕掛ける変態衆。何か一人数が足りない気がするものの、更紗はジト眼で剣清へ視線を向けた。
「男って皆ああなん?」
 嫌悪感全開の更紗。剣清はじっとりと背中に嫌な汗をかいていた。
 これは‥‥‥下手にというかどう答えようにも致命傷になりそうな気がする。変な嘘はつかない事にした。
「‥‥‥俺も女好きなんだが最近というか、他のやつらの考え方が理解できなくなってくるな」
「ふぅん?」
「嫌なことはしないが俺の流儀だ。きちんと口説いてデートとかならばともかく、あれと同類扱いは嫌だな」
 普通そうだろう。というか今の変態達のテンション、阿修羅に挑みそうな勢いだ。
 本来なら今でも充分に殲滅の大義名分が立っている。だけど眼の前の非常識すぎるその光景。踏み込むのを躊躇っていた。
 そんな逡巡が二人の判断を鈍らせたのだろう。接近する変態に気付かなかった。
「見つけたぜ更紗たん!」
 木刀が唸る。更紗は振り向き様、暗闇を一閃させる。黒檀の木刀は空を切った。
「うんうん。恥かしがって隠れてたのかい? だけどメイド服に着替えてないのは関心出来ないなぁ」
「何をトチ狂った事を。うちはあんた達のような変態を叩き潰すためにおるんよ? 判ってる? で、つまりあんたは潰されたいの?」
「今偶然メイド服持っているんだけど着替えようか。いやぁ、いい匂いだったなぁ」
「人の話を聞いてないというか何をしたん?」
 下着ドロは盗んだ下着を被ったり匂いを嗅いだり、煮込んで汁を抽出するという話を聞くが、まあそんな事はどうでもいい。
 女としての本能が危機を訴えている。それが、更紗の反応を鈍らせた。
「チェーンジ・メイドさーん!」
 すっぽんぽーん!
「ぶっはぁ!」
 風になった変態。刹那の瞬きで更紗の着物を剥ぎ取り、これまた刹那の瞬きでメイド服を着せた。
「メイドさんサイッコォォォォウ!!!」
 どこぞのファンタジスタみたいに膝を折り、拳を握り両の手を手に突き出す変態。
 更紗の頭にちょこんと乗ったホワイトプリム。黒いワンピースに白のエプロンドレス。西洋人とのハーフというのもあるものの、やはりメイドさんは外国の人が似合うもので――
「――フッ」
 更紗の中で何かが盛大にブチ切れた。
 凄まじい勢いで鼻血を噴き出し剣清は倒れているもののそれはそれ。軽く血の池溜まりが出来ている。
 更紗は木刀を構える。
 放たれる殺気は鬼神様。
 無言なのが逆に怖い。そして、
「――巌流、西園寺更紗。滅します!」
 朦朧とする意識の中、剣清は羅刹となった鬼女の姿を見たという。




「それにしても、アノヒトなんでこういういべんと外しちゃうのかしら」
 街の某所。それぞれの担当と散策しながら御陰桜(eb4757)は呟いた。
 本来なら全員固まって動いた方が(性的な意味で)安全なものの、桜の担当のご主人様は唯一まともな一般人だった。メイド喫茶に通うような男がまともかどうか気になるものの、まあそれはそれだ。
 桜は一つため息をついて、
「ツマラナイからご主人さまでもからかって憂さ晴らしでもしようかしらね」
 ご主人様にぴとー♪ とくっついた。
「ご主人さま、今日はどちらへ行かれますか?」
「はふん!」
 揺れる桃髪香る艶臭。純情少年の腕に自分の腕を絡め、たゆーんとしたお胸さまをむにょーんと押し付けた。
「☆♪ふじOTL」
 一瞬で脳が沸騰の純情少年。感動やら興奮やらで日本語になってない。
 そんな少年の反応を楽しみつつ、桜は連れ回す。
 桃色の長い髪。黒曜石の瞳に濡れた唇。全身から漂う色気は男所か同性すら魅了するものであり、瑞々しい巨大な二つの果実は既に凶器だ。しかもカスタムされたメイド服は和風というか吉原の人っぽくて‥‥‥しかも本人そっち系の魅力に溢れているのだから決まりすぎである。その上漂わせている色気自体人間離れして既に魔性。現人神ならぬ現人淫魔だ。
 でその魔性のひとはある意味瀕死めいている少年を更に死地へ追いやった。
 香る色気漂う魔性のオーラ。桜は手近に見つけた小物屋へ少年を誘う。
「ご主人さま、ちょっと覗いて行ってもいいですか?」
 かんざし等の女物の小物その他を始め、様々なものが置いてある。
 今の少年は魂がかなり磨り減っていた。そんな極限状態だからだろう。桜の背にぱたぱたと、小さなコウモリ羽が羽ばたいてるのが見えた。
 桜は小物を手に艶然と微笑んだ。
「これなんか、ご主人さまに似合うと思いますよ♪」
 ――基本、思春期の少年というものは真面目だろうと女性に激しく興味があるものである。
 異性を異性として、とても意識する年頃。いつもはあまり気にしたことのないあの娘でも、ドキドキしてみてしまうもの。
 そして異性の――世界の神秘に何よりも興味を持つ。
 女の子は何故あんなに柔らかいんだろう? 女の子は何故あんなにいい匂いがするんだろう? 女の子の、あの膨らみは――
 眼の前の女性はそんなレベルを超越した現人淫魔。少年の妄想は三段飛ばし所か軽く百倍は突破して――
「ぶふーーー!!!」
 天に突き刺さん勢いの鼻血を噴出しぶっ倒れた。さすがに刺激が強すぎた。
「あらあら。やり過ぎたかしら?」
 桜は少年を抱き起こしとりあえず小物屋から立ち去ろうとする。
「桜殿?」
 仲間の冒険者達を探していた更紗と出くわした。
「その子どないしたの? 血だらけだけど」
「ええ、まあちょっと」
 本当は鼻血だけど量が凄すぎた。ぱっと見猟奇殺人である。
「そういうあんたは? メイド服‥‥‥というか血だらけだけど」
 こっちもちょっと、と更紗は言葉を濁す。全身を黒ずんだ血に染まり、それこそ猟奇殺人みたいだ。こっちは血だらけの木刀持ちで、どっちが犯人かは判りそうであるが。
 普通に怖すぎる。下手な事は聞かない方がいいな、と判断して、桜はとりあえずメイド服似合ってるわねと褒めた。
「でも、こないもん着て尾行し取ったら目だって尾行の意味あらへん。おちつかへん」
 ちなみに、血だらけの二人を見た通行人が役人に通報し、桜と更紗は取り調べを受けるハメになった。




 後先考えない者ほどタチの悪い者はいない。
 欲望と煩悩と妄想に忠実な変態達は、人気のない場所に訪れるやいなや蓄えた邪気を全力解放した。
「メイドさん、大好きだぁぁぁぁぁ!!!」
「吠えろ、クドネシリカ!」
 鍔に龍神、鞘に狐神の宿る神剣。カノンは神刀クドネシリカで迫り来る変態達を迎え撃つ。
 片や魔人。
 片や神聖。
 剣撃の嵐は変態達のセクハラ攻撃を斬り捨てて行く。だが妄想戦士にはそれは「ツンだネ? ただ照れてるだけなんだネー!?」と全く通じてない。何かの耐性でも持っているのか。
「素人相手、の筈だがなっ!」
 振りかぶる神刀。スマッシュの一撃を直撃させる。
「まだまだ、押し切るのですよー!」
「全く、ミラルス殿は‥‥‥」
 カノンは変態達を指揮するミラルスを睨み付ける。依頼を受けて相談の際、ナニヤラ妙な動きをしていたが‥‥‥。
 ミラルスはふと思い出したように変態の頬をつつく。
「そう言えば私も一応メイドのつもりなのですが‥‥‥セクハラしてくださらないの? ねえ、くださらないの?」
 それは絵的にマズイ。
 十手を手に迎撃。リスティと背中合わせに死角を補い合っているセピアは、やはりこうなったか、と呟いた。
「紳士的にエスコート出来るよう、挑戦はしてみたんだけどね‥‥‥」
「ゆっくりとデート‥‥‥とは行かなかったようだねぇ」
 すぱぱんと鞭を自由自在に操るリスティ。卓越した技術から来るものだろう。鞭は変態達を打ち据える。
 だが――リスティは気付いているのだろうか。
 鞭打ちを専門とする職業の人は、痛みを抑えつつ叩く音を大きく出す事が出来る。
 痛みが強すぎるとそれは苦痛でしかなく、職人はそれを巧みに操り快感へと返る。リスティはあくまでお仕置きを念頭に置いている為、自然そうなったのだ。さすが戦闘経験豊富なだけあってこの辺り流用出来るらしい。
 そのしばかれた変態は、
「もっとぶってぇぇぇぇん!!!」
 恍惚の表情を持って飛び掛る。
 他の変態達も負けてない。
「行くぞお前達! もっと激しく動いて、メイドさんに過激な動きをしてもらうのだ!」
「ちーち揺れ! ちーち揺れ!」
「むしろお触りだ! あれだけ見せてるんだから、触ったり顔を埋めるのがスジだろうが!」
「あれだけビッグで、そして露出も極限なれば下手に動かせばポロリとなるのは必然。各々したい事をする為、ここは全力でセクハラだー!」
「ウォォォ!!!」
 轟き唸る変態達。というか犯罪者だ。
 セピアは空いた腕で胸を隠しつつ言った。
「このセクハラこそが女性に対する礼儀、どうにかならないかしら」
「無駄よ。さすがに、本気でやらないといけないか」
 リスティは鞭を鳴らす。
 背中合わせているこの二人。きょぬーという事で胸を凄まじく強調したカスタムメイド服を与えられたのだ。しかも他の露出もおかしくて、猥褻物陳列罪ギリギリ(?)だ。本当に柳亭は真っ当な店なのだろうか。
 ある意味、人生最大の決戦かもしれない。



「――何度甦ってこようともその度に打ち滅ぼしてくれるッ!」
 戦い終わって陽が暮れて、変態共を殲滅した冒険者はぼろぼろだった。
 山のように重ねられた変態の上、某世紀末覇王みたく拳を突き上げたリフィたんはうぉぉぉと天に吠えた。
「ようやく終ったわね‥‥‥」
「‥‥‥人間があそこまで強いなんて‥‥‥」
「それは変態がいじょうすぎるだけだとおもうけど」
 隠れていた魔物三人娘、冗談じゃない、と隠れていたのだ。
 そこに背後から、小夜叉の首根っこを掴む二人の影。
「見つけましたよ幼女さま。上司に捕獲を命じられてますので」
「変態は滅したし、今度はあたしと楽しまないかね」
 ミラルスとリスティだ。
 二人ともはっはっはと笑顔で引き摺っていく。
「ちょ、なんですか!」
「わたくし達を放って隠れていたのだから、説教部屋でお仕置きですよ♪」
「いやよいやよも好きのうちってね」
「はーなーしーてー!」
 じたばた暴れるもそこは子供の力。背中を駆ける(色んな意味での)寒気。
 そして‥‥‥
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 江戸の空に響く絶叫。
 後日、とある冒険者の根も葉もない悪評が広まったり小夜叉の心に新たな傷が生まれたりするのだが、それはまた、別のお話し。