神聖騎士の彼女は結婚を夢見るか?
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月22日〜04月27日
リプレイ公開日:2008年05月04日
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●オープニング
――まあ、よく見れば物騒な事もあるもので?
「つまり、貴女の護衛を依頼するという事ですか?」
とある日の冒険者ギルド。依頼人であるイギリス人の女性の神聖騎士――と名乗っている――レイラ・ジーモットは「ええ‥‥‥」と頭を抱えながら重々しく頷いた。
故国でやっちまって高飛びして幾星霜。逃亡の果てに辿り着いたジャパンでついに彼女はギルドに依頼する事にした。
レイラは軽蔑しているというか無表情というか、それとも哀れんでいるようにも見える視線を投げかけられ困り果てていた。
「‥‥‥そんな目で見ないでよ。わたしだって、自分が悪いのはわかってるんだから‥‥‥」
「まあ、それはそうでしょうけど」
ギルド員は彼女の連れ合いを見て、
「まだ子供じゃないですか。他人の趣味はそれぞれって言いますけど、自分には理解できませんね」
「うっさいわね。いいじゃない! ムラムラっと来たんだからしょうがないでしょ!」
ギルド内には他の一般客やギルド員で埋まっている。何事だと声の主へと向いた。
まあ、歳若い女性の言う台詞ではないだろう。
自分の発言に恥かしいのか、それとも故国での『悪行』に恥じたのか‥‥‥とにかくレイラは頭全力でを抱えて突っ伏した。
「レイラさん」
連れ合いの、ある意味元凶かもしれない高い声。
窓を刺す陽に当てられ眩く金髪。大きな瞳にふっくらとした頬。身長は百五十ぐらいだろうか、声変わりするかしないぐらいの、元気はつらつとした少年。
名はキスク。騎士の見習いで修行の旅をしていると名乗っている少年である。
少年はレイラを見てにっこりと微笑み、小さな手でレイラの手を握った。
「大丈夫だよレイラさん。どんな事があっても、僕が絶対に護りますから」
「キスクくん‥‥‥」
真っ直ぐな言葉だ。絶対に揺るがないと心から信じて護ると言っている。
それは若さ故の、現実を知らないからこそ言える根拠のない台詞なのだ。本人がそうだと信じきっているのが非情にタチが悪い。
そしてその現実を知っているレイラはと言うと‥‥‥
(‥‥‥そう都合良くいく訳ないんだけどね)
今までの追っ手とその攻防を思い出す。
ほとんどシャレになってなかった。
夜討ち毒仕込みは当たり前。場合によっては公衆の面前で襲われる事もあった。
(というか、よく今まで生き延びれたわよね)
これが任務だったらどれほど勲章を貰ってただろうか。
(今更国許にもどれはしないし、一時の感情とはいえ、よくもアンナコトを‥‥‥)
思い出すイギリスの夜空。とある領主に招かれたパーティ。そして少年。
幾度となく顔を合わせる機会もあった相手で、可愛く、何気なく気をかけていた男の子。
肌寒い夜だった。色々あって少年の部屋に入る事になって、その時酔ってもいたし任務で戦ったサキュバスの、サキュバス的な魔法の影響とか、ぐわぐわと湧き上がって自分はつい、我慢できなくなって‥‥‥
(思いっきり犯罪じゃないかぁぁぁぁ!!!)
心の中で大絶叫。愛の逃避行なんて実際キツイだけですよ?
「今、父上はお怒りですがいつかきっと、僕達の事を認めてくれる筈です。だから、それまで頑張りましょう?」
「‥‥‥うん。そうだね‥‥‥」
こんな時は少年のように楽観的に考えるのが一番いいだろう。いや、キスクは楽観というかこういう年頃にありがちな自分に酔っているだけなんだろうけど。
「頑張ろうか、二人の未来の為に」
「はい。頑張りましょう!」
ひしっ! と抱き合う女性(成人)と少年。姉と弟というぐらいに離れている二人だが、この抱き合い方は何というか‥‥‥
「‥‥‥俺の事、忘れてません?」
二人の世界に突入した依頼人達を見てギルド員はため息を付いた。
依頼書に一つ二つかいて冒険者に参加を募る。
その依頼内容とは――
『襲撃してくる騎士及びそれらの集団からの護衛』
●リプレイ本文
「正道で行くなら自首して、キスク様の成人を待った方がいいのではないでしょうか?」
メイド喫茶柳亭。どこか落ち着ける所で話をしようという事になった冒険者達は、今回の依頼を引き受けた数人の冒険者に馴染みのあるメイド喫茶にて今後の相談を行う事になった。
一通り話を聞いて、洋菓子をシバきつつ設楽兵兵衛(ec1064)は真っ当にのたまった。
「こんな所で落ち着けるかぁぁぁぁ!!!!」
「そんなに照れないでいいんだよリフィたぁぁぁぁん!!!!」
轟く絶叫響く嬌声。暗黒闘気を放ちつつ、柳亭の客――もとい、変態達は我先にとリフィーティア・レリス(ea4927)へダイブする。
こちらは精霊の力を解き放ち、それ以上の――リフィ自身気付いてないが――持ち主を不運に導く凶刀、鬼神の小柄の呪いの波動二振り分振りまきながら、リフィーティアは変態達と相対する。
「何度も言っているが俺は男だ! というか、何でまたメイド服着なければいけないんだ!」
夜空を横切る光の帯。天の川の如き煌く銀髪。深海の色の蒼い瞳。雪の精霊、そして神聖たる天女のような白い肌――
それでいて、ジプシーという職業柄エキゾチックな衣装は、すぐにでも形を敗れてしまいそうな薄絹を連想される『彼女』に倒錯的な魅力を与えている。
強気で冷たそうな態度は折れそうな心を支える為の手段で、本当は自分の側にいてほしいけど素直になれないように見える女の子。一部を覗き完全無欠のスーパーヒロインの要素を兼ね備えている『美青年』。どこからどう見ても女の子にしか見えないのに生物学的に男なのだ。残念な事に。
「というかお前ら、その振りかぶったホットミルクどうする気だ。俺につもりか?」
「当然だよリフィたん!」
「顔を中心にぶっかけて、へたりこんで恍惚な表情+上目遣いで『熱いの‥‥‥たくさん出しすぎですご主人さま‥‥‥』と言って下さいお願いします!」
「サンレーザー!」
「アウチ!」
突き出す指先走る熱線。リフィーティアは変態を焼き尽くす。
そんなやり取りを無視して冒険者達はレイラとキスク少年へ問う。レイラ達はリフィと変態達の攻防に驚いているが、冒険者にしてみればこの店でのいつもの風景なので気にも留めていない。
ステラ・シアフィールド(ea9191)は尋ねた。
「レイラ様。このまま逃げ続ける事は、お互いの為になるとお考えているのでしょうか?」
「時間で解決するほど現実は甘くないよ。逃亡が長引けば生活も荒むし、そうなればいずれ互いに傷つけあうような状態になるかも知れないんじゃないかな」
「それは判ってるんだけど‥‥‥」
相変わらず頭を抱えるだけのレイラにチップ・エイオータ(ea0061)はたたみかける。
「レイラさんも現状を認識しているなら、辛いのは判るが目をそらさず、態度をはっきりさせた方がいいと思うよ」
「ムキー! そんな正論ばかり言わなくてもいいじゃない!」
「レイラさん、落ち着いて!」
キレたレイラを宥めようとキスクは一生懸命。だが厳しい戒律と修行の下、神聖騎士になったレイラ。そして真面目な性格の彼女にしてみれば自分のやってしまった事はもう、穴があればもう入りたいだろう。
まあそれ以前に成人女性が未成年どころか、四捨五入するとギリギリ二桁な男の子にアレ的な意味で手を出して公になってるし死にたくもなるだろうが。
「大丈夫ですレイラさん。ぼくが傍にいますから」
「キスクくん‥‥‥!」
ひしっと抱き合う二人。後ろめたい事がなければ、今の状況はさぞ美しいかもしれない。ショタ好きも行き着けばロリ好きも行き着けば犯罪者以外の何ものでもない。
「出来れば依頼期間中はいちゃつかないでほしいのだが‥‥‥」
らぶらぶオーラをふりまくレイラとキスクに当てられて、飛鳥祐之心(ea4492)は机に突っ伏した。もうすぐ三十路に届く年齢なのに女性が苦手な祐之心。純情にもほどがある。
「己の女を護る‥‥‥俺ですらそれを貫けるのか分からんのだ。世界の冷酷さを舐めてかかるなよ?」
「全てを投げ打ってでも愛する人と逃避行。ろまんよねぇ♪」
「キミ達が言えた台詞でもないだろう‥‥‥」
すぐ隣、いちゃつきまくる夜十字信人(ea3094)と御陰桜(eb4757)。信人は重々しく言っているが全然説得力がない。
だからか、
「全然平気です。ぼくは剣の練習してますし、どんな困難だって打ち破ってみせます!」
「ほう‥‥‥」
いきがるキスクに半眼で見下ろす信人。信人は世界最強と謳われている達人。彼にとってキスクのような現実を見ていない若造なぞ生意気以外の何ものでもない。
口を開こうとして――
「待て。そこまでだ」
今の今まで沈黙を守っていたレイナス・フォルスティン(ea9885)。姫切の太刀に手をかける。
「レイラ・ジーモット殿とキスク殿とお見受けする」
金髪の青年が問う。
「神聖騎士、教会の者のようだな」
信人は青年のいでだちを見た。旅の剣士といった風体だが、そこは同じ神聖騎士の信人。その辺りの事は判る。
神聖騎士の青年は戦うつもりはない、と前置きする。
「今回の件についてだが、実は――」
響く砕音。
「レイラ・ジーモット! その命貰ったぁ!」
柳亭の入り口をぶち抜き、騎士の集団が乱入した。
「フン。またつまらぬものを斬ってしまったな」
襲撃してきた騎士の一団を蹴散らし宿まで逃げて来た一行。レイナスは追ってがいないのを確認すると姫切りを鞘に収めた。
「いやいや。随分と執拗な追手を差し向けられていますねぇ」
「事情が事情だし、どうも啖呵が切り難い相手なんだがな」
「そうですね。しかし、まるで抜け忍狩りのようですね。この国の忍者と言う職は組織を抜けるとそれはもう、しつこ〜く追われるようですよ?」
「そんな事言わないでよ‥‥‥」
呆れ気味な祐之心とどこか楽しげな兵兵衛にレイラはため息を付く。非は完全に自分にあると判っていても、長い事命を狙われていると当然気も滅入る。
借りている部屋に入り、ふと気付きレイラは冒険者に尋ねた。
「そう言えばキスクくんは?」
「信人ちゃんが連れていったわ。用事があるとか言ってたけど」
「桜さんもそんな話はそこまでにして、そのこおにーさんに話を聞いてみようよ。せっかくここまで一緒に逃げてきてもらったんだから」
軽く周囲を偵察してきたチップは青年を促す。
神聖騎士の彼は、キスクの父親は既に追ってを引かせている事、教会の方も投降し裁判を受けるなら生命の保証をする旨を伝えた。
「‥‥‥それは信用してもいいの?」
「ええ。レイラ殿はそれなりに実績も上げてますし、何よりサキュバスの魔法の影響もあったとの事ですから。その辺り鑑みての事です。勿論、正式に神聖騎士の位は剥奪される事になりますが」
「‥‥‥‥‥‥」
今更迷う事でもないだろうにレイラは押し黙る。正式でなくとも位は剥奪されているものの、やはり未練はあるのだろう。
兵兵衛は呟いた。
「邪道なら‥‥‥偽造死でもやります?」
「はぁ? 偽造死?」
「ええ。愛する二人が逃避行の末に心中って良く聞くじゃないですか。追手様が本国にそう報告すれば二人は追手から解放、追手さんは国に帰れる、と。それも手段の一つと思いますが」
「そこまでする必要はないだろ。ただ、キスクに現状からこの先をちゃんと理解させる必要はあると思うな」
「そうだなリフィーティア。ところで今夜、一杯どうだ?」
「勘違いしているようだけど、俺は男だぞ」
「照れているのかな。メイド服がそんなに似合う男がいる訳がないじゃないか」
「サンレーザー!」
「喧嘩っ早いな女も嫌いではない!」
狭い部屋で達人同士の無駄にハイレベルな戦いを他所に残りの面子は話を進める。
「本当の意味で幸福になる為には、何をすべきか冷静に考え答えを出すべきだと思います」
「平和的に出来るならそれに越した事はありませんしねぇ」
「その答えをお二人で導き出すのが本当は良い事なのですが、先じんてレイラ様が答えを見つけそれの答えをキスク様に伝えた方が理解を得やすいかと思います」
それでも迷うレイラ。案外優柔不断なようだ。
「そうだ。キスクくんのお父上が追ってを差し向けてないのなら、あの騎士連中は何だったの? もしかしてジーザス教関係?」
「いえ、これを見て下さい」
神聖騎士はとある紋章が書かれた紙を出した。
「確かこれ――」
「キスク殿の許嫁の家の家紋です」
ああやっぱりとレイラは顔をしかめた。
「あの御仁は大変プライドが高い事で知られてます。娘を侮辱したとして、貴女を討つようにと悪評で名高いとある騎士の面々に金を握らせたのです」
「受けた屈辱と恨みは倍に返すと評判だしね‥‥‥」
もうダメだとまた頭を抱えて突っ伏した。
「まあまあそんな事より」
気遣うついでに、桜は気になって仕方ない事を聞いてみた。他に話題もあるだろうに。
「で、結局ナニをシちゃったの?」
「何って‥‥‥ナニを?」
「ええもちろん。護衛する以上、抱える事情を聞く権利はあると思うのよ。どんなプレイかも明確に」
相当落ち込んでいる為、レイラはその辺り疑問に思わなかった。
「○○○とか×××とか」
「ぶっはぁ!」
盛大に鼻血を噴出す祐之心。
「△△△とか□□□とかは?」
「もちろん。◇◇◇とか☆☆☆も」
「がふっ!」
「人は見た目によりませんね。○×△とか□◇☆も?」
「こういうのも――」
「‥‥‥‥‥‥」
無言の祐之心。というか血を出しすぎて軽く冷たくなっていた。枯れ葉のようにかさっと倒れ伏す。
ステラに桜にレイラ。女三人よれば姦しいというか何というか。
チップは叫んだ。
「三人ともそこまでにして! 祐之心くんはもう死にそうだよ!」
祐之心が三途の川を渡りかけている中、宿の庭では木刀がかち合う音が響いていた。
面打ちと見せかけ胴打ち。烈火の如き勢いで振り下ろされた木刀は、そのままの勢いでキスクの胴を打った。
「どうした。威勢がいいのは口だけか? 将来を語る前に、目の前の現実を叩き潰せ」
木刀を上段。二の太刀いらずの示現の構え。見ようによっては隙だらけかもしれないそれは、圧倒的な殺気を持ってキスクを圧倒としていた。
訓練と聞いてたのに――!
「どうした。俺の行動が理不尽だと思うなら、遠慮は要らん。反撃してこい」
「う‥‥‥」
所詮キスクは実戦も経験していない素人。いくら稽古を積んでいたとはいえ、数多の修羅場を潜り抜け、世界最強とまで呼ばれるようになった信人の足元には及ばない。
「何かに甘える暇があるなら噛み付いてでも障害は砕け」
そして一言。
「お前のような腰抜けには、所詮惚れた女は守れないだろうがな」
「い、言わせておけばぁっ!」
疾走。
キスクは木刀を手に駆ける。
そして、
「―――――」
一閃。
信人の木刀がキスクを打つ。意識を失い、そのままキスクは倒れる。
「腕は未熟だがその気迫だけは本物のようだな」
確かにキスクが現実を見ていない。だが、その真っ直ぐな気持ちに偽りはない。信人は満足そうに微笑み――軽く痛む頬に手を当てた。
「――未熟だが、素質はある、か」
素直に驚いた。肌一枚とはいえ打ち込まれていたとは。
ちなみに、その後レイラから全力で斬りつけられたのだが、それも信人は腕力で黙らせた。
「故郷を飛び出してきたっていう点では俺も一緒だから何とも言えないしさ。だけど、まあ、今後の事を考えると一度戻った方がいいんじゃないかな」
話が纏まり、一度イギリスに戻る事にしたレイラとキスク。所持していた転移護符でイギリスに渡る為、港へ向かおうとした一行は追っての騎士の面々から襲撃を受けた。
迎撃に向かう冒険者達。一度後方に下がったリフィーティアはレイラに言った。やはり不安なのだろう。レイラの表情はあまり芳しくない。
「いや、本当に魔が差すことってあると思うよ? 詳しくは言えないけど迷いと葛藤とその他諸々あるのはわかる。現状と向き合えって俺にとっても痛い言葉だから」
「そうね‥‥‥。それもそうね」
「逃げ続けるわけにはいかないっていう状況も理解できるしな。こればっかりは本人が決めることだから最終的な部分は任せるけど」
遠い眼をして空を見上げる。故郷の事を思っているのだろうか。
「リフィーティアちゃんも似たような理由がるのね」
レイラは得心を得たように頷いた。
「リフィーティアちゃん美少女だから、言い寄ってくる相手もたくさんいたわよね。望まぬ相手から結婚を強要されて、逃げる為に色々やりすぎて国許にいられなくなったとかに違いないわ」
「もう好きに言ってくれ‥‥‥」
うなだれるメイド姿のリフィーティア。脱ぐ暇もなかったらしい。
続々と姿を現す騎士達に信人は立ちはだかる。
「こいつ等の試練がお前達なら、お前達の試練が俺達なのだろう。是も、黒の教義の道の一つだ」
相手の言い分を斬り捨て斬魔刀を構える。
「ぬるいっ!」
バーストアタックとスマッシュ。騎士の装備と衣類を切り刻む。
「フフ。フフフ‥‥‥。啖呵も切り難いとはいえ、仕事はやらせてもらう」
幽鬼のように揺らめく祐之心。眼が軽くイッていてむちゃくちゃ怖い。
騎士の攻撃を絶妙な動きで避ける。まるで宙を揺れる葉のように揺らめく祐之心は捉えどころのない風のようだ。
煌く凍気の一閃。
天すら凍えさせる凍天の小太刀の刃は騎士を圧倒する。
「少しこっちの話も聞いてよー!」
チップの正確無比な射撃が騎士達の動きを止める。レイナスが騎士の攻撃を捌き、ステラの魔法、アグラベイションが動きを鈍らせる。
「行け。今なら抜けられる」
活路を開き信人が二人へ告げる。
港へ駆けるレイラとキスク。信人はキスクへ月桂樹の木剣を投げ渡す。
「くれてやる。上手くやれよ、小僧」
「キスクくん。早く」
信人を見つめるキスク。好きなようにやられたのに、その表情は晴れ晴れとしている。信人との言葉に、得るものはあったのだろう。
レイラに連れられて行くキスクを見送ると振り向いた。まだ食い止めなければいけない。
斬魔刀を構える。上段の示現の構え。
「――さて、最後の一仕事と行くか!」
動ける騎士の数はまだ多い。